Dクラスにも休日をください。   作:くるしみまし

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この投稿の速さ。
有言実行できて何よりです。


SCPー????

20xx年

 

小さい頃、カエルを殺した。

 

足元に飛び出してきたカエルを踏んでしまい、嫌な音をたてながらカエルは死んでしまった。

 

下を見ると内臓が飛び出し、体が血に染まり血の泡を吐いた肉塊があった。

 

私はそれを見て罪悪感を感じつつも、その醜さから目を背けたくて逃げ出してしまった。

 

小さい頃のトラウマというやつだ。

 

しかしこの施設にきてから私は今まで色々な醜いものを見て来た。

 

自分ではもう慣れたと思ってきた。

何がきても私は動じないと、もう大丈夫だと、そう思ってきた。

 

 

今日までは。

 

なんなんだアイツは。

 

黒いゲル状の見た目、大きく開いた口、空を切り裂く触手、大きく開かれた口、鼻をくすぶる異臭。

 

自分の中で何かが崩れてしまった音がする。

それに合わせて動悸が早くなり、息遣いが荒くなる。

 

今まで見てきたもの…潰れたカエルや、巨大なワニ、腐った男。そのどれもがおもちゃに見えてしまうほどの異形。

神の設計ミスによって誕生してしまった奇形。

 

そんな見たことも聞いたこともないような化け物だが一つだけ分かることがある。

コイツはこの世界にいてはいけない存在だ。

 

恐ろしく邪悪で、冒涜的な姿。

 

コイツをこの世に野放しにしてはいけない。

 

抹消しなくては……抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ

 

 

「何なんだよ……お前は!」

 

俺は目の前にいる化け物にそう叫ぶ。

 

ここで8年間勤めてきたが、こんなに気持ち悪い生物は見たことがない。

 

邪悪という言葉を形にしたような目の前の化け物は、何を考えているのか想像もつかないが一つだけ分かることがある。

 

コイツはヤバイ。

 

俺の全身の細胞が逃げろと叫んでいる。

この感覚は最近だったらクソトカゲの前に立った時に酷似している。

 

ということは

目の前のコイツは『クソトカゲ並みに危険』だと思って間違い無いだろう。

 

(どうする……逃げるか?)

 

どうやらアイツには目のような機関はなさそうだ。全力で出口まで走り抜ければ気付かれずに逃げ切れるかもしれない。

 

俺は息を殺して、決してヤツから目を離さず距離を取ろうとした

 

その瞬間

 

 

パアン

 

 

部屋に甲高い破裂音が鳴る。

 

俺は自分の右隣から発生した音の正体を頭では理解しているのだが、思わず向いてしまう。

 

そこには予想通り、拳銃を化け物に向けた博士がいた。

観ると博士はカタカタと震えており、目を見開いている。その目の中には光がなく、ブツブツと何かをつぶやいている。

 

「お、おい!そいつどうしたんだよ!」

 

米人が俺に叫んでくる。

米人の方を向くと、動揺はしているようだが先程までと様子の変わらない米人の姿があった。

博士の方は恐らく気が動転しておかしくなってしまったのだろう。

 

声を返そうとした時

 

「死ね死ね死ね死ねえええええ!!」

 

パアン

パアン

パアン

 

 

 

雄叫びをあげながら博士が射撃した計3発の銃弾は見事全弾命中した。

 

 

しかし

 

「…………(ウジュルジュル)」

 

化け物は全く動じた様子がなく、打ち込まれた弾丸は受け止められ体内に取り込まれてしまった。

 

(効かないのか……?)

 

どうも物理攻撃が通じないようだ。

個体だったら対処法は色々あるのだが、なにぶん液状の化け物なんて見たこともない。

 

俺はどう動いていいかわからず一瞬固まってしまう。

 

 

一瞬だった。

 

 

ヒュンと空を切る音が聞こえる。

 

あまりにも一瞬の出来事で目で追いきれなかったのだが、化け物から黒い何かが伸びたのは分かった。俺の隣を過ぎたような気がする。

 

そしてその黒いのは奴の触手だったのだと数秒遅れて理解してしまったようだ。

 

奴が触手を一振りするとビチャっと赤い液体が床に飛び散り床を汚す。

 

俺は嫌な予感がし、博士の方を見る。

 

「え………………。」

 

博士が声漏らす。

みると博士の胸元にポッカリと穴が空いており、血がとめどなく溢れてくる。

 

「あ…う……クソがっ!」

 

博士は拳銃を構え直し化け物に向ける。

発砲しようとトリガーに指をかける……しかし

 

ヒュン

 

また化け物から触手が伸びる

 

今度はしっかり目で追えてしまう。

伸びた触手は博士の頭部に向かって一直線に伸び、目前で鎌のように変形して……振り降ろされた。

 

「あ………………。」

 

何かを悟ったように、顔を絶望に歪める。

博士の首から血の泡がブクブクと湧いてくる。

 

そして、博士の首は顔を絶望に表情を歪めながら……床に落ちた。

 

 

 

俺は静かに撤退するなんて甘い考えを捨て去り、米人の方を向き叫ぶ。

 

