<side.シュミット>
目を覚ますと、知らない天井が見えた。501の救護室や部屋の天井でなく、本当に知らない天井だ。どうやら私はどこかのベッドで寝かされているようだ。
「シュミットさん!」
と、突然横から声が聞こえてきた。顔を向けるとそこには私と同じようにベッドにいるペリーヌがいた。彼女は体を起こしこちらを見ていた。
「ペリーヌ、ここは何処だ?」
「ここは病院です」
「病院?」
それからペリーヌが状況を説明してくれた。あの後、機関車は停止し、私とペリーヌは近くの病院に搬送された。ペリーヌはその日の夜――昨日に目覚めたらしく、私は丸一日ずっと眠っていたらしい。
あたりを見渡すと、他にも数台の空いたベッドが置かれており、ここが病院なんだと感じた。
ふと、今の時間は何時ぐらいかを確認するために、窓側に顔を向け――言葉を失った。
そこにあったのは、長いテーブルの上に供えられた沢山の花束だった。
「これは……?」
「それは昨日の列車に乗っていた機関士と乗客達からのお見舞いの花ですわ。一応、私の分も含まれています」
そう言って、ペリーヌは説明した。どうやらこれはあの時の機関士と乗客達からの贈り物だったのだ。
「そうか、みんな無事だったのか」
「無事じゃないですわ!」
突如、ペリーヌが声を張り上げた。私は思わず聞き返した。
「な、なんでさ?」
「シュミットさんは下手をしたら死ぬかもしれなかったのですよ!」
私は意味がわからずもう一回ペリーヌに聞き返した。
「死ぬ?どういうことだ?」
「どうもこうも、シュミットさんは魔法力をすべて使い切ってしまったからじゃないですか」
「それを言ったらペリーヌもじゃないか」
「シュミットさんはそんな状態でさらに固有魔法を発動させていたのです。それは自分の命を削るようなものです!」
ペリーヌからの説明を受けようやく理解した。どうやらあの時私は自分の魔法力がもう無いも同然の状態で固有魔法を
「そっか、そんなことがあったのか……」
「そうですわ!」
「でも、やっぱりみんなが無事でよかったよ」
「で、ですが……もう……」
ペリーヌはさらに何か言おうとしたが、とうとう諦め話すのをやめた。
わたしはそれを確認しそっと微笑んだ。
「大丈夫、私は五体満足だから」
そう言ってから私は部屋の窓を見た。窓の外では雲一つない快晴の青空が広がっていた。
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<side.out>
それからしばらくして、シュミット達の病室に来客がやって来た。
「二人共無事かしら?」
なんとミーナが花束を持って病室に入ってきたのだ。その後ろには坂本もいる。
「ミーナ中佐!」
「さ、坂本少佐!」
シュミットとペリーヌは慌てて名前を呼ぶ。彼らはまさか今この病室に二人がやって来ると思っていなかったからだ。
「ど、どうして?」
「二人共目が覚めたと報告が来たので、お見舞いに来たのよ」
そう言って、ミーナな手に持っていた花束を乗客達が持ってきた花束の横に持っていく。
「あら、ずいぶんたくさん花束が届いているわね」
「それは列車の機関士や乗客達が持ってきてくれたものです」
「そうなの」
そう会話しながらミーナも花を置く。そして、シュミットとペリーヌに向き直った。
「そういえば、私のユニットが見当たりませんが何処か知りますか?」
「二人のユニットなら基地に運び込まれました。二機とも魔道エンジンが焼き付く大破状態です」
「そうですか……」
そう言って悲しそうな表情をするシュミット。ペリーヌも横で聞きながら同じ表情をする。
彼らにとって、ストライカーユニットは空を飛ぶ箒であると同時に、なにかと愛着のあるものだ。それが二機とも大破状態まで壊れたといわれると悲しいのも当然である。
しかし、ミーナの次の言葉に二人はその表情を変えたのだった。
「その件に関しては問題ありません」
「「へっ?」」
突然問題ないと言われても理解できないシュミットとペリーヌ。そしてミーナは話を続けた。
