立花くんのゾンビな日々   作:昼寝猫・

15 / 28
2014/07/30一部変更
二話連続投稿

「過覚醒、無気力、侵入/反復、変換、統合」
        ~PTSD Treatment Help~『PTSDからの回復の手引き』


日常~毒島冴子Ⅱ~

 最初に言われた時はショックだった。

 けれど、それほど自分が傷ついているとは思ってもいなかった。別のクラスで、顔を知ってるだけの男の子に面と向かって悪口を言われた。

 ちょっと混乱したけれど、ただそれだけ。周りにいた友達も気にしちゃだめだよと言ってくれた。

 

 だけれど、それからも何度も私たちだけが彼らに同じようなことを言われて、ゴールデンウィークに入った。

 大人びてるねだとか、カッコいいだとか普段言われていて、すっかりその気になっていた私も麗ちゃんも、全然気にしていないんだと思い込んでいたんだと思う。

 

 だけれどもゴールデンウィーク前あたりから訳も分からず、少しづつ洋介や貴理子さんに当たり散らすようになっていた。叩いたり噛んだり、蹴ったり抓ったり。

 今考えれば休みの日まで張っていた緊張の糸が切れて、行き場のない感情が爆発した結果だったんだろう。

 

 私も麗ちゃんも、そんなことしたくないのに、頭の中が嫌な気分でいっぱいで。悔しくて、訳が分からなくて、怖くて、痛くて、何かしなくちゃいけない気はするのに頭は全然なにも考えられない。

 麗ちゃんともお互いに嫌なことをいっぱい言った。だけどとうさまには言えない。

 だから洋介の事を蹴ったり殴ったりした。指先や足がウズウズとして、とにかく会うたびに、私は腕を爪の跡が消えないくらいに引き絞った。麗ちゃんはランドセルをぶつけていた。

 最初に私が腕をつかんだ時、洋介はキョトンとした顔をしてから、今にも泣きそうな顔をして、気が付かなくてゴメンねと、ただ一言そう言って抵抗しようとも、やめてとも言わなかった。

 

 その意味が分からなくて、それが余裕に思えてひたすら癇に障って、憐れまれてるようで悔しくて、私たちの行動はどんどんエスカレートしていき、小さな洋介は日に日にボロボロなっていった。

 

 

 

 こんな事したくない、でもやめられないよ、どこかに行ってよ!悔しいよ!どうして私がこんな目に合わなくちゃいけないの!?

 

 

 

 全然すっきり考えられなくなった頭で、やめなくちゃ、やめなくちゃと思ってもやめられないまま、そして決定的に私たちは間違えてしまった。

 

 

 麗ちゃんのお父さんと父様には何とか隠し通して、いつもの道場で練習をしていた。何をやってもうまくいかなくて、叱られる私たち。そしてそんな時に珍しく、 麗ちゃんのお父さんにまで褒められた洋介を見た瞬間抑えられなくなった。

 

 ほとんど同じタイミングだったと思う。気が付いたら渾身の力で竹刀を振りおろしていて、目の前の悪鬼のような表情でゴム槍を振りおろしている麗ちゃんと目があった。

 きっとまったく同じような顔をしているんだろうなと、思った次の瞬間に訪れた苦痛に満ちた悲鳴。

 感触の甘美さと絶望は、きっと一生私の手に残るだろう。

 

 気が付いたら初めて父様達に本気で殴られて、座り込んで泣いている私たち。そんな私たちを抱きしめながら私たちのせいじゃないと泣きながら訴える洋介。

 底なしの沼にはまり込んだような感覚が、絶望なんだと初めて理解しながら、涙でかすむ視界のなかで、ここは安心できるんだと、強くそう思った。

 

 

 

 こうしてゴールデンウィークいっぱい私と麗ちゃんは当たり散らし、無気力になり、そんな自分を否定し続けた。

 武道場で洋介を痛めつけた後に何があったのかはわからないけれど、気が付いたら洋介と母様と、貴理子さんと私たち四人で残りの二日を一日中一緒に過ごしていた。

 まぁ洋介はたまに追い出されたり、ご飯を作らされたりとこき使われていたけれど・・・。

 

