救世ノラヴドール~俺とセクサロイドの気ままな旅~   作:こもれび

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第四十二話 招かれざる来訪者①

「ふう、これであらかた片付きやしたかね?」

 

 長尺の筒を構えた彼女はそう呟きつつ、ある一件の三階建ての家屋の屋上から街を眺めていた。夜明け間近のこの大きめの街道街は、本来なら陽の光に照らされて新たな一日の始まりの息吹を感じられる景色が広がっていたのであろうが、ここにはそれとは似使わなくない光景が広がっていた。

 

 立ち並ぶ家々から上がる赤々とした火の手と黒煙、それに倒壊したであろう家々の残骸と、そのさきでバラバラになって朽ち果てている巨大な肉塊の数々。

 街の東側から突入したであろうヘカトンケイル達のなれの果てであった。

 

 彼らはその巨体をもって街を破壊して進むも、そこに追いついた二ムの陽電子レーザー砲によって、その全ては吹き飛ばされ消し飛んだ。

 だが、彼らにはそれだけでは死は訪れない。

 いずれ完全な生体として復活することも可能な肉片であり、真に滅ぼす為にはその全てを焼かなければならない。

 二ムはそれを考えつつ辺りを観察した。

 街には驚くほどに人影が少なく、早朝ということもあって、まだ就寝中で屋内に居たまま被害に遭っているのかもと始めは考えたのだが、高感度センサーで建物を透視してみたところその殆どに人影はない。

 これはもしや……

 と、この街を出る前に彼女の主人である、紋次郎が述べた言葉を思い出し、ふと街の西の方を見やって彼女は得心した。

 

 そこにはたくさんの冒険者風の装束の男女の姿が。皆一様に、『とび口』のような得物やバケツなどを持って火の出ている箇所へと移動していた。中には魔法使いもいたようで、すぐに水魔法を使って火の鎮圧を始める。

 どうやら、彼らはオーユゥーン達のもとにいた娼婦たちと、孤狼団の面々のようで、一旦は街の人たちを連れて西の方へと逃げ出していたようだ。

 その人並みへと二ムは飛び降りて接近した。

 

「お疲れ様っす! みなさんご無事ですか?」

 

「わっ!」「きゃあっ!」

 

 急に空から降ってきた二ムに驚愕する面々。だが、それが紋次郎たちと同行していた二ムだと知って、慌てて駆け寄ってきた。

 

「ええと……紋次郎様に異変がありそうだとご指示を頂いておりましたので、マリアンヌさんが中心になってすぐに全員で街の人たちに危険を知らせて西の山中に逃がしたんです。そうしたら、あの大きな怪物が街に押し寄せてきて……あ、あの! オーユゥーンお姉さまたちはご無事なのですか? 紋次郎様は?」

 

 一人の娼婦が矢継ぎ早に説明をしつつ二ムへと詰め寄るも、彼女は柔らかく微笑んで答えた。

 

「みんな無事っすよ。それにあの怪物……ヘカトンケイルもだいたい倒しやしたし……」

 

「そう……ですかぁ……よかったぁ……」

 

 ふうっと息を吐きながらそう零した娼婦は、身体の力が抜けたのか倒れそうになるも、近くにいた娼婦に抱き抑えられて、そしてお互いで顔を見合わせて微笑んでいた。

 周りに集まってきていた孤狼団の男性陣も安堵した様子であった。

 そんな彼らに向かって二ムは告げた。

 

「いいですかい? 怪物は倒しやしたけどあれはまだ生きています。皆さんであの怪物の肉片を一つ残らず燃やしてください。そうすれば完全に滅ぼせますんで! あ、火事の方も気をつけてくださいね。危なくなったらすぐに逃げるんすよ!」

 

「「「はいっ!」」」

 

 力強く返事をした彼らはすぐに街の各所へ散っていく。街のあちこちで火の手が上がっており確かに危険な状況だが、この人数で当たれば間もなく火災も収まるかと、そう思った二ムは紋次郎たちの元へと戻ろうかと思案していた。

 

「もう大丈夫そうっすかね?」

 

 そう独り言ちた時だった……

 

「ここで戻られては困るのですよ、『二ム』様」

 

「? 誰でやす?」

 

 急に声が響き彼女は振り返る。

 声は反響していたが、高感度センサーを備えている彼女はその音源を速やかに特定、そしてその正体が人でないということも察知した。

 だが、彼女は戦闘行動に移ろうとはしなかった。

 燃料が乏しいということもあったが、それよりも相対した相手に敵意が感じられなかったから。

 まるで陽炎のように空間が揺らめきつつ現れたその人影を彼女のメモリーバンクはきっちりと記録と照合したいた。

 

「ええと、確か『べリトル』さんとかいうお方でしたね? 第四使徒ドレイクアストレイさんの子分の。ゴードンさんに首を切断されてお亡くなりになったのではなかったのですかい? 身体も消し飛んじゃってましたよね、確か」

 

 肩に陽電子レーザー砲を担いだままの二ムが、すらすらとそう話すのを、べリトルと呼ばれた、その頭にターバンを巻いた色黒の男は苦い微笑みを浮かべつつ返答した。

 

「よく覚えてらっしゃいますね、あの『暴力』が支配した空間にあって」

 

「ワッチ、記憶力だけはめっちゃいいんすよ。それこそ、見た物は全て記憶できますし! 『神経衰弱』ならご主人にも負けません! 『大富豪』は勝てませんけど」

 

 そう鼻息荒く答える二ムに、べリトルは微笑みを浮かべたままで、だが視線は厳しく彼女を見据えていた。

 

「さて……二ムさん。私はあなたという存在に非常に興味があるのですよ」

 

 それを聞いた瞬間、二ムはババッと自分の胸を隠すように身を縮めた。

 

「わ、ワッチにはご主人という愛するお方がおりますので、お気持ちは嬉しいっすけどお応えするのはめっちゃ無理なので諦めてください。べべべ別におっさんが嫌いとか、チョピ髭が苦手だからとかそういうわけでは全くありませんからご心配なくでっす。さーせん」

 

「い、いえ、そうではありませんよ……」

 

 少し慌てた様子でべリトルは手を振って見せる。

 そして、こほんとひとつ咳をしてから言葉を続けた。

 

「貴女は我が主……ドレイク様の必殺の魔法をその身に受けても傷一つ負われませんでした。確かに主はまだ『蘇生段階』で、その魔力も十全には発揮しておられなかったとはいえ、『破滅の大天使の一翼』たる存在と渡り合えようとは到底思えないのです。貴女はひょっとして……『神』ではありませんか?」

 

 

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