テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜 【完結】 作:スルタン
〜
ギデオン暗殺を請け負ったベルベット達はそれに備え、酒場で夜になるまで休息を取る事になった。そんな中カウンターでアイゼンとタバサが何やら話し込んでいる、アイゼンはタバサに背を向けテーブルに寄り掛かっている
「・・・アイフリード船長が、一時、監獄島に囚われていたのは事実だったわ。特等対魔士メルキオルに連れ出されたことも。でも、その後の消息がつかめないの」
アイゼンが寄り掛かかるのをやめタバサの方へ向く
「いずれにせよ、聖寮があいつを捕らえているのは間違いないな」
「目的はなんなのかしら?海賊討伐のためなら、見せしめで処刑するか、
「今のところ、どちらの動きもない」
タバサが顎に手を当てる
「もしかしてアイフリードが異大陸から持ち帰ったという"遺物"が狙いなんじゃないの?」
タバサが己の推理を述べる。カマをかけるとも言う。アイゼンは口元に手を当てて思考する、指は伸ばしたままの特徴的な仕草である。イカす
(異大陸の遺物・・・あの"妙な道具"の噂が出回っているのか・・・)
そこまで考えた後仕草をやめる
「可能性はあるな。あいつは"ある遺物"を妙に気に入って大切にしていた」
「どんなものなの?」
それを聞かれて答えるアイゼンではない。首を横に振る
「海賊団の機密だ。今はこれ以上は言えん。だが、もし目的がそれなら、離宮に囚われている可能性は少ないだろうな。あそこには拷問の設備がないだろう?」
アイゼンは腕を組み自身の見解を述べる
「・・・その通りね。一部でも機密を明かしてくれたこと、感謝するわ」
「その線を含めて、引き続き情報収集を頼む」
アイゼンはそれを最後にカウンターを後にした
〜
白一色の風景の中古い遺跡の石柱が数本、あるものは根元から折れ上の部分は横倒しになり。あるものは中程から上までがないものもある。日が差している訳でもないが柱に沿って影ができていもののその影は赤い、むしろ血のような影がくっきりと浮かび上がっている。その柱の間に一人の女性、ベルベットは地面にしゃがみ込んでいる。そこから何かを咀嚼する音、むしろ口に詰め込みながら噛む音の様な響いている
「もっと・・・もっと・・・」
ベルベットは目を見開き手で何かを掴み口に入れる。遂には我慢できないのか業魔手で喰らい始める
「もっとっ!」
次のナニかに業魔手で喰らおうとした時ベルベットが我に帰る
「!!!」
業魔手で掴みかかったモノは弟ライフィセットの遺体だった、瞳孔の開いた死人の目が彼女を見ていた。
「うああああっ!!」
悲鳴をあげ跳びのき、後ろ手で下がる。そしてそれを見たくないとばかりに手と足を組み顔を伏せ縮こまる
「違うの・・・!そんなつもりじゃなかった!」
必死に弁明をするベルベット。弟に対する懺悔か
「けど、お腹がすいて・・・お腹がすいて・・・」
ベルベットが顔を伏せる中直ぐそばである男の声が彼女に語りかける
「病で消えゆく弟の命で姉が長らえるなら、その行為には"理"がある」
ベルベットが顔を上げ振り返る。そこにはアルトリウスが立っていた。
「我慢しなくていいんだ。ベルベット」
彼は優しく語りかけるも次にあまりにも残酷な言葉を発した
「ライフィセットを食べなさい」
その言葉にベルベットの瞳は揺れる。震えた声で拒もうとするもそれは余りにも弱々しいものだった。
「い・・・や・・・」
アルトリウスの言葉を拒みたいという反面、その事実を否定できない己の業の板挟みにただ彼女は叫ぶしかなかった
