ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第八十三話です。どうぞ!


第八十三話「私のロマーニャ」

「あれ~、車にもいないな」

「さっきまでお店の椅子に座ってましたよね?」

「あいつ、どこに行ったんだ?」

 

シャーりは車の中を見るが、そこにルッキーニの姿は確認できなかった。あの後三人は、店の中にルッキーニが居ない事に気づき探し始めた。しかし、ルッキーニの姿はどこにもなく、トラックに探しに来たがそれでも居なかった。

シャーリーは困った様子である。

 

「う~ん…ルッキーニに残りのお金全部渡しちまったからな~…」

「ええっ!?まだ食料買ってないですよ!」

「急いで探すぞ」

 

そうして、三人によるルッキーニ捜索が始まったのだ。

 

「ルッキーニちゃ~ん!」

「どこだー、ルッキーニ!」

 

シュミット達はトラックで街中を移動しながら、ルッキーニの名前を呼ぶ。しかし、ルッキーニがこれに反応することは無く、それどこから影も形も見当たらない。

 

「どこ行ったんだ…本当に」

 

シュミットは街の人にもルッキーニの所在を聞く。しかし、誰もルッキーニの所在を知る者はいなかった。

シュミットは仕方なくシャーリー達の元へ戻った。

 

「駄目だ、やっぱりルッキーニの場所を知る者は…って、お前たち何やってるんだ?」

 

カフェで休憩をしていたシャーリー達のところに来たシュミットは、二人の姿に呆れながら聞く。二人の目の前にはケーキがあり、完全にくつろいでいた。

 

「おう、シュミット」

「おうじゃねえよ…疲れたのは分かるが、もうちょっと深刻になってくれ…」

 

と、流石にシュミットもこの光景にはぐったりとするしかできなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

その頃ルッキーニは、助けた少女マリアと共に街中を観光していた。時には歴史的建造物の場所へ行ったり、お店に行って買い物をしたり、子供達にアイスをおごってあげたりと、色々なことをしていた。

その間にも、ルッキーニと行動を共にしていたマリアは初めて見る光景ばかりなのか目を輝かせたりしていた。そして現在、二人はローマで一番高い観光名所に来ていた。

 

「どうマリア!ここから見る景色が、私は一番好きなんだ!」

「美しい…」

 

ルッキーニが自慢げに紹介する。マリアはルッキーニに言われて街を見ると、その光景にとても感激していた。そこからはローマの街の殆どが一望でき、人も小さく見えるほどの光景だった。

 

「私、家に帰らないでずっとここに居たいです」

「だったらいればいいじゃん!」

「ふふっ、そうですね」

 

ルッキーニがそんなことを言うので、マリアは笑う。しかし、マリアは笑った後に再び街に視線を落とすと、どこか不安そうな顔をする。

 

「この美しいローマの街を守ることが、私にできるでしょうか…?」

「え?」

「あっ、家から煙が!」

 

ルッキーニはマリアの言っていることが分からずに聞くが、マリアは家の屋根から煙が出ていることに驚く。

 

「食事の準備の煙だよ」

 

そんな風に驚くマリアに、ルッキーニが説明する。しかし、マリアはその家一つ一つをみると、おかしなことを言った。

 

「あの一つ一つが、()()の暮らしている家なのですね」

「…民人?」

「今まで知りませんでした」

 

マリアの不思議な言い方に、ルッキーニは疑問に思う。民人なんていう言い方をする人など、ルッキーニは今まで見たことが無い。しかし、ルッキーニはそんな事よりと、話題を変えた。

 

「ねえ、ホントは絶対見せたい景色がもう一つあるんだ!」

「それは是非見てみたいです!」

 

ルッキーニの新たな話題にマリアも食いつく。しかし、ルッキーニはここで表情を少し落とす。

 

「う~ん、今はちょっと…」

 

ルッキーニは()()その景色を見せることができないと言う。そんなルッキーニの姿を見て、マリアは特にがっかりした表情などを見せずに笑った。

 

