オーバーロードは稼ぎたい   作:うにコーン
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あらすじ

ドクトル「フッ……まずは情報収集だ。 よしゴミ捨て場漁ろ」
影の悪魔「なんだアイツいきなりゴミ漁りだしたぞ……ア、アインズ様ァー!」
アインズ「何!? プレイヤーらしき影が現れただと!」ピカー



お菓子作って稼ぎたい

 ナザリック地下大墳墓の入り口から遠く離れた地表。 黒く、血に濡れたような怪しい光の反射を返す鎧に全身を包み込んだアルベドと、常闇をそのまま布に染み込ませたかのような美しい黒のローブを纏ったアインズ。 そして、その身辺を固める高レベル傭兵モンスターの群が、昼間だというのに薄暗い森林に身を潜めていた。 虚ろに輝くアインズの眼孔の前には、浮かび上がった薄い魔法のスクリーンがあり、幾重にも防御用魔法を施された状況下で、シモベによって用意された椅子に座って眺めていた。

 

 かたやカルネ村では、村人に知る由も無いことなのだが、隠密能力に優れた複数の八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)が取り囲んでおり、その輪の少し内部にプレアデスの姿もあった。

 

 その中の一人。 黒髪を白いリボンで束ねた、まん丸卵の戦闘メイド   ナーベラル・ガンマは、両の手程度では零れ落ちるであろう数のスクロールを前に、精神を剃刀のように集中させスクロールを消費していく。

 

  集団完全不可視化(マス・パーフェクト・インヴィジビリティ)><生命の精髄(ライフ・エッセンス)><不死の精神(マインド・オブ・アンデス)>」

 

 1つ、また1つと、スクロールが発動の意思を汲み取り、ひとりでに開封され塵も残さず燃え尽きていく。

 

  虚偽看破(ディサーン・ライ)>、<偽りの情報(フェイク・カバー)>、<探知対策(カウンター・デティクト)>」

 

 アインズの指示により渡された、対情報戦防御魔法が込められたスクロールを何枚も使い、幾重にも重ねられた防御の中に身を置く彼女たちは……一言で言ってしまえば、偵察を兼ねた囮。 50を優に越す平均レベルを持つ彼女達は、100LVのプレイヤーとて決して無視出来ない戦力を持ち、かつ命が失われても100LVの守護者よりも安いコストで復活できる。 明らかに主力ではなく囮だと解っている敵側としては、食い付く程美味くは無く、無視出来る程安くは無い。 手が出しにくく無視もできず厄介極まる戦闘メイド   それがプレアデスが6名なのだ。

 

「<千里眼(クレアボヤンス)>」

 

 手順にミスが無いように何度も何度も確認を重ね、慎重に発動させた監視の魔法。 攻勢防壁の反撃を覚悟しての発動だったが、それはまるで肩透かしを食らったかのように呆気なく通った。

 

「妙ね。 あの暫定プレイヤーの動死体(ゾンビ)……全く探知対策していないわ」

「全くぅー警戒してないってことぉー?」

「あらあら……襲われるかも、なんて思ってないのかしら? 無用心すぎるわね」

 

 不可視化され声の届くはずの無い距離ではあるが、なんとなく声を潜めて会話してしまうエントマとソリュシャン。

 

「ねぇねぇ、ナーちゃん。 ターゲットは今、何してるんすか?」

「一言で言うと……パン作ってるわね。 何が目的でこの村に居るのかは解らないけれど」

「ええっ、パンツ食ってるんすか!? ちょっとナーちゃんだけズルイっす、わたしにも見せて見せてー!」

 

 自分が囮役なのをいいことに、不可視化されているとは言え身を隠そうともせずに騒ぐルプスレギナ。 ナーベラルの肩を後ろから揺さぶり、自分だけ見るなんてずるい面白いものを見せろ、と要求した。

 

  ? なんでそんなに見たいの? まあいいけれど……<水晶の画面(クリスタル・モニター)

 

 ルプスレギナに揺さぶられて頭をガクガクと揺らしながら、しかし全く気にせずにスクロールを発動させる。

 

 目を輝かせ、現れたモニターに駆け寄るルプスレギナ。 しかし、ルプスレギナの間違った期待は空振りした。 浮かび上がった画面に食い付かんばかりであったテンションは急降下し、秒とかからず興味を失った。

 

 画面に映っているのは、モッチモチの1次発酵が終わったパン生地を机に叩き付け、大きい気泡を潰してキメ細かい気泡に変える作業をしているクサダとエンリの2人と、太い指が生えた手で器用にナイフを使い、ジャガイモの皮を剥いているゴブリンの姿だったからだ。

