「そろそろ時間なのに…クルピンスキーさんどうしたんだろう?」
輸送船団護衛の日、格納庫内でひかりは出発前の時間にまだクルピンスキーが来ていないことにどうしたのかと心配をする。
「遅いね…」
「まったく…作戦指揮官が一番遅くてどうする…」
ニパも同じように思う。シュミットはリーダーであるクルピンスキーが時間までに来ないことに対して、真面目にしてほしいと思っていた。
その時、ひかりは格納庫入口の人影に気づいた。
「あっ、来ました!」
その声を聞き全員が見ると、クルピンスキーがやって来た。
「うぅ…気持ち悪い…」
しかし、その足取りは重く、フラフラとしながら歩いてくるではないか。気持ち悪そうにしながらやって来るクルピンスキーを見て、管野とシュミットはすぐに理解をする。シュミットに至っては頭に手を当てて頭痛を感じていた。
「やっぱりな」
「典型的な二日酔いだ…」
そしてひかりはそんなクルピンスキーを心配して声を掛ける。
「どうしたんですか?顔がおかしいですよ」
「それを言うなら顔色がおかしいだろ」
「ああ…ひかりちゃんは今日も可愛いね~…」
クルピンスキーは酔った状態でひかりを見て、開口一番にそう言った。その様子にシュミットは「こんな時でもそれは減らないのか…」と、さらに頭を痛めた。
「これから船団の護衛に行くのに…」
「ちょっと休んでた方が…」
ニパはこれから任務に着くというのにまるで頼りないクルピンスキーを見て困った様子で言う。ひかりはそんなクルピンスキーの体を気遣って休んだ方がいいのではというが、クルピンスキーは拒否した。
「いや!どうしても行くんだ」
「中尉…」
クルピンスキーの言葉にニパは思わず打たれかかる。しかし、次の言葉は完全にそれを台無しにした。
「ブリタニアのカワイ子ちゃんを迎えに行かないと…!」
「海に捨てようぜ…」
「もうそれでいいんじゃないか…?」
この状況下でもぶれないクルピンスキーに管野が言ったので、シュミットは投げやり気味になっていたのだった。
そして予定通り出撃をした五人であるが、クルピンスキーは二日酔いの結果最後尾でフラフラとしていた。
その時、インカムに入電が入った。
「緊急入電!船団にネウロイ襲来!」
「奇襲か!」
「えっ!?そこってネウロイが出ないはずじゃ…!?」
ニパが入電内容を言い、シュミットは予想以上にネウロイが速かったことに自分の読みが浅はかだったと思う。そしてひかりは現在船団がいる海域が安全圏であるのにネウロイが出たことに驚いていた。
「出たんなら出たんだろ」
「戦場では何時、何が起こるかわからないもんだ」
「とにかく急ぐぞ…うわぁっ?」
管野が全速力でネウロイに向かおうとした時、横から高速で通り抜けるクルピンスキーに驚いた。一瞬のことではあったが、シュミットはクルピンスキーの表情が見え、そこにあったのが先ほどの酔いどれと大違いだったことに驚いていた。
「急にどうしたの?」
「ブリタニアの子が危ないって言ってましたよ」
ひかりの説明を聞き、シュミットは納得した。
「相変わらずあのニセ伯爵は…」
「俺達も行くぞ!」
管野の言葉と共に、スタートが遅れたシュミット達も急いで輸送船団に向かったのだった。
そして現在、輸送船団は突然現れたネウロイの攻撃にさらされていた。
「艦長!随行のウィッチが撃墜されました!」
「くっ…おのれ…!」
艦隊旗艦の艦長は、副官からの報告を聞き歯を軋ませる。船団を護衛していた唯一のウィッチが撃墜されては、艦隊の防衛能力は大幅に落ちてしまう。
艦長は決断した。
「なんとしてもエルスワース号の積み荷だけは守らねばならん!最大船速、本艦を盾にするぞ!」
「アイアイサー!」
艦長の指示により、旗艦は輸送船団の先頭に立ち、ネウロイに向けて攻撃をする。ネウロイもその攻撃に気づき、その旗艦に向けてビームを放つ。