「今、二人のユニットが無いと聞いてカールスラントとガリアから新しいユニットが支給されると連絡が来ました。それも、両機とも新型のユニットだそうです」
一瞬、話の内容が理解できなかった。しかし、だんだん理解してきた彼らは思わず聞き返した。
「本当ですか!?」
「でも、なぜそんなに早く?」
ペリーヌは驚くが、シュミットはなぜそこまで早くユニットの支給、しかも新型がやってくるのか分からずミーナに聞いた。
それを答えたのは坂本だった。
「二人の功績が世界中に広がったからだ」
「世界中に?」
「そうだ」
そう言って、一枚の新聞をシュミット達に見せた。その新聞の見出しにはこう書かれていた。
『二人の勇敢なウィッチによる暴走列車停止!』
それを見てシュミット達は口をぽかんとあけ、目を見開いた。
「この新聞が二人のことを大々的に取り上げたことで、全世界がこの事件を知ったんだ。そして各国から感謝の言葉が届いたんだ」
「各国から?」
なぜ各国からなのかと疑問に思うシュミット。ブリタニアだけならまだしも他の国が感謝ようなことは身に覚えがないからだ。
「あの時止めた列車にはブリタニアの他に、カールスランド、オラーシャ、ガリアの旅行客も乗っていたからだ」
坂本の説明にシュミットは「ああ、なるほど…」と呟いた。彼らは知らない間に他の国の国民も救っていたようで、それが各国からの感謝の言葉の原因だったようだ。
「というわけで、ユニットについては問題ありません。それと二人には後日、表彰式に出てもらいます」
「表彰式……?」
「ですか……?」
ミーナからの突然のカミングアウトにシュミットとペリーヌは思わずオウム返しをする。
「そうよ。今回の功績を評してブリタニアが貴方達二人に勲章を贈りたいと申し出たのです」
「と、同時に二人はこの功績で一階級昇進ということになる」
突然の説明に頭がパニックになり始める二人だが、瞬時に理解し聞き返した。
「本当なのですか?」
「ええ、そうよ」
「階級が上がるとなると……」
「二人は中尉に昇進だな」
そしてようやく状況をしっかり理解したシュミットはベットに倒れこみ、天井を見上げた。
「勲章が贈られてくるなんてな……」
「初めてですの?」
「ああ、初めてだ。前の世界では勲章を貰ったことは無かったから」
そう言ってシュミットは天井を見ながら笑顔になった。
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その後、シュミット達は病院を退院した。二人は肉体的には特に怪我も無く健康体であったため、すぐに退院することができた。
そして基地に向かう途中、ミーナ達が乗ってきたJu52の中でシュミットは窓の外の景色を見ていた。ふと、彼は何か思い出したかのように顔をミーナに向けた。
「そういえば、あの時買ったものって基地にありますか?」
「あの時って…ああ、昨日の臨時補給の買い出しのことね。大丈夫よ、シャーリーさんが戻ってきて持ってきたから」
「そうですか」
それを見て、ミーナはシュミットが何か自分の買い物をしたんだと考え質問した。
「そういえばシュミットさん。貴方も何か自分の物を買ったのですか?」
「はい、一応……。自分のものではまぁ、無いのですが」
「どういうことだ?」
横で聞いていた坂本が質問した。
「あ、いえ…ユニットの整備兵達に差し入れをあげようと思って買ったもので」
シュミットが何気なく言った言葉に、ミーナは注意をする。
「シュミットさん。ウィッチはできるだけ必要以上の接触は厳禁だと言ったはずですが」
「でも私はウィザードですよ?」
シュミットの返しにミーナは溜息を吐いた。
「まぁ、シュミットさんは男性ですからいいでしょう。今回は不問にします」
「ありがとうございます」
そう言って、シュミットは再び窓の外を見始めた。外の景色は、雲の向こう側に大きな太陽が沈む光景が広がっていた。
そしてしばらくして基地に到着した時、シュミット達は不思議な光景に目を疑った。
Ju52が着陸した滑走路の横に、木箱の山ができていたからだ。
ミーナ達はそれを見て近くにいた兵士に聞いた。
「これは一体……」
「ミーナ中佐、先ほどブリタニア本国から緊急の補給がやってきて食料と武器弾薬が――」
