テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜   作:スルタン

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明けましておめでとうございます。今年初の投稿です、これからも投稿を続けていきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。


第15話

 

ゼクソン港からローグレスに戻り老婦人に報告する最中、アイゼンが気になっていた事をベルベットたちに聞く

 

「エレノアという退魔士と、なにか因縁があるのか?」

 

ロクロウが顎に手をやりながら答える

 

「ノースガンドで初めて会った時にあいつが泣いていたのをベルベットが茶化したんだ―――涙目退魔士ってな」

「退魔士がなぜ泣く?」

 

アイゼンの問いに代わりにベルベットが答える

 

「"全"を守るためには"個"の犠牲をよしとするアルトリウスの"理"に、後ろめたさを感じたんでしょ。甘ちゃんなのよ」

「・・・それであれだけやれるのか。一等退魔士の肩書は伊達じゃないようだな」

「・・・?」

 

そこまで聞いたアイゼンの感想にベルベットはどういう事なのかとアイゼンを見る

 

「油断はするな、という話だ」

 

そこまで言い終わると同時にロクロウが話題を変える

 

「ところで、マギルゥが追っかけてたビエンフーとかいうのは、本当に聖隷なのか?」

「俺たちとは異なる種族だが、聖隷だ」

「なら、マギルゥは退魔士ってことか。魔女とか魔法使いって言ってたのはなんだったんだ?」

 

聖隷を使役できる以上、退魔士であるのは確実。だがそれを偽っているということに疑問を持つロクロウにベルベットが私見を口にする

 

「監獄島に捕まってたことを考えれば、聖寮から弾き出された奴なのかもね」

「あるいは、ただのペテン師か」

「そうね。退魔士じゃなくても、あの妙な聖隷がいれば奇術ごっこぐらいはできる」

 

アイゼンも加わり散々に言われるマギルゥそこにロクロウが声色を変えてさらに煽る

 

「エレノア様は、ビエンフーが守るでフよ~!かかってこいでフ~!だもんな」

「ふふっ・・・」

 

ロクロウのモノマネにライフィセットが笑う

 

「おっ、笑った!」

「・・・!ごめんなさい」

 

ライフィセットは怒られると思いロクロウに謝る

 

「なんで謝るんだよ。ビエンフーが面白かったんだろ?」

「・・・うん」

「笑いたいときは笑えばいいんでフ~!!」

「はは・・・はははは」

「そんなにおかしいなら、お前もやってみろ。ほら、僕はライフィセットでフ~!!」

 

ロクロウに言われてライフィセットも挑戦する

 

「あ、うん・・・僕はライフィセットで――」

「やめなさい!」

 

いいかけたところでベルベットが声を上げる

 

「えっ!?」

「なんでだよ?」

 

声でビクつくライフィセットにそれに抗議するロクロウ

 

「・・・ほら、人が見てる。目立つのは困る」

「・・・ごめんなさい」

「まったく余裕のない奴だな。ライフィセット、あとで二人でやってみような」

「う、うん・・・」

 

 

なんやかんやで老婦人がいる酒場へ戻ってきたベルベット達。ソファーに座る老婦人に報告しようとした時老婦人が口を開く

 

「港では一騒動あったようね?けど、目的を果たせたなら問題ないわ」

「もうここまで届いているのね」

「あら、お気に召さなかったかしら?」

「別に。あいつは戻ってきたの?この様子だとそうでもなさそうね」

 

口元を隠しながら笑う老婦人を目を細めながらもケンが戻っていないことを確認する

 

「まだよ。一人ですもの、時間がかかるのも仕方のないこと。その間にもう一つの仕事を終わらせてきたらどうかしら?」

「わかってる」

 

ベルベットが短く答えもう一つの依頼である護衛の仕事に向かうため外にでる

 

「ダーナ街道で"王国医療団"を襲撃しようとしている者たちがいる・・・か」

 

ベルベットが依頼内容を確認するようにつぶやく

 

「王国医療団は、あちこちで診療や治療をする『動く病院』」

 

ライフィセットが護衛対象の詳細を説明する

 

