立花くんのゾンビな日々   作:昼寝猫・

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SS『鎮魂的黄金体験』

 

 今、僕は今生最大の試練に向き合っているかもしれない。

 

 

「?なんでそんなとこで突っ立てるの、早くいこ?」

 

 あどけない顔で小首を傾げる、珍しくツーサイドアップ(ツインテール)に纏めた美少女。

 旅館備え付けの安っぽい浴衣に赤スリッパ姿でも、宮本麗の溌剌とした少女らしい魅力はみじんも失われていない。

 

 はは、無茶をおっしゃる・・・。

 

 

「麗ちゃん、まだこんなところにいたの?・・・あれ、洋介君も?」

 

 同じくツーサイドアップにした冴子ちゃん。二人ともかわいいのは良いのだが、そのこと自体が僕への試練となっている事を、全く理解していてくれない。

 ただひたすらに友達との温泉を楽しみにしているのだろう。ここの風呂は広めで、マナー違反ではあるが少しくらいなら泳げる広さだと聞いている。お風呂も水泳も好きな麗ちゃんならひときわ楽しみなのだろう。

 その広い(・・)というのが大問題なんだけどね・・・!!

 

 

 

「あ、三人ともこんなところにいた~!早く早く~!」

 

 

かあさん、押すな!というか息子の葛藤に気が付いてください!

 

 ・・・貴理子さんなにニヤニヤしながら見てるんですか、見せモンじゃない・・・その卑猥な手つきをやめろ!!

 

 

 

 

 

 

 

             時は9月、場所は別府。

 

 

 

 

 いったい誰だ、高級旅館に家族風呂なんて作った奴!!

 

 

 

 

 

 

 

 事の発端は、僕達が通っている小学校で創立記念日と振替休日がよくわからんくらい重なり、合わせて五連休くらいになってしまった事にある。

 

 それ自体はどの学生もそうであるように、喜ばしいことだったし、それならどこか旅行にでも行こう!と貴理子さんの提案も、別に不自然な事ではなかった。

 メンバーは貴理子さん、母、冴子ちゃん、麗ちゃんと僕だ。

 

 僕と冴子ちゃんと麗ちゃんが遊ぶようになって半年。そろそろ家族ぐるみで旅行にでも行って親交を深めよう。まあそういう事なのだろう。

 

 

 どうせならと子供たちを初の温泉旅行として、日本人の想像する正に温泉街な感じ(私見)、別府温泉街にしたのも別に悪いことじゃあなかった。

 僕は前の時から温泉は好きだったし、久しぶりの地獄蒸しなんかを期待しながら何をしようか相談し合いながら待っていた。

 

 それ自体は問題なかったんだ・・・「よくよく考えれば日程の都合上、男親は来れない」という大問題を除いては・・・!

 

 

 

 朝早くに電車で移動し、昼間に旅館に荷物を全て置いてから温泉街を歩き、ご当地グルメに舌鼓を打つ。

 

 冴子ちゃんも麗ちゃんもそこら中から吹き出す湯気にキャッキャッとはしゃぎまわっていた。女性陣はお土産屋さんで売っていた、青に白抜きの花をあしらった浴衣を着て赤下駄を履き、店を冷やかしながらカラコロと踏み鳴らしていた。

 

 

 僕は、前に僕がこれくらいだった時に少し下火にはなっていたが流行っていた、富士フィルムのチェキというポラロイドカメラのminiをもってきていた。

フィルムならではの味が好きで、色々写真を取ろうと思って持ってきていたものだ。

 

 大学時代の僕はネオクラッシック使いだったのだが、久々に宣伝をやっており、今と同じ年頃の頃にはまったな~とか思い、父にねだったものだ。

 

 

 小学生には少し大きめなので、普段使いに周りからはかなり不評だったのだが・・・これも温泉パワーなのだろうか?

 一枚撮ると、出てきた写真に母と貴理子さん、麗ちゃんと冴子ちゃんはまさに群がるように集まってきた・・・女の子はプリクラとか写メとか・・・ほんと大好きだよね。

 あれよあれよという間に愛用のチェキは奪い取られ、その後宿に帰るまでの僕の仕事は印刷紙の入れ替えであった・・・観光地あるある。

 

 

 その日はそんなことがしばらく続き、満足いくまで遊び倒し、くたくたになって旅館に帰った。

 女将から温泉の準備が出来ていると聞いた僕は、喜び勇んで温泉へ行こうと向かうと、ニコニコした母とニヤニヤした貴理子さんに止められた。

 

 そしてこう告げられたのだ。

 

 

 

 

 

「内緒にしてたんだけど洋介ちゃん、家族風呂の予約取ってあるのよ~?みんなで入りましょ!」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・え?

