オーバーロードは稼ぎたい   作:うにコーン

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ナザリックのキャラクターは、いずれも◯◯最強のキャラクターだそうです。
近接火力最強のコキュートス。近接防御最強のアルベド。範囲殲滅最強のマーレ。対集団戦最強のアウラ。
ではオリキャラは? って考えて、そうだ金策最強って居ないよねって思いました。
なのでドクトルは金策最強って事にします。


あらすじ


ゼンベル「タダ酒おいC」
ドクトル「面倒臭い醸造しないで酒ゲット!? ざっけんなよ俺にも寄越せ!」
ゼンベル「焼き酒おいC」

アインズ「あ゛あ゛  ! これ以上仕事増えたらパンクする自信があるぞ」
蜥蜴族長「わかる」
ドクトル「社長を敬えクソトカゲが! 様を付けろよ爬虫類めが!」
一般蜥蜴「アインズ様ばんじゃーい。 族長ばんじゃーい」
アインズ「やめろ!」
中間管理職族長「やめろ!」



現在のナザリック生産物

・そこそこの量の硫黄
・そこそこの量の高シリカ火山灰
・やや少ない量の鉄スクラップ
・まぁまぁの量のスケルトンの骨
・数十個単位の瓜科果物
・数百個単位の柑橘果物
・数千個単位のオリーブの実
・やや少ない量の過燐酸石灰
・バケツ数杯の硫酸
・MPが続く限りの塩酸
・プロトタイプの農業機械
・計測不能の量の石灰岩
・かなり多い量の生石灰
・かなり多い量の消石灰
・かなり多い量の石灰水
・そこそこの量のセメント

☆NEW!
・無料かつ莫大なエタノール


ナザリックは売りました

セメント → 王国
食用油  → 王国
果物   → 王国
鉄材   → 王国
???  → 法国


ナザリックは買いました

法国   → 生ゴム


ンフィーレアと稼ぎたい

 暗く、ジメジメした通路。 窓が一切無いその壁は土が剥き出しであり、地下の室内は澱んだ空気のみを詰めたかのように息苦しい。

 

「……糞が」

 

 鈴を転がすような声とは裏腹に、醜く歪められた口からは感情そのままの、汚い言葉が出る。 乱暴に石畳を踏み付け、鼻息荒く、怒りの形相を浮かべた顔は最早醜悪ですらあった。 その姿は闇の中であっても、怒りの感情が陽炎のように立ち上っているかの様に見えるだろう。

 

「なんでアイツが……ああ、糞ッ! 糞がァ!!」

 

 女は感情の赴くまま右腕を振るう。

 

 ごう、と風切音を巻き起こしながら振るわれた槌矛(メイス)が、スケルトンの頭部を砕いた。 そして、ぬぼーっと立っていただけのスケルトンは、女の突然の暴力によって偽りの生命を散らす。

 

 軽い音を立てて崩れ落ちる骨を前に、女はなお槌矛を振り下ろす。 あらゆる暴言を吐き散らしながら、ソレが原型を留めなくなってなお破片を踏み(にじ)る。 その女の、出る所は出て、引っ込む所は引っ込んだ艶やかな肢体は大人びているが、感情の爆発に任せるがままのその行動は、精神の幼い子供の癇癪そのものであった。

 

「騒がしいぞクレマンティーヌ。 邪魔をするつもりなら出てゆけ」

 

 禿頭(とくとう)の、老人の様な見た目の男が言った。 しかし、声には張りがあり、見た目通りの年齢ではなさそうだ。 (くす)んだ色の、髑髏を模したアミュレットを首から下げ、足元まで隠す鉄錆色のローブを着込んだ姿から魔法詠唱者(マジック・キャスター)だろう事が見て取れる。

 

 女  クレマンティーヌは荒い呼吸を整えようともせずに男を見やる。 興奮からか、眼球の毛細血管が拡張して赤く見える目は異様であり、まるで手負いの獣だ。

 

「ちっ、支配したアンデッドの気配が消えたと思ったら……破壊したのは貴様か。 最下級のスケルトンとて無料(タダ)では無いのだぞ」

 

 わざとらしく舌打ちを鳴らした男がジロリと睨む。

 

「いやーごめんねー」クレマンティーヌは舌をチロリと出して、言った。「ちょーっと嫌な奴の顔を見ちゃってさー、イライラしてたんだよねー」

「その程度の事で暴れていたのか」

「ま、そだねー。 あ、あとソイツのせーで()()なくなっちゃったのもあるかな?」

 

