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ワァーグ樹林でサレトーマの花とついでに虫を手に入れたベルベット一行はベンウィック達に花を届けるため足早にレニード港へと向かっている。道中、男連中が先の戦いで保護した甲虫について議論を交わしていたが、名前を決める時にロクロウがクワガタと言った直後にアイゼンはこれはカブトと言い張りかなりどうでもいいギスギス感になったこと。サレトーマの花がどんな物なのかなど話があった。花については要約するとクッソ不味いとのこと、もう少しで樹林を抜けようとしたところでベルベット達の先に巡回であろう二等対魔士が二人いた。見つからないように陰に隠れ様子を窺っていると彼らの話し声が聞こえた
「なあ・・・例の“手配聖隷”、こっちを襲うと思うか?」
「奴の狙いは“ロウライネ”だろう。だが、気を抜くなよ。陽動で“虫かご”を壊しにくる可能性はある」
「手配聖隷・・・狙いはロウライネ・・・?」
ベルベットは断片的に重要そうなワードを復唱する
「しかしヘラヴィーサを破壊した業魔といい、裏切り者のエレノアといい、問題ばかりだな」
「それに対処するのが我らの使命だ」
組んでいた腕を解きながらため息交じりに先に進み、もう一人も後についていった。対魔士達が行ったのを確認してベルベット達が出てくる
「・・・」
エレノアは先ほどの会話を聞き溜息を吐く
「聖寮がなにやら動いてるようだな」
「“虫かご”とはさっきの結界のことか?」
「じゃとしたら、儂らが襲ったことがバレるの」
「早めに立ち去るのが正解ね」
ベルベットの掛け声とともに皆は森を抜ける
~
樹林を出て、ノーグ湿原に入りいよいよレニードへは目と鼻の先というところで一行の目の前に一人の男が歩いてきた
「よう~!元気かい?」
まるで友人に久しぶりに会ったかのように手を上げるザビーダ
「ザビーダ!」
それとは正反対に血相を変えてザビーダに向かって走り出すアイゼンにザビーダは己の獲物を相手に向ける
「おっと、ケンカの相手はまた今度だ。デートに遅れるわけには行かないんでな」
「・・・“それ”はアイフリードの物だ。なぜてめぇが持ってる?」
「拾ったんだよ、どっかで」
立ち止まるアイゼンにザビーダはそれをちらつかせながらはぐらかす
「茶化すなケンカ屋。力づくでも話させる」
「はっ!副長さんよ、あんたは殴られたら口割んのか?」
「試されるのはてめぇだ」
「話したけりゃ話す。殴りたきゃ殴る。それを決められるのは、俺の意志だけだ」
それを言ったザビーダは己の蟀谷に銃口を当てる
「!?」
「なにを・・・!?」
エレノアが声を上げた時ザビータが自らの頭を撃ち抜く。その瞬間彼の体から霊力があふれ出す
「ちょいと“アゴヒゲ”のカワイコちゃんを待たせてんだよ。終わったら語り合おうぜ・・・拳でな!」
それを最後にザビーダは風となって消える
「待ちやがれ!」
アイゼンはザビーダを負うべく走り出す。ライフィセットが声を上げて止めようとする
「アイゼン!みんなにサレトーマを渡さないと」
「お前に任せる!」
「でも・・・」
アイゼンはそれだけ言うと単独で走っていった。ベルベットはため息をつく
「船へ急ぐわよ、ライフィセット」
「・・・う、うん」
~
アイゼンになし崩し的な頼まれたサレトーマの調達を果たすべくベンウィック達のいるレニード港へと入る
「サレトーマの花、採ってきたわよ」
ベルベットはサレトーマの花をベンウィックに渡す
「助かったよー!・・・って、副長は?」
「ケンカ屋の聖隷を追いかけてピュ~っと消えよった」
マギルゥの話にベンウィックが声を荒げる
「その聖隷ってザビーダって奴だろ!なんで一緒に行かなかったんだ!?」
「壊賊病のあなたたちを放っておけと?」
「そうだよ!副長が危ねぇんだ!」
「聖隷がザビーダを狙ってるから?」