 そのあと、母様たちは、まだ足りなそうだ!、と言うなりもう一週間学校にも行かずに、24時間私と麗ちゃんはずっと誰かに抱っこされ続けた。

 怒って、泣いて、話して、励まされて、また怒って。そんなことを一週間学校をサボって繰り返した。

 

 

 そして手を貸そうか聞いてくる洋介に、自分たちで頑張るといえるくらいに立ち直った私たちが今ここに立っている。貴理子さんと母様は、一言も言わずに一緒に父さま達に謝ってくれた。

 洋介はどうして私たちが悪くなくて、どうしてアレがあんなことをしたのかいろいろ教えてくれたけれど、正直その中で私が納得した言葉は、洋介が映画かなにかから引っ張り出してきた一つだけだった。

 

 

「学校で、みんなの前で、そんな中で取り上げられた『自分』は、同じように『みんなの前で』取り戻されなければ取り戻せない」

 

 

 一週間以上かけて、なんとか私と麗ちゃんは、欠けてしまった「自分」を見つけることができたのだ。見つけた『自分』は取り戻さなければならない。非の打ち所がないほど正しいと思った。

 

 

 すくむ足を叱咤して学校に戻って、友達に皆勤賞を取り逃してしまったよと話しながら、あっけないほど簡単に日常に私と麗ちゃんに戻っていった。嫌がらせも同じように戻ってきた。

 すぐにでも叩きのめしてしまいたかったけれど、これ以上父さま達や洋介に迷惑はかけられない。

 

 だからこそ学年中にこの事の噂が広まるのを、問題の表面化を待っていた。

 

 

 

 

「君が私たちと険悪な雰囲気になると、ちょっと戸惑っているのは気が付いていた。だから何か言いたいことがあるのだろうと、私たちも特に強く嫌がらずに話を聞いてきた」

 嘘だ。洋介に指摘されるまで気が付かなかったし、そんな事ほとんど気にならない。

 

「でもさ・・・あんたのやり取りさ、何も変わってないじゃない?一番最初から『おいブス!どこ行くんだよ!』・・・何なのこれ、意味わかんないんだけど、もう五回は聞いたわよ?」

 

 たぶん考えていた場面とかけ離れたからだろう、言われた彼は口をパクパクと動かすが、言葉が出てこない。

 

 

「お、お前らたけるくんに逆らっていいと思ってんのかよ!」

 

 ペースを乱されているのを感じたのか、声を荒げることで威圧しようとして来る。

 

「あ、それと・・・名前わかんないんだけどそこの二人。いちいち触ろうとして来るのやめてくれない、キモいんだけど?」

 

「じ、じいしきかじょーなんだよ、ブス!」

「そ、そーだブス!誰がお前なんか触るか、ブス!・・・このブス!」

 

 ちらちらと、二人組は周りの視線を気にしてから、顔を真っ赤にしてまくし立てる。そんな二人を鼻で笑う麗ちゃん。

 

 「そこのめんどくさいのはどういうつもりか知らないけど。わかりやすいのよ、あんたたちは、女子はみんな気が付いてるわよ?階段でずっと待ってスカートの中覗こうとしたり、ぶつかって胸触ろうとしたり・・・いい加減にしてよね」

 

 

 キモイよね~、私もスカート覗かれた、ちかんよ、ちかん!サイッテー、そんな言葉が決して小さくない声で聞こえてくる。

 

「う、うるせっ!!外野は黙ってろよ!」

 

 

 そう怒鳴る声にも、もはや嘲るような笑い声しか返ってこない。

 彼らのやり取りはもはや、死ねやキモいとか、消えればいいやあんたが消えろとか、決定的なそれしか聞こえてこない。関係修復なんて無理だろう。

 

 周りの空気にあてられた麗ちゃんは、二人と言い合いをしている。だけれども、これだけ騒げばそのうち先生もやってくる。

 

