「猫は美しい女王になっても、ネズミを捕える事をやめない」
『断片と警句』~カール・ルートヴィヒ・ベルネ~
流石に色々と見て回っていたら疲れてしまったので、昨日はミラーさんが帰ると晩御飯を食べてとっとと寝てしまった。
家の中は、まだ見て回ってもいない。
飛行機に乗るのが久々というのもあったが、あんなに空港とは大きいものだっただろうか?大げさかもしれないけれど、お土産エリアなんて一生かかっても見終わらない気がした。
子供の体だと視点が低いとはいえ、圧倒されて、終始緊張してしまっていた。
まぁ疲れた一番大きな原因は少しでも、あのクソ高い飛行機代の元を取ろうと、眠いのを我慢して映画を見続けたからだろうが・・・。
「はい、洋介君おそようさん!」
キッチンでスクランブルエッグかなんかを作ってる母さんが、後ろを向いたまま機嫌よく挨拶をしてくれる。
「おはよう母さん・・・頭に響くからもうちょっと声量下げてくれる・・・?」
「まるで二日酔いのお父さんね~・・・シャキッとしなさいよ」
出来上がったベーコンとスクランブルエッグに、食パンを添えて持ってきてくれる母さん。
ぷんぷんと口で言っている。
シャキッとって、あなたのぽわぽわ声で言われてもね。
「ところで眠かったから十一時ってこと以外、なにも決めてないんだけどどうやって学校行けばいい?というか遠いの?」
「ええ~・・・、洋介ちゃんノープランにも程があるわよ?」
「だって眠かったんだもん」
今日だって、辛うじて目覚ましを時差合わせるの覚えてたから起きれたようなもので、無かったら爆睡してた自信がある。
時差十時間くらいだっけ?正直、まだ全然眠い。
「もん!とか言っちゃって。可愛いからって何やっても許されるわけじゃないのよ?」
心外である。
「将来高身長、ふとマッチョなイケメンになりたい僕としては、その発言は看過できない」
マイクタイソンもモハメドアリも、若い頃のガリガリより、円熟期の筋肉も脂肪もある太い方が絶対にカッコいい。やっぱり男は太くなくちゃ!
・・・え、ナジームハメド?彼は伝説だよ。復帰なんて無かった、いいね?
「洋介ちゃん、夢はベッドの上で見るものよ?」
「酷いよ・・・母さん」
両親ともあんまり身長高くないし、ちょっとそんな気はしてるんだよね・・・。
・・・。
「・・・で、結局どうやって行くの?」
「ああ、その事なんだけど洋介ちゃん」
自分とついでに僕の分のコーヒー(インスタントでない)を淹れていた母さんが
「クモさんとヒョウさんどっちが好き?」
満面の笑顔で、そう僕に尋ねた。
お父さんと学校の前で待っていると、急に動物の吠えるような声が聞こえた。
テレビで見た猛獣みたいなのだ。
とっても大きい音で、びっくりしてお父さんに抱き付いちゃった。お父さんもなんだかあたりをキョロキョロ見回している。
段々大きな音が近づいてきているような気がする。
私がここにいるのは、サクラさんの息子さんを案内するためだ。
昨日、急にお父さんからメールで、今日の予定を聞かれてびっくりしてしまった。
サクラさん・・・結婚しているのは知っていたけど、なんだかお母さんみたいな気がしててちょっとショックを受けてる私がいる。
今までも何回かヨースケの話は聞いていたけど、なんだかコミックヒーローのような、フェアリーテールの王子様のような彼の話に、変な話・・・ほんとうにいる子供のように感じてなかったからだ。
だから私は面白おかしく教えてもらうヨースケの話を、なんだかわくわくしながら聞いてきた。こんな人が本当にいたらいいな~って。
その、かっこいいお兄ちゃんが私にいるみたいな気がして。
でも昨日メールを貰った私は、急に夢から覚めたような。まるで冷たい水の中に突き落とされたような、そんな感じがした。
わたしはサクラさんの娘じゃない。
そんなことはわかってた。
さくらさんにはヨーイチローさんがいる。だから私のお母さんになることはない。
わかっていた。でももしかしたら私のお母さんも、サクラさんみたいに優しい人だったのかなと、そう一緒にいると思っちゃってたんだって、そう気づいた。
あり得ないってわかってたけど、お父さんとサクラさんが結婚したらいいな~って。
でもお父さんがお母さんを愛してたのを、私はよく知っている。
