なので先に言わせてください。
すみませんでしタァ!
言い訳させていただくと自分が少し真面目に勉強しないとやばい状況におかれまして、しばらくの間そちらに専念させていただいてました。
とりあえずひと段落したので投稿させていただいた所存なのですが、おそらく次回も少し期間が空くと思われます。
正直な話をすると実に4ヶ月近く放置していたのでお気に入り件数や評価はガタ落ちだと思っていたのですが、どちらもむしろ伸びており感謝と申し訳なさしかありません。
こんな自分でよければ今後ともご愛読よろしくお願いいたします。
20XX年 ○月□日
今日の俺は気分が良い。
思わず任務に向かっている途中だというのに腕を大きく振りスキップしてしまうほどだ…はたから見たらいい年した男が鼻歌交じりにスキップしているという大変珍妙な場面ではあるが、そんなこと今はどうだっていい。重要なことじゃあない。
もちろん俺だって意味もなくハイテンションになっているわけではなく、ちゃんとした理由がある。
そら理由もなくハイテンションになっていたら、それこそやばいやつだと思う。
今日俺は【safe】クラスのSCP一体の検査だけなのだ。
しかも俺と同じDクラス職員から食堂で『俺の検査したSCPの中では一番安全だと思う。むしろ俺が気を使った。』と言っていた。
ぶっちゃけSCP相手だから【safe】クラスでも安心できるかと聞かれれば全く安心できないのだが、それでもいつもに比べれば気分が良い。
というか最近財団が俺に優しい。昨日の検査も問題が起きて謎のSCPの対処をしたとはいえその後の検査ではツバサと戯れただけですんだからな……。まさかとは思うが今後、とんでもなくしんどいのがくるから優しくしてる…………なんてことはないな!今はそんなことはどうだっていい。重要なことじゃあない。
とにかく今日は存分に楽させてもらおう。
今日の任務はとても簡単だ。
とあるSCPと同じ空間で担当の職員が良いと言うまで同じ部屋で過ごすというだけのものだ。
他のDクラス職員の証言からして安全性には期待していいと思う。
今回の任務はおそらくツバサの時と同じような『時間はかかるけど危険性が少ない任務』なのだろう。
そして俺も最近わかるようになって来たのだが、ただ『一緒の空間にいろ』という任務はそのSCPが大体検査が終了していて、最後の締めとして行われることが多いらしい。この前とある博士から聞き出した。その博士によると最近危険度の改変が多かったため最終審査のために行う事が多いそうだ。
任務の期間は管理者が良しと感じるまでと長期になる可能性はあるがむしろその方が助かる…………変に【Euclid】だの【keter】の相手をさせられるよりはマシと言うものだ。
そんなわけで上機嫌のまま廊下を歩いていると目の前に今回の任務を担当するのだろう博士が資料に目を通しながら指定された部屋の前に立っていた。
「えへへぇ、ごめぇん。待った〜?」
「ん?………ああ、貴様がDー4218か。私が今日から貴様の検査の監視を行う。勝手な行動は慎むように、わかったか?」
「あ、はい。」
博士はこちらに気がつくと生気のカケラもない顔を資料から持ち上げ、俺の一昔前の少女漫画のようなノリではなったギャグを流しつつ挨拶をすませる。
博士のあまりにも冷たい態度に一気にテンションが平常時まで下がる。
さっきまで自分の中で膨れ上がっていた何かがしぼんで行くのを感じつつ、俺は博士から今回担当するSCPの資料を受け取る。
ちなみに数多くいるDクラスの中でも担当するSCPの資料が渡されるのはごく一部の職員だけである。
理由は数個あるが基本的に知られても問題ないと判断されたSCPのみで、悪用されにくいものの情報は今回みたいに資料として手渡しされることがある。
まあ……危険度低いだけじゃなくて、危険すぎてどうしようもないやつとかも公開されたりするけど。
「すでに把握はしているだろうが今回の任務は私が『良し』と言うまでその資料に記載せれているSCPと同じ空間で過ごしてもらう。トイレの際は室内のカメラに向かってサインを出せ。それから食事に関しては………………」
博士が今回の任務についてツラツラと説明を始める。
俺は博士の説明を適当に聞き流しつつ資料に目を通し始めると今回担当するSCPの名前を見つける。
「…………というわけで貴様が今回検査するのはSCPー085【手書きのキャシー】だ。」
