それでは四十五話です。どうぞ!
現在シュミット達は格納庫で出撃準備を整えていた。無論、彼らは偵察に向かった三人の捜索のためである。
そして彼らはユニットを履き終え、命令が出るまで待機をしていた。
「連絡が途絶えてもう二時間…」
「はぁ、僕のかわいい子猫ちゃん達無事かな~…」
ロスマンは純粋に気に掛ける形、クルピンスキーは平常運転と言えることを言う。
「たく、あいつら世話かけやがって…めんどくせえな…ああめんどくせえ!」
管野は消えた三人の捜索など面倒だと口で言う。
「一番先にユニット履いたくせに…」
「う、うるさい!」
しかしニパが鋭いツッコミを言い、管野もその事実を隠そうとニパに怒鳴る。何を隠そう、真っ先に格納庫に行きユニットを履いたのは管野だったのだ。
その時、格納庫の入り口にサーシャが現れる。
「三人の捜索は中止です!」
「中止!?なんでだよ!」
サーシャの中止発言に管野は納得いかない様子で言う。しかし、サーシャは次に格納庫の扉を開くと、その現実をまざまざを突き付けられる。
格納庫の出口から先、目の前に広がっていたのは真っ白な世界だった。外はブリザードによる猛吹雪が広がっており、完全にホワイトアウトしていた。
「この視界の中では出るのは無理ね」
「むしろこっちが遭難しかねない場合もあるぞ」
ロスマンとシュミットは冷静に状況分析をする。
「全員、別命あるまで待機してください。以上!」
「くそっ!」
そしてサーシャが全員に待機命令を送る。その命令に納得ができない様子で、管野はユニットの固定台を拳で叩いたのだった。管野だけでなく、他の隊員も出撃できないことに少なからず不満を持ったのだった。
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「…あったかい?」
ひかりは体に感じる温かさで目を覚ました。そして、視界に映る人影を見る。
「ジョゼ…さん?」
「雁淵さん!よかった…」
「ジョゼ、これ以上はあなたのほうが危ないわ」
ジョゼは治癒を掛けながらひかりが目覚めたのを見て安堵の声を漏らす。そして下原はジョゼの体を気遣い治癒を止めるように言い、ジョゼは治癒を止めた。
ひかりは二人を見て、いつもと違うのに気づく。
「あの…二人ともその恰好?」
そう、二人の格好は上着を脱いだ下着の姿である。
そしてひかりは体を起こし、自分も同じような格好になっていることに驚く。
「えっ、私も!?」
「服を脱いでお互いの体温を直接伝えあってたの」
ひかりが驚く横でジョゼが訳を説明した。
「ジョゼが一晩中、治癒魔法の発熱で温めていたのよ」
「すみません。私が皆さんの言うことを聞かずに無茶したから…」
下原が付け加えるように説明をするが、ひかりは自分の失態を二人に謝る。
そもそもの原因は、偵察中に起きた出来事にあった。ペトロザヴォ―ツクへの偵察を行った三人であるが、そこに広がっていたのは凍り付く街だった。そしてその原因は上空にいたネウロイであり、なんとそのネウロイは冷気を周辺に広げていたのだ。ネウロイを倒すために迎撃に向かった三人であるが、逆にネウロイの冷気の返り討ちに遭ってしまい、武器とユニットが凍り付いてしまう。そしてその冷気をまともに食らってしまったひかりの治癒の為に、ジョゼと下原の二人は即席で雪の釜倉を掘り、ひかりの治癒を始めた。
そして今に至るのだ。
「ううん、謝らなければいけないのは私…」
しかし、ひかりの言葉をジョゼは否定し下を向く。その言葉にひかりはどうしてと驚く。
「ずっとあなたを見るのが辛かったの…孝美さんを治せなかったから」
「ジョゼさん…」
「最初に謝ればよかったのに、その勇気も無くて、あなたから逃げてたの」
そしてジョゼはひかりに頭を下げる。
「これであなたに許してもらおうなんて思ってないど、ごめんなさい」
そんな行動にひかりは両手を前で振って否定する。
「いえ、ジョゼさんが居たからお姉ちゃんは命をとりとめたんです!私の方こそ本当に感謝しています」
「雁淵さん…」