「嫌だあぁぁぁっ!!」
夢から醒める
「ああああ!!!」
ベルベットは無我夢中で目の前のものに摑みかかる
「聞くもんかっ!お前の言うことなんかっ!!」
ギリギリとベルベットの両手が何かを締め上げる、アルトリウスの言葉から逃れる様に力を込める。だが当の本人が締め上げているのはアルトリウスではなくライフィセットであった
「あ・・・あ・・・」
ライフセットの呻きでベルベットが自分が何をしているのか理解する
「!!」
すかさず手を離すベルベット。ライフィセットは床に手をつきながら咳き込む
「あんた・・・どうして・・・?」
ベルベットが震えた声でライフセットに問いただす
「ベルベットが・・・うなされてた・・・から・・・」
ライフィセットが顔を上げた時、ベルベットは弟の面影を見た。
「気安く近寄るな!あたしが業魔だってわかってるでしょ!」
ベルベットはライフセットを突き放す様に強く言い聞かせる。同じ様な事をしてしまいかねない自分に対しても。自分からライフィセットを突き放す様に。立ち上がり後ろを向く
「ごめんなさ・・・い・・・」
泣きそうな声で謝りながら走り去るライフィセット。
「くそっ・・・!」
辛そうに言葉を漏らすベルベットの横で柱に寄りかかり腕を組んだマギルゥが語り出す
「寝ても覚めても悪夢の続き、"モノ"は石をぶつけると壊れるが、キモチをぶつけると"イキモノ"になる」
マギルゥは語りかけながら目を細める
「扱うにも捨てるにも"モノ"の方が楽じゃぞ?」
そこまで言い終わると柱から離れベルベットの方を向く
「・・・なにが言いたい」
ベルベットはその真意を聞き出そうとするがそれをマギルゥははぐらかす
「休憩はお終いということじゃよ。お出かけの時間じゃ♪」
マギルゥがそれだけを最後に先に階段を降りていった
〜
いよいよギデオン暗殺の仕事が始まる、ベルベットが外を出る頃には全員集まっていた。外は日中とは打って変わってかなり静かである
「・・・」
ライフィセットは先程の事もありロクロウの後ろに隠れる、ベルベットはそれを見て顔を横に向ける。そこにマギルゥが割って入る
「むふふ、間に合って良かったわい」
「あんたも来る気?」
ベルベットに言われたマギルゥは片手を上に上げもう片手をない胸にあてて芝居めいて答える
「『お主らと一緒におれば、ビエンフーを使う女対魔士が現れるぞよ〜』・・・と、マギルゥ占いに出たのでな」
「当たるのか、それ?」
ロクロウは煽てながら手に顎をやる。うさんくささ満天
「儂は昔、王城に入ったことがある。一緒だと便利かもじゃぞ」
「邪魔したら捨てていくわよ」
ベルベットが釘をさす
「敵の本拠地だ。警備は堅いぞ」
「けど、闇はあるはず。赤いスカーフをつけた兵士を捜すわよ」
アイゼンの忠告を聞きつつ一行は行動を開始した
「マギルゥさん、ビエンフーって誰なんです?」
ケンはゼクソン港の報告は聞いてはいるがビエンフーの言葉初耳だった
「そやつが儂の探していたいじめがいがあって弄りがいがあってとてもいい儂の子分、いや、奴隷じゃ♪」
「はぁ、子分」
「ちがーう!子分ではなく奴隷じゃ!間違えるでない!」
「はぁ、奴隷」
「なんじゃその顔は、むふふ♪なんなら代わりにお前を儂の奴隷にしてやってもいいぞ♪」
マギルゥはニヤニヤしながらケンを誘う
「いえ、結構です」
ケンは淡々と切り上げる
「ガクッ!なんじゃ人に最後まで言わせてからに〜!!」
「自分は人の話を最後まで聞いて答える様にしていますので」
マギルゥがよよよと崩れ落ちながら泣く振りをする
「な、なんと罪深いやつなのじゃ・・・」