「そう、わかったわ」
そう言って、ミーナはシュミットに体を向けた。
「ま、まぁ結果オーライということで……」
シュミットはその光景に苦笑いをしながらこう答えるしかなかった。
そして基地に入ったシュミット達は、そのまま食堂に向かった。
「おっかえりー!」
「へっ、うわああ!」
そして扉を開けると突然、何者かがシュミットに抱き着いてきた。シュミットはいきなりすぎて何が何だかわからずそのまま後ろに倒れた。
そして顎を引いてシュミットは飛び込んできた人物を確認した。
「ル、ルッキーニ!」
「おいおいルッキーニ、シュミットが困ってるぞ」
そう言って、シャーリーがルッキーニの後ろから現れる。そして、シュミットにくっついていたルッキーニを離した。
そうしてようやくシュミットは起き上がることができた。
「ありがとう、シャーリー」
「どういたしまして。それより、よくやった!」
「へ?」
シュミットは突然褒められ一瞬間の抜けた返事をした。
「あの列車のことさ。まさか本当に止めるとは思っていなかった!」
「ああ、そっか。シャーリーもあの時いたもんな」
「そうだぞ!」
シュミットは一瞬、あの場にシャーリーが最初いたことをすっかり忘れていた。そんな会話をしている時、シャーリーの後ろからバルクホルンとエーリカが近づいてきた。
そしてバルクホルンが話し始めた。
「あの時は素っ気ない態度をとってすまなかった」
「あの時?」
「初めて会った時だよ」
エーリカが補足するように言った。
「あの時、少尉のことをちゃんと信用できずにきつい態度をとった。今回の救助を知って本当にすまないと思った」
「もー、そんな堅苦しいこと言わない」
エーリカがぐったりしたように言った。
「そうだ。あの時のことを信用できないのは誰だってそうだ。だから気にしてないさ」
「そ、そうか」
「そうさ。それに、これから仲良くできればいいさ」
シュミットは特に気にしてないというふうに言った。その言葉に、バルクホルンもそっと笑った。
「さぁ、立ち話もなんでしょうし席に座りましょう」
ミーナがそう言ってまとめ、全員が席に着いた。その後も、話題はシュミットとペリーヌのことでいっぱいだった。
夕食後、シュミットは臨時補給の際買ってきた物を持って格納庫に向かっていた。
格納庫に入ると、整備兵達が集まって談笑していた。シュミットはそれを見て近づいていく。それを一人の整備兵が気づき立ち上がる。
「どうしました?」
「いえ、皆さんに差し入れを持ってきました」
そう言ってシュミットは集団の真ん中に木箱を置き蓋を開けた。それを見た整備兵達は中身を見て驚きの声を上げた。中にはスコッチウィスキーの瓶が何本もあり、その横にナッツの袋も一緒に入っていた。
「おお!?これは……」
「ありがたい!」
「いえ、いつもユニットをしっかり整備してくれているお礼です」
整備兵達はシュミットに感謝の言葉を言うが、シュミットは当然のことをしたまでといった態度をしていた。
「この前の記事見たぜ。たいした度胸だな」
「ありがとうございます」
こうして、整備兵達の談笑に加わっている時に、シュミットの後ろで魔道エンジンの回転音が聞こえてくる。
誰かと思って振り向くと、そこには初めて会った時と同じ武装をして離陸するサーニャの姿が見えた。
シュミットはサーニャをじっと見ていた。
(……かわいい子だな……サーニャって)
そんなことを思いながら見るシュミットに、整備兵の一人がこう言った。
「いつも一人で夜間哨戒をしててすごいですねぇ」
シュミットは気になる単語を聞いて聞き返した。
「いつも一人だって?」
「はい。この基地の夜間哨戒はいつもリトヴャク中尉が一人でやってるんです」
それを聞いて、シュミットは顎に手を当てた。そして一言呟いた。
「……一人か……」
そうしてシュミットはなにか考え事を始めた。ほかの整備兵達は、シュミットの様子が変わったのを見てただじっと見ていた。
というわけで、ペリーヌの階級を少尉からにしたのはこのためでした。
次回の投稿も今回のようにできるだけ早く投稿します。では