「そうですか。では、またの機会にお願いします」

「うん!」

 

そんなマリアの約束の言葉に、ルッキーニも笑顔になり頷いたのだった。

その時だった。街全体に空気を吹き飛ばすような音が鳴り響く。それはローマに設置されたネウロイ警報だった。

 

「ネウロイだ!」

「大変!早く逃げましょう、ルッキーニさん!」

 

マリアはルッキーニの手を取って逃げるように言う。しかしルッキーニは動かず、マリアの方を向いて言った。

 

「あたし、行かなきゃ」

「え?」

 

ルッキーニの言葉にマリアはどういうことかと思う。

丁度その時、地上を走っているトラックから宮藤が顔を出してルッキーニを見つけた。

 

「居た!シャーリーさん!塔の上です!」

「塔!?」

「ホントだ!ルッキーニ!」

 

宮藤の言葉にシュミットは驚くが、シャーリーはルッキーニの姿を見つけると大声で呼ぶ。

その声に、ルッキーニも気づいて柵を乗り超える。

 

「シャーリー!」

「危ない!」

「行かなきゃ!私ウィッチだから!」

「えっ?ウィッチ?」

 

ルッキーニはマリアに振り返って言う。マリアはルッキーニがウィッチだという事に驚いた様子だった。

そして、ルッキーニは自分のかぶっていた帽子をマリアに投げ渡す。

 

「これ、持ってて!」

「あ、はい!って、ええっ!?」

 

マリアはそれを受け取ったと同時に、ルッキーニは屋根からジャンプをする。その高さにマリアは驚く。しかし、ウィッチであるルッキーニはそのまま屋根の上を滑りながら、マリアに話す。

 

「だから私、ロマーニャを守らなきゃいけないの!」

 

そう言って、ルッキーニは大ジャンプをした。そして地面に降り立つと、トラックの荷台に積み込まれていたストライカーユニットに足を入れる。

魔法力を流し込み、魔導エンジンを回転させる。そして右手側に出た機関銃を手に取ると、そのまま垂直に飛翔した。

上空では、先に飛んでいたシュミット達が待っていた。しかし、ルッキーニは真っ先に先頭に立ち、ネウロイに向かっていく。

そんなルッキーニをシャーリーが止める。

 

「先走るな、ルッキーニ!」

「でも…!」

「分かってる。だが一人じゃだめだ」

 

ルッキーニはシャーリーに何か言いたげだが、シャーリーはちゃんと理解していた。シャーリーだけでなく、宮藤やシュミットも分かっている。

 

「ルッキーニちゃんの故郷を守りたいのは、私たちも一緒なんだから!」

「皆で協力して、ロマーニャの街を守るぞ!」

「うん!ありがとうシャーリー!芳佳!シュミット!」

 

三人の思いを知って、ルッキーニは笑顔で返事をする。

 

「よし、宮藤お前は私に付け。シャーリーはルッキーニを頼む」

「はい!」

「了解!行くぞ、連携攻撃だ!」

 

宮藤がシュミットに並び、ルッキーニがシャーリーに並ぶ。そして、四人はネウロイに向かって飛行する。

ネウロイは四人に向けて攻撃をする。しかし、それぞれ回避をして攻撃を加えて行く。

その時、ルッキーニがあるものを見つける。それはネウロイの体の下から僅かに露出していたコアだった。

 

「あっ、シャーリー!コアが見えた!」

「よし!X攻撃だ!」

「わかった!宮藤、お前はルッキーニの方に行け!私はシャーリーと相手の気を向ける」

「はい!」

 

ルッキーニの言葉に、シャーリーが作戦を通達、そしてシュミットはルッキーニ護衛の為に宮藤を移動させる。

まずシュミットとシャーリーがネウロイの上から攻撃を加えて行く。攻撃を受けて、ネウロイはシュミット達にビームを撃つ。

 

「いいぞ!来い来い来い!」

「そのまま騙されろよ…」

 