赤い光が目前まで迫って来る。艦長は直撃すると思い、腕を目の前にして身を庇う。その時だった。
ネウロイのビームは何と、旗艦の艦橋の目の前で突如拡散していき、周りの海に落ちていくではないか。それにより、旗艦は直撃を受けることは無かった。
「こちらは第502統合戦闘航空団、クルピンスキー中尉!これより船団を援護する!」
そう、ビーム攻撃が拡散したのは偶然ではない。クルピンスキーが咄嗟にビームと艦の間に入り込み、シールドを展開したのだ。
そして、シュミット達も到着し、ネウロイに向けての攻撃態勢を整える。
「よし…なにっ!?」
その時だった。球体形状をしていたネウロイは突然、その体を分裂させたのである。その数は3個。しかし大きさはそれぞれ違い、一つだけ他より小さかった。
「分裂しやがった!?」
「直ちゃん、ニパ君、左側のネウロイをお願い」
『了解!』
クルピンスキーはすぐさま管野とニパに命令をする。
「クルピンスキー、私は中央の少ない奴に単独で行く。ひかりはクルピンスキーと共に右側のネウロイを」
「了解!ひかりちゃんは僕について来て!」
「はい!」
シュミットはここで提案をする。そしてクルピンスキーはそれを受け入れ、ひかりを連れて右側の分裂したネウロイに向かう。
この作戦を立案した理由はもちろんある。シュミットは新型ユニットを履いているのと同時に、背中にMG42を二丁背負っている。火力はシュミット一人でも申し分ないため、残ったメンバーの中で一人で戦うとしたら、シュミットが適任であったからだ。
五人はそれぞれネウロイに向けて向かう。すると、三つに分かれたネウロイはさらに小型のネウロイを無数に排出する。
「うわぁ!いっぱい出てきた!」
「行くぞ」
先に命令を受けて行動をしていた管野とニパが接敵をする。管野は先制攻撃で無数に表れたネウロイを攻撃する。しかし、その弾丸でもいくつかのネウロイを逃してしまう。
「逃した!」
「任せろ!」
そこをニパがフォローに入り、取り逃したネウロイを的確に撃ち落としていく。かなり厳しいはずの状況ではあるが、二人は楽々とこなしていく。
「なんだ、楽勝じゃねえか」
「新しいユニットのおかげだね」
そう、彼女たちがここまで楽に戦えるのは、新型ユニットの性能によるお陰であった。再びネウロイが攻撃をするが、それでも二人は次々と墜としていく。
シュミットは分裂した中で小さいネウロイに向かっていた。しかしここでもネウロイは小型のネウロイを大量に排出してくる。
(なるほど、こいつは501の時のキューブ型ネウロイ戦みたいだな!)
シュミットは現れた小型のネウロイを見てそう思う。しかし今回はそれよりも幾分か少ない。
背中に掛けていたMG42のセーフティを解除し、シュミットは両手に持って構える。
「いくぞ!」
シュミットはネウロイに向けて突撃する。幸いにも、小型のネウロイに特別な攻撃は無く、これらは高速で船団に向かおうとしていた。それをシュミットは的確に撃ちぬいていく。
「…8…14…19…」
ここでも、シュミットは撃墜数を重ねていく。新型ユニットによる実力をいかんなく発揮しており、全力を出しているため今までより動きが格段に良くなっており、ネウロイは次々と撃墜されていく。
しかし、シュミットの一方的な撃墜にはさらに別の理由があった。
「…右上方20…左上方18」
シュミットはゼロの領域を使っていたのだ。そのおかげで、ネウロイの細かい位置や進行についても見え、世界がスローモーションに流れている。そのおかげで、シュミットはネウロイを効率良く、そして素早く撃ち落としていくのだった。
そして、クルピンスキーとひかりも、ネウロイに攻撃を開始する。
「ひかりちゃん、背中は任せたから、絶対に離れちゃダメだよ」
「はい!」