これが俺の実に2ヶ月部屋の外に出て行くにも及んだ過去最長の任務の始まりだ。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
「それでは私は監視室に移動する。くれぐれも監視されているということを忘れず下手な行動は慎むように。」
博士はそれだけ言うと扉を開け外へ出る。扉が閉まるとすぐにピーッという機械的な音がなりロックがかけられる。
「さてと……。あれかな?」
俺は振り返り自分が今いる部屋の全容を確認する…………まあ、全容も何もこの部屋には机しかない。ここからではよく見えないが机の上には数枚の紙があるように見える。
俺は特に警戒もせずにその机の上にある紙の近くまで歩み寄り目を向ける。
そこに描かれていたのは白紙に描かれた1人の女性だった。
その女性の絵は決して相当上手いというわけではないが……何か作者の特別な気持ちのようなものがこもっているのは分かる。この女性が作者にとってどのような存在なのかは俺には知る由もないが素直に『いい絵だな』と感じる。
そして俺の目の前に描かれた女性をしばし観ていると。
「…………!」
彼女が微笑んだ。
目の錯覚でもなんでもなく。絵が動き、形を変えた。
しかし俺も事前に資料にある程度目を通しておいたので、少し動揺したものの彼女に微笑みを返す。
これが彼女の異常性。要は『動く絵』だ。
とあるSCPの実験の最中に誕生してしまったSCPで、完全に自我を持ち、紙の中であれば自由に動くことができるようだ。
彼女は喋れないし、こちらからの声も向こうに届くことはないが互いの姿は視認できるようだ。視界から得られる情報であれば大体の意思疎通は可能らしいのでとりあえずこんなこともあろうかと覚えておいた手話で話しかけてみる。
ん?あれ……手話なんていつ覚えたっけ?
まあ、教団の連中に記憶でも操作されたんだろう。気にせずに手話で『こんにちわ』とサインを送る。
すると彼女は花が咲いたかのような笑顔をパッと咲かせ、彼女もまた手話で挨拶を返してくる。
ふむ……結構友好的だな。これなら変に気張らず任務ができる。
とりあえず会話を進めてみるか。手話だけど。
『今日から君の検査の担当を務める者です。よろしく。』
彼女はそれを見ると、笑顔のまま『こちらもよろしくお願いするわ。』と返してくる。慣れているのか滞る様子なく『ここへ何をしにきたの?』と手話で質問してくる。
俺も、俺の全く知らないうちに覚えさせられた手話で応じる。
『今日から君とルームシェアをすることになりました。期限は特に決まっていません。しかも、何をするのかさえ聞かされていないので自分も正直戸惑っています。とりあえず何かしておきたいこととかあればどうぞ。』
そう返すと彼女は少し考え込むような仕草を取ったあと
『とりあえず名前を知りたいわ。教えてくれないかしら?』と訪ねてきた。
そういえば自己紹介もまだできていないな。とりあえず手話で……って
(名前はどう伝えればいいんだろうか。)
手話で名前って無理じゃね?俺が戸惑った様子を見た彼女も俺が名前を伝えるすべを持っていないことに気づき申し訳なさそうな顔をする。
どうしたものかと困り果てているところに生気のない声が部屋に設置されているスピーカーから響いてくる。
《渡すものがあるので出口付近に寄っておけ。以上。》
それだけ伝えるとブツっという音とともに放送は聞こえなくなった。
愛想のかけらもない完全な『命令』に若干ムッとしながらも素直に従い、扉の前に立ち、少しでも仕返しになるようにと俺が高校時代に無愛想な中年の女教師を笑わせるために発明し、笑い転げた女教員の腹筋が重度の肉離れを起こし病院に緊急搬送させたという伝説を持つとっておきの変顔で待ち伏せる。
程なくして目前の扉が開かれ、博士と看守のような人物が二人現れる。
「会話はこのスケッチブックとペンを使ってするように。アレからもこちらの景色は見えているのでコレに会話内容を示すように。くれぐれもアレ自体にペンを入れる際は油性のペンを使わずこの鉛筆と消しゴムを使うように…………貴様はそんなに処罰を受けたいのか?」
博士は俺にスケッチブックと油性のペンと鉛筆消しゴムを渡しながら非常に不愉快だということを醜い顔面を全体的に使って表してくる。
後ろの看守は必死に笑いをこらえているが口を押さえている手の隙間から「プッwくっ……ブホッw」みたいな感じで笑いが漏れている。
