立花くんのゾンビな日々   作:昼寝猫・

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「あなたの心が正しいと思うことをしなさい。どっちにしたって批判されるのだから」エレノア・ルーズベルト


日常~Ⅰ~

 しばらくどっしりと構えながら、内心あたふたしていると、上からドシンと20キロ強の物体が床に落ち、その後ドタバタとせわしなく部屋を行き来する音が聞こえてきた。

 

 天井越しに

 

 なんで起こしてくれなかったの~!?起こしたけどあなたが眠いから仮眠とか言って二度寝するからでしょ!でもでも~!!

 

 というやりとりが聞こえてくる。

 

 

 おもわず横を見ると、冴子ちゃんと目が合った。

 

 処置なしだねと僕が肩をすくめると、クスクスとおかしそうに冴子ちゃんも笑った。

 

 さっきまでの雰囲気はどこかへ吹き飛んでしまったわけだが、ほっとしたような残念なような、そんな気分だ。

 

 

 そのあと僕らは十分ほど響いてくるドタバタを音楽に、ジュースの話をしていた。

 

 そうそう、ここの家では自家製の梅酒を作るらしいのだが、酒を入れるか入れないかで梅酒、梅シロップと作り分けられるとかで、梅酒と一緒に子供用に梅ジュースの元(梅シロップ)を作っているのだ。

 

 冴子ちゃんも僕もこの家に来て初めて飲んだのだが、この梅ジュースにすっかりはまってしまった。

 

 なんでも奥さんの実家の秘伝のレシピとかなんとか・・・。

子供としては、酒作りの片手間にジュースを作られるのもなんだかと思っていたのだが、これがなかなかにおいしいのだ。

 

 特に今日みたいなちょっと暑い日には甘味と程よい酸味がもう、ね!

 

 梅の実が必要な季節ものにも関わらず、旦那の好物とか何とかで割といつでもこの家にはストックがある。

 

 そこのところ冴子ちゃんと一緒に聞いてみたところ、お父さんたら梅酒が切れると梅ジュースにほわいとりかー?入れて飲んじゃうの!と憤慨していた。

 

 

 よっぽどはまっているのだろう、そしてそれはもはや中毒ではないだろうか・・・?

 

 

 

「よくわからないけど、この前おばさんが『メシじゃなく、これでだんなのイブクロをつかんだ』とか言ってたよ?」

 

 

 え、普通料理じゃない?

 

「マジで?」 

 

 

「マジマジ?」

 

 うんうん、と言った風に冴子ちゃんがコテンと首をかしげる。最近よく言っている、語感が気に入ってしまったようだ。かわいい。

 

 

 

 しかしお父さん・・・あの顔で梅酒かよ、ハードボイルドどこ行った。

 

 というかよく考えれば奥さん、小学生に何おしえてんだよ。

 

「しらなーい」

 

 

 だよね、うん。

 

 

 

「冴子ちゃんひどーい、おばさんだなんて!」

 

 不意に響いたそんな声に後ろを振り返ると、大人の手が伸びてきた。

 同じく振り返った冴子ちゃんがソファーの背越しに奥さんに抱きすくめられ、むぎゅ、という可愛らしい悲鳴が隣から漏れた。

 

 

 ばたばたと抵抗する冴子ちゃん。

 

 

「やーん、かわいい~!」

 

 

 が、暴走する奥さんからは逃げられない。

 

 た、たすけてようすけくん!・・・隙間から時折見える目がそう訴えかけてくる。

 

・・・涙目の剣道美少女、対するはナイスバディのイケイケ元ヤン元ポリママ。

 

 

 正直眼福である。思わずずっと見ていたくなる・・・。

 

 

・・・。

 

 

・・・・・・。

 

 

・・・・・・・・・ふと、少し開いた扉の隙間から覗く目に気が付いた。洗面所へ顔を洗いに行く最中なのだろう、髪に寝癖がついている。

 

 目が合ったことに気が付くと、あわてて洗面所の方へと走ってしまう。

 

 

 

「・・・っは!奥さん、それくらいにしておいた方が!」

 

 

 え~・・・!と唇を突き出して可愛らしく嫌がる奥さん。似合っているのが憎らしい。

 

 

 そうこうしているうちに冴子ちゃんが、自力でなんとか抜け出した。もう捕まらん、とばかりに僕の後ろに隠れると、背中を抓ってきた。

 

 まあ僕が悪いし・・・甘んじて痛みを受け入れつつ、庇うように立ち上がって一歩前に出る。

 

「あらあら」

 

 ふふふと奥さんは笑った。庇えばこういう目で見られることくらいは分かっていたが、居心地が悪い。

 

 

「そ、それより麗ちゃんはまだですか?」

 

 

 渾身の話題ソラし・・・!

