マルセイユがハルトマンと組むことになった次の日、二人は空中に配置させたターゲットバルーンを共同で撃ち抜く訓練をしていた。この訓練は、護衛のネウロイを倒していくのでコンビネーションを養う目的もあった。
「二人とも凄いですね!」
「どっちもカールスラントのトップエースだからな」
芳佳は上空で飛行するハルトマンとマルセイユを見ながら感想する。二人は高速で飛行しながら次々とターゲットを撃ち抜いていく。いまだ一つも撃ち漏らしが無い様子から、マルセイユの実力の高さもよくわかる。
「え?もしかして今回の作戦って…」
「そう、部隊の垣根を超えたトップエース同士の協力作戦」
そんな中、リーネはあることに気づいた様子であった。その様子を見て次の言葉をミーナが言った。
しかしシュミットは話を聞いていながら疑問に思う点があった。
「ん?だがネウロイ撃墜数は200機って聞いたぞ。それならバルクホルンの方が上じゃないか?」
「そうでもないの。アフリカ方面は欧州よりも強力なネウロイが出やすくて、その実数は2倍の価値があるのよ」
「なるほど」
ミーナの説明を聞いてシュミットも納得した。撃墜数が200でも、その価値が二倍となれば400となる。実力は折り紙付きであるのも頷ける。
しかし、バルクホルンと坂本は上空で飛行している二人を見て納得のいく様子では無かった。
「だが、今のままでは難しいか…」
「ああ、あまり息が合っていないな…」
と、二人は上空で飛んでいるハルトマンとマルセイユに評価を下した。一見互いの動きは凄いように見えるが、それは
その時、突然マルセイユが編隊を崩した。ハルトマンの後方に付けると、機関銃をハルトマンに向けた。
「なっ!?」
あまりにも突然の行動に全員が驚く。まさか引き金を引くのではないかと思ったが、それは起きなかった。
「ダダダダダ!!」
マルセイユは機関銃の発射音を口で言うと、構えを解いた。
「これで九勝目だ!」
「…」
マルセイユの言葉にハルトマンは一瞬ポカンとした様子で見た。そして、ハルトマンは胸を押さえるような演技をしだした。
「うがー…やーらーれーたー!」
と、ハルトマンはマルセイユにやられたかのように胸を押さえてふらついた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「訓練飛行中に人に銃を向けたマルセイユ大尉は本来なら営倉行きです。が、残念ながらこの基地にはありません。代わりに二人は今日から作戦の日までこの部屋で過ごすこと」
あの後、二人は訓練を中止され地上に降ろされた。マルセイユは訓練中にもかかわらず実弾入りの機関銃を他の兵士に向けた行為によって、連携の取れていないハルトマンと共に隔離部屋に送られた。
「次やったら絶対許しませんよ」
そう言って、ミーナは部屋を出て行った。後に残された二人は、部屋に唯一置かれたベッドに腰掛けた。
「ハンナのせいで怒られたじゃないか」
マルセイユのふざけに乗った以外は軍規を守っていたハルトマンは、自分まで巻き込まれる理由は無かっただろうと不満だった。
「あっははっ…やっぱりミーナは怖いな~」
が、対するマルセイユは特に気にした様子はなく、以前と変わった様子の無いミーナに逆に安心した様子だった。
しかし、彼女は次にハルトマンを見た。
「…どうして戦わない」
「え?」
マルセイユの言葉の意味が分からずハルトマンは声を漏らす。
「さっき私が狙った時だ。お前の腕なら回避することも反撃することもできたはずだ」
「…ハンナは変わんないな~」
マルセイユの言葉にハルトマンは余り興味なさそうに言った。
「変わる必要が無い」
「なんでそんなに勝ち負けに拘るのさ?」
マルセイユの様子を見てハルトマンは逆に疑問に思う。そんなハルトマンに、今まで寝転んでいたマルセイユが起き上がり言った。
「戦場では勝利以外に価値は無い。私は常に勝利し続け、最強で居続ける。それだけだ」
「なんだそれ?」
マルセイユの思想にハルトマンは訳が分からないといった様子で言う。しかし、マルセイユはエーリカに続けて言った。
「一緒の隊にいた時のお前との勝負は8勝8敗、私と戦って互角だったのはエーリカ、お前だけだ。だから決着を付けたいのさ、この作戦の間に」
「…」