「・・・僕まだ何もしてませんけど」
〜
王城に続く道の脇に赤いスカーフを巻いた兵士と見張りの男を見つける
「・・・手形を拝見」
ベルベットが記章を見せ兵士がうなづく
「確かに」
兵士が退いた所に一つのマンホールがある
「この地下道は、王城に繋がっている。離宮の中に出られるはずだ」
ベルベット達は兵士から説明を聞いた後地下道へ降りる。離宮へ向かう途中浸水した場所があり、マギルゥが地下道にはワニが出るだの人の血を使うとワニの肉が柔らかくなるだのその肉がマーボーカレーに使われてるだの、そんな話でライフィセットを怖がらせていたが、じゃあ本当にいるかマギルゥで試してみようとなり、マギルゥは冗談と謝ったのはいいものの今度は人食いナマズと言い出して最終的にベルベットに突き飛ばされ盛大に水の中に突っ込んだ。それはさておきここには当然ワニはおらず業魔がうろついていた。路面一枚隔てた空間にましてや王都に業魔がいるのは予想外だった
「業魔から市民を守るための城塞都市じゃというに王家の足元に業魔がおるとは、聖寮の怠慢じゃ!」
「確かに、聖寮にしては脇の甘い警備だよな。巨大な防壁で街を囲って、その内側を守るってのが、王国と聖寮の対業魔政策だもんな」
マギルゥの悪態にロクロウが肯定する
「壁の内側で発生した業魔にとって、外に逃げるのは容易じゃないともいえる」
「王宮は広いし、建物も大きいから、隠れる場所もたくさんある。取水口を通り抜けるのは業魔にとって難しいことじゃないよね」
「それくらいのことは、聖寮もわかっておろう。むしろ、誘い込んで一網打尽にすればよかろう」
「業魔の存在に気づきながら放置してる?でも、そんな理由なんて・・・」
「さぱらんのぉー」
皆が口々に推測を立てる中、水の流れを見ているケンはふと考えを巡らせる
(うーん、みんなの言うとうりわざわざ業魔を残しておく意味なんてないし、それをしないということは・・・根絶やしにするとかえって困る事がある?)
〜
その後地下道を進みやがて一つの梯子を見つける。これが離宮へと繋がるのだろう。梯子を上った先は広めの部屋になっておりそこには本棚が設置されている。
「図書室・・・?こんなところに出るなんて」
「わぁ・・・!」
ライフィセットが所狭しと並べられている本に目を輝かせ、それをベルベットが見ている。何を思っているのだろうか
「ほほう、さすがは王城の書庫じゃ。珍本が揃っておるのう」
マギルゥは一つの本に触れると棚が横に動く
「わあ!古代語の本」
そこには古い言語で記される書物が隙間なく並べられていた
「読めるのか?」
「ううん。でも、僕・・・」
ロクロウの問いにライフィセットが首を横に振る
「暗殺には必要ないものね」
ベルベットの冷たい言葉、実際いらないのだが。それを聞いたライフィセットが肩を落としてしまうが彼女が本棚に近づき無造作に本を一冊抜き取りライフィセットに渡す
「え・・・?」
「欲しいなら持っていけばいい、いい子ぶっても仕方ないわよ。業魔に協力してるんだから」
ベルベットはそういいながらそっぽを向く
「お前なぁ・・・もっと素直に優しくできないのか?」
「人を殺しに来てるのに?無茶言わないで」
部屋の外へと通じる扉に向かうベルベット
「そんなボロでいいのか?もっと高そうな本もあるぞ?」
マギルゥが勧めるがライフィセットはその本がよかったのだろう顔を横に振った
「ケン、行くぞ」
「ええ」
アイゼンが本を読んでいるケンに声をかける。ケンは本を戻しついて行く