いつもより真面目に命令をするクルピンスキーにひかりは返事をする。ネウロイはここでも小型のネウロイを排出してくる。それを、クルピンスキーが先頭に立ちネウロイを撃ち落としに向かう。
そして次々と小型ネウロイを撃墜していくクルピンスキーであるが、ひかりはそんなクルピンスキーに驚いていた。
「凄い…ついていくのがやっとなのに…!」
そう、クルピンスキーの攻撃速度は速く、そして鋭い。ひかりはそんなクルピンスキーについていくのがやっとである。
そしてシュミット達五人は、粗方子機ネウロイを倒した。しかし、ネウロイは再び子機ネウロイを出してくる。
「参ったな…キリが無いよ」
クルピンスキーがそうぼやくが、それでもすぐさま攻撃をしていく。その間にも、輸送船団はムルマン港に向けて進路を変えていき、護衛艦は対空戦闘で子機ネウロイを墜としていく。
しかし、全力で戦っていたウィッチ達の壁に、綻びが生まれた。
「やべえ、親機に抜かれた!」
「子機が邪魔で追い付けないよ!」
管野とニパが戦っている場所で、親機が移動をし始めたの。管野たちは子機に足を止められ、その追跡ができない。
すぐさまクルピンスキーが後ろを追いかけるひかりに命令をする。
「ひかりちゃん、ちょっと直ちゃんたち手伝ってきてくれるかな?」
「えっ!?」
突然の言葉にひかりは驚く。
「でもクルピンスキーさんは!?」
「大丈夫大丈夫。あとは僕一人で何とかなるって」
クルピンスキーはそう言う。実際、クルピンスキーとひかりの迎撃したネウロイは既に子機を失っており、残りは親機のみであった。
しかしひかりはそれでも一人だけで戦わせることになるのは嫌だったのか、首にかけていた物をクルピンスキーに渡した。
「じゃあ…このお守り持っててください!」
ひかりが渡したのは、首からかけていたリベレーターであった。クルピンスキーの嘘を信じ込んでお守りにしていた物を、ひかりはそれをクルピンスキーへのお守りとして渡したのだ。
クルピンスキーは一瞬驚いた後、それを受け取った。
「…ありがとう、ひかりちゃん。これがあれば百人力だよ」
「じゃあ、行ってきます!」
そしてひかりは管野の手伝いに向かう。残ったクルピンスキーは、ひかりに渡されたリベレーターを見る。
「ふっ、弾も入っていない銃がお守り、か…」
自分で言ったことだから仕方ないが、クルピンスキーはおかしく感じた。そしてそれを胸ポケットに入れると、クルピンスキーはネウロイに向かった。
「さて、ここは絶対通すわけに行かないね」
そう言うクルピンスキーではあるが、親機は足掻きと言わんばかりに再び子機を出す。
「とか、カッコつけたけど、ちょっと厳しいかな…やるしかないね!」
そう言うと、クルピンスキーは自身に固有魔法をかけた。
「マジックブースト!」
マジックブースト、それはクルピンスキーの持つ固有魔法であり、一時的に超加速を得ることのできる固有魔法である。
クルピンスキーはそのままネウロイに向けて突撃した。
そしてその頃、ひかりは管野とニパの所に合流した。
「ひかり!?なんで!?」
「おめえ!あっちはどうした!?」
「クルピンスキーさんが応援に行けって!」
ニパと管野は案の定驚くが、ひかりの説明を聞くと今度は別のことに驚く。
「ええっ!?じゃあクルピンスキーさんは一人!?」
「こいつと同じのを一人で相手してるのか!?くそっ、カッコつけやがって!」
そして、ひかり達三人は子機のネウロイを攻撃していき、ついにすべてを撃墜し終える。そしてそのまま親機である大型のネウロイに向かい、その銃弾を思い切り浴びせる。
「どけどけどけ!」
そして大型のネウロイは、ついにその姿を光の破片に変える。
「やった!」
「待って!コアなかったよね?」
「ってことは…こいつは本体じゃねえ!」
ひかりが喜ぶが、ニパはその中にコアが無いのに気づく。そう、彼女たちが戦っていたのにはコアが無かったのだ。
