その日の夕方、格納庫内。
「寝ている間に一体何があったんダ?」
「バラバラ…」
シュミットの代わりに夜間哨戒に出ることになったエイラとサーニャは、目の前でかろうじて原形をとどめていたジェットストライカーを見ながらそう零す。その横には、砲身が折れて使い物にならなくなった50ミリカノン砲もあった。
「全く、人騒がせなストライカーでしたわね」
「ええ、それと使う人間もね」
ペリーヌが言った言葉に、ミーナは同調する。そんなミーナの言葉に、罰としてジャガイモの皮むきをしていたバルクホルンがドキリとした表情をする。
そんな様子を見てか、シャーリーがフォローするように言う。
「おかげでネウロイを倒せたんだ、少しは大目に見てくれよ」
「規則は規則ですよ」
しかし、ミーナはそれでも許さない。今回ばかりはバルクホルンの自業自得である。
「まあ、出撃したのは私も非があるし、同じように罰を受けるとするか…」
「しかし、バルクホルンが命令違反なんて初めてじゃないか?」
シュミットはそう言ってバルクホルンの横に座ると、ナイフを持ちながらジャガイモを手に取って手際よく皮むきを始めた。シュミットもバルクホルンに5分と言ったのだ。彼も同罪と見てもいいだろう。
そして坂本はバルクホルンが命令違反をするなんて珍しいと言う。今までのバルクホルンは違反無しの記録を作れるほどの規則を守っていた人だ。だからこそ、彼女の違反を見れた彼女たちは珍しいものを見たと言っていいだろう。
その時、坂本の横から声がする。
「皆さん、どうもお騒がせしました」
その声をして全員が顔をあげてみると、そこにはメガネを掛けたハルトマンが居た。しかし、全員が全員疑問に思う。
「…何故、お前が謝る?」
「ハルトマンのせいじゃ無いだろ?」
「いえ、私は…」
坂本とシャーリーが言う通り、今回の件にハルトマンが謝る点は無い。しかし、ハルトマンは何かを説明しようとしたが、格納庫の入口からした声に遮られた。
「みなさーん!お腹空いてませんか?」
「お芋がいっぱい届いていたから、色々作ってみましたよ~」
リーネと宮藤がカートに沢山の料理を運びながらやって来る。そして宮藤は一人一人にフライドポテトを配っていく。
「はい、ハルトマンさんもどうぞ!」
「いただきます」
「あれ?メガネなんてしてましたっけ?」
「はい、ずっと」
宮藤はハルトマンにもフライドポテトを渡す。ハルトマンもそれを受け取るが、宮藤はハルトマンがメガネをかけていることに疑問に思う。
その時、宮藤の後ろから声がする。
「うわっ、美味しそう!」
「あっ、こっちのハルトマンさんもどうぞ…って、え!?」
後ろからハルトマンが来たので、宮藤はフライドポテトを勧めた。しかし、ここで全員が気付いた。
ハルトマンが二人いるのだ。事情を知っているもの以外は、皆まるでありえないものを見るような目で二人を見た。
「お久しぶりです、
「あれ?ウルスラ?」
『姉さま!!?』
衝撃の発言に全員の言葉がシンクロする。何とメガネをかけたハルトマンは、フライドポテトを食べているハルトマンに姉さまと言ったのだ。
その様子を見て、ミーナが説明した。
「こちらはウルスラ・ハルトマン中尉、エーリカ・ハルトマン中尉の双子の妹さんよ」
『妹!?』
「彼女はジェットストライカーの開発スタッフの一人なの」
『へ~…』
ミーナの説明を受けて全員が驚き、そしてビックリしたように見る。双子なだけに、外見はメガネを覗いて完全にそっくりだった。
その時、シュミットの後ろから新たに声がする。
「その開発スタッフは」
「俺達も加わっていたがな」
「え?あっ!?」
突然二つの声がするのでシュミットが振り返ると、そこには彼の見覚えのある顔があった。ハルトマン姉妹と同じくこちらも
そして、フレイジャー兄弟とウルスラは並ぶと、バルクホルンの前に立った。
