テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜 【完結】   作:スルタン

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この度今年一杯で今の職場を退職します。そのせいで投稿が遅れました、できれば今年中にこれともう一話投稿できればと思います


第23話

 

「ちっ、ジジイのくせに逃げ足が速ぇ・・・」

 

一足先に追いかけたザビーダが外で悪態をつく後ろで後から追ってきたベルベット達が追い付く

 

「無事だったんだね。ザビーダ・・・」

「俺はな。だが――」

 

ライフィセットが走り寄る中ザビーダがジークフリートを見つめる

 

「あいつ“それ”にこだわってたみたいね。特等対魔士が本気を出せば、奪うことだってできたはずだけど」

 

ベルベットが疑問を呈するとマギルゥが口を開く

 

「奪う必要はない。それに秘められた術式さえ読み解ければの」

 

マギルゥに皆の視線が集中する、そのまま彼女は続ける

 

「瞬きするほどの間に、術の仕組みを読み取る術がある。あやつの得意技じゃ」

 

そこまで言うと手を後ろ手に組む。エレノアは何かに気づいたようだ

 

「退く時に目的は達したと言っていました」

「用途はようと知れぬが、別大陸よりもたらされた未知の技術を、聖寮は必要としておるのじゃろう」

 

一杯食わされたザビーダが舌打ちをし、声を荒げる

 

「ちっ!だったら、その用途とやらをぶっ潰すまでだ!」

「一つだけ聞かせろ。なぜ、ジークフリートを持ってる?」

 

そのザビーダにアイゼンが近づき以前から聞きたかった質問をするとザビーダが先ほどの激昂から打って変わって静かに話し出す

 

「・・・『頼む』って渡されたんだよ。対魔士部隊に使役されてアイフリード捕獲作戦に駆り出された時にな」

「ザビーダも、使役聖隷だったの?」

「ああ。カノヌシの領域で無理矢理意思を抑えつけられてた。だが、アイフリードが撃ったこの一撃で目が覚めたんだ。そっからのアイフリードとのケンカは最高だった」

 

ライフィセットはザビーダが自分と同じ境遇であったことに少し驚く中。ジークフリート取り出す。その表情は楽しそうだ

 

「あいつ、人間のクセにやたら強くてよ・・・魂が震えたぜ」

 

アイゼンもいつもの固い表情はなくどことなく笑顔だ

 

「なのに、ジジイが幻術で割り込んで、アイフリードをさらっていきやがった。気にいらねぇんだよ!人の意志に小細工しやがって」

 

メルキオルの乱入に怒りを露にするザビーダの後ろで今まで聞いていたロクロウが質問する

 

「なぜジークフリートではなく、アイフリードを連れ去ったんだ?」

「探してるお宝がジークフリート(これ)だと知らなかったんだろうよ。その時はな、狙いに気づいたアイフリードは、連れ去られる直前、ジジイの目を盗んで俺に寄越したんだ」

「・・・」

「これが俺の知ってる全部だ。信じようが信じまいが勝手だがな」

「なら、いい」

「は?いいってお前」

 

アイゼンのあっさりな対応に唖然とするザビーダに背中を向け数歩歩き立ち止まる

 

「アイフリードは、信じた相手にしか『頼む』と言わん」

「・・・そうかよ」

「お前、これからどうするつもりだ?」

「捜すさ、アイフリードを。こいつを返して、あの時のケリをつける」

「けど、残された時間はあまりなさそうね」

「察するに、メルキオルは、さっきまでジークフリートの正体を知らなんだ。それはすなわち、アイフリードから何も聞き出せなかったことの証じゃ」

 

ベルベットが腕組みしながら思案する横でマギルゥも同じように腕を組む

 

「その必要が無くなった今、アイフリードを生かしておく必要は・・・ない」

「・・・」

「わかってんだよ、んなこたぁ!」

「アイフリードを救うというのなら、共に戦えばいいじゃありませんか」

 