その頃、一人になったクルピンスキーは単独でネウロイと戦っていた。しかし、それはあまり優勢と言える状況では無かった。
「あと少し…持ってよね」
ユニットからの悲鳴を聞き、クルピンスキーはそう念じる。マジックブーストは瞬間的に超加速を得る代わりに、ユニットへの負担が増大する。
と、そんなクルピンスキーに助けがやって来る。
「こっちは片づけた!加勢するぞ、クルピンスキー!」
なんとシュミットがやって来たのだ。シュミットは一人でネウロイに向かい、そしてネウロイを倒して援軍に駆けつけてきたのだ。
すぐさまシュミットも固有魔法をユニットに掛ける。
「いくよ、シュミット!」
「言われなくても!」
そして二人はユニットにブーストを掛けてネウロイに突貫した。一人より二人、さらにシュミットはMG42を二丁持ってきているため、ネウロイは一瞬にして墜とされる。
しかし、ここでクルピンスキーのユニットの左足から火が出る。マジックブーストの負荷に耐え切れなくなったのだ。
「下がれ!」
すぐさまシュミットはクルピンスキーに言う。そしてシュミットは一人でネウロイを攻撃していく。無数にいた子機は既に片が付いていたため、親機のほうに集中攻撃を加えていく。
「喰らえ!」
シュミットはユニットの強化を解除し、機関銃に強化を掛ける。二丁の機関銃から放たれる弾丸は、ネウロイの装甲を大きく削っていく。しかし、それでもまだコアの位置が特定できなかった。
その時だった。シュミットの後ろから、飛来物がやってくる。それは何と子機のネウロイでは無いか。シュミットが後ろを振り返ると、クルピンスキーがおり、シュミットはあの子機はクルピンスキーが弾き飛ばしたものだと瞬時に理解する。
そしてそれは親機に吸い込まれていき、その装甲を大幅に削り取る。そしてそこに、コアが露出した。
「コアだ!」
それに気づき、クルピンスキーは手に持っていたStg44に外付けしたロケット弾を発射する。ロケット弾はそのままネウロイのコアに吸い込まれていき、コアを破壊、そして今度こそネウロイをひかりの破片に変えたのだった。
ネウロイを撃墜したクルピンスキーはホッと息を吐く。
「はぁ…」
「クルピンスキー!!」
その時、シュミットはクルピンスキーの名を大声で叫ぶ。その声に気づいて顔を上げると、なんと目の前に消滅したはずの子機が一機、突撃してくるではないか。
「しまっ…」
クルピンスキーは反応が出来ず、その攻撃をまともに胸元に喰らってしまい、そして落ちていく。シュミットはすぐさまその子機を撃墜した後、落ちていったクルピンスキーの下へ向かった。
「クルピンスキー!」
名を呼んで駆けつけ――そして安心したように肩の力を抜いた。
クルピンスキーは意識がある。それもしっかりと。海にあおむけで浮かんでいるクルピンスキーは、右手を自分の胸ポケットに入れ、そして中から先ほどひかりにもらったリベレーターを取り出した。
「ありがとう、ひかりちゃん。助かったよ」
ひかりからもらったリベレーターがネウロイの突撃を防いだのだ。その証拠に、リベレーターに凹みができている。
それを見て、シュミットも察した。
「…嘘から出たまことと言うべきか。運が良かったな、クルピンスキー」
「まぁね…」
「後で雁淵にしっかりと礼をしておくことだな」
そう言って、シュミットは手を差し伸べる。クルピンスキーもその手を取り、シュミットに引き上げられる。
「さて、まずは病院か?足、罅が入ってるんだろ?」
「ははっ、お見通しかな?優しくお願いするよ、狼君?」
「生憎、その保証は出来ないな、ニセ伯爵」
そう言って、シュミットはクルピンスキーを抱えて飛行をするのだった。
シュミット君、だいぶチートじみて来ました。そして伯爵をクルピンスキーと呼ぶシュミット。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!