「民間の寄付で活動している慈善団体のはずだ」

「う~ん、狙われる理由がわからん」

 

アイゼンとロクロウがそれぞれ私見を言う。医療活動に従事する当たりどこかの組織または個人に因縁をつけられるのはあり得ないはずである

 

「いるんでしょ。善意とかが大嫌いなひねくれ者が」

「だとして、闇組織が守る理由は?」

 

ロクロウが慈善事業に対して非合法な組織が関与しなければならない理由をベルベットに聞く

 

「知らないけど・・・襲撃者の方に原因があるのかもね」

「しかし護衛もそうだが人探しの件も腑に落ちないよな」

「そうだよね・・・消えた場所がわかるなら、捜しに行けばいいのに」

「だよな。しかも人探しが、なんで非合法なんだ?」

 

ロクロウとライフィセットが考え込む

 

「・・・可能性はいくつか考えられる。けど、こっちは依頼を果たすだけよ」

 

 

それと同時刻。湖道奥に差し掛かりつつある二つの人影があった

 

「ここにもいないとなるとまだ奥かな・・・」

 

ケンはいそうな場所を隅々まで捜しつつ歩く

 

「これは骨が折れそうだなケン?」

 

ルシフェルは更々捜す気がないのだろう。携帯を弄りながらケンの後ろについている

 

「ええ、行方不明ですからね。目撃場所がわかっているだけでもマシということです」

 

ケンは草の茂みや岩の影を覗き込みながら話す。

 

「となると・・・」

「ん?なにか気になるのかい?」

 

ルシフェルが手を止めてケンの顔を見る

 

「この件は第三者が絡んでいる可能性があるということです」

「ほう」

 

ルシフェルが意外そうに答える

 

「理由は?」

「少なくとも行方不明であればわざわざ依頼、ましてや裏組織に協力を求めること自体必要ないはず。身内や人を集めて探す。なにより聖寮に救助を求めれば聖寮も断る理由がない」

 

ケンは向こう岸へ渡るために岩に絡まったツタをどかしながら話す

 

「ふむ。君の推測も一理あるな。彼女たちが進めている仕事もかなりきな臭い、といっても裏での仕事だ。それはわかっているだろ?」

 

ケンが岩を押し始める

 

「あくまで僕の推測です。ですからこの確証を確信に変えたいんです・・・よっと!」

 

岩が転がり湖に落ち足場ができる

 

「全てを知ろうとは思いません。ですが引き受けた以上最後まで果たさなければなりません」

 

そこまで言い切りケンは足場を跳びながら渡っていく

 

「全てを知ろうとは思わない・・・・か」

 

ルシフェルは水面を歩きながらそんなことを呟いた

 

 

「ここにもいない・・・か」

 

あれからしばらく捜したがメンディという人物は見つからない

 

「これだと一番奥としか考えられない」

 

ケンは周囲を見渡す。人影はなく今ここにいるのはケンとルシフェルだけだ

 

「これは君の予想が現実味を帯び始めてきたんじゃないか?」

「う~ん」

 

ルシフェルは岩に腰掛け足を組む。だが遠くの草むらから一対の目が二人を、正確にはケンに狙いをつけていた

 

「こんな状況だ。最悪のケースも覚悟しなければならないんじゃないかな。ここまでやって見つからないんだもしかしたら手遅れかもしれない」

「・・・」

 

黙り込むケン

 

「君が責任を感じる必要はない。あくまでこれは依頼だ、そのことを・・・」

 

その時ルシフェルの携帯がなる

 

「ん?すまない、ちょっと待っててくれ」

「はい。自分に構わず」

 

それを聞いてルシフェルが電話にでる。

 

「・・・」

 

ケンは何かを感じ取ったのか周りを見る

 

(誰か・・・いや何かから見られている気がする・・・)

 

ルシフェルが電話を切りケンの方を向く

 

「すまない。急用が入ってね、戻るよ」

「わかりました」

「なるべく早く済ませるよ。君との旅もアイツと同じくらい楽しいからね・・・別の意味で」

 

言葉を濁したルシフェルにケンが首を傾げる

 

