救世ノラヴドール~俺とセクサロイドの気ままな旅~   作:こもれび

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第四十八話 滅び行く者(シシンside)

「旦那っ!」

 

 突然振り下ろされてきた巨大な金の頭……大口を開けたそれは一気に紋次郎の旦那とヴィエッタちゃんの二人を喰らってそのまま地面に頭部を突き刺した。そして、ゆっくりと引き抜くと同時に天へとその長い首をもたげ、そして頬張ったものを嚥下するかのごとく、喉から大きな音を鳴らした。

 そのあまりにも唐突な事態に、俺は一歩も動くどころか、立ち尽くすことしかできなかった。

 

「くくくく……ふふふくくく……呆気ない……呆気ないものですなぁ、所詮人間など、こんなに脆いものなのですよ」

 

 頭上で声がして見上げれば、あのべリトルとか名乗る不気味なターバンの男。

 異様な力と雰囲気を持ったこいつには、俺ではかすり傷ひとつつけることはできないことはとっくの昔に理解してしまっている。だが、だからといってこいつが俺達のことを見逃してくれるわけがない。

 しかし、このままでは済まないということも分かっている。

 間違いなく俺たち全員は殺される。

 いや、こいつが手を下さずとも、あの頭上の金色の多頭竜によって必ず俺達は滅ぼされるだろう。旦那たちのように……

 くそっ!

 なんてこった! 震えが止まりやがらねえ。

 手が、足が、全身が震える。震えてそして、とてつもなく恐ろしいと感じてしまっている。そうだ、俺は今絶望と恐怖を感じている。

 今までいろんな奴と戦ってきた。力自慢のモンスターや、魔法を使う怪物、時にはえげつない手を使う盗賊や、軍隊とだって戦った。だが、そのいずれであっても心が折れることは決してなかった。

 それは鍛え上げた自分自身のレベルに対しての自信であり、共に闘う仲間達の力であり、いつだって俺達は勝ちを求めて突き進むことが出来ていたんだ。

 だが、目の前のこいつらは違う。

 まったくの別物だ。

 攻撃が効かない所の話ではない、どう行動すればよいのか見当もつかない。まさに『触れ得ざる者』。

 

 くそっ! 本当にここまでなのかよ……

 

 さっき、旦那に言われてむちゃくちゃだと思いつつもあの金色の怪物に立ち向かおうと思い立ったばかりだというのに、今はその気持ちがすっかり折れてしまっていた。

 それはやはり旦那の存在が俺達のこころの支えになっていたからだ。

 とにかく旦那が居てくれさえすればなんとかなるかもしれない。

 淡い希望だったとしても確かにそう思うことで、俺達は自分自身を奮い立たせていた。これは間違いない事実だ。

 

 そして今ここには、その頼みの旦那はいない。

 

 いるのは俺達だけだ……

 

 ゴンゴウ、ヨザク、シャロン……クロン……。

 

 いつも頼りになるこいつら……俺の心の支えで、変えようのない仲間たち……

 その絶望の色に彩られた顔を見て、スッと俺は覚悟が決まった。

 

 やっぱり簡単には……死ねねえなあ……

 

「ほう? まだ歯向かわれる気なのですかな? 貴方如きでは何もできはしませんよ」

 

 俺は震える身体を無理矢理に動かして、手にした俺の相棒たる武器、『緋天登龍棍(ひてんとうりゅうこん)』を構える。

 

「ああ……そうだろうともよ。だがよ、だからって諦めたりは出来ねえんだよ。助けた女達を逃がすと旦那とも約束しちまったしな、まったくとんだ貧乏くじだぜ」

 

 俺は全身のマナに働きかけて身体強化の魔法を唱えた。

 

「お前ら……とにかくとっとと逃げろよ……うまくいきゃあ逃げられるだろうよ。あばよ、シャロン……クロン。『剛力剛腕(カ・マキシマムマッスル)』‼」

 

「シシン!」「待って!?」

 

 全身の筋力が唸りをあげて膨張していく。使った魔法は俺の身体能力を半端なく上昇させる、火の上位魔法。

 俺が授かった火の恩恵にあって、もっとも苛烈なこの魔法の行使は俺にとってもまさに諸刃の剣だ。

 激しい炎の力は全身をめぐり限界をゆうに超えた力を発揮する一方、絶えず身体を焼き続け、時間が経てば経つほどに肉体が崩壊していくのだ。しかもこれは通常の傷とは違って、全身のマナの流れそのものを消失させてしまい、治癒魔法などの全ての癒しを受け付けない。

 つまり、この魔法の先にあるのは、まさしく『死』。

 だが、仕方あるまい。目の前で死なせたくない命があるのだ。だったら、それを守るために自分の命を削って何が悪い。

 俺は湧き上がるような強烈な力の存在を知覚しながら、同時に人としての自分の姿が失われていくのも感じていた。

 まるで『怪物』の様に変わってしまった、自分の真紅に染まった両手両足を見てから、俺は目の前の『敵』をしっかりと凝視した。

 

「ただじゃあ、くたばってはやらねえからな」

 

 そのまま俺は大地を蹴った。

 