(この土地についての資料があったから読んで見たけど、"開門の日"以降に業魔病が発生している。これ以前は発生していないなんてことはないんだろうけど・・・けど偶然にしては出来すぎている)
~
図書室から出ると廊下にでる今のところ人の気配はない
「さて、マギルゥ。礼拝堂はどっち?」
「さぁて、どっちじゃろ?」
「ちょっと」
「儂は、王城に入ったとは言ったが詳しいとは言っておらん」
ベルベットが青筋を浮かべる
「あたしは言ったわよ。邪魔をしたら捨ててくって」
「では、まずゴミ箱を探さんとのう」
「・・・あてにしたあたしがバカだった」
「・・・そうそう、肩の力を抜け。さすれば道はおのずと見えてくるものじゃ♪」
相も変わらずマギルゥの煽り方は冴えている。その後緊張しているライフィセットにマギルゥがまじないだか呪文だの教えたのまではよかったが何回も繰り返してうるさいのでアイゼンがマギルゥに拳骨を頭に叩き込まれた
~
やがて離宮の奥の部屋、ここが礼拝堂だろう広い場所に出る左右には椅子が並び中央奥には大きな祭壇が配置されている。その祭壇の前に男性が祈りを捧げている、あれが依頼の標的だろう
「あんたがギデオン?」
「祈りの途中だぞ。何者だ」
「先に聞いたのはこっちよ」
「無礼な。だが、業魔ならば当然か」
「!!」
「そこまでです!」
まるでここに来るのがわかっていたとばかりな言葉、ベルベットたちが驚いているとエレノアがギデオンの前に立ち聖隷と対魔士が左右を挟む
「マギルゥ占い、大当たりじゃ♪」
「待ち伏せか」
「これも死神の力か?それとも、あの婆さんに売られたかな?」
「調べたのね?“赤聖水”の元締めが
「そう。あなたたちが起こした事件の関連を洗って、ギデオン大司祭にいきつきました」
「知った上で守るの?」
「・・・処罰は聖寮が厳正に下します」
エレノアの言葉にギデオンが声を荒げる
「処罰だと!?私が、どれだけ聖寮に便宜を図ったかわかっているのか!」
そこまで聞いたマギルゥは戦えないので後ろに下がる
「ベルベットや、そやつを追い詰めてくれたら、いいことが起こるかもじゃぞー」
エレノアはベルベットの中にケンがいるのに気づく
「あ、あなたは!生きてたんですか!?」
「え?なんか自分死んだことにされてたんですか?」
「と、とにかく!覚悟してもらいます!」
エレノアの声を皮切りに対魔士と聖隷が一斉に駆け出し各々の武器を振るう。ベルベットは高く跳躍し対魔士達を飛び越えエレノアに向かって突っ込む
「どけ!後腐れなく片付けてあげる!」
「させません!聖寮の規律にかけて!」
刺突刃を出し横に一回転して振われる斬撃をエレノアは槍の柄で受け止める
「あなたは、嘘をついていたのですか!」
「・・・普通業魔の言うことを信じる?それにあんたも見たでしょ、あれだけ深手を負った人間があんな距離を跳べるワケないわよ。」
「!!」
そこまで話した両者はお互い離れ距離をとる
「あいつの相手はベルべットに任せておくか!」
「ケン、お前はライフィセットと一緒にいろ」
「はい」
ロクロウが一足先に小太刀を構えて聖隷と二等対魔士に向かう、アイゼンもケンに軽い打ち合わせをしてロクロウに続く
「紅火刃!!」
「ふっ!!」
ベルべットの刺突刃から炎が帯び、それがエレノアに迫るがそれを後方に下がることで躱す
「裂駆槍!」
エレノアがベルべットに向かって走り込み槍のリーチを最大まで生かしての刺突を繰り出す。ベルべットがそれを真横スレスレに躱し、お返しとばかりに後ろ回し蹴りを見舞うがそれもしゃがまれて躱される。今度はエレノアが槍を振り上げる
「くっ!」
ベルべットが槍の軌道を刺突刃の腹で滑らせて逸らす。金属がこすれ合う音が響く