エレノアが共闘を持ち掛けるも、ザビーダはそれを拒否する

 

「・・・てめぇらとは手は組めねぇな」

「どうして?」

「てめぇらは、目的のためなら“殺せる”」

「!!」

「生憎、俺はケンカ屋でな。殺し屋じゃねぇんだよ、どんな命も奪わねぇ。そいつが俺の“流儀”さ」

 

主義主張が相反するものが一緒にいてもいずれ反発し合い。誤解するだけ、それをわかってザビーダは拒否する。そこにアイゼンが口を挟む

 

「・・・俺も、海賊の流儀を変える気はない」

「・・・そうかい・・・まぁ、あんたらのお仲間が頼んでくれたらちったぁ考えたんだがな」

「お仲間?」

 

ザビーダのこぼした言葉にライフィセットが反応する

 

「ん?なんだよ。てっきり別行動をとってたと思ってたぜ。ガタイのいい兄ちゃんとロウライネの中でばったりな」

 

ケンと会ったことに皆が驚く、ライフィセットが駆け寄り詳しく聞いてくる

 

「お願いザビーダ!ケンはどこに行ったの!?」

「あぁ、逃げてきたジジイをしょっ引いてくるときに手を貸してもらったのさ。入口の所でよ。んで、一緒にお前たちの所まで来たんだが・・・」

 

ザビーダはそこまで話すとベルベットに顔を向ける

 

「あたしが喰らおうとしてそれを止めにメルキオルから手を離した・・・ってわけね」

「だがそれじゃメルキオルが逃げれるとは限らん、お前が止めに入ったとしても代わりにケンが見ているはずだからな」

 

ロクロウが顎に手をやり考える。アイゼンがロウライネの塔を見ながらぼやく

 

「もしかすれば、まだ中にいるのかもしれん。だが、塔の中ですれ違ったとは考えにくい。あいつの性格を考えるとしたら・・・」

「まさか、ワイバーンを追いかけていったと言うんですか!?」

 

エレノアが驚きの声を上げる。塔の入り口を見ていたアイゼンが一瞬ベルベットと目を合わせすぐさま顔を上げて塔を見上げる

 

「あいつがワイバーンに気にもかけなければそのまま俺達と合流してここにいるはずだ。だが、それを声もかけずに行ってしまうのなら、あいつなりに思い立った事があるんだろう」

「ともかく、ケンが生きていた事はわかった。それでどうする?追いかけるか」

 

ロクロウがアイゼンと同じように塔を見上げるなか、マギルゥが気怠そうに独り言ちる

 

「うえぇ~また上るのかえ?もう儂はくたくたじゃしここで待っててええかの~・・・」

「そう固いこと言うなよマギルゥ。だが約束の10ガルド忘れるなよ」

「ひ~ん、大赤字じゃ~・・・」

 

ロクロウとの賭けに負け泣いているマギルゥを他所にベルベット達が塔へ入ろうとした時ライフィセットがふと立ち止まり疑問に思ったベルベットが声を掛ける

 

「どうしたのライフィセット?」

「・・・なんか声が聞こえない?上の方から・・・」

 

ライフィセットの言葉に従い全員が上を向くと塔の壁を縫うように黒い点が落ちてくる。だがその黒い点は徐々に大きくなり輪郭が露になるとそれは吠えながらなんとか逃げようともがくワイバーン3体を首根っこを両腕で万力のように掴んで離さないケンの姿だった

 

「うおお!?ケンの奴、意外に大胆だな!」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!まったく何考えてんのよあのバカ!」

「どど、どうしよう!?」

「このままじゃ地面に激突して・・・!」

「そしたら赤い花が咲くの~ピンク色のコントラストの」

「・・・それ言っている場合か・・・?」

 

約二人を除いて慌てふためいている中ザビーダが飛び出し聖隷術で突風を巻き起こす

 

「たくよぉ!これで貸し一つだぜ!!」

「ありがとうございます!」

 