 

「なーんだ。 パンを、作ってるのかぁー期待して損したっすぅー」

 

 アホな期待を裏切られ、理不尽にブンむくれるルプスレギナ。 頬を膨らませ、腿の根元まで顕になった足を投げ出し、ブラブラとダラける姿は、女性という物を全て捨て去っていた残念な姿だ。

 

 シズはそんな彼女を指差し副リーダーに問いかける。

 

「……ユリ姉。 ルプスの言ってること……理解できない」

「それでいいのよシズ。 むしろ理解出来無い方がいいの」

 

 が、返ってきた答えはシズの期待した答えではなかった。

 

 

 

 

 

 それから1時間経過する。 画面の向こうでは、練り上げたパン生地を小分けにし、2次発酵を待つだけの動きの無いものに変わっていた。 <千里眼(クレアボレアンス)>の魔法は、景色だけを見る魔法であり音は拾えない。 故に、ただでさえ動きが無い映像に加え、無音であったから……

 

「う~っ……飽きて来たっす! ユリ姉ぇ、ちょっくら偵察行ってくるっす!」

 

 待ての出来ない犬が暴走してどっか行くのは自明の(ことわり)である。

 

「はぁ!? なっ、ダメに決まってるでしょ! 何考えてるの!」

「え~っ、でもぉ~ いずれはあのゾンビが囮かどうか確認しなくちゃいけないっすから、さっさとやっちゃえばいいんっすよぉー」

 

 と、唇を突き出しながら言う。 

 

「って事で、ちょっくら行ってくるっす!」

「あっ! ま、待ちなさいルプスレギナ!」

 

 シュタッ! の擬音が似合いそうな動きで、指を伸ばした右手を掲げると、振り返りもせずに村の方角へ走り去る。

 

 絶句して固まるユリの後ろで、ソリュシャンが溜息を1つ吐く。

 

「はぁ。 きっとつまみ食いするつもりね」

「んもー…ルプーったら、いっつも人の食べてる物欲しがるんだからぁー」

「そういえば、エントマのだけは欲しがったことは無かったわね」

「……わたしの合成溶液は飲まれたよ」

 

 たっぷり数秒固まったユリが再起動するまでの間、好き勝手喋る4人の声。 その声を背後に聞きながらハッと我に返ったユリは<伝言(メッセージ)>を使い、アインズに連絡を取る。

 

「も、申し訳ございませんアインズ様! ルプスレギナが制止を聞かず、村へ向かってしまいました!」

『はぁ!? 何を考えて……ないんだろうなぁ……ふぅ。 あー…ルプスレギナの姿はこちらも今確認した。 少し予定を早め、奇襲もしくは逆探知に備えよ』

「はい。 了解いたしました、アインズ様」

 

 プツリと、脳裏に魔法の接続が切れる感覚が走る。 極度の緊張状態から脱したユリは、溜め込んだストレスを吐息と共に深く吐き出し「ル・プ・ス・レ・ギ・ナぁぁ~~ッ……」とガントレットの両拳を打ちつけ、ガチンと鳴らしたのだった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「ヘイ! ヘイヘイヘイ! おいコラ筋肉達磨共、いいかげん静かにしろ!」

 

 ガタンと椅子が音を立てる。 クサダは勢いよく席を立ち、エンリが作ったパンを誰が食うかで揉め始めたゴブリン達を黙らせる為に、人差し指をゴブリンに突きつけ声を張り上げた。 エモット姉妹の笑顔を誘ったのはいいが、それで調子に乗り始めたゴブリンはヒートアップしていたのだ。

 

 しかし、その後のゴブリン達の様子がおかしかった、 不思議な事に突きつけられた指先を見ると、突かれた猫のように肩を跳ね上げ静かになったのだ。

 

「……?」

 

 クサダは首をかしげる。

 

(何だこいつら? 俺の指先見てビビリやがって……先端恐怖症なのか? さっき普通にナイフ使って芋の皮剥いてたくせに、変な奴らだぜ)

 

 変に思いながらも、クサダは椅子の位置を元に戻し着席した。

 

「あーっと……それじゃあ冷めないうちに食っちまいましょうかね」

「あ、ああ、そうしよう。 せっかく料理の出来ねえ俺達の為に、姐さんが作ってくれたんだからな」

 

 大人しく食べ始めたゴブリン達を一瞥しフン、と鼻を鳴らす。

 