「破っ!!」
ロクロウが掛け声と共に一対の小太刀で二等対魔士の剣撃を浴びせる対魔士の方は何とか防げているのがやっとだろう後方に下がりっぱなしだ
「こいつも歯ごたえがないな。ヴォーティガンにいた対魔士の方が『まだ』マシだな」
その言葉と同時に攻撃のペースも上がっていくロクロウ、対魔士もとうとう対応できなくなり武器が弾き飛ばされる。ロクロウは素早く対魔士の前で印を切る
「壱の型・香焔!」
「うわああっ!!」
対魔士の眼前で火の霊力が集約し爆発が起こる。その爆発に対魔士が大きく吹き飛ばされる。アイゼンはもう一人の対魔士をボコっていた。斬撃をスウェーバックで躱しては脇腹や顎、脚に拳と蹴りを叩き込んでいる
「ググ・・・ダァ!!」
「・・・」
対魔士も負けじと剣を振るうがダメージが蓄積していく体ではまともに当たることはなかった。拳が腹にめり込み大きく体がくの字になり両膝をついた時アイゼンが少し下がり聖隷術を発動させる
「蹂躙しろ!ウィンドランス!」
風の槍が対魔士の体に命中しこれもまた大きく吹き飛ばされた
「ハッ!!」
「タァッ!」
ケンとライフィセットは二体の聖隷を相手にしていた。だが近接に弱いライフィセットを守るように戦うため二体分の攻勢をケンが引き受けている。細剣の刺突と聖隷術を平手でのたたき落としと受け流し、払い避けでライフィセットに攻撃が行かないように守っている。その後ろでライフィセットが聖隷術を詠唱している
「ケン!ぼくが足を止めるからその隙に!」
「わかった!頼むよ!」
ライフィセットの合図でケンが後ろに転がり距離をとる
「重圧砕け!ジルクラッカー!」
聖隷に重力場がかかり動きが鈍る
「今だ!ふんっ!」
ケンが接近し片手で聖隷の腹を押し大きく突き飛ばす。聖隷はお互いの武器をかち合わせるベルベットとエレノアの近くまで後退させる。その時ベルべットが何かに気づき跳躍しアイゼンがいるところまで戻る
「ちっ・・・!」
ベルべットが舌打ちしたと同時に奥から増援であろう対魔士が駆けつける
「エレノア様!」
前方から対魔士が二人、そして後方からもう二人現れる。後方の対魔士が聖隷を繰り出す、ついでにマギルゥがその前を通る。邪魔である
「ちいっ、増援か」
ロクロウが毒づきアイゼンと一緒に後方から来た対魔士に接近するが聖隷の放った火球がロクロウとアイゼンの攻撃を阻む、二人はダメージこそないが後方へ吹き飛ばされる。ケンはライフィセットを念のため手を引いて自分の後ろに下がらせる
「飛び道具は向こうの方が上か」
「頭を潰せ!」
「わかってる!」
アイゼンの指示でベルベットは業魔手をだしエレノアに飛び掛かる
「くっ!」
エレノアが身構えると彼女の体から一つの光が現れる、その光の正体はビエンフーでエレノアの前で浮きベルべットを迎え撃つ
「エレノア様をいじめるなでフ~!」
と威勢を張ったのはいいもののサイズの差と純粋に力の差で業魔手の裏拳で殴り飛ばされる
「ビエ~~~・・・!?」
ビエンフーは吹き飛ばされながら何かキラキラしたものが尾を引きながらちょうどライフィセットの所に落ちてくる。ライフィセットがそれに気づき両手で頭を掴むように受け止める。ライフィセットとビエンフーの目と目が合う
「わぁ・・・」
ライフィセットが笑みを浮かべるなかその後ろでマギルゥが満遍な笑みと目を光らせながらぬっと現れる
「会いたかったぞ〜ビエンフー♪よくも
「マ、マ、マギルゥ姐さん〜!?」
マギルゥがビエンフーの頭、正確にはシルクハットの天辺を掴み上げ、ビエンフーが宙ぶらりんになる
「元鞘に戻ってもらうぞ」
