ガラリと扉が引かれ、二人の少女が教室に入ってくる。
一人は冷ややかな美しさを持つ、肩口まで伸びた艶やかな黒髪が印象的な少女。
もう一人は垢抜けた雰囲気の、母親譲りの茶色がかった髪の少女だ。
ホームルームが終わったばかりの教室は、放課後の直後の、ひと時の喧騒に包まれていた。
しかし一学年上の少女らが入ってくると一瞬静まり返り、また熱を取り戻す。少しばかり、熱の質が異なっているようではあるが。
慣れた様子で教室の窓側、真ん中あたりの席まで歩くと、少女は席で片づけをしていた僕の目の前に立ち、こう言った。
「洋介、準備出来た?」
ネイビーブルーの五分丈デニムと、少し裾の長めの白黒のボーダーTシャツ。きっとあのアクセントに服の上につけたライトブラウンの皮編みベルトは、貴理子さんチョイスだろう。
ピンクのスニーカーソックス少し顔を出している今は上履きだが、確か今日は少しお高く、グッチのレースアップスニーカーの日本限定モデルを履いていたはずだ。
ほかに装飾品等は着けていないが、それが逆にすっきりとした、違和感の無い着こなしを感じさせる。
活動的でオシャレかつよくありがちな、娼婦を彷彿とさせる、それのようにならないセンス。
女の子の間で彼女は、ファッションリーダーのように慕われているらしいことを、クラスの女の子たちが話しているのを聞いたことがある。
いつ見てもお洒落な母子だ、そういう扱いをされていると知ったときは、むしろ納得してしまった。
ちゃちゃっと教科書を鞄に仕舞ってしまうと、僕は彼女に片づけ終わったことを伝えた。
「それでは洋介君、早く行こう?」
黒のスラックスに、藍染めで逆に舞い散る桜を染め抜きした、白いTシャツを着ている。
白色のシャツと優しく染め抜いた藍色が、彼女の艶やかな髪の色によく合っている。
ほかに装飾は着けていないが、トルコ石のループタイを緩くテールを作るための髪留めに使っている。
二年ほど前に珍しく駄々をこねて僕から取っていった、一粒玉をカメオのようにあしらった代物で、黒い紐の先の鈍色が彼女の耳の下あたりにちらちらと見え隠れする。よほど気に入ったのか昔からよくつけている。
買ったはいいが、小学生に使い道がなく持て余していたものだったし、ある意味良いところに落ち着いたのじゃないだろうか。
「待たせちゃってごめんね、それじゃあ行こっか?」
三年が経ち、7才から10才に成長した冴子ちゃんと麗ちゃん。しゃべり方にだんだんたどたどしさがなくなってきた二人に、僕はそう声をかけた。
三人でお揃いのHerz社のチョコレート色の縦型ランドセルを背負いながら学校を出ると、僕らは総合体育館に向かって歩き出した。
いつか良い思い出になるようにと何かお揃いで面白くて、なおかつ長く使えるものをと選んだ結果ものだ。
大学生や社会人が使っていても違和感のないものだが、半ば冗談で学校に背負って行ってみた結果何のお咎めも受けなかったのをこれ幸いと使いづけている。
どうやらうちの学校はあまりそういう事にうるさくないらしく、ランドリュック、ランドバッグ、ナップランドなどを使っている子もいる。ランドとつけばなんでもいいというのか・・・?
