オーバーロードは稼ぎたい   作:うにコーン
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あらすじ


ドクトル「初期投資(イニシャルコスト)低めの農業で資本金稼ご。 科学なめんなよ!」
マーレ 「魔法ドーン! 単価高めの果物ワッサー!」
ドクトル「グエー! 魔法しゅごいのー!」


ドクトル「大量生産でコスト下げるんにも、まずは基礎が大事や。 木材? 煉瓦?
     強度が足らんし施工メンドイわ!
     セメントと鉄骨作らなきゃ。 鉄作るのに耐熱セラミックと鉄鉱石と木炭と……」
アインズ「魔法ドーン! ほぼ無料の鉄スクラップワッサー!」
ドクトル「やっぱ魔法には勝てなかったよ……」




現在のナザリック生産物

☆NEW!!
・そこそこの量の硫黄
・そこそこの量の高シリカ火山灰
・やや少なめの鉄スクラップ
・まぁまぁの量のスケルトンの骨
・数十個単位の瓜科果物
・数百個単位の柑橘果物
・数千個単位のオリーブの実


商品作って稼ぎたい

 右手に感じるのは、ずっしりとしたプラチナの確かな重み。 リアルの時は希少金属として重宝されていたこの金属は、ユグドラシルではあまり日の目を見ることは無かった。 それもそのはずだ。 オリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネ、青生生魂(アポイタカラ)などのレアでデータ量を多く取れる素材の方が人気が出るのは、ゲームではあたり前だからだ。

 

 過去のリアルでは、様々な場所でこの希少金属は使われた。

 

 強酸にも塩基にも侵されない性質は、化学反応を促進させる触媒として。 融点が1763℃と高く、過酷な環境に耐えるため『るつぼ』『電極』『1メートル原器』などの工業機器として。 温度と電気抵抗の特異な性質は、13.81    1234.93 ケルビン(-259℃ ~ 961℃)まで計れる標準温度計として使われる程だ。

 

 その、何物にも侵されない白き輝きは、宝飾品としても   日本では   人気で、数多くの婦人の首や指を、その輝きをもって締め付けた。

 

「肥料を作る? わざわざそんな面倒な事をせずとも、マーレの土壌の恵みを回復させる魔法を使えば良いだろう」

「まあ、アインズさんのゆーとーり、魔法を使えばスゲー早い。 ……今はね」

 

 そう『今』は魔法を使えばそれでいい。 だが  だが、なのだ。 今はそれで良いとしても、これから『先』はそうは行かない。

 

「でも、マーレ君がやる仕事じゃあ無いね、これは。 彼の持つ能力に対して、仕事の強度が低すぎてお話にならないし、そして何より『非効率』過ぎるぜ」

 

 確かにマーレ君の魔法を使えば、1個銀貨2~3枚で売れるメッチャ質の良い果物をパッと作ることが出来る。 確かに出来る……が、生産量はどれ位あるんだ? 10か、20か? 100か、200か? ()()()()()()んだよそんな量じゃあね。 しかも単位も間違ってる。 個じゃなくて、トン単位で必要なのさ、これから先はね。

 

「どうせやるんなら、仕事のやり方を教えてやるから利益の数%よこせってゆーフランチャイズ契約で楽に行くべきだぜ!」

 

 そう、農業なら何もLV100のマーレ君がやらなくても良いハズだ。 メロンやスイカは、ここはヨーロッパ的な気候だから温室が要るけど……リンゴやオリーブなら十分生育可能で、柑橘類はビタミンの効率的な供給源にもなるし、日持ちもする優秀な果物だ。 イチゴやブドウとかの繊細な果物は育てるのが難しいけど、成功すればその分得られる利益もでかい。

 

「ふむ、だからその為に肥料が必要なのか。 マーレが地力回復のために奔走しなくても済むように」

「そのとおりだぜ。 しかも、AOG合資会社と敵対しても、ただの果物なら食えなくなるだけだけど……農業の根幹部分の肥料がアインズ・ウール・ゴウン社から禁輸されたら、ソレに頼っていた組織は大ダメージだろ?」

「なるほど、それはすばらしいですね博士。 この仕組みは資金源にもなり、発言権の増強にも成ると言う事ですか」

 

 俺は、まさに何か企んでますよって感じで悪い笑みを浮かべ、デミウルゴスから硫黄を受け取る。 この素材を拾ってくるために、わざわざ彼の部下に7層へお使いに行ってもらったのだ。 ちなみに硫黄自体は無臭なので臭くないぞ。

