救世ノラヴドール~俺とセクサロイドの気ままな旅~   作:こもれび

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第三話 スリ・チェイス

「こっちっすよ」

 

「おう」

 

 ニムを先頭に俺たちは町中を走る。

 陽が沈みかけている町中は時を追うごとに暗くなっていき、商店や住宅の内には灯りが灯り始めている。買い物などをしている道行く人の数も多いのだが、ニムは確信をもってその人の波を縫うように走り抜けていく。俺はそれに置いて行かれないように必死に全力で追従した。

 ニムが辿っているのは鼠人(ラッチマン)の窃盗犯の『痕跡』である。

 一言に痕跡と言っても様々あるが、まずは足跡や指紋などの『可視化可能』なもの。ニムの視覚には様々なセンサーを内蔵させており、人の残した体液や分泌物などを照合させつつ瞬間的に整合させることが出来る機能が備わっている。そのため、まずは直近で残された足跡と同様のものを追いつつ、さらに俺のポーチに触れた時についたであろう若干の汗などを特定しておいてそれの散在している個所を見つけながら進むのだ。

 痕跡はまだある。一つは『匂い』。犯人が発する匂いを辿ることで進行方法を掴むことができる。

 そして『音』。犯人と遭遇したあの瞬間に犯人が発する音情報も収集されているため、後はその音を特定することで見つけ出すのだ。

 他にも、『温度』、『味』、『プロファイリング』、『ダウジング』、『サイコロ』、『風水』……etc

 様々な探知機能を盛り込んであるのだが、正直あまりつかわないんだよな。

 もっとも、実際に一番使う機能は『GPS』機能だったわけで、この世界に衛星通信機能があればただ単に検索するだけで犯人の居場所を特定することはできたのだけども、ここにはないからな。今はニムだけが頼りだ。

 

 とはいえ、ニムの残燃料のことを考えるとあまり無理はさせられない。

 一刻も早く魔晶石を補給しなければ、この前みたいに完全機能停止状態になっちまう。まあ、その魔晶石を買うためにも俺の金を取り戻さないといけないわけなんだけどな。

 

「おまえくれぐれも全力出すんじゃねえぞ?」

 

 俺のその言葉にひょいっと振り向いたニムがにんまりと笑う。

 

「わかってやすよー。でももしもの時はまた助けてくださいね?」

 

 その微笑みにどきりと心臓が跳ねる。

 

「うっ……だから、そうならないようにしろって言ってんだろうが!」

 

 でしたでした! と言いながら再び正面を見るニム。

 いや、今のは危なかった。

 ニコッとほほ笑んだニムの顔に思わず見とれちまったし。いかんいかん、こいつは機械だ、人形だ。しかも脳内思考エロエロの性別不詳なんだ。

 俺はドロイド偏愛家の連中とは違うっつーの!

  

「お、ご主人、この先がアジトみたいっすよ?」

 

「え?」

 

 急にニムに掴まれ道脇の建物の陰に引っ張り込まれた。急にニムの身体にぎゅうぎゅうと密着されドキマギしてしまう。すぐ目の前につやつやしたニムの黒髪と、俺を見上げてくる大きな瞳。

 思わずプイっと目をそむけたそこへニムが続けた。

 

「そこのぼろぼろの建物の周りにさっきのスリの人の足跡とか手で触った跡だとかたくさんありますね。それと、笑う声と、じゃらじゃらお金を触っている音も聞こえてきます。どうやらあそこで間違いないっすね」

 

「そうか」

 

 言われて覗いてみれば、石造りの大きめの三角屋根の建物。入り口が大きな扉となっているその様は、教会とか礼拝堂が近いだろうか。死者の回廊にあった礼拝堂から比べればかなり小さい感じではあるが。

 付近に人影はない。いつの間にかかなり街の中心部から離れていたようだ。

 

「どうします?」

 