ザビーダの突風で落下速度が落ち始めケンも体勢を整え荒く着地する。ケンは片膝を着きワイバーンを抑えながらベルベット達と顔を合わせ報告する

 

「すいません。ただいま戻りました」

「あんたねぇ・・・すいませんじゃないでしょ!あんな真似して死んだらどうするのよ!」

「す、すいません・・・これしか考える時間がなくて・・・」

 

ベルベットに怒鳴られ萎縮しているケンにロクロウが彼が抑えているワイバーンを見る

 

「こいつらをどうするんだ。わざわざ捕まえて止めを刺すわけでもないだろう」

「はい、自分に考えがありまして一緒に・・・」

「考えってなんだよ兄ちゃん?」

 

ザビーダがベルベット達の後ろから話しかける

 

「自分の持つ技を使えばもしかしたらこの人達を元に戻せるかもしれません」

「ドラゴンになった聖隷を、ですか!?」

 

エレノアが前に出てケンに掴まれているワイバーンを見る

 

「でも一度ドラゴンになってしまった聖隷はもう元には戻れないって・・・」

「そうだ。ケン、俺もドラゴンになった奴が元通りになった、なんてのは聞いたことも見たことがない。見捨てられないのは分かるがな」

 

ライフィセットが悲しそうな顔を浮かべ、アイゼンは表情を変えることはないがケンに諦めるように諭すように話す

 

「はい、わかっています。ですが何もしないまま逃がすことも、命を奪うこともしたくないのです。止めを刺すなら手を尽くした後、自分の手で始末します」

「・・・」

 

ケンの目を見ながら暫く黙っていたアイゼンは観念したのか後ろを向く

 

「・・・わかった。そこまで言うならやってみろ」

「ありがとうございます」

「兄ちゃん・・・おめぇホントにできんのか?元に戻すことがよ」

「最善を尽くします、ですがその前にこの人たちに手荒なことをしてしまうことを許してください」

「・・・・・・あぁ、いいぜ・・・」

 

ザビーダの了解を得てケンは両腕に力をこめワイバーンの首を締めあげる。ワイバーンから絞り上げるような声が一瞬響いて気を失う。ケンは優しく頭を地面に置き数歩離れる

 

「ベルベットさん、実はあなたの力をお借りしたいのです」

「あたしを?」

「自分が今から使う技でこの人たちから穢れを引き離します。その穢れをあなたの手で」

「穢れを・・・引き離す?」

 

ケンは右手を腰の所で構え光線の準備をする

 

「自分の使うこの技ではあくまで引き離すのが精一杯なのです。ベルベットさんにはその取り除いた穢れの始末をお願いしたいのです」

「・・・わかったわ。穢れの方は任せなさい」

 

了解を得たケンが右手に集中させたエネルギーをワイバーンに向かって放つ。コスモスの技の一つ、ルナエキストラクトがワイバーンに当たり体から光を放ち始める

 

「うわぁ・・・」

「これは初めて見る技だな」

 

ライフィセットの横でロクロウは感心したように腰に手をやって様子を見ている。数秒ほどしてケンが突き出した右手を今度は逆方向に引っ張り始め、光の中からドス黒い塊が徐々に引っ張り出されていく

 

「あれがメルキオルが打ち込んだ穢れか」

「凄い・・・」

「マグロの一本釣りならぬ穢れの一本釣りとはあやつもやりおるの〜」

「ベルベットさん、もうすぐです。用意を」

「わかったわ」

 

お互いに合図を交わしケンが一気に引っ張り上げワイバーンから穢れを引き離す。

 

「はぁ!!」

 

ベルベットが素早く業魔手で穢れを掴み上げ呑み込む。するとワイバーンは形を失い徐々に元の聖隷の姿に戻っていった。

 

「本当に戻った!!」

「ライフィセット、お願いできるかな?」

「うん!」

 