だって今でも、何か嬉しいことがあるたびに指輪を指で撫でてる。
他のお父さんたちがしてるようなのじゃなくて、もっと安っぽくて・・・いっつも弄ってるから色もくすんじゃってる指輪。
私が触っても冷たいそれは、お父さんが触るととっても温かそうで・・・なによりも綺麗な宝物に見えるから。
だからお父さんがあの冷たい指輪がそんなに熱くなるくらいに、お母さんが好きだったってよくわかる。
ほんとはサクラさんをお母さんって、呼んでみたいけど、そうしたらお父さんが悲しむ。
だからお母さんって言わない。
でも昨日ヨースケが
スーパーヒーローが、王子様が私の居場所を奪って行っちゃった。そんな気がしたんだ。
王子様なんて来なきゃいいのに。
お父さんはサプライズだったから、今まで私には言わなかったって。そういってた。
でももしかしたら私の気持ちに気が付いてたのかもしれない。
サクラさんが幸せそうにヨースケの事を話すときに、きっと無意識にそう思っちゃった私が少なからずいたことに。
嫌な子だな、私。
考えれば考えるほど、ヨースケなんて来なきゃいいのにって思ってしまう。本当に嫌な子だ、私。
そんなことを考えていた時に、何もかも吹っ飛ばしちゃうようなそれが聞こえてきたんだ。
「 !!!!」
考えてること全部を吹き飛ばしちゃうような、豹の大きな遠吠えと一緒に、黄色に黒い四角がチェック柄の影が、飛ぶように現れた。
すごい音を響かせながら跳ねるように現れた黄色い影は、甲高い音を立てながら半回転して、私たちの目の前で止まった。
私もお父さんも抱き合ったまま、一歩も動けなかった。
ディスカバリーチャンネルでしか見無いような、テレビの向こうの世界の、狩終えた後の湯気の上がりそうな熱くなった筋肉を冷ます、生々しい獣がそこにいた。
信じられない、目を疑うような光景に、ゴシゴシ目をこすってもう一度見ると、そこには
何が起きたのかよくわからなくて、思わず振り向くと私を抱きしめたまま、お父さんもまったく動けないでいる。
たっぷり十秒ほどしてから反対側の、不快気に唸る
私から見てもかわいい顔を真っ青にして、その子はガターの蓋を開けると、とても不快な音を立て始めた。
なぜだろう、でもその子を責める気に全然なれなかった。
「ふぅ~、間に合ったわね!まったく洋介ったらゆっくりご飯食べるから遅れそうだったじゃない!」
私の前に回された腕を見ると、ちょうど秒針が回りきって、十一時になったところだった。
窓が開くと、ベースボールの人が着けてるみたいなサングラスを、かっこよく上げるサクラさんがいた。
「ごめんなさい、時間は間に合ったかしら?」
なんていえばいいんだろう?
ジャガーみたいにギラギラと輝く瞳に、お父さんと私は思わず一歩下がってしまった。
やっちゃった!
そんな声が聞こえてきそうな顔をすると、ちょっと悩んだ顔をするサクラさん。
エイヤ!と掛け声をしながら扉を開けて出てくると、いつものロングスカートや長めの服ではなく、七分の黒いズボンに黒のVネックシャツの上から白いジャケットを着ている。腕にはおっきな時計をしてる。
「あ、ロレックスのサブマリン・・・」
ぽつりとお父さんが呟く。
コホンと咳払いをすると、腰に手を当てて人差し指を立てた右手を出して、今まで見た誰よりもチャーミングな、ドキッとするようなウインクをしながらこう言った。
「
彼女の後ろの黄色い獣が、満足げに唸り声を上げた気がした。
実はこのネタ思い立って、ジャガーF-type使おうと決めた翌日に、錦織圭さんが宣伝してましたwとんだ偶然もあるものだ。
時差
だいたい十五時間
ジャガーF-type
超カッコいい。セダン型も超カッコいい。合言葉は『
エンジン音なんかほんとに唸り声のよう。
ちなみに、さくらの乗ってるのはコンパチではない。
クモさん
ポルシェ918スパイダー。たぶん現在世界最高の性能の車じゃないかと。超カッコいい、超ほしい、超すげぇ・・・その分お値段もぶっ飛んでますがw
ロレックス・サブマリン(サブマリーナ)
~ナが表すように、男なら一度は憧れる最高にエレガントな女。腕に着けたら、もう浮気なんてできないとはうちの父親の言(持って無いのになんでわかるんだろう?)。
ガター
排水路の事。
~ウインク
サービス、サービスぅ!