救世ノラヴドール~俺とセクサロイドの気ままな旅~   作:こもれび

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第二十五話 出発

 紋次郎……

 

「あん? なんだよ?」

 

「へ? 何すか? 何も言ってませんよ?」

 

「ん?」

 

 隣の二ムが変なモノでも見るような目で俺を見ていやがるが……はて? 今確かに誰かに呼ばれたような気がしたんだが……?

 まあ別にいいか?

 俺は掛布団を剥いで大きく伸びをした。そして固くなった首をコキコキと動かしてほぐす。ここ最近肩こりがマジで酷いのだが、そりゃそうだな、こんな床で寝転がって寝たりしているんだもの。そりゃ痛くもなるわ。

 

「ふぁ~ああ。それにしても寝みぃな」

 

「まだ夜中の3時ですものね……と、ほい出来ました! っと」

 

 二ムはそう言いながら机の上に長い筒のようなものをそっと置いた。そして俺を振り返ってにこりと微笑む。

 っていうか、今3時なのかよ。時計無いから時間が全く分からないのだが……と、その前に、この世界の一日って24時間だったのか? 今まで全く気にしていなかったのだが。

 そんな疑問を持っていたら二ムが話しかけてきた。

 

「良く寝てましたよご主人。というか、良く寝れやしたね? 普通はこんな決闘の待ち合わせみたいな事態なら緊張して寝れないものじゃないんすかね」

 

「んあ? そんなの寝てても起きてても関係ないだろうが。どうせ時間になったらやることは一緒なんだから。だったら眠った方が何倍もマシだっての」

 

「そういうとこ、ご主人って本当に神経太いっすよね。なんでいつも細かいとこにこだわるんすかね?」

 

「そりゃお前に言いてえとこだよ。お前、コンピューターなんだからもっと細かいところにこだわれよ」

 

「えー? 嫌っすよ。拘ったって時間の無駄じゃないっすか? 適当が一番すよ、適当が」

 

「お前そう言いながら自分のマシンとしてのアイデンティティー完全否定しちゃってるからね」

 

 全く本当に何も考えてないんだなこの機械は。まあ、それでも言っておいたことはきちんとやってたみたいだし別に文句はないのだけども。

 俺は例のアジトの隅の方の部屋できっちり寝かせてもらった。

 シシン達が指定した時刻は日の出ということだから、地球時間にしておよそ5時から6時ってとこだろうか?

 さっきも述べた通り俺はこの世界で時計を持っていないので自分で正確な時間を推し量ることはできないのだが、そこは機械仕掛けの二ムがいるので現在時刻くらいはすぐに知ることができるのだ。

 だからこそ目覚まし二ムのおかげで眠ることが出来たのだけども。まあ、はっきり言って仮眠レベルではあったのだが。

 

「お兄様? 起きられましたか?」

 

「ああ、起きたぜ」

 

 ドアがスッと開いて顔を覗かせてきたのはオーユゥーン。少し目の下に隈が出来ているようにも見える。

 

「お前ら寝たのかよ」

 

 そう聞いてみれば。

 

「いえ、全く眠れませんでしたわ。これから戦闘があるかと思うとかなり緊張してしまいまして」

 

「そう、それが普通っすよ! ガーガーイビキかいて熟睡出来るご主人が異常なんすよ」

 

「うるせいよほっとけ!」

 

 人のことをなんだと思ってやがるんだ、こいつは。ただ眠ってただけでここまで言われる筋合いはねえってんだよ。

 それにしてもイビキかいちゃってたか。これは結構恥ずかしい。

 ん? これから戦闘?

 

「って、お前ら、まさか俺らと一緒に行くつもりなのか?」

 

 慌ててそう聞いてみればオーユゥーンは心外だとばかりな表情で俺を見た。

 

「当然ですわ。このワタクシの命はお兄様の物。お兄様が戦うとおっしゃるならワタクシはお兄様の手足となって、お兄様の盾となって共に戦う所存ですわ」

 

「いや、だからそういうの重いっての! 別にお前にそこまでしてもらう義理はねえじゃねえかよ」

 

「そうは参りませんわ。もしお兄様にもしものことがあっては、このワタクシ、生涯後悔して過ごすことになってしまいますもの。どうか、ご慈悲ですのでワタクシたちもお連れ下さいまし」

 

「強情だなぁ」

 

 見れば、オーユゥーンに並ぶようにして、シオンとマコも追従してきていたし。そして二人もオーユゥーンと同様に頭を下げてるし。

 

「ああ、分かったよ仕方ねえな。でもいいな! 絶対俺の言うこと聞くんだぞ! 分かったな!」

 

「あ、ありがとうございます」「ありがとうね」「ありがとう、クソお兄ちゃん!」

 

「ああ、はいはい」

 

 付いて来たいというのだからついて来させればいいかってことで、俺は二ムに目配せをしてから、あらかじめ用意していた荷物を背負って部屋を出た。 

 そして出た先で再び絶句。

 

