というわけで第九十七話です。どうぞ!
「…なんで突然?」
シュミットはマルセイユに聞き返す。いきなり勝負をしろと言われるとは思っておらず、頭の中は若干のパニックとなっていた。
しかし、マルセイユは少し不機嫌そうに言った。
「ハルトマンが勝負に応じないんだ。だから代わりにお前と戦う」
「はあ?」
あまりにもビックリな言葉にシュミットも呆れる。ハルトマンが勝負に応じないから代わりに選ばれたみたいに聞こえるからだ。
しかし、シュミットとしてもこの勝負は考えるものであった。ハルトマンと同じレベルのウィッチとの直接対決だ。基本的に模擬戦に乗らないハルトマンに対してこっちは積極的だ。
「…わかった。時間が無いから今から始めるぞ」
その言葉に、マルセイユはニヤリとしたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「互いがすれ違ったら勝負開始、一発でも被弾をしたら負け、いいな?」
「いいだろう」
シュミットの言葉にマルセイユが同意する。
現在二人は基地の外の上空をホバリングしている。二人の手には実戦用の機関銃ではなく、模擬戦用の機関銃を手に持っている。
そして、二人の様子を同じくホバリングをしてみているサーニャ、その手にはホイッスルを持っており、今回の模擬戦の審判をすることになった。
「すまないサーニャ…他に頼める人も居なかったんだ」
「いえ…頑張ってください、シュミットさん」
「ありがとう」
そう言って、シュミットはサーニャの頬にキスをした。そして、そのままマルセイユのほうを向いた。
「なんだ?お前のガールフレンドか?」
「ああ」
マルセイユがサーニャを見ながら聞いてくる。その言葉にシュミットは平然と言うが、少しして頬を赤くする。そんなシュミットを見てか、マルセイユは少し意外そうに、そして面白いものを見たような顔をした。
「なんだ、お前もそんな顔をするんだな」
「そんな顔とはなんだ?」
「べっつに~」
そう言って、まるでハルトマンかと言う様子でマルセイユは武器を構えた。その行動にシュミットも手に持つ演習用のMG42を構える。
そして互いの距離を1キロほど離し、両者はホバリングをする。これでサーニャが笛を吹いたら、今度は互いに相手に向けて銃撃せずに接近、そしてすれ違ったと同時に戦闘開始となる。
(相手はハルトマンと同等の実力者…長期戦になれば間違いなく負ける…だが短期であっさり負ける可能性もある…)
(あの
お互いに相手を考える。時間にして数秒であるが、彼らはじっと相手を睨みながら停止をする。
そして、二人の中央でホバリングをしているサーニャから『ピーッ!!』という音が鳴った。模擬戦開始の合図だった。
「っ!」
シュミットはマルセイユの方向へダッシュをする。マルセイユも同じようにシュミットの方向へダッシュした。両者高速で接近をしていき、そして横を通り抜けていく。
シュミットはすぐさまゼロの領域に入った。
(相手の固有魔法も分からない状況、何が起こるか分かったものじゃないからな…全力で行くぞ!)
そう言って、シュミットはすぐさま反転をする。
一方のマルセイユも、同じように反転をしていた。シュミットの操るDo335よりも、マルセイユの操るBf109Fの方が重量の軽さから若干機動力が高い。同じ一撃離脱型のユニットでも、運動性能ではマルセイユに軍配が上がる。
「貰った!」
そう言って、マルセイユは手に持つ演習用のMG34をシュミットに構えた。マルセイユはシュミットが次に飛ぶであろう方向に合わせ銃口を合わせ、そして引き金を引いた。
――しかし、シュミットに命中はしなかった。
「っ!」
マルセイユは流石に驚いた。完全に捉えたと思っていた攻撃は、まるで弾丸が逸れたかのように流れていき、シュミットに一発も命中しなかった。
対するシュミットは内心冷や汗をかいていた。
(もう少しで命中するところだった…)
シュミットはゼロの領域に入っていてよかったと素直に感じる。彼は自分がマルセイユの弾丸の餌食になる未来を完全に見ており、すぐさまその射線位置から横にずれたのだ。
その間にもシュミットは固有魔法を発動する。足に履くユニットは唸り声を上げて回転数を上昇させる。そして、あっという間にシュミットの高度をマルセイユよりも優位となる位置まで押し上げた。
そして、今度はそのままの勢いでループを行う。そしてマルセイユを照準に捉えた。
「っ!」
マルセイユも、そんなシュミットの行動に迎撃態勢をとる。しかしマルセイユの位置はシュミットより下であり、上昇をしながらの迎撃体制へとなった。
(喰らえ!)