 今のクサダは、やれやれと言いたい心境だった。 だが、苦労して作った昼食を前に何時までも気分を害していては食材となった命に失礼だと考え、割り切ることにしたのだった。

 

 普段の習慣通り、料理を食べる前に手を合わせ、散った命と食事にあり付ける幸運に  

 

「頂きます」

 

 と、感謝の言葉を表す。

 

 何故、十分な対価を支払っているのに、礼の言葉を言うのか? と聞かれたらクサダは「これは伝統だ」と答えるだろう。 あたり前の事を、あたり前だと感じないようにと。 日々の義務的な栄養補給の為のルーチンとして食べているのではないのだと。

 

「先ずはパンからかな。 全粒粉のパンを食うのは初めてだ……」

 

 クサダの木皿には、扇状にケーキカットにされた2切れのパンが木のボウルに乗せられている。 そのうちの1つを手に取ると、フンワリと焼きあがったパンを頬張った。

 

 先ず最初に、メイラード反応によって芳ばしく焼かれた表面がサクリと砕け、オリーブオイルのフルーティーな香りが口いっぱいにフワリと舞った。 やがて、酵母が生成した僅かなアルコールがオーブンの熱によって蒸発した、パン特有の焼きたての香りが鼻腔に届く。 全粒粉のためか、普段食べているパンよりもしっかりとした歯応えがある。 噛み締める度に、塩の刺激と乳酸菌の酸味、そして僅かな甘みが広がっていった。

 

 クサダは満足そうに頷くと、木匙を手に取りスープを掬い口に運ぶ。

 

 鰹節の製法と似ていた為か、マスのような魚からは良いダシが取れていた。 魚の旨みのイノシン酸と、茸の旨みのグアニル酸が合わさり、それを熱が加えられて甘みを深めたワイルドオニオンが纏め上げる。 燻製の塩分に負けないくらい強い旨みは、素朴なスープを御吸い物のように上品な仕上がりに変えていた。

 

「うんうん。 確かに派手さは無いが、だがそれがいい」

 

 さて。 もう一切れのパンを……と、匙をボウルに置いた。 その時だった。

 

「…………んん? あれ、おかしいな。 パンが消えた」

 

 木皿の中は空だった。 見事にすっからかんだった。

 

「んー…ボウルから落ちたか? ……ねぇな」

 

 パンを乗せていた木皿を持ち上げる。 しかし、無い。 木皿の陰になっている所に落ちた訳ではなかった。

 

「……机の下に落ちたか。 やれやれ……まあパンなら砂を払えば  ってねぇし」

 

 テーブルクロスを持ち上げ、机の下を覗いてみても、パンは見つからなかった。 不可解な状況だった……が、クサダは舌打ちを1つ打つと、パンを諦め机の下から視線を戻す。

 

「……は?」

 

 そして、今度はスープが空になっていた。

 

(誰かが盗み食いしてんのか? いやいや、俺に気付かれないくらい素早くゴブリン共が食えるはずないし……)

 

 手足の短いゴブリンが気付かれないように盗れるわけが無い。 さらに、いくらなんでもゴブリンとは言え召還モンスター……エンリの前で恥を晒す理由も無いが……

 

(……はぁ。 まあいいか。 ゴチャゴチャ考えるのも面倒臭ぇわ)

 

 簡単に諦めたクサダは、椅子の背凭れに体重を預け、談笑しながら食事を取る姉妹を眺める。

 

 一口も食えずに料理が消えたのなら、流石に血眼になって犯人探しをしただろう。 しかし先程の数口で満足していたし、それになにより食べ残しはしない主義だったから全て食べるだけで、アンデットの自分が生きる為に食事を取る彼らのようにパクパク食べるのも気が引ける。 

 

 

 

 時が数分経ち、昼食を食べ終えたネムが皆の食器を持って席を立つのを、クサダはボーっと眺める。 向かう先は洗い場だろう。

 

(姉のエンリちゃんに負担を掛けたくねーって思ってんだろうな……)

 

 クサダの心には、どうにも釈然としないものが渦巻いていた。 この子はどうにも子供らしくない。 早くに両親を亡くし、()()()()()()()()()()()のは理解出来る……できるのだが……納得が行かない。 上手く言葉に表せないのも余計に腹立たしさを加速させる。

 

(あークソ。 深入りしないつもりだったんだがなぁー……まぁ、かかわっちまったもんは仕方ねーか)

 

