立花くんのゾンビな日々   作:昼寝猫・

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「Si vis pacem, para bellum 汝、平穏を欲するなら。戦へ備えろ」
                       ~ラテン語の警句~




毒島邸にて

 それからしばらく「さえこ」、は口をきいてくれなかった。

 

 育ちがいいのだろう、完全にこちらから隠れるわけではないが、それでも年相応の恥ずかしがり方を見せた。少なくとも車に乗っている間は、何一つ話してくれなかったし、こちらを極力見ようとはしなかった。

 

 

 そうなってくると、こちらとしても面白くない。

 

 

 なんだよ、こっちは頼まれたからおとなな対応してやっているのに、といった具合に、余計に構いたくなってくる。体が子供になった弊害だろう、所々で俺は子供っぽい衝動がにじみ出てくる。けれど、それが普通なことなわけだし。ただでさえ僕は偏頭痛持ちだ、逆らってもストレスしか生じないわけだから僕はその衝動にある程度従って動くことにしている。その方が子供らしいと思われるしね。

 

 

 あ、この「俺」と「僕」の一人称なんだがすごくめんどくさい!歳が歳なわけで親にはさすがに「俺はやめなさい!」、と「僕」を強制されるから、外行きの一人称は「僕」なわけだが、頭の中では「俺」のままでいる・・・というわけにもいかずふとした拍子に、「俺」が口から出てしまいさらに矯正される。そのうち頭の中でも「僕」、と「俺」、がごっちゃになるようになり気持ちが悪いのだが、なんか慣れてしまった。

 

 そのうちどっちかで統一されるだろうし、ある意味「僕」になれば前世と区切りがつけられて、ちょど良いのではないだろうか?というのが今の気持ちだ。

 

 

 なんだか、どうでもいい話に脱線してしまったな。なんだったか・・・そう、問題は「さえこ」だ。

 

 結局車の中では会話一つすることができなかったわけだが、それは毒島邸(パトラッシュの飼い主みたいな名前の家族とかいないだろうな・・・?)についても同じだった。

 

 いい加減イラっとしてきたが、車が家についたというので降りてみるとなかなかに立派な家だった。

 

 

 

「すごいな・・・」

 

 

 

 この家小さな道場まで敷地内にあるよ・・・。町からは少し外れてるとはいえ、この面積を持っているという事は相当腕のいい道場主ということなんだろうか?

 

 

 

「はは、驚いたかい?この時代に道場を維持するってのは、なかなかに大変でね。数少ない自慢の一つさ」

 

「おみそれしました・・・?」

 

「おお、難しい言葉を知ってるね?」

 

 

 

 親父の方も見ると「うんうん」、と首を縦に振っているのでかなりの使い手なのだろう。

 

 前世で近所に住んでいた、30代の元自衛官で剣道四段全国大会準優勝経験者のママさんは、バカみたいに強いと評判だったが(実話)・・・健吾さんはどのくらい強いんだろう?

 

 同じくバイトで教えていた、高校一年生剣道二段、高校二年剣道三段とか、その塾の塾長剣道二段とか講師剣道四段(全部実話)とか。やたらと前世は剣道に縁があったが、いかんせん自分が振ったことが無いので、強さに関しては見当もつかない。

 

 

 

「・・・・・・とうさまはつよいんだ!」

 

 

 

 いろいろ考えていると、そんな声が聞こえてきた。

 

 あたりを見回してみると、健吾さんの後ろに隠れていた、さえこちゃんが誇らしそうな顔で胸を張っていた・・・せめて足の陰から体全体を出してから胸張ろうぜ?かわいいんだけどさ。

 

 

 健吾さんに頭をわしわしと撫でられながら、誇らしげにしているさえこちゃんが「わたしもしょうらいとうさまみたいにつよくなる!」、とけなげなことを言っている。それをほほえましく思いながらも、少しいたずら心が湧いた。

 

 

 

「えー、そんなところに隠れて出てこなかったのに、ほんとに強くなれるの~?」

 

「む?」

 

「あらあら」

 

 

 

 さえこちゃんはぽかんとした表情で、何が起きたかわからないといった様子だ。ちょっとまずったかな?と思い健吾さんの方を見てみると「かまわん」、といった風にうなずいてくれたので自重しないことにした。

 

 

 

