救世ノラヴドール~俺とセクサロイドの気ままな旅~   作:こもれび

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第六話 噂 

「悪い悪い、遅くなった」

 

 先に店を出ていた俺にそう声をかけるのはシシン。こいつらは少し遅れて店から出てきた。

 一様に暗い顔をしているこの連中は、俺を見るやすぐに詰め寄ってきた。

 

「なあおい、紋次郎の旦那。本当に良かったのか? ニムちゃん置いて来ちまって。あいつら、絶対あの子に手を出すに決まってるぞ」

 

「いいんだよ、別に。おら、それよりもそのヴィエッタとかいう女のことを教えろよ」

 

「まあ、旦那が良いんなら良いんだけどよ……本当にどうなってんだ? 旦那も旦那だが、ニムちゃんもニムちゃんであっけらかんとしてたし……うーん」

 

 俺の脇でうんうん唸るシシン。俺の話を聞いているのかいないのか……返事もせずに首を捻っていた。他の面々もなにやら納得してない感じで俺を見ているのだが……

 ちゃんと大丈夫だと俺は言ったつもりなんだけどな?  とにかくニムは問題ない。なにしろレベル30オーバーの奴をこの前は瞬殺できてたしな。燃料がほぼないとはいえ、生身の人間を縊り殺すくらいは余裕だ。逆に奴らがニム達に手を出さないことを祈るばかりだよ。

 

 俺たちは奴隷商館を後にすると、そのまま灯りを目指すようにして歓楽街へと向かっていた。

 あの商人はヒントと称して店の名前を明言していたし、購入物でもある奴隷娼婦の名前も明かしていたからもう間違えるはずもない。

 そして俺たちはその目的地でもある娼館、『メイヴの微睡(まどろみ)』へと辿り着いていた。

 

 歓楽街の中でもひときわ煌びやかで淫靡な様相のこの区画にあって、更に一番賑わっているのがこの店だった。

 軒に吊り下げられた無数の行灯はまるでお祭りの提灯のような華やかさであるのだが、その灯りが照らすのは妖艶な美女、美女、美女。

 店の正面に壁や窓もなしに、格子状に据えられた柱のみで仕切られたその横に長い豪奢な様相のその部屋で、薄いレースの下着なのか、着物なのか良くわからないしかし、妖艶で色気たっぷりのその衣装を身に着けた女性たちがまるで寝そべる獣の様にそのあられもない肢体を赤い絨毯の上に投げ出していた。

 その女たちを食い入るように見つめ声を掛けるたくさんの男たち。商人、冒険者、町民。いろいろな種族入り交じりで混沌としているが、はっきり分かるのは男たちが欲望にメラメラと火をつけているってことだけだな。

 

 うん、ここは完全な風俗街だ。

 なにここ? 吉原かよ? 

 ここまであからさまにほぼ裸でアプローチしようものなら、普通は猥褻物陳列罪ですぐにお縄だろうが。

 これも異世界クオリティーかよ。

 振り返れば、他の男連中と同じようにだらしなく鼻の下を伸ばしているようにも見えるシシン、ゴンゴウ、ヨザクの三人と、クロンだけは表情も変えずに佇んでいるが……

 ったく仕方ねえな、こいつらは。

 

「んで、そのヴィエッタとかいう奴のことをちゃっちゃと教えてくれよ。どうせ普通に店に頼んでも買えやしねえんだろ?」

 

 俺がそう聞くと、シシンが心底驚いた顔で聞き返してきやがった。

 

「旦那マジで知らねえのか? ヴィエッタだぞ、あのヴィエッタ」

 

「だから知らねえって言ってんだろうが。そもそも俺は娼婦になんか興味はねえよ」

 

 俺の言葉にはあっと溜息をつくシシン。

 何が悲しくて、身体を売って金を稼ぐクソビッチなんか気にしなくちゃいけねえんだよ。

 

「やっぱ可愛い彼女がいる奴はな……確かにニムちゃんなら昼も夜もご奉仕しまくってくれるんだろうしな」

 

「何言ってんだお前は。だからちげーから、あいつはな……」

 

「あーはいはい、良いんだよ別に。そっちはそっちで仲良くしてりゃいいじゃねえか。く、くそっ、別に悔しくなんかねえんだからな……」

 

 なんだか知らないがいきなり涙目になっているシシン。ゴンゴウとヨザクが慰めに入るも、クロンは変わりなしだ。

 

「だからもういいからさっさと教えてくれ、その娼婦のことを。おら、これでいいか? 1000ゴールド」

 

 俺は袋に入った金をシシンへと手渡した。奴はちょっと面食らった感じだったが、それをそそくさと懐に仕舞った。まあ、俺が2億ゴールド渡されたところも見ているし遠慮もないのだろうけどな。

 

「ふう、旦那は本当に知らねえようだし、なら教えてやるよ。ヴィエッタはこの店の看板娘だがな、ただの娼婦じゃない。この国の男で知らない奴がいないってくらいの人気娼婦だ」

 

「どういうことだよ。めちゃくちゃ美人とかそういうことか?」

 

 そう聞いてみればシシンはこくりと頷く。

 

「ああ、そうだ、それもある。めちゃくちゃ美人の上に、めちゃくちゃ床上手……この世の物とは思えない可憐さでありながら、あの大胆な腰のグラインドはそれはもう……」

 

 チラリとクロンを見れば思いっきり冷めた目でシシンを見ていた。

 すると何を思ったのか急に俺に向き直って。

 

「……って話をヨザクに聞いたんだったな? うんうん。そうだよな、ヨザク」

 