 一直線に跳ね上った先にあったのはあの巨大な『金色の獣』……その巨大な頭部の一つに向けて渾身の技を繰り出す。

 

「受けてみやがれ! 俺の命を懸けた必殺の一撃を!」

 

 俺は迫る金色の頭部に向けて空中で大きく武器を振りかぶる。と、同時に、大量のマナを得物へと流し込んだ。

 まるで血液を流し込んでいるかのように、俺の『登龍棍』が脈動して膨れ上がり、さらに火炎を巻き上げていく。

 まるで立ち昇る竜のごとき巨大なその炎に、さらに俺は全力でマナを注ぎ込んで火炎を圧縮させていった。

 俺が手にするのは触れる者全てを焼き尽くす絶対の火炎。

 もはや身体のほぼすべてが悲鳴を上げているのを確かに感じながら、自身最強の必殺の技を俺は繰り出した。

 

「『大爆裂陣』ッッッ‼」

 

 『登竜棍』に全ての火のマナを注ぎ込み、それが太陽爆発のごとき勢いで放たれそうになるのを必死に押さえ込みながら、俺は超巨大な金色の竜の頭の一つにその一撃を叩き込んだ。

 痺れ、痛み、熱さ……

 だが全ては一瞬のこと……

 全身の筋肉という筋肉がぶちぶちと張り裂けてでもいるかのような音を耳で聞きながら、俺はただ一点……その竜の丁度眉間のど真ん中に得物を突きこんだ。

 

 その時、目の前の世界が止ったかのように思えた。止まって、そして、それが始まった。

 荒れ狂う火のマナのエネルギーが、ただその一か所……穿たれたそこからあふれ出し、そして一気に『爆発』したのだ。

 心……技……体……、その全てが合わさった時に放てるとされた究極奥義。

 全てを焼き尽くす終末の炎……『プロミネアスの炎』を再現するとも言われる必殺の技、『大爆裂陣』。究極の炎がそこに顕現していた。 

 

 だがよ……

 

 どうせそれでも倒せやしねえんだろうなぁ……

 

 自分が巻き起こした大爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされながら俺はそれがただおかしくて、思わず笑ってしまっていた。

 それと同じくしてあのムカつくターバン野郎の笑い声も聞こえてきた。

 

「くふふ……くっくっく……無駄な……、なんと無駄なことをなさるお方だ……。私にすら敵わない貴方が、あの光の御子と戦えようはずがないではありませんか。本当に人間とは……愚かな生き物ですなぁ……」

 

 ああ、その通りだろうよ……

 まったく、本当に……

 

 ムカつくぜ……

 

 そう思った時、脳裏をよぎったのはあのヒネたような人相の悪い紋次郎の旦那の顔。ああ、あの人もこれが口癖だったな……、ほんと……ムカつくぜ……

 自分の最後がこんなものだとは、かなり惨めだが……でも、仲間のために戦えたのは、まあ、悪い気分じゃない。

 みんな……

 

 少しでいいから、長生きしろよな……

 

 そして俺は地獄へ向かいまっすぐに堕ちていく……

 

 

 かに思ったのだが……

 

 

「ギュウオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

「え?」

 

 直近で甲高い悲鳴のようなものが聞こえてそっちを見てみれば、そこにはあの巨大な金の竜頭が、眉間から黒煙を上げながら大口を開けて絶叫していた。

 いったいなんだ? まさか俺の攻撃が効いたのか? そう思っているうちに、別の頭も苦悶するかのように奇声を上げ始め、痙攣するかのようにその巨体全身が震え始めた。

 と、次の瞬間には巨大な六枚の羽根から光が消え、そして羽がしぼむかのように細くなり、そのまま真っ逆さまに地面に向かって落下した。

 地表は陥没し、凄まじい衝撃波が四方へと荒れ狂う嵐となって吹きすさんでいるのが分かる。

 俺はといえば、落りてくる巨体の風圧の煽りを受けて、風に舞う木の葉のように逆に浮かび上がってしまっていた。

 俺は体勢を整えてから、落下しながらこの状況を観察した。

 

 こ、これは、まさか本当に俺の攻撃が通用したのかよ? あの怪物に? い、いや、確かに師匠から伝授された『最悪の技』ではあったけどよ、あんな巨大な怪物を倒せるものではないはずだ? 現に、奴は全身はほぼ健在で、俺が当てたあの頭だって煙が立ち上る程度で致命傷になっているとは到底見えない。

 

 そう考えていた時だった。

 

 地表に倒れ伏した怪物の長い首の頭の一つ、丁度さっき俺が最大の攻撃を叩き込んだあの顔が、あんぐりと急に大口を開けた。

 いったい何が起きたのかと様子を見ながら、地表へと着地した俺の目の前に、呑気なあの声が聞こえてきた。

 

「くっそ、めっちゃくせえし、気持ち割い……、マジでむかつくぜ」

 

「うう……紋次郎の馬鹿」

 

「だ、旦那?」

 

 ぴくぴくと痙攣する金色の巨獣の口を土の突っ張り棒でこじ開けて、中から粘液でべとべとになった紋次郎の旦那とヴィエッタちゃんの二人が、嫌そうに顔を顰めながら歩いて出てきたのだった。

 

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