ケンがライフィセットに合図しすぐ様倒れた聖隷に駆け寄り聖隷術を発動する

 

「ケン」

 

声を掛けられた彼がみんなの方を向くとロクロウがケンの胸に拳を当てる

 

「よく戻ったな」

「・・・ええ、すいません。心配をおかけしまして」

「構わんさ。なっアイゼン」

「ああ」

 

アイゼンもケンの肩をすれ違い様に二回叩き倒れている聖隷の方へ向かう。そこへマギルゥがケンの足を小突く

 

「こりゃーケン!なんで生きとったんじゃー!」

「?、自分が生きてたらまずかったですか?」

「そーじゃ、御座から逃げて来た時にベルベットにロクロウと10ガルド賭けをしたのじゃ。だがあやつは生きとってロクロウに10ガルド巻き上げられた挙句お主まで帰ってきたお陰でさーらーに10ガルドじゃぞ!?全部で20ガルドじゃ!この代償、諸々ツケて払ってもらうからの〜!」

「え、まぁ10ガルドなら補填しますけど諸々ツケも自分が払うんですか?」

 

ケンは身に覚えのない請求に困惑するなかザビーダが近づいて来る

 

「おめぇすげぇよ。まさかドラゴンを元の聖隷に戻すなんてよ」

「いえ、あくまで元を取り除いただけです。あの人達が変わった時間が短かったのも幸運でした」

「・・・あれ以外にも出来んのか?」

「消耗が激しいですが、出来ます」

「なら・・・いや、今はやめとくぜ」

 

ケンの話を聞いたザビーダは目線をずらし何か話そうとしたが打ち切る。その横で無視するでなーーい!!とケンに駄々っ子パンチをかます哀愁漂うマギルゥの姿があった

 

「ケン!」

「どうしたんだいライフィセット?」

「こっちに来て見て欲しいんだ!」

 

ライフィセットに呼ばれたケンはザビーダと目を合わせる。ザビーダは顎をしゃくって一緒にそちらに向かう。なおマギルゥは肩で息をして疲労困憊の様子だった

 

「何か問題が?」

「あぁ、お前が穢れを取り除いたおかげで聖隷に戻れたが・・・」

 

アイゼンがそこまで言って聖隷の方を見る、その身体からは黒い塵のような物が発せられている

 

「これは」

「大元を取り出した残りの様な物だな、これを放置すればまたドラゴンになるかもしれん。早いうちに対処しなければならん」

「ライフィセットやアイゼンみたいに器があればいいんじゃないの?」

 

ベルベットの提案にアイゼンか硬い表情のまま顔を横に振る

 

「いや、この状態になって器を用意しても無駄だ」

「それではこの人たちは・・・」

「あぁ、いずれな」

 

エレノアの落ち込みアイゼンが残酷な宣告をする。そこでふとケンは己の両手のひらを見、あの言葉を思い出す

 

それは浄化の力、役に立つはずだ

 

(ルシフェルさんはあの時浄化の力と言っていた・・・もしかしたら)

 

ケンは手のひらに意識を集中しあの時の感覚を思い出す。そうすると手のひらから碧がかった光が溢れだす

 

「ケン、お前の手どうしたんだ?やけに光ってるが」

「これを試してみます」

 

ロクロウがケンの手のひらに僅かに驚くも興味深そうに見ている

 

「それ、なに?」

「ある人からの数少ない貰い物の内の一つだよ」

 

ライフィセットの目の前で聖隷の体の上から手を翳し光りを当てる、そこから頭から足先までなぞると黒い塵は完全になくなっていった、そして直ぐに他の聖隷にも同様に光を当て穢れを払う

 

「ふぅ、これで大丈夫かな」

「あんた何でもできるのね」

「いえ、少人数で精一杯です。これが大規模なろうものならとてもじゃありませんが・・・」

 

ベルベットが腕を組みながら浄化した聖隷を見る

 