「アイツ?」

「こっちの話さ、それじゃ」

 

ルシフェルが指を鳴らした瞬間そこにいたルシフェルの姿はなかった

 

「さて・・・僕も役割を果たさないと」

 

ケンは先程の気配を気にしつつ逆の方向へ向かおうとしたその時、後ろから何かが高速で向かってくる。

 

「!」

 

ケンは気配を察知して素早く後ろを振り返る。が、その眼前に蛇の下半身に女性の上半身の業魔、エキドナが迫っていた。ケンは反応に遅れてしまい蛇の尾で締め上げられてしまう

 

「ぐ・・・」

 

もがいて抜け出そうとするがエキドナはまるで楽しむかの如く締め上げる力を強くする

 

(力が思ったより強い・・・この敵はまた特別?)

 

そう考えるが爪を振りかざすエキドナに思考を邪魔される

 

「ふん!」

 

力をこめ両腕を尾から抜き取りエキドナの腕を掴み引き寄せそのまま顔面に頭突きを叩き込む。思わぬ事態とダメージで尾の拘束が解かれ、それに乗じて素早く後ろへ転がり距離をとる。

 

「待ってくれ、何故こんな事を」

 

ケンが会話を試みるが当のエキドナは先ほどの頭突きでも大したダメージはなく。今度は一直線に飛び掛かってくる。ケンがそれを横に避けるがエキドナが体を捻り尾をしならせそれがケンの胸に当たる

 

「ぐっ・・・!」

 

僅かに顔を歪ませ怯んだ隙に爪で体や腕を何度も引き裂く。まともに喰らい大きく仰け反るケンにエキドナが追い打ちをかけようと再び飛びかかる

 

「(やむを得ないか・・・)ぬう!」

 

ケンはすかさず身を屈め。エキドナはそのままケンの頭上を通り過る。最後に尾の先がケンの頭上を越えようとした時それを片手で掴み一気に振り下ろし叩きつける。エキドナは逃げようともがくがそれを許さず引っ張り上げ反対側に投げ飛ばす。

 

「ふんっ‼︎」

 

投げ飛ばされたエキドナが地面に叩きつけられダメージを受けたのかよろめきながらも起き上がる。ケンは追撃する為にエキドナに速足で接近する、エキドナの間近に来た時その目がギラつく

 

「ジャアアアッ‼︎」

「ぬおおっ!?」

 

エキドナは己の尾を高速で地面に滑らせケンの足を払う。油断していたわけではないが予想外の反撃に驚愕の声を上げるケン、エキドナは空中高くで体制を崩すケンをまるで抵抗できない獲物の如く口角を吊り上げる。鋭い爪を前に突き出しケン目掛けて突進する、ケンの目の前にエキドナが迫る

 

「とあっ!」

 

掛け声と共にケンが体を捻り両腕で地面を叩く、反動で高度が少し上がり横捻りで回転。エキドナの爪をすれすれで避け、後ろに着く頃には体の向きが同じになる。その瞬間ケンはエキドナの首に腕を回し締め上げる

 

「ギッ⁉︎・・・アッ・・ゲボッ!」

 

地面をもみ合いながらも必死で逃げようともがくエキドナ。ケンは力をこめる。抵抗とばかりにケンの腕を掴み外そうとするエキドナ。もみ合いはまだ続くと思われたが一つの鈍い音でそれは終焉を迎えた

 

「ゲッ・・・ガッ・・・」

 

エキドナは短い断末魔をあげた後ばたつかせた腕と尾を地面に力なく落とし、息絶える。仰向けになっていたケンが亡骸をどかし立ち上がり、動かぬ業魔を見る

 

「・・・やむを得なかった。とはいえ僕の判断が正しかったのかはわからない。だけど」

 

ケンが亡骸に近づき片膝をつき手をかざす

 

「業魔であろうと人であろうと、死者は弔わなければならない」

 

ケンの掌から緑味がかかった光が放たれる。その光が当たり徐々に亡骸が光となって霧散する

 

「死は等しく平等だ、案外神様も有情なんだろう」

 

立ち上がり振り返る

 

