バーサーカーしかいねえ!   作:安珍

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前回のFGO!

Which would be worse, to live as a monster or to die as a good man?




第十一話「恋と病熱」

 

 

目を覚ますと、そこは自室ではなかった。

見たこともない光景が目の前に広がる。どこかの、寺だろうか。

星々が綺麗な夜であった。半月が空に上る、どこか哀愁の漂う夜だ。

 

ふと、寺の中に入ってみる。そこには梵鐘の前に佇む一人の少女がいた。

 

綺麗であった長い髪は乱れ、痛々しい傷が残った足は見るに耐えず、そしてその背には悲壮しか残ってはいなかった。

 

彼女は梵鐘に縋り付きながら絶えず問い続ける。

 

『どうして、どうしてーー』

 

返答はない。

 

『どうして、嘘を吐いたのですかーー』

 

返答はない。

 

『どうして、私を恐れたのですかーー』

 

返答はない。

 

『どうして、何も言ってはくだされないのですかーー』

 

返答は、なかった。

 

『嫌いであるのなら嫌いと、私の願いを聞き入れてくださらないのなら嫌だとーーただそう言ってくだされば、私はこのような想いになどならなかった。それなのにーー』

 

彼女はただひたすらと縋り続ける。

返答がないから。まだ信じているから。彼が自分を受け入れてくれるのではないかと希望を持っているから。

 

それでも、返答はなかった。

 

『どうして、どうしてーーそれでも何も言ってくださらないのです。貴方様は、何を恐れているのですか』

 

いくら言葉を紡いでも、彼は少女に何も応えない。

 

「当たり前ですよ。ここは夢の世界。私の夢なのですから」

 

「……清姫?」

 

いつの間にか、隣には少女を悲しげに見ているもう一人の彼女がいた。

いや、隣にいる彼女こそが、知っている少女なのだろう。

 

「ここは、私がまだ縋っている世界。だからこそ、私はまだ蛇になっていない。ここはまだ焔に包まれていない。ーーそして、あの人は応えない(・・・・・・・・)

 

答える前に、殺してしまったから。

死んだ者は語らない。

そこにあるのは想像でしかない。妄想に過ぎない。

なれば、返答は全て嘘でしかない。

 

嘘は嫌いだと、彼女は言った。

 

「私は心の中でまだ問い続けています。あの時の安珍様の真実は何だったのかと。事情があるのならその事情を、心情が何だったのかのならその心情を、私は知りたいと願い続ける。でも、きっと私は例え聖杯に願ったところでそれには納得しないのでしょう」

 

知る権利があったのも、時期があったのも、あの時だけだ。

そして彼女は怒りに呑まれ、それを手放した。

 

「人だけが嘘を吐く。それが人が人であるための証明なのですから。それでも……私が嘘のない世界を望むのは、もう人ではいられなくなったからなのでしょう」

 

「君は、人に失望しているのか」

 

「きっと。私は化け物に成り果ててしまいました。これからも嘘を憎む化け物として生きるのでしょう。でもこの結末は、私は嘘にしたい。化け物だからと言って、私は、私を化け物にしたくない」

 

梵鐘に縋り付く少女は弱々しくその手を離すと、ふらつきながら自分たちの前を通り過ぎる。

場面が変わる。そこには川が広がっていた。少女は一歩、また一歩とゆっくりと川に入っていく。

 

「あの時の私に必要なのは、嘘を憎む心ではなかった。嘘を赦す、好きな人には生きていてほしいと、願う心だった。私は幼かった。望めば何でも手に入るのだと驕っていた。私は……私は、失って初めて、それに気付いてしまった」

 

少女は川へ自身の身体を沈めていく。

 

「後悔しています。後悔しているから、私は、この結末を望んでいるのでしょう」

 

「…………それじゃあ君は」

 

「……ますたぁには、感謝しています。こんな化け物でも嫌いならないでいてくれて。嘘を吐かないでいてくれて。でも、私はきっと化け物となり、貴方様を殺してしまう。それだけは嫌です。それだけは、嫌なのです。だから、私は私であるうちにーー私を殺してしまいたい」

 

彼女は怯えている。

自身が化け物と成ってしまうことを。

そのせいで、また自分の大切な者を失ってしまう恐怖を。

 

「ますたぁ、お願いです。私を嫌ってください。自害しろと命令してください。貴方様の答えならば、私はーー私であり続けられる」

 

「…………」

 

答えは決まっている。

彼女の願いがそうであるのなら、彼の答えは決まっている。

 

「そんなのは、駄目だ」

 

彼は走る。

川の中へ。

この行動に意味はない。

所詮これは夢でしかない。それでもーー

 

それでも、

 

「誰かの幸せを願い自分は死んでいくなんて、悲しすぎる」

 

少女の肩を掴む。水底から浮かし、耳や口に入った水を取り除く。

 

「……それが貴方の答えですか、ますたぁ」

 

抱き寄せた少女がこちら見て呟く。

その目には、怒りとも、悲しみとも取れない曖昧な表情が浮かんでいた。

 

「誰かの幸せを願うのなら、自身も幸せであるべきだ」

 

「私は、私でいられるのなら、それで幸せです」

 

「それは嘘だよ、清姫」

 

「嘘は嫌いですよ、ますたぁ」

 

「嘘だよ……だって、君が泣いているから」

 

彼女の頬に伝う涙を指で拭う。

 

「君は彼に何を恐れているのかと問うていた。それは君もだ。君が恐れているんだ。彼に否定されることを、怖がった。嫌いだと、言われるのを恐れていたんだ」

 

「……でも、私は、嘘偽りなく答えてくだされば、諦められた」

 

「あぁ、でも人の心は(・・・・)そう単純じゃない」

 

「……私を、人だというのですか」

 

「当たり前だ」

 

彼がそう言うと、少女は呆れたように、嬉しそうに泣き崩れる。

 

「酷い人……女の意地も、願いも踏みにじるなんて」

 

「俺には君が必要だ、清姫。だから、勝手に死ぬなんて許さない」

 

「……本当に酷い人。安珍様のように、自分勝手な……私が愛する人」

 

世界が白くなっていく。

眩しさに目が開けてられなくなる。

 

「きっと、そちらの私はこの夢を覚えてはいないでしょう。夢は忘れるものですから。でも、取り込まれた貴方は覚えている。私になんて言うのです?」

 

「……いつも通りさ。何も変わらないよ」

 

 

 

目を覚ますと、いつもの天井が見えた。

隣には、すぅすぅと眠っている件の少女がいる。

 

「まったく……だからか」

 

彼はボリボリと頭を掻き、彼女を揺すった。

 

「んにゅ……おはようございます、ますたぁ」

「あぁおはよう、清姫」

「……良い夢を見ました。ますたぁが、私を抱きかかえる夢を。ますたぁはどんな夢を見ましたか?」

 

 

 

「……君と同じ夢さ」

 

 




ほのぼの(大嘘

清姫の幕間やwiki見てると色んな伝承があって、彼女の望んだ世界が、伝承の一つ『蛇にならず安珍も殺さず、自分は入水した』というものにしてみました。

実はこの話を書く前に、前振りとなる話があるのですが、それがこの英文の映画を見る話なのです。ネタバレとなりあまりに危険なため書きませんでした。
なので唐突に感じるかも知れませんがまぁそれも今更なのでお許しください。

前書きの英文はググらないほうがいいです。
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