「さて、で、この聖隷はどうする?連れてくか?」

 

ロクロウがアイゼンの顔を見ながら話す、アイゼンは横目でそちらを見るが直ぐに視線を外す

 

「いや、今の状態で船に乗せたとしてもかえって足手まといだ。」

「ならこのままここに置いていくのですか!?」

 

アイゼンを咎めるエレノアの後ろにいたザビーダが声を上げる

 

「俺が連れてく、取り合えず人が来ない場所ならいくらでも知ってるからよ」

「いいの?あたし達とは組まないんじゃなかったの」

「てめぇらとは組んだ覚えはねぇし組もうとも思わねぇ。だがそこの兄ちゃんなら別だ、お前の頼みなら聞いてやってもいいぜ。ただし、聞いたら貸し二つだ」

 

ザビーダはケンの方を見る。ケンは表情を僅かに緩ませる

 

「どんどん貸しが増えていきますね。これは早々に返さないと、お願いできますか?」

「よし、これで貸し二つだ。んじゃ、またどっかでな」

 

ザビーダが意識を失っている聖隷達に近づき一緒に風となって消えた

 

 

ザビーダが去った後ケンと合流したベルベット達は目的を終え、バンエルティア号の待つレニード港へと戻る為帰路につく。

 

「そうだ、ねぇケン」

「ん?どうしたんだいライフィセット?」

「はいこれ」

 

ライフィセットは懐からサレトーマの花を取り出す

 

「これは?」

「サレトーマの花だ。それの絞り汁を飲め、乗組員の中から懐賊病が出たからな、予め飲んでおけば予防できる」

 

ケンはアイゼンの説明に歩きながら花を観察する。相も変わらず毒々しい紫色の花弁と枯れているのかと思わせる茶色の茎と葉のクッソ汚いコントラストの花だ

 

「だが気を付けろ、その絞り汁は凄まじく不味いみたいだ。ここに来る前エレノアもそれを飲んでぶっ倒れたからな」

 

ロクロウは笑いながら後ろを歩いているエレノアの方へ振り替える

 

「ちょっ・・・ちょっとロクロウ!」

「おっと、すまんすまん」

「エレノアさんが倒れるぐらいのもの、ですか。これは厄介そうですね」

 

二人の様子を見ながら花を握りつぶしそこから出てきた花汁を飲み込む。何とも言えない、ただ言えることは日常生活では絶対に味わうことはない不快な味が口の中で広がる

 

「う~ん・・・これは中々・・・できればもう口に入れたくないですね・・・」

「病気で苦しむよりはマシでしょ、我慢しなさい」

 

顔をしかめるケンの半歩先を歩くベルベットが肩をすくめる様子を見ながらエレノアがライフィセットに近づき、気になったあることを質問する

 

「・・・あの、ライフィセット。ひとつ訊いてもいいですか?」

「なに?」

「メルキオル様の幻術で現れた傘の女の子・・・あの子は、アイゼンとどういう関係なのでしょう?アイゼンには、直接聞ける雰囲気ではなくて」

「わかんない。僕も気になってたんだけど・・・でも、かわいい感じの子だったよね」

 

その言葉を言った瞬間マギルゥが目を光らせいつの間にか二人の後ろにいた

 

「ほっほぅ~♪坊は、ああいうちょっとすましたキレカワ系がタイプだったのかえ?」

「そうだったのか?俺は、てっきりベル――」

「うわぁ、やめて!」

 

ロクロウが言いかけた時ライフィセットがすかさず止めるもベルベットに気づかれる

 

「どうしたの?」

「ちょいとデリケートな話をしとったんじゃよ。具体的にいうと、坊の初恋相手について」

「へぇ」

「違うってば!幻術で現れた傘の女の子は誰かって話だよ」

「傘の子か・・・あのアイゼンが虚を突かれ動きを止めた。よっぽと大切な人なんでしょうね」

「じゃな。しかも、かなり複雑で深い関係と見た!」

「おいおい・・・」

 

