立花くんのゾンビな日々   作:昼寝猫・

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「狂おしいほどに、我が家を想う事を、断つことはできない」
                ~成龍・映画『大将小兵』より~


原風景、一つに在らず

ガラガラ

 

 

「めんそーれ!」

 

「おっちゃん、ソーキそば!それからてびちとラフテーとなかみ(モツ)ね」

 

「わらび(ぼうず)、どんだけシシ(肉)好きさー!ソーキ、スバ、てびち、ラフテー、なかみ!」

 

「あい~」

 

「わらび、うやんちゃー(両親)はどうしたさ~?」

 

「今日はひとりさ~」

 

「アイエナー!あっはっは、今日もまた一人!わらびもでーぶ、ウチナー(沖縄)にもウチナーグチ(沖縄弁)慣れてきたさ~」

 

「最初はなにゆうちょるんか、なーんもわからんかったきに」

 

「・・・それはウチナーグチ違うさ~」

 

「皮肉さ~」

 

「皮肉か~」

 

 

 近所に飯屋があると、本当に助かる。

特に内地に渡る前の最後の仕上げということもあり、師匠の訓練が厳しくなったため、とかく腹が減るのだ・・・うん?ナイチって沖縄方言だっけ?

 最近わけわかんなくなってきたな・・・。

 

 沖縄に来て、いざという時のベースを作り(那覇市内、離島三か所に地下二階まであるパニックルーム付きの家を作った)、コネを作り、武術を学んだ。

 学べたし作れたわけだが・・・三年近くも住んでると色々とうつってくる。

 

 特に会う人会う人、住んでる地区から五十キロと離れた事のない人ばかりで、訛りはきついし、料理の味付けも独特、その上で構いたがり。

 

 ありがたくも、地元に馴染むきっかけとなったのは、たまたまお店で会ったお隣さんたちとの酒の席で、母が口を滑らせた両親の武勇伝だった。

 父の武勇伝を奥様方がえらく気に入ったらしく、母が料理を作れなくなるほどのおすそ分けと、育児指導が毎日のように入ったのだ。男衆にもそれなりに受けたらしく、父もよく吐くほど泡盛やらなんやらを飲まされていた。

 

曰く『ヤマトンチュー・・・いや、ヤマトンチュもなかなかやるさー!』とかなんとか。

 

 

 とにもかくにも、そんな近い付き合いをして影響されないわけがない。

 

 

 沖縄そばを打ったり、サトウキビを一緒に狩に行ったり、泳いだり、料理作ったり。これは師匠とだが、一番の極め付けは一緒に狩りに行ったことだろうか?

 

 マングローブの林の中でハブがとぐろを巻いているのを、気が付かずに踏みかけたときは、本当に肝が冷えた。

 

 

 そんなこんなで、パワフルな沖縄人に影響されまくった我が一家は三年間どっぷり沖縄に漬けこまれたのだった。

 

 この店もそんな感じで、休日にちょろっと出かけた帰りに毎週のように通っているお店だ。

 何を隠そうそば打ちを習ったのもここだ・・・日本そばより先に沖縄そば打てるようになるとは・・・。

 

 

・・・なんの話だったっけ?

 

 ああ、腹が減るって話だ!

 

 

・・・元々はそんなに厳しくなかったのだが「ヤマトンチュにしては骨があるさ~」とかなんとかで、本格的に仕込んでくれるとの事だった。

 

 

 ありがたかったので受けたのだが、その日から刃先のスポンジが鉄になり、盾の竹が亀甲になった。

 

 

 重いし、すごく痛い・・・六歳児に行う訓練じゃない!

 

 

 さらに、場所も砂浜や足場の悪い原っぱに変わった。足腰を鍛え、転んだりしないようにするための訓練だと言われて納得はしたのだが、とにかくきつい。

 

 砂浜は足がとられるし炎天下でどんどん体力が取られてしまう。

 一時間もやれば頭が朦朧としてくるが、水を飲んでは朦朧としたままやらされる。

 

 帽子被って、定期的に冷たい水を服にしみこませれば平気だとかなんとか・・・なわないじゃない・・・とか思ってたんだけど、不思議とまだ生きている。

 

 一応時間も計っていたようだし、なんらかのメソッドがあるのだろう。こんな無茶振りやらされたのもおそらく、余計な事を考えずに型を数こなすのと、どんな状態でも戦うための訓練だったのだとにらんでいる。

 

 

 

 原っぱは原っぱで、ひたすらこける。

 

 

 もう信じられないくらいこける。

 

 

 靴を履いて、裸足で、草履で、靴下でやらされたが、最初は一時間の間に50回はこけただろうか?もうとにかくこけてこけて仕方がない。

 

 しかも自分の意識外のところでこけると、異様に疲労が蓄積する。二十回もこければ起き上がれなくなる!