 億劫そうに席を立つと、ゴブリンの中では一番レベルの高いゴブリンリーダーを捕まえる。

 

「おいアボカド野郎。 ちょっとツラ貸せやオラ」

「な、何だって? あぼかど……って食えるのかそれ?」

「うん、まぁ、それなりにうまい……じゃなくて、いいから来い!」

 

 問答無用で首の後ろの襟を掴み、力尽くで引き摺っていく。

 

「一体何なんですかね、ってうわ力強え!」

「エンリちゃん、ちょっとゴブリン借りるよ」

「え? あ、はい……」

 

 呆気に取られるエンリから離れ、話が聞こえないように物陰でゴブリンと話す。

 

「ジャガイモと、芽の出た大麦か小麦。 それから牛乳か羊の乳を集めてこい」

「はぁ? また変なこと言い出して……芽の出た麦とか、今度は何やる気なんですかね?」

「…………」

 

 訝しげに見上げるゴブリンの問い。 クサダはその質問に答えず、洗い場で一人食器を洗うネムに無言で視線を送る。

 

「あー……なるほど。 ……大体わかりはしましたがね、出来れば一言教えてくださいよ」

「まぁ、また今度な」

「芋も牛乳もあるにはありますけどね、芽の出た麦とかそう都合よく有るかどうか解りやせんよ?」

「そう多くはいらねーから大丈夫だよ。 コップに1杯くらいあればいい」

 

 暫くゴブリンは難しい顔をしていたが、やがて諦めたような顔をして頭をガリガリと掻くと、穀物庫の方角へ向かっていった。

 

 クサダはその後姿を見送ると、炊事場へ向かい鍋等の食器と水を用意した。 手早く薪に火をつけ竈を暖めると、湯を沸かす。 丁度作業中に材料を持ってきたゴブリン達が戻ってきたので、洗ったジャガ芋を摩り下ろさせる事にした。

 

 明らかに嫌な顔をしてブツクサ文句を垂れていたが、ネムとエンリの為に菓子を作ると説明すると、急に手の平を返したゴブリン達は手伝いを開始した。 各自真剣な顔付きで作業を進めている。

 

「摩り下ろした液は後で水で洗うから、洗濯する感じで擦り下ろしてくれ」

「芋の汁を洗うんですかい? 兄ちゃんの言う事は変なことばかりだな」

「まぁとにかくやろうや兄弟。 これもネムさんのためだ」

 

 芋が摩り下ろされるまでの間、クサダは発芽した麦……つまり麦芽を、乾燥させるためにフライパンで炒った。 焦がさないように慎重に温め、水分が抜けたことを確認すると、日本の道具とは違うローラー式のすり鉢で皮ごと砕いていく。

 

 麦芽が砕き終わった頃に芋が全て擦り終わったので、ゴブリン達が摩り下ろした芋の汁に井戸水を足し茶色く濁った水を捨てる。 すると、計画通り白く沈殿したものが見て取れた。 何度か綺麗な井戸水で洗うと、雪のように真っ白な片栗粉が完成した。

 

「俺等は火を使う前までしか手伝えねえが……」

「ああ、もう大丈夫だ。 随分助かったぜ……感謝する」

「そうですかい。 それじゃあそろそろ、何作ってるのか教えてくれませんかね?」

「これは……水飴。 麦芽糖を使った麦芽水飴だ」

「なっ……水飴って、あの水飴ですかい!?」

 

 そうだ。 と、クサダは作業の手を止めず、振り返りもせずに言った。 日本で売られている水飴の原料は薩摩芋であり、伝統的な麦芽水飴の原料は米だが……ジャガ芋は澱粉を取り出しやすいので今回はこれでいい。

 

 片栗粉に水を加え焦げ付かないように混ぜながら加熱する。 すると、最初は白く濁っていた液が透き通り、粘りのあるドロドロした糊の状態になった。 これが障子紙を貼る際に使ったり、日本刀の鞘を接着したりする澱粉糊だ。

 

 粘りが出た状態になったら、大体60度まで冷まし麦芽を入れる。 すると、ドロドロしていた液の粘度が下がっていく。 これは、麦芽に含まれるアミラーゼという酵素の働きで、唾液にも含まれている消化酵素だ。 甘くなるのは澱粉が糖化され麦芽糖(マルトース)に変換されているために起こる現象であり、大根にも含まれている。

 

 こうして澱粉を糖化する技術は古くから酒造に利用されており、この麦芽を利用する方法は大体ビールもしくはエールの醸造に使われている。 だからこの世界でも然程珍しい技術ではない。