シュミットは引き金を引く。同じくマルセイユも引き金を引いた。両者の弾丸は交差をするが、互いに一発も命中する事無く後方へと通り過ぎて行った。
シュミットとマルセイユは互いに交差をする。しかし、シュミットはここでマルセイユの一瞬の動きに気付いた。
(…?)
交差する直前、マルセイユが若干体制を変えたことに気づいた。しかし、シュミットはこのままの速度を殺さないように高速で急降下をしていく。そしてそのまま急降下の加速を利用して再度上昇を仕掛ける。しかし、彼はここで嫌な予感を感じた。
(後ろから何か来る!?)
急いで後方を確認すると、なんとマルセイユが後方で追いかけているでは無いか。そう、先ほどの若干の体制変更はシュミットの後方に付けるために行った行動だったのだ。
そして、マルセイユはすぐさま機関銃を構えてシュミットの方向へ引き金を引いた。しかし、シュミットはその攻撃に対して横へ回避を行う。そして、シュミットは背面飛行をしながらマルセイユへ向けて機関銃を構え引き金を引いた。
爆撃機乗りが後方機銃を使うように彼はマルセイユに向けて弾丸を放つ。その攻撃をマルセイユは難なく回避するが、シュミットはこの一瞬の隙を狙った。
(今だ!)
シュミットはマルセイユがロールをして回避をしたのを確認し、すぐさまその後方へ回るように動いた。その行動にマルセイユも気づくが、若干反応が遅れる。
(ロール回転をすると状況判断を行う時に一瞬の遅れが生まれる…それはパイロットもウィッチも共通だ!)
そう、シュミットはこの信条を持っているからこそ回転しながらの回避機動を行うのをこの世界に来てから控えるようにした。それは戦場に置いて最も大切な一瞬を失う危険な行為であると理解したからであった。
そして、シュミットはマルセイユの後方へと回り込む。しかし、マルセイユも次の行動を早く行いシュミットを引き離そうと急降下をした。その結果、シュミットが照準を合わせようとした瞬間に彼女はまるで消えたかのような形となった。
(なっ!?下か!)
シュミットはすぐさま下を向くが、既にマルセイユは危機的状況を脱しており、カールスラントの誇るウルトラエースの力があのような状況下でもすぐに次の行動へ移せるのかと舌を巻いた。
しかし、対するマルセイユもシュミットの評価を改めていた。
(確かに強い…いや巧い。少なくとも一瞬の隙を突く判断力は本物だ)
マルセイユは、先ほどの機動の隙を的確に突こうとしたシュミットの動きにそう評価した。シュミットの動きはマルセイユに比べると劣っているが、隙を突いたり次の戦術へと繋げる流れの巧さで対等に戦っているのだ。
(だがこれで終わりだ!)