「えええっ? お、俺っスか? え。ええと、そ、そうだった……かな? うん、でしたでした、そんなことを俺も人から聞いてシシンさんに言った……かも? なあ、ゴンゴウさん」

 

「我もヨザクから聞いたようなそんなような……要は絶世の美女でしかも男を悦ばせる最高の淑女ということであるな。うむ、南無」

 

「ゴンゴウさんもかよ……マジかぁ……」

 

 なぜかそんな事を言いながら完全に視線を泳がしてしまっている3人。

 こいつら……全員クロだな。しかも真っ黒クロの体験談なんだな、うん。まあ誰とどう遊ぼうが別にどうでもいいんだけども。

 

「そ、それだけじゃねえんだよ、旦那。ヴィエッタにはそれだけじゃなくもっとすげえ魅力的な噂があるんだよ」

 

「噂?」

 

 何やら確信めいたことを閃いたらしいシシンは、ズズイっと俺に顔を差し出していかにも人に知られてはならないことなのだとアピールしつつ耳打ちしてきた。

 

「これも聞いた話ではあるんだけどな? かなり有名な噂ではあるんだが、どうもヴィエッタを抱くと特典がつくことがあるらしいんだよ」

 

「なんだよ、特典って」

 

 勿体ぶってそう話すシシンを横目に見ていると、奴は言った。

 

「ヴィエッタと一晩イタすとな……『レベルアップ』することがあるらしいんだ」

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 シシン達の話は多分全て実話なのだろう。体験談も多分に含まれているのだろうしな。

 そう考えると『ヴィエッタ』という娼婦が非常に希少価値の高い存在であることがわかる。

 まず娼婦という観点から考えてみても美人で床上手というのならそれだけでひっきりなし間違いないだろう。しかもそれにどういう原理か知らないが、多分何かしらのスキルなんだろうが、一晩セックスするだけでレベルが上がるなんて特典までついていたらそれこそ世界中の冒険者が彼女を欲しがるだろう。

 あくまで噂とこいつらは言っているが、レベルアップしたばかりの時にこのヴィエッタを抱いたその翌日に、またもや一つレベルアップしていたらしいし、しかもレベル30台でだ。

 この事からも単なる『経験値取得』ではなく『レベル1以上アップ』の能力ということになる。

 俺はいまだレベル1だから実感はまったくないけど、レベルが上がるにつれてレベルアップは難しくなるこの世界にあって、彼女のこの『レベルアップ』の能力はとんでもないチート能力と言わざるをえない。

 ひょっとしたら彼女とイタし続けるだけで、レベルの限界値にたどり着けるのかもしれない。99? 999? うーん、実際のことどうなんだか分からないけど、ゲームで言うところの『バランスブレイカー』であることは間違いないだろうな。

 

 実際なんでこんな女が娼婦をやってるのかが不思議でしょうがない。

 レベルアップをすると言うなら国が保護していたって不思議じゃないし、どこかの大金持ちが囲っている方がむしろ自然だ。

 なんでこんな娼館で、しかも高いとはいえ、金を払えば誰でも抱けるようなこんな立場にいるのか。うーん、俺にそんな気は全くないが、大枚叩いて人を雇って、彼女を掻っ攫うくらいする奴がいてもおかしくないような気がする。寧ろそうするのが普通くらいだろう。

 それなのに、聞けば彼女はずっとここで娼婦をしているのだという。

 こいつらの話からすると少なくとも2年は。

 それまでのことは知らないそうだが、そんな能力を持ったままで2年もここに居続けるなんてどういうわけだ? 

 考えても考えても頭が痛くなるばかりだ。

 なにしろ買って来いと言われた相手が、こんなボーナスキャラなんだからな。

 こりゃ2億ゴールドでも買えないわけだよ。

 

 さて、じゃあ、どうするかな……

 

「おし、話はついたぜ。じゃあ、旦那、行ってこいよ」

 

「はあ?」

 

 道端で熟考していた俺にそんな声が掛けられた。はっと気が付いて顔を上げてみれば、そこにいたのはシシンだ。

 辺りは相変わらず賑やかなまま。妖艶な娼婦たちがしきりに甘い声で男を誘う中、シシンの横から一人の黒服の痩せた若い男が現れた。

 そして、俺に微笑みながら言った。

 

「ヴィエッタをご所望とのことで、大変光栄にございます。早速お部屋をご用意いたしましたのでどうぞこちらに」

 

「え? え?」

 

 男は恭しくそう言うと俺に向かって丁寧に頭を下げ、そして礼儀正しく俺を誘導する。

 俺はなんのことかさっぱりだったのだが、シシンがニヤリと笑って俺に耳打ちした。

 

「へへ……旦那は奥手そうだからな……自分からじゃ言いにくそうだから俺が代わりに手配してやったぜ。なに、旦那のことは『とある大貴族のお坊ちゃん冒険者』ってことにしておいたからよ。ちょっとばかし高かったけど別に2億もあるんだから平気だろ? なぁに、ニムちゃんには黙っててやるからよ。とりあえず楽しんで来いよな」

 

 ドンと背中をたたいてくるシシン。どういうことなのか、言っていることが良く理解できないまま連れられていった俺が入ったその部屋は……

 

「ヴィエッタはすぐに参ります。どうぞごゆっくりおくつろぎください……」

 

 そう言われた俺の目の前に、どう見てもキングサイズのベッドが横たわっていた。

 ひょっとして俺……ヴィエッタのこと買えたんじゃね? 一晩だけだけど。 

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