「扶桑から援軍の予定だった雁淵孝美中尉に代わって、妹の雁淵ひかりさんが配属になりました」
「雁淵ひかりです!姉の代わりに頑張ります!」
ロスマンに紹介され、自己紹介と決意表明をする雁淵ひかり。
あの戦闘の後の夜、雁淵孝美中尉が負傷により戦闘不可能状態となってしまい、本来ならカウハバへの移動予定であった妹の雁淵ひかりが着任することになった。
本来ならひかりがこの基地に配属されるとは考えられないため、シュミットは一体ラルが何をしたのか気になったが、聞きづらいことでもあり黙っていることにした。
「…ケッ!」
そんなひかりの自己紹介を見て、管野がそう漏らす。
(あの反応…管野は新人が来るたびにあんな反応なのか?)
と、シュミットは初めて来たときと同じような反応をしている管野を見て、あれが通常なのかなと考える。
そしてひかりの自己紹介に続きラルが自己紹介をする。
「私が502隊長のグンドュラ・ラルだ。階級は少佐だ」
「私は戦闘隊長のアレクサンドラ・イワーノヴナ・ポクルイーシキン。大尉です」
「ヴァルトルート・クルピンスキー中尉だよ。伯爵と呼んでくれるかな?」
ラルに続きサーシャとクルピンスキーが挨拶する。クルピンスキーは相変わらず伯爵と呼ばせようとしているようである。
「伯爵…そんな偉い人が!?」
「そいつの伯爵は偽物だ」
「シュミットさんの言う通り、この人の冗談には付き合わなくていいわよ」
「ひどいな~、狼君に先生~」
どうやらひかりは以外と純粋なのかもしれないとシュミットは思いながら、すぐさま真実を告げる。それに同調するようにロスマンも言う。クルピンスキーはそんな二人に心外だという様子だが、声は特に気にした様子では無かった。
「狼君に先生…?」
「私はエディータ・ロスマン、曹長よ。この隊の教育係をしているわ」
「私はシュミット・リーフェンシュタール。階級は中尉で、狼君ってのは私の使い魔に関係した中尉の呼び方だ」
クルピンスキーが言った二人のあだ名に雁淵が疑問の声を漏らすが、すぐさまロスマンとシュミットは自己紹介をする。
「ジョーゼット・ルマール、少尉です…」
「下原定子、少尉です」
それに続くようにジョゼと下原が自己紹介をする。しかしジョゼはひかりに対して何故か目を合わせずすこし下を向いていた。
そして次は管野の自己紹介である。
「……」
しかし管野は自己紹介する気が無いらしい。シュミットの時と同じ反応だ。
「管野の番だよ…」
「知るかよ…ふん!」
ニパが管野に言うが、管野はやはり自己紹介する気はないらしい。それどころかひかりの方向を見るや睨む。睨まれてひかりも睨み返す。そんな悪い雰囲気を感じ取ってか、ニパがすかさず立ち上がる。
「えっと…隣は管野直枝少尉。私は曹長のニッカ・エドワーディン・カタヤイネン。ニパでいいです」
「はい、紹介は終わり。食事にしましょう」
最後にニパが自己紹介をし、食事に移った。
そしてそれぞれが食器を鳴らす中、クルピンスキーが声を掛ける。
「ねぇ雁淵さん。ひかりちゃんって呼んでいいかな?」
クルピンスキーはひかりに尋ねる。シュミットは反応が無いのに気づき顔を上げる。
「あれ?」
クルピンスキーも気づく。雁淵はスプーンを手に持ったままの姿勢で目を半開きにしながら舟を漕いでいた。
その様子に下原が驚く。
「ね、寝てます!?」
「子猫ちゃんは、よっぽど疲れてるのかな?」
「まぁ、初戦闘で疲れない人はいないでしょうし。しかしまぁ見事に舟を漕いで…」
「ふふふっ」
クルピンスキーの言葉にシュミットはフォローする。しかしその姿は中々どうして、見事なまでに典型的な形であろうかと感心しており、ニパはそんな姿に思わず吹く。
「何がおもしれえんだよ…」
そんな様子でも管野はパンをかじりながら愚痴るのだった。
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翌日、ひかりは朝早くから走り込みをしていた。彼女は姉である孝美のようなウィッチになることを夢見ており、そのためには努力を惜しまない子でもあった。
そんな風に走り込みをするひかりの後ろから、追い抜く二人の人影が居た。
