二話同時投稿
「これら犯罪者のターゲットにならないためには,自分が周囲の人より少しでも狙われにくい行動をとることが必要です。常に『周囲の人と狙われにくい競争をしている』という意識を持ち続ける必要があります」
~在サンパウロ日本国総領事館~『サンパウロにおける安全の手引き』
最近麗ちゃんは、私の親友の一人である宮本麗は・・・変わったなと思う。
一緒に遊ぶようになったはじめは、子供っぽいところが目立っていたように、今になって思う。
まぁもちろん私もまだまだ子供なんだけれど・・・それでも、それぐらい違いがあるようにそう感じる。
変に大人ぶろうとする子みたいな感じではない。
ファッションにびっくりするくらい精通していたり、どんなことにでも嫌々ながらにでも試しに参加したり。
嫌いな子とでも、距離はおいても遠ざけようとしない。そういうところが頼りになるのか、最近は女の子たちの間でリーダー的な役割を担いるみたいだ。
とにかく、試しにやってみてから嫌がることはあっても、子供っぽく、試しもせずに嫌がることが無くなった。
そういうところがふとした拍子に麗ちゃんを、大人だな、と思わせるんだと思う。
麗ちゃんは、性格的には貴理子さんの影響が強くでてる。勝気でちょっとお姉さん的な事に憧れていて・・・失礼だけど、お父さまに似ずとても女の子してる。
前は小さな妹のようで可愛かったけれど、頼りにできる彼女は、とても魅力的になったと思う。
いつの間にか私も麗ちゃんを、それほど妹扱いしなくなっているしね・・・まぁ、貴理子さんとはいまだ仲の良い姉妹のようではあるが・・・私も母上とは仲の良い方だと思うけど、あんな風にキャッキャッと一緒に騒ぐイメージができない。
とにかく、ただただ子供っぽかった麗ちゃんはいつの間にかいなくなっていた。
理由は明白だ。
私が大人っぽくなれたのと、理由は変わらないって、そう私は確信してる。
そう私たちのもう一人の親友、立花洋介。
それ以外に理由はないだろう。
会った頃くらいは、麗ちゃんは寝癖でぼさぼさの頭でも気にしない子だった。
貴理子さんとの会話を聞いていてわかったけど、服なんか人形の服はお姫様みたに着飾らせるのに、自分の服はそれほど気にしていなかったみたい。
今そのことを言うと、顔を真っ赤にして否定するけど、麗ちゃんの表裏逆に着ている服を何度か着直させた事もある。
でもある日みんなでモールの服屋さんに行った時、そこで貴理子さんに選んでもらった服を着て一日みんなで遊んだあとの帰り道で、洋介が照れた様子で
「その服・・・とっても似合ってるね」
ただ一言そう言った。
それから麗ちゃんは、それほど服屋さんに行くことを嫌がらなくなった。
そして何度かそういう事があって、麗ちゃんは自分で服を選ぶようになった。それはもう、一生懸命に。
今でも特に新しい服を着てみた時に、麗ちゃんは無意識だと思うのだけれど、洋介に見てどう思うかを聞いている。
麗ちゃんから何も言わなくとも、例えば髪型だとか、新しい髪飾りだとかを、洋介が気が付かなかった時なんか一日中不機嫌になる。
まぁ、洋介は目ざといからそういう事は滅多にないのだけれど、それまではお昼のソースを服で拭いて怒られていたのにだよ?
まったく、人間とはびっくりするほど変わるものだとつくづく思うよ。
当時は意識していなかったようだが、すぐに洋介も麗ちゃんのその変化に気がついた。
最初の頃はその変化に戸惑っていたけれど、嬉しそうに
そう、洋介は鈍感じゃない・・・むしろいろんなことにとても目聡い。特に人の気持ちにとても詳しい。
麗ちゃんが洋介といるときと、ほかの子といるときの距離が違うとか。
麗ちゃんが
そういう事には気が付いてるはずだ。
なんで洋介が気持ちに気が付いているってわかるか?