 

 ちなみに、同じような原理を利用してトウモロコシを糖化させたものがある。 コーンシロップだ。 『果糖ぶどう糖液糖』という名前で、食品添加物として殆どの加工食品に入っているほどメジャーな材料だ。 低温で固まらず、口当たりが良いのでアイスにはほぼ入っていると見て間違いない。 食品添加物ではあるが、澱粉とは単に鎖状に繋がった炭素と水の化合物である糖がさらに繋がり、鎖状になった物であり、それを再び酵素で分解しているだけなので健康被害など起こりようが無い。 ……太るという結果意外は。

 

 この方法で作られた麦芽糖は、蔗糖(しょとう)(テンサイ・サトウキビ等から作られる天然糖)の半分くらいしか甘みを感じないという欠点があった。 だが、この欠点を日本の科学者が解決し、トウモロコシ澱粉(コーンスターチ)が豊富に手に入る国で爆発的に広まった。

 

 あとは皆さんにもお分かりだろう。

 

 そう、はち切れる寸前の風船みたいな、太った国民がワンサといる肥満大国アメリカ。 そんな肥満の原因を作り、国庫を医療費でパンク寸前に追いやったのは日本だったのだ!! ……いや、そんなワケ無い、ただの食いすぎだ。 コーラSサイズが日本のLサイズよりも大きいとか、ナメてるとしか言いようが無い。 ジャガイモは野菜だから太らないとか頭沸いてるのかと言いたい。 まあ、ただの自業自得なのに、人のせいにするのはアメリカっぽいともいえるが。

 

「……よし、問題なく糖化が始まった」 インベントリから取り出した生地で蓋をした鍋を包む。 「後は保温して6時間待てばいいんだが……日が暮れてしまうか。 さて……」

 

 やっぱり、おやつと言ったら3時だろうと、クサダの妙な拘りが訴える。

 

「くっそー……魔法やスキル使うとチートみたいで負けた気分になるな。 <魔法最強化(マキシマイズマジック)製作時間加速(クラフティング・アクセレレイション)>」

 

 最強化を使い、ランダムだった効力を最大化させた魔法で製作待ち時間を短縮させ、瞬時に加工を終わらせる。 鍋の包みを取り外し、用済みの麦芽を捨てて煮詰め、同時に別の鍋で牛乳も暖める。 数十分かき混ぜながら暖めていくと、液糖がフツフツと泡立ちながら煮詰まり茶色の水飴になった所で、暖めた牛乳を投入した。

 

(牛乳の乳糖と合わせれば、甘味の薄い麦芽糖でも十分甘みを感じられるはず。 乳脂肪も上手くいけば相乗効果を出すはずだ)

 

 乳に糖を加え熱する。 つまり練乳の完成だ。 糖が濃くなって行くにつれ、粘性と焦げやすさが飛躍的に高まる。 今が一番失敗しやすい手順の為、クサダは慎重に鍋にある練乳を温めてゆく。

 

 辺りに広がる甘い香り。 水分が蒸発するにつれ徐々に練乳が硬くなっていき、メイラード反応によって糖がカラメルのように芳ばしく香る。

 

 クサダの隣りで興味深そうに観察していたゴブリンアーチャーが唾液を飲み込み、ゴクリと音を立てた。

 

「な、なんか、すげえ良い匂いしねえか……?」

「あ、ああ、物凄く甘い匂いがする。 ううっ、ヨダレが出てきた……!」

 

 炊事場の周りには、農村では嗅ぎ慣れない甘い香りに誘われて、人だかりが出来ていた。 その中には、エモット姉妹の姿もあった。

 

(サプライズ……は無理だったか。 流石にこんだけ甘い匂いさせてちゃあなぁ……)

 

 ネムの姿を視界の端に捉えたクサダは、苦笑いを浮かべる。

 

 練り上げた練乳が小麦色に変わった所で暖めるのを中止し「よし。 おい、そこのアボカド」と、近くのゴブリンに話しかけた。

 

「兄ちゃん。 俺にはカイジャリって名前がだな……」

「あーはいはいカイジャリ君そこの机にある金型を取ってくれたまえ」

「んー少し引っかかるが、仕方ねえなぁ」

 

 ほれ、と差し出された金型に、離型剤とするために素早くバターを塗り、鍋の中身を流し入れた。 そしてクサダは「熱っち、熱ちち!」と騒ぎながら、冷えた井戸水を張った容器に型を浮かべ  