 要するに八つ当たりだ。 そう、悪びれもせず言うクレマンティーヌへ殺意が沸き起こる。

 

  計画の邪魔になるのなら、いっそ今の内に殺すか)

 

 現在、男の主導でとある計画が進行中であった。 何年もかけて準備し、ようやく終わりが見え実行に移せる段階にまで漕ぎ着けたと言うのに、1人の人格破綻者のせいで失敗してしまったら目も当てられない。

 

 女がいる場合と、いない場合のメリットとリスクが、男の心の中にある邪悪な天秤に掛けられる。 そして、殺す側に傾き   掛けた、その時。 クレマンティーヌが軽い調子で口を開く。

 

「あ、そうそう。 これカジっちゃんにもカンケーある話だよ?」

「……何?」

 

 懐の中で握っていた宝珠に魔力を込めようとしていた   名をカジットと言う男は、一旦行動を中止し聞き返す。

 

「死の螺旋だっけ?」

「……そうだ。 人為的に死都を作り出し、負のエネルギーを生み出す」

 

 カジットは、これ見よがしに渋面を作った。

 

「貴様が奪って来たガラクタを、唯一使える者が居ると言うから協力してやっているのだ。 だと言うに、いつまで経っても部品が揃わん。 貴様は無為に時間を過ごす趣味でもあるのか?」

「いやーそうしたいのは山々なんですけどねー。 今はちょーっと間が悪いってゆーかー」

「何だ。 勿体ぶらずにさっさと言え」

「いやねー? 攫ってこよーとはしたのよー。 でもキライな奴がいんのがわかっちゃってねー?」

「それが  

 

 どうかしたか。 の言葉が舌先まで出掛かり、カジットはふと思い至る。 障害になるのなら殺せばいいと、そう考えるのがこの女の思考だ。 だが、そうしなかった。 何故殺さなかったのか。

 

 クレマンティーヌとはいわば狂犬だ。 噛みつけるモノには何でも噛みつく、噛みつかなくとも良いモノにも噛みつく、頭が狂った法国の犬だ。 まぁ、今のアレには『元』が付くが。

 

 そんな奴が、獲物を前にしておいて大人しく帰る? ()()()()鹿()()。 突然頭がマトモになった、位にあり得無い。 普通に考えるなら、噛みつきたくとも噛みつけ無かった……と考えるのが自然だ。

 

 クレマンティーヌが嫌い、そして手が出せない人物。 ピースがここまで揃えば、自ずと答えは導き出せる。

 

「なるほど、クインティアか」

 

 その名を出すと、狂気の笑みに亀裂が走った。

 

「おおかた叡者の額冠を取り戻しに来たと言った所か。 厄介事を招いてくれたな、クレマンティーヌ」

「んなことないっしょ。 ただでさえ人手が足んないのに2重に追跡させるワケ無いしー。 何の用事か知んないけどアイツは通りすがりだよー。 2、3日でどっか行くね、うん」

「……ふん、だから騒ぎを起こさぬよう戻って来たと言うわけか。 ならば最後まで大人しくしていれば良いものを」

 

 既に粉々になったアンデッドの破片に視線を落とし、カジットは苛立たしげに鼻を鳴らした。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 採光窓が閉じられ、あえて薄暗くされた室内。 1人の男は数本の小瓶を無造作に皮袋に詰めると、数枚の硬貨を机に置いた。 表通りに通じる扉が開かれ、備え付けられたベルが景気良く鳴る。

 

「毎度ありがとうございましたー」

 

 少年は、外の新鮮な空気を愉しむかのように深呼吸する彼の背へ、感謝の声を投げかけた。

 

 台帳を開き、薬品棚に並ぶ水薬や粉末を確認する。

 

(そろそろ在庫が切れそうな薬があるなぁ。 うん、丁度お客さんの足も遠退いたことだし、買い付けに行こうかな)

 

 作り置いた薬品は薬品棚に整然と並べてあるが、所々歯抜けになっている。 台帳を見る限り、材料の買い置きも底を尽きそうだ。

 

「おばあちゃーん? 僕、そろそろ仕入れに行って来るからー!」

 

 店の奥まで聞こえるよう声を張り上げる。 すると、んー行っといでー、と生返事が返ってきた。 ちゃんと覚えておいてくれるか不安になる返答だが、少年の祖母が研究に没頭する事は日常茶飯事なので、今更気にしても栓無き事だ。 店番くらいしてくれればいいのにとは思うが。

 