「知ってんじゃねーか!こっちも聖寮に出入りしてる商人から聞き出したんだ。ロウライネで、メルキオルって対魔士が大掛かりな罠を張ってるって。そんなとこに飛び込んだら、副長もただじゃ済まない!」
「メルキオルが動いてる・・・」
つぶやくベルベットの隣でエレノアが疑問を口に出さないが己の中で思考する
(なぜメルキオル様が直接指揮でザビーダを・・・?いえ、それより――)
そこまで考えながらライフィセットの方へと顔を向ける
(この子をメルキオル様に回収してもらえば聖寮に戻れる)
「相手は特等対魔士よ。罠じゃなくても強敵よ」
「クソッ、お前ら全然あてになんねぇ!もういい、俺たちが助けに行く!!」
ベンウィックの発言にエレノアが制する
「あなたたちが行ったところで、かないっこありませんよ」
「あんたは自分が危なかったら、仲間を見殺しにすんのか?」
「え・・・!?」
ベンウィックの言葉に詰まるエレノア
「仲間を助けたいから行く。負けるとわかってたって戦う!やるかどうかを決めるのは自分だ!それが、俺たちの“流儀”なんだよ!」
「・・・」
何も言えなくなるエレノアを横目でベルベットはため息をつきながらフォローする
「・・・短気な連中ね。誰も行かないなんて言ってない」
「へ・・・?」
「副長と船長がいつ戻ってきてもいいように、さっさと薬を飲んで、船の準備をしておいてよ」
「船長が!?」
豆鉄砲をくらった鳩のような顔をしながら驚くベンウィック。ベルベットが続ける
「アイゼンが、罠に飛び込む理由なんてアイフリードしかないでしょ」
「はは・・・!わかった!こっちは任せてくれ!」
先ほども悶着が嘘のように過ぎ去りベンウィックは出航の準備をする為船に向かう
「ほら、あんたも」
ベルベットは懐からサレトーマの花を取り出し、エレノアに渡す
「まったく海賊は理不尽ですね」
「理屈じゃなく守りたいものがあるのよ」
「・・・理解に苦しみます」
花を受け取っても中々手に付けようとしないエレノアにベルベットは指で腕を突きながら待っている。エレノアは観念して花を絞って花汁を絞りだし、飲み込む。
「ごええっ!!」
次の瞬間、苦悶の表情を浮かべエレノアが倒れこんだ。因みにその後ろでロクロウは笑っていた
~
しばらくしてエレノアが持ち直したところでロクロウがこれからの事について話す
「さて、肝心のアイゼンの行き先だが」
「樹林で対魔士が言ってた“ロウライネ”ってなんなの?」
「ウエストガンド領の北方にある対魔士の訓練を行う塔です」
「ベンウィックの情報とも整合する。そこね」
「きっと対魔士がたくさんいる。アイゼン・・・」
アイゼンの安否を心配するライフィセットをロクロウが声をかける
「そんじょそこらの対魔士にやられるような奴じゃないさ」
「死神を相手にする方も気の毒じゃて」
マギルゥも付け加える。確かに気の毒だが
「うん。追いかけて合流だね。そうだ、ねぇベルベット、サレトーマの花、まだある?」
「ん?あるけど、どうしたの?」
何かを思い出したようにライフィセットがベルベットに尋ねる
「その花一輪、僕にくれないかな」
「別にいいけど、どうするのよ。花はエレノアが飲んだじゃない」
「ううん、ケンのために持っておくんだ」
「ケンのためって・・・あんたねぇ・・・」
ベルベットはため息をつく。がライフィセットが口を開く
「僕はケンが生きてるって信じてる。例えみんながケンはもう死んだって言ってもね、それに・・・」
「それに・・・なんだ?」
ロクロウが首をかしげる
「なんかわからないけど、もうすぐ会えるような気がするんだ」
「もうすぐの~・・・あんまり当てになりそうもないが。儂としては10ガルド返ってくればそれでいいんじゃが・・・」
「約束、忘れるなよ?」
「うぐ!わかっとるわい!」
ロクロウと賭けをしているマギルゥ、フラグである
~