 

「おっ、早速来たね硫黄が。 こいつはスゲー使える素材だから、自前で産出するのは本当にありがたいねー」

「もし、無かったとしたら博士はどのようにして入手を?」

「愚者の金として有名な、あの黄鉄鉱を焼くと硫黄が蒸発するか二酸化硫黄になるから……それを使ったよ」

「なるほど、黄鉄鉱ですか」

「まぁ、安定している物質から元素を単離させるのはそこそこ面倒だから、出来ればずっとこの硫黄が使いたいねぇ」

 

 光にかざすと透き通って見える硫黄だが、この硫黄は粒が細かくてやや白っぽくなってしまっている。 まぁ、性能には関係ないから問題ないのだが。

 

 早速この硫黄を、優秀なあの物質へと加工することにしよう。

 

「このプラチナって金属は工業的にもスゲー優秀でね。 様々な製品にレアメタルとして使われてるんだよ。 自動車の排気を処理するフィルターとか、点火プラグとかね」

「リアルでは自動車は全てモーターだったが」

「電気自動車になる前は、油を燃やして動いてたのさ。 まぁ、あん時は博物館行かないと……見ることすら出来んくなっちまったけどねぇ」

 

 昔、南米へスペイン人が侵略したんだが……銀と白金を間違えて略奪し、その融点の高さから加工出来ず大量に捨てられた経緯があるらしい。 ふざけんなよスペイン人。 捨てるんなら俺にくれよ! 俺が有効活用してやるからよ!

 

 ゴホン……さて、と。 えーっと、板状に伸ばしたプラチナに、ズラした間隔で切れ目を入れ横に引き伸ばす。 こうする事で菱形の穴の開いた網状に広げることができ、空気と接触する面積が増えるのだ。

 

 このままだと長くて邪魔なので、お互いに接触しない程度の隙間を開けて丸める。 これでプラチナを使った『触媒』の完成だ。

 

 後は硫黄の結晶に火を付けて燃焼させると、酸素と反応し二酸化硫黄に変わる。 その二酸化硫黄ガスが熱せられてプラチナに触れると、さらに酸化燃焼されて三酸化硫黄に変わる。

 

 後は水にこの三酸化硫黄を溶かしてやれば、『硫酸』の出来上がりだ。 まぁ、触媒のプラチナは粒子状の白金石綿にして反応速度上げたいし、そもそも無くても硫酸が作れないことは無いけど、反応速度も効率も段違いだから出来れば使いたい。 酸にも強いし。

 

 ただ注意する事があるんだが、この作業に鉄の道具は使うことが出来ない。 硫黄と反応して硫化鉄に変わってしまうからだ。 だから、この硫酸を作るプラントの配管には鉛がコーティングとして厚く貼り付けられている。

 

 今回はただの実験だからアインズさんに手伝ってもらって作った、黒曜石のガラス機材で反応させた。 ビンの中で硫黄を燃やし、出たガスを同量の空気と混ぜ、余熱した後プラチナと接触させ、水に突っ込んだガラス管の先からブクブク泡立たせて反応させた。

 

 あ、そうそう。 硫黄ガスが硫酸に変わるこの反応は熱を発生させる。 だから、貧弱な設備で希硫酸ではなく、横着して濃硫酸を作ろうとすると事故る。 気を付けましょー。

 

 工業ラインに乗せるとしたらこんな感じ。

【挿絵表示】

 

 

 これで出来た硫酸で骨を溶かせば、過リン酸石灰って言う優秀な肥料が作れるんだ。 骨の主成分はリン酸カルシウムで、硫酸と反応させて過リン酸石灰にすると肥料としての能力が増すんだぜ! リン肥料は枯渇が心配される程貴重な物質だから、これはでかい。

 

「……なぁ、ドクトル」

「ん? なんぞ?」

「クリエイト魔法では酸を作れないのか?」

「…………あー」

 

 ハ、ハハハ。 そんなばななかな。 いやいやいや、酸を作るのはアルカリよりも大変なのがあたり前なのだよ。 だから魔法で作るなんて……そんな……

 

「これで出て来たのが硫酸だったら……いっそ笑えるな。 <普通材料創造・酸(クリエイト・コモン・マテリアル・アシッド)>」

 

 黒曜石で作ったボウルの中に、透明な液体がタプンと注がれた。 見た感じで…は……うん、わからん。

 