肝心の博士は明らかに大げさにデカイ音で舌打ちをし、扉を勢いよく閉めた。
俺は渾身の変顔が通じなかったことにショックを受けつつ、キャッシーの元へ戻る。
そのまま俺はスケッチブックの一番最初の紙にペンを走らせ、『俺の名前は結城 鬱。君の名前はキャッシーでいいのかな?』と書き込み、キャッシーに見えるように提示する。
すると彼女は手を頭の上で重ね肘を張り、大きく◯の形を表す。
どうやらキャッシーと呼ぶので間違い無いようだ。彼女の第一印象は落ち着いた女性というイメージだったので、可愛らしいジェスチャーにギャップを感じ小さな笑みをこぼす。
俺はスケッチブックを一旦床に置き、手話での会話を続行する。例え財団に植え付けられた技術だとしても使えるものは使っておかないとな。
『たがいの名前も分かったところで早速任務に移りたいところなんだけど……今回は俺も何をしろっていうのは別に聞かされてなくて、君と数日ルームシェアをしろとしか言われてないんだよね。だから普段君が何をしているのかを教えてくれないかな?』
すると彼女も慣れた様子で手話に応じる。
『分かったわ。私が今居る紙の下に何枚か紙があるからそれを並べてもらえないかしら。』
俺は言われるがまま彼女の紙の下に重ねられていた数枚の紙を机の上に並べる。
一枚目は騙し絵の螺旋階段のようなもの。それは全て上りの階段なのだが4つの全ての階段を上ると下の階段に戻って居るという作りに見える絵だ。
2枚目はどうやら車のようだ。こちらは特にいうこともないのだが、絵として書かれたにしては、まるで本物の車をそのまま絵の中に入れたのかのような緻密な作りというか存在感を感じる。
そして残りの数枚は森の絵画だったり、某有名漫画の1ページだったりと系5枚の紙をキャシーの周りに並べる。
彼女は『ありがとう』と俺に伝えると紙をの中央から真横にスタスタと移動を始める。そして紙の端っこまで行き、勢いそのままに紙の中から消える。
「……!………はは。すごいな。」
俺は視線を横にずらすと目の錯覚を起こす螺旋階段の上にいた。
階段の上から手を振ってきている彼女を見て、思わず感嘆の声を漏らす。こちらの声は聞こえていないのだが、面白そうにクスクスと笑う。
資料に書いてあったが意味の分からなかった『平面世界であれば自由に移動可能』の意味がなんとなくだがわかった。
恐らく2D空間であればどこへでもいけるということだろう。
テレビとかの電子機器類には移動できないのか聞いてみたが、『しっかり線として繋がってなきゃ無理』なのだそうだ。そこらへんは彼女も良くは理解していないらしい。
『だいたいいつもこの階段で軽めに運動したり、別の紙の中にある愛車を乗り回してるわね。たまに白衣を着た男性の方が絵を持って来たりしてくれるけど、大したことは特にしてはいないと思うわ。』
彼女はそう当たり前のように俺に伝えるが……いや、普通にすごいことしてるな。
『君は絵として書かれたものを自由に動かせるの?』
『ええ。あいにく人や生き物は動かせないけどモノであればある程度自由に動かせるけど、それがどうかしたの?』
慌ててスケッチブックを手にとり、紙の上にペンを走らせる。
俺はとても簡単なつくりをしている、おもちゃの刀を紙の上に描きだしそのページを千切る。彼女のいる紙の横に千切ったページを置くと、そこに移動してくれないかと頼む。
彼女は特に嫌がる様子もなく、一つうなずくと階段から飛び降り俺の落書きが書いてある紙の方向に走り出した。
彼女は何の問題もなく俺の落書きの書いてある紙上に移動する。
そこで俺は彼女の言葉の真偽を確かめるようために、『そこにあるおもちゃの剣を手に取ってみてくれ。』と彼女に頼む。
変におれのことは警戒していない様子で、言われた通り俺の描いた剣に手を伸ばした。
それまで紙上に固定されていた剣は彼女が触れたとたんただの落書きが質量をもったかのように、彼女のいのままに動き出す。
「すげぇ………。」
思わず声を漏らした。
博士に渡された物のため確証はもてないが、別にこのペンとスケッチブックが特別なものというわけではないだろう。つまりこれは彼女自身の異能で、三次元からの二次元への干渉が可能となっているのだ。
『気は済んだのかしら?他にも何か気になることがあるのだったら私でよければ何でもするけど?』
ん?今なんでもって言った?
