翌日、宮藤とリーネは基地の上空を並んで飛行訓練していた。綺麗に飛ぶリーネの横で、宮藤はまだ不安定に飛んでいる。
地上ではミーナと坂本、そしてシュミットが見ていた。
「うーん、なかなか上達しないわね」
「魔法力は高いんだが、コントロールができていないんだあいつは」
「宮藤は魔力運用からやはり指導すべきですかね?」
「そうだな」
ミーナと坂本が宮藤の飛行する姿を見て言い、シュミットが今後の課題について言う。
「リーネさんは相変わらず訓練ではうまくやってるわね」
「私がいない間にシュミットが指導してくれたおかげだな。これで訓練の半分でも実戦で出来ればな…」
「リーネはやはり要領がいいと思います。後はあの空回りさえどうにか出来ればよかったのですが…」
リーネに対する評価もする。そんな中でシュミットは自分ではこれ以上は何もできないのかという自虐を心の中でしていた。
「いや、シュミットの指導は十分だ。後はあいつら次第なんだ…」
そう坂本がフォローするが、シュミットはやはり肩の荷が下りなかった。
訓練を終了すると、宮藤とリーネは昨日と同じように滑走路でへばっていた。
「はぁ…はぁ…」
「ふぅ…ふぅ…」
宮藤とリーネは肩で息をする。そんな二人の元に一人の人物が近づいていく。
「バルクホルンさん…」
肩で息をするリーネがその人物の名前を言う。近づいたバルクホルンは腰に手を当て宮藤を見る。
「新人。ここは最前線だ、即戦力だけが必要とされている。死にたくなければ帰れ」
バルクホルンは宮藤に対してきつく言う。そんな言葉に宮藤は応える。
「私は…皆の役に立ちたいと…」
「ネウロイはお前の成長を待ちはしない。後悔したくなければ、ただ強くなることだ」
そう言って、バルクホルンは宮藤達の元から離れていく。そんなバルクホルンを、宮藤はただ見ているだけしかできなかった。
その晩、宮藤は滑走路の先で海を眺めていた。
「宮藤さん?」
と、そんな宮藤に誰かが声を掛けた。宮藤が振り向くと、リーネが宮藤の元にやってきた。
「リネットさん」
その後、二人は並んで滑走路の先で座る。
「ここ、私のお気に入りの場所なの」
「そうなんだ!綺麗な場所だよね」
「うん」
そう言って二人は話し合う。
「今日も怒られちゃった、もっと頑張らないと…」
宮藤はそんなことを言うが、リーネは下を向く。
「宮藤さんが羨ましいな…」
「何が?」
突然、リーネが宮藤のことを羨ましいと言い宮藤は疑問に思う。
「…諦めないで頑張れるところ」
「同じこと通知表に書いてあった」
宮藤はそう言って笑うが、リーネはまだ悲しそうな表情をしたままだった。
「私なんて何の取り柄も無いし、ここに居ていいのかしら…」
「へ?リネットさんあんなに上手なのに」
宮藤はリーネの言葉を否定する。
「ううん、全然そんなことないわ…」
「上手だよ」
「訓練だけだの。実戦じゃあ全然だめで、飛ぶのがやっと…」
「えっ、訓練でできれば――」
「訓練も無しでいきなり飛べた宮藤さんとは違うの!!」
と、ついにリーネが叫ぶ。宮藤はそんなリーネに驚いた。
「っ…ごめんなさい」
リーネはしまったという表情をして宮藤に謝り、そして基地に向かって走り出してしまった。
「リネットさん!」
宮藤が呼ぶが、リーネはその言葉を無視してそのまま走り去ってしまった。宮藤はそんなリーネをたた棒然とみていた。
そんな光景を、基地の隅でミーナとシュミットが見ていた。
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「監視所から報告が入ったわ。敵、グリット東114地区に侵入、高度はいつもより高いわ。今回はフォーメーションを変えます」
「バルクホルン、ハルトマンが前衛!シャーリーとルッキーニは後衛!ペリーヌは私とペアを組め!」
「残りの人は、私と基地で待機です」
『了解!』
翌日、ネウロイが侵攻したため、501基地は緊急出動していた。
ネウロイ迎撃に出動した坂本達を、宮藤とリーネは滑走路から見ていた。
「行っちゃったね」
「そうですね…」
「今、出来ることって何だろう」
「足手まといの私に、出来る事なんて…」
「あっ、リネットさん…」
そう言って、リーネは基地に向かって走って行ってしまった。それと入れ替わるように、ミーナが宮藤の元にやってくる。
「宮藤さん、ちょっといいかしら」
「あっ、はい」
宮藤が返事をし、ミーナが説明する。
「リーネさんは、このブリタニアが故郷なの」
「え?」
ミーナから言われた内容に、宮藤は思わず声を漏らした。
「ヨーロッパ大陸がネウロイの手に落ちているのは知っているわよね?」