「・・・最後の最後には殺めることを覚悟しなければならないのか・・・」

 

それを最後に歩き出した

 

 

それからしばらくしてガリス湖道の最奥に到達したケンの前方に鎧を着た二人組がおりケンは素早く身を隠し覗き込む

 

「・・・何故こんなところ人が、ここに何かあるのだろうか。・・・もしかしたら依頼と何か関係が?」

 

見張りの後ろには小道が続いている。ケンは少し考えた後に後ろに下がり装備を外す

 

(あまりこういうのはしたくないけど・・・)

 

心の中で呟きながら水の中に入っていった

 

 

見張りの傭兵が目を光らせている中彼らの横少し離れたの水面からゴボゴボと気泡の音が鳴り一人が気づく

 

「ん?」

 

気づいた傭兵が確認しようと水に近づき覗き込もうとした時水面から腕が伸び傭兵足を掴み引きずり込んだ

 

「う!うわあぁぁ!!」

「なんだ⁉︎どうした!」

 

もう一人の見張りが聖隷を出し引き摺り込まれた所へ駆け込み水面を見る

 

「くそっ一体なんだってんだ!」

 

傭兵が水面を凝視している中その後ろからケンが引きずり込んだもう一人を片手で掴みながら忍び寄り傭兵と聖隷の首に手刀を見舞う

 

「ぐあっ!?」

 

傭兵と聖隷は気絶し倒れこむ。どうやったかは単純で傭兵が近づくまでに泳いで最初に入った所から上がり横から後ろに回り込んだだけである。ケンは引きずり込んだもう一人を離し奥の小道を進んだ。そこには天幕がありその下には寝床であろう柄が違う敷物が横一列に敷いてある

 

「もしかしてここにいるのかな・・・」

「お、おい。あんたは誰だ」

 

ケンが声をかけられそちらを向くと数人の男達が警戒しながら話しかけて来た。中には採掘用のシャベルやツルハシを構えているものもいる。ケンは急いで事情を説明する

 

「待って下さい。僕は人探しでここにたどり着きました、メンディという方を知りませんか?」

「メンディ?その人ならそこにいるぜ」

 

男性がメンディという人物がいる方へ顔を向けるとそこに目的の人がいた

 

「私がメンディだ」

「よかった。貴方に捜索の依頼が出ています」

「そうなのか!助かったよありがとう。奴らに監禁されて無理矢理作業をさせられていたんだ。これで帰れる」

 

ケンの言葉を聞いて周りに活気付く、ふとケンが木箱に入れられている赤い鉱石が目に留まる

 

「あの赤い石は」

「あぁ、あれは"赤精鉱"って言うんだ。私はこの鉱石の精製法を発見したんだが、それで目をつけられてしまったんだ」

 

それを聞いたケンが疑問を感じメンディに尋ねる

 

「この石には何か利用方があると?」

「こいつには薬効成分が含まれているんだが、薬品を生産すると同時に毒性が出てしまうんだ」

「その薬品とは一体?」

「『赤聖水(ネクター)という滋養薬、それを作らされていたんだ」

 

ケンが顎に手を当てまた尋ねる

 

「ではその毒性というのは」

「赤精鉱には強力な依存性と中毒性を引き起こす事が判明しているんだ。私はそれを奴らに警告したんだが・・・」

(中毒・・・まるでヤクだな・・・この世界にもあるなんて・・・)

 

しばし目を閉じた後メンディ達に顔を向ける

 

「ともかく無事でなによりでした。では戻りましょう」

「あんたは先に戻っておいてくれ、私たちはこの赤精鉱を処分してから戻る」

「わかりました。お気を付けて」

「あんたもな、今更言うのもなんだが濡れたまんまじゃ風邪引くぞ」

 

メンディに言われたとうり身体は濡れたままだ

 

「・・・道中で乾かしますよ」

 

 

ベルベット達はもう一つの依頼である襲撃者の排除の為ダーナ街道に赴いていた

 

「はてさて、その襲撃者とは一体どんな奴なのか。慈善団体を襲うという事は賊か?野盗か?」

「どうだろうな、唯の賊なら聖寮が検挙していてもおかしくない。或いは」

「・・・力を持った組織って事?」

「わからない。でも襲撃者が誰であろうと倒す、それだけよ」

 

