ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第八十七話です。どうぞ!


第八十七話「シュミットの想い」

地中海、501基地周辺。

 

「ふぁ~…」

 

サーニャは夜間哨戒を終え、欠伸をしながら基地に向かっていた。その横では、同じように夜間哨戒を終えたシュミットが居た。

 

「もう少しだサーニャ、頑張れ…」

「はい…」

 

シュミットはサーニャに励ましの声を掛ける。しかし、そんなシュミットも少し疲れた表情をしており、彼も彼で我慢しているようだった。

そして、二人は基地の格納庫に付く。シュミットは先にサーニャに上がらせ、自分は後の仕事を行う。

 

「ふぁ~…」

 

シュミットは欠伸を一つする。サーニャの前では懸命にこらえていたが、今は居ない為思わず零れたのだ。そして、仕事を一通り終えたシュミットは、自分の部屋へ寝に向かう。

 

「…ん?」

 

そして、部屋の扉を開けたシュミットは、そこにある光景に気づく。一人部屋である彼の部屋は、ベッドは一つだけだ。しかしその上に、誰かが寝ている。

シュミットはベッドに近づき寝ている人物を見る。

 

「おや…」

 

ベッドの中で眠っているのは、なんと先に上がっていたサーニャだった。そしてシュミットは周りを見ると、床に脱ぎ散らかされた服を見つけた。サーニャが部屋に入り込み、ベッドに潜り込んだようだ。

シュミットはその姿に微笑む。そして、ベッドの上にあるシーツに手を伸ばした。

 

「そのままじゃ風邪を引くぞ…」

 

そう言って、シュミットはサーニャの肩までをシーツで覆ってあげる。そして、今度はサーニャの脱ぎ散らかした服を見た。

 

「…仕方ないな」

 

そう言って、シュミットはサーニャの服を一つ一つ丁寧にたたむと、それをサーニャに分かりやすい位置に置いた。

そして、ベッドをサーニャに占領されたシュミットは、眠たい体をソファーに預け、そして夢の中へ入るのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「みなさん、おはようございます」

 

朝、ミーナがレクリエーションルームであいさつをする。部屋の中にはミーナの他に、坂本、宮藤、リーネ、ペリーヌ、ルッキーニ、エイラが居た。

そして、ミーナは通達を説明する。

 

「今日の通達です。先日来の施設班の頑張りにより、お風呂が完成しました。本日正午より、利用可能になります」

 

その言葉を聞いて、皆の顔が笑顔に変わった。

 

「やった~!」

「おっふろ~!おっふろ~!」

 

それぞれの喜ぶ姿を見てミーナは微笑み、そして捕捉した。

 

「アドリア海を一望できる、野外に作ってもらったのよ」

「ほう、露天風呂か」

 

ミーナの言葉に坂本が感心したように言う。ブリタニアの501基地にあったお風呂は室内浴場であり、露天風呂は珍しい形であったからだ。

 

「では、各自今日は自由行動です。お風呂の件は他の人にも教えてあげてね」

『は~い!』

 

ミーナの言葉に全員が返事をした。

 

「良かったね、芳佳ちゃん」

「うん!一緒に入ろうね!」

 

宮藤は早速リーネと約束を交わす。

 

「ペリーヌさんも!」

「え?ま、まあ汗を掻いたとにすっきりするのはいいことですわ…」

 

そして、宮藤はペリーヌも一緒に入ろうと誘う。名前を呼ばれたペリーヌは少し恥ずかしそうにではあるが、宮藤たちと一緒に入ることを約束した。

そんな中、ルッキーニは我先にとお風呂に直行しようとする。

 

「おっふろ~!おっふろ~!わったしがいっちば~ん!」

 

と言いながら走っていくルッキーニの上着の襟を坂本が掴む。

 

「聞いてなかったのか?風呂が使えるのは正午からだ」

「え~…まだ駄目なの?」

 

ルッキーニは坂本の言葉にブーブーと言う。ルッキーニとしては、今すぐにでもお風呂に入りたい気持ちでいっぱいだったからだ。

 

「風呂に入れるまでまだ時間があるな…というわけで、風呂に楽しく入る方法があるのだが…」

「何ですか?坂本さん」

 

坂本は風呂に楽しく方法があると言う。その言葉に食いつき宮藤が聞く。

すると、坂本は自信満々に言った。

 

「訓練で汗を掻け、全員基地の周りでランニングだ!」

 

坂本の言葉に全員が顔を変える。

 

