ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第九十三話です。例のあの話です。どうぞ!


第九十三話「ロマーニャのお宝と赤ワイン」

「あれ?」

「また箱が出てきた」

 

あの後、箱を海中から引っ張り上げてきた四人は中身を見てキョトンとする。幅1メートル、高さ60センチの箱を開くと、なんと中には一回り小さい箱が出てきた。

 

「ま、まあそれだけ重要なお宝だという事ですわ…きっとこの中には金銀財宝が…」

 

他が困惑する中、ペリーヌはポジティブに考え再び箱を開けた。しかし、再び箱を開けるとまたしても一回り小さな箱が出てくる。

そして、同じように何回も何回も箱が出ては開け、箱は出ては開けを繰り返す。既に箱の数は10個を超えた。

 

「いったいいくつあるの…?」

「開けても開けても箱だよ…」

「お宝まだ~?」

 

芳佳とリーネは何回も出てくる箱に疲れた様子であり、ルッキーニは早く箱の中身が知りたくて待ちきれない様子だった。既にはこの大きさはペリーヌの手に乗るサイズまで小さくなっている。

 

「ちょっと黙っててくださいまし!これがきっと最後ですわ。開けますわよ…」

 

そんな中、ペリーヌはまだ諦めない様子で箱を開ける。彼女としては、ガリアの壊れた橋を直すために一刻も早く資金が欲しいところであった。もしかしたら、この箱の中にお宝が入っている、その希望を持っていた。

しかし、それは実らなかった。

 

「空っぽ…」

「騙された~」

 

ペリーヌが開けた箱の中には、何も入っていなかった。中身が空っぽなことに芳佳とリーネはガッカリとし、ルッキーニは騙されて砂に倒れた。

 

「そんな…宝が無いなんて…それじゃあ子供たちが…」

 

一番ショックを受けたのはペリーヌだった。一刻も早く橋を直してあげたいと思っていたペリーヌにとって、宝箱の財宝は希望であったからだ。

ペリーヌは両手を目元にしくしくと泣き出した。

 

「ペリーヌさん!?」

「ど、どうしたんですか…?」

 

その様子に芳佳とリーネは驚くが、ペリーヌはしばらく泣き続けるのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「そっか…ペリーヌさん橋の為に頑張ってたんだ」

「それでガリアから戻って来てから様子がおかしかったんですね…」

 

その後、とりあえず落ち着いたペリーヌから訳を聞いた芳佳とリーネは、何故突然泣き出したのかを理解した。因みにルッキーニは先ほど沢山現れた宝箱をタワーのように積み上げて遊んでいた。

 

「やっぱり、そう簡単にお金は手に入りませんわね…こうなったら、家宝のレイピアを売り渡してでも…」

「ペリーヌさん…」

 

それでもペリーヌは、どうしても橋を架け直したい。こうなれば最後の手段はレイピアを手放すしかなかった。

 

「あれ?なんか変な音がする?」

 

その時、箱を積み上げて遊んでいたルッキーニが何かに気づいたように声を出す。その言葉に全員の視線がルッキーニに集まった。

 

「音?」

「うん。もう何も入っていないのに中から音がする。ほら」

 

リーネの言葉にルッキーニが小さな箱を振りながら返す。よく聞くと、箱の木材に何かが当たっているようなカラカラという音がしていた。

 

「あ、もしかして!ちょっと貸して!」

「んにゃ?」

 

その時、芳佳が何かに気が付いてルッキーニが持っていた箱を手に取った。ルッキーニは訳が分からない様子で芳佳を見る。リーネとペリーヌも芳佳の持っている箱を見る。

 

「うちの近所にね、こういうの作ってるところがあるの」

 

芳佳はそう言って、小さな宝箱の奥底をいじくる。すると、芳佳がいじってた箱の奥底が開く。

 

「できた!」

「これは…」

 

ペリーヌは開いた奥底を見て驚く。そこには丸められた小さな紙が入っていた。手に取って開くと、そこにはロマーニャなどが描かれた地図が描かれていた。

 

「地図みたい…」

「もしかして!」

 

ルッキーニはその地図を見て目を輝かせる。

 

「宝の地図ですわ!」

 

そして、ペリーヌも地図の内容を見て確信した。これは宝の地図であると。

四人はその後、地図の通りに歩いていく。すると、ロマーニャ基地の外周部の岩場に、大きな穴が開いていた。そこは地図にも表されていた場所だった。

 

「ここだ!」

「やはり地図の通りですわ!」

 

ルッキーニの言葉にペリーヌは確信する。この地図は間違いなく本物であると。しかし、芳佳とリーネは別のことに興味が移った。

 

「ペリーヌさん書いてある字読めるんだ!」

「これってラテン語でしょ?」

 

二人は地図の言葉が分からなかったため、ペリーヌが読めることに驚いた。その言葉に、ペリーヌは自慢げに言った。

 

「ラテン語を読むくらいの事、良家の子女の嗜みでしてよ」

「良かった、ペリーヌさん元気になって」

 