 ニムにそういわれ、建物を見上げてみる。

 どうやらあの中で俺から盗んだ金を拡げているらしい。それを見ながらにやけているとか、なんだかだんだん腹が立ってきた。

 さてでもどうするか……

 ニムの燃料から考えると、とてもじゃないけど戦闘行動を取らせることは出来ない。なら、俺がやるかってことになるけど、さて今はどんな魔法がつかえるのやら。

 ここにどんな精霊がいるのか皆目見当もつかないから、どんな魔法をつかうにしても博打になってしまうわけで、うまくいかない確率の方が圧倒的に高い。

 では剣で戦うかって話なんだけど、しょせん俺はレベル1だしな。

 相手のステータスの方が高いと考えた方が自然で、そうなれば踏み込んだは良いけどあっという間に返り討ちにあうだろう。

 ただな、見た感じただのガキにだったしな……それなら俺が押さえ込むことも可能なのかも……いやいやレベルのあるこの世界を舐めるわけにはいかない。

 レベルが1違うだけでアビリティーの数値は倍増してたりするんだ。今まで100m20秒だった奴が、レベルが一つ上がっただけで、10秒切ってきたりするんだ。いくら相手がガキでも油断はできない。

 

 では……

 

 と、俺はニムへと向き直り計画(プラン)を話す。

 それに頷いたニムと俺は早速行動に移るのだった。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

「へへへ……ちょろいね」

 

 灯りも点けていない埃舞う狭い部屋に、その小柄な人物は居た。

 動きやすそうなグレーに染められた半袖と半ズボンを着たその様子は、幼くあどけない顔付きもあいまって、人間の子供にしか見えない。

 しかし、その頭の茶髪の間から見えるのは大きな丸い耳。この特徴的な耳からこの子が普通の人間ではないことが推察できる。

 

 『鼠人(ラッチマン)

 

 そう呼ばれる種族の彼の年齢は不詳である。

 なぜなら、鼠人と呼ばれる種族の人間は、成長速度こそ人間と同じだが、7歳児程度で完全にその成長が止まる。そしてその姿のままで生涯を過ごすのだ。

 つまり、この子供のような見た目に反し、鼠人の多くは成人ということになる。

 

 鼠人は手にした財布から金貨を取り出すとそれを机の上に並べ始めた。そして、口端が自然とつり上がるのをそのままに数え始めた。

 まさかこんなにたくさん稼げてしまうとは……

 その鼠人は思いの外の収穫に笑いが止まらないでいた。

 あまりにも無防備にボケッとしていたあの男を見つけたときは、ほんの小遣い稼ぎ程度のつもりで狙いを定めたのだ。

 服装からして冒険者風であったが、どこからどう見ても無警戒の上、なんの威圧も脅威も感じない。ある意味特殊過ぎる存在であり、普通なら裏があるかと諦めるところであったのだが、今回に関してはすぐに金が入り用だったこともあり即断即決で標的に据えたのだ。

 仕事は簡単も簡単。スキルを使うまでもなく簡単に財布を抜き取ることができた。

 盗った瞬間も気がついたそぶりはまるでなく、走り去るこの鼠人を気にかける様子もまるでない。

 プロの立場からすれば、人混みに溶け込んだ時点でもう盗んだ方の勝ちなのである。

 それでも何かあるといけないと、必要以上に遠回りをし、痕跡を消しながらこのアジトへとたどり着いたのだ。

 あの一瞬からここまで辿り着ける術などあるわけがない。それを知っているからこそ、今余裕をもってこの金貨を眺めているのだ。

 これだけあれば、必要な金を払ってもまだお釣りがある。それを思うだけで笑みがこぼれた。

 

 その時……

 

 ドンドンドンッ!

