立花くんのゾンビな日々   作:昼寝猫・

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SS『ガンレンジ』

 パシュ、カシュン!・・・パシュ、カシュン!・・・パシュ、カシュン!

 

 あたりに、奥行400mあるコンクリート造りの殺風景な部屋にそんな音が響く。

 

 部屋には三メートル毎に、防弾のポリカーボネイト製の蓋で守られたLED照明が埋め込まれている。今は半分ほどしか点けられていない故に薄暗いが、昼間のように明るくも出来るだろう。

 

 端にある、入口の隣には金網と強固な扉で仕切られた部屋があり、その中には多くの工具を収納した作業台と、8つ鈍色のロッカーが並べられている。

 壁付けされた、突起、キーモッド、ピカティニーレール、M-Lockシステムなどが設けられた大規模なウェポンラックも整備されているが、今はまだ全くと言っていいほど何も無い状態にある。

 

 そのすぐ目の前には簡単な仕切りと台があり、そこにはSurefire社製の高性能耳栓であるEARProEP3を着け、その上からさらに電気的減音機能の付いたHoward Leight社の ヘッドホン型の防音装置、Impact Sportを付けた少年が、5メートル先の紙標的に向けて小口径拳銃を撃っていた。

 

 室内の、それも全面コンクリート造りの部屋では、銃声が乱反響を起こし、耳に重大な障害を残しかねない。そのために少年は二重に耳を保護しているのだ。

 

 

 

 もっとも少年が撃っている銃はSturmruger社のMk2にサイレンサー(注・サプレッサーで、減音を主目的としたものを指す)を付けたものであるため、耳栓を着ける必要もないかもしれない。

 

 パシュ、カシュン!・・・パシュ、カシュン!・・・パシュ、カシュン!

 

 

 減音された銃声と、ブローバックする際の作動音だけが一定間隔であたりにコダマする。

 かなり高品質なサイレンサーを使用しているためか、もしかすると作動音の方が大きな音を出しているかもしれない。

 

 RugerMk2は22口径という小さな銃弾を発射する、代表的な小口径拳銃だ。

 シングルカーラムマガジンであるために銃把(グリップ)も小さく、スライドが無くボルトだけが後退(ブローバック)するために反動も少ない。競技用として開発されたために、造りもかなりしっかりとしていおり、高性能な銃である。。

 22口径の銃弾自体が廉価であることも相俟って、女性や子供に限らず、練習用として多くの人が愛用する銃でもある。

 

 

 ただでさえ発砲音の小さいRugerMk2にサイレンサーを着けているため、本当にわずかな音のみがあたりに響いている。

 それほどに小さな音にもかかわらず、しかしほかの銃を撃つ時に付け忘れないために、どの銃を撃つ時も少年は室内では二重に保護するようにしていた。

 

 

 何事も習慣漬ける事が大事なのだと、同じこの部屋で今日と同じ銃を撃っている最中にS&WM500 を父親に隣で撃たれ、あわや失聴しかけた少年は心得ていた。

 

 ・・・後に、三週間近い難聴を経験した少年の父親が、よりにもよって夫婦の寝台のマットレスの下から身に覚えのないエロ本を妻に発見され、壮絶な折檻を受けたというような風の噂が流れたが、その事件とはなんの関連性も無いだろう。

 

 

 

 パシュ、カシュン!・・・パシュ、カシュン!・・・パシュ、カシュン!

 

 

 少年の撃つ、400メートル先の正面の壁は、入り口側より大きく、また真っ黒に塗られている。

 よく見ると天井と違い、少年の側から床が緩やかな傾斜になっており、正面の壁は反対より一メートルほど大きく作られている。かなり本格的なガンレンジの造りのようで、天井のターゲットを吊るす電動式のレール、下からの照明、排気設備、消火器、噴霧器、の他にも色々機能が作られており、いずれも防弾、耐火処置が施されている。

 

 

 ジーンズにTシャツというラフな格好の少年の周囲には、22口径の空薬莢が50個ばかり散乱しており、かなり長い間射撃にいそしんでいたことがわかる。

 

 台の上には同じく22口径ではあるがサイレンサーのついていない、S&W社の傑作拳銃M&Pの22口径型であるM&P22と、Marline社の傑作自動小銃であるModel60が置いてある。

 いずれの銃も赤色のファイバーオプティックフロントサイト(暗い場合でも見やすいように、蛍光色のガラスファイバーを使った照準器)に取り換えられている他は、元のままである。

 

 

 パシュ、カシュン!・・・パシュ、カシュン!・・・パシュ、カシュン!

 

 

 射撃場は地下に、分厚い鉄板、銅板、コンクリートで造られているため、地上からの音は何も通さない。よく見れば入口の扉も水密扉で作られており、非常時には超大規模パニックルームとしての運用が念頭に置かれていることがわかる。

 

 また網戸で仕切られたガンルームの一角には水や食料、その他防災具が大量にストックされている。

 ハズマットスーツ(NBC防護服)やガスマスク・・・それも極低温化や極高温化での活動を前提とされた空気ボンベつきのものまでストックされている。

 

 また銅板や鉄板で完全に部屋全体が隙間なく覆われているために、化学ガスや放射能による汚染の心配をする必要もなく、またコンクリートの塊のようなこの部屋は、耐震板を設けた上でさらに液体ジェルのプールに浮かぶ構造であるため、震度8程度の地震にすら対応できるように作られている。

 

 およそ起こってもらっては困るありとあらゆる事に金に糸目をつけずに作られた、現代日本で何を想定してるんだお前は!と突っ込みたくなるようなこの超違法建築部屋が、一般住宅の真下に備えられていることを、近隣住民が知る日が来ない事が願われる。

 

 

 パシュ、カシュン!・・・パシュ、カシュン!・・・パシュ、カシュン!

 

 

 そんな奇天烈な部屋の真ん中で、立花洋介は銃を撃ち続ける。

 

 

 ターゲットの目と喉、そして手足には二センチ大の穴のみが開いていた。

 


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