「はい、リネットさんに…」
宮藤はリーネに説明されたことを思い出す。
「欧州最後の砦、そして故郷でもあるブリタニアを守る。リーネさんはそのプレッシャーで、実戦だとだめになっちゃうの」
「リネットさん…」
宮藤はミーナの言葉に、リーネのことを思った。
そんな宮藤に、ミーナは質問した。
「宮藤さんはどうして、ウィッチーズ隊に入ろうと思ったの?」
その質問に、宮藤は即座に答えた。
「はい、困っている人達の力になりたくて――」
それを聞いてミーナは微笑んだ。
「リーネさんが入隊したときも、同じ事を言っていたわ」
そう言ってミーナは宮藤に言った。
「その気持ちを忘れないで。そうすれば、きっとみんなの力になれるわ」
ミーナは優しい声でそう言って、基地に歩いて行った。
その頃上空では、出撃した坂本達がネウロイを発見した。
「敵発見!突撃!」
そう言ってバルクホルンとハルトマンがネウロイに近づき、シャーリーとルッキーニが援護する。
しかし、攻撃を受けたネウロイは特に反撃もせず、あっさりと墜落していく。
「手応えがなさすぎる…」
ペリーヌが疑問に思い言う。
「おかしい、コアが見つからない」
「まさか、陽動ですの?」
ペリーヌのその言葉に坂本がハッとする。
「だとしたら…基地が危ない!!」
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「リネットさん」
その頃宮藤は、リーネの部屋の前で立っていた。
「私、魔法もへたっぴで叱られてばかりだし、ちゃんと飛べないし、銃も満足に…使えないし、ネウロイとだって本当は戦いたくない」
宮藤は部屋の前で淡々と言う。リーネはそれをドアの前で聞いていた。
「でも、私はウィッチーズに居たい。私の魔法でも誰かを救えるのなら――何か出来る事があるのならやりたいの」
宮藤はさらに言う。その言葉を聞いて、リーネは表情をさらに沈める。
「そして、皆を守れたらって」
その言葉に、リーネは目を見開いた。
(守る…)
「だから私は頑張る。だからリネットさんも…」
リーネはその言葉に、ドアの向こうにいる宮藤の方に向く。
その時、基地の中をけたたましいサイレン音が響き渡った。
((敵襲!?))
その頃、基地のブリーフィングルームには待機していたミーナとエイラがいた。
「出られるのは私とエイラさん、シュミットさんだけね。サーニャさんは?」
「夜間哨戒で魔力を使い果たしてる。ムリダナ」
「そう…」
「ミーナ中佐、遅れました」
そう言って部屋に入ってくるシュミット。彼は元々夜間哨戒の為に寝ていたが、緊急出動となったため準備していたのだった。
「じゃあ、三人で行きましょう」
「待ってください!」
ミーナが出撃しようとした時、突如別の声が聞こえてきた。声のした方向を見ると、宮藤が立っていた。
「私も行きます!」
宮藤は自分も戦場に出ると言った。しかしミーナはそんな宮藤を真剣な表情で見た。
「まだ貴方が実戦に出るのは早すぎるわ」
「足手まといにならないよう、精一杯頑張ります!」
「訓練が十分でない人を戦場に出すわけにはいかないわ。それにあなたは、撃つことにためらいがあるの」
ミーナの正論には、シュミットも賛成だった。宮藤はまだ訓練が十分とは言えず、銃を撃つことにためらいがある。そんな兵士を危険な戦場に出すことなどとても出来ない。
しかし宮藤は真剣な表情で言い返した。
「撃てます!守るためなら!」
その言葉と表情を見て、シュミットは思わず驚いた。彼の目にはいつもの宮藤ではなく、真っ直ぐと信念を貫こうとする心が感じ取れたのだ。
しかしミーナはそんな宮藤を止めた。
「とにかく、貴方はまだ半人前なの」
「でも…」
と、そこに宮藤の後ろからリーネが現れた。
「私も行きます!」
そしてリーネも自ら行くと言った。その行動には宮藤やシュミットだけでなくミーナも驚いた。
「リネットさん…」
「二人合わせれば、一人分ぐらいにはなります!」
シュミットはそんなリーネの表情を見て、進言した。
「中佐、私は異存ありません。彼女達が自分から出撃すると言うなら」
その言葉にミーナは少し考え、そして決断した。
「90秒で支度しなさい」
ミーナは彼女達の出撃を許可したのだった。
『はいっ!!』
そして5人は基地を出発した。
上空でシュミットは自身の持つMG151/20とMP40の状態を確認していた。その時、ミーナがシュミットに声を掛けた。
「驚いたわ」
「はい?」
シュミットはミーナの言葉の訳が分からず変な返事をした。
「シュミットさんなら、二人の出撃を反対すると思ったから」
「ああ、その事ですか」