 

 投げられると疲れるが、あれとはまた違う疲労感がある、こればっかりは体験してみないとわからない感覚かもしれない。

 

 なのでいつも最後の方は這いずりまわっていた。

 

 途中すり足をやめて、片膝立ちになって立ち合ったら非常に楽になり、師匠にも褒められた。たぶんこれが正解だったのだろう。

 

 

 おかげで膝がズル剥け・・・床主にいったら真っ先に膝パットを買おう。

 

 

 すり足は確かに起こりが分かりにくい事と、隙ができにくいというメリットがある。

 しかし反面、厚底のハイキングシューズや半長靴などを履いてでこぼこ道、特に草地のそれですり足をすると、引っかかってすぐこけてしまうのだ。

 かと言って足を上げ過ぎると疲れやすく、隙も大きい。

 

 師匠に何度も直された結果、ベストなのは約1・5センチ程度地面からあげて動くことだと体でおぼえさせられた。

 

 慣れてくるとそのまま動くことを強制されるようになり、いまでは歩を進めるのも、入りのために踏み込むのもすべて1・5センチ平均で行えるようになった。

 おかげで移動中の重心が異様に安定するようになり、押されようが躓こうが滅多な事ではよろめきもしなくなった。

 

 原理としては簡単で、すり足を擦らずに、かつすべて2センチ以内で行うだけだ・・・原理としてはね・・・。

 

 中国武術に「沈墜勁」という技術がある。古武術だと「沈身」と言ったはずだ。

 

 とても大雑把に言ってしまうと(興味のある人は調べてくれ!だいぶ違うんだけど感覚的にはあってるから!)、あれを歩くたびに無意識でやれと言う事だ。

 

 超無茶振りではあるが、二週間のあいだいつ寝てるんだかわからないくらい特訓させられた結果、いつの間にかできるようになっていた・・・できたときの感想は「これで寝れる!」。

 

 その後二日ほど眠りこけた。

 

 

 出来るまでは死ぬほど恨んだが、悔しいが確かに重心は安定したし、打撃系の威力が明らかに上がっている。

 

 同門の人たちにはまるで、足が地面に吸い付いているようだと言われた。

 

 平らな場所ではすり足でやっているからだろう。高度制限を設けた足運びが出来るなら摺り足なんてもうね・・・何の問題も無い。

 

 

 これが出来るようになってからは身長140cm以下、体重45kg以下の人間に負けた覚えがない。

 やたら喧嘩が強く、敵対するものを上級生まで拳で教育的指導してたのも、早く馴染むのに一役買っていたと思われる。

 

 沖縄人はおおらかでいい人たちだが、時に理性的であるよりも肉体言語の方が好まれたりするのだ。「それくらいの方が元気があっていいさ~」と言ったところかな?

 

 

 単純に格闘術を教えてもらったというだけでなく、そういった意味でも感謝も尊敬もしている。

 

 ・・・が、正直つらかった、強くなれるまでの過程は、できればもう思い出したくもない。

 

 

「あい、ソーキおまち」

 

 

 

 店のおばさんが、料理が所狭しと載せられたトレーを運んできてくれた。

 

 

 

「お~、丁度良かった」

 

「あい?」

 

「こっちの話しさ~」

 

「?」

 

 

 

 あ~、それにしても沖縄そばは最高だ・・・。

 

 面自体の製法はそんなに違わないとか聞いたんだけどな~・・・生前はチャーシュー大好きだったけど、内地戻って本ソーキ無しで暮らせるだろうか?

 

 ソーキ、軟骨ソーキ、てびち、なかみ・・・。

 

 一か月後にはこの店にも来れないと思うととても悲しい・・・とても悲しい。

 

 

 

 

「わらび」

 

 

 

 喰いすぎなくらい堪能した料理の代金を支払い、店から出ようとすると店のおやじに止められた。

 

 ホレ、と言いながらおやじが大きな袋を俺に手渡してきた。やたら重いなと思いながら中身を見ると、大きな鍋が入っていた。

 

 

 

「これは?」

 

「わらび、ジュン(ほんと)にシシ好きさ~。内地行くだろ~、内地でソーキかめねだわけ(くえないんじゃない)?ならけえる前に『ぼっけえ食うてかえりんしゃい~』」

 

 

 

・・・。

 

 

 

「・・・それは、皮肉?」

 

「皮肉さ~」

 

「そっか・・・・・・・おっちゃんありがとう、大事に食べるよ」

 

 

 

 ニヤリと笑う親父を見ながらそう言うと、俺は料理屋『はなぐすく』の暖簾をくぐって外に出た。

 

 

 

 

         また来よう。何があっても

 




 毎度三千字程度に時間かけて、すみません!

 それにしても文章、なんか違うんですよね・・・昔は「ハリポタくらい俺でも書ける!」とか思ったものです、ごめんなさいローリングさん!

 沖縄弁はあまりつっこまないでください、親が赴任してた頃の話を聞きながら参考にしただけなんです。

 俺の銃の趣味ですが、結構トレンディー(死語)なミーハー(死語?)です。でも要望があって、作品的に合致してればどんな銃でも出します。
 FPSで有名になった銃でも、リアルがクソならこき下ろします。確定しているのだとUTS15とか。
 でもどちらかというと使いまわしの方が気になる方です(お前、日本在住だろうが!)。コスタ撃ちとか、CARとか。銃本体も好きですが、アフターマーケット見てるのも好きなタイプです。
 なのでTuff社のタクレットに、草生やす感じの方はたぶん合わないです。
 外行く時に多少サバイバルな中身の、Molleポーチをセカンドバッグに使ってますから、俺。あれは欲しい人には本当に痒いところに手が届く良いものです。

 最後に予告をしますと、次回から床主幼少編です。

 早ければしあさってには出来るよう頑張ります・・・。



方言
 おっさんが話すと聞きずらいだけだけど、女の子が話すとなんであんなにもっと聞きたくなるんだろうか・・・?


 映画『大将小兵』
 ジャッキーチェンの映画で邦名『ラストソルジャー』。筆者のガチ泣きした映画である。歴史に詳しい人なら、それなりに察しながら見れる作品だが、筆者は全く知らなかったので超ショックを受けた。
 一見の価値アリかと。

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