 

「!?」

 

 急に階下から鳴り響いた大きなその音に鼠人はびくりと身体を震わせた。そして慌ててテーブルの上の金貨に目を向けた。

 今ここで金の音を響かせればどんなことが起こるか分かったものではない。

 この廃教会に訪れる者など、この鼠人をおいて他にいるわけがないのだ。こんなところに用がある人間などどうせ碌でも無い奴に決まっている。

 自分のことを棚に上げてそう断じた鼠人は厚手の袋を取り出し、音が鳴らないように慎重に慎重に金貨を移した。そして全てを仕舞い終えるとそれを身体にくくりつけ、同時に音がする方とは反対……となりの廃墟に飛び移ることが可能な出窓まで移動すると、そっとその窓を開きその縁に足をかけた。

 

 よし、これで逃げ出せる……

 

 そう確信をもって頬を緩ませたその時、鼠人の身体がふわりと宙に浮いた。

 

「え?」

 

 理解できず、微かにそうこぼすと、刹那自分の状況を理解する。

 浮遊感は確かにあるが浮いているのではなく、自分が立っていた窓の縁が消失しそのまま落下を始めたのだとわかったのだ。

 何がどうなってこうなったのか……

 それを理解し終える前に彼はその身体を空中で器用に回転させて視界の端に収まっていた教会の壁の一部へ向かって足を伸ばし、そしてそれを勢いよく蹴った。

 小柄なその体躯はまるで弾かれたかのように空中へと躍り出た。

 だが……

 

「そうこなくっちゃな」

 

「ええ?」

 

 鼠人が跳躍した先……廃墟と化した建物の屋根の一つにそれが待ち構えていた。

 緋色の全身スーツ姿に長い長い『棒』を持ったその長身の男が、飛び上がる彼を追うように空中へと飛び上がってきたのだ。

 

「わわわ」

 

 慌てて体勢を建て直そうとするも、ここには足場もなにもない。必死に逃れようと動いたのだが、勢いのついたその男の棒が鼠人の身体に辿り着く方が早かった。

 

「うえっ」

 

「ちぃっ、浅いか」

 

 吸い込まれるように腹にめり込んだその長い得物。だが、幸運にも軽い身体である鼠人(ラッチマン)には大したダメージにはならなかった。

 腹部に強烈な痛みを感じつつも山なりに弾かれ落ちていく鼠人。必死にこの窮地を抜け出そうと思案するが…… 

 何が起きているのかはわからない。でも、何者かが自分を狙っている。そうだとあするならば、一刻も早くここから、この町から逃げ出さないといけない。それを思った瞬間彼は自分のスキルを発動させていた。

 小さな身体が地面に落着したと同時、鼠人は凄まじい速さで駆け出していた。

 

「うおっ」

 

「は、速いっ!」

 

 確認はしていないが、自分を取り押さえようとしている者は複数人いるようだ……直感にもちかいその閃きから鼠人は全力での離脱行動へと移った。

 使用したスキルは『超加速』。

 とある風の精霊の加護を得ているその鼠人は、その身に精霊力の衣を纏い地面を蹴った。

 小さなその身体がまるで弾丸のごとく勢いで路地を駆け抜ける。

 追撃者も急な変化に驚いた声をあげているが、そこに居るものでその速度に反応できるものはいなかった。

 50m……

 20m……

 あと、少し……

 路地を抜ければそこはこの宿場町のメインストリート。人通りもまだまだ多く、それに紛れてしまえば逃げようはいくらでもある。それこそ別のアジトへいくでも、街を出るでもいい。とにかく、そこまで……そこに辿り着きさえできれば……

 

「はい、ここまでっすよ」

 

「えええ?」

 

 鼠人はいきなり襟首を掴まれて持ち上げられた。

 宙へと浮かびあがるその身体。もういくら身を捩ろうとも地を蹴ることはできない。

 ジタバタと足を動かしていた鼠人はそして、いきなりの急制動に身体を振り回される。

 ザザザザーーーーーーーッと、砂煙を巻き上げながら地面を滑りながら止まろうとするその存在のことに漸く気がつき、ふと顔を向けてみれば、漆黒の髪をはためかせた美しい妖精の姿がそこにあったのだった。

 

「つーかまえた!」

 

 鼠人に向かって優し気なまなざしを向けた黒髪の妖精がにこりと微笑んだ。

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