「壁に背をつけて出来るだけ離れてろ!」

 

米人は小さく頷くと化け物とは真反対の壁に背をつけ、化け物を睨む。

 

本来なら助けを呼んでもらいたいところだが……Dクラスが頼んだところで射殺されるのがオチだ。

かといって逃げ出したら後ろからグサってこともあり得る。

 

だから今俺ができることは二択。

 

助けが来るまで奴の相手をするか、ヤツを仕留めるか。

 

幸いここは職員休憩室。休憩に戻った職員が来て応援を呼んでくれるかもしれない。

物理攻撃が効きそうにないヤツを仕留める方法は……今の俺たちには厳しいだろう。

 

俺は俺でバケモノから5mくらいのところに陣取る。

 

だからここで俺が取るべき行動は……クソトカゲの時と一緒か。

 

「いいぜ……とことん付き合ってやるよ。」

 

俺が覚悟を決めたのを察したのか、触手がこちらを向く。

 

触手が向かってくる。

 

形状は先ほどと同じく先端が鎌になっており、鎌は俺が射程内に入ると横一文に振りはらいにかかった。

 

それを俺は1歩後ろに下がり回避する。

 

触手は一度化け物のもとに帰る。

 

すぐさま触手が飛んでくるかと思ったが、化け物はこちらの様子を伺うように動かない。

 

俺はそれを確認したら真横に飛び博士の元へ行く。

そして地面に落ちていた拳銃を拾い上げ残弾を確認する。

 

銃はベレッタM9。

残弾は六発。

 

ここでバケモノに目を向けると、触手を振り上げていた。

 

「ヤベッ……!」

 

鎌は凄まじいスピードで俺の頭をかち割りにきてる。

 

慌てて横っとびで回避する。

肩に少しかすってしまったがなんとか回避が間に合った。

 

「クソッ!?」

 

俺は体勢を崩しながらも化け物に射撃をする。

 

パアン

パアン

パアン

 

三発即座に射撃。

しかし銃を使うのなんて初めてなので二発は見当違いなところに飛んでいってしまう。

 

唯一化け物に当たった弾丸も、博士の時同様受け止められてしまった。

 

残り三発。

 

また鎌が迫ってきている。体勢を崩しているところに真上からの鎌の振り下ろし。

 

床を転がりなんとか回避する……横薙ぎとかだったら詰んでいた。

 

慌てて立ち上がり体制を整える。

 

「ふう……。」

 

なんとか一息つく。

 

当たればどれも致命傷は間違いない。

いくら俺が死ににくいとはいえ俺が戦闘不能になってしまったら米人はもちろん、何人被害者が出るかわからんからな……ただ、問題は奴の攻撃が予想以上のスピードだという事だ。

 

あのクソトカゲに比べれば鎌は小さく避けやすいが、それでも一撃一撃に集中力を相当持っていかれるためクソトカゲの時みたいにジリ貧になる可能性が高い。

 

化け物の触手の動向を観察しながらそんなことを考えていると

 

 

ビュッ

 

 

またも触手が飛ぶ

 

今度は米人の方に

 

(しまっ……!)

 

アイツの存在を忘れてた!

米人は体格もいいため横薙ぎにでもされたら回避ができそうにない。

 

俺は慌てて化け物に射撃する。

 

パアン

パアン

 

残弾は残り一発。

 

しかし弾丸は化け物のすぐ後ろの自販機に命中する。

 

触手が米人のすぐそばまで迫り、斬りかかろうとした……が

 

「ぐぅ…………え?」

 

触手は米人の目前で止まり、米人が驚いた声を上げる。

 

触手は化け物の元に戻り、化け物はほんの少しだけ横に移動する……しかし、俺はその瞬間を見逃していなかった。

 

 

「こいつの弱点は火だ!」

 

 

米人に吠える。

 

「まじか!……でもどうしてわかったんだよ!?」

 

米人も俺に向かって叫んでくる。

 

「化け物が自販機に弾丸が当たった時に出た火花を嫌がったように見えた!だからお前への攻撃も途中でやめたんだ……と思う。とにかく俺に考えがあるから自販機で2、8、4の商品を買ってくれ!あいつは俺が惹きつける!」

 

ぶっちゃけ確証はない。

しかし光は見えた。作戦は今考えた。

ここで来るかどうかも分からない助けを待つよりは助かる可能性がある。しかも上手くいけばあいつを仕留められるかもしれない。

 

俺は拳銃を懐にしまい、米人にポケットに入れてあった500円硬貨をパスすると同時に化け物に向かって走り出した。

 

米人も化け物が少し離れた場所にある自販機に向かって走り出す。

 

化け物はまず俺に向かって触手を伸ばす。陽動には成功したようだ。

 

形状は博士の胸を貫いたときの槍のように見える。

狙いは俺の腹部。ちょうど鳩尾のあたりだ。

 

だったら好都合。

 

あえて俺は足に込め、加速する。

そのまま触手は俺の腹へと吸い込まれて行き。

 

「アッ……ぐうぅ!!」

 

腹部を貫通する。

 

意識が飛びそうになるほどの度し難い痛みに襲われながらも、足に入れた力は弱めず突進する。

 