 

 

「だって僕は・・・」

「別に低学年の小学生がお風呂に入ったって問題ないわよ?」

 

 じゃあそのにやけをやめろ。

 

「お父さんたちもいないし、洋介ちゃんだけ別に入るのも微妙じゃない?だからみんなに聞いてみたんだけど、気にしないみたいだし・・・ね、別に構わないでしょ?」

 

「・・・・・・」

 

 冴子ちゃんも麗ちゃんも、何を気にしてるんだろう?という顔をしている・・・それはそうだ。いくら女の子の方が早熟とはいえ、多少弟のように感じている親しい友達相手に、羞恥心を感じるほどの歳ではまだない。

 

「え、嫌なの?」と少し不安そうな顔までし始めてしまった・・・・・・だめだ・・・!ここでごねてはせっかくの楽しい旅行の空気が悪くなってしまう・・・。

 

 

 

 

 母は美人だ。もちろん貴理子さんも美人だし、二人ともまだまだ若い。その二人と風呂に入るというのは中々に恥ずかしい。

 だがまぁそんなことは母で慣れている。そこそこ慣れているし、これくらいの年の男の子が一緒に入るのを嫌がることは珍しくない。

 

 実際、ニヤニヤしている貴理子さんも、いつも大人っぽい対応している僕があたふたするところを見たいだけだろう。

 だが問題は二人ではない・・・!

 

 

 冴子ちゃんと初めて会ってから既に一年とちょっと・・・麗ちゃんとは半年くらい。

 

 認めよう、通算三十歳近い僕は冴子ちゃんにかなり惹かれている・・・麗ちゃんにもそれなりに惹かれてしまっている。

 

 相当に歌舞いた存在になってしまった僕の、割と破天荒な振る舞いや言動。年齢と合わないような考え方や思考にも、一生懸命合わせてくれる。

 それに冴子ちゃんに至っては、僕よりも五歩も七歩も先を行っている唯一の存在だ。

 

 同じ理由で彼女は僕に惹かれた部分があるのだろうけれど・・・とにかく僕達はお互いの存在が自らの孤高性を薄めてくれる存在なのだ。

 彼女たちは胸の内を開ける唯一の同い年といえる。僕だって不安がないわけじゃないのだ。

 

 

 しかしだ・・・だからこそまずいのだ・・・!

 

 

 何がマズイって、僕としては彼女たちにフィリアを感じていると思っているけれど、もし仮に万が一にでも俗な方の

 

 

               『エロース』

 

 

 

 だった場合・・・僕は一体・・・!!

 

 

 

 そう、僕はいままでずっと避けていたんだ・・・。

 認めるよ、僕は彼女たちに惹かれた際に、精神的な安寧を得られるからだと納得しようとしていた。

 しかし彼女たちに最初に会った時に感じた、あの衝動が『エロース』じゃないなんて誰が言えるだろうか!?

 

 ここでもし僕が『ロリコン』だなんてことになったら・・・僕は死ぬしかないだろう。

 

 

 だから僕の背中を押さないで!やめて、家族風呂に連れて行かないで!

 

 

 

 

 

       オレのそばに近寄るな――――――――――――ッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんなに嫌がってたのに、お風呂から上がったら、なんであんなに上機嫌だったのかしら?」

 

「さ、さぁ?わたしも面白がってやっちゃった感があるし、脱衣所での悲壮な顔は正直ミスったと思ったけど・・・まるで、娘をあやすお父さんみたいに背中洗ったり、髪洗ったりしてたわね・・・。

 なんだか長年不安に思っていたことが解決して、『新しいパンツをはいたばかりの正月元旦みたいに爽やか』な顔をしてたわね・・・」

 

「??? なぁに貴理ちゃん、その変な例え?」

 

「え?・・・いま急に頭に浮かんできたのよね・・・なんだか言わなきゃいけない気がして・・・」

 

「?  変な貴理ちゃん」

 

 

 

 

 

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