 手早く店仕舞いを済ませ、閉店の掛札を扉に下げる。 4輪貨車を倉庫から引っ張り出し、厩舎(きゅうしゃ)から連れ出した馬を、手慣れた手つきで馬車へ繋ぐ。 そして、荷台に大きな壺や雑多な道具などを積み込んだ。

 

 行き先はいつもと同じ、カルネ村だ。 品質の良い薬草が廉価(れんか)で手に入るのが理由なのだが、もう一つ理由がある。 会いたい人が、いるのだ。

 

 少年は、緩みそうになる口元を両の平でピシャリと叩き、簡素な御者台に腰を下ろして馬車を進ませる。 その小さな胸に、淡い恋心を抱きながら。

 

 

 

 馬車を停める。 見上げるとそこには、冒険者組合と書かれた看板が掲げてあった。

 

 簡素なウエスタンドアの向こうからは、冒険者達のものであろう喧騒が扉越しに聞こえて来る。 両開きの扉を押し開けると、騒がしさはより酷くなった。 依頼を探す者、同行者を募る者、報酬の大小に一喜一憂する者など、騒ぐ理由は様々だ。

 

 しかし。 少年は、彼等冒険者とは違う理由で組合を訪れた。 受けるのではなく、彼は依頼を出す側なのだ。

 

 受付まで進むと、顔馴染みの受付嬢が(にこや)かな笑顔で出迎えてくれた。

 

「いらっしゃいませ、ンフィーレア・バレアレ様」

「おはようございます。 えっと、依頼をしたいのですが」

「毎度の御利用、ありがとうございます。 護衛依頼でよろしいでしょうか?」

 

 はい、それで  と、交わす言葉は、幾度となく繰り返された同じもの。 代わり映えのない、何も変わらない、普段通りの日課(ルーティーン)……に、なるはずだった。

 

  カルネ村の側を通るなぁーそのルート」

 

 偶然、聞き逃せぬ単語が冒険者の口から溢れ出た。 無意識に、耳が聴こうとしてしまう。

 

「何か問題であるか?」

「んー……考え過ぎかもしんねーが、つい最近襲われたばっかだからなーあっこは。 武装した俺たちが近くに寄ると驚かせちまうかもしんねー」

「盗賊やモンスターに襲われるのは辺境の村に付き物とは言え……護るべき領民を見殺しにするなら、いっその事消えた方がマシでは? まったく、貴族も税金と言って無理矢理奪うんですから、盗賊と何ら変わりないですね」

「ははは……まぁ、ウチの魔法詠唱者(マジック・キャスター)の毒は置いていて……宿を借りるのは無理と考えるべきですね。 野宿の準備をしておきましょう」

「大丈夫! 野宿になってもナーベちゃんの安全はオ・レ・が! 護るから!」

「あなたのような下等生物(ダニ)に守られる程私は弱くありません。 舐めてると腕を引き抜きますよ」

 

 雑談を交えつつ、任務の細部を詰めていたであろう彼等から何気無く出た言葉は、ンフィーレアから冷静さを全て奪い取った。

 

「カルネ村が!?」

 

 ンフィーレアは、その名を聞くや否や叫んでしまった。 心臓が鼓動を忘れてしまったかのようにギュッと縮み、夢の中のように現実感が無い。 嘘だ、これは夢なんだと思いたくなる。

 

「襲われたって……それは本当ですか!? 村は、エンリは無事なんですか!?」

 

 半狂乱になりながら、掴みかかるような勢いで質問を投げかけるンフィーレア。 完全に冷静さを失った彼には、礼儀を(おもんばか)る余裕は無かった。

 

「モモン様に近付くな!」

 

 黒髪を後ろでまとめた女性が、腰に履いた剣の柄に手を掛け、叫ぶ。 女性は、そのまま抜剣し斬り掛かる勢いであったが、その背後にいた白いローブを着た男が、指で女性の後頭部を弾いた。 軽快な音が、女性の後頭部から響く。

 

「こんなトコでイキナリ抜剣すんな、アホ」

「も、申し訳ありません……」

 

 頭を押さえ涙目で謝罪する女性からは、もう殺気が消えていた。

 

「でだ。 ちゃんと生存してんぜ、エンリちゃんはよ。 無事かどうかは……分からないケド」

「そ、それは何故……まさか、怪我を!」

「ん〜……見た所怪我してるよーな感じはしなかったが、な。 まぁ、他んトコだな」

「どうして教えてくれないんですか!」

「俺が言える立場にねーからさ」

 

 男の言い分は至極真っ当なものであった。 後に、エンリの置かれた状況を知る事になったのだが、このような人目の多い場所で両親を亡くしたなどと声高に言うべきでは無かったのだ。