そう言って今度はひかりが頭を下げた。そんな姿にジョゼも少し微笑みが戻った。
「フフ。これで二人共、仲良しさんですね」
そしてそんな姿を見た下原が二人を抱き寄せる。こうして、互いの誤解が解け、ようやく仲良しとなれたわけだ。
そして下原は上着を着てから釜倉の外に出る。外の様子を見るのと同時に、周辺を散策するためだ。
そして暫くしてから下原が返ってくる。その手には機関銃を持っていたが、その先は曲がっていた。
「銃を見つけたけど…」
「銃身が」
「これじゃあ撃てませんね…」
三人は銃を見て戦えないと判断する。
「ネウロイは?」
「この近くには居ないみたい」
それを聞き、ひかりは思いつく。
「基地の方へ向かったんじゃ…早く知らせないと!」
「でも無線は通じないし、この吹雪の中じゃ動けないわ」
ひかりの意見はジョゼの言葉で断念せざるを得なくなる。
「とにかくみんなで生き延びて、ネウロイのことを基地に伝えるんです。それと、近くに面白いものを見つけたんで、そこへ移りましょう」
そして三人は外へ出て移動を開始する。そして少し歩いた先に、それはあった。
「戦車?」
「ネウロイとの戦いで壊れたのね」
そこにあったのは壊れたオラーシャの戦車だった。吹雪の中に横たわるその巨体は吹雪をもろともせずに佇んでいた。
そして三人は戦車の中に入る。先ほどの釜倉に比べたらマシではあるが、それでもまだ寒い。
「でも、やっぱり寒いね」
「あっ、さっき取ってきたやつが」
下原はポケットを探ると、その中から木の樹皮を取り出した。
「白樺の樹皮です。脂を含んでいるから湿っていても燃えやすいんですよ」
「へー!」
下原の説明にひかりは初めて知ったことに下原の知識の豊富さに舌を巻く。
そして下原は手際よく火種を作り、それを樹皮に付けて火を焚く。
「下原さんって、火まで起こせるんですね」
「父が学者で、いつも一緒に野山に入っていたから、色々教わったんです」
「へぇー」
その時、戦車内に「ぐぅ~」という音が鳴る。音源はジョゼであり、その音が周りにも聞こえてしまった恥ずかしさからジョゼは顔を赤くする。
「そういえば、昨日から何も食べてませんね」
「そうだ!ビスケット持ってたんだ。皆で食べよう!」
そう言って、ジョゼはポケットからビスケットを取り出す。ビスケットは三個残っており、ちょうど三人で分けることができた。
「いいんですか!?」
「うん、勿論!」
その頃、基地では。
「な、なにこれ…?」
ロスマンが目の前にある
「スープですね…たぶん」
サーシャがスープだろうと見た物体であるが、何故か色は禍々しく紫。これを食べ物と見るのは無理だろう。
そしてロスマンが勇気を出してそのスープを一口含み――そして固まった。
「うっ!!?」
「!!」
全員が固まるロスマンを見て、その味を戦慄した。その時、台所からクルピンスキーが出てくる。
「どう、美味しいでしょう?先生ご自慢の食材で、僕が愛情込めて作ったんだよ」
「何ですって!?」
なんと、このスープの作者はクルピンスキーであった。そしてロスマンはクルピンスキーの言葉を聞き急いで台所に行く。そしてそこにあるものを見て悲鳴を上げた。
「いやーーーー!!私が一年かけて集めた貴重なオラーシャキャビアが…」
そしてあろうことか、クルピンスキーはそのスープの材料にロスマンの集めたオラーシャのキャビアをふんだんに使ったようだ。
「おのれニセ伯爵!!」
そして台所にクルピンスキーの悲鳴が響く中、他の隊員達もスープを口に運ぶ。
「うっ、なにこれ…」
「やっぱり下原じゃないとダメだ…!」
しかしそれを食べてニパはスープの酷い味に口を押える。そして管野は下原が居ないという状況の拙さを感じる。サーシャに至ってはその味を感想することができずに口を押えたままである。
そんな中、ラルとシュミットは特に反応をせずにスープを飲んでいる。
『…』
「さ、流石隊長とシュミットさん。こんな時でも冷静ですね」
サーシャは二人の行動を見て言う。
しかし、実態は違った。ラルはスプーンを持つ手を止め、短く一言。