「バルクホルン大尉、この度はご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。どうやらジェットストライカーには、致命的な欠点があったようです」
『申し訳ありませんでした』
「まあ、試作機にトラブルは付き物だ、気にするな…それより、壊してしまってすまなかったな」
ハルトマンが代表して謝罪し、フレイジャー兄弟が揃って謝罪の言葉を言う。その様子に、バルクホルンも特に気にした様子は無く、逆に試作機を壊してしまったことに対して三人に謝罪した。
「いえ、大尉がご無事で何よりでした」
「ユニットよりも、パイロットの命は金なんかに変えられないから」
「命がある方が大切です」
しかし、ウルスラはバルクホルンが無事であることの方が大切だ。フレイジャー兄弟も同じように言う。人の命はお金に変えることなどできない。それをよく知っているシュミット達からしたら、命がいかに大切なものかをよく理解していることだ。
「
「その為にわざわざ来たのか?」
「代わりと言っては何ですが、お騒がせしたお詫びにじゃがいもを置いていきます」
ウルスラの言葉にシャーリーが思わず聞くと、その代わりとしてウルスラは沢山の食料をここに置いていくようだ。外では山積みにされたジャガイモを見てペリーヌが「またこんなにも…」と、げんなりした様子で見ていた。
しかし、フレイジャー兄弟の目的は他にもあった。
「いえ大尉、自分たちはシュミットに用がありました」
「ん?」
ミハエルに名前を呼ばれて、芋の皮むきをしていたシュミットが反応する。そしてマルクスがシュミットに言った。
「お前にあげたDo335関連だ」
「ああ!そうだ、そのことを忘れてた。ありがとうミハエル、マルクス」
マルクスに説明されてシュミットが思い出したと言った顔をする。そして、シュミットはちゃんと言えなかったお礼を今言った。突然の様子にフレイジャー兄弟は苦笑いをする。
「い、今かよ…」
「まあ、親友が困っているときは助けるものだ。本当なら直接飛行してもらいたかったが、今は飛行禁止なんだって?」
「ああ、体力と魔法力を大きく消費してな」
「だから代わりと言っては何だが、Do335の状態を見て行くことにするよ。いいですか?中佐」
そう言って、フレイジャー兄弟はミーナに確認を取る。
「ええ、許可します」
「了解!」
それに対してミーナも許可をし、二人はシュミットのユニットの方に向かうのだった。
そして、テーブルの上には宮藤たちが奮闘して作った料理が沢山並べられた。
『なっ!?』
しかし、バルクホルンとシャーリーがフライドポテトを取ろうとした時、丁度同じものを同時に取ってしまう。そして二人はいつものようににらみ合う。
「これは私のフライドポテトだ」
「リベリオンの食べ物はいらないとか言ってなかったか?」
「今は体力回復の為、エネルギー補給が最優先だ」
「素直に美味いって言え」
「まあまあだな」
と、二人はたった一つのフライドポテトを奪い合いながら言い合いをする。時にはそのポテトが宙を舞ったりしている。シュミットはその様子を見て「またか…」と言った様子で溜息を一つ吐く。宮藤たちも、「他にもいっぱいあるのになんで取り合いになるんだ?」と言った様子でそれを見ていた。
そしてシュミットは、皿に盛りつけられたフライドポテトをいくつか皿に取ると、立ち上がって歩き出した。
「あ、シュミットさんどこ行くんですか?」
「ん?あいつらのところ」
宮藤に聞かれてシュミットは指差しながら答える。指の先には、今まさにDo335の状態を確認しているフレイジャー兄弟が居た。
そしてシュミットはフライドポテトを持ちながら、二人のところに行く。
「ほい、お二人さん」
「おっ、さすがシュミット!」
「気が利くな」