ペリーヌが元気になったのでリーネは嬉しそう言う。先ほどまで落ち込んでいた様子から見れば誰だって今の元気な姿を見ればホッとすることだ。

 

「な、なにを言ってますわの…さ、行きますわよ」

 

そんなリーネの言葉にペリーヌは少し照れて、それを隠すように海に入った。それに続き、ルッキーニも海に入る。

 

「リーネちゃん行こ!」

「うん!」

 

それに続き、芳佳とリーネも海に入るのだった。

四人が見つけた穴は海底から入る形となっており、一度海に潜ってから洞窟の穴をくぐらなければならない。四人は呼吸を止めて海底を泳いでいく。そして、洞窟内に入ったのを確認すると、再び浮上をした。

 

「ぷはっ…わ~!」

「綺麗…!」

 

水面から顔を出した芳佳とリーネは目の前に広がる光景に目を開いて驚く。

 

「星空みた~い!」

「洞窟の入口から入った太陽の光が水面に反射しているんですわ」

 

ルッキーニも目を輝かせてみる。そんな中、ペリーヌは冷静に分析をした。四人の目の前には洞窟の天井に光り輝く青色の模様が映っていた。それはまるで、夜空に鏤められた星のようだった。

 

「あ!あっちに道が」

 

と、リーネが洞窟の入口とは反対の方に穴が開いているのを見つけた。全員が陸に上がって穴のところに行くと、一つの入口は二つに分かれていた。

 

「どっち?」

「どっちも奥に続いているみたいですが…こっちですわ」

 

芳佳が疑問に思う中、地図を読んでいたペリーヌが左側の穴を見る。

 

「ホントに~…?」

「はぐれたくなかったら黙ってついてらっしゃい」

「へいへ~い…」

 

ルッキーニはペリーヌの言葉に嘘くさそうに言うが、ペリーヌがピシャリと言って左に入って言ったのでついていくのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ルッキーニさんが居ない?」

「ああ、魚を捕るからと言って岩場の方へ行ったっきり戻ってこないんだ」

 

ミーナの言葉にシャーリーが付け加える形で説明をする。シャーリーはルッキーニの姿が見えなくなったので他の皆にも聞いたが、誰もその居場所を知らない様子だった。

 

「そういえば、たしか宮藤たちも訓練後に岩場へ行ったはずだが…」

 

ふと、坂本が思い出したように言う。その言葉にバルクホルンやハルトマンもおかしいと感じた。

 

「行ってみましょう」

 

ミーナが原因究明として皆に指示をした。こうしてミーナを先頭に、坂本、シャーリー、バルクホルン、ハルトマンの5人による捜索チームが組まれたのだった。

 

「なんかあったのカ?」

 

その様子を、パラソルの下で見ていたエイラが言葉にするが、彼女は暑さのあまり体が止まっていた。

ふと、エイラは横に居るサーニャが何も言わないのに気づく。気になって横を見ると、サーニャはその横で眠っているシュミットを見ていた。

 

「すぅ…」

 

シュミットは小さな寝息を立てて寝ており、ミーナたちの様子などお構い無しな様子だった。

 

(…なんか子供っぽいナ)

 

エイラは眠っているシュミットを見てそんな風に思う。いつも見ている真面目な雰囲気と違い、今のシュミットはまるで子供のように無防備に眠っている。

その時、エイラはサーニャがシュミットを見ながら少し頬を赤くしているのに気づく。

 

「どうしたんだサーニャ?」

 

エイラは気になって聞くと、サーニャはエイラの方を向いた。頬を少し赤くしたサーニャは、エイラに言った。

 

「エイラ、少し手伝って…」

「?」

 

サーニャの言葉にエイラは疑問符を浮かべるのだった。

その間にも、坂本達は例の岩場へと到着をし、それぞれ分かれて周辺を捜索する。

 

「しかし一体あいつら何処に行ったんだ?」

「おーい!」

 

周辺を散策している時、岩の向こう側からシャーリーの声がする。

 

「こっちに穴があったぞ!」

「本当か!?」

 

続けて放たれたシャーリーの言葉に全員が移動する。すると、シャーリーの指している場所に人が通れそうな穴があった。五人は海に入りその穴をくぐっていく。

 

「うわ~…すっげぇ!」

「あそこにまた穴があるよ?」

 

海面から顔を出したシャーリーが洞窟の天井を見て感想するが、ハルトマンがその奥にもさらに穴があることに気づいた。

そして海から出た一行は穴の前に行く。

 

「どう?」

「ちょっと前に誰かが歩いている…この奥に入っていったんだろう」

 

そう言って足元を調べていたバルクホルンは穴を見た。そこには穴の中でさらに右と左に分かれていた。

 

「どっちに行ったんだ?」

「二手に分かれるか」

「分かれるのは危険だわ。右に行きましょう」

 

坂本の言葉に待ったをかけたミーナが、ペリーヌたちの向かった方とは逆の右側を選択した。

 

「全く手間かけさせるな~」

「でも、探検みたいで楽しいな~」

「遊びじゃないんだぞリベリアン」

 