その後ベルベット達はアイゼンを追うべくもう一度ノーグ湿原を抜け、ブルナーク台地に向かった。道中マギルゥがベルベットを味がわからないことについて煽ったためお礼にサレトーマの花をねじ込まれたのはまた別の話。ロウライネの近くにやってきたベルベット達は塔近くに設営された聖寮の野営地にアイゼンとその周りに倒れている対魔士達を見つけ、走っていく
「アイゼン!」
「船の連中にサレトーマは飲ませたか?」
「うん!」
「そうか。例を言う」
アイゼンがライフィセットに確認をとっている間にロクロウが倒れている対魔士の傍で片膝を着き、様態を見る
「この兵士は、おまえがやったのか?死んではいないようだが」
「俺が来た時にはこうなってた。ザビーダの野郎だろう」
「一人も殺さない流儀・・・か」
「聖寮は、よほどザビーダを捕まえたいらしいな」
「だが、あいつも罠だとわかっている。わからんのは、俺を巻き込んだ理由だ。手を組む気がないなら、アイフリードの存在をほのめかす必要はない」
「罠と知ってて、なぜ行くのですか?」
エレノアがアイゼンに聞く、アイゼンは振り向きざまに返す
「確かめるためだ。アイフリードは、死神の呪いを解く方法を見つけようと躍起になっていた俺に言った。『無駄なことはやめろ。呪いの力をもって生まれたなら、呪いごとお前だろう。自分の意志で舵を切れば、死神だって立派な生きる流儀になるはずだ』・・・ってな。だから、俺はバンエルティアに乗った」
「生きる流儀・・・」
「例え、アイフリードが殺されたとしても、それがあいつの意志の――流儀の果てならそれでいい」
「・・・」
アイゼンが己の生き方とアイフリードの事を話すその近く、正確には天幕の陰でザビーダが聞き耳、というか盗み聞きをしている
「だが、あいつの流儀を踏みにじったとしたら、誰だろうが絶対に許さん」
アイゼン達の横から物音にベルベットが感づく
「誰だ!?」
先ほどから盗み聞きしていたザビーダが天幕の陰から歩いてくる。アイゼンが盗み聞きしていた事に不満を口にする
「立ち聞きとは行儀が悪いな」
「内緒話なら、お
「ザビーダ、アイゼン。一緒に行くことはできないの?」
「「ケジメをつけなきゃ、手は組めん/ねぇ」」
ライフィセットがなんとか協力できないかというお願いをアイゼンとザビータは二人揃ってきっぱり断る
「ちっ・・・」
「ま、そういうこった」
舌打ちするアイゼンを余所にザビーダが塔の方へ向かって歩いていく
「わざわざ出てこんでもいいのに、訳のわからん奴じゃのー」
「まったくね」
~
ベルベット達は道中警戒しながら目的のロウライネの目の前にたどり着く。エレノアの話ではこの塔は元々古代文明の遺跡で聖寮が管理すると同時に対魔士の適正試験と共に聖隷術の訓練並びに聖隷の付与を行う施設となっている。因みに等級は適正試験の時に決定される。霊力の強弱で一等二等と決められ霊力は基本成長することはなく一度二等と決められたらそこから動くことはない
「警備もおらぬとは罠丸出しじゃな」
「こっちが罠を警戒するのは織り込み済みなんでしょ。その上でどんな手を打ってくるか・・・」
ベルベット達は塔の中へ入る。ロウライネの内部一階は水路があり水は青く淡く光り。仄かに当たりを照らしている。一行はそんなことは眼中になくアイフリードを探すため手早く階段を見つけ、上階に上がる。階段を上った所で光が差し込んだ場所を見つける、どうやら塔の中央は中抜きになっているようだ。その真ん中に誰かが磔にされている
「誰か縛られている?」
「もしかしたらアイフリードかもしれん。行くぞ」
ベルベットが人の姿を確認しアイゼンが確かめるべく一行は広場にでる。そこで磔にされている男は赤紫色のロングコートと海賊帽を着用している
「アイフリード・・・」
「あれが海賊アイフリード・・・」
アイゼンが言ったことでこの人物がアイフリードであることは確実のようだ。アイゼンが近づいてくるのに気付いたのかアイフリードが頭を上げる
「アイゼン・・・久しぶりだな・・・」
「・・・生きてたんなら、手紙くらいよこせ」
「くく・・・お前、男に手紙出したことあるのかよ?」
