ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第八十六話です。どうぞ!


第八十六話「守りたい」

ロマーニャ軍からウィッチーズへのネウロイ討伐権が移行した日、格納庫内。

 

「ふふ~ん。ルッキーニ、似合ってるじゃないか!」

 

シャーリーはそう言ってルッキーニを見る。ルッキーニは赤いコートと黄色のマフラー、そしていつもの素足とは違い黒く長いストッキングを履いている。

 

「暑いよ~…」

「我慢だルッキーニ、成層圏は無茶苦茶寒いんだぞ?」

「うっ、寒いのやだ~」

 

ルッキーニはその格好に不満のようである。しかし、シャーリーの言葉に今度はそっちに嫌がる。温暖なロマーニャ育ちのルッキーニからしたら、暑い地域で熱い格好も嫌いだが、寒いのはもっと嫌いであった。

 

「ははは、じゃあこれも付けてっと」

 

シャーリーはそんなルッキーニを見て笑いながら、ルッキーニに耳当てを付けた。これで、成層圏で耳が冷たくなるのは抑えられる。しかし、ルッキーニは変な感覚にむずかゆく感じる。

その横では宮藤が大きなコートを見ながら話す。

 

「バルクホルンさんのコート、ちょっと大きい…」

「我慢なさい。何も着ないよりましでしょ?」

 

扶桑から殆ど用意もせずに飛んできた宮藤は、コートなどを持っていなかった。そのため、バルクホルンからコートを借りたのだが、サイズが合わず手が少しダボダボになる。そんな宮藤に、ペリーヌが注意する。

 

「ん?何だコレは?」

 

そのコートを貸したバルクホルンは、テーブルの上に置かれているティーカップに気づき質問する。その質問に、マフラーを巻いたリーネが答えた。

 

「ジンジャーティーを作ってみました。体があったまりますよ」

「ふむ、そうか」

 

リーネはそう言って、ティーポットを手に説明する。成層圏の寒さに耐えるためには、厚着だけでなく内部から体を温める必要もある。そのため、リーネは生姜を使ったジンジャーティーを作ったのだ。

 

「どうですか?お砂糖たっぷり入れたから飲みやすいと思いますよ」

 

リーネはそう言うが、飲んでいる人達は反応はそれぞれだった。

 

「まじい…」

「いや、しかし思ったほどでは…うぐっ!」

 

ハルトマンの言葉にバルクホルンがフォローしようとするが、彼女も言葉に詰まってしまう。

 

「おかわり~」

 

ミーナは笑顔でおかわりを要求するが、その後ろでペリーヌが何とも言えない反応をする。

 

「…辛いな」

 

シュミットはそう言って、もう一度ジンジャーティーをあおる。いくら砂糖で甘くしたとしても、しょうがをたっぷり使っているため辛いのだ。

 

「あ、あとから効いてくる感じだね…」

「しかし、薬だと思えばどうということは無い」

 

宮藤は横に居るサーニャに言うが、サーニャはその辛さが少しきついようだった。しかし、坂本が薬だと思えば問題ないと言うように、考え方は人それぞれのようだ。

そんな中、エイラはその様子を離れたところから見ていた。

 

(なんでお前がサーニャのマフラーしてんダヨ…)

 

と、宮藤に少し嫉妬している様子で、ジンジャーティーを飲むのだった。

そして、ウィッチ達は滑走路に集合すると、ユニットを履いてフォーメーションを組む。土台を利用して作るその形状は、周りから見れば人間タワーである。

第一段目にミーナ、坂本、ハルトマン、バルクホルン、シャーリーが土台となる。この5人は、上の段の人間をレシプロストライカーの限界高度まで持ち上げる。

第二段目には、リーネ、ペリーヌ、ルッキーニ、エイラ、シュミットの5人が腕を組む。この5人は比較的若い、もしくは魔法力が多いと言う点から採用され、第一段目の人達が限界高度到達と同時に離脱したら、ユニットに取り付けてあるロケットブースターを点火し、最上段の二人を持ち上げる。

そして、最後の段には、宮藤とサーニャが居る。二人は第二打ち上げ班が2万メートル以上上昇した後、離脱をしたらロケットブースターを点火、そのままネウロイのコアの位置3万3333メートルまで上昇し、コア破壊に向かう。

そして、全員がフォーメーションを組み終わる。

 

「皆いいわね?」

『はい!』

「シュミットさん!」

「了解!」

 

ミーナの言葉と共に、シュミットは固有魔法を発動する。彼は、第一打ち上げ班の上昇から第二打ち上げ班上昇まで、全てのユニットに強化を掛けるのだ。

 

「10!9!8!7!6…」

 

そして、着々とカウントダウンが進んでいく。

 

