Dクラスにも休日をください。   作:くるしみまし

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おっし。宣言通り投稿できました。


SCPー682 ②

20xx年x月x日

【SCPー682 収容所】

 

プールから飛び出した【682】は俺を睨みつける。全身が酸によって溶かされたにもかかわらず、全く効いた様子はなくプールから上がってきた。

 

『………貴様が来るまでに数匹食らってやった……全員食えたものでは無かったから酸に溶かしてやったぞ……』

 

【682】は再生した声帯で、グチャグチャと音を立てながら声を発する。声自体も、カエルを潰した時のようなしゃがれた声をしており聞き取るのがやっとだ。

 

「……ハッ!ちゃんと掃除して偉いじゃないか。骨を見せてるのは新手のファッションかなトカゲくん?」

 

俺は何とか声を絞り出す。

実のところ内心くっそびびってはいるがSCP、特にこいつには舐められたくない。

 

『………ククッ。貴様だけだぞ……私にそんな態度をとれるのは。』

 

口を歪めて【682】は唸るように笑う。口の端には肉が付いているが、口の先の方はまだ再生しておらず骨だけなのが不気味さを加速させる。

 

一瞬匂いと見た目により吐きそうになってしまった。

 

「で、俺を呼んでたらしいじゃないか?そんなに寂しくなったのか?」

 

俺は全神経を【682】に向ける。気さくに話しかけてくるこいつは歩くだけでも人を轢き殺すことができる程の馬力がある。

 

【SCPー682】の特徴は全生命体の中でもトップクラスの高いスピード、パワー、反射神経を有している。

 

しかしそれだけなら問題はない。こいつの真にヤバい能力は圧倒的な【再生力】。

身体の八割以上を破壊されても瞬く間に回復するという。

 

例えるなら《傷を負った瞬間に回復する戦車》だ。

 

『………まあ、何だ。最近ふざけた博士が私を破壊したがっててな。私は……だんだん積もっていくのを感じたぞ。』

 

「…………何がだ?」

 

俺は足に力を込めつつ、【682】の返答を待つ。

 

【682】は俺の目を真っ直ぐ見ている。再生が完了していないがハッキリ言える。

奴は俺をまっすぐ見つめている。まるで………

 

『怒り………だ。」

 

品定めをするように。

 

その瞬間俺の全身の細胞が叫んだ。『そこに居たら死ぬ』

 

俺は考えるより先に横に飛んだ。

 

そして

 

『ーーーーーーーーーーーッ!』

 

さっきまで俺がいた位置を巨獣が走り抜けて行った。

 

有り余る力で踏み抜かれた鉄板でできた床は、ベッコリと凹んでいた。

あそこにいたらと思うとゾッとする。

 

「殺す気か!?」

 

『………なにを言ってる?』

 

【682】は俺の方に振り向き首を捻る。

可愛くねぇ……!

 

『そのために呼んだんだ。』

 

【682】はまた大口を開けて突っ込んできた。

 

こいつが俺を呼んだ理由は多分

ただのストレス解消だろう。

 

 

「クッソ……いいぜ、付き合ってやるよ!」

 

 

 

 

それからは命の削りあい…………などではなく

 

 

 

 

命の献上だ。

 

【682】の攻撃を完璧に躱せていたのは最初の10分だけ。

一撃ごとに精神力、集中力、そして体力を急速に削られていった。

15分ほど経つと躱しきれずに足の肉をえぐられた。

次は脇腹。

次は頬。

次は腕。

それを繰り返した。

 

体の至るところから出血し、血だるまになった俺はとうとう

 

グシャァ!

 

「……うっ、グアああああ!?」

 

とうとう左腕をまるまる噛まれ、捕まった。

 

「は…なせぇええええ!」

 

【682】はニヤニヤしながら噛む力を強めたり弱めたりして俺の反応を楽しんでいる。

何度も顎に蹴りを食らわせるが、弱り切った俺の蹴りなど効くはずもなく、【682】はビクともしない。

 

『……とうとう捕まってしまったなぁ……。」

 

【682】は必死にもがく俺をしゃがれた声でいやらしく笑った。

 

「………ッ。」

 

食われる。

最初にそう思った。だめだ。それだけはダメだ!

 

どうする?どうしたら逃げれる?

考えろ!考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ!