マギルゥの推測にロクロウがあきれ返る。そこにエレノアが加わる

 

「つまり・・・別れたくても離れられない奥方?もしくは清算不可能な愛人?」

「極端過ぎるだろ・・・ていうか、若すぎる!」

「いやいや。勝手気ままな海賊にふさわしいのは、ボロクズのように捨てた、もしくは捨てられた偽りの名しか知らぬ女との間にできた娘とか!」

 

そこにベルベットも入る

 

「実は、結ばれなかった初恋相手が亡くなってて、その娘を、なにも言わずに引き取った可能性も・・・」

「それなら、お互い別の人と結婚した後に真の恋心に気づいてしまった幼馴染み・・・とか!」

 

どこぞの昼ドラめいた展開のような推測で女性陣が盛り上がる

 

「・・・こいつら、どんな恋愛観してるんだ?ライフィセット、とにかく女には気を付けろよ」

「・・・うん」

 

ライフィセットは力強く頷いた

 

(こういう話はこの世界も変わらない・・・か)

 

女性陣の前を歩くケンは僅かにため息をつきながらそう考えた

 

 

レニード港へ着いたベルベット達はバンエルティア号に近づくと波止場にいたベンウィックが気付いて走ってくる

 

「副長、無事だったんですね!」

「心配かけたな」

「船長の件は・・・」

「やはり偽者だった。だが、アイフリードはまだ生きている」

「あったりまえですよ!」

「残された時間は多くはないがの」

 

だがそこにわざわざマギルゥはアイゼンとベンウィックの間を通り抜ける

 

「どういうことだよ?」

「焦るな。事情は後で話す」

「アイゼンも・・・」

 

そのすぐ後ろでライフィセットが声をかけアイゼンが振り向く

 

「あ・・・焦らないでね」

「・・・」

 

アイゼンはその言葉に表情を僅かに緩ませると直ぐに頭を切り替え、ベンウィック達に号令をかける

 

「全員サレトーマは飲んだな」

「もちろん!」

「くたばった奴は、いねえだろうな」

「みんな生きてますよ」

「副長の呪いに比べたら、壊賊病なんてチョロいもんさ!」

「よし、出港準備に取り掛かれ」

「とっくに終わってますぜ!」

「いつでも出られるっての!」

「ふっ・・・」

 

船員たちの用意周到さにアイゼンは笑みをこぼす

 

「あともう一つある、ケンと合流した」

 

ベンウィックはアイゼンの後ろを見るとケンがいた

 

「おうおうケン!生きてたのか!」

「すいません、遅くなりました」

 

ベンウィックが駆け寄りケンの胸を軽くたたく

 

「まったくよ、心配したぜ?血翅蝶と一緒にローグレス中探したのに見つけられなかったから、てっきりくたばってたのかと思ったぜ。で、副長たちに会うまで何処にいたんだ?」

「あ~それは、その・・・」

 

ケンが言葉を詰まらせるとベンウィックが察する

 

「ま、いいさ。言えないことなんて誰だってあるさ。よし!休んでた分仕事してもらうぜ!」

「はい、わかりました」

 

ベンウィックはケンの首に腕を回し他の船員と一緒に船に向かい、アイゼンもそれに続く

 

「海賊の流儀、か」

「悪くはないのー」

 

ベルベットの言葉にマギルゥも一応の賛同をし共に船へと向かう中エレノアは一人、神妙な表情を浮かべていた

 

「・・・」

 

 

バンエルティア号は本来の目的地であるイズルトへと進んでいる中一仕事終えた乗組員は暫しの休息をとっている。ケンは船底の倉庫で上半身ボディスーツ姿で遅れた分を取り戻すためにパンチョンタイプの500リットル満タンの樽を二つ括り付け、それを片腕で一つづつ抱え上げながらスクワットと重量挙げを同時にこなして鍛錬をしていた。

 