マルセイユはどうしてもハルトマンと決着をつけたいと思っていた。彼女にとってハルトマンは唯一同格の相手であり、また彼女が勝たなければいけない存在であった。
「はー、じゃあハンナの勝ちでいいよ」
しかし、ハルトマンはマルセイユとの勝負をする気は無いようで、興味なさそうに勝ちを譲った。
「またか!前もお前は同じようなセリフで私から逃げた!何故だ!」
その答えにマルセイユは問い詰めた。どうして彼女はいつも戦いを避けるのか。
「…めんどくさいじゃん」
だが、ハルトマンはそう言って寝っ転がった。この日マルセイユがいくら言っても、ハルトマンが勝負に乗ることは無かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ハルトマンとマルセイユが隔離部屋に送られた翌日から、マルセイユはあらゆることでハルトマンと張り合うように生活をした。その行動は訓練の短距離走だけでなく、食事の場でもハルトマンと張り合うようになっていた。
しかし当のハルトマンはその勝負に全く乗ることなくマイペースで過ごしていた。
「私の二勝だ」
「勝負してないってば…」
「勝利は何において優先される」
「だから勝負してないってば…」
その晩、マルセイユは基地の風呂でハルトマンに自慢げに宣言をする。しかしハルトマンはそれを気にも留めた様子が無かった。逆に、ハルトマンは何回も勝負を挑んでくるマルセイユにめんどくさそうに言った。
「たく…そんなだからお前はいつまでも中尉のままなんだ」
「そんなのどうでもいいよ~」
マルセイユの言葉をまたしてもハルトマンはどうでもよさそうに言う。彼女にとっては自由にできることの方が大切なようだ。
そんな様子のハルトマンを見て、マルセイユは変わってないと感じながら伸びをした。
「はぁ~…風呂はいいな、固まった筋肉が解れる。話には聞いていたが本当だった」
「アフリカには無いの?」
マルセイユの言葉にハルトマンが質問した。
「アフリカじゃ水の一滴が血の一滴だ」
「ふぅ~ん…大変なんだな~」
「でも、アフリカはいいぞ。煩い上官も居ないし、怪しい連合軍上層部も殆ど関わってこない」
「じゃあなんで今回の作戦に参加したんだよ?」
そう説明するマルセイユを見て、ハルトマンは彼女が今回の作戦に参加することに疑問を抱いた。
「ま、上層部の人気取りぐらいには付き合ってやるさ…それでアフリカ部隊が守れるなら安いものさ」
そう言って、マルセイユは湯船に体を預けてゆったりとした。彼女も彼女で、胸に秘めていることがあるようだった。
「それに!」
突然、湯船に体を預けていたマルセイユが立ち上がった。
「501にはエーリカ・ハルトマンが居たからな!」
「…だったらシュミットとでも戦ったら?」
マルセイユの言葉に対してハルトマンは疲れた様子でシュミットの名前を言った。その単語にはマルセイユも反応した。
「基地に居たあのウィザードか…強いのか?」
「さぁ~…でも、本気を出したシュミットはトゥルーデより強いと思うけどな~」
と、ハルトマンはお湯に浸かりながらのんびりと言った。彼女から見たシュミットはバルクホルンとの模擬戦に置いても最近では別の手を隠しているのではないかと言った様子で見ていた。その為、本気になればバルクホルンを倒すのではないかと思っていたのだった。
しかし、その言葉を聞いていたマルセイユは逆に考えることとなった。
(本気を出したら
マルセイユは日常で見ていたシュミットの様子を見て、そのようなイメージは無かった。
(だが、ハルトマンが言うなら…)
しかし、マルセイユはハルトマンが言うのだからもしかしたらと、シュミットについて興味を持った。
そして、二人はお風呂から出て脱衣所へ向かっていく。
「あれ?」
「マルセイユさんとハルトマンさん!」
脱衣所の扉を開けた先には宮藤とリーネが居た。その後ろにはシャーリーとルッキーニも立っており、四人ともこれからお風呂に入ろうとしていた。
シャーリーがマルセイユに聞く。
「どうだった、初めての風呂は?」
「ああ、中々いい…っ!」
シャーリーの言葉にマルセイユが感想を言う。しかし、彼女は突然感じる感触に思わず頬を赤くする。
「もらったー!」
「お前!私の後ろを!?」