 

そしてとうとう俺はある結論にたどり着いた。

 

対抗するからダメなんだ。

 

「………はなしてくれよぉ。」

 

『…………………はぁ?』

 

俺は情けない声で懇願する。

 

「死にたくねぇよ……見逃してくれ……。」

 

俺はもう完全に反逆する意思を無くし、懇願する情けない男になった

 

しばらく驚いたように見えた【682】の目つきが一気に変わった。

まるで汚物を見ているかのように覚めた目つきだ。

 

『完全に貴様に興味が失せた……酸に溺れて死ね。』

 

【682】は俺のことをほとほと呆れたように見る。

 

【682】はブンッと首を振ろうと力を込める。少し俺の体が浮き1秒後には酸の海に落ちているだろう。

 

これを待ってた。

 

「……ウッ、らあ!」

 

俺は即座に右拳を振り上げ。

何のためらいもなく【682】の眼球に突き刺す。

 

『………グッ。』

 

【682】は眼球を潰された痛みか、視界が片方消えた驚きからか、俺を酸の上ではなく、真反対の壁に放り投げた。

 

「ガハッ………!」

 

壁に打ち付けられた俺は意識を手放しそうになる。

しかし、何とか意識を繋ぎ止めてしゃがみ込んだまま【682】をみる。

 

【682】はゆっくりとこちらへ歩いてくる。

 

ああ、くそ。これは流石にムリだ。

せっかく腕を解放できたのに逃げる体力は全く残ってない。死ぬ気で解放した腕も、骨は折れ、肉が裂け、皮一枚何とか繋がっている様な有様だ。

 

俺は最早抵抗する体力すらなく。【682】から目を離さないようにすることしかできなかった。

 

とうとう【682】は俺の目の前までやってきた。よく見ると、俺が潰した右目は既に回復していた。

 

『……驚いたぞ。……貴様らごときに傷を着けられるとは。』

 

「…………ぅ…ぁあ。…ペッ。」

 

何とか声を出そうとしたが上手く出ない。

俺は喉に詰まっていた血と痰を吐き出す。

 

「……やりすぎだ。マジで死ぬって……俺。」

 

【682】は俺を見ながら、またいやらしく笑う。

 

『私は…そうならないから……貴様を選んだ。これ以上壊れられたら楽しめなくなる……私は十分に楽しめた。今日のところは私が大人しくしてやろう。』

 

 

「………大人しくなるまでにどんだけヤンチャすんだよ。見ろこれ、千切れかけてるぞ?」

 

【682】の前で腕をプラプラさせる。

 

【682】はまたしゃがれた声で笑う。

 

『…目障りだな……千切るぞ。………気が変わる前に消えろ。』

 

【682】はそう言うと背を向けた。

 

やっと終わったが【682】の気分を害する前に部屋から出よう。恐らく博士も監視していたであろうから開けてくれるはずだ。

 

「……ッ。あれ?」

 

俺は立ち上がろうとしたが足に力が入らず、腰が上がらなかった。

 

『…………チッ。』

 

【682】から舌打ちのような声が聞こえ、【682】の方を見ようと思った瞬間。

 

「ん?ゲボォッ!!?」

 

脇腹にバキバキと音を立てながら【682】の尻尾がめり込む。

 

俺は床を何度もバウンドし、ゴロゴロと転がる。

殺されるのかと思ったが扉の前まで運んでくれたらしい。

扉が開き監視が出てくる。

 

監視は俺の脇を抱え引きずりながら外に運ぶ。

 

「……もう暴れんじゃねぇぞ…いい加減俺でも…しんどいからな。」

 

『…………私が外に出るよりマシだろう?』

 

そう。俺がこの仕事を最終的に受け入れるのは、こいつが俺に目をつけてからは【682】は一度も脱走しようとしていない。

 

俺が【682】の要望に応えなかった時点で死者の数は跳ね上がるだろう。

というか、それ以前に【682】のストレス発散は財団から俺への正式な任務なので、断った時点で何をされるか分かったもんではない。

 

「……クソがっ。」

 

目の前で扉が閉まる。

 

【682】の姿が見えなくなるのと同時に俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

3日後。博士が俺の部屋にやってきた。

何の用か聞こうと思ったが先に博士が口を開いた。

 

 

「貴様は……何なんだ?」

 

 




次回は主人公の過去の話になると思います。

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