 

「……依頼、させてくれませんか」

「ふーむ……」

 

 ならば、と。

 

「貴方達は出発目前、そしてカルネ村の近くを通るんですよね。 でしたら、ついででいいのです。 僕も連れていってくれませんか?」

 

 決死の思いで交渉する。 もし決裂すれば、単身馬を駆ってでも村へ行くぞと覚悟を決めて。

 

「ふーん、名指しで護衛依頼をしてえって? なるほど……で、どうするリーダー?」

 

 白衣の男が振り返ると、そこには漆黒の全身鎧を着た偉丈夫が居た。 天を衝くような体格の上、長大でブ厚いグレートソードを2本も背に装備している。 重厚な全身鎧は非常に重そうで、破城槌のような一撃をも耐えきるだろうと思われた。

 

「俺としちゃあよ、ルートをチョイと変えりゃあ追加報酬なオイシイ依頼だと思うぜ。 ……子守は嫌かい?」

「さて、どうしましょうか。 私としては、依頼内容の『護衛』に不安が残りますね。 人喰い大鬼(オーガ)程度のモンスターなら屠るのも容易いですが……人を護りながら、となると……」

 

 全身鎧の偉丈夫は、帯剣した金髪の彼  後にンフィーレアは、チーム『漆黒の剣』のリーダーと知る  に向き直って言った。

 

「ペテルさんが、漆黒の剣の皆さんが嫌でなければ……どうでしょう、手伝って頂けませんか。 当然、追加報酬はチームで等分しますので、どうか」

 

 全身鎧の彼が頭を下げて言うと、ペテルは慌てて両手を振って、言う。

 

「い、嫌だなんてとんでもない! むしろ、モンスターを狩れなければ私達は報酬すら払えないのですから、報酬が確定している依頼は渡りに船です!」

「うむ! お金は大切なのである!」

「僕も構いませんよ。 多く早く稼げれば、その分目的を早く達成出来ますので」

「ナーベちゃんにカッコいーとこ見てもらいたいし、俺は構わないぜ!」

「黙りなさい下等生物(ウジ)。 煮え油を飲ませて2度と生意気な口をきけなくしてあげましょうか?」

 

 多少判断に困る部分があるが、この個性的な冒険者チームは、急な頼みにもかかわらずンフィーレアの依頼を快く受けてくれるようだ。 突然の依頼は予期せぬ危険も多く準備も不十分。 つまり面倒なので、普通の冒険者なら話も聞いてもらえずに断られるか、多少嫌がる素振りを見せつつ報酬を吊り上げようとするだろうに。

 

 それどころか、不安に駆られているンフィーレアの気持ちを察してか、努めて明るく自己紹介を交わしてくれた。 気持ちの良い連中に、ンフーレアの胸に暖かなものが広がってゆく。 熱くなる目頭を押さえることも忘れ、何度も礼を言いながら頭を下げる。

 

「おーい、今の聞いてたよねハルシア。 詳しいことは事後報告っつー事にしてちょーだい」

「ハァ……緊急の依頼ですから仕方無く許可するんですからね、普段はちゃんと事前に書類を提出して下さい。 本当に特別なんですよ?」

 

 白衣の男が、こちらの様子を伺っていた受付嬢へ手を振りながら言うと、このように彼女は「特別だぞ」と何度も念を押して許可してくれた。 こうして、漆黒の剣チームと冒険者モモンとの、一風変わった旅が始まったのである。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 エ・ランテルからカルネ村までの直線距離は約4~50kmと、交通網が発達した日本で暮らしていたアインズやクサダの感覚では、普通に日帰り出来る距離だ。 乗用車を用いれば1時間も掛からない。 だが、ほぼ手付かずの大自然が広がるこの地には、アスファルトで舗装された道や鉄道などあるハズもなく、石畳どころか砂利道ですら恵まれた道なのだ。

 

 道路とは国の血管である、と経済学者は言った。 しかし、低い技術レベルでは大規模な交通網など敷設出来ないし、それ故に交通インフラはいつまでも未熟。 必要な場所に必要な物が届かず、流通は滞っている。 リ・エスティーゼ王国の首都でさえ  原因はインフラだけに留まらないが  文化的な食事に舌鼓を打つ事は難しいだろう。 出来たとしても、それは多大なコストを支払わねばならない。

 

 この世界での移動方法は、主に3パターンに分けられる。 地上、空中、空間の3つだ。

 

 まず、地上の場合。

 

