「考えるな、感じろ!」
~
コンクリートの床に薄いマットレスを敷くと、折りたたまれたストックとバイポッドを広げ、ストックにクリアブルーのウレタンを張り付ける。
銃を持ったままマットレスに腹ばいになると、帽子を脱いで横に置き、両肘を地面について、私はストックを肩付けした。
マガジンを入れないまま、引ききった状態のボルトを開け閉めする。弾は入っていないが、動作は良い感じ。
ストックに目を落とすと、長さの変長とチークピースの昇降が出来るようなので、それも弄ってしまう。意外だけれど、子供の私より小さく調整してあったから、この銃を最後に使ったのは洋介なのだろう。
チークは高く、ストックは短くしてあった・・・なんだか引っかかる。
気を取り直して砂袋をストックとマットレスの間に置き、
風の音も、木の葉のざわめきも、全ての音が消え失せる。そしてそれは狙撃前にいつも感じる、胸の高鳴りをより強く感じさせる。
私の好きな音だ。
耳の保護が出来ていることを確認すると、イヤーマフを首にかけ、イヤーマフを片方外す。
「距離は?」
「500メートル」
「風」
「追い風で微風、風速・・・2」
打てば響くように答えてくれる静香。
静香も最初は嫌々していたけど、一緒にやるというところが少し楽しく感じているように思う。
医者の娘にこんな事を仕込んじゃったのは少し申し訳なく思うけど、なんだかんだ言いながら付き合ってくれるんだから仕方ないわよね?
「洋介、ライフリングは何?」
「
つまり
「とりあえず撃ってみるわ・・・
「25。頑張ってね」
警官の娘の前で
見た瞬間びっくりするような近未来的なボルトアクションライフルは、パパと洋介の会話を聞く限りレミントンM700のマッチカスタム。
頬付けしても機械油のツンとした匂いすらしない・・・むしろミントのような良い匂いのする、摩訶不思議な銃。
色々ついてるみたいだけど中身は22インチ銃身のトゥウェルブワンツイストで
それで
赤い点のついたセイフティーの上に着いてるボタンコンパスによると、南寄りの南南西だから、コリオリ力による影響は500mならあまり考えなくていい。
スコープからも草原の草が少し揺れているのが見えるが、これなら凪ぐかもしれない。
ターゲットはスチールターゲットだから、最悪目視確認は必要ない。当たれば金属音がする。
14倍率のスコープ越しに、塗ったばかりの真っ白な鉄板が見える。真ん中には黒く点が塗られている。このスコープではMilドットの半分だから0.1Mil・・・直径五センチくらいかしら?
「フゥゥ・・・」
息を吐きながらグッと銃を体に引き付ける。右手の人差し指はまだトリガーにはかけない。
ほぼ真横に標的があるからバイポッドの調整はいらないはず。引き付けた分だけ変わったチークピースとストックの位置を調節する。
ストックを抱え込むようにして砂袋を握りしめる左手。カーキ色の砂袋を握りしめたりゆるめたりしながら、ストックの高さを整えていく。
スコープには上下の調整ノブの手前側には小さなチューブが付いていて、その中には蛍光黄緑の液体で満たされ、空気の泡が一つ閉じ込められている。
この泡が真ん中のちょうど泡と同じ間隔の二つ線から外れていると銃本体が傾いているという事になるが、今は真ん中にある。
私は、こんな便利なものもあるんだなぁと思いながらも、すぐに使い方が分かった。
きっとそれはパパが教えてくれたことが身に着いてるせいだ。身についていることが実感できて、ちょっと嬉しいかも。
なぜコレの使い方がわかるのか?
それは狙撃をする時に絶対に気を付けないといけない事を、このインジケーターが示していると直感したからだ。
銃弾は撃針に叩かれ本体から発射される際、銃身の
そしてこの銃弾の回転というのは、ちょうど上方向のカーブボールのようにかかっている。
そのため実際の丸い弾丸が描く放物線よりも登頂点も到達点もはるかに高く長く、そして空気抵抗を出来るだけ受けずに、受け流しながら進んでいくのだ。
しかし、銃身の上方向にカーブしている故に、
そうなれば、銃身とスコープの横位置が一致しない以上の問題が出てきてしまう。
分かりにくいかもしれないけど、つまりこれは銃弾が野球と同じカーブ回転により普段より横にそれるだけでなく、登頂点が低くなり、弾着点が左右だけでなく上下にもずれてしまうってことよ・・・・・・と説明したら、洋介はしばらく信じていたわね。
なかなか可愛げのあるふくれっ面だったわ。
もちろん回転で空気を受け流す際に、左巻きか右巻きかによって多少違いは出るけれど、それは縦方向とはあんまり関係ない。
銃弾は弾の先端を中心に、コマのようにまわってジャイロ効果を得て安定した軌道を描いているのであって、上下には関係しない。
もちろんライフリングと銃弾の接触位置が変わって、回転率が変わるという事もあるけど、それは本当に微々たる変化ね。
ホントは、キャンティングをした際に銃身を中心に傾けていないため、銃身の傾きが変わってくることが問題になる。
これは銃弾が発射された際に放物線を描くため起こる事ね。元々スコープと銃身は水平に設置されていないから、スコープを中心に傾けるとスコープと銃身の傾きだけ倒した方向に着弾点がズレてしまう事になる。
指を半開きにした鋏のように重ねるとわかりやすいかしら?