「もし、この酸が濃硫酸だったらこいつ  」 俺は紙片を取り出した。 「  を入れると脱水が起きて炭化する。 つまり真っ黒に焦げちまうんだ」

 

 紙片に液を付ける。

 

「……変わらんな」

「変わりませんねぇ」

「変わんねーなぁ」

 

 液をつけた紙片に変化は無かった。 って事は希硫酸か塩酸か。 硝酸だったらスゲー嬉しいけど……まさか酢酸じゃぁねーだろうな。 だったとしたらMPの無駄以外なにものでもないぞ……

 

 まさか酸じゃない別の液じゃないだろうな……と、思ったので今度は鉄片と錆びた銅を入れてみる。 すると、鉄片がブクブクと泡を立てて激しく反応し始めたではないか!

 

 俺は「おいおいマジかよ……」と、苦笑いを浮かべながら、火の付いた木片を近付ける。 すると、案の定パチパチと破裂するような音がした。 そして、僅かに感じ取れた特有の刺激臭。

 

 うん。 間違いない。 この発生している気体は水素だ。 酸に鉄が溶け、銅錆で色が変わらない……つまり、このクリエイト魔法で作った酸は  

 

「あ゛あ゛~~……よりにもよって濃塩酸かよぉ~~っ! 微妙すぎんだろーがよぉー……はぁ」

「今の……鉄が酸に溶けた現象で、コレが何の酸なのか解ったのですか?」

「決定打は匂いだけどね……」

 

 MPを対価にして作り出した酸の微妙さに俺が頭を抱えていると、守護者達が不思議そうに質問してきた。 ああ、そうか。 ユグドラシルの時は、なんでも溶かす酸vs耐性付加装備の戦いだったから、このイオン化傾向の違いで溶ける溶けないが決まる性質は不思議に思えるっちゅーことか。 まぁイオンとか普通知らないのがあたり前だからいいんだけどさ。

 

 溶かす仕組みが理解できれば、そこまで不思議な現象じゃないんだけど……例えば、塩酸はイオン化傾向の大きいコンクリートのカルシウムとか、鎧や武器に使われている鉄。 そしてブリキ缶の亜鉛、トタンの錫、カリウムはよく溶ける。 逆に、銅や金、白金などのイオン化傾向の小さい物資は溶けないんだ。

 

 ちなみに、塩酸の場合は銅の錆と反応して塩化銅に変わるから、塩酸で銅を磨くと錆だけ取れてピカピカになるぞ。

 

 今考えると、酸性の物資で安定した物資である岩石が、酸の魔法でシュゥーッて溶けるのは不自然だった。 酸で、珪素と酸素で出来た地面は普通溶かせないからね……出来なくはないけど。 それに、出てきた気体も気になる。 あの泡は何だったんだ? 酸素か?

 

 考えれば考えるほど変すぎる世界観だったが、ゲームの世界にそこまで求めるのも酷だってことかね。 あんまり厳密にプログラム組むと、ゲーム通り越してシミュレーターになっちまうからな。 まぁ演出って大事だし、何事も程々がいいのさ。

 

「まぁ、普通は不思議に思うよね……ええと、何処から説明したものか。 ……物質ってのは全部元素ってモノで出来ててね?」

「全て? でしたらこのスケルトンも、墓石も、砂もですか?」

「そうだぜ? 空気も水も、それこそデミウルゴスやマーレ君も、ぜーんぶ元素で出来てるんだよ。 ……一部怪しいのもあるけど」

 

 魔法の存在がややこしさを増している。 と、その後に続けた。

 

「全ての物質は1つの物から出来ていて、1つの物で全てが作れる……っていう、錬金術の基礎になった考えがあるんだけど  

「それは、タブラ・スマラグディナ様が仰っていた『全は一・一は全』と言うものね?」

「おっ、察しがいいねアルベド。 ……って、なんか風呂上りっぽい?」

 

 恭しく3階層に現れたアルベドの肌は上気し、濡れ羽色のロングヘアはより一層深みを増していた。 白いドレスは洗いたてのように、シミひとつ無く真っ白だ。 これで息切れして無かったら、急いで仕事終わらせたんだろうなぁと、想像すら出来なかっただろう。 ……いやちょっと待て。 これ本当に息切れかコレ?