 これは普通に歩いたり、馬などの生物や騎乗用の魔法生物(ゴーレム)を用いたりする方法だ。 この世界で一般的に使用される移動手段は馬であり、ユグドラシル産の騎乗動物や謎動力で動く魔法生物は一先ず置いておくとして、その移動速度は全力疾走した場合2千~4千メートルの距離を60km毎時で走れる……が、その後は動けなくなってしまう。 通常はややペースを落として40~50km毎時で走らせるのだが、これは品種改良されたサラブレッドや軍馬での話であり、主に荷馬として使われる駄馬の数値はさらに下がる。

 

 さらに、10kmを超える距離を馬で移動するならば、馬の疲労を考慮し速足ほどにペースを抑えて移動する必要がある。 これは約18km毎時ほどであり、もし公道でこんな速度を出したなら煽られるどころか、逆にドライバーの体調不良を疑われて心配されてしまうだろう。

 

 次に、空中の場合。

 

 流石は異世界、と言う事か。 この地の人間は、努力次第で自力で空を飛ぶ事が出来るのだ!

 

 ユグドラシルの魔法<飛行>(フライ)は、魔力を消費して60ft(フィート)毎秒  スキルなどを取って強化していない場合  で飛行するのだが、これは時速に直すと約45km毎時は出ている計算だ。 さらにアインズの場合、転移直後に使用した飛行(フライ)の速度が体感で約90km毎時と言っていたので、通常の倍の速度が出ていた事になる。 魔法による移動はLV差なども関係しているのかもしれない。

 

 ちなみに、シャルティアやクサダは、スキルや装備で飛行速度を強化しているので更に速度が出る。 また、セバスやコキュートスなどの100LV近接職は、魔法より速く地上を疾走して距離を詰めてくる。 よって、飛行(フライ)の性能が上がったこの世界でも、延々と距離を取りながら魔法で一方的に射撃するのは不可能である。

 

 最後に、空間的移動。

 

 短距離転移を駆使して距離を詰めてくる近接や、長距離転移を用いて奇襲をかける魔法詠唱者など、職に関係なく使用してくるこの移動方は、アインズも例に違わずユグドラシルプレイヤーは日常的に多用する移動法だ。 これは原理的に、移動する距離がいくら変わろうとも時間は変わらないので、速度を求めようなど考えるだけ無駄である。

 

 魔法やスキルの名前  次元の跳躍や縮地など  だとか、説明書きなどのフレーバーテキストから察するに、空間を歪曲したり切り繋げたりして移動しているのではないか、とクサダは考えている。 そして、ソレが本当ならもっと面白い事が出来る……とも。

 

 

 

 さて。 ンフィーレアから受けた依頼を遂行するに、アインズ達が選んだ方法は地上を行く道だった。 と言うのも、常識的な移動方法がソレしか無かったのだ。

 

 アインズ、ナーベラル、クサダは<飛行>(フライ)を使えるが、その他の者を置いて行く事になってしまう。 <全体飛行>(マス・フライ)を使おうにも、使用できるのは戦士化を解いたアインズのみ。 転移しようにも、距離無制限・失敗確率ゼロの<転移門>(ゲート)など論外だ。

 

 よって、街に程近い馬屋にて馬を買い、2名ずつ相乗りして向かおうとしたのだが、鎧姿のアインズの体重を軍馬以外が支える事は難しく、結局クサダが転売しようと持っていた騎乗用ゴーレム(売れ残り)3機とンフィーレアの馬で間に合わせた。

 

 魔法詠唱者のアインズが騎乗できるかどうか不安だったが、騎乗するだけならビーストテイマーなどのスキルは必要ないようだ。 これならアウラの持つ魔獣にも普通に騎乗できるだろう。

 

「ええっと、ドクさん。 それは一体、何を?」

 

 疾走する馬形ゴーレムの背に()()()()()()クサダを見上げ、同じように騎乗したルクルットが不思議そうに言う。

 

「ああ、こりゃあ視点を高くしてんだよ」 クサダはズボンのポケットに手を突っ込んだまま、言った。「こうやって馬の背に立ち上がって、モロッコだとかモンゴルの騎馬民族は遠くから獲物や敵を見つけたんだ」

 

 へぇ、と感心するルクルット。 だが彼は、本当は立ち止まった馬に上るのが正しいやり方だとは知らない。

 

 この程度の曲芸乗りで感心されるのがくすぐったかったのか、苦笑を浮かべたクサダは肩を竦め「ま、女の子よか簡単さ」と茶化すように言った。

 