「お前らな」

 

 そこに居たのは手に武器を持ち、様々な意匠の防具を身に着けた俺が救ってやったあの娼婦たちの姿が。みんなは一斉に俺へと群がると口々に俺へ自分たちも共に行くと決意も新たな感じで願い出てきているし。

 

「ちょっと待てお前ら、全員来るってのか? やめろよおいこんな大人数。これじゃあ目立ちすぎんだろうが」

 

 娼婦たちは防具をつけているとは言っても下着はいつもの娼婦装束だ。ほぼむき出しの腕や足や腹なんかがちらちら見えて、マジで戦闘になったら危ない感じ。

 孤狼団の赤ずきんの面々はそんな彼女達の非日常的な恰好にみんなデレっとした目付きに変わってしまっているし、これはもう連れて行く行かない以前の問題だろう。

 

「ダメダメダメだ。お前らはついてくんな鬱陶しい」

 

 本気でもうこんな連中連れて行きたくない。どう見ても風俗嬢がコスプレしているようにしか見えないし、あ、その通りか。

 そんな連中の後ろで、二人でぎゅっと腕を組んで心配そうにこっちを見つめてきている聖騎士のロイドとミンミの二人とか、お前らラブラブしたいならとっととどっか消えろよ、もう。

 

「ご主人ご主人、ここはみなさんにお留守番頼んだ方がいいっすよ、絶対」

 

「んなことは分かってんだよ」

 

 こいつらなんでこんなに目が生き生きしてんだかな。

 まあ、別に悪い気はしないんだが、本気で足手まといだからな、さーて。

 俺はふっといいアイデアを思いついてそれを話すことにした。

 

「あのなあお前ら。今俺らは聖騎士のクソどもにも追われてるじゃねえか。ここでこんな大人数で移動でもしようもんならすぐにあの連中に見つかって、それこそやりたくもねえ戦闘をすることになっちまうんだよ。だからお前らは全員くんな」

 

 そう断言した俺の前で、武装した娼婦たちはみんなで顔を見合わせておどおどとし始めた。

 これはもう一押しだな。

 

「あー、それと、せっかくここに孤狼団の皆さんもいるんだ。皆さんに守ってもらえよ、な?」

 

 赤ずきんの男どもをちらりと見て俺はそう言った。

 こいつらにとってはここはまさに天国のはずだ。そもそもこいつらは独り身の淋しいロンリーウルフたちだしな。女がこんなにいるこの場はまさに地上の楽園だろう。

 しかもこのシチュエーションだ。

 悪漢ども(聖騎士達な)に追われている女性を助ける場面なんだしな、まさに男ならだれもが思う憧れの立ち位置だろう。

 か弱い女性助ける俺カッコイイ! とか絶対みんな思うはずだし。うんうん。

 

 そう思っていたのだが……

 

「俺・ヴィエッタ・救う‼」

 

「へっ⁉」

 

 赤ずきんの一人がそんなことを宣言した! 

 そういやこいつらロンリーウルフだけど、別名『ヴィエッタファンクラブ』だったか、こりゃそもそも眼中に入っている奴が違ったか。

 ってか、お前は昔の映画の偽インディアンか!? はたまた感染しちゃった研究者かなんかかよ?

 

 くっそ、なんだこいつら扱いずらいなぁ、もう。

 

 そんな風に頭を抱えていたところへ、二ムがずいと前に出た。

 

「孤狼団の皆さんはここに残って娼婦のみんなを守ってください! これは命令でやすよ?」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

「う、うおっ?」

 

 突然二ムに向かって孤狼団の全員が大声で返事をして敬礼しやがった。それを見ながら二ムも満足げにうなずいているのだが。

 

「お、お前マジでなにやったんだよ? こいつら俺の言うこと全然効かなかったんだぞ?」

 

「あー、それはっすね」

 

 二ムは腕を組んだまま得意げに口を開く。

 

「とりあえず初対面でぼこぼこにした後に、言うこと聞いてくれたら他の人に内緒でワッチのパンツ見せてあげてもいいっすよって、ちょっとサービスしてあげたんすよ。そしたら皆さん喜んでワッチの言うこと聞いてくれるようになったんすよー! 飴と鞭っすよ! アメムチ!」

 

「お前、それどっちかというと詐欺行為だからな! 健全な男子をもてあそぶのは本気でやめなさい! ってかお前見せちゃったのかよ!?」

 

 二ムは腰に手を当ててニマニマしながら尻を振ってやがるし。こいつら道理で二ムに従順なわけだよ。

 女の子に『パンツ見せてあげてもいいわよ』なんて言われたら、そりゃどんな男だって多少はクラっとくるだろう。 

 それにしてもこいつら……ぼこぼこにされた挙句にパンツ見たさに二ムに従うなんてな……もうファンクラブ解散した方がよくねえか?