「ふっ・・・弟以外には一度もねぇな」
「弟・・・ああ、そうだったな・・・」
アイフリードが答えた瞬間アイゼンの左拳が彼の腹にめり込む (^U^)
「・・・なぜだ・・・アイゼン・・・?」
「俺に弟はいねぇんだよ」
アイゼンの拳が離れた瞬間アイフリードの体は透けて消えていった。その後方でベルベット達は驚く、もっとも別の意味でだが。アイゼンが後ろに顔を向ける
「下手な幻覚は――・・・!!!」
アイゼンが攻撃しようとした手が止まりその顔が驚愕へと変わる。そこにいたのは少女だった、さしていた傘を畳むとアイゼンと同じ髪色、白と黄色のワンピース・・・肩紐は片っぽずれているが・・・傘を畳んで伏せていた顔をアイゼンに見せようとした瞬間。その横顔を緑色の弾丸が当たり、少女が跳ね飛ぶ。アイゼンが驚くなかその少女の姿は先ほどのアイフリードと同じく消えるが、今度は対魔士が使役する聖隷の姿に変わる
「うぅ・・・」
弾丸が飛んできた方向にはザビーダが窓から身を乗り出し銃を構えていた
「囮役、助かったぜ!副長!」
ザビーダが窓から飛び降り床に着地する
「ザビーダ」
「出てきやがれ、ジジイ!」
ザビーダが声を荒げる先にメルキオルが現れる
「メルキオル様・・・」
エレノアが声を上げる最中倒れた聖隷を回収するメルキオル
「儂の二重幻術を破るとはな」
「二度も同じ手食うほどマヌケじゃねえんだよ」
「・・・以前逃がしたのは失策だった。今回はそうはいかんぞ」
メルキオルはその言葉を皮切りに自らの体から三体の聖隷を出す、ベルベット達が各々の武器を手に構える。メルキオルの出した聖隷のそのうちの一体は先ほどザビーダが撃ち抜いた聖隷だろう、様子がおかしい
「ううっ・・・私は、なぜここに・・・?」
「意思が戻った・・・“あれ”の力か」
メルキオルがザビーダの持っている遺物を見るが直ぐに視線を外し手を打ち合わせ、その間から黒い塊を作り出しそれを意思が戻った聖隷に打ち込む。撃ち込まれた聖隷から蝕まれるように黒い何かにがあふれ出す
「うわあああっ!!」
聖隷の悲痛な叫び声も空しく聖隷の体が黒一色になり次の瞬間、ドラゴンに変り果てる
「聖隷を業魔に!」
「まさかそんな!」
ベルベットとエレノアが驚きの声を上げる中残りの二体の聖隷も先ほどと同じく黒い何かに蝕まれていく
「ぐあっ・・・!」
「ううっ・・・!」
その後ろでメルキオルは眉一つ動かすことなく消え、残った二体もドラゴンに変わる。三体の業魔となった聖隷達はベルベットの上空を飛び回る。メルキオルは広場の出入り口に姿を現す
「死神の力が連鎖させたか・・・大した負の影響力だ」
その言葉を最後に広場から出ていく
「逃がすかよ!!」
ザビーダはメルキオルを逃がすまいと追いかける
「ワイバーンが来るぞよ!」
マギルゥの声に呼応しベルベット達は武器を構えなおし対峙する。ワイバーン達は一斉に向かってくる
「対魔士が業魔を生み出すなんて・・・」
「相手はドラゴンだぞ!悩むのは後にしろ!後手に回ったら潰される!」
動揺するエレノアの横をロクロウが小太刀を構え走り抜ける
「今はこいつらを始末しないと!」
「そういうことじゃ。このまま美味しく頂かれるわけにはいかん!」
「ここで立ち止まってちゃいけない!」
ベルベットもロクロウに続いて走り出す後ろにマギルゥとライフィセットが聖隷術を唱え始める
「対魔士なら業魔を倒すのが使命だろ。こいつらはもう聖隷じゃない!覚悟を決めろ!」
アイゼンがワイバーンの噛みつきを避けたと同時に横顔に拳を叩き込む
「ッ・・・!!」
エレノアは意を決し槍を構えて術を唱え槍を前に突き出し氷の針を繰り出す
「描け蒼穹、霊槍・氷刃!」
~
ベルベット達とザビーダが塔の内部でやりあっている中、その一角で電流が流れ始める。その流れは大きくなりあたり一面を閃光が包み込む。やがてそれも収まり電流が収まったと同時にその中心にケンの姿があった
