救世ノラヴドール~俺とセクサロイドの気ままな旅~   作:こもれび

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第四十四話 地底に潜む影①

「うう……ひ、ひどい……こんなのひどいよ……うぅ……」

 

 地面にぺたんと座った格好のままでシオンが口を抑えて大粒の涙を流していた。そんな彼女の前には

一つの髪の長い女性の生首が転がっていた。

 首の部分に歯型のようなものが見えることから、あのヘカトンケイルどもに喰われたらしいことはうかがえるが、目を見開いて苦悶のためか大口を開け絶叫した形のままで固まってしまっている。これは余りにも悲惨な最期だ。

 シオンはその生首をそっと抱きかかえ、そして硬くなってしまったその皮膚を解すかのように何度も何度も撫でながら目をつぶらせ、そして開いた口を少しだけ閉じさせた。それからぎゅうっと抱きしめて、何度も何度もその名前を繰り返し呼び続けていた。

 見ているだけで胸が締め付けられる光景だ。

 正直俺も、湧き上がる怒りで我を失いそうになりながらも、とにかく今やるべきことをやろうと腹を括って声を張り上げた。

 

「死んでいる奴は放っておけよ。今は息のある奴をとにかく俺のところへ連れてこい。シシン、クロン、シャロン、それとバネットはこの穴倉をとにかく探索して、ヘカトンケイルをぶっ殺しながら、生きてるやつを連れてきてくれ」

 

「了解だよ! ご主人様」

「ああ、分かったぜ。いくぞ、クロン! シャロン!」

「ええ!」「はい」

 

 盗賊スキルの『探知』を使えるバネットを先頭に連中に穴の深部を探らせる。戦闘力的にもまったく問題はない組み合わせだしな。すでにシシンたちはこの近辺のヘカトンケイルどもを一掃しているのだ。

 

 そして俺たちだ。

 

 オーユゥーン達には、腹が割けていようが、手足を喰われていようがまだ息のある奴を、この俺がいる広間にまで連れてこさせた。

 周りはもう苦悶の表情で苦しむたくさんの人々であふれかえっている。

 すでに怪物の苗床にされたであろうその女性たちは、ほぼ裸で生きているのが不思議なくらいに深い傷を負っていた。

 そんな女性たちの中でも、まだ腹にヘカトンケイルが蠢いているレベルの連中は放置して、深手の奴に優先して治癒魔法、もしくは後回しにするために石化の呪法を唱えてまわった。

 生首をそっと壁際に寝かせたシオンもそっと立ち上がって、オーユゥーン達へと合流した。

 

 ここは地獄だ。

 地獄以外の何物でもない。

 いったいこの女性たちが何をしたというのか……

 こんなにも残酷に、無残に屍を晒さなければならない罪とはいったいなんだ。

 怒りのせいで手元がおぼつかないが、とにかく命を救ってやるために俺はひたすらに治癒魔法を使い続けた。

 

 幸いというか偶然にというか、俺が今いるこの場所は、水の精霊のたまり場であったようで、ヴィエッタの指示のもとに魔法をひたすら使い続けることが出来ている。

 傷口を修復し、体力の回復を促し、毒を浄化する。

 ひたすらにそれを繰り返す脇で、傷だらけの女性たちを介抱し続けるヴィエッタは、だが、額に汗しながらも真剣な顔で苦しむ彼女たちを励まし続けていた。

 

「お兄様。死んでしまった者はもう救えないのでしょうか? お兄様の奇跡の魔法でしたらひょっとしたら……」

 

「それは無理だ。死者蘇生(リザレクション)が効くのはあくまで死んだ直後……それも魔法によってある程度生きている状態を維持しているときだけだ。完全に肉体が滅んで、時間の経った死体はもうどうしようもないよ」

 

「そう……ですの……」

 

 俯くオーユゥーンの視線の先には連れてくるのを諦め、蓆を被せたたくさんの死体。

 多分、シオンと一緒なのだろう、きっと知り合いがあの中に含まれてでもいたのだろうな。

 こうやって治療してやってる俺にだって、その気持ちは痛いほどわかる。分かるが無理なものはもうどうしようもない。

 ここでこうしている間だって、もうすでに何人も目の前で死んでいるんだ。間に合う奴には当然死者蘇生(リザレクション)も使用して助けることも出来たが、その魔法を唱えても助けられない奴は何人もいた。

 『魂』ってやつの存在が、いったいどんな位置づけなのか俺にはとても理解できないが、きっと魂が離れてしまったことが原因なのかもしれないな。

 死者を生き返らせる……このこと自体が医学の常識を飛び越えてしまっていることなのだが、それでもやはり万能ではなかったというだけのことだ。

 とにかく今は救えるだけ救う。

 それしかない。

 

 そうして俺はそこで大勢の被害者達の治療を続けた。

 

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