その原因は、マルセイユの後ろに回ったルッキーニが原因だった。ルッキーニはマルセイユの後方へすぐさま回り込むと、その大きな胸を掴んだ。
「大きい…でも、やっぱりシャーリーの勝ち!」
「な、バカな…私の負けだと!?見ろ!形は世界一だ!」
「形なんて好みだろ!」
マルセイユは大きさでシャーリーに負けたことにビックリをするが、すぐさま形であれば自分こそが一番であると主張する。しかし、シャーリーは形など人の好みによって変わると言い張る。
そんな不毛な争いを芳佳は目をキラキラしながら見て、そんな芳佳をリーネはジト目で見ているのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「…へくしっ!」
その頃、上空ではシュミットがくしゃみをする。
「大丈夫ですか?」
「いや、なんでもない…大丈夫だよサーニャ」
シュミットが突然くしゃみをしたことにサーニャは心配するが、シュミットは風邪じゃないとサーニャを安心させる。尤も、シュミットの事を噂していた者は地上に居たのだが、そのことを彼が知る由もなかった。
いつも通りの夜間哨戒であるが、今日はネウロイの発見は行われていないため、ごく平和な夜間哨戒が行われていた。
「…」
しかし、そんな夜間哨戒でもシュミットは別のことに思考がいっていた。それは、昨日に起きた出来事についてだった。
(ゼロの領域…いや、それとも別の物…?)
シュミットは昨日起きた謎の現象はゼロの領域によるものであると推測する。しかし、ゼロの領域であればサーニャも領域内に入っていなければならないため、すぐさま別のことが原因であるのかと考える。しかし、今の彼の中の経験では答えが出ない。
「…ん?」
ふと、シュミットは横からの視線に気づく。振り向いてみると、サーニャが再びシュミットの方を案ずるように見ていた。
「その…どうしたんですか?」
「え?」
突然の言葉にシュミットはなんのことかと驚く。
「さっきからずっといろいろな顔をして悩んだり、首を振ったりしてて…」
「あ、えっと、なんていうか…」
サーニャの言葉にシュミットは少し困った様子になる。
「その…サーニャはこの間の事どう思う?」
「えっ?」
シュミットに突然振られてなんのことかとサーニャは思う。この間とはいったいいつの事だろうかと思うが、シュミットが続けて補足した。
「この間の夜間哨戒の戦闘の時、その、言いずらいんだけど…あの時サーニャと一緒になった気がして…」
と、シュミットは少し顔を赤くしながらサーニャに言う。サーニャもシュミットの説明を聞いて察したのか、少し考えたのち顔を赤くした。
「…」
「…」
互いに気まずく感じる。しばらく飛行した後、シュミットが沈黙を破った。
「…すまん、変な質問だった」
「いえ…」
二人はそう言って、一旦考えるのを中断する。否、正確には先ほどの質問のことが頭から離れなくなり、両者とも恥ずかしく感じているのだった。
そして、特に異常事態も起こらないまま二人は基地に帰投をする。
「あれ?」
ふと、シュミットは滑走路の先に人影があるのを見つけた。この時間に起きているのは基本的に坂本であるが、今回は違った。
「マルセイユ大尉?」
「お前がシュミットだな」
シュミットはこんな朝早い時間からマルセイユが居たことに驚くが、マルセイユはシュミットのことを確認した。気のせいか、彼女はまるで新たな獲物を見つけたかのような顔をしていた。
「一番を心掛けるだけあって、朝も早いんだな…なんの用かな?」
「ハルトマンから聞いたぞ。お前の実力はバルクホルン以上でハルトマンと同等だとな」
「は?」
一体何のことを言っているんだとシュミットは口を少し開いたまま固まった。そんな様子に気づかず、マルセイユは続けて宣言した。
「勝負だ、シュミット・リーフェンシュタール」
「えぇ…?」
マルセイユの衝撃の言葉にシュミットは頬を引きつらせるしかできなかった。
う~ん、マルセイユ大尉のセリフ回しが分からないな…。それとシュミットはいつからそんな評価になっていたのでしょうか?でも、ハルトマンが言うならマルセイユも流石に乗りますよね?
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