「5!4!3!2!1!0!」

 

そして、ゼロの合図と同時に、第一打ち上げ班がユニットのエンジンを高回転で回す。そこに、シュミットの強化の力も加わっているため、回転数は通常時よりもはるかに上回っていた。そして、全員の体は持ち上げられ、徐々に垂直飛行を開始していく。

 

(3000メートル…4000メートル…)

 

シュミットは、高度を数えながら時が来るのを待つ。

そして、第一打ち上げ班の動力の限界高度1万1000メートルに差し掛かり、第一打ち上げ班は離脱を開始する。

それと同時に、第二打ち上げ班がロケットブースターを点火する。無論、シュミットもロケットブースターを点火しており、同時に強化をまた全員にかけている。これにより、ロケットブースターは通常の上昇力よりもはるかに上昇距離を維持することができる。

 

(1万5千…1万7千…)

 

シュミットの意識は、徐々に朦朧としてくる。無理もない。彼の負担は通常よりも遥かに多いのだ。しかし、彼はこの役割をしっかりと果たさなければならない。

そして、ロケットブースターの上昇は本来の上昇距離よりも長い1万2千メートルを稼ぎ、高度は2万3千メートルに差し掛かった。これで、サーニャたちは実質1万メートル弱の上昇で済むので、魔法力の消費を抑えることができた。

ここで、第二打ち上げ班は離脱に入る。

 

「よし…」

 

シュミットは重い瞼を懸命に開きながら、上を見る。これで、後は宮藤にサーニャを託すだけになった。もう彼が出来る事は、作戦成功を祈ることだけだ。

エイラは離脱をしながら、サーニャを見る。サーニャは宮藤と体を抱き合いながら上昇していく。その時、サーニャはエイラの方に気づき、顔を向けた。

 

(…嫌だ!)

 

その顔を見て、エイラの心は揺れ動いた。エイラは、サーニャの身に何かが起きた時のことを考え、そして不安になった。

 

「私が…私が…サーニャを守るんだ!!」

 

エイラはそう言って、離脱をしている体勢から一転、ブースターに魔法力を再び流し始めると、そのままサーニャの元へ向けて上昇をした。

その様子に誰もが驚く。そして、サーニャがエイラに言った。

 

「何してるの、エイラ!?」

「サーニャが言ったじゃないか!諦めるから出来ないんだって!私は、諦めたくないんだ!私が…サーニャを守るんだ!!」

 

エイラはそう言って、懸命に手を伸ばす。自分がサーニャを守るんだと、懸命にサーニャのいる位置に届くように手を伸ばす。

しかし、エイラは魔法力を使っており、ロケットブースターも耐久が持たなくなってくる。彼女の手は、無情にもサーニャに届かない。

 

「っ!?」

 

その時だった。エイラが伸ばした手に突然、感触が来る。エイラは思わず目を開けて見ると、なんとそこにはサーニャと共にいたはずの宮藤の姿があった。

 

「宮藤!?」

「エイラさん、行きましょう!」

 

エイラは宮藤が目の前にいることに驚くが、宮藤はエイラの背後に回り込むと、こんどはその体を抱きかかえてロケットブースターを思い切り吹かす。それにより、エイラの体は宮藤と共にサーニャの元に送り届けた。

 

「芳佳ちゃん!」

「無茶よ!魔法力が持ちませんわ!帰れなくなりますわよ!」

 

皆が口々に言う。誰もがこの行動は無茶であると思っていた。

 

「私が、エイラを連れて帰ります…必ず連れて帰ります」

 

しかし、誰もが驚く声がする。それは何とサーニャだった。サーニャが、エイラを連れて帰ると言ったのだ。

そして、さらに驚く声がする。

 

「サーニャを頼むぞ!エイラ!!」

「なっ!?シュミットさん!?」

 

なんと、シュミットがエイラとサーニャの方を見ながらそんな事を言うではないか。エイラは、そんなシュミットに振り向くと、真剣な顔で頷き返す。

その顔を見て、シュミットは微笑む。そして、瞼をそっと閉じる。今の今まで、誰よりも負担がかかっていたシュミットが、最後の力を振り絞って言った言葉だったのだ。彼はエイラの表情を見て張り詰めていた気が抜けたのか、ドッと来た疲れに負けそのまま空中で眠ってしまった。

そのシュミットに気づき、ペリーヌが急いで受け止める。

 

「シュミットさん!?もう…無茶苦茶ですわ…」

「いっけー!サーニャー!エイラ―!」

 