「えーっと……それは扱いが、って事? それとも()()のが、って意味?」

 

 妙に真剣な声色で聞いてくるルクルット。 だが、クサダは質問に答える代わりに、彼を見下ろし  ニィ、と笑う。 瞬間、ルクルットの背後に稲妻が疾るのを幻視する。

 

「師匠と呼ばせて下さいっす!」

 

 クサダの態度から全てを察したルクルットは、神を見るようなキラッキラの目で懇願した。 モテる秘訣だとか、食事への誘い方を聞いてはナーベラルに実践し、玉砕している。

 

 最終的に舌打ちしか返って来なくなった所で、クサダは話を戻す。

 

「本当はよ、浮けるナーベが斥候持ちのルクルットを抱え上げりゃ早いんだが  

「嫌です」

「っつーもんでさ。 ま、しゃぁ無いわ」

 

 遭遇(エンカウント)するであろうモンスターも大したこと無いしな、と心の中で続ける。 もし、奇跡的にナーベラルがルクルットを抱え上げて飛んだなら、クサダは氷山に衝突して沈没した豪華客船をテーマにした映画を連想し、テーマソングを全力で歌わずにはいられなかっただろう。

 

 ナーベラルに空中で警戒させる案も無いことはなかったが、その場合頼れるのは目視のみになる。 スキルや経験に頼れない以上、茂みや木陰に隠れたりなどの隠蔽をされただけで発覚が遅れてしまう。

 

「目視での索敵にはコツがあってよ。 やりかた聞いただけでスグ、ってワケにはいかんからなぁ」

「それって結構難しいのかい?」

「いや、単純なモンさ。 だが慣れがいるんだよ。 クイックサーチ・ディテールサーチっつーんだが」

「聞き慣れない言葉であるな!」

「まぁ外国の言葉だからな。 クイックサーチってのは1か所をじっくり探すんじゃあ無く、周りの景色をザ  っと探す。 コイツは感覚的に探す方法だから回数をこなして慣れるしかねぇ」

 

 クサダは、教壇に立つ教師のように1つずつ段階を追って説明する。 まぁ、立っているのは教壇ではなく馬の背だが。 まるでサーカスだ。

 

「んで、それで異常が見つからなかったら今度はディテールサーチをする。 理屈が分かれば何て事のねぇ方法さ、敵の居る確率の高い箇所から優先的に探すだけだからな」

「いやぁー簡単に言ってくれるけど、ドクさん。 それって結構、難しいよね?」

「難しいなぁ」

「やっぱり……」

「最も優先するのが地上。 地面の上とか  つまり足元だな。 地雷とかが無いかを探すのさ」

「地雷、って何ですか?」

 

 ぺテルが不思議そうに言った。 物質的な地雷はこの世界に無くとも、魔法的な機雷などは存在するので、単に位階の高い魔法を知る機会が無かったのだろう。

 

「踏むと爆発する罠さ。 わざと死なない威力に抑えられてて、怪我人を救助する手間と費用が増えるようにされてる」

「い、嫌な罠ですね……」

「嫌じゃない罠なんて無いと思いますが」

「俺はナーベちゃんが仕掛けた愛の罠になら掛かってもいいと思うけどね!」

「罠など用意しなくとも、下等生物(ヤブカ)など平手で叩き潰すだけで十分です」

 

 ナーベラルの極寒の言い草に、クサダはふと(ルクルットならビンタされた時に「ありがとうございます!」って言ってくれそうだなぁ)なんて想像してしまい、好奇心がくすぐられた。

 

「んで、地面の上にアブナイ物が無いって分かってから、ようやく空中  つまり目線の高さを探す。 出入口の扉とか、窓の向こうとか、茂みの中とかな。 最後に上空を確認して、屋根の上から狙ってたり、丘の向こうから曲射してくるヤツ、空から奇襲してくるヤツを探す、と」

「なるほど。 視点を高くして、優先的な箇所から効率的に……ですか。 そんな物見の仕方もあったんですね」

「僕もナーベさんのように<飛行>(フライ)が使えればお役に立てるんですが」

 

 手綱を持つルクルットの後ろに座り、飛行するナーベラルを眺めてニニャが羨ましそうな声を上げた。

 

「ルクルットもドク氏のように練習するべきである!」

「うへぇ  ッ! ずいぶん軽く言ってくれるじゃないのダインちゃん」

 

 オーバーに仰け反って言うと同時、何処となく笑い声が上がった。

 

  っと、早速おいでなすったか。 まぁ、馬を走らせながら移動してりゃ目立つわな」

 