 

 

「あれ~?後ろにかわいい子がいるのに、ナイト様は他の女の子も気になるわけ~?」

 

 

 気のせいか、背中の痛みが増した。

 左頬を冷や汗がつたって、落ちていく・・・。

 

 

 

「おはよう、さえこちゃん!ようす・・・け?」

 

 勢いよく扉が開かれ、僕の第二の幼馴染が飛び込んできた。飛び込んだ部屋の異様な空気に固まってしまっているが、見事な援護だよ、麗ちゃん!

 

 

「おそよう、麗ちゃん!ナイスタイミングだ!」

 

「おはよう・・にはちょっと遅すぎるんじゃないかな?おそよう、麗ちゃん」

 

 

 麗ちゃんはからかう僕らに頬を膨らます。

 

「む~!」

 

 僕らの自称お姉さんな冴子ちゃんは近寄って来た、顔を洗っただけの麗ちゃんの頭をさっそく手櫛で整える。

 彼女らは同じ年なはずだが、そこは旧家で鍛え上げられた冴子ちゃん、どことなく麗ちゃんの方が子供っぽい。

 

 麗ちゃんは自分も姉だと張り合っているが(僕が弟らしい、みんな半年も歳かわらないのに!)、今も膨れつつもおとなしく髪を梳かれている。

 

「はいはい、だから今日は二度寝ちゃダメって言ったでしょ。おそようね、麗」

 

「ママ、うるさい!」

 

 

 こら、お母様にそんな言い方しちゃだめじゃない、だってママが~、だってじゃないよ麗ちゃん、冴子ちゃんがママみたいね~、ママうるさい!麗ちゃん?だって~・・・

 

 

 う~ん、それにしても貴理子さんが若々しいから、まるで歳の離れた三姉妹みたいだな~。

 三人のやり取りも、姉妹でじゃれ合っているようにしか見えない。

 

 

 この整えてもらってなお、ちょこんと飛び出る二房の髪がチャームポイントの女の子が宮本麗ちゃんで、その隣の歳の離れた姉のような母が宮本貴理子さんである。

 間違いなくあの宮本だろう。

 

 最初に会ったときはかなり驚いたが、どうやら貴理子さんと僕の母が知り合いのようで、床巣に来てからご近所さんとして紹介された。事実彼女らは僕の家から300メートルも離れていないところに住んでいる。そして母が言うには、貴理子さんとは親友なのだとか。

 

 紹介された晩にふと、いつから親友なのかと聞くと、母は目をそらしながら話題をそらそうとしていた。不思議に思いつつなんでためらうのかしばらく考えて、原作知識を思い出した。貴理子さんは元族だ、そしてその後交機に入ったということはたぶん中卒か高卒警察官だ。おそらくだが母と貴理子さんは高校時代に知り合ったのだろう。二人は足抜けし、一人は警察官へ、一人は大学生に。

 

 さすがに自分の子に、やんちゃな時期があったことを話すのは気が引けたのだろう。それに僕も、そのことに思い至った当初は少し動揺した。いまのぽわぽわとした母と「族」というイメージが一致しなかったからだ。

 

 がしかし、よく考えればそれほどおかしな話ではないのかもしれない。

 母の昔のことは、父との物語のような逃避行しか知らなかった。だけれども、母は親を早くに亡くしてしまった過去を持っているとは聞いている・・・もしかしたら若いころはやんちゃをしていたのかもしれない、今の母を見ると想像もできないが・・・。

 

 なんにせよ、予想もしていなかった方向から宮本麗とのつながりができたわけだ。

 

 今は冴子ちゃんと僕の遊び友達になっている。実はクラスこそ違えど同じ小学校に通っているのだとかで、麗ちゃんも冴子ちゃんも顔だけは知っていたんだとか。 それが僕を通じて知り合い、馴染みになったのだ・・・微妙な原作改変だ。

 

 

 そうそう、原作といえばどうやら麗ちゃん、小室孝とは幼馴染の関係に無いようだ。

 

 そんな馬鹿な!と麗ちゃんの近所の表札を全部調べて回ったのだが、『小室』という表札は見つからなかった。

 

 少なくとも僕の行く予定の小学校の教員の名前に『小室』という女性職員はいないため、今のところどこにいるのか見当もつかない。

 この違いが一体どのような理由で起きたのか、変化を生み出すのかそれはわからないが、それほど大きな問題にならないといいなと思う。

 

 HOTDの本質がゾンビハザードにおける人間性が問題なのであって、アメリカドラマのようにバックグラウンドの人間関係が馬鹿みたいにかかわっていなかったから、それほど大きな問題にはならないという打算もある。

 

 そこのところはまさに神のみぞ知るだろう、僕は僕でやっていけばいいのだ。

 麗ちゃんは宮本さんちの麗ちゃんなのであって、『宮本麗』じゃないのだから。

 

 

「さて、それじゃあそろそろ行こうよ。公園に行くんでしょ?」

 

「あ、うんそうだった。麗ちゃん、今日は公園いこ?」

 

「うん、行きたい!ママ、いーい?」

 