 

「アインズ様に汚れた姿でお会いするのは不敬と言うものでしょう? そ・れ・に。 偶然!  ええ偶然、アインズ様も風呂上りなようですし?」

 

 偶然の言葉を何度も強調しながら、アルベドは100レベル近接職に見合うだけの体裁きでアインズさんとの距離を詰めた。 巧みに逃げ道を塞がれ、退避出来なかったアインズさんの腕を取り、アルベドは彼の腕に胸を押し付けている。 むう、鮮やかなる『当ててんのよ』攻撃だ。 フェイントを織り交ぜた、氷上を滑るような動きで距離を詰められたアインズさんは、全く反応できずに為すがままだった。 ……おっと、嫉妬マスクの出番ですかこれは?

 

「このまま2人で寝室へ~なんて、お誘いを……」

「……行かないぞ?」

「ですよねーわかってましたー」

 

 アルベドは、サキュバスらしい下半身を中心とした作戦でアピールしているが、どうやらアインズさんみたいな堅物には逆効果らしい。 にべもなくサラッと断られた彼女は、落胆した様子で肩を落とした……が、アインズさんの左腕に抱きついたまま離れない。 腰の翼が小さくパタパタしている所を見ると、これはこれで満足しているらしい。

 

 ふーむ……感情表現が犬みたいで、中々可愛らしいな。 彼女の製作者は中々にツボを抑えてらっしゃる。

 

「全く……どうしちゃったんだアルベドは。 ドクトルの馬鹿が移っちゃったのか?」

 

「ん? アインズさん今なんか言った?」

「いいや何も言ってないとも!」

 

 おかしいな? 今、名前を呼ばれたような気がしたんだけどな。 そう疑問に思って、首を捻って記憶を掘り起こそうとしていると  

 

「さ、さあドクトル! 話の続きを進めてくれ!」

 

 アインズさんが話の続きを急かしてきた。 おっと、そうだったぜ! 元素の話をするんだった。

 

「元素は約138億年前の宇宙開闢(うちゅうかいびゃく)によって出来たんだ。 昔過ぎてあまり詳しくは解ってないけど、そん時に突然空間が膨らみだしたらしい」

「確か『ビッグバン』という現象が起きたんだったか?」

「そうそれ。 そのスゲー安直な名前の現象がおきて、空間と時間の概念が生まれたんだ」

「……此処にブループラネットさんが居ないのが悔やまれるな」

 

 アインズさんはやや俯き、悔しそうに……そして寂しそうに呟いた。 ……のだが、左腕にアルベドをぶら下げたままでは全く様になってないぞ……って、おや? デミウルゴスがものすごい形相でアルベドを睨みつけて、それに対抗するように勝ち誇ったような笑みをアルベドが浮かべているぞ?

 

  !」

 

 ははーん、そういう事か。 成るほど成るほど、アインズさんも罪作りな男だぜ。 まさかソッチからもか。

 

 へぇ~~っと、そうやってニヤニヤ笑いながら2人を見ていると、俺の視線に気付いたのかアインズさんはアルベドをベリベリと引き剥がした。 

 

「……そん時に生まれた元素が『水素』と『ヘリウム』で、比率が12対1になったんだ。 まだそん時の宇宙は熱々で、37万年かけてゆっくりと冷えたんよ」

「さっ37万年、ですか……す、すごいのんびりとした所なんですね、宇宙って」

「これでも早いほーなんだけどなぁ。 天文学とかだと億年とか光年とかフツーに出てくるからよー……なんつーか、中二病みたいな感じさ。 宇宙ってね」

「その元素が全ての物質の元となったのね?」

「いえす。 宇宙がゆっくりと冷え、ガスが引力によって集って塊になり、星が生まれた。 んで、高温高圧になったガスの塊の中で  

 

 取り出した元素周期表の1番上の左と右を差した。

 

「原子番号1番の水素が2つくっ付いて、原子番号2番のヘリウムへと変化した。 これが核融合反応つーヤツで、物質そのものを純粋なエネルギーに変えるスゲーヤツさ」

「つまり、水素こそが『全は1』なのね?」

「いや、その水素を作ってるのが原子っつーヤツで、陽子・中性子・電子のセットで出来てるんだ。 だから『全は原子で、原子は全』って感じかな? 多分ね」

「多分なのか」

「これ以上は勘弁してくれよアインズさんよぉ~~っ。 これ以上は小さすぎて観測が難しいんだぜ? 眉唾な情報も多いし、ひとまずそういう事にしといてちょうだい」

 