 

「それで、たける君だったかな?」

 

「・・・・・・」

 

「答えないんだね。君は、何がしたかったのかな?」

 

 彼は言わない。

 

「黙っててもなにも始まらないし」

 麗ちゃんもイライラしてる。

 

「私たちは待ったよね?何回も何回も何回も、同じ話をされて・・・傷つく事を言われて」

 

 彼と子分は自分が責められるような、こんな状況になったことがないんだろう。

 周囲みんなが監視カメラみたいで、自分のことを笑うためだけに設置されてるみたいなそんな最悪な感覚(この間までの私地にみたいな)を感じたことがなかったんだろう。

 

「もう一回言うよ?私と冴子ちゃんが、どこで、誰と、何をしようと・・・」

 

 目の前から目をそらさずに、少し声の震えている麗ちゃんの、震えている手を持つと、ビクりと緊張が走った。

 私もいるよと、念じながら手をギュッと握る。

 

 手を握った時に、私の手もこわばっていたことに気が付いた。きっと麗ちゃんも気が付いた。慰める側も慰められる側も震えていることに、ちょっと面白いと感じた。

 

 体から少し緊張の抜けた麗ちゃんは、心の底から、私の思いも載せて、静かに吠えた。

 

 

私たちが何をしていようと(私たちの)あんたらには関係ないでしょ(名前を返せ)!!」

 

 

 

 

 

 

 それから何が起こったかはよく覚えていない。

 

「よく頑張ったね、怖かったよね、偉かったよ・・・あとは全部僕がどうにかするよ」

 

 洋介のそんな声を聴いた覚えはある。

 ただ気が付いたら屋上で、麗ちゃんと二人して洋介に縋り付いて泣いていて。笑っている洋介をポカポカと殴り、いっぱい笑って、お弁当を食べて、授業を受けて家に帰って三人で一つのベッドに入って眠った。

 

 

 

 

 

 あぁ、一つだけ間違えたかもしれない。

 私は麗ちゃんが変わったなと思っていたけれど、私も麗ちゃんも、洋介もすっごく変わって、なんにも変わってない。

 変わったんだとしたらそれはきっと、ひとりから三人に変わったんだ。それぞれに合わせて、それぞれが合わせて。何か離れがたい何かに。

 

 ずっと三人でいたし、これからもずっと三人でいる。

 

 誰もいなくならない予感がする?

 違う、離れられるわけがない。

 

 嫌なところも全部見せあった親友と、嫌なところも全部受け止めてくれる男の子。

 

 増えたりしたって、減りはしない。

 

 

 

         百年経ったって、私たちは一緒にいる。

 

 

 

 

 

 

 




 
 というわけで麗ちゃんたちがやたら饒舌だったりするのは軽いPTSDからの勇気づけの行為です。身体的接触が多くなる、噛みつき、抓る、頭突き、蹴る、退行。典型的なストレス反応です。そのほかこの二人には軽いチックと思考能力の低下がみられます。
 不合理な出来事に会うと大人でも子供でも大きなストレスになり、PTSDになることもあります。ヤクザのタカリにあった大人の男性も上記行動と全く同じ反応が出たケースも存在します。

 子供は大人より一つ一つの出来事の意味が濃いです。そしてどこかで書いたように、トライ&エラーの状態ですから一度有効だと判断した行為は常に使い続けます。
 大人が意味不明と思う行為も、子供には完璧に理論だっているわけです。
 もしあなたが親でそれが間違っていると思うならば『計算式』を正してあげなければ、大概の場合なんの解決策にもならないのです。そしてえてして子供とは数学を嫌う傾向にあります。
 これこそが子育ての一番つらいところじゃないかな~(たぶんメイビー)