 こういう外へ遊びに行くのに思わず許可を求めるところが、ある意味小学生の醍醐味だな~・・・前の時なんかはたまに高校生くらいになっても思わず聞いてしまい、母親に笑われた覚えがある。         

 

 欧米では中世時代に子供の概念がちょっくら消失したわけだが(日本に来た宣教師が絶望して帰ったとかなんとか)、儒教的には二千年くらい前から「行先を言わずに出かけるのは厳罰に値する」となっている。行きすぎだとは思うけど、まあ馬鹿みたいに広いからな、あのあたりは。

 いずれにせよ、子供についていち早く気が付いていながら、義務が大人より多い当たりあたりが何とも、中国的というか・・・。

 

 こういうアホな事考えてられるのも、子供の特権なのだろうか。

 

 

貴理子さんはう~んと少し考え込んでいる。

 

「公園っていうと、ここから一キロくらい・・・遠いところの?」

 

 子供にはわかりにくいから言い直したようだ。

 

 

 

「はい、ちょっと遠いところの!です。あっちの公園も面白いって言われたから、行ってみようと思って」

 

 

 冴子ちゃんの言葉を聞いて、麗ちゃんを見て、冴子ちゃんをみて、僕を見て。それからもう一度麗ちゃんと僕の間を目線が行き来してから、貴理子さんは自分も出かけるから待っててと告げて奥に下がっていった。

 

 

 たぶん、僕がいるから大丈夫だろうとは思いつつ、小学高低学年の子供だけで遠くに行かせるのもいかがなものかと思い直したのだろう。

 

 妥当な判断だ。

 

 

 

 

 この後僕たちは貴理子さんと連れ立って公園へ行き、くたくたになるまで遊んだ。

 

 

 

 

「それじゃあ冴子ちゃん、洋介君、さようなら」

 

「二人ともばいばい!」

 

「うん、また遊ぼうね?」

 

「麗ちゃんのおかあさん、ありがとうございました!またね、麗ちゃん!」

 

 

 四時半には切り上げて遊び終わると、貴理子さんが僕達を家まで送ってくれた。だいぶ日が長くなってきたとはいえ、あたりはもうすでに赤やけている。

 冴子ちゃんは後で健吾さんが僕の家まで迎えに来ることになっている。

 

 

 今日は少し遠くの公園に遊びに行ったわけだし、小室孝や平野コータなんかに会えるかと少しは期待してたんだけど、それっぽい子供はいなかった。やはり物語のように簡単にはいイベント、とはいかないようだ。

 

 

「じゃあようすけ、また遊びにきなさいよね?」

 

「はいはい、また行くよ」

 

「うん、また遊ぼうね!

 

 

 花が咲くような、満面の笑顔で手を振りながら麗ちゃんは去って行った。

 僕と冴子ちゃんも、貴理子さんに手を引かれながら帰っていく彼女が見えなくなるまで手を振った。

 

 

 いや、うん。このおねえさんぶってる麗ちゃんはどうしようかね?年下の友達ができて嬉しいらしく、いつも僕には去り際にあんな感じで話しかけていく。

 かと言って別段理不尽な振る舞いをするわけではないのは、好きでやってるからだろうか?

 

 女の子の多くは小さな子や子犬に構いだすと、親にやられたことを自分基準でやり始めるので、ストレスで死にかねない勢いで構いだすのだが・・・麗ちゃんにその兆候はない。

 その辺貴理子さんの微妙なさじ加減の放任が功を奏しているのだろう、母親は偉大とはよく言ったものだ。あの若干のツンな発言も、それに続く素直さで見事に嫌味を感じない。

 

 

 正直僕はツンデレとかそういう理不尽なのは割とダメなタイプだから、この微妙な素直さはいいと思うんだけど・・・いや、それにしてもどうしてこうなったんだか、これ小室君のフラグ完全にたたき折ってるよね・・・?

 

 

 冴子ちゃんも、麗ちゃんも大事な友達となった今、原作通りに行かない事くらい覚悟で来ている。それにこの人間関係によってバタフライエフェクトが起きたとして、それほど大きな問題にはならないという理論武装だってできている。ただそれでも・・・。

 

 

 

 割り切れても感じてしまう不安を、僕は理不尽に感じた。

 

 




 パソコンが壊れてただで遅い更新が、さらに遅くなって申し訳ないです!

 今回は主人公の日常と不安の話でした。あとちょっとでアメリカ編行こうかと思ってます。軽く十話くらい使うんじゃないだろうか、アメリカ編・・・。
 
 この前メールで何聞きながら書いてるの?と聞かれたので、僕の好きな二次作家みたいに五曲くらいBGM書いていきます。重複してるときは省略
 無理に進めはしませんが、バウディーズは一度聞く価値はあるかと・・・いい意味でヴィジュアル詐欺ですw

BGM・
~Three days grace~
PAIN
BREAK
Just like you
~The Bawdies~
It's too late
Hot dog
Sing your song

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