マギルゥはそのまま詠唱に入る。その周り陣が現れる光り始める
「七つ目の
「ビエ〜ン!ソ〜〜〜バット!」
ビエンフーは悲痛な叫びを上げながら光となりマギルゥの中に入り込む。彼女の体から気の様なものが現れる
「ふっふっふ・・・みなぎってきた〜!」
ベルベットと戦っていたエレノアがマギルゥの力に気付く
「この力は・・・対魔士!?」
聖隷を無理矢理引き剥がした挙句に意図も簡単に契約を済ませるマギルゥの正体に驚くエレノア、それを聞いたマギルゥが不満な表情を浮かべ彼女に指を指す
「ちが〜う!?儂こそは
そこまで言うと後方の増援に向かって回りながら水球を放ち、全員まとめて吹き飛ばす
「あ、マギルゥ姐さんと覚えおけ〜〜い!!」
一歩進んで歌舞伎めいたポーズをとるマギルゥ。それをライフィセットとケンがなんともいえない表情をしながら呆然と見ていた
「人の身で業魔に味方するとは・・・恥を知りなさい!」
エレノアが歯嚙みをしながら叫ぶ。業魔と聖隷だけならまだしも人間が一緒に暗殺をしようなどと考える訳もない
「一つ貸しよ、マギルゥ」
「儂はロクロウと違ってすぐに忘れるぞ」
「じゃあ今すぐ返して」
「ご利用は計画的にじゃな〜」
ベルベットの言葉を屁理屈で返しながら術を詠唱するマギルゥ
「時間も惜しい、一気にいくぞ」
「応!!新たに編み出した奥義、試させてもらうぞ!」
アイゼンの提案にロクロウが答え小太刀を構え直し体勢を低くし、同じ二刀流の対魔士に突っ込む。対魔士が反応し応戦しようとするが時すでに遅くロクロウの剣閃で武器を弾かれる。それが決定的となる、ロクロウが大きく踏み込む
「瞬撃必倒!この距離なら!」
踏み込みからの左の小太刀の斬り上げで対魔士が打ち上がる
「外しはせん!」
右眼が赤く光り今度は右の小太刀で突き上げる
「零の型・破空!」
更に突き上げられた対魔士はそのまま吹き飛ばされ部屋の壁に激突し動かなくなる。それを見たもう一人の対魔士が怖気付いたのか数歩下がる、アイゼンはそれを見逃すことはなかった
「覚悟はいいか?」
アイゼンがコインを取り出し指で弾く。対魔士はそれにつられてアイゼンから視線を外してしまう。拳を握りこみ対魔士の眼前に一気に接近し打拳を叩き込む
「躱せるもんなら、躱してみな!」
デンプシーロールの様に身体を回しながら素早いフックで相手をたたき伏せる
「ウェイストレス・メイヘム!」
最後のアッパーが対魔士の腹にめり込み、高く舞い上がりやがて地面に叩きつけられる。先程の対魔士同様意識が途絶える
「ほれほれどんどんいくぞ〜!!もっといくぞ〜!アクアスプリット!」
マギルゥが次から次へと水球を繰り出しエレノアを追い詰める。エレノアはそれを槍で斬り払うものの徐々に追い込まれる
「くっ・・・うう!!」
「本命はこっちよ!どこ見てんの!」
「しまっ!?」
マギルゥの攻撃に集中しきっているエレノアの横でベルベットが回し蹴りを繰り出しエレノアを蹴り飛ばす。
「ああっ!!」
ベルベットから少し離れた所でマギルゥがにやけながらベルベットに声をかける
「これで借りは返したぞ〜ベルベットや」
「それでいいわよ、後は・・・」
ベルベットが後ろを見るとエレノアが使役している聖隷が細剣を構えてケンとライフィセットに向かって走っていた。
「やべぇ!」
「くそ!」
ロクロウとアイゼンが走るが到底間に合わない
「ダメ!術が間に合わないよ!」
「ライフィセット、僕の後ろに隠れて。一か八かでやってみる」
ケンがライフィセットの手を引いて後ろにつけさせる。ケンが両腕を広げ掌を開く
(上手くできるか・・・むしろこれが通じるかどうか!)