 微塵も緊張感を含まない声で、クサダは言った。 目を凝らして見ると、確かに森から何十匹とモンスターが現れ出てくる。 それも10や20では収まらない数であり、異常に数が多い。 群れの殆どがゴブリンだが、その中で巨大な影が乱杭歯のように揺れている。 人喰い巨人(オーガ)だ。 それが、何匹も。

 

 絶対に勝てない。 ペテル達漆黒の剣全員が思った。 だが  

 

「どうするよモモン。 このまま突っ込めば簡単に轢殺(れきさつ)できっけど」

「……いや、それは止そう」

 

 アインズは静かに首を振って、言った。

 

「衝突する際、たかがオーガとは言え少ながらず衝撃があります。 もし、ンフィーレアさん達がゴーレムから落馬してしまったら、多少なりとも怪我を負うでしょうし  

「んじゃ、俺達だけで突っ込むかい? 騎乗しながら攻撃すれば、散開されてもスグ追いつけるぜ」

 

 明らかに敵が多過ぎる。 だと言うに、戦うか回避するかではなく、(しょ)(ぱな)から()()()()()と、彼等は相談している。 まるで、昼食のメニューは何がいいかと問うかのように。 ペテル達は皆引き攣った苦笑を浮かべた。

 

「ううむ……あまりに一方的過ぎると、戦意喪失したモンスターが逃走しかねませんね」

「逃げっだろーなぁ。 誇りがどうこうっつーヤツじゃあ無いだろーし」

「急ぐ旅ですし、追い回すのは勘弁願いたいですね」

 

 無傷で皆殺せて当然と、もはや傲慢とも取れる余裕の口振りに、ペテル達は頭ではなく心で確信した。 これから起きるのは生存競争からの『殺し合い』などでなく、強者が弱者をただ踏み躙るだけの一方的な『殺し』であると。

 

「よし、じゃあつまりこうだな? 逃さず、素早く、確実に」

「……そうですね」

 

 アインズの返答にクサダは1つ頷くと、懐の中でインベントリを開き、麻布で作られた小袋を取り出す。 (おもり)として小石を拾い、袋の中に1つ入れると、風向きを確認して袋を投擲した。

 

(赤い……粉?)

 

 ニニャは小首を傾げる。 小石を入れる際ちらっと見えたのだが、袋の中には真っ赤な粉がタップリと詰められていたのだ。

 

(錬金術師って言ってたから、特殊な鉱物か何かなのかな……?)

 

 一体、何の為に投擲したのだろうか。 本当はスグにでも逃げねばならない状況と言うのに、ニニャは好奇心から注視してしまう。

 

 モンスターの群れが更に近付く。 邪悪な本性をそのまま現したような、醜く歪んだ顔がハッキリと見える。 モンスター特有の不快な臭気が、ここまで漂って来そうなくらいだ。

 

〈火矢〉(バーン・アロー)

 

 クサダは、腰のホルスターから素早く短杖を引き抜き、込められた魔力を解放する。 真紅の短杖は赤い光を一瞬発し、火炎で作られた矢を形成した。 炎の矢は短杖から放たれると、重力を無視した直線的な機動で飛行し  

 

 

 

  粉末の詰められた袋を正確に射抜いた。

 

 

 

 瞬間、燃え上がる袋。 異常な量の煙が立ち上り、風に乗って群れの中へ殺到した。

 

 クサダが何をしたか。 それは煙を浴び、吸ったモンスター達の反応で明らかとなった。 急にもがき苦しみ出したのだ。

 

 突如悲鳴を上げたモンスター達は、顔中から汁を垂らし、激しく咳き込み、地に沈みのたうち回った。 目が見えていないのか、人喰い巨人(オーガ)は意味不明な悲鳴を(わめ)き散らしながら目元を掻きむしり、粗雑な武器を滅茶苦茶に振るう。

 

 運悪く……いや、運良く、だろうか。 丸太を削っただけの、見窄らしい棍棒が振るわれた際に、巻き込まれたゴブリンは叩き潰され、圧し折られ、吹き飛ばされた。 十数匹と言う僅かな数だが、ゴブリンの一部はこうして絶命した。

 

 残された大多数のオーガやゴブリンは、不運にもそのまま放置された。 治療も受けられず、苦痛から逃れる術も知らぬ彼等には、そのままゆっくりと弱っていく道しか残されていなかった。

 