 俺は元素周期表に指し棒を滑らせ  4番、6番、8番、10番を示した。

 

「ヘリウムが2つ集まると4番のベリリウムに。 3つ集まると6番の炭素に。 4つで酸素。 5つ……ネオン」

「なるほど、そういう事ですか。 この元素周期表に書かれている物全てが、原子の融合によって生まれたのですね? つまり……この79番の『金』までもが融合反応で出来たと言う事ですか……」

「金の……合成、か」

 

 ポツリとアインズさんが呟く。 そして、ザワリ  と。 いつの間にか講義みたいになっていた会話を聞いていた、一般メイド達や守護者の部下達が気色立(けしきだ)った。 それもそうだろう。 これこそが、この科学の産物こそが……つまり  『錬金術』なのだから。

 

 奇妙な熱気に包まれた墳墓の中で、俺は彼らの眼を覚まさせるためにパンパンと手を打った。

 

「錬金術の悲願ここに現れり、だけどね。 まだ続きがあんのよ続きが。 この核融合反応で作れるのは26番までの鉄までで、それ以上重い元素は作れないんだ」

「!?」

 

 皆が皆、ハァ? って顔をする。 じゃあこの金貨はなんなんだ? って言いたいのだろう。

 

「これ以上は温度と圧力が足らない。 だから、27番のコバルトから92番までのウランを作るには……星の死  

 

 握った両手を放射状に広げ、爆発を模したジェスチャーをする。

 

「超新星爆発が起きた時に作られるのさ。 だから量が少なくて貴重なんだ……この元素はね」

「1つ思いついたのですが、博士」

「ん? なんだいデミウルゴス」

「星の死によって飛び散った破片が集まり、また死に、そして生まれたのが我々のいる星だとしたら  

 

 地球が生まれたのは3世代目らしいが、話の腰を折るのでそれは突っ込まない。

 

「……宇宙を探せば金で出来た隕石も見つかるのではないでしょうか?」

 

 皆の注目が俺に集まる。 視線で穴だらけにされそうなほどに。

 

「確かに、大部分がダイヤで出来た星や……金を多量に含む小惑星が見つかったこともあるぜ」

「ならば魔法でその隕石を持ち帰れば  

「いや、無理だよ。 小惑星は太陽みたいに光らないし、衛星や惑星と比べて凄く小さい。 見つけるのすら苦労するし、それに何より距離が遠すぎるんだ」

 

 天文学の本に書かれている図では近そうに見える、地球から最も近い星  月。 その月ですら地球から35万キロも離れている。 例えるなら地球の直径の6.5倍程だ。 地球から最も近い火星に行くのですら、高速ロケットで片道8ヶ月から3ヶ月かかるくらいだ。 夜が明ければ明るく照らしてくれる太陽ですら、()()()()()()()()()()()()到達するのに7分掛かるくらい、宇宙は遠い。 魔法で飛んで行ったとして、その速度はどれくらい速いんだ? 時速100キロか? 200キロか?

 

 物体が地球の重力を振り切るのに必要な速度  第一宇宙速度は秒速7.9km。 太陽の周りを地球のように回る第二宇宙速度になるには毎秒11.2km必要なんだ。 そして、太陽系の外に行く第三宇宙速度にはもっと加速しなければならず、毎秒16.7kmも必要。 宇宙を隔てるのは、ただただ広がっている距離の暴威。 宇宙はそんなに甘くないのだよ。

 

「行って、帰って来るころには全部終わってるかもしれないけど……それでも行く?」

「……できれば遠慮したいですね」

 

 珍しく、デミウルゴスは苦笑いを浮かべた。

 

 そういえば、どこぞの究極生命体(アルティミット・シイング)さんは宇宙空間で考えるのを辞めていたけど……真上に飛ばされて返ってこれなくなるためには、この第二宇宙速度になる必要があるわけで……それに、昔のアニメで手から出たビームで、太陽に敵をブチ込むシーンあるけど……あれ光の速さでブッ飛ばしたとしても7分掛かるんだよねぇ。 なんか一瞬で到達したように見えるのは気のせいか?

 

 あと、ロケットが太陽に向かって加速していって突っ込むとか。 実際に太陽に突っ込みたいのなら、地球は太陽の周りを公転しているのだから加速するために『太陽に向かってロケットを噴射する』のではなく、真横に向かって『減速するために』噴射するべきだね! そうすれば遠心力が打ち消されて、無事太陽で泳げるのに!