聖隷が眼前に迫る中ケンはその目の前で掌を打ち合わせる。乾いた音はほんの数瞬だったがそれが余りにも長く感じられる。聖隷の動きが止まり剣が二人の目の前で止まる
「ど・・・どうなったの・・・?」
ライフィセットがおずおずとケンの後ろから聖隷を見る。その時聖隷が剣を落とし周りを見始め動揺している。まるで今までなにをしていたのかすら覚えていないように。それをケンは見逃さず素早く聖隷の首に手刀を当て気絶させる
「大丈夫かケン」
「全くひやひやしたぜ」
アイゼンとロクロウが近くまで来てケンとライフィセットを見る
「ケン、何したの?」
「いや、これも学んだ技なんだけれどまさか成功するとは思わなくってね」
「また新しい技か、後いくつ隠してるんだ?」
「隠してるつもりはないんですけど・・・」
それを遠目で見ていたベルベットとマギルゥ
「・・・全く、見てるこっちが焦ったわ」
「ほほ〜あやつはやっぱり面白いやつじゃ」
「あいつが何したっていうの」
「簡単に言えばの・・・」
そこまで言いかけた時エレノアの震える声が聞こえた
「そ・・・そんな・・・聖隷の契約を打ち破るなんて」
ベルベットがエレノアを睨みつけ歩いて近づく。聖隷の戦力が削れてしまってはどうすることも出来ない。ベルベットが目の前まで近づき無言で腹パン (^U^)
「ぐえ・・・っ!」
エレノアは鈍い痛みに両膝をつき倒れる、槍の金属音がこだまする。ベルベット以外が集まるなか彼女は本命のギデオンに近づく。ギデオンは必死で弁解する
「ま、待ってくれ!全て聖寮のためにやったことなのだ」
ギデオンの言い訳をベルベットに言っても仕方のない事なのだが
「神殿建立の費用が要ると言われて、それで赤聖水を・・・」
無言のベルベット、ギデオンは後退りながらボロを出していく
「勝手に製造量を増やしたのは悪かった!だが、それもワシなりの救済のつもりだった」
理由はさておき元々聖寮を憎んでいるベルベットにとってはどうでもいいこと
「話し合おう。誰に頼まれた?被害者か?医者どもか?それとも--」
迷いなく刺突刃を出すベルベットにギデオンが尻餅をつく
「まさか・・・アルトリウスか?そうなのだな!くそ!私を消して闇に葬る気か!」
ギデオンが勝手に怒りに震えるなか黒い瘴気が彼を包む
「おのれ・・・!私がどれほど援助をしてやったと・・・」
「いかん!」
ギデオンの変化にアイゼンが警告した瞬間、彼から穢れが噴出する。それが収まりライフセットがベルベットに向かって走る。
「ベルベット!!」
穢れが噴出したギデオンはトカゲの業魔に変わり果てていた。汚いダイルといえばいいか
「救世主面の若造がぁぁ〜〜〜ッ!」
ギデオンがライフィセットに向かって飛びかかる。アイゼン達が走るが到底間に合わない。業魔と化したギデオンの爪がライフィセットに迫る
「くぅっ!!」
ベルベットがライフィセットを庇うように背中を向ける。爪がベルベットを切り裂こうとした瞬間、丸太のような腕がギデオンの首にラリアットをかます
「ゴワワァッ!?」
ギデオンは飛ばされ祭壇に叩きつけられる
「ケ、ケン!」
ライフィセットが叫ぶ、二人前にケンが険しい顔でギデオンを睨みつけていた
「費用がいるからヤクを売りさばいたと・・・しかもそれが救済?ふざけるんじゃない!」
ケンが決して大きくない声ではあるが響く声で怒りを露わにする
「依存性のヤクを生産してそれを人民にばら撒き中毒者を増やし、挙げ句の果てに薬欲しさに人を襲ってまでヤクを手に入れようとする者まで出て来ているんだぞ!あなた達はヤクが売れればそれでいいのか!?」
「ググ・・・」
ギデオンが首を抑えながらよろよろと立ち上がる