二人はシュミットの持ってきてくれたフライドポテトを見てお礼を言う。シュミットはそれを近くに置いた。
そしてシュミットは、二人にあることを思い出して言った。
「…アリシアに会った」
「ん?」
「アリシアってお前の妹だよな…?」
シュミットの突然の言葉に、ミハエルとマルクスは何のことかと思う。
「夢でか?」
「いや、夢なんかじゃない。生きていたんだ…この世界で」
「なん…なっ!?」
「お前…それ本当か?」
「ああ…」
二人は信じられないと言った様子でシュミットを見る。シュミットの妹であるアリシアが死んだことを、彼らは前の世界で知らされていた。だからこそ、この世界で亡くなったはずの妹が生きているということに驚いていた。
「私たちみたいに、アリシアもこの世界に流れ着いたみたいなんだ。アリシアが言うには、来たときは衰弱していて、現地の人に助けてもらったらしい…顔に火傷の痕が残ってるんだぜ?これが同姓同名だと思うか?」
「…思わねえ」
「ああ…」
シュミットの説明に、ミハエルとマルクスも信じられないが信じるしかなかった。妹なら、兄であるシュミットが見間違えるはずがない。それに顔には火傷の痕が残っているのだ。尚更違うと言いきれない。
そして、ミハエルとマルクスは話始める。
「不思議だな…」
「ああ…向こうで死んだ人が、こっちで生きている。こんな偶然が普通あるか?」
「無い…とは言い切れない。現に私たちがそうなんだから」
三人は尚更分からなくなる。どうして自分たちは、この世界に生きているのだろうか。神の仕業か、あるいはそうなる運命だったのか、この答えはいまだ分からない。
しかし、シュミットはこの事に特に恨んだ顔をしていなかった。そして、二人に話した。
「だが、私はこの事を最悪だとは思ったことは無い」
「ん?」
「おかげで、私はサーニャに出会えた。だから、この運命を恨んだことは無い」
そう言って、シュミットはサーニャを見る。彼の目は、本当にこの出会いがあったことを感謝している様子だった。
それを見て、ミハエルは少し笑う。
「そうかい…なあ、シュミット」
「ん?なんだ?」
「俺はお前に以前驚かされたんだ。だから、今お前を驚かしていいか?」
「急にだな。なんだ?」
ミハエルが突然そんなことを言うので、シュミットも流石に突然すぎて訳か分からないと言った様子でミハエルを見る。横に居るマルクスは、どこかニヤリとしていたため尚不気味だ。
そして、ミハエルは堂々と宣言した。
「実はな…俺、結婚するんだよ!」
「へ~……は?」
ミハエルのとんでもない言葉にシュミットは最初サラリと流しながら聞くが、よく考えてみた瞬間、彼の表情は固まった。そしてシュミットは信じられないと言った様子でマルクスを見た。
「…マジか?」
「おおマジだ。何なら、写真だってあるぞ」
そう言って、ミハエルはジャケットのポケットに手を入れた。そして中から出てきた一枚の写真を見せる。
そこには、シュミットから見ても美人の部類に入る女性の写真があった。
「この人が…」
「そう、俺の奥さんだ!」
「
シュミットが聞くと堂々と言うミハエル。しかし、ミハエルの言葉にツッコムマルクス。
「式は…?」
「これからだ」
「マジかー…」
ミハエルに言われて、シュミットは「やられた」と言った様子でユニットの固定台にもたれかかる。
「まさかお前が最初か~…」
「へへーん、参ったか~!」
シュミットのたまげたと言って頭に手を当て、その様子にミハエルは勝ち誇った表情をする。
シュミットとミハエルとマルクスは、かつて三人で話し合ったある勝負があった。それは「誰が最初に結婚するか」と言った内容であった。シュミットの中では、性格的にミハエルはマルクスより後だろうと考えていた。そのため、ミハエルが結婚するといった言葉には予想外だった。
ミハエルとマルクスは、前回驚かされた借りを返した気分になり、二人とも笑いだす。