そこまで話していると前方に横転した馬車と散乱している積荷、輸送員であろう何人かが倒れている。そのすぐ側には襲撃者であろう三人の男が立っていた

 

「噂をすればなんとやらってな!」

「ちっ、遅かったか」

 

走るベルベット達に気づいた三人組が振り返る。

 

「邪魔をするな・・・"それは"・・・」

 

それはとはベルベット達の後ろの赤い箱のことだろう

 

「俺たちが喰らうッ‼︎」

 

その瞬間に彼らが業魔に変わり襲いかかってきた

 

「"それ"を!よこせぇーッ!!」

 

テナガザルの爪がベルベットを切り裂こうとするもそれをバク転で回避する

 

「あんたらの目的が何かは知らないけど仕事は果たさせてもらうわよ!」

 

着地して横回転しつつ回し蹴りをテナガザルの顔にぶつけ蹴り飛ばす

 

「そういう事だ、恨みはないんだが覚悟してもらうぞ」

 

もう一体のテナガザルがロクロウに飛びかかる、覆いかぶさる瞬間ロクロウが横に素早く避け小太刀で斬りつける

 

「フンッ!」

 

アイゼンは自ら接近しインファイトに持ち込み拳と蹴りを繰り出す。ベルベットと戦っているテナガザルが負けじと応戦する、が、かなり大振りな攻撃にベルベットは難なく躱し刺突刃と蹴りで追い詰める。

 

「セイッ!」

 

ロクロウもかなり押しており爪の攻撃を片方の小太刀で受け流しとはじき返しては斬撃を浴びせ徐々に肉薄にしていく

 

「どうした!もっと向かってこい!」

 

ロクロウが相手を挑発しそれが頭にきたのか、それとも赤い箱が欲しいのか、吠えながらがむしゃらに飛びかかる。三者三様の戦いをしているようだが確実に敵を一箇所に集めるように追い詰める。

 

「ライフィセット‼︎」

 

ベルベットが合図をかけライフィセットが聖隷術を発動させる

 

「重圧砕け!ジルクラッカー!」

 

業魔達の足元に地割れが入りそこから重力波が発生し動きを封じる、それを皮切りに三人はトドメを刺すべく走り出す

 

「これで終わり!空破絶掌撃‼︎」

 

接射された刺突刃が業魔を貫き

 

「お命頂戴!参の型・水槌!」

 

圧縮された水の刃が切り裂き

 

「破砕しろ!ストーンエッジ!」

 

聖隷術から繰り出され地面から石の針が弾き飛ばす。三体の業魔は各々の技を受け動かなくなった。それを確認した後構えを解く

 

 

「襲撃者は業魔か。そりゃあ計画がわかっても、止められないよな」

 

ロクロウが馬車を見た後振り返り頭を掻く

 

「医療団は?」

 

ベルベットが赤い箱に向かうアイゼンに聞く

 

「逃げ去ったようだ」

 

アイゼンは赤い箱を探り始め青いガラス瓶を取り出す

 

「やつらが欲しがっていたのは、この薬か」

「教会の封紙・・・薬・・・」

 

ベルベットは教会とこの薬がどういう関係なのか思考する。その時ライフィセットが地面に落ちているある物に気づき、拾い上げる

 

「それ、奴らのか?」

 

ロクロウがライフィセットが拾い上げた赤いスカーフを見る

 

「うん。三人みんなつけてた。なんなのかな・・・?」

「・・・ただの業魔よ。慈善団体を襲うような、ね」

 

ベルベットは知ってか知らずか、それだけ言った

 

「これでばあさんの依頼は二つこなした。後はケンのだな、もしかしたら戻ってきてるかもしれないし酒場に戻ろうぜ」

 

ロクロウが提案した直後ライフィセットのお腹が鳴る、本人が恥ずかしさから顔を赤くする かわいい

 

「はは、マーボーカレーがずいぶん気に入ったんだな」

「そう・・・なのかな?」

 