「フ~ッ!!フッ!!」

 

規則正しい呼吸音と同時に樽が上下に持ち上がる光景は何かとシュールであったが彼の後ろで足音が響き、ケンは手を止める。彼が後ろを向くとそこにはエレノアが立っていた

 

「あれ?エレノアさん、どうしました。自分の声うるさかったですか?」

「あ、いえ!そのようなことは・・・」

 

エレノアは申し訳なさそうな表情を浮かべながら次の言葉を探している。ケンはその表情でエレノアの言いたいことを察して鍛錬を再開し言葉を続ける

 

「もしかしてっヘラヴィーサやっ!ローグレスのっ!事ですかっ!」

「・・・」

 

何も言わないとなると図星だろう

 

「自分はっ!特に何もっ!気にしていません・・・よっ!」

「ですが・・・!それでは!」

「あの時はっお互いにっ目的があったからっ!敵対することになったのですっ!」

 

途切れ途切れに語るケンにエレノアは反論する

 

「ですが、今は・・・」

 

手を止めて樽を抱えたままエレノアの方に向き直る

 

「今は違う、このように今は一緒に居る。それでいいではありませんか」

「でも、あの時私をかばって」

「ああ~、あれはつい無意識にやってしまったんです。他意はありません、とにかくこの事はもうおしまいにしましょう」

 

それを聞いたエレノアはいつもの表情に戻る

 

「・・・わかりました!この事は終わりです」

 

エレノアが船底から出ようとしたときケンが声をかける

 

「あーあと、自分に対しては畏まらなくても大丈夫ですよ」

「え?あなたは私より年齢は上だと思って・・・」

「こう見えて自分17なんで・・・」

「へ・・・?」

 

そこまで言い終えたケンはエレノアに背を向けスクワットと重量挙げを再開した。エレノアは呆気にとられながらも柔らかい表情で答えた

 

「・・・うん、わかったわ。ケン」

 

ケンの後ろ姿を見てエレノアは部屋を出た

 

(あと500回やってから休むか・・・)

 

ケンがそんなことを考えてた時、指を弾く音と共に周りの景色が止まる

 

「やぁ、しばらくぶりだね」

「ルシフェルさん」

 

ケンの目の前にある荷物の木箱にルジフェルが足を組みながら座っていた

 

「体の具合はどうだ?まっその様子だと何ともなさそうだな」

「えぇ、大丈夫ですけど。あの人たちは」

 

ケンの問いにルシフェルが足を組み替えながら答える

 

「君の推測道理、あの者たちは此処とは全く別の次元にある科学者集団だ。すまない、君の了承なしで施術をしたからね」

「いえ、逆にあの時連れ出してもらえなかったらあそこで死んでいました」

「その左目、いけそうか?」

「えぇ」

 

そこまで聞くとルシフェルが立ち上がる

 

「ならいい、ところで君に渡すものがある、今は手が空かないみたいだから君のリュックの中に入れておくよ」

「その渡すものとは一体?」

「実際見てみればわかる。あと伝えておくことが一つ、君の師が近々この世界に来る」

「師匠が!?」

 

ケンの驚く傍でルシフェルは木箱に寄り掛かる

 

「ああ、君の近況を報告したらえらくカンカンだったぞ?まっ、あれじゃ仕方ないか」

「・・・ええ、自分の力不足です」

「そう気を落とすな、君の事が心配だったのさ。じゃ、私は戻るよ、また来る」

「はい、ありがとうございました」

 

ルシフェルは指を弾き時が動き出す。ケンはルシフェルが居た場所から視線を外し、鍛錬を開始する

 

「師匠が来る・・・か、気を引き締めなければ」

 

ケンは静かに一人呟いた

 

 

第23話 終わり

 




投稿が遅れてすいませんでした。前書きにもありましたができればもう一話分投稿できたらと思います、ご意見ご感想ありましたら遠慮なくどうぞよろしくお願いします
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