「宗教を商売道具に利用すればそこから腐敗が始まる。例えそれを嘘という白で塗り固めたとしても・・・貴方がそれでもわからないというのなら、僕が貴方を始末する」
ケンが拳を固め走り出す
「くそ!消されてたまるかっ!!」
ギデオンが無我夢中で跳び上がり奇跡的にケンのパンチが外れる、パンチは祭壇に当たりそれは粉々に吹き飛んだ、その隙にギデオンが奥へと逃げる。覆いかぶさっていたベルベットがライフィセットに言い聞かせる
「ぼさっとしない、死んだら本は読めないわよ」
「ご、ごめんなさい」
「追わんと逃げられるぞ」
「逃がさない。追って殺す」
ベルベットが立ち上がりギデオンを追うべく立ち上がり走り始める。ケンは祭壇の前で動かない。アイゼンがケンに声をかける
「大丈夫か」
「ええ、自分とした事が」
「お前の気持ちも分からんことはない、だが今はギデオンをヤるのが先だ」
「はい」
皆が奥の扉を開けようとした時、どこからか指を弾く音が聞こえた。全ての時が止まる
「落ち着いたか?君があれほど感情を露わにするのは珍しいな」
「いけなかったでしょうか」
「自分を見失わなかった、それで上出来だ」
ケンの後ろでルシフェルが携帯を弄りながら立っている
「急用の方は済んだんですか?」
「ああ、済んだには済んだけどちょくちょく戻る必要が出てきてね。それで、こいつらはどうする?」
ルシフェルの足元には気絶した聖隷が倒れている
「ここにいてもまた・・・どこか安全な場所に、お願いできませんか」
「あまりこういう事はしたくないんだが、まぁいい」
「ありがとうございます」
「なに、気にするな。それじゃ」
ルシフェルが指を鳴らし時が動き出す。ケンはベルベット達に追いつく為走り出した
〜
離宮の最深部、そこは地下へと続いていた。階段の踊り場に松明の灯りがぽつぽつと足元を照らす
「ギャアアア〜!!」
「今の悲鳴は!?」
ベルベット達の前方からおそらくギデオンのであろう悲鳴がこだました。最深部の部屋に辿り着くとそこには想像していなかった光景が広がっていた
「こいつは・・・なに!?」
ベルベット達の視線の先には鳥と獣が合わさった業魔がギデオンを捕食していた。業魔が喰らう内にギデオンは人間に戻っていく。後ろからは意識を取り戻したエレノアが信じられないとばかりに呟く
「業魔が・・・人に戻った・・・!?それに・・・この業魔は!」
ギデオンを喰らい終えた業魔はベルベット達に気付き翼を広げ飛ぼうとしたが障壁によって阻まれる
「結界が張られている」
「聖寮が、こいつを捕まえてるってことか!?」
「この結界・・・前にも」
ベルベットは以前自分が閉じ込められていた時の結界を思い出す
「なにはともあれ依頼は果たせたの。結果的にじゃが」
「・・・そうね。報告に戻るわよ」
マギルゥの言葉で気を取り直し皆一斉に元来た道を戻ろうとするがエレノアが槍を構えそれを阻む
「大司祭になにを・・・!?それに、この業魔は一体・・・??」
威勢を張るが戦う力もなく目の前の状況で一杯一杯だという事は目に見て明らかだ。ベルベットはそんなエレノアを冷たくあしらう
「知らないし、興味もない」
「ふざけるな!!」
それを見てベルベットがエレノアに向かって歩き出す
「ふざけてるのはそっちよ。対魔士の力なしで、あたしとやるつもり?」
ベルベットは自分の胸を矛先の寸前まで近づける
「う・・・」
気圧され、力なく槍を下げるエレノア、ベルベット達はそんなエレノアを横目で見ながらその場を後にする。皆が立ち去った後エレノアが膝をつき目から涙を滲ませる。
「一体なんなのだ!お前達はっ!」
第16話 終わり
如何でしたでしょうか。戦闘描写と物語の構成に悪戦苦闘ですが長い目で見てもらえると嬉しいです