「ここは・・・どこなんだろう。元の世界に帰ってこれたことは間違いないんだけど」
ケンは辺りを見回し状況を確認する。部屋一面石畳と壁、、というか四方八方壁に囲まれている。暗くないのは部屋の両脇に流れる水路の水が光っているからである。周りの壁や床を触れながら出口を探していると左目に画面が現れる
「そうだ、早速こいつの機能を試してみるか」
左目から長い文字列が流れ始めそれが数秒で終わり直ぐに分析が始まる。ケンはそれが終わる間部屋全体を見回す
「ん・・・?なんだあれ?」
部屋の真ん中に古く痛んでは豪華な装飾がされた大きな箱が置いてあった。ケンは警戒しながら近づいていくと眼もその箱をロックして分析に入る、が箱の素材は金属でできていることは分かったが肝心の中身はX線とγ線の透視もできず、結局UNKNOWNとしか表示されなかった。ケンはこの箱の前でどうするか思案している
「どうしよう。箱についても気になるけどまずはベルベットさん達と合流しないと、あの人たちは近くに送ると言っていたからこの建物内にいるはず・・・これが隠し扉かでも天井に?」
眼の分析が終わり箱の反対側の天井に空間があることがわかり一安心する。だが問題がまだある
「だけど壊すわけにもいかない。一見古い物みたいだし崩れるかもしれないし・・・となると、仕掛けで開くのかな?」
一通り壁を触り反対側にある箱に目をやる、その瞬間上から衝撃と衝突音が響く。目がマーカーを表示する小さい物が6つと大きい物が3つ、かなり激しく動いている。更に解析したのか丸いマーカーが人とドラゴンの形に変わる、その形に見覚えがある、ベルベット達だ
「居た!よかった、無事だったんだ。こうしてはいられない」
ケンはベルベット達の元へ急ぐため箱に手をかける
「・・・ええい!一か八か!」
両目を閉じて意を決したケンが蓋を押し開ける。が、なにも何も起こらない。恐る恐る目を開けると目の前に淡く光る小さな光の塊があった
「な、なんだ・・・これ」
ケンはその光の塊を両手で静かに添えて抱え上げるが程なくして光が霧散して消えてなくなる。同じタイミングで後ろの天井が開くと同時に壁が階段状に分かれ出口が現れる、ケンは自分の手を見る
「一体あれは何だったんだろうか、あれ」
そこまで喋りながらも頭を切り替え空間へ出る。ケンが出るとまるで見計らったと同時に床が閉じ出口を塞いだ。この出来事に疑問符を浮かべるが前方に気配を感じ直ぐに警戒する。そこには聖主の御座で相対したメルキオルが走ってきた
「あなたは!」
「ぬっ・・・貴様、生きていたのか。あれだけやられながらも死なぬとは、誤算だったか」
「待ちやがれ!クソジジイ!!」
メルキオルの後ろからザビーダが走って追い付くとケンの存在に気づく
「お、おめぇは!」
「ザビーダさんまで」
ケンとサビーダに挟まれる形になったメルキオル、お互い十メートル間隔で動けなくなる
「グッドタイミングだぜ。俺はそのじいさんに用があるんだが聞く耳持たなくてな。ちと乱暴だが無理やりとっ捕まえて話をしようと思ってんだ」
ザビーダはペンデュラムを構えて臨戦態勢だ。ケンはザビーダの思惑は依然聞いていたので答えずとも目で合図する
「一匹狼だったと思っていたが他人に協力を求めるとは」
「そいつは別だぜジジイ。あいつと俺の流儀はある程度一致しているからな、それにマジな命のやり取りだったら俺は此処にはいねぇ。準備はいいか!?兄ちゃん!」
「はい、いつでも」
ケンも両手を上げザビーダと前後から近づく、メルキオルはその場から動かず抵抗する素振りを見せない
「ふん。殺るなら好きにするがいい、それで貴様の気が済むのならな。だが儂を殺せばアイフリードの居場所は永遠にわからんぞ」
ケンが目の前まで行き後ろでに両手を捻り上げる。ザビーダがペンデュラムを操りながら近づく
「あぁそうだろうな、だが殺りはしねぇ。俺はケンカ屋だ、方法は他にもある」
ケンと変わりメルキオルを縛るザビーダ、銃口を後頭部に当てながら階段の方へ向かう