 

 ……まぁ漫画だからいいか。 俺は深く考えるのを辞めた。

 

 

 

 

「ならば転移の魔法を使えばいいでありんす。 探査魔法で位置を確認したら、わたしが距離無限の<転移門(ゲート)>の魔法を使えばすぐに行って帰って来れんしょう? 宇宙に空気がありんせんでも、呼吸不要のわたしは大丈夫でありんすぇ?」

 

 俺は斜め上を眺めて考え込んでいたが、話しかけられた声に気付いて視線を戻すと、そこには何時の間にかシャルティアがいた。 まぁでも第3層はシャルティアの領域だし、これだけ騒げば気が付くか。

 

「……それなんだけどねぇ。 <転移門(ゲート)>の魔法って、そもそも一体何なんだろうか?」

  ? 魔法は魔法でありんしょう?」

「一回訪れたことのある場所や、魔法で位置を確認した場所に、空間が繋がった転移門をつくる魔法……だよな?」

「その通りだ」

 

 俺が、ユグドラシルの魔法に詳しいアインズさんにそう言って確認をとると、肯定の返事が返って来た。

 

「それってさーよくよく考えるとおかしいんだよ」

「だから何処がおかしいのでありんす?」

「地球はクルクル自転しているワケだろ? さらに太陽の周りを公転してるわけだし、その太陽だって渦巻く銀河を漂ってるわけだ」

 

 地球儀をベシンと弾くと、抵抗無く青色の玉は回転しだした。 地球儀を持ち上げ、横に歩きながらクルリと一回転。 1年の動きを示す。

 

「移動している馬車に繋げようとすると失敗するのに、なんで移動・回転している星の上で成功するんだ!?」

  !!」

 

 アルベドとデミウルゴスが、ハッと息を飲んだ。 マーレ君は「なんとなく言われてみればそうかも」と言っているが、当の本人であるシャルティアはポカンとしている。 アインズさんは  ちょっと表情が読めない。 ずるい。 さすが骸骨、ずるい。

 

「何を基準にして<転移門(ゲート)>を繋ぐ場所を決めているんだ……?」

 

 俺はそう、ひとりごちた。 しかし、答えは返ってこない。

 

   右手ひと指し指を立てる。

 

「仮説1。 <転移門(ゲート)>は、木の枝に結ばれた風船のように俺達と一緒に移動している」

 

   中指を立てる。

 

「仮説2。 <転移門(ゲート)>は、俺達から見て動いていないように見える点P……つまり、この星の中心を基準とした座標に固定されている」

 

 もし、<転移門(ゲート)>の仕組みが仮設1だったら何も問題ない。 月にも、火星にだって日帰り旅行できるだろう。 ただし、得られるものは石コロだけで意味無いが。

 

 しかし。 もし、仮説2だったら? 空間を繋げた向こう側で見る景色が、猛スピードで過ぎ去っていく惑星の姿だったらまだマシだ。 もしかしたら、音速の数倍の速度で惑星に叩き付けられるかも知れないし、()()()()()()()()かもしれない。 これは危険すぎる。

 

 そして  仮説3。 天動説の三文字が脳裏をよぎる。 これは……正直SF過ぎて馬鹿馬鹿しくなる説だろう。 俺は、考えるまでも無いと一笑に付した。

 

「アインズさんは、どう思うよコレ」

「……不確定要素が多すぎて結論が出せないな。 実験するにもリスクが高く……この方法は現実的ではない、か」

 

 俺は、アインズさんの慎重な姿勢に満足そうに頷く。

 

「逸れた話しを戻すぜ。 原子は、陽子・中性子・電子のセットで出来てるんだが、この原子の構造は図にするとこんな感じだ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 原子核の周りの、土星の輪みたいなのは電子殻と言って、内側からそれぞれ K殻・L殻・M殻・N殻・O殻・P殻 と言う。

 

 んで、入る電子の数はそれぞれ、2個・8個・18個・32個・50個・72個入るんだ。

 

「こんな感じで、陽子と中性子が集まって出来た原子核の周りを、ブンブン電子が飛び回っているのが原子の構造ってワケだぜ」

「ふーん。 まるで惑星の引力に捕らわれ、周りを回る衛星のようだな」

「そう! その通りだぜ!」

 

 正解だ! と、アインズさんに拍手を送る。

 