ハルトマンの言葉にシャーリーが面白そうに言うが、バルクホルンはそんなシャーリーに注意をする。

5人がしばらく歩いていくと、周辺の景色は変わっていった。先ほどまでゴツゴツとした岩がせり出していた壁が、次第にレンガを重ねたような造りに変わっていった。

 

「人工の洞窟のようだ」

「私たちが基地にしているところは元々は古代のウィッチの遺跡だったから、この洞窟もその一部なんじゃないかしら?」

「ほう…おっ」

 

ミーナの説明に坂本は納得したように反応したが、ある物が目に入り再び反応した。そこには、大きな暖炉のようなところの上に乗っていた巨大な壺だった。

 

「これは…随分立派な壺ね」

「我々の大先輩の業か…素晴らしいな」

 

ミーナの言葉に坂本も同意した。その壺は、古代ロマーニャ人が陶器作りでも見事な職人技を持っていることを知らしめる一品であった。

 

「は~…そんなのどうでもいいじゃん…」

 

しかしハルトマンは壺などに興味は無く、疲れた様子で暖炉の横の板にもたれかかった。

 

「っ!」

 

その時だった。もたれかかったハルトマンの体が大きく傾いた。それと同時に、暖炉の上ではまるで何かが動いたかのような音がする。それは古代人の作り出したカラクリ()だった。

 

「危ない!」

 

いち早く坂本が気付き、横に居たミーナを突き飛ばした。ミーナは突然のことに驚いて横を見ると、そこには衝撃の光景が見えた。

 

「少佐!」

「なにこれ!?っ!美緒!」

「あわわわわわ」

 

先ほどまで坂本のいた場所に、なんと暖炉の上にあった壺が降ってきていた。同時に、ミーナには赤い液体が飛んで来ており、彼女の体を大きく染めた。

シャーリーとバルクホルンは少佐が壺に押しつぶされた瞬間を見たため慌てる。ミーナは自分に掛かった赤い液体を見て少佐の身を案ずる。そして、事の原因となったハルトマンはその光景を見て歯をガタガタと震わせていた。

バルクホルンが怪力を使って壺を思いっきり殴りつけた。

 

「そりゃあああ!!」

「やった!」

 

バルクホルンのパンチによって壺は粉砕された。そして、中から坂本が現れた。

そしてミーナは坂本の姿を見て急いで駆け寄った。

 

「大丈夫美緒!?しっかり!美緒!」

「ちょっと待て!」

 

ミーナが坂本の体を懸命に揺らしている時、バルクホルンが何かに気づいた。そして、自分の腕にかかった液体の匂いを嗅いだ。

 

「なんだ?この匂いは」

「…あれ?血じゃない?」

 

バルクホルンの言葉にミーナも気づき自分の腕にかかった赤い液体を嗅ぐ。するとどういう訳か、この液体からは血の匂いが感じられなかった。

 

「まさかこれ…」

「ああ…」

 

シャーリーも嗅いでみる。すると、シャーリーはすぐさまその答えに到達したようだった。続けてバルクホルンもその液体の正体に気づいた。

 

「…ワインだね」

 

そして、とどめにハルトマンが地面に広がった液体を見て言った。そう、赤い液体の正体は坂本の血では無く、只の赤ワインだったのだ。

 

「み、美緒…?」

 

では何故、坂本は座ったまま沈黙をしているのだろうか。一同がそう感じた時だった。

 

「わっしょおおおおおおいっ!!!」

『っ!?』

 

突然、坂本が大声を出して起き上がった。その声に全員が驚く中、ミーナは坂本の様子が気になり聞いた。

 

「み、美緒…いや少佐、大丈夫?」

「…勿論…らぁいじょうぶらぁ!」

「っ!?」

 

坂本はそう言って、突然ミーナの唇を奪った。突然の行動にミーナは驚き、そして次には頬を赤くし目をとろんと細めた。

 

「しょ、少佐!?」

「な、な、な…」

 

一連の光景を見てシャーリーとバルクホルンはどうしたらいいのか分からずにただ見ることしかできなかった。

その間にも坂本はミーナから唇を放した。ミーナはその場で倒れるが、坂本はまるで何かのスイッチが入ったかのように笑いだした。

 

「わっはっはっははは!わっしょおおおおいっ!!」

 

そう言って、今度は洞窟の未開の方向へ全力で走り出した。

 

「あっ!逃げた!」

「待て少佐!」

 

バルクホルンが坂本を呼び止めるが、坂本は止まらずに暗闇の奥へと消えて行った。

 

「な、なんだ…?」

「どうするミーナ…ミーナ?」

 

バルクホルンはどうしたらいいか分からなくなりミーナに助けを求めた。

 

「…ミーナはちょっと無理」

 

しかし、先ほどのキスで完全に伸びてしまったミーナに変わってハルトマンが答えた。

 

「ああ…」

「あ~…もはや指揮不能だな…」

 

そんな姿のミーナを見てバルクホルンはぐったりとし、シャーリーはどうしたものかと思うのだった。




悲報、少佐壊れる。そして何かを企んでいるサーニャ。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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