ライフィセットはその感覚がわからずベルベットに聞いてみる

 

「あたしに聞かないで」

「ベルベットは美味しくなかったの?」

「・・・それは・・・美味しかったけど・・・」

 

ベルベットはそれだけ言うと歩いていく

 

「え?」

 

ライフィセットはベルベットのはっきりしない回答に疑問を抱く

 

「あいつは、本来は食い物の味がわからないんだ」

 

ライフィセットの疑問にロクロウが代わりに答える

 

「いくら食っても満腹感もない。感じるのは血の味だけ・・・そう言ってた」

「そう・・・なんだ」

「だがケンがあいつの腕に光を当てると味がわかるようになったらしい」

「光?」

「お前と最初にあった場所だ。お前が逃げた後ベルベットがケンに襲いかかったんだ」

「え!?」

 

ロクロウの話にライフィセットが驚く

 

「どうして襲いかかったの⁉︎」

「さあな、何しろ突発的だったし原因も分からん。だがケンがあいつの腕に光を当てると落ち着くんだ。理由は分からん」

「でもそれと味がわかるのはどういう関係なんだろ」

「多分副作用かなんかだろ。とにかく戻ろうぜ」

 

 

その後ローグレスの酒場に戻ってきた一行は老婦人に報告する。因みに道中指名手配な話があり地域によって似顔絵が違うということを聞いたライフィセットは早く世の中をかき回したいとかとんでもないことを言っていた。教育に良くないメンツだ

 

「おかえりなさい。大変だったでしょう。マーボーカレーはいかが?それとも特製ピーチパイの方が・・・」

 

マーボーカレーと聞いてライフィセットの顔が明るくなるがベルベットの一声で表情が変わる ピーチパアアアアアアアイ!!!

 

「約束よ。本題を」

 

ライフィセットが顔を俯かせるそれを見たのか老婦人は僅かに笑いながら答える

 

「導師アルトリウスの居場所は、ダーナ街道の北にある聖寮の新神殿『聖主の御座』しばらくここにこもる予定よ」

「引越しでもしてるのか?」

 

ロクロウがかいつまんで尋ねる

 

「ある意味そうね。聖主カノヌシの遷座儀式を行っているとか」

 

そこまで聞いてベルベットが腕を組み話を纏める

 

「聖主カノヌシ・・・聖寮が掲げる新しい神様ね」

「厳粛な儀式だから、つきそうのはメルキオルたち数人の高位対魔士だけらしいわ」

「好都合だ」

 

アイゼンがチャンスとばかりかの返答

 

「"あいつ"もいるかもな」

 

ロクロウが意味深な事をつぶやく

 

「十分よ。それなら襲う隙が必ずある」

「ただし、御座の手前には厳重な検問が敷かれているわ」

「なんとか破ってみせる」

 

その言葉に老婦人が首を横に振る

 

「無理ね。人は誤魔化せても御座の周囲に張り巡らされた結界は欺けない。部外者の侵入を拒む術の壁が作られているのよ」

 

ベルベットが口元に手をやり考え、あることに気づく

 

「・・・けど、奴らが通るための"鍵があるはずよね?」

「ええ。今、仲間が鍵について調べているわ。ただし、それは・・・」

「・・・別会計」

 

察したベルベットが先に答える。老婦人がわかっていたかの様に微笑む

 

「そうなるわね。お代は"これ"」

 

懐から一枚の紙を差し出す。ベルベットがそれを手に取り確かめる。ロクロウも横から見る。そこには一つの依頼が書き記されている。

 

ミッドガンド教会"大司祭ギデオン"の暗殺

 

ロクロウがその依頼内容を特に驚くことなく腕を組む

 

「・・・これは最高に穏やかじゃないぞ」

「わかったわ」

 

ベルベットが了承し後ろを向く。老婦人が問いかける

 

「聞かなくていいの?大司祭を殺す理由を」

「大方、大司祭が"赤聖水"の元締めなんでしょ」

 

ベルベットはわかっていたのだろう。宗教団体が宗教をダシに商売なんてよくある話なのだから

 