 そしてこのケースを見ればわかるように、たまったストレスは気安い(決して親しいという意味だけではない、自分より弱いという場合もある)と感じる相手に自然と出てしまう事なのです。中間管理職が部下に時に無意味に理不尽なのと同じです。長男や長女が悪魔のような表情で妹や弟やペットに爪を立てているのと全く同じ反応です。
 これらは一概に必ずしも叱るべきことではありません。時にストレッサーと乖離したり、向き合うだけの強さを得るまで受け止めて上げる必要もあるわけです(とはいっても全部受け止めるのは大変なので、持ち回りで受け止めたり、半分くらい受け止めればいいのです)。

 というかどう考えてもこの状態の麗ちゃんと冴子ちゃんにビンタする気にならないでしょ?いじめ被害者の美少女がストレスで訳も分からず、はけ口を探している。男ならドドンと受け止めて上げてください。超痛いです、未だに跡が残ってるのもあります。ですがそれが彼女らの心の傷の深さなのです。

 無理だと思ったら転校してしまって、いっそ友達ができるまで親も学校に行くのもアリじゃないですか?(ただしこの時期は退行していて再形成段階ですから幼くなっています、子供の言いたいことしたい事を先回りしては『絶対とは言いませんが』しないべきです)


-----------------------------------
              『 ☆ 結 論 ☆ 』

 なんにせよ、これで書きたいこともかけたし、二人がベタ惚れになった事にも説明がつく、うははは~。



 まぁ何が書きたかったかというと、いじめを受けてて自分がどんどん嫌な奴になっていくあなた。原因はあなたにありません。あなたに必要なのは『助け』です。自己救済はとてもしんどいです。電話相談だけでもしてみてはどうでしょう?

 彼らはどんなアホな事でも聞いてくれます。日記にしゃべりかけるみたいな感覚で、とりあえず始めてみませんか?



 いじめを受けたことがあって、今はいじめをしちゃってるなと思ってるあなた、いじめは犯罪です。今のうちに治しましょうよ、あなたの責任ではありません、若い頃の暴行、セクハラの被害者の加害者転向率は四割を超えています。
              あなたはPTSDなのです。
 今すぐ日記にしゃべりかけましょうよ?あんなやつらにあなたが鳴る必要は無いんです。




 そして軽い気持ちで「ハブる」とか「締める」とか「いじる」とか言ってるそこのきさん。


            「おどれ大概にせえよ?」


 きさんはクソ度戯けやからやった事は三秒後には忘れとるかもしれんが、俺らは四十年たっとったってかけらも忘れられん。十年は夢にまで見る。
 きさんのそのクソ軽率なくだらん行為が、人ひとりの名前を奪って、鏡を見る事すらできんようにさせて、上を向いて歩く事もできないようにさせて、人生をめちゃくちゃにしよるんじゃ。
 
 きさんらのような卑劣なクソ野郎を畜生いうんじゃ、反省せい!

 
 あ、書き忘れた!
 追記・ここで登場した合田武(アイダ タケル)君はそれほど邪悪な存在ではありません。

 可愛い子がいる
    ↓
 話しかけたいけれどなんていえば良いかわからない(要求表現がガタイのせいでフィジカルに強気で行けば何でも手に入った。そのためコミュ症・大体の場合親の責任)
    ↓
 子分に唆される+最初の呼び止め方で相手が自分の近くから動けなかった(そのためこの方法が有効であると無意識に判断)
    ↓
 超絶拒否られて自信喪失(弱PTSD気味)

 という流れです。ほとんどセリフが無いのは無害だと思ってた欲しい物に、初めての反抗をされて自失茫然としていたからです。あわれこれからは女子に嫌われた上に反論も出来なかった、ノータリンとして灰色の学園生活が待っていますw
 こういうタイプは絡んでこなければ別に嫌いじゃありません。リーダーシップそれなりに取れますし、ある意味扱いやすいですしw
 あとはリカバリーできるかどうかですか、そこまでは私も責任持てません。書いてるのは私とはいえ自業自得ですので。
 さらに言えば今のところこれ以降の出演予定もありませんw

 さて、アメリカ行く前に一つ問題が片付いて、絆は深まった。しかしこれが本当の問題の露呈でして・・・。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。