ビームを回避しながら、シャーリーとシュミットは続けて攻撃をしていく。これでネウロイの注意はルッキーニ達から離れた。

 

「ルッキーニちゃん!」

 

宮藤がルッキーニの名前を呼ぶ。ルッキーニは自分の前にシールドを重ねて張ると、固有魔法『光熱攻撃』を行う。これで、ルッキーニはネウロイを貫くつもりだ。

しかし、ネウロイはルッキーニの行動に気づき、攻撃をルッキーニ側に変えた。

 

「気付かれた!」

「宮藤、ルッキーニを守れ!」

「はい!」

 

シュミットの言葉に宮藤は返事をし、ルッキーニの前に立つ。そしてネウロイの攻撃を自慢の大きなシールドですべて防ぐ。

攻撃を宮藤がすべて受けたおかげで、ルッキーニは動きやすくなる。そして、ネウロイのビームを避けながらルッキーニは急上昇をしていき、そしてネウロイに体当たりした!

 

「たああああ!!」

 

気合一発、ルッキーニはネウロイの体を貫いた。それにより、ネウロイのコアは完全に壊れ、ネウロイはひかりの破片に変わったのだった。

 

「凄い…」

 

一連の光景を見ていたマリアは、ただその姿に凄いとしか言えなかった。その時、ルッキーニが空から降りてくる。

 

「見せてあげる!」

「え?」

「さっき言ってた、絶対見せたい景色」

 

そう言って、ルッキーニはマリアの体をお姫様抱っこすると、そのまま上空へ飛翔した。

 

「はわわ…」

「へへ~ん!見て、マリア!これが絶対見せたかった景色だよ!」

 

マリアはだんだん上がって来る高度に驚く中、ルッキーニが下を向きながらマリアに言う。その声につられてマリアも見る。そして、目を輝かせる。

眼前には、ローマの街全てが一望できた。先ほどの塔の上よりもずっと高く、そしてずっと綺麗に映っていた。

そんな中マリアは、ルッキーニに質問した。

 

「…ルッキーニさんは怖くありません?」

「え?何が?」

「あんな恐ろしい敵と戦うなんて、怖くは無いんですか?」

 

マリアは、あんな恐ろしいネウロイと戦うルッキーニに、怖くは無いのかと思う。自分からしたら、あのような敵と戦うとなったら怖いと言ってしまうかもしれないからだ。

しかし、ルッキーニは違った。

 

「だって、ネウロイやっつけないとロマーニャ無くなっちゃうじゃん。皆の家とか友達を守るのが、ウィッチだもん」

 

ルッキーニはそうマリアに言った。ロマーニャ軍の問題児と言われている彼女も、ペリーヌと同じように祖国を愛している。だからこそ、彼女は祖国を守る為に戦うのだ。

そんなルッキーニを見て、マリアは微笑みながら言った。

 

「ノーブレス・オブリージュですか」

「え?マリアって難しいことばっかり言うね…」

「そうですか?」

 

ルッキーニに言われてマリアはキョトンとする。そして、二人は一緒に笑い合うのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「うわあああん!ごめんなさーい!」

 

翌日、ルッキーニは両手にバケツを持たされて基地の外を立たされていた。原因は、食料調達のために持って行ったお金をルッキーニがマリアとの観光に全て使ってしまったことが原因だった。

 

「監督責任!…私にもあるな…共に反省しよう」

「すまん、ルッキーニ」

「今回ばかりは何も出来ない…すまんな」

 

坂本は監督責任と言うが、自分にも非があるなと言って歩いて行ってしまった。そしてシャーリーとシュミットは、ルッキーニの横を謝りながら歩いて行った。

そして、基地の中ではそれぞれの注文した物を渡し合っていた。

 

「はい、エイラさん」

「言ったものあったカ?」

「サーニャちゃんにはこれ」

「あ、ありがとう、芳香ちゃん!」

 