まあ別に変なことを頼もうなんていう気はさらさらないが、とりあえず机の上にある紙に目をやると気になったものがあったので手にとって彼女に見えるように提示する。
『もしかしてこれも……?』
『ああ、それをうごかせばいいのかしら?いいわよ。私もそれはお気に入りだから見てほしかったのよ。』
彼女はそういうとまるで子供のような無邪気な笑顔を向けてくる。
俺は先ほどと同じように彼女のいる紙の隣に、俺の持っている紙を並べる。
彼女は何の問題も無く移動し、紙の中央のあるものへ向かっていく。
彼女はソレに乗り込んだあと少々してからソレは少しの振動を見せながらゆっくりと動き始める。
そう。彼女が乗り込んだのは『車』である。
車は本当にエンジンを積んでいるかのような動きで紙上を俺の見える範囲でグルグルと走り出す。
ある程度して満足したのか、キャッシーが車の中から出てきた。とてもご機嫌のようで、ニコニコと笑っている。
俺もそんな彼女を見て拍手を送る。別に運転技術がすごかったとかそういう訳ではないのだが彼女の満足そうな顔と自由自在に紙上で動き回る顔を見て思わず手を叩いてた。
『この車はいったい誰に書いてもらったんだ?びっくりするくらい緻密な作りで絵とは思えないほどだったんだけど。』
『そうでしょう。そうでしょう!パーツは研究員の人に書いてもらったのよ。私もお気に入りでよく乗っているの。あなたも気に入ってくれたかしら?』
俺は素直に頷く。すると彼女は一層機嫌が良くなったのか多少オーバーな動きで手話を続ける。
『話のわかる人で嬉しいわ!私も“コレを作る”のには一年以上かかったから愛着があるのよね。』
『…………作った?もしかして君がこの車を組み立てたのか?』
『ええ……前に私がちょっと色々あってね。気分転換ように研究員の人たちに協力してもらって作ったのよ。』
おぉ………また驚きだ。どうやら彼女はこれを組み立てたようだ。
絵の中で組み立てまでできるとは………やはり彼女のいる世界は二次元ではあるものの基本的な行動は制限されておらず、俺たちと同様に自由に動けると考えて良いのだろう。
(本当にすごいな。彼女の力があれば二次元と三次元の干渉も遠くないのかもしれないな……!)
俺は自分でも気づいてはいたが、どうも想像以上にはしゃいでいたようだ。
だからなんも気兼ねもなくこんなことを聞いてしまった。
『前にちょっとって…何があったんだ?』
訪ねたすぐ、今まで上機嫌で可愛らしい笑顔を浮かべていた彼女が急に顔を曇らせる。
『あっ……えぇと、あまり面白い話じゃないんだけどね…………。』
(しまった……!)
その瞬間、俺は深く後悔し自己嫌悪に陥る。普段人に接する際は最も注意を払わなければならない、その人だけが持つ『地雷』。
つい気分が上がっていたとは言え完全に俺の落ち度だ……明らかに彼女も言葉を濁していた……。
『すまない。言いたくないことだろうから言わなくていい。むしろ俺の気が回らなかった。今の言葉は忘れてくれるとありがたい。』
俺はすぐさま謝罪をいれ、忘れてくれるよう促したが彼女は首を横に振った。
『いえ……良いのよ。本当に面白くもなんともない話ってだけよ。それに貴方との同棲の期間って指定されていないのでしょう?隠し事をしながら一緒にいるのって息苦しいしちょうど良いじゃない。』
彼女は俺を気遣ってそういったのだろうが、言葉の端からは自虐的な含みが感じられる。
俺は止めようと思った。彼女の顔が余りにも悲壮感が溢れていたからだ。
「………………。」
だが止めれなかった。
もしかしたら彼女の苦しみを少しだけでも俺が和らげることができるんじゃないかと考えてしまった。ジーナの時のように苦しみを共有できるのではと考えてしまった。
しかしそれは飛んだ間違いだった。
『私はね……自分が人間だと思い込んでたの。』
「…………ッ!?」
その一言で全てを理解し、同時に自分への罪悪感が溢れ出て来た。
自分の考えの甘さに嫌気がさす。
『………そんな顔しないで良いわよ。私が勝手にそう信じ込んだだけの話なんだから。』
俺は《人間から化け物になる苦しみ》なら嫌というほど分かる。
ただ《人間だと思っていたら化け物だった苦しみ》なんていうのは想像もつかない。
そんなの……俺なんかがフォローできる話じゃない。
(これじゃあ俺は……ただ彼女の傷を抉っただけじゃないか!)
俺はどうして良いかわからず拳を握りしめ、彼女を見つめる。
「…………あ。」
そんな俺を見て彼女はフッと小さく笑った。
ただそれだけの行動がほんの少しだが俺の心を和らげた。
『貴方は優しいのね……良いわ。もうちょっと詳しく話しましょうか。【人間だと思い込んでいた馬鹿な女の話】を。』