「え~…」

「でも、訓練だったらいつでも…」

 

全員が不満そうな顔色をする。しかし、坂本は有無を言わさずに声を変えた。

 

「つべこべ言わずに走れ!」

『は、はい~!』

 

坂本に言われて全員がレクリエーションルームから走って出て行くのだった。

そこに、宮藤たちと入れ違いで起きてきたシュミットがやって来る。

 

「おはようございます」

「おはよう、シュミット」

「おはよう、シュミットさん」

 

シュミットは部屋の中に居た坂本とミーナに挨拶をする。坂本達もシュミットに挨拶を返す。

 

「さっきのあれ、何ですか?」

「宮藤たちか。風呂に入りたければ訓練で汗を掻けと言ったんだ」

 

シュミットは宮藤たちが部屋から出て行く姿を見て疑問に思い聞くと、坂本が答えた。

 

「風呂?」

「ええ。基地にお風呂が完成したんです。正午から利用可能です」

「へ~」

 

風呂と聞いてピンとこなかったシュミットだが、ミーナの説明を聞き納得した。

 

「それにしても…なんで風呂如きであんなにはしゃげるんだ…」

「それで英気を養えるならいいじゃない」

 

坂本は疑問に思ったようで口にするが、ミーナはそのあたりを寛容に見ているようである。そして、ミーナはどこか疲れた様子で肩を叩く。

 

「疲れています?」

「最近はネウロイと戦うよりも、上層部と喧嘩してることの方が多い気がするわ」

 

ミーナは疲れた声で言う。その様子に坂本も「そうだな」と言った様子で言う。

 

「そういえば出撃する機会も減っているな。ネウロイの撃墜数も確か…」

「長い間、199機のままね」

「199…次墜とせば勲章ですね」

 

ミーナの言葉にシュミットは驚く。急激に頭角を現したシュミットの撃墜数は現在175機、ミーナの199機には及ばない。

しかし、ミーナはその言葉にあまり嬉しそうでは無かった。

 

「でも、そんなのはいらないから、書類を減らしてほしいわ」

 

と、ミーナは勲章をもらう事よりも事務仕事が減るほうが嬉しいようだった。

疲れている様子のミーナに、坂本が提案した。

 

「風呂に浸かって温まれば、疲れもとれるぞ。ミーナも入ったらどうだ?」

「ああ…でも、この後も書類の整理が残ってるから。考えておくわ、ありがとう」

 

ミーナもその提案に乗ろうかと考えたが、まだ彼女には消化しなければならない書類がある。そのため、一旦は保留にすることにした。

 

「そうか。無理するなよ」

「中佐、一応手が空いてますから手伝いましょうか?」

「そう?ならお願いしてもいいかしら」

 

坂本はそんなミーナに労わるように声を掛け、シュミットはミーナの負担を減らせるかもしれないと思い自分も書類仕事を手伝うと言った。シュミットの言葉はミーナにとっての助け舟になり、ミーナも了承したのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「♪」

 

シャーリーは鼻歌交じりに部屋でエンジンの改造を行っていた。自由行動となったシャーリーが基地でやることは、基本的にユニットのエンジンテストか部屋での機械いじりなどが主であり、今回は後者であった。

シャーリーがエンジンを改造している頃、部屋の中では小さな出来事が起きていた。シャーリーの部屋であるが、ここはルッキーニもよく利用する部屋であり、部屋の中には集めた虫を入れた籠などがあった。その中の一つ、今朝ルッキーニが採ってきた虫を入れた小瓶の蓋が空き、中から一匹の虫が外に出たのだ。

そして、飛び出した虫は羽を出して羽ばたくと、部屋の天井付近に行った。そして、部屋を照らす照明の配線部分の周辺を飛行する。

すると、虫が飛んだ付近に突然配線から火花が出た。その結果、部屋の照明がすべて消えた。

 

「ん?停電か?」

 

シャーリーは急に部屋が暗くなったことに気づき照明を見る。しかし、すぐに復旧するだろうと思い、特に気にした様子を見せずに再びエンジン改造をするのだった。

その間にも、例の虫は部屋を出て基地中を飛行していく。そして不思議なことに、虫の通った場所は次々と停電を起こしていった。

所変わって、ここはハルトマンとバルクホルンの共用の部屋。部屋の中ではごみの山の中にハルトマンが眠っている。

 

「くっ、何者もジークフリート線を超えることは許されない」

 