 

「貴女達もですわ。気持ちはわかりますけれど、ここはお兄様のお言葉に従って待っていてくださいまし。代わりに、スキルと魔法のあるワタクシたちがお供してかならずお兄様をお守りいたしますので」

 

「お姉さま……」「オーユゥーン姉様……」

 

 オーユゥーンがその大きな胸を張りながら、武装した娼婦たちの前に立ってそんなことを宣言する。それを聞いた彼女たちは何か言いたそうにしながらもそれを飲み込むかのようにグッと俯いて固まった。

 

「いい子ですわね、貴女達」

 

 オーユゥーンがそう目を細めて娼婦たちを見るって、おいなんだこれ?

 なんで俺が言ったことは聞かずにニムだとかオーユゥーンだとかの言うことを素直に聞くんだよ。

 これじゃあ言い出しっぺの俺の立場がだな……

 

「人徳の違いじゃないっすか? あと日ごろの行いとか。ご主人の言葉っていまいち信用できないんすよね」

 

「お前な……だから、勝手に人の思考読んでコメントすんじゃねえってんだよ」

 

「いいじゃないっすか。ご主人めっちゃわかりやすい嫌そうな顔していやしたし」

 

 この野郎……造物主を馬鹿にしくさって。

 今度メンテナンスするときに、リアクターに『バカ』って落書きしちゃうからな!

 

 この仕打ち(?)のせいかテンションはダダ下がりではあったが、もういいやと俺はその場の全員に向かって必要なことを言おうと声をかけた。

 

「じゃあ、そういうことだから、俺と二ムは行くからな。で、これはあくまで予測なんだが、この後この街は大被害に見舞われる可能性が高い。だから、もし異変があったらできるだけ多くの街の人を連れて遠くへ逃げろ。そうだな……俺達が向かう東の『大門の岩』とは反対の方角の、街の西の方に向かって逃げるといいぞ、多分」

 

「「「「「「はぁ?」」」」」」

 

 その場の全員がぽかんと口を開けた表情になってやがるが、ええい、なんでこいつらは理解しねえんだよ。さっき二ムが言ったことは鵜呑みにしやがったくせに。

 黙ったままの連中のの中からオーユゥーンが歩み出て恐る恐ると尋ねてきた。

 

「あ、あの……お兄様? 大被害とはいったいなんのことですの?」

 

 そう問われ、俺は即答した。

 

「昨日俺が言ったろう? 怪獣が現れる可能性があるんだよ。だから被害に遭う前に逃げろっていうだけの話だ」

 

「か、怪獣!?」

 

「そう怪獣」

 

 この世界で怪獣といえばまあ、モンスターのことなんだけども、はっきり言ってあの『金獣』はその辺のモンスターとは比べものにならない。もはや生物と呼んでいいのかもわからないあの存在が現れたら一巻の終わりだ。少なくともこの街の完全破壊は間違いなしだろう。

 

 そう話してやったんだが、その場の全員がお互い顔を見合って怪獣? 怪獣ってなに? とかぼそぼそ話しているのだが、なんだか面倒になってきた。

 こうなることは分かっていたんだよ。見たこともない怪獣の話を聞いたって真に受ける奴は殆どいねえはずだしな。

 実際に日本で最初に金獣災害が起きた時だって、当時の科学者の一人が声を張り上げて、国営放送やら私局やら、ネットやらの放送を乗っ取って避難を呼びかけたけど、ほとんどの国民は鼻で笑って逃げも隠れもしなかったらしいし。そのせいか、ほぼ通常通りの日常生活をしていた人々の多くが被害にあって、天文学的な数字の被害が発生してしまったのだ。

 ここで慌てて街の住民を避難させようとしてもそれは出来ないことは分かり切っている。

 だからこいつらにだけは言ってみたのだが、それも意味なかったかもな。

 俺は困惑している連中に分かり易いように言ってやった。

 

「まあ、何か起きたら逃げればいいってだけだよ。可能なら先にこの街を逃げ出していたっていい。あとはお前らの好きにしろ。じゃあな」

 

 言うことだけは言ったし、これでいいだろうと俺は振り返った。

 そこには二ムとオーユゥーン、シオンとマコと、それと鼠人のたしかバネットとか言う名前の少女(?)。

 

「なんだよ、お前もかよ」

 

 鼠人(ラッチマン)のバネットは鼻をこすって宣言した。

 

「へへ……来るなって言われてもついていくぜ。私はなんせご主人様に命を救われたんだからな! よろしくなご主人様!」

 

「もう……勝手にしやがれよ」

 

 そして俺達は戸口へと向かって歩み出した。

 もう声はかからなかったが、入り口わきの戸の脇に、ふくよかな身体を持たれかけさせたマリアンヌが煙草を吸いながらこっちを見ていた。

 俺はじっと見つめてくる奴に視線を返しながら、でも何も言わずにそこを出た。

 

 まあよ……とりあえず取り返してくるさ。話はそれからだ。

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