「この原子核の周囲を回る電子にはスゲー強い引力が働いているんだぜ? 例えば  

 

 水素原子2個がくっ付いた分子が1モル……つまり2gの水素分子あるとして、この引力を断ち切るためには435キロジュールのエネルギーが必要なんだ。 わかりやすく言うと、1リットルの0度の水を沸騰させるくらいのエネルギー量だ。 それくらい強い力で分子ってのはくっ付いてるのだ。

 

 逆に、それだけ強い力が働いているからこそ、ある物質と物質を混ぜただけで激しい反応が起きたりするし、安定した物質を引き離すには沢山のエネルギーを必要とするんだ。 例えば、水の電気分解とか、酸化した鉄を還元するとかね。

 

 さらに、原子には奇妙な性質があって  

 

 ①一番外側の電子殻の数を定員まで満杯にしたい。

 ②一番外側の電子殻に入る電子を8個入れたい。

 

 という性質があり、この条件を満たすと安定した物質になるんだ。

 

 だから、例えば1個の電子を持っている水素はもう1つの水素とくっ付いて、K殻の中の電子を2個にして①の条件を満たそうとする。 んで、そこへ電子を8個持つ酸素があると、原子同士で電子を融通して、擬似的に①と②の条件を満たそうとするんだ。 だから水は安定してるのさ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ちなみに、原子単体でこの条件を満たしてるのはたった6種類しかなくて、それを『希ガス』って言うんだが……うーん、キセノンガスとか聞いた事無いかなぁ? ないよなぁー……あの教育システムじゃぁなぁー……はぁ……

 

 

 

「これで、電子のやり取りを行なうことで物質の組み合わせが決まる仕組みがわかったかな?」

 

 皆が頷く。

 

「よしよし。 んじゃあ次に、イオンについて説明するぜ。 この例に挙げた原子は、陽子の数と電子の数が同じだからプラスとマイナスが打ち消しあって電気を帯びてないんだ」

「ふーむ。 陽子の数は、電子の数といつも同じなのだな」

「そのとーり。 だけど、元素はいつも安定したがってるから、要らない電子を他の原子に押し付けてプラスイオンになったり、逆に必要になった電子を他の原子から奪ってきてマイナスイオンになったりするんだ」

「とすると、博士。 その原子の陽子の数と電子の数のバランスが崩れてしまいますね」

「そう、崩れるんだ。 陽子よりも電子が多いとマイナスに帯電して、少ないとプラスに帯電する。 これを『イオン化』っていうんだぜ」

「先程言っていた、イオン化傾向の事ですね?」

「いえす。 マグネシウムも鉄も、最も外の電子が2個しかなくて、その電子を何かに押し付けたがっている。 だから鉄が塩酸に触れると、塩素と水素の結びつきをむりやりひっぺがし、鉄が塩素とくっ付き塩化鉄に。 追い出された水素は気体となって液の外に追い出される……と言うわけだぜ」

 

 よくアニメやマンガなんかで重力や引力を操作する特殊能力が~~とか、そんな超能力もったキャラクター出てくる作品あるけど……もし引力操作できるんなら、触れた物質を原子レベルで分解したり再構築したりするほうが強いと思うんだけど。 ……マンガでそんなガッツリ科学したら、そっ閉じされちゃうか。

 

「マイナスイオンと言えばドクトル。 『向こう』でそんなモノを発生させる機械があったが  

「あーダメダメダメ。 クソだクソ。 あれは詐欺以下のゴミ」

「そこまで言う!?」

「何かの原子が、電子を他から奪ってきた状態のモノを『負に帯電した○○イオン』って言うのであって、何のマイナスイオンなのか言わない時点で論外だよ」

 

 昔っから流行っていた、エセ科学の詐欺商品を売りつける悪徳業者は何処にでもいるぜ。 買う側の『科学への絶対的信頼』を利用した、カスみたいな売り方だ。 そんな技術を発展させないで儲けようだなんて考えで売ろうとするヤツが、コツコツと研究を続けてきた他社に後々になって追い抜かれシェアを奪われるのはあたり前だ。

 