「…不味い」
そして同じく無反応のシュミットだったが、突然彼の手は空中で止まる。
この時シュミットは後悔していた。クルピンスキーが作ると言っていたので、自分が出る幕でないと思ったことに。
「…これなら私が作るべきだった」
そう言って手に持っていたスプーンを離し、そして落とす。そしてそのままシュミットは椅子から横に倒れたのだった。
「シュミットさん!?」
その光景を見てサーシャが声を上げる。
この日彼らは、502に下原が居ないとどうなるかというのをよく知ったのだった。
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翌日、ひかり達は戦車から出た。既に外は晴れており、吹雪がやんだという証拠だった。
「ペテルブルクの方は真っ暗、猛吹雪に包まれているみたいね」
「この辺りの吹雪がやんだってことは…」
「ネウロイが移動したのね」
下原の固有魔法の一つである遠距離視により、ペテルブルクでの吹雪を観測される。そしてそれは、この辺一帯のネウロイが移動したことを意味していた。
「じゃあきっと、基地の皆さんが気付いて出撃してますよ!」
「それはどうでしょう…」
「えっ?」
ひかりが希望的予測をするが、下原はそれを否定した。
「ネウロイは雲に隠れてて基地からは見えないし、レーダーにも映っていないかもしれない…」
「それに、あの猛吹雪じゃ飛べないはず…と、考えるとネウロイのことを知っているのは多分私達だけ」
ジョゼと下原の分析により、現状を知るのはこの三人だけという結論に至った。
「じゃあ三人で倒しましょう!」
「でも、近づいたらまたあの冷気で凍っちゃう」
ひかりはならばこの三人で倒そうと提案をするが、武器も無く、ユニットを凍らせて来るネウロイの存在に対してなす術が無い。
「ウィッチに不可能は無い…」
「えっ?」
突然下原が言ったことに二人は何を言ったのかと思い反応した。
「私の上官の口癖です…そうですね。やってみましょう!」
そして、三人は準備を開始した。三人はそれぞれ、ユニットを温め解凍する。そして同時に、ユニットが凍るのを遅らせるために周りにテープを巻く。そして下原の提案で、ガラスの熱割れの原理を利用したネウロイ攻撃作戦を考える。そしてその材料に戦車の燃料を使い、その攻撃により露出したコアを、周囲に自生する木で作成した弓矢で攻撃をする。
こうして、即席ではあるがネウロイ攻撃の準備は整った。
「じゃあ、行きましょう!」
『了解!』
こうして、三人は離陸を開始した。そしてそのままネウロイの方向へ向かう。
その途中、下原は衝撃の光景を見た。
「見てください!ラドガ湖が!」
「カチカチだ…」
なんと、まだ凍らないと予想されていたラドガ湖が既に凍っていたのだ。無論この原因は今回出現したネウロイによるものである。
そして三人はそのままネウロイの居るであろう雲に突入した。
「さ、寒い…!」
「定ちゃん、急がないと!」
ひかりは雲の中の寒さに体を震わす。そしてジョゼは既に凍り始めているユニットを見て下原に注意をする。
そしてついに三人はネウロイの位置に到着した。
「攻撃開始!」
『えいっ!』
下原は合図を送ると背中の矢筒から矢を一本取り出し、それを弓で弾き絞る。その間に、ひかりとジョゼは戦車の中にあった薬莢に入れた即席の燃焼材を、ネウロイの上に思い切り投げる。そしてその燃焼材はネウロイ周辺に広がった。
「燃えて!」
そして下原がその燃焼材に向けて矢を放つ。矢はそのままネウロイに向かっていき、ついに着弾。そしてその先に仕組まれた火薬が爆発すると、周りの燃焼材に誘爆。瞬く間にネウロイは火だるまになり、その表面を大きく削った。そしてついにコアが露出する。
「あっ、あそこにコアが!」
「ええ!」
ジョゼの指示で下原が弓を引き絞り、そしてコアに狙いを定める。しかし、ユニットが凍ってしまい突如魔道エンジンの回転数が停止、そして下原はバランスを崩してしまい、矢はコアとは別の方向へ向かってしまった。