 

「で? 兄ちゃんよ。 一体これで何が出来るんだい?」

 

 村人からただならぬ注目を浴び、あんたらずっと俺達のこと怖がってただろう、と苦笑いしたゴブリンライダーの一人が言った。

 

「フ……聞いて驚け。 こうやって冷やすことで、あのドロドロが固まって  

 

 水に浮かぶ船のようにプカプカと浮いている『アレ』を、クサダはオーバーなジェスチャーで指し示す。

 

「キャラメルが完成するのダァ  !」

「…………?」

「あれ? なんかピンと来てない感じ?」

 

(おかしいな……キャラメルはフランスで大流行したから知ってると思ったんだが)

 

「あーっと、でーそのーキャラメルってのは?」

「あーうん……砂糖菓子の一種だ。 水分が少ないからスゲー腐りにくい上に、軍事糧食(ぐんじりょうしょく)に採用されるくれーカロリーが高い食い物だ」

「腐りにくくて  軍にって事は……!」

「おう。 オメーの考えその通り、国とかのでかい組織に売れば纏まった金になるな?」

 

 集まっていた村人が一挙に沸き立つ。 それもそのはずだ。 こんな田舎の農村では、外貨の獲得手段はほぼ無かっただろう。 しかも甘味とくれば高額で、しかもコレは軽量。 さらに長期保存が可能   約6ヶ月~1年   なら、貧弱なインフラ事情でも都市部にだって売りにいける。

 

 キャラメルは別名『軍粮精(ぐんろうせい)』と言い、旧日本軍が軽量高カロリーの携帯食として採用した。 たった50gで250kcalものエネルギーが摂取できるので、棒状に成型した物を防水紙に包装し、2本1纏めで紙箱に収めて激戦地の部隊へ増加食として配給した。 特に、軽量である特徴は好まれ、航空機からの空中投下が容易なため山岳地帯で重用された経緯がある程なのだ。

 

 一方、アメリカはチョコレートを使った。

 

「ネムちゃん」

 

 切り分けたキャラメルを一粒、ネムに差し出す。 

 

「え……で、でも……」

 

 差し出されたキャラメルと、姉のエンリに交互に視線を彷徨わせ、戸惑った様子で口ごもる。 どうやら、村の商品として作ったのだと考えていたようで、自分の口に入るとは全く思っていなかったらしい。

 

「俺はさ、ネムちゃんの為にキャラメルを作ったんだぜ? それなのに食ってくれねーのかい?」

 

 クシャクシャに表情を歪め、クサダは舞台役者のようにわざとらしく悲しんで見せた。 が、その後ろでゴブリン達が怒り出した。

 

「ちょっとちょっと兄ちゃんよ。 俺等も手伝った事をサラッと省略しないでくださいよ……まったくもう」

 

 チッ……それに気付くとは、と表情で表すクサダ。 顔芸か! と突っ込みたくなるくらい表情を歪めるゴブリン達。 それを見て噴き出すエンリ。

 

 一気に和んだ場の空気に押され、ネムはキャラメルを受け取ると怖ず怖ずと口に運ぶ。

 

  っ! 甘ぁ~いっ! すごい甘いよお姉ちゃん!」

 

 普段口にしない強烈な甘みに、目を輝かせたネムが両頬を押さえ飛び上がり破顔した。

 

 いかに甘いか、美味しいかを拙い言葉で姉に報告しようとする姿は、年齢相応の幼い少女に見える。 やはり、塞ぎ込んだ表情よりも笑顔の方が、見ている此方もよい気分になると、クサダもつられて破顔した。

 

(液糖とマヨネーズでも作る会社を立ち上げようかなぁ……)

 

 次に作るとするならば、鶏卵・油脂・穀酢で作れるマヨネーズだろうか。 材料の入手加工が簡単で、脂っこいのでヨーロッパ系の人々に受け入れられやすく、消耗品のため売れ行きが落ちない商品。 足がかりとしては悪くない商材だ。

 

 クサダはそう考え、脳内で算盤を弾く。 この世界の情勢が解らない為、やったとして本当にスポンサーを見つけられるか謎だが、やるとしたら投資家から資金提供を募るか……株式として集めるか……それとも。

 

(株式を発行して投資を募るのは無理っぽいよなぁ。 株式市場の原型が出来たのは17世紀以降……東インド会社をオランダが作ったからだ。 大航海時代……海賊や難破でのリスクの分散化を()()()()()()()()()()できた仕組みだからなぁ)

 

 腕を組み、熟考する。 思考の深き海の底まで、ブクブクと潜っていく。

 

(この世界の社会に、高度な経済基盤を組めるとは思えねぇなぁ。 この異世界は日用品を作る技術はあっても、効率化する発想が無い……いや、違うか。 あっても余裕が無いのか?)