それは、私も気が付くと
大人に言ったら、そういうのはまだまだ早いって言われるかもしれない。けど後十年たっても、きっとこの気持ちは変わらない。
そして麗ちゃんも、そろそろ麗ちゃんの気持ちに気がつき始めてる。
自分で言うのもなんだけれど、私も大概大人びていると思う。でも麗ちゃんとは違う形で大人びている自覚はあるし、たまに麗ちゃんがうらやましいと思うことがある。
例えば
麗ちゃんも私と同じように嫉妬している事を知っている。
例えば
自分のことだけど、こんなに醜いのかと、ちょっと自己嫌悪することもある。
でも自分では見えないけど、きっと私と麗ちゃんは洋介と一緒にいるとき、おんなじ顔をしてるんだろうなって、そう思うから。
そして麗ちゃんもそろそろ、私の気持ちに気が付く。その時に私たちの関係がどう変わり、あるいはどう変わらないのか。
クラスのませた子達の好きな子の話を聞いてると、不安にならなきゃいけないんだと思うんだけど・・・私は楽しみで仕方ない。
その時が来ても、誰もいなくならないという、そういう確信が私にはある。
夏休み前、最近日差しがだいぶ熱くなってきた。
いつものように、特に変わりない時間が過ぎてお昼休みなった。
廊下が騒がしくなるけど、私のクラスはまだ終わらない。
三時間目の授業は社会なのだけれど、社会の町岡先生はいっつも十分くらい授業が長引くからだ・・・みんな嫌がっているけれど、おじいちゃん先生は気にもしない!
お弁当の時間が短くなるから時間通りにして欲しい。担任の先生に言っても、もうお歳だからと何もしてくれない。
なんとかならないかな・・・。
そんなことを思っていると、ようやっと授業が終わった。
黒板に書いてあることは、もう全部移し終わっている。
サッと教科書とノートを片づけると、私はお弁当を取り出し、足早に麗ちゃんのクラスへと急いだ。
私たちの小学校は私にはよくわからないのだけれど、給食がない。その代わりにお弁当を家から持ってくるか、カフェテリアで買うかの、どちらかを選べるようになっている。
洋介は
「さ、流石私立パネェ・・・めんどくさい?まぁあれだよ、早めの社会勉強みたいなものだよ、冴子ちゃん」
と言ってたけど、正直よくわからない。食券機がどうとかタッチパネルがどうとか。そんなに変わってるのだろうか?
あとよくぶつぶつ言ってる「冷凍ミカン」ってなんなんだろう?ミカンを凍らせてもおいしくなさそうだけど・・・カレーのルーの取り合いが醍醐味って・・・それちょっと、意地汚い気がするんだけど。
「あ、冴子ちゃん!やっと出てきた、遅いよ!」
「ごめん、ごめん。ほら」
「あぁ、そういう事・・・」
教室を出ると、お弁当を持って待ちくたびれた様子の麗ちゃんがいた。謝っても少しむくれていた麗ちゃんに、教室の中を指さすとすぐに納得してくれた。
半分は片づけ終わって席を立ち、そのまた半分は席を移動し、残りの少し黒板を写している。そして町岡先生は片づけをしながら、まだ何か話をしている。
大抵は授業には全く関係の無い話なので、別に聞く必要はない。
見ていても面白い光景でも無いので、どちらからともなく四階の階段へと歩き出す。T字の校舎の三つある中の反対側の階段だ。
麗ちゃんと洋介とはいつも三人で、屋上で食べている。そのため三階に教室があって、私たちの一階下の洋介とそこで合流するのだ。
「なんであの先生、あんなに話したがりなんだろ?」
全くだ。
「あれでいい人ではあるからね。楽しそうに話すのはいいけれど、どうやったらあんなに話すことがあるんだろうか・・・麗ちゃんのクラスでもあんな感じなの?」
「あ~、うん。それも冴子ちゃんところみたいに、何人か最後まで聞いてる子もいるんだよね~」
「つまらなくはないからね。むしろだからこそ問題な気もするけど」
それも愛嬌というのだろうか?
二人で歩いていると廊下を遮っている陰に気が付いた。
男子が三人道の真ん中に陣取っていて、通行を邪魔しているようだ。横に二人いるコバンザメは名前も知らないが、真ん中で腕を組んでいるのにはとても見覚えがある。
「どうする?」
「冴子ちゃんの方が頭良いじゃん」
「ここであんまり頭のよさは関係ないんじゃないかな?」
「もう立ち直ったけど、正直いい加減うっとおしいのよね~」
「おい、止まれよ!」
「・・・・・・それには同感だね」
聞こえないように麗ちゃんに話しかける。
「・・・ホンット、頭に来るわ」
「ふふ、麗ちゃんは落ち込んで、洋介君に慰められてたしね」
「な!?」
顔を赤くする麗ちゃん。当たり散らして、訳も分からず泣いて、それでも抱きしめて慰めてもらっていた麗ちゃん。
隣で素通りされた彼の顔も真っ赤になっている気もするが、きっと気のせいだ。
麗ちゃんの方はすぐに持ち直すと、ニヤリと悪い顔をする。
「そういう冴子ちゃんだって、寝たふりをして膝枕してもらってたじゃない」
怒りや悔しさや、いろんな感情が涙と一緒に溢れ出して八つ当たりしてしまった私。
「・・・それがどうかしたの?」
「・・・シレッとして隠してるつもりかもしれないけど、頬赤いから」
・・・やっぱり麗ちゃんも大人になったな・・・となりからジトリとした視線を感じる。
「そこで、うんうんって頷かれるのは、ちょっとよくわかんないんだけど?」
こっちの話だよ・・・決して顔が熱くなってきたのをごまかしてるわけじゃないよ?