「あんがとよ兄ちゃん。おめぇのお仲間ならこの上だ、来るか?」
「ええ」
ザビーダと並んで歩きだし階段を上り始める
「ふふふ・・・」
その様子にメルキオルは不敵な笑みを浮かべた
~
それから少しして元の広場に戻ってきた三人は目の前の状況を見る。そこにはベルベット達が三体のワイバーンを片付けた所だ
(よかった、みんないる。あれ?エレノアさん一緒なんだ)
「策士策に溺れるってやつだな、ジジイ。これでテメェもしまいだ」
ケンはワイバーンの方を見る。あれも聖隷が穢れを取り込んだの成れの果てと思うと心が痛んだ。その横でメルキオルが不敵な笑みを浮かべる
「溺れたのはどっちかな」
「なに?」
ワイバーン三体の内一体が首を上げてまだ戦おうとするがアイゼンとベルベットがすぐに動き出すアイゼンが顔面を殴りつけベルベットが業魔手で喰らおうと振りかざす。殴られたワイバーンの目とケンの目が合う。ケンには第6感というものはないがワイバーンの目には僅かに穢れに抗おうとしているようにも見えた
「まだ・・・間に合うかもしれない」
小さく呟いた横でザビーダがメルキオルからペンデュラムを離し跳躍、ベルベットに向かって振りかぶる。ペンデュラムがベルベットの手を弾く
「貴様は行かなくてよいのか」
「・・・!!」
自由になったメルキオルが余裕の表情でケンを見据える。ケンはメルキオルを代わりに捕まえておこうとするが業魔となった聖隷をなんとかできるかもしれないという事態に板挟みになり何度もベルベット達とメルキオルを見返す。
「あんたどういうつもりよ!」
「黙れ!」
ベルベットは業魔手を横なぎに振り払うがザビーダは屈んで躱す、次に刺突刃で切り上げて断ち切ろうと振り上げるも半身になって避けるザビーダ、お返しにがら空きの左に蹴りを放つ、ベルベットは業魔手で防ぐがバランスを崩したところでペンデュラムを繰り出しベルベットの足を払い、倒れこんだ所にペンデュラム跳ね上げて吹き飛ばす。空いた右手で銃口をワイバーン達に向け発砲する。撃ち込まれたワイバーンは持ち直したのか翼を広げ飛び立とうと舞い上がる
「レジェンドワイバーンを助けた?」
ライフィセットがベルベットを助け起こす横でエレノアはザビーダの行動に戸惑う中ザビーダが怒りを露にする
「あっさり殺そうとしやがって!それが、てめぇらの流儀かよ!!!」
「素晴らしい。“ジークフリート”――まさに求めていた力だ」
メルキオルがザビーダの後ろから姿を現し手を打ち合わせる。先ほどとは違い緑色の光の線がジークフリートに隅々まで照射される
「なに!?」
ザビーダが気付き後ろを振り返るが瞬時に姿を消し広場の入り口に現れる
「目的は達した」
メルキオルはそれを最後に立ち去る
「何をしやがった!!待ちやがれ!!」
ザビーダがメルキオルを追って走り出す。アイゼンがザビーダ達を追うべく声を上げる
「奴らを追うぞ!」
ベルベット達も走り出す
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ベルベット達が地上へ階段を下りているころケンは一人塔の階段を上っていた。ケンの横で三体のワイバーンが塔から出るべく高度を上げる
「くっ!急がなければ!!ベルベットさん達に合うのももう少し先か!」
ケンは足を速め、塔の頂上に着く。僅かに息を切らし中央の穴を見るそこから三体のワイバーンが飛び立とうとしていた。ケンは僅かに悩み、意を決して走り出す
「手荒のことしてしまうが許してください!」
思い切り飛び上がり両腕で横からワイバーン達の首根っこを捕まえて塔の外側まで飛び越える。ワイバーン達の叫び声が響いたがそれも徐々に薄れていき最後には風の音だけが残った
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第22話 終わり
投稿が遅れ気味で大変申し訳ございません。これからはできるだけ早く投稿できるように頑張ります