「な、なるもん!」

 

「ほんとに~?」

 

「なるったらなる!」

 

「でも、まだ隠れてるしな~・・・」

 

「う、うう~!!!!」

 

 

 

 さえこちゃんは、なんと言い返したらいいか分からなくなってしまったらしく、健吾さんの足に顔を埋めうーうー唸り始める。なにあれかわいい。

 

 

 

「ほらさえ、あんな事を言わせておいていいのか?」

 

「と、とうさま~・・・」

 

「毒島の女ならあんな兵六玉くらいがつんとぶん殴ってきなさい!」

 

 

 

 あの、もしもし?ひどくない?さっき頷いて許可出したの、あんただよね?

 

あ、あれ?母さんもそこで頷くの?だってさすがにあんだけ避けられると傷つくじゃない?俺に味方はいないわけ?

 

 

 

「男の子は傷ついて強くなるのよ、我慢なさい」

 

「男女差別だ!」

 

「違うわよ」

 

「?」

 

「これは区別よ?」

 

「!?」

 

 

 

 なんだか知らないけれど、世の中の真理に行き当たった気がする。いや、そんなバカな。

 

 

 

「お、おい。ひょうろくだま!」

 

 

 

 理不尽な世界の真理らしき定理に頭を悩ませていると、ふいに声がかかった。ふと顔をあ理げると、なにやら決心した顔のさえこちゃんが目の前にいた。

 

 

 

「あ、隠れてたのが出てきた」

 

「はじめからかくれてなんかないもん!」

 

「え~・・・隠れてたじゃん」

 

「かくれてないの!」

 

「ふ~ん・・・」

 

「・・・かくれてない!」

 

「ホントは怖かったんじゃないの?」

 

「そんなことないもん!」

 

「ふ~ん・・・」

 

「ほんとなんだよ、ほんとなんだからね!?」

 

 

 

 もはや、怒りで恥ずかしさがどこかへ飛んで行ってしまったようだ。今にも噛みついてきそうな勢いだ。

 

 

 

「ほんとに~?」

 

 

 

 ジトッとした目でさえこちゃんを見つめてみるが、さえこちゃんはほんとに!と怒鳴ると、頬を膨らましながらこちらを睨みつける。

 

 

 

「じゃあ・・・僕と遊んでよ」

 

「・・・・・・ふえ?」

 

「やっぱり怖いんだ!」

 

「そ、そんなことないよ!」

 

「じゃあ遊んべるよね?」

 

「・・・そ、それくらい・・・!」

 

 

 

 話についていけず急に心細くなったのか、健吾さんの方をさえこちゃんは見るが、健吾さんは頷くばかりで助けを出そうとしていない。

 

 引っ込みがつかなくなったさえこちゃんは、できるもん!と連呼しながら僕の手を取ると、その日いちにち家の案内をしてくれた。終わるころには俺にも慣れたのか、普通に笑ってくれるようになったのはうれしかった。

 

 方法は少々強引だったが、見事な手腕だったと健吾さんもほめてくれた。母さんは、もう少し優しい方法を覚えてほしいけど、男の子はやんちゃなほうがかわいいしどうしようかしら?とたずねてきた。俺が知るかよ。

 

 

 

 あ、それと表札の『毒島』見て思い出したんたんだけどさ

 

 

 

「そういえばさえ、兵六玉は殴らなくていいのか?」

 

「あ、忘れてましたとおさま・・・えいっ!!」

 

「うぎゃ!なに急にどうしたの!?」

 

「忘れてたの」

 

「何が!?」

 

 

 

 彼女の名前「毒島冴子」って漢字で書くらしいんだけど・・・

 

 

 

「これからもうちのさえと遊んでやってくれ」

 

「とおさま、ちがいます!わたしがよーすけで遊んでやるのです!」

 

「・・・はっはっはっ、そうかそうか。では洋介君、うちのさえにもて遊ばれてやってくれ!」

 

「ひっでえ・・・」

 

 

 

 これハイスクールオブザデッドの世界だは。




 というわけで主人公、ついに完全にどこの世界だか思い出しました。

 こっからが本当の勝負というわけですw



パトラッシュの飼い主みたいな名前の家族
 Waffle,Waffle!

理不尽な世界の真理らしき定理
 高校の先生の言葉。割と真実だと思う

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