一本をスコープに、もう一方を銃身に見立てて、スコープを地面と水平に保ったまま45度銃身を傾けたら、弾着点がどれだけズレるかがわかるわね。
ある程度射撃を身に着けたのなら、これさえクリア出来れば、馬鹿でも的に当てられるということ・・・それを何発で当てられるかは別としてね?
さて、後はスコープの調整だけね。
相当カスタムされているスコープらしく、陸軍出身のパパが教えてくれたメートル法準拠の再度フォーカスノブやイルミネーションノブまで付いたスコープが乗っている。
わざわざ「Custumed in Meter」とレーザー刻印されているところを見ると、エレベーションノブの細い赤い線はクリックで、太い白い線と文字は均等に着いていないから多分距離目盛だろう。
一々クリックで合わせていかなくていいように、銃、弾、射手、ゼロイン毎にカスタムされた距離目盛・・・ね。
この銃一丁にいくらかけたのやら・・・。
なんにせよ、せっかく面白い銃を貸してもらったのに、いきなり距離目盛を使ってしまっては面白くないわね・・・。
かと言ってゼロから全部合わせるのも面倒だし、後で治すのが大変だから、この状態から左右と上下を合わせてやってみましょう。
25mゼロと洋介は意地の悪い言い方をしたが、要するに600mゼロになっているという事。実際パラレックスノブの目盛も600mを指してる。
そして距離は500m・・・弾はM118だったわよね?
このスコープは1/8Milだから・・・
500メートルから600メートルでの落ち幅の違いは127.3センチだ。つまり
となる。
0.368クリックなんてできるわけないから、20クリックと気持ち上と言ったところね。
洋介は私と同じで右利きだから、乗り出し具合は気を着けなくていい。今まで見た感じ反動の制御はそこそこできてるから、私より弾は右上に行くだけ多分上と横に1クリック程度。
私はグリップから手を放し、
ノブを見ると、ほとんど距離目盛と合致している。
この距離目盛というのは今までしてきた計算をあらかじめしておいて、距離ごとにそのクリックの場所に入れてある線の事だ。
今みたいに計算すると時間もかかるし、20も50もクリックすると途中で何クリック目だったかを忘れてしまったりする。
そういうめんどくさいことを省ける便利なもので、こちらを使った方が楽なのだけれど使わなかった。だって、つまらないじゃない?
だから今回はわざとクリックで調整した。
それにこれこそ狙撃の醍醐味でもあるし、気分的に
もう一度呼吸をする。
いい感じに集中してきた。
薬室に弾が入っていない事をもう一度確認してから、マガジンを差し込む。狙撃の体勢を作って一度全身に力を入れてからゆっくりと力を抜く。
バイポッドが跳ね上がらないように、少し前に体を移動させ、バイポッドの前方向の遊びをなくす。こうすることで銃を撃った時にブローバックをバイボッドの後ろへの移動で多少殺せるからだ。
ボルトを前後させ薬室に弾を送る。少しボルトを後退させ、弾が装填されたのを確かめてから戻し、グリップを握る。
そしてもう一度砂袋を握りながらストックの位置を調整し、レティクルをスチールターゲットに被せ、照準を合わせる。気持ち左、気持ち高め。
目を閉じて3回深呼吸をする。
目を開けるとレティクルは狙ったところからズレていない。
体に力は入っていない、銃は完璧で照準も出来る事はやった。スコープ上に
トリガーに指をかけて、絞るように引く、その何もかもが遅く感じる刹那、先ほどの違和感が何だったのかに気が付いた。
そして何よりも
ドンと肩に蹴られたような衝撃が走り、レティクルがブレる。M118LRなら撃針が銃弾を叩いてから着弾までジャスト0.8秒。
銃弾は秒速870メートルから、段々と速度を落としながら飛んでいく。
そうこの銃は、まるで洋介を抱えてるみたいに感じるのだ。
そう気が付くとともにカーンとスチールターゲットが音を立てて揺れる。
「・・・・・・・・・流石だね」
洋介がそう呟くのが聞こえた。
まだまだ声変わり前の、かわいらしい声。
可愛く子供っぽくて、話していてリラックスする大人っぽさがあって。頭も良くて話に着いてこれる、唯一の男の子・・・。