そして化け物の上に覆いかぶさるように倒れる。

化け物は酷い異臭で涙が出てくる。

 

「これでいいのか!?てかあんた大丈夫なのかよ!?」

 

米人の声が聞こえる。

見ると手には液体の入った瓶が握られている。

 

「気にするな……!それよりも…それを俺に渡せ……その後蹴ってでもいいから……俺をあそこに運んでくれ!」

 

そう言いながら俺はある場所を指差す。

 

俺は痛みで気が飛ばないように歯を食いしばり、米人に指示を出す。

 

「ああもう…どうなってもしらねぇぞ!」

 

そういうと米人は俺に瓶を投げつけ、俺に向かって走ってくる。

それを俺はなんとかキャッチし懐に抱え、化け物にもガッチリと手を回す。

 

暴れる化け物を体重と腕力でなんとか押さえつける。

 

 

「オォラァ!!」

 

米人の声が聞こえたと思った瞬間、横っ腹にありえないレベルの衝撃が走る。

 

ベキベキベキと骨が折れた音がし、内臓も破れたかもしれない。

 

蹴っ飛ばされた俺は化け物に必死にしがみつき、化け物とともに数m蹴っ飛ばされる。

 

ゴロゴロゴロと転がりある場所にたどり着く。

 

「ぐ…………あっ……!」

 

俺はなんとか上体を起こし懐にしまった拳銃を取り出す……その時

 

ズシャ

 

自分の右胸あたりに鋭い痛みが走る。

見てみると化け物の触手が貫通した背中越しに、鎌で俺の胸を貫いていた。

 

しかし

 

俺は止まらない。

 

「なあ…………知ってるか?」

 

俺は化け物の前に瓶を掲げる。

鎌がグリグリと傷口をえぐる。

 

「今俺たちはあの米人が飲みかけて、その後ぶちまけたガソリンの上にいる。」

 

意味なんか伝わらないと分かっているが語りかける。

 

「そしてこの瓶の中に入っているのは《アルキルアルミ》て化学物質だ。前に俺が検査したとき出たもんだけどよ……ちょっと不思議な特性があるんだよ。」

 

俺は化け物の上に瓶を押し付ける。

 

「その特性ってのはさ……空気に触れた瞬間に…………。」

 

今度はその瓶に拳銃を押し当てる。

化け物の鎌が首にかかる。

その鎌が俺の首を切り裂きにかかろうとした瞬間、俺は化け物に告げる。

 

 

「発火するんだよ。」

 

パアン

 

トリガーを引くと当たり前のように瓶は割れる。

 

すると

 

 

「ーーーーーーーーーーッ!!?」

 

化け物の体が火に包まれ、化け物がけたたましい悲鳴をあげる。

 

ガソリンに引火した火は弱まることを知らず、化け物を通して俺の体にも燃え移る。

 

俺は暴れ狂う化け物を最後の力で押さえ込み、決して逃さないようにする。

 

全身が火を包む。

熱い。冗談抜きで死ぬほど熱い。

 

あまりの熱さに意識を失うどころか、むしろ覚醒する。

 

体全身に火が周り、皮膚を筋肉を骨をじわじわ焼く。

 

吸い込む空気も熱風で体の内側から焼かれる。

 

(……焼死ってこんなにきついのかよ!)

 

俺は自分が考えた作戦だったが時間稼ぎの方がよかったかもしれないと後悔する。

 

気のせいか全身を使って抑え込んでいる化け物が縮んでいる気がする。

 

 

どのくらいの時が経ったのか?

しかし化け物の悲鳴が聞こえなくなり、目も見えなくなってしまった頃

 

とうとう身体中の感覚が一切なくなってしまった。

最初はあんなに辛かった暑さも今では感じない。

 

化け物はどうなったのか……

まだ俺の下にいるのか?

それとも抜け出してどこかで暴れまわっているのか?

 

確認しようにも瞼が焼き付いてしまい離れない。

 

今は化け物がどうなったのか知りたい……誰か、誰でもいいから教えてくれ。

 

 

 

 

 

 

「ご苦労。貴様は最善の行動をとったと私が認める。」

 

今まで聞こえなかったはずの耳がその声だけは広い当てた。

 

体に纏わりついていた何かが取れたのがわかる。

 

「ゴヒュ……ハァ!ーーースゥ!」

 

気道を確保する。

 

自分の体に纏わり付いていたのが炎だと理解する。

 

なんとか息を吹き返した俺に先ほど聞こえた声がまたかかる。

 

「火は今鎮火した。謎のSCPは貴様との心中している最中塵になったそうだ。貴様はその醜い体の回復にでも勤しむが良い。」

 

答えは突然やってきた。

 

どこか聞き覚えのあるその声の主を見るために無理矢理体を起き上がらせ、手で瞼を開く。

 

視界の先にいたのは。

 

 

「おはよう。気分はどうだ?」

 

 

最近見慣れた不細工な博士だった。

 

 

 

 




話は変わりますが、お気に入りが1600人を越え、感想が90件を越えました!

これからも頑張ります。2月以内にはもう一本あげれると思うんですが……

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