「そんな!もう凍り始めてる!」
「私が下原さんを支えます!ジョゼさんはユニットを温めてください!」
ひかりが下原のユニットを支える。しかし、ジョゼは困った様子で言う。
「ダメ!誰かが怪我してないと、治癒魔法が使えないの!」
「えっ!?だったら…!」
突如、ひかりは下原のユニットに頭を思い切り叩きつけた。その行動に見ていた二人は驚く。
「雁淵さん!?」
「いって…これでいいですか?」
「う、うん!」
ひかりの突然の行動に困惑するが、自分の身を削ってまで戦うひかりをみて、ジョゼもすぐに治癒を開始した。そして、治癒魔法の熱はユニットに伝わっていき、少しずつであるが解凍をしていく。
「これでもう少しだけ飛べるわ!」
「ありがとう、二人共!」
下原は二人に感謝をし、そして最後の矢を引き絞る。そしてその矢をネウロイのコアに向けて放った。
「いっけぇ!」
下原の念は届き、矢はそのままネウロイのコアに直撃。そしてついに、コアを破壊されたネウロイはその姿を破片に変えた。
それと同時に、周辺の雲も晴れた。
「やったー!やりましたね!」
「やったね定ちゃん!」
ひかりとジョゼは下原の下によって来る。そんな二人の活躍に、下原も感謝の言葉を言う。
「ありがとう、二人共」
「さぁ、基地に帰ろう。お腹へっちゃった!」
「うん!」
こうして、溝の空いていた三人の関係は、この戦いを持ってその溝を埋めることができた。
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「三人共無事で本当によかったわ」
「あのくらいの吹雪で死んでたら話になんねーぜ」
ロスマンが三人の無事にホッと肩をなでおろし、管野は三人が生きてて当然とばかりに言う。
「もう、素直じゃないな、直ちゃんは」
「ふん」
クルピンスキーの言葉に管野は腕を組みながらそっぽを向く。実際のところ、管野も三人のことを気にしていたのだった。
「それにしても、吹雪がネウロイの仕業だったなんて…」
「ラドガ湖を凍らせたんだ。随分知恵の持ったネウロイだったな」
「下原さんたち、今回は大手柄よ」
サーシャとシュミットは今回のネウロイについて考察をし、最後にロスマンが三人の功績を評価した。
丁度その時、キッチンから下原が食事をもってやって来た。
「いえ、任務ですから」
そう言う下原だが、そこには笑顔があった。そしてそれを見て、ひかりとジョゼは顔を見合わせて微笑む。
一連の流れを見て、シュミットは三人の変化に気づいた。
(なんにせよ、今回の出撃が三人の不安定な関係改善になったんだな)
そして、それぞれの前に食事が出てくる。
「美味しそー!」
「今日は扶桑料理にしてみました」
そして全員が下原の食事に手を付ける。
「…美味」
「やっぱり下原さんの料理は最高だね!」
「あら?この茶碗蒸し…」
それぞれが下原の作った扶桑料理を楽しむ中、ロスマンは茶碗蒸しの中に入っている材料に目がいった。
その説明を下原がした。
「はい。缶詰の底にキャビアが残っていたので使ってみました」
「キャビアの使い方、よくわかってるわね。どこかのニセ伯爵とは大違いだわ」
そう言ってロスマンは向かいに座るクルピンスキーをジト目で見る。
「キャビアなんて塩辛いだけで、どこがいいんだか」
「だから貴方はニセ伯爵なの!まだシュミットさんのほうが伯爵よ!」
「は、私!?」
クルピンスキーはまるで分らないといった様子で言うのでロスマンがツッコむが、その言葉にシュミットがまさか自分が言われると思わずに困惑した。その会話で食卓に笑いが出る。
サーシャはその光景を見ながらラルに話しかける。
「食事の力って、凄いんですね」
そしてラルは動かした口を止めて、一言。
「…美味い」
食事は兵士の士気に関わるってよくわかるね。というより、502は定ちゃんいなかったら完全に食事どうなっていたんだろうか…。それとシュミット君、肝油以来の気絶です。
誤字、脱字報告お待ちしております。来年もよろしくお願いします!それでは次回!