「花法套子!華やかな技など必要ない、武術は実践的でこそ武術なのだ!!」
・・・・・・・・・麗ちゃんが壊れた。
「れ、麗・・・?どうしたんだ、いったい?」
いつもダンディーな麗ちゃんのパパのサングラスがずり落ちかけている。茫然と問いかけるその口調に、いつもの威厳は欠片も見受けるられない。
「パパ!私は気が付いたのよ!武に華やかさなど無用!琢磨される磨き抜かれた凄惨たる技々こそが、真に必要とされるべきなんだってことに!」
ここは僕らがいつも武術の練習をしている武道場だ。
今日も学校が終わり、家に荷物を置いて練習に来て、いざ始めようかとアップを始めたところで麗ちゃんが急に叫んだのだ。
ある程度真理と言えば真理なのだが、急に主張し始めた麗ちゃんに僕、冴子ちゃん、健吾さんとそして麗ちゃんのパパはどう反応していいのか全く分からないでいる。
冴子ちゃんと健吾さんは竹刀を、僕は短槍と盾を手に固まってしまっている。麗ちゃんのパパなんて手に力が入らないようで、今にも槍を落としてしまいそうだ。
そんな僕らを他所に、ゴム先の十字槍を立て、ふんすと息巻きながら目を輝かせ仁王立ちする麗ちゃん。
あんまりと言えば、あんまりな光景だ・・・。
ほら、なんか銃口を前にしても不敵に笑っていたとか言われてる、健吾さんですら目を見開いて固まっちゃってるよ・・・。
「・・・おじさん、本当に教えてるのは宝蔵院槍術なんですよね?!なんかそのうち『神槍麗』とか呼ばれそうな雰囲気出してるんですけど・・・!?(ヒソヒソ)」
「ば、馬鹿を言うな小僧!俺は八極大槍なんて齧ったこと無いし、ましてや教えてなんてない!(ヒソヒソ)」
「本当かい?なんだかそのうち「无二打」の極意に達しそうな勢いだよ?(ヒソヒソ)」
「あ、父上・・・なんか独特な腰の落とし方をしてます!(ヒソヒソ)」
「馬歩・・・完全に決まりじゃないですか、パパさん(ヒソヒソ)」
「お前にパパと言われる筋合いは・・・!(ヒソヒソ)」
「おじさま、今はそんな事どうでもいいでしょう、そんな事より麗ちゃんが・・・」
「そんな事とは・・!」
「それにしても一体何が麗ちゃんをあんなことにしたんだろうね・・・洋介君心当たりは?」
「さ、さぁ・・・?」
その日一日、不敵な笑みで槍を扱く麗ちゃんに圧倒された僕らは、遠巻きに眺めるほかなかった。集まってヒソヒソと相談する僕らなど目もくれず、ひたすらに槍を繰り出す。
内払、外払い、突きを、ただひたすらに繰り返す。
その後もしばらくの間麗ちゃんはそんな調子で、武道場では何とも言えない空気が流れ続けた。
のちに麗ちゃんの部屋から、僕の部屋から勝手に持って行ったと思われる『拳児』全21巻が発見された。
ぜひいつか『拳児』と『史上最強の弟子ケンイチ』のクロスでSSを書きたい。