「教会のお墨付きで、常習性のある薬をばらまいて製造を独占。大儲けの影で、素人どころか貴方達の仲間にも被害が出てる・・・ってとこか」

 

そこまで答えた時扉が開く

 

「すいません、遅れました」

 

ケンが扉を閉め老婦人に報告する

 

「あら、お帰りなさい。メンディが見つかったという報告は聞いているわ」

「早いですね」

「目はどこにでもあるものよ」

 

その後ケンは自分が聞いた事を皆に話した

 

「あたし達を試したのね」

「えぇ、合格。二つの依頼で気付くなんて大したものだわ」

「ケンの話で確信になった。それだけのことよ」

「いくら凄腕でも、ケンを振り回すだけの人は信用できないもの」

 

ケンは椅子に座りながら話を聞いている

 

「勘違いしないで。あたしはアルトリウスに辿り着くためならなんだってする。鞘なんてとっくに捨てたのよ」

 

ベルベットの覚悟に老婦人が目を閉じる

 

「・・・そう。あなた"剣"そのものなのね」

 

老婦人は目を開け己の胸に手を添える

 

「改めて名乗りましょう。私はタバサ・バスカヴィル。闇ギルド--"血翅蝶"の長よ」

 

ベルベットは腕を下げ自分の名を名乗る

 

「ベルベットよ。大司祭の情報を教えて」

「大司祭は、毎晩、ローグレス王城の離宮で災厄払いの祈りを捧げているそうよ。しきたり通りなら礼拝は単身で行うはず。狙うならこの時でしょう」

「離宮に入るしゅだんは?」

 

タバサは今度は記章を取り出す

 

「この記章を持っておゆきなさい。"血翅蝶"の仲間か手を貸してくれるわ」

「わかった。"鍵"の情報は頼んだわよ」

 

 

「あ、いたいた」

 

話がひと段落した時一人の女性が酒場に入ってくる。女性はケンを見つけ近づく

 

「君がガリス湖道に行った人?」

「あ、はい、そうですが」

「はいこれ」

 

ケンが答えるないなや麻袋をケンに差し出す

 

「これは?」

「甲種業魔を討伐した報酬よ。君ってすごいよねー対魔士が数人がかりでやっと倒せるのを一人で倒すんだから」

「はぁ・・・」

「んじゃ、私はこれで。じゃあね」

 

ケンが呆気に取られているうちにロクロウが食いつく

 

「ケン!どうだった⁉︎甲種業魔の強さってやつは!」

 

そこにアイゼンが加わる

 

「お前がどうやってたおしたのか、興味がある。教えろ」

 

二人からの質問責めにあう直前タバサが割って入る

 

「二人共?戻って来たばかりで疲れてるのにあれこれ聞くのは可愛そうよ?」

 

「ぬ、すまん」

「悪かった」

 

タバサがケンの隣に座り、その腕を取る

 

「あ、あの」

「いいのよ、隠さなくても」

 

タバサがケンの服の袖を捲り上げる。そこに治癒しかけているがまだ十分に回復しきっていない傷が残っていた

 

「あ、気になさらないでください」

「これはサービスよ、直せる時になおしておきなさい」

 

ケン達が集まる中ベルベットが疲れたのか息を吐く

 

「・・・ふぅ」

「ベルベット、どうかした?」

 

ライフィセットが心配そうに話しかける

 

ベルベットがライフィセットを見た時彼女から喉がなる音が聞こえた。ベルベット自身驚き顔を背ける

 

「・・・なんでもないわ」

「でも、なんか・・・」

 

それでも食い下がるライフィセット

 

「なんでもない!」

 

声を上げてしまうベルベット

 

「・・・!!」

 

そこにケンの話を後回しにしたロクロウが夜襲について提案する

 

「城に忍び込んで襲うなら、徹夜仕事になりそうだな。今の内に酒場で一休みさせてもらおう」

「・・・そうね」

 

ベルベットは先に部屋に向かっていった。タバサに手当してもらっているケンの血の滲む腕を見てしまう。それから逃げるように階段を上がる。内なる衝動を抑えながら

 

 

〜第15話 終わり〜

 




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