そう言ってシュミットは後ろを見る。後ろでは真剣な表情をした宮藤とリーネがいた。
「あの二人の表情を見て、私は彼女達を出しても大丈夫だろうと思ったので…根拠はありませんが」
そう言ってシュミットは再び視線を先に戻す。
そして、彼の強化した目はネウロイをとらえた。
「中佐、ネウロイを確認しました」
「判ったわ」
そう言ってミーナは全員に命令を下した。
「敵は三時の方向から基地に向かってくるわ!私とエイラさん、シュミットさんが先行するから、宮藤さんとリーネさんはここでバックアップをお願いね」
「はいっ!」
「はい!」
その命令に宮藤とリーネは返事をする。
「じゃあ、頼んだわよ」
そう言ってミーナとエイラ、シュミットの三人は先行を開始する。
残った宮藤とリーネはそれを見届けた。
「――宮藤さん」
と、ふいにリーネが宮藤に声を掛けた。
「本当は私、怖かったんです…」
リーネは宮藤に不安をぶつける。
「私は今も怖いよ。でも、うまく言えないんだけど…何もしないでじっとしている方が怖かったの」
「何もしない方が…」
リーネは宮藤の言葉を聞いて考えだす。
その頃、先行したシュミット達はネウロイと交戦し始めた。
それぞれの火器を撃つシュミット達だったが、ネウロイの速さに思うように当たらなかった。
「速い…」
エイラが思わず呟く。
「なんてスピードだ。弾が当たらない…」
「今までより圧倒的に早いわ…一撃離脱じゃ無理ね。速度を合わせて!」
「ん!」
「了解!」
そう言ってシュミット達はネウロイの速度に進行方向を合わせる。そして攻撃を開始する。
バックアップにいた宮藤とリーネはその様子を遠くから見ていた。
「…ネウロイ?」
「そうみたいです…」
「近づいてくるよ!」
「わっ!!」
宮藤の言葉にリーネは慌ててボーイズMk.Ⅰ対装甲ライフルを構える。そして照準器を覗きネウロイを見た。
「落ちろ…!」
シュミットはネウロイに対して強化したMP40の弾丸を撃ち込む。ミーナとエイラも、ネウロイに対して弾を撃ち込んでいく。
すると突如、ネウロイは自分の体を切り離し、さらに速度を上げた。
「加速した!」
シュミット達は分離したネウロイの胴体を回避して体制を立て直すが、ネウロイは急激な加速でシュミット達を引き離しにかかった。
「速すぎる!まずいわね!」
ミーナの言葉を聞いてシュミットは自身のユニットに強化をかける。強化のかかったFw190はネウロイに対して引けを取らない速度で加速する。
「もう少し…もう少し…」
シュミットはMG151/20を構える。そして、ネウロイが射程距離に入ったと同時に引き金を引いた。しかし…
「なっ!?」
突如、シュミットのユニットから黒煙が上がった。いつも以上に強化をかけたことによる内部破損だった。
シュミットは舌打ちをしながらミーナに報告した。
「すみません中佐!ユニット故障、黒煙が上がりこれ以上の追跡不能です!」
シュミットはミーナに報告する。ミーナはそれを聞いて宮藤とリーネに無線をつなげる。
「リーネさん、宮藤さん!敵がそちらに向かっているわ!貴方達だけが頼りなの、お願い!」
ミーナは宮藤とリーネにネウロイを託した。シュミットは事の成り行きを見守った。
そして、ネウロイは撃墜された。
リーネの飛行時の不安定な射撃を、宮藤が肩車することによって支え、リーネの放った六発の弾丸が高速移動するネウロイを撃ち抜いた。そして、コアを破壊されたネウロイは破片になって砕け散った。
「当たった!!」
リーネは初めてネウロイに弾を命中させ撃墜したのだ。
「すごーいっ!!」
宮藤はネウロイが砕けるその光景に目を奪われた。
「やった!やったよ宮藤さん!私初めて皆の役に立てた!宮藤さんのおかげだよ!!ありがとう!!」
リーネは興奮して宮藤に抱き着く。それによってバランスを崩した二人はホバリングできず海の中に落ちていく。
「あははははははは!」
宮藤とリーネは海から顔を出して笑い合う。
と、突然宮藤が笑顔でリーネに話した。
「“芳佳”でいいよ!私たち友達でしょ?」
その言葉を聞いてリーネも笑顔になる。
「じゃあ、私も“リーネ”で!」
それを聞いて宮藤が笑顔で返した。
「うん!リーネちゃん!」
「はい!芳佳ちゃん!」
そう言って、またリーネは宮藤に抱き着いた。
「あははははははは!」
そんな宮藤とリーネの元にミーナ達が合流する。尤も、シュミットはユニットが不調になったためエイラに肩を借りている。
「一件落着ですか、中佐?」
「そうね」
シュミットの問いにミーナも笑って返した。シュミットはリーネが笑顔になったのを見て心の中で安心したのだった
うーん、やっぱりシュミット君の出現回数が減るなぁ。