この手の通学カバンの種類はどうも地方によって違いがあるらしいのだが、指定物扱いされる通学カバンに地方差があるというのは、なんでも画一的な日本にしては珍しいと思う。
ちなみに僕がHerzを選んだのは本革、スマート、味がある、丈夫という理由だ。
たぶん三人ともずっと使い続けるだろう、選んだとき僕はそう思っていた。
ただ、大学生の彼女たちはどう着こなすのかなと、考え始めてから高校生までの彼女たちしか思い浮かばず、不思議に思い考え込んでから、自分のあほらしさに気が付いた。
なんともどうしようもなく間抜けな話だ。ちょっと最近こどもこどもしているのが楽しくて、気が抜けていたようだ。
それ以来ふとした拍子に鞄に少し皮肉を感じ、少し落ち込んだ気分になる。
がしかし、いい鞄ではあるし、二人ともこのプレゼントを気に入ってくれたのでそれはそれでよしとした。
あげた時に、ずっと大事に使うね!と言われ、自分の考えがそれほど的外れではなかったこともひとつある。
少なくとも高校までは使える。それでいいじゃないか、そう思えるようになってきてはいる。
そうそう、僕たちはいまだ学年こそ違うがいつも三人でいる。それぞれ友達はいるが、学校外ではこの三人でいる時間が一番長い。
僕と冴子ちゃんが一番真面目で、麗ちゃんが僕と冴子ちゃんと一緒に勉強するために平均点より少し上くらいをあがったり戻ったりしている。
冴子ちゃんが古風なことが一通りできる子で、麗ちゃんが一番流行に敏感でお洒落、僕が面白そうなことをなんでもやってみるという、全方面面白おかしく過ごしている。
ある日は親に頼んで郊外モールで買い物をしたり、ある日は禅寺でお茶をたしなんで足を痺れさせたり、またある日は急遽思いついた僕が二人を連れてゴーカートでレースをしたりした。
小学生にもなると男女で分かれ始める時期だ。
僕はどちらも敵にしないように立ち回っていたため、女の子たちから変な目で見られることはなかったが、一部の男の子たちからやっかまれることにはなった。
特に、トラはなぜ強いか知っているか?体がでかいからだよ、とばかりに、この頃の子供は体がでかいほどカーストが高い。
そして二次性徴の始まったガキのやることなんて、そんなにパターンはない。
アホやってるのが楽しいだけの子もいるわけだが、気になる子へのアプローチなんて簡単によそうできるだろう。
こればっかりは昔から変わりゃしない、ジャイアンなんかが良いステレオタイプといえるだろう・・・。
現状はまだどうにもなっていないが、麗ちゃんのクラスにまさにそんなのが一人いる。
どうやら麗ちゃんと冴子ちゃん二人ともに興味があるらしく、よくおい、ブス!と二人に声を荒げてくるそうだ。
典型的すぎて笑えてくる、俺だった時もなんかそんなことやったような気がするし、嫌になるよね!とたまに文句を言っている二人には結構後ろめたい。
男は馬鹿なんです、許してつかあさい・・・まぁ、百パーセントやってるほうが悪いのだが・・・。
そんでもってつい先日その虎の子が僕に反感を抱いていて、近いうちに何か動きでもあるんじゃないかな~と、それとなく一年上のおねーさま方に忠告を受けた、憂鬱だ。
今日は漢字の小テストがあって嫌になったとか、ちゃんと予習しておこうよ、めんどくさーい!とか言い合いながら三十分ほど歩いていく床巣市総合体育館にたどり着いた。
冴子ちゃんは竹刀を振りに、麗ちゃんは槍を習いに、だ。
それほど体を動かすことに麗ちゃんは興味を持っていなかったのだが、僕と冴子ちゃん、親しい友達二人が武術を習っていたために、彼女も両親に頼んで始めたのだ。
それなら健吾さんのところで剣道でも始めると思っていたのだが、父親の強い要望で槍術になったのだとか。
よく考えりゃ、今どきの女の子に公安のデカが教えられることなんて何一つ無いわけで、さあいざ自分でも教えられる!と思ったら張り切るはな・・・自分の奥さんに泣きついてでも・・・。
しばらく貴理子さんに呆れた目で見られていたが、気持ちは何となく想像できる。
まさか自分の選挙区の、政治家の誰それがクサイ、なんてことを教えるわけにもいかないわけだし。
閑話休題
僕は相変わらず冴子ちゃんと手合せするのは避けているのだが、麗ちゃんとはたまに行うことがある。
始めたばかりの麗ちゃんにそうそう負けることなく、勝ち越しているのだが、姉を自認していることもあって、そのことが大きなモチベーションになっているようだ。
まだまだ負ける兆しがないとはいえ、麗ちゃんは急激に力をつけ始めている。
一心に練習を続けているらしく、その辺は麗ちゃんのお父さんもうれしそうにしている・・・ただ僕のことがたまに、いや頻繁にうっとおしそうではあるが(苦笑)。