 擦れば擦るほど眼が、咳き込めば咳き込むほど喉が、倍に倍にと膨れ上がる。 瞼の裏が腫れて目は塞がれ、気管は腫れた肉で詰まり窒息した。 悲鳴はもう聴こえてこない。 喉が詰まっているので声が出ない。 代わりに聞こえて来るのは、ゴボゴボと(あぶく)の割れる不快な音。 喉の血管が破れた為、血の泡を吹いているのである。

 

 もう、ここには死を運ぶ怪物は居ない。 居るのは全て、虫の息になった哀れな何かである。

 

 小石、除くように。 藁、刈るように。 後はただ、1匹1匹丁寧に、喉を裂き心臓を突いて()()だけだ。 こうして、決死であるハズだったモンスターとの遭遇は、呆気無い結末を迎えた。 そう、ただの作業になり替わったのである。

 

 正に阿鼻叫喚の地獄絵図だった。 あまりの光景に、ニニャは震え青ざめている。

 

「い、今の粉は、一体……」

「ああ、アレはだな」ニヤリと笑ったクサダは、言った。「カプシクム……つまりトウガラシ、さ」

「トウガラシが、であるか……」

「そそ、しかも超の付くくれぇ辛ぁ〜いヤツね」

 

 クサダが放り、そして火を付けたのはユグドラシル産食材『ザリチュ・レッドサビナ』だ。 悪神の名を冠したこの食材は、使うと火耐性と火属性攻撃が向上する……ハズなのだが、それはゲームでの話。 ユグドラシルで3番目に辛い  発見されている中で、だが  この食材を、味覚のある今の状況で食べたら……ドラゴンで無くともファイアブレスが吐けるかもしれない。

 

「ドク……」

 

 観衆を用意し、戦闘準備を丁寧に整え、チャンスが来るのを待ちに待って、やっ  と来た見せ場を失ったアインズは、ヘルムの上から額を押さえて……言った。

 

 

 

「……やり過ぎだ」

 




(一方的な)バトルがお好き? 結構。ではますます気に入りますよ。
さあどうぞ、唐辛子の催涙ガスです。素敵でしょう?
んああー仰らないで。点火が面倒。でもスプレーなんて全然飛ばないし、作るのが面倒だわ逆風で自爆するわ、ろくな事はない。
燃料もたっぷりありますよ。どんな亜人の方でも大丈夫。
どうぞ燃やしてみて下さい、いい悲鳴でしょう。余裕の音だ。火力が違いますよ。

一番気に入っているのは  

……何です?

値段だ。



・カプサイシン、について。

 唐辛子の原産地は中南米で、紀元前6000年以上前から栽培されています。 これが、新大陸発見の際に世界に広まったのが始まりです。
 食用として重要視されるのがインドなどの中東地域で、唐辛子にはビタミンA・Cが多量に含まれていることから、標高が高く通常の野菜が育ちにくい地域でも育てられる唐辛子は、野菜の代わりとして日常的に食されています。
 また、強い刺激で舌がしびれる、と言う特徴から、腐りかけて変な味がする肉や魚でも食べられるようになります。
 なので、熱い地域やヨーロッパでは冷蔵庫などの家電が発達するまでも、した後も、胡椒などのスパイスと同じく重宝されました。

 時として、激辛チャレンジだのロシアンルーレットだのオモチャのような使い方をされてしまう唐辛子ですが、食用以外にも使われる事の多い植物です。
 独特の匂いや味を嫌う習性を利用し、害虫や害獣を追い払う天然の忌避剤として、観賞用の庭や産業用の畑の周りに植えるなどの使い道もされました。
 日本に入ってきたのは15世紀頃と比較的最近で、靴下の中などに詰め、血管拡張作用による凍傷予防に使ったのは有名です。
 また、加工してもカプサイシンの効果は健在で、スパイスの本場・インドでは、食用に向かないほど辛い種を育て、磨り潰したペーストをオイルと混ぜ、作物を荒らすゾウ用の忌避剤を作り柵に塗っています。

 辛み成分であるカプサイシンは強い痛覚刺激をもたらしますが、副作用がほとんど無く後遺症なども残らないため、抽出したものが催涙スプレーによく使われています。
 また、人工的に製造したクロロアセトフェノンにも催涙効果があり、日本の警察はこちらを採用しています。
 同じく、こちらも後遺症はありません。

【挿絵表示】

 辛さの強さをスコヴィル値で表しますが、現在で最も辛いとされるのが、イギリスで開発された240万スコヴィルの『ドラゴンズ・ブレス』です。
 普通の唐辛子が千以下、一般的な催涙スプレーに使われる濃度が10万以下である事から、そのケタ違いの辛さが分かります。

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