「例えるんならそうだな……よし、焼肉で例えるとー」

「よりにもよって何で焼肉なんだ。 食いたいのか?」

「家電屋が、『この掃除機にはマイナス焼肉(イオン)発生装置が組み込まれていて、このボタンを押すとマイナス焼肉(イオン)が出てきます』って言ったとする」

「焼肉がで出てくる掃除機ってなんだそれ。 掃除したいのか散らかしたいのかどっちなんだ。 それとマイナス焼肉って何だ」

「そこで俺が『肉の種類は何だ』って聞くと、その業者は『マイナス焼肉(イオン)です』って言いやがる。 テメーふざけんなよと」

「いや、ふざけてるのはお前だろう」

「そのマイナスに帯電した(イオン)はなんの(イオン)なんだと。 ビーフ(金属イオン)ポーク(窒素酸化物)チキン(水酸化物)のどれなんだと言いたいんじゃ!」

「誰なんだお前のその口調は。 言えばいいだろう勝手に」

「言ったよ! 言ったら言ったでマイナスイオンだって言いやがったんじゃ!」

「本当に言ったのか勇者だな」

 

 半笑いで、アインズさんはスゲェなと言った。

 

 ……ふぅ。 なんか、好き勝手言ったらスッキリしたぜ。

 

「まあ、あんなやつらの事なんてどーでもいいさ。 それよりも今は肥料だよ肥料! 食料に関する技術は時代関係ないし、買い手も多いぜ」

 

 時代にあった商品を作るのはとても重要だ。 石器時代に乗用車作っても誰も買わないだろう?

 

「そうだな。 質のよい作物が取れたなら、ナザリックの維持費削減にも回すとしよう」

「その辺俺わかんねーからアインズさんに任せるぜ」

「リン肥料は……確か砕いた骨を硫酸と混ぜるんだったな」

 

 アインズさんは数体のデスナイトに、スケルトンを砕けと言う。 すると、命令を受けたデスナイトは控えめなオァァアアで了承の意思を伝え、硬そうな骨を乾いた泥を素手で細かく砕くように擦り潰していく。

 

 そうして出来た骨粉に硫酸を加えると、骨粉はシュゥ  ッと激しく反応して100℃くらいの温度まで上がり、自前の熱で反応を進めていく。 こうして、反応が落ち着くまで待てば、泥のように灰色になったリン肥料が手に入るのだよ。 成分は『リン酸2水素カルシウム』と『硫酸カルシウム(石膏)』だ。

 

 過燐酸石灰は、世界で一番最初に生まれた化学肥料だ。 リービッヒっていうドイツ人科学者が1840年に発見し、世界初の化学肥料製造工場をロンドンに建設したのが始まりだ。 この辺りの時代のドイツ人はモリモリ色んな物を発明するが、生きるチート人間なので気にしないほうがいいぞ。

 

「さて、と。 後は作った肥料のテストをしなきゃならんのだが……」

 

 第6階層の実験農場はマーレ君が魔法で富栄養化させちゃったから実験にならないし……そもそもこの肥料の売り先は地上だし……今から開墾するのも面倒だなぁ~っ。

 

 と、言うことで。

 

「場所がねえわ」

 

 とりあえずアインズさんに相談してみる。 すると、すぐさま答えが返ってきた。

 

「肥料の効果が知りたいのなら、カルネ村の畑を借りればいいだろう?」

 

 おお! 言われてみれば、あの村を助けたのはアインズさんだったぜ。 見ず知らずの農家に畑貸してくれなんて言っても、胡散臭そうな顔して誰も貸してくれないだろうが、カルネ村ならアインズさんが休耕地を一部借りたいと言えば快く貸してくれる。

 

「おお、流石はアインズさんだぜ。 んじゃぁ早速……っと言いたい所だけどアインズさん」

「ん? なんだ?」

「服。 チェンジで」

 

 ザ・金持ち   そんなイメージの服に着替えてきてちょうだいと言う。

 

「……それ、必要か?」

 

 サラリーマンスーツ、もしくは落ち着いた色合いの服装が好きなアインズさんは不満そうな顔を   出来てないが   した。

 

「もち。 話の進めやすさにスゲー関わるから、マジで頼むよ」

「……はぁ。 仕方ないか。 了解した」

 

 深呼吸を兼ねた深い溜息を1つ吐くと、彼は覚悟を決めた。

 

 指輪の能力で、禁じられた場所に転移の渦を作り出したアインズさんは、短く「行くぞ」と告げ暗黒の渦に身体を滑り込ませる。 気乗りしないしない様子の彼と、後を続く目を爛々と輝かせたメイド達   それと夢魔と吸血鬼   の対比が印象的だな、と俺はそう思ったのだった。

 

 

 








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