銃弾はスチールターゲットに描かれた黒い点の中。
中心よりほんの少し右にズレているだけだった。
まぐれもここまで来ると運命的ね。
心臓がバクバクしてる。
顔もきっと赤い。
一瞬でカッと体が燃えそうなほど熱くなるが、頭は不思議と氷水に浸したように冷たい。狙撃する時のその冷静さを保ったまま、私はいたって冷静にたった数ヶ月の出会いを客観視することが出来た。
弟みたいに思って連れまわしているのだと思っていたけれど、よく考えれば洋介より私の頭の中に強く存在する男の子なんて一人もいない。
私の親友にも、パパにも気に入られている男の子。
頼りにならないかと思えば、意外なほどしっかりとしていて・・・お金持ちでもある。
なんで気が付かなかったんだろう?会って数ヶ月で、明日会えると解っていても
気が付いたら途端にダメになった。
洋介のにおいのする銃を持ったまま、動けないでいる。
一緒にいて楽しい子が、ふと
・・・・・・静香。鼻で笑っていたけど、私あなたの言っていた「ショタコン」になっちゃったかも・・・。
そして、それが嫌じゃない。
「あはっ、あはは」
急に笑いがこみあげてきた。
「あっはっはっはっはっ!!ふふ、あはは!!」
セイフティをかけると、その場に仰向けになってお腹を抱えながらひとしきり笑う。
その時に見えた洋介のキョトンとした顔。いろんな意味で私のツボだった。
もう、それが答えのようなもの。
「シャクだから、もう少し見極めるつもりだけど・・・覚悟してね洋介?」
そう言ってウインクを投げかると、戸惑ったその顔がもう・・・。
パパは「何だこいつ」みたいな目でこっちを見ているし、静香はよくわかんないと半笑いで首をかしげている。
なんだか女の子の影がいっぱいする洋介だけど、私も負ける気はない。
アクセサリーとカスタムパーツ
ggったら出ますが、要望があれば別途説明します。こんなもんに興味ある人がいるとも思えませんがw
あと撃ち方で間違ってるとこあったら、優しくスルーしてください。あんまりにも頓珍漢なこと言ってたらプギャーと言ってもらえれば、該当箇所調べて直します。
いくつか使ってないパーツアリますが、そのうち使うので説明は無しだよ!
あと銃の年代気にしてんのにパーツは良いのかよ!と思った方申し訳ありません。だいたい今2004年頃です。
洋介のにおいがする
フログルーブ(Frog lube)という金属製品のための潤滑剤です。百パーセントバイオ由来。そのうえ食品グレードなので食べられるという代物です、美味しくないですがw
通常の石油由来の潤滑剤を使うと匂いが取れなくなります。しかしこの潤滑剤はミントみたいな匂いがしますし、素手で触っても何の害もない。そのためハードボイルドでありがちな「銃のにおいの染みついた手」みたいなことにならないのです。
洋介は麗ちゃんに嫌がられたので、探しまくって見つけました。基本洗浄から潤滑からコーティングまでこれ一本で事足りるという魔法みたいな潤滑剤で、しかも潮風レジストという革新的すぎるブツ。
床巣は海に近いですから、まさにこの作品のためにあるような製品ですね。
ナイフとか金属製品何にでも使っているので洋介は、いつもこれのにおいがします。そして狙ってもいないのにミントっぽい匂いを嗅ぐたび洋介が思い出され、サブリミナルに好きになっていくヒロインたち。
まさに孔明の罠!
リカの想い
個人的にリカって恋愛割り切るタイプだと思うんですよね。打算でも付き合えちゃうみたいな? それが初恋でめっちゃ相性のいいタイプと会って、自分がやられちゃってると気が付いたら!!みたなコンセプトです。
首輪みたいなチョーカーしてるのに、全く飼いならされた感じのしない未来のリカさんは、なにかドラマがあってなびくというイメージが付かなかったのでこんな感じです。
表現しづらいのですが、年下で可愛いと思ってたら、包容力あるし甘えても受け止めてくれるし、かといって変に束縛しないし、一緒にいて楽しいのでなついちゃった気まぐれな猫。
マキたいので全然書いてませんが、初対面かなり相性よさそうに書いている(?)ハズです。のちに相性の良さは、別エピソードで書くつもりです。