「おはようございます!」
ひかりが挨拶をする。挨拶をし返した相手は管野とニパだった。ニパはその声に返事をした。
「おはよう、自主トレ?」
「はい!」
「おせえぞ、ニパ!」
管野はニパが遅れていることに注意をする。
「なんだよもう~…」
注意をされてすぐに戻る二パ。ひかりの前をペースを上げて並んで走る二人。そんな姿にひかりは感化され、ペースをさらに上げる。
それに気づくニパ。
「あれ?雁淵さんついてくるよ?」
「ふん…!素人が俺達のペースについてこれるわけねぇ!」
そして管野もペースを上げる。雁淵に追い抜かれないように。突然ペースを上げた二人にニパは付いていくことができなくなる。
そして階段を上がりきる時にはひかりは管野を追い抜いていく。
「おい!てめぇ!」
管野が大声を上げる。それに気づきひかりも止まる。
「俺は認めねえからな!お前なんかじゃ孝美の代わりは務まらねえ!あいつと俺でネウロイの巣をぶっ潰すはずだったんだ!なのに…てめぇが弱えから…!」
「そうです…!」
管野が繰り出す口撃にひかりも言い返す。
「私のせいで…私が弱いからお姉ちゃんは…。でも頑張って絶対強くなります!」
「頑張るだけで強くなれりゃ世話ねえんだよ!今必要なのは即戦力だ!」
「やってみなきゃわかりません!」
「何をもめているんだ」
ますますヒートアップしていく口喧嘩は、第三者によって止められた。
「えっと…」
「シュミットだ。んで、何をもめているんだ?」
止めに来たのはシュミットだった。外に出てきたシュミットは朝早くから大声が聞こえてきたので駆けつけると、ひかりと管野が口喧嘩をしている姿が見えたのでやって来たのだ。
と、そこに遅れていたニパも到着する。
「ちょっと二人共、シュミットさんの言う通り喧嘩はよそうよ。仲間なんだし…」
「仲間じゃねえ!」
ニパがなだめようとするが、管野にそれは逆効果だった。
「弱え奴は他の奴まで危険にさらすんだ。仲間ごっこしてえならさっさと扶桑へ帰れ!」
「ちょ、ちょっと管野!」
そう言って管野は走って行ってしまう。ニパが止めるがそれでも立ち止まらなかった。
「管野は口は悪いが悪人じゃないさ。あいつはあれでも必死なんだ。ひかり、私はお前を仲間と思っているから安心しろ」
シュミットがフォローする。
「分かってます…私がもっと強ければ…」
だが、ひかりも自分が弱いことに自覚があるらしく、フォローしてもそのことを気にしていた。
しかしシュミットとしても、管野の言い分は尤もなところがある。まともに戦えない兵士が戦場に出たところで、危険な目に逢うのは分かりきっていることでもある。
が、シュミットはこの会話はさらにモチベーションを下げると考え話題を変えようと考える。しかしなかなか話題が上がってこない。そんな時、ニパが話しかける。
「ところで雁淵さんってマラソン選手か何か?」
「そういえば、さっき走っていたのは雁淵だったのか。確かにすごいペースだったな」
「えっ?違います。いつもお父さんにお弁当届けてただけです」
「えっ?お弁当?」
ひかりからの突拍子の無い答えに驚くニパ。シュミットも声に出てないが「お弁当を届けただけで何故ああ体力が付くんだ?」と、思っていた。
そんな時、突然ぎゅるるるると言う音が聞こえる。音の主はひかりだった。それを聞いてニパが笑い、シュミットも微笑む。
「ははっ、昨日食べながら寝てたよね。もうすぐ朝食だし戻ろう?」
「あの、ニパさん。シュミットさん!」
「ん?」
「なんだ?」
突然雁淵に名前を呼ばれて二人は反応をする。
「ありがとうございます、仲間って呼んでくれて!」
その言葉を聞いて二パとシュミットは微笑む。
「…あっ!」
「ん?なんだ?」
「思い出した!シュミットさんって昔新聞に載ってましたよね!あの、列車を止めたとかなんかで!」
突然ひかりが声を出したことに驚いたシュミットだが、話の内容を聞いてシュミットは一瞬何のことか考える。そしてこの世界に来てすぐに暴走列車を止めたことがあったなと思い出す。
「えっと、あの新聞扶桑にも伝わっていたのか…」
「はい!」