 

 少し離れた場所から彼らを眺める。 視線の先では、村人がゴブリン達に誤解を謝罪している様子が見えた。 貧すれば鈍すると言うが、心に余裕が無い状態では異質は恐怖を生み排除される。 逆を言えば、余裕さえあれば……よいのだ。

 

(村人の態度から見るに、ゴブリンは敵で恐ろしいっつーイメージを持っているな。 村人はゴブリンを知っている……つまりこの世界には、少なくともゴブリンのモンスターがいる)

 

 なんという事だ。 異世界此処に極まり。 たぶんこの世界には、熊や虎なんて猛獣ではなく、文字通り怪物が人間の天敵なのだろう。

 

 常に天敵から命を狙われ、音も無く飢えが背後から忍び寄り、無力を脱する為の力が無い。 これでは商売どころの騒ぎでなく、その前に生きるか死ぬかの生存競争を勝ってからでないといけないのか。

 

(くっそー……怪物自体もユグドラシルから持ち込まれた異物だったりしてなぁ。 笑えねぇなぁ……)

 

 どうやら、事態は思ったより深刻らしい。 そう溜息を吐き掛けた時だった……クサダの背後で、バチィ  ン! と音がしたのは。

 

「いい  っでぇ  っす!」

 

 キャラメルを入れたボウルに仕掛けておいた、クリエイト系スキルで作った<完全不可知化>したネズミ捕り式跳ね罠(使い捨て)に指を挟まれた1人の女性がいた。 編んだ赤髪をツインテールにし、腰辺りまでスリットが伸びた修道服を着ている、明らかに村人でない女性が。

 

 役目を終えた罠は、彼女が痛みで振り回した腕からすっぽ抜けると、空中で砂のように崩れて消える。 涙目で、挟まれた指にフーフー息を吹きかける……彼女の背後に、さらにもう一人が立っていた。 いや、現れたと言ったほうが正しいか? 黒髪を後ろで束ねた夜会巻き  度の入っていない幅広の伊達眼鏡  げに恐ろしげな極太のトゲが生えたガントレットを装備した、阿修羅と見紛うほどのオーラを噴出させたメイドが。

 

 彼女を見たクサダの第一印象は『女教師』であった。

 

「ぐえっ!」

 

 赤髪の女性は、突然カエルが潰されたような悲鳴を上げた。 彼女の脳天に、後ろから空手チョップを振り下ろしたのだろう。 黒髪の女性は、攻撃によって不可視化が解けたらしい。

 

 脳天の痛みと、凄まじい迫力をその背に感じ、油の刺さってないロボットのように赤髪の女性はギギギと振り向く。 その表情は、恐怖によって完全に引きつっていた。

 

「ルプスレギナ。 ちょっとこっちに来なさい」

「な、何すかユリ姉……そんな怖い顔して……か、監視は  

「何処かの誰かさんのせいで作戦は中止よ。 そ・れ・と! 口答えせずにいいから来なさい!」

 

 ユリ姉と呼ばれた女性はルプスレギナの耳をむんずと掴み、そのまま引き摺っていく。

 

「いい、痛いっすユリ姉! 耳引っ張らないでぇ~~!」

「あんたって娘は調子に乗って! よりにもよって作戦中に盗み食いとは! 恥を知りなさい!」

 

 彼女達が消えた物陰の向こうから、バシンだかドカンだか何かがぶつかる音が聞こえてきた。 

 

「ぎゃーっす! お尻にトゲ刺さないでユリ姉! 3つ目の穴が増えちゃうっす  !」

「また! あんたは! そうやってはしたない事を!」

 

 そして、騒音と共に足音が走り去って行った。

 

 ポカンと口を開いて呆気に取られるクサダ。 村人もゴブリンもエモット姉妹も、急に現れ急に退場していった見知らぬ美女2人に、複雑な表情を浮かべたのだった。

 

「なーにやってるんだか……」

「おおう!?」

 

 クサダは飛び上がって驚いた。 突然真横で声が聞こえたからだ。 いつの間にか、泣き笑いの表情を象った   通称嫉妬マスク   仮面をつけた、身長2メートルを越す恵体のマジックキャスターが立っていたのだ。

 