マルセイユは自分に向かってくるシュミットの攻撃を回避すると、今度は突撃をしてきたシュミットに対して機関銃を構えた。
「ちいっ!」
シュミットはマルセイユが引き金を引く前に次の行動を行った。マルセイユの横を通り抜けながらもシュミットは機関銃をマルセイユ側に合わせた。
「貰った!」
「喰らえ!」
互いに引き金を引いた。シュミットの弾丸はマルセイユに飛翔し、マルセイユの弾丸はシュミットに飛翔していく。そして、勝敗は決した。
「っ!」
「くっ!」
シュミットの弾丸はマルセイユから若干逸れて顔の横を通り過ぎた。対して、マルセイユの弾丸はシュミットの胴体へ命中した。
「そこまで!」
サーニャが笛を吹いて模擬戦終了を言った。この瞬間、マルセイユの勝利が確定した。
「まさか太陽があるとはな…」
シュミットはそう言って負けを認めた。そう、シュミットは最後の射撃時にマルセイユの後方の日の出によって目がくらみ、マルセイユに合わせていた照準がズレたのだ。長いこと夜間哨戒ばかりを行っていたシュミットは夜目に慣れてしまっていた。その為、朝の日の出に対して常人以上に眩む結果となった。
(最後は詰めを誤ったな…いや、疲れもあるのか…)
そして、他の敗因としてはゼロの領域をずっと使っていたことによる状況判断力の低下にもあった。疲労がたまった状態となったシュミットは戦闘中に自分の判断ミスを生んでいることに気づかなかったのだ。
そこへ、マルセイユがシュミットの元へ来る。シュミットは両手を上げて降参のポーズを取った。
「私の負けだな…」
「いや、少し違うな」
シュミットの言葉をマルセイユは否定をした。そして自分の髪をかき分ける。するとそこにはペイント団が若干掠った痕が頬にできており、オレンジの細い線を描いていた。
「…いや、だが致命傷はそっちが与えた。こちらの負けは変わりない」
しかし、シュミットは自分の弾丸が相手へと致命傷を与えるに至っておらず、逆に向こうの弾丸がしっかりと胴体を捉えていることからも勝敗は負けであると言った。
「なら、とりあえずは私の一勝だ」
「ああ…ん?
シュミットはマルセイユの言葉に何か引っかかった様子であるが、マルセイユが何も言わなかったので特に咎めなかった。
ふと、シュミットは下を向く。見てみると、数人のウィッチ達が集まって先ほどの戦闘を見ていたようだった。その中にはミーナの姿もあった。
「こりゃ、中佐に何か言われるな…」
と、シュミットはミーナを見てこの後が来ないことを切実に願ったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「…やだね、私はサインをしない主義なんだ」
「何でだよ…いーじゃんかサインの一つや二つ!」
マルセイユの言葉にハルトマンがケチとマルセイユに対して言う。
シュミットとの模擬戦が終わった後、マルセイユはハルトマンと共に使っている部屋に戻った。そこへハルトマンがやってきて、彼女のサインを求めた。曰く、バルクホルンの妹であるクリスがマルセイユのファンであり、バルクホルンは彼女を喜ばせようとハンナのサインを描いてもらおうか迷っていた。それをハルトマンが代わりに貰ってくると言って、そして今に至るのだ。
しかし、マルセイユはハルトマンに言った。
「フンッ、あんなシスコンの石頭に描いてやるサインは無いね」
そう言って、ハルトマンが持ってきた写真を天井に向けて投げた。投げたサインは天井の梁に刺さる。
しかし、この言葉にハルトマンの目が変わった。
「…おいハンナ、トゥルーデをバカにすんな!」
「!」
滅多に怒ることのないハルトマンに一瞬マルセイユは驚くが、すぐにあることを思いついた。
「フン、だったら私と勝負しろ。勝ったらいくらでもサインしてやる」
マルセイユはチャンスとばかりにハルトマンに言った。シュミットとの模擬戦で若干のフラストレーションは解消されたが、彼女はハルトマンとの決着を望んでいた。この機を逃さず、マルセイユはハルトマンが模擬戦をするように話を仕掛けたのだ。
そして、ハルトマンも覚悟を決めたように言った。
「…勝ったらするんだな?」
「ああ」
ハルトマンはマルセイユに聞く。マルセイユは当然だと言わんばかりに言った。こうして、最強のウルトラエース二人による約束が生まれるのだった。
シュミット対マルセイユ、決着は僅かの差でマルセイユに軍配が上がりました。
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