「冴子ちゃんて、するよりされる方が好きだよね・・・そういうとこ乙女っぽい」
ニシシと猫のように笑う麗ちゃん。
そうなのだろうか?
「無視すんなよ・・・このブス!」
そう怒鳴りながら私と麗ちゃんの前に割り込んでくる、体格のがっしりとした男の子。
もう少しでぶつかりそうになるが、歩幅を縮めて直前で止まる。ぶつかる気でいたのか、体幹を崩してこちらに一歩踏み込んできたのを、一歩下がって避ける。
見ると麗ちゃんも、押したりせずにさり気なく一歩引いている。
(麗ちゃんなら突き飛ばすくらいしそうだと思ったよ)
(ちょっと?冴子ちゃん、それどういう意味かしら?)
思わず呟くと、麗ちゃんの口元が引き攣った。
マズイ、口調が貴理子さんみたいになっている。静かに怒り始めた時の反応だ。
うん、ちょっと言葉を間違えたかもしれない。。
(・・・まあいまはいいわ。)
助かった。
(洋介が言ってたのよ。
(なるほどね・・・)
チラリと二人の方を見ると、顔色が少し青くなった。
(洋介は距離を取って問題にならないくらいに強く拒絶を表せって・・・確か、パーソナルスペース?には絶対入れるなって言ってたわ)
パーソナルスペース?
(一緒にいて嫌な気持ちにならないくらいの距離?って言ってたかな?話してる時に、手を伸ばして手首くらいの距離から、数センチ毎に心の壁が出来てて、二メートル以上無いと話が出来ない人は、心の底から嫌ってる人だって)
(なるほどね)
見てみると彼らと私たちは七十センチほど離れて話をしている。麗ちゃんにひょろりとした男子が一歩近づくと、近いんだけど、と言いながら睨みつけて近づけさせない。
他にも、できるだけ自分からは引かないというルールがあるのだとか・・・本当に洋介は色々知っている。
そしてその距離がどれだけ、今私たちが怒り狂っているかを教えてくれる。
そのやり取りを周りで見ていた女の子からも、「嫌がってるんだから止めなよ!」と聞こえてくるが「うっせえブス!」と聞く耳を持たない。
特に話したいと思わない私たちは、黙って向こうの要件を待っていたのだが、どうやら向こうは話しかけられるのを待っているようだ。
「おい、どこ行くんだよ」
こちらから話しかけるのもしゃくなので、黙っていると、イライラしてきたようだ。ムスッとした顔で、そう問いかけてきた。
思わず二人して黙り込んでしまう・・・同じ学年でもあるし、男子のリーダー的な役割を彼はしている。
そして麗ちゃんは女子のリーダー的な存在。そして私たちの学年は、男子よりも女の子同士は仲が良い。
あまり対立をするのは、私も麗ちゃんも良くないと考えていた。
「おい、聞いてんのかよ?」
麗ちゃんと目を合わせると、お互いに一つ頷いた。
「わるいのだけれど、もう一度何を聞きたいのか教えてくれないかな?」
私が尋ねる。
「だから、どこ行く気だって聞いてるんだよ!」
「「はぁ・・・」」
「な、なに溜息ついてんだよ!」
「あのさ、私たちがどこに行こうが、あんたにはなんの関係もなくない?」
「・・・は、はあ!?お前、はぁ!?」
・・・やれやれ
「あまりこういう言い方をするのは好きではないんだけれど、麗ちゃんの言う通りだと私は思うよ」
思っていたより冷たい言い方になっているが、構うものか。
彼らのおかげでゴールデンウィークはメチャクチャだったのだ。やりたい事も出来なかったし、いろんな人にとても、とても迷惑をかけてしまった。
これは私たちの宣戦布告なのだから。
いやぁ、軽く仕上げるつもりが気が付けば三万字も・・・。
書く作業より削る作業で投稿が遅れました<(_ _)>
このテーマはいつか書きたかったことの一つなのでついつい入れ込みすぎてしまいました、はい。
原作からは乖離していますが、大幅にスキルアップさせた魅力的なヒロインです、こういうトラブルには大いに巻き込まれる可能性があるでしょう。続きは次の話で!
わかりにくいのでネタバレしますが、やたら麗と冴子が日常に言及するのは理由があります。