「じゃあまたあとでね、二人とも!」
「うん、あとで!」
そう告げあって、更衣室の前で分かれた。
僕自身がまだ八歳だし、風呂は人によって違いがあるだろうが、別れる必要性があるとは思わない。
だが、いつまでたっても三人でまとまっていると、性的な認識の遅れやらなんやらで、隔離される可能性もゼロではない。
それにやらなかった結果、冴子ちゃんや麗ちゃんが、変なトラブルに巻き込まれるのも嫌だし、ちょいちょい精神年齢大人な僕の方で調整するようにしているのだ。
まぁ小学生やり直してるわけで、いつも一緒にいたいと感じてしまっている『僕』への、大人の俺からの教育という面もある。
意識させすぎて、あんまりにも早熟だと困るが、二人ともちゃんと子供をしているし、そういった感じではないので今のところ問題はないだろう。
別に僕が彼女たちに性教育を行おうとか、そういう驕ったことを考えてるわけじゃない。喧嘩だってトラブルだって、ジェンダーの問題やお互いの得意不得意についてだって、すくなからず行うべきだ。
ただ僕自身が、あんまり起きてほしくないトラブルにならないように、距離を測り始めようとした、ただそれだけだ。
・・・それに『そういう問題』はいずれ起きるにせよ、僕がまだ彼女たちに異性を求めていないにせよ・・・僕以外と起こるのだけは嫌だから。
「そういえば今日は洋介、また『飛んだり跳ねたり』?」
麗ちゃんがからかうように訪ねてくるが、ひどい言いぐさである。あながち間違っていないので、少し笑えてくるが。
「そうだね、また『障害物競走』かな?」
「う~ん、あれを『障害物競走』だと言い張るのは洋介君くらいじゃないかな?」
そういいながら冴子ちゃんが苦笑した。
三人でそんなことを言いながら、それぞれ更衣室に分かれた。
うむむ・・・それなりに前向きにとらえつつ、色々四苦八苦しつつ、出来ればカッコいいところだけを見てもらいたいと思ってる主人公(八才、120cm、女顔、かわいい)が表現したいんですが・・・難しい・・・え、むろん洋介はまだ両性類ですよ?何言ってるの?
あ、主人公の設定としては、知識はあるけど「初恋」がモットーです(あと十四歳までは女顔、異論は認めない)。
なので前回の冴子ちゃんとのソファーでのやりとりなんかは内心、え?なんでこんなに戸惑うの?え?え?みたいな感じです(見た目は百合百合だったりします、俺得です、文句のあるやつ屋上)。
理由としては、基本的に脳内麻薬やその他神経伝達物質は『神経の太さ』に大きな意味があります。麻薬などは使えば使うほどこの神経が太くなるわけで、そして神経は細くならないのです。
それゆえ使用量が増えていくわけですね。この辺が麻薬中毒に『更生』が存在せず、『中断』を死ぬまで続けられるかどうかだ、といわれる所以なわけです。
そして子供に戻ったわけですから、ここも再び子供相応に細くなってるわけです。
その差異に脳が四苦八苦してたのが頭痛で、ドーパミンやらアンフェタミンやらなんやらの急分泌で奇跡的に摺合せできたのが冴子ちゃんとの試合の最中なわけです(ジブリル補正)。
なのでこれからも色々『僕』はこの違いに悩んだり、考えたりしていきます。
実は修行なんかでも、痛みに弱くなってるので何回も泣かされています。コーヒーをブラックで飲もうとして、香りの時点で気持ち悪くなって目を白黒させたり、頭と体の比率を考えず上を向いたらそのままひっくり返ってしまって涙目になったり、ピーマンをこっそり皿の端に寄せて、それを見咎められてふてくされたり・・・かわいい(現在容姿は菊池真)。
昔から二次もの読んでて楽しんでるのですが、何かしら、納得のいかないことってありません?本作品では、そんな疑問をいくつか投げかけていこうと思います。
まず一個目がなのは系で多い、「小学生高学年でべったりしてたら、回り流石に引きはがすでしょ」と「子供が子供教えてるてるのはまずい」ということです・・・・・・・が。
一度その説明を書いたのですが、あんまりにも長くなったのでやめましたw
気になる方は「ミラーリング」「ほめることの重要性」「母子の相互依存」「第二次性徴」「子供 べったり」等で検索したり本を読んでください。
人間一人がどれほど『重い』かがわかります。
教育って算数国語だけじゃないんですぜ・・・?歯磨き、風呂、服、靴、社交性、はなほじり、爪噛み、刃物、歩き方、走り方、自転車例を挙げればキリがありません。こんなもん『ともだち』に教わります?教えられます?
そして子供がときにどれほど悪魔に見えるか・・・本当に母の愛とは偉大ですよ。
追記
忘れてた、スニーカーは・・・例のアレですw欲しい、高い、買えない(´・∞・`)