ペリーヌはそう言って、再び視線を空に向ける。横に居るルッキーニは、年相応のはしゃぎ方をしながらエールを送っていた。

そして、エイラをサーニャの元に送り届けた宮藤は、そっと手を放し、そして離脱を開始した。宮藤は、エイラにサーニャのことを託したのだ。

エイラはそんな宮藤に驚くが、宮藤が完全に離れて行くのを見て、そして表情を変えた。

二人は、ぐんぐんと上昇をしていく。エイラのロケットブースターは、成層圏でのシールドの役割を担うために既に活動を停止していた。後はサーニャの力のみで上昇していくことになってしまっていた。

しかし、二人は確信していた。必ずネウロイのところへ辿り着くと。何故なら、途中までの高度をシュミットがありったけの魔力と固有魔法を使って稼いだのだ。必ずたどり着けると。

そして、二人はついに3万メートルの高度を抜けた。天を仰げば鏤められた星々、下を向けば青い星が見えていた。そして、真ん中には赤い光、ネウロイの姿が見えた。

 

「来る!」

 

ネウロイは、形状を変化させる。先端部を花のように開くと、そこにビームを収束させ、そして二人に向けて放った。

 

 

 

しかし、ビームは二人に当たることは無かった。ビームは二人の目の前で拡散し、後方へと飛んでいく。

エイラがシールドを張ったのだ。特訓で一度も張ることができなかったシールドを、エイラが張ったのだ。始めて張ったシールドは、ネウロイの攻撃からサーニャを守ったのだ。

そして、エイラが懸命にシールドを張ることで、サーニャはフリーになった。そのおかげで、サーニャはネウロイに対してフリーガーハマーを安心して向けることができる。

サーニャはずっとエイラと繋いでいた手を離すと、フリーガーハマーをしっかりと構えて引き金を引いた。放たれた9発のロケット弾はネウロイに向けて飛翔していくと、周辺で爆発。ネウロイの表面を削ると同時に、コアを完全に粉砕した。

そして、ネウロイは大爆発の中に飲み込まれながら、その姿を完全に消滅させた。

 

「っ!」

 

しかし、この爆発の衝撃はサーニャは後方に吹き飛ばした。エイラはシールドを張っていたが、サーニャはそのまま体が爆風に流されてしまう。

だが、そんなことはさせなかった。エイラはシールドを張る手とは逆の手を伸ばして、サーニャの手を取った。そして、サーニャを爆風に飲み込ませないようにシールドの中に入れた。

暫くして、爆風は収まった。後に残ったのは地上に向かって落ちていくネウロイの残骸だった。破片は、まるで夜空の雪のように地面に向けて降り注いでいく。

エイラは、サーニャの方を向いて微笑む。そして、サーニャの耳に顔を寄せる。

 

「聞こえるカ?」

「うん…」

 

エイラがサーニャに聞くと、サーニャは答える。

 

「ごめんな」

「ううん、私も」

 

エイラは、サーニャに謝った、昨日のことを。そして、サーニャも同じように謝った。互いが悪かったのだ。今ここで、二人はしっかりと謝った。

そして、サーニャは遠くに見える景色に気づく。

 

「見て、エイラ。オラーシャよ」

「うん」

 

サーニャに言われてエイラも見る。そこには、雲の下に存在するオラーシャの姿があった。その中でも、雲を突き抜ける大きな場所があった。ウラル山脈だ。

サーニャは、そのウラル山脈に向けて手を伸ばす。

 

「ウラルの山に手が届きそう…」

 

サーニャは懸命に手を伸ばし、そして少しおろして言った。

 

「このまま、あの山の向こうまで飛んでいこうか…」

「…いいよ」

 

その言葉に、エイラが返事を返した。そして、続けてサーニャに言った。

 

「サーニャと一緒なら…私はどこへだって行ける」

「っ!」

 

その言葉に、サーニャは目を開いてエイラを見た。エイラは、目に涙を浮かべながらサーニャに言っていた。

そんなエイラを見て、サーニャはエイラの体を抱き寄せる。

 

「ありがとう。でも嘘…ごめんね。今の私たちには帰るところがあるもの」

 

エイラの言葉にお礼を言って、そしてサーニャは謝る。今の二人には、ちゃんと帰るところがある。彼女たちの帰りを待つ人がいる。そして、大切な人が待っている。

そして、エイラは言った。

 

「あいつが誰かを守りたいって気持ちが…少しだけ分かった気がするよ」

 

エイラの頭の中には、二人の人影が浮かんでいた。一つは、自分の力で皆を護りたいと志す少女の姿。そしてもう一つは、愛する人の笑顔の為に命をも懸ける青年の姿。

そして、二人はゆっくりと重力に従い降下していく。真上に見える星空と、遠くに見えるオラーシャの大地をしっかりと、瞳に焼き付けながら。




というわけで、サーニャ編が終わりました。シュミット?彼は彼で活躍してましたよ?次は(ある意味)問題の話に入ります。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!
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