「シュミットさんって昔そんなことをしたんですか?」
「ああ。なんていうか、そのことを今更思い出すとは思わなかった」
シュミットは少し恥ずかしくなり頬を掻く。そんな姿にニパは「シュミットさんって照れるんだ…」と、日ごろの姿からは余り想像がつかず、少し驚いたように見ていたのだった。
――一連の光景を、基地の中から見ている人達が居た。
「基礎体力はありそうですね」
部隊長室の窓からラルとロスマンが先ほどの光景を見て、ひかりを分析していたのだった。
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「現在我々の前には最重要攻略目標だったネウロイの巣アンナ、南方にヴァシリーがあります。それに加え、今回白海にも出現しました」
「また厄介なところに…」
朝食の後のロスマンからの説明にサーシャが厄介だと言う。シュミットも地図に記されているネウロイの巣を見て、さらに白海の位置を結ぶ。
(オラーシャを完全に分断する要塞線ができるな…こりゃ確かに厄介だ)
「よし、新しい巣を敵勢目標『グリゴーリ』と命名する」
ラルの言葉によって新たな巣はグリゴーリと命名された。
「グリゴーリから出てくるネウロイの影響圏は急速に広がっており、このままでは補給が断たれる可能性があります」
「可能性どころか、完全に補給が断たれ孤立しますね」
ロスマンの説明にシュミットが思わず零す。可能性ではなくこれは断言である。
「そうなれば我々は当基地から退却を余儀なくされます」
「いや~参ったねぇ。絶体絶命じゃないか」
「そのためにも、我々は可及的速やかにグリゴーリを殲滅する必要がある」
クルピンスキーは軽く言うが、内容はとても軽いものでは無かった。ロスマンがグリゴーリ殲滅は絶対であると宣言する。
そんな中、下原が手を挙げる。
「あの、ネウロイの巣って倒せるんでしょうか…?」
「倒せる」
その質問にシュミットが答えた。その言葉に全員がシュミットを見る。
「501に居た時に、私は実際にネウロイの巣を倒した…尤も、その内容は上層部から箝口令を敷かれていて話すことはできないが」
「だが、501にやれて我々にやれないわけがない」
「ふん!俺がぶっ潰す!」
管野は手と拳を合わせてそう宣言する。しかしシュミットはそう宣言する管野を見ながら考えていた。
(果たしてネウロイの巣は倒せるのか…実際の所我々はウォーロックの後処理をしたに過ぎないんだ。実際ネウロイの巣がどうなっているのかなど想像がつかない…)
シュミットは確かにネウロイの巣の消滅を見た。しかし、彼らはあくまでウォーロックを倒したに過ぎない。あれが正攻法などと無論考えておらず、一体どうしたらネウロイの巣を倒せるのかなどと想像がつかないのが現状だ。
「雁淵」
「は、はい!」
ラルがひかりを呼ぶ。呼ばれたひかりは立ち上がって大声で返事をする。
「お前は午後から訓練だ。それまで誰かに基地を案内してもらえ」
「はい!…えっと」
ラルに予定を言われて返事をするひかり。しかし彼女はだれに案内をしてもらえばいいか困り周りを見る。
「じゃあ、ジョゼさんお願いできる?」
「えっ?あの、私はちょっと用事が…」
ロスマンに指名されるジョゼだが、彼女は都合が悪いらしく目を逸らす。しかしシュミットはそのジョゼの表情を見て、彼女がひかりを何故か避けているのではないかと思った。
そんなジョゼを見てロスマンを相手を変えた。
「そう…じゃあ、ニパさんお願い」
「はい」
ロスマンは今度はニパを指名した。ニパは特に予定は無いようなので、その任務を受けた。そんなニパを見てか管野は「ケッ…」っと気に入らない様子だった。
「よし、各自勤務表通り行動に移れ」
『はい!』
最後にラルが締め、502のウィッチ達は返事をし返した。
投稿日はクリスマスイブですが、その日に合わせて小説は出来ませんでした。ここでお詫び申し上げます。忘れた頃に思い出す列車!シュミット君からしたらあまりかっこいい姿では無いため少し恥ずかしいのです。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!