「ゴウン様!」

 

 ネモット姉妹が彼の名を嬉しそうに呼んだ。 どうやら、彼があの伝説の魔法詠唱者のようだ。

 

「突然の訪問。 失礼するよ村長」

「いえいえ、村を救って下さった恩人を歓迎しない者はこの村におりません。 ようこそおいでくださいましたアインズ様」

 

 村長と2、3挨拶を交わしたアインズは、クサダに向き直り「さて……」と姿勢を正し「私の部下が迷惑をかけてしまったようで……申し訳ない」頭を下げて謝罪した。

 

「あーいえ、とんでもない。 別にそこま迷惑って程では……」

「そうですか? 許していただけるのなら此方としても有り難いのですが」

「ああ、うん……所で、貴方がこの村を救ったと言う……あの伝説の?」

「その通り。 私の名はアインズ・ウール・ゴウン。 アインズと呼んでいただければ幸いです」

 

 そうアインズが自己紹介をすると、クサダは何かを思い出したかのように「あっ」と呟くと、インベントリに手を差し入れた。

 

  ッ」

 

 その行動を見て、軽く身構えたアインズに疑問を感じつつ、インベントリから抜き出した手には1枚の紙が摘ままれていた。 その紙に両手を添えつつ、軽く会釈をし「申し遅れました。 わたくし、こう言う者です」とアインズに差し  

 

「あっこれはご丁寧にありがとうございます」

 

 アインズは慌てて両手で受け取る。

 

「頂戴します。 ええと、腐田博士(ドクトル・クサダ)様ですね、どうぞよろしくお願いします。 ……ですが申し訳ございません、ただいま名刺を切らしておりまして」

 

 何度も繰り返してきたであろう洗練された動きで、差し出された名刺を両手で受け取りつつ頭を下げるアインズ。 そして、クサダもアインズに合わせて頭を下げた。

 

「あっいえいえ御気になさらずに結構です。 ええと、アインズ様は確か  

「あ、はい、ギルド長をやらせて頂いてましたギルドの名前でして、現在は私の名前として名乗っております」

「ああやはりそうでしたか。 記憶では組織の名前だと思っておりましたので……これで納得できました、有難うございます」

 

 いえいえ、いえいえいえ、と高度なやり取りが交わされる中。

 

「なぁカイジャリ。 何だ……これ」

「わからん……俺に聞くな、ジュゲム」

「よくわかんねぇだすが……なんか、すげえだぁ」

 

 放ったらかしにされるゴブリンと村人達だった。

 

 

 

 

 やがて、二人の話題はアインズの装備していた仮面の話になり  

 

「あの、その仮面に見覚えがあるのですが、もしかして……」

「これですか? ええ、これは『アイツ』から強制的に受け取らされまして」

「実は私も同じ仮面を『アイツ』から頂いてるんですよ」

「おや、奇遇ですね」

「では失礼して……」

 

 クサダはインベントリから、アインズの仮面と同じ仮面を取り出し装備した。

 

 そして、そのアイテムを持つ意味と、その結果の答えに至る。 2つの、狂気を体現したマスクを被った両者は、硬く握手を交わしたのだった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジュゲムは叫ぶ。

 

「…………なにこれ!?」




様の意味合いがNPCや村人と微妙に違うゾンビ!
普段の習慣で素が出たちゃった骸骨!
嫉妬する骸骨と死体!




株式のしくみ、について。

 株の仕組みが出来たのは、1602年にオランダが『東インド会社』を設立したことに始まります。
 当時のヨーロッパでは、肉を保存しておく為に必要な胡椒(ペッパー)丁字(クローブ)肉豆蔲(ナツメグ)(にくずく)と言った香辛料が必要とされていました。 冷蔵庫・冷凍庫など無かった時代だったので、冬季の間は家畜飼料が賄えない為潰される肉の保存は、餓死するかどうかの非常に重要な問題です。
 つまり、高い需要を満たす為に船で遠出せねばならず、その航路は海賊の脅威や、現在と違い、
排水量が200t~1500tほどの小さな船だったので(船の排水量が多いと転覆し辛い。大和が6.4万tで、現在の貨物船は20万t)嵐によって難破しやすく、かなりリスキーでした。
 そこで、1人の出資者がリスクを負うのではなく、損も益も平等に分配する仕組みの『株式会社』を編み出しました。 莫大な資金の調達が容易になったので、大きなプロジェクトも計画できるようになり、巨大な船でより遠くへ行くことが出来るようになりました。







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