宮藤がエイラとサーニャに注文されたものを渡す。そして宮藤は少し困ったように言った。

 

「もー、エイラさんって注文が多くって…」

「そ、そんな事無いゾ…!」

「エイラ、人にお願いするときはちょっと遠慮するものよ?」

「う~…」

 

サーニャに注意されて、エイラは少し立場が弱くなる。

そこに、シュミットがやって来る。

 

「はいこれ。こっちはエイラで、こっちはサーニャに」

「ん?何だ?」

 

シュミットは二人にケースに入った何かを渡す。エイラはそれを受け取るとケースを開けた。中に入っていたのは、狐の絵柄が入っているグラスコップだった。

そして、サーニャが中を見ると、そっちにもグラスコップ、こちらは黒猫の絵柄が入っていた。

 

「これって…」

「ロマーニャの街で見つけたんだ。部隊の皆の分全部買ってきたんだ」

 

そう、シュミットはロマーニャの雑貨屋で、動物の絵柄の入ったグラスコップを見つけたのだ。ロマーニャで盛んになったガラス工芸品は、シュミットの目を引き付けた。そして、シュミットは自分のお金から皆の分をすべて買ってきたのだ。

 

「ありがとう、シュミットさん」

「ありがとナ、シュミット」

「喜んでもらえてよかったよ」

 

サーニャとエイラはシュミットにお礼を言う。シュミットは二人のお礼を聞けて、買った甲斐があったと言った様子だった。

そして、宮藤はペリーヌの元にあるものを持っていく。

 

「ペリーヌさん、これ」

「なんですの、これは?」

「お花の種、この基地の周りにお花を植えたらどうかなって、リーネちゃんが」

「リーネさんが?」

 

ペリーヌはリーネが事の発案だと知り驚く。ペリーヌは、今回の件で一人だけ何も頼まなかった。そのため、リーネはペリーヌに少しでも元気になってもらおうと思い、花の種を頼んだのだ。

 

「はい。ペリーヌさんにお花の育て方を教えてもらおうと思って」

「ど、どうして私がそんなことを…」

「一緒に植えようよ!」

「教えてください」

 

二人真っ直ぐとした言葉に、ペリーヌもあっさりと折れた。

 

「仕方ありませんわね」

 

そう言って、ペリーヌはお花の育て方を一つ一つ説明したのだった。

そして、皆はミーナの注文したラジオの前に並び、耳を立てる。

 

『…さて、本日初めての公務の場である、栄優会に出席されたロマーニャ公国第一皇女、マリア殿下からのお言葉です』

 

ラジオからは男の人の視界が聞こえてくる。そして、少し静かになると、次に女性の声が聞こえてくる。

 

『昨日、ローマはネウロイの襲撃を受けました。しかし、そのネウロイは小さなウィッチの活躍で撃退されたのです。その時私は、彼女からとても大切なことを教わりました』 

 

全員が静かにラジオを見ながら聞く。

 

『この世界を守る為には、一人一人が出来る事をすべきだと、私も私が出来る事でロマーニャを守っていこうと思います』

 

そして、ラジオの向こう側に居るマリア殿下は、とんでもない言葉を501のウィッチ達に落とした。

 

『ありがとう、私の大切なお友達、フランチェスカ・ルッキーニ少尉』

「え?」

『ええええ!?』

 

衝撃の言葉に、ラジオを聴いていた全員が驚く。何故、今ルッキーニの名前が出たのかと誰もが思った。

 

『感謝を込めて、ささやかなお礼を501統合戦闘航空団に送ります』

 

そして、殿下の続けて言われた言葉と共に、基地の外で音がする。全員が見てみると、パラシュートによって投下された沢山の木箱があった。それは、マリア殿下がお礼として送ってくれた、補給物資の数々だった。

 

「お、重い…」

 

その補給物資の下では、外で立たされていたルッキーニが下敷きになってしまったのだった。




ようやく山を越えた気がしました(難題という)。次はサーニャ回にようやく入ります。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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