しかし、バルクホルンはそんなハルトマンを見ながら、あるものに手を掛ける。それは、ハルトマンがいつも来ているジャケットであり、部屋の境界線である柵に掛けられていたのだ。バルクホルンはそれが自分の領域への侵犯と考え、ジャケットを寝ているハルトマンの方に投げた。

 

「起きろ!ハルトマン!もう昼だぞ!」

「う~ん…後40分…」

 

バルクホルンが寝ているハルトマンに言うが、ハルトマンは眠たい様子で言う。その言葉にバルクホルンは怒った。

 

「またか!何が後40分だ!」

 

そう言って、バルクホルンは柵を乗り越えようとする。しかし、ハルトマンのごみの山はバルクホルンの足の踏み場を阻んでくる。

 

「く…あ、足の踏み場が無い…」

 

バルクホルンが手こずっている時だった。突然彼女の後ろからドサリッという音がする。振り返ってみると、ハルトマンのエリアにあった本が数冊バルクホルンのエリアに落ちていた。

 

「なにっ!しまった…ハルトマン起きろ!起きて何とかしろ!」

「う~ん…後50分…」

 

バルクホルンはハルトマンを大声で呼ぶが、彼女は眠りから覚める気は無いようで、先ほどより長い時間を要求していた。

 

「起きろ~!…なんだ?」

 

バルクホルンは懸命にハルトマンを起こそうとする。その時だった。突然部屋の明かりが消えた。バルクホルンは次々と消えていく照明に気を取られる。

そして、バルクホルンがそっちに気を取られている隙に、再び後ろで音がする。見ると、先ほど侵入した本が数を増やしているではないか。

 

「わああ!私のジークフリート線が!」

 

バルクホルンはその様子に悲鳴を上げた。

そして、基地に新たに設置されたお風呂の前、坂本が手に懐中時計を持ちながら針を見ている。その様子を、先ほどまで訓練をしていた宮藤たちが見ていた。

 

「よし、時間だ。入ってよし」

『やった~!』

 

坂本の言葉に宮藤たちが手をあげてお風呂の中に入っていく。しかし、何故かペリーヌだけはその場に立ったままだった。

 

「ん?どうしたペリーヌ」

「へ?」

「入らないのか?」

 

坂本が気になり聞くと、ペリーヌは少し恥ずかしそうに坂本に聞く。

 

「あの、少佐は?」

「ん?ああ、私は朝練の後に行水をしたからな。今日はもういい」

「え?そ、そうですか…」

 

坂本の言葉を聞き、ペリーヌはしょんぼりとした様子で宮藤たちの後を追う。その様子を、坂本は何のことかわからずに見ているのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「平和ですね」

「そうね」

 

その頃、執務室ではミーナとシュミットが書類仕事をしながらそんな会話をしていた。窓から差し込む日の光は部屋を暖め、外の景色は晴天。ネウロイと戦っていないと考えれば気持ちのいい日である。

 

「そういえばシュミットさん」

「はい?」

 

ミーナは何かを思い出したかのようにシュミットに尋ねる。シュミットは突然自分が呼ばれたので、書類から顔をあげてミーナを見た。

 

「この間の時、エイラさんに何か言ったんですって?」

「ああ、あれですか…」

 

ミーナの言葉にシュミットは理解した。この間の3万メートル級ネウロイとの戦闘後、エイラは3日間の独房謹慎となった。理由は独断行動だった。そしてミーナは、そのもととなることをシュミットが関係していると踏んで聞いたのだ。

 

「…本当なら、自分がサーニャを守りたかったんですけどね。だけど自分では出来ないし、エイラにはチャンスがあった。だけど、エイラはシールドを張る特訓でちゃんとしなかった。だから、本当に守りたいのかと喝を入れたんですよ」

 

シュミットはそう言って、窓の外を見る。彼は今でも、あの時自分が守りたかったと思っていた。しかし、彼の役目は他にあり、サーニャを守れなかった。

 

(…だけど、私はサーニャを守る気持ちは変わらない。何があっても…)

 

そう真剣な顔をして思っているシュミットを見て、ミーナは微笑んだ。

 

「フフッ、本当に大事にしているのね、サーニャさんのことを」

「当たり前です」

 

ミーナの微笑みの言葉にシュミットは顔を少し赤くしながら当然とばかりに言う。しかし、彼はミーナであるからこそ、このように話すことができるのだ。何故なら、ミーナは彼にとっての大切な仲間であり、そして尊敬できる人であったから。




次回、例のムイムイが暴れる回に入ります。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!
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