「って言っても、シュミットだってすぐしそうじゃん」
「ん?」
マルクスの言葉にシュミットは顔をあげて見る。するとマルクスはシュミットの横に来て、耳元で囁いた。
「恋人が居るって言ってたじゃん。結婚だって考えてるんだろ?」
「…」
マルクスが少し意地悪くシュミットに言った。しかし、シュミットはその言葉に動揺する素振りを見せなかった。
そして、シュミットは口を開いた。
「確かに居る。だが…」
「だが?なんだ?」
「勿体ぶるなよ」
シュミットの言葉にミハエルとマルクスが耳を傾ける。しかしシュミットはサーニャの方を見ると、二人の予想外のことを言いだした。
「今は、まだ駄目だ」
「え?」
「どういう意味だ?」
シュミットの言葉の意味が分からず、ミハエルとマルクスは疑問に思う。しかし、シュミットは続けて説明した。
「サーニャはまだ15歳だし、彼女はやらなきゃいけないことがある」
「やらなきゃいけないこと?」
「何だそりゃ?」
シュミットの説明にますます分からないと言った様子のフレイジャー兄弟。しかし、シュミットもシュミットでしっかりと考えていた。
「サーニャ今、生き別れになった両親を探している」
「生き別れの両親?」
「ああ。ウラル方面に疎開したらしいが、彼女は両親の居場所を知らなかった。だから、今サーニャは懸命に両親を探しているんだ」
ミハエルは何のことかと思うが、シュミットが続けて説明する。サーニャは今、休暇を使って分断されたオラーシャに向かい、両親を探していた。どこかに避難しているはずの両親と再会するためだ。
そして、シュミットが結婚を現在考えない理由がここにあった。
「そうやって頑張る彼女に、自分が今彼女と結婚することが果たしていいことか?違うとはずだ。自分の私情を只彼女にぶつけるだけでは、彼女は幸せにならない。だから…」
「今は結婚をしない、と?」
「ああ…」
シュミットの後の言葉を、マルクスが続けた。そして二人は、自分がすべきことは何かを探している様子のシュミットの顔を見ながら呆れたように言った。
「あのな~、シュミット」
「そういうのは簡単なんだよ」
「え?」
二人の言葉に何のことかと思うシュミット。しかし、フレイジャー兄弟はシュミットに言った。
「お前も一緒に探してやればいいじゃないか」
「そうだ。恋人のことを大事にしてるんなら、それぐらいすればいいじゃないか」
二人の突然の言葉に、シュミットは呆気にとられたような顔をする。
「お前がその人を大切に思っているのなら、それぐらい出来るだろ?」
「男だったら迷うんじゃなく、まず行動をしろ」
二人は畳みかけるようにシュミットに言った。そしてシュミットは、その言葉に目を開きながら驚いている様子だった。まるで、今まで見つからなかった物を見つけたように。
そして、シュミットは顔を戻すと、自分を侮辱したように微かに笑った。
「…そうだよ、簡単なことだ。サーニャは懸命に探してるんだ。それなのに、私が探さないでどうするんだよ」
そう言って、シュミットは微かに笑う。今まで自分が本当にすべきことは何なのかをずっと悩んでいた。しかし、答えは身近に、とても簡単なところにあったのだ。
そして、その答えを教えてくれたフレイジャー兄弟の方を向く。
「ありがとう、おかげで答えが分かった」
「そりゃよかった」
「迷ったときは親友に頼め」
「ああ、ありがとう…」
そう言って、シュミットは吹っ切れた顔をする。その顔を見て、フレイジャー兄弟も互いの顔を見て、そして微かに微笑むのだった。
ウルスラ登場&フレイジャー兄弟再登場。そして不思議なストライクウィッチーズの世界。そして、シュミットの中の迷い回でした。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!