テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜   作:スルタン

31 / 64
一ヶ月で最低でも2話分は投稿できるように頑張ります


番外編・師と弟子

 

「でえぇぇぇやっ!!!」

 

落下速度と上から下への腕の動作のスピードが加わり外から見れば、肘から先が見えないほどの右手刀がレオの顔面に迫る、が、次の瞬間彼が見たものはレオの手がケンの手刀を内側から添えるように当てられていた

 

「うおおおおっ!?」

 

それを認識した時、ケンの体は半回転しており頭部が地面の方を向いていた

 

(これが・・・合気ッ!!)

 

激流の様に流れる景色とレオの技に驚愕する中、一つだけはっきりとした像が飛び込む。ケンの腹に錫杖の石突がめり込みそこから鈍い嫌な音が響く

 

「~~~~~~ッッッ!!!」

 

錫杖に吊られる形でケンの巨体がまるでピンに止められた紙の様に宙ぶらりんになる。だがこれはほんの数舜、目にもとまらぬ速さで石突が引き抜かれ体制の崩れたケンの体が横向きになり地面に向かって落ちる瞬間顔面にレオの縦蹴りが打ち込まれる

 

「がッッ!!」

 

蹴りの衝撃で砂浜に思いっきり叩きつけられ砂にも関わらずケンの体が大きくバウンドする。ケンは跳ね上がり意識が飛びかけ、頭ではわかっていても体が言うことを聞かずに防御もままならない。レオはそれをお構いなしに錫杖を素早く地面に突き立て右拳を腰に固める

 

(あっ・・・だめだ・・・避けっ)

 

ケンが心の中で言いかけたその時、今度は腹の同じ個所に右正拳が打ち込まれ凄まじい速度でケンは吹き飛ばされる。その衝撃で海の方へ飛ばされたケンは数十回水面を跳ね、勢いが落ちたと同時に水中へと沈んでいった

 

「・・・」

 

レオは服装を整え助けるわけでもなくただ数百メートル飛ばされたケンの方を見ている。その頃ケンは海中に沈みながら心の中で自分の未熟さを恥じていた

 

(今まで鍛錬を続けてきてもやっぱり師匠には勝てないな・・・まだ、遠い・・・まだまだ遠い、果てしなく遠い・・でも、一歩でも近く)

 

夜の海底に足を着け顔を海面に向ける。満月の明るい光が水面を通りケンを照らしている

 

(月とすっぽん・・・いや、まだ地の底と宇宙の外だな)

 

心の中でそこまで呟いた後浜に向かって水中を泳ぎ始める。最初はゆっくりだが次第にどんどん速度が上がる。

 

(だからこそ・・・!)

 

凄まじい潜水速度で浅瀬まで泳ぎ足が底に着いた瞬間水の抵抗を物ともせずにレオに向かって全力で走り出す

 

「あなたに近づきたい!!」

 

ケンの間合いにレオが入ったと同時に構えを取り速力と腕の速さを合わせた右打拳をレオに向かって放った

 

 

一方ハリア村の中で自由行動を取っていたベルベット達。砂浜に所々生えている草むらに腰を下ろしていたアイゼンの後ろから声がかかる

 

「アイゼン」

「・・・なんだロクロウ」

 

アイゼンに声をかけたのはロクロウだったがその声はいつもと違ってどことなく張り詰めたものだった

 

「アイゼン、お前は感じないか。覇気というものを、圧倒的強者から発せられるような重い物をな」

「・・・お前もかロクロウ。確かに、今まで感じたことのない物。霊力や魔力だとかそんなもんじゃない、もっと別の物だ」

 

アイゼンとロクロウはケンが出かけて行ったマクリル浜へと続く門の方を見る。二人は目を合わせアイゼンが立ち上がりロクロウと共に門へと向かうがその後ろで今度は二人に声がかかる

 

「アイゼン、ロクロウ、二人ともどこに行くのですか?」

 

エレノアは今夜は此処に留まる事になっていたものの、何も言わずに村の外に出ようとしている二人を見つけ呼び止める

 

「ああ、鍛錬に夢中になっているだろうケンを呼びに行くだけだ。心配はいらん、すぐに戻る」

「ですが、もう日も沈みましたしいくら近くでも万が一の時危険ですよ。私も行きます」

 

ロクロウがいつもの調子で約束するも同行者としてついて行こうとするエレノアにアイゼンが制す

 

「エレノア、お前は此処に居ろ。ライフィセットの器であるお前にもしもの事があればまずい」

「ですが」

「心配するな。あいつを見つけたらすぐに戻る」

 

そこまで言うとエレノアの返事も聞かず二人は門を開けマクリル浜へと向かっていった

 

「あっ!ちょっと!・・・もう!」

 

エレノアは返事を聞かなかった二人に肩をすくめるしかなかった

 

 

アイゼンとロクロウの二人はケンがいるマクリル浜を注意深く歩きながら辺りを見回す

 

「さて、と・・・あいつはどこにいるか。そこまで遠くに行っていないはずだが・・・」

「しっ、待てロクロウ・・・!」

 

アイゼンが一歩先を歩いていたロクロウを呼び止めそれに反応したロクロウがすぐさま物陰に身を潜める。アイゼンも素早く別の場所に隠れて目の前の少し離れた浜を見る。そこにはケンが誰かと戦っているのが見えた。必死に打拳と蹴りを繰り出して喰らいつく後ろ姿を見て、相手はかなりの手練れと二人は判断した

 

「・・・一体誰とやり合ってるんだ、まさか聖寮か!?」

「聖寮の二等対魔士だったらあいつの敵じゃないはずだ、最低でも一等対魔士が束にならない限りあいつはあそこまで苦戦しないはずだ」

「となると、特等か!?」

「下手すればそれ以上だ・・・」

 

それを聞いたロクロウの右目が開き屈んだ状態で二刀小太刀を取り出すのを見たアイゼンが首を横に振りため息をつく

 

「そうと決まれば話は早い!助太刀するぞ!」

「おい待て!二人同時に・・・なっ!?」

 

今にも飛び出しそうなロクロウを止めようと声を上げようとしたときケンのいる所で大きな音が響く、二人が音の出た方向を見るとケンが動きを止めて立ったまま痙攣していた

 

「くっ!」

「ちいっ!」

 

それを見た二人は跳ねるように走り出し小太刀と拳を構え、レオに向かって走り出す。レオは腹に打ち込んだ右拳を引きこみ飛び膝蹴りでケンの顎を捉える

 

「ごっ!!」

 

ケンの体が宙を舞う中レオは弟子の後ろから二人の男が走ってくるのが見えた

 

(ほう・・・彼らが例の・・・)

 

レオが地面に着地し、ロクロウとアイゼンを観察する中二人はケンの両側をすり抜けロクロウが最初にレオに小太刀を振りかぶる

 

「先手は頂く!!」

 

ロクロウの二刀小太刀の横一閃がレオを捉える。並の敵なら真っ二つの攻撃だが

 

「間合いが甘いぞ」

「なっ!?」

 

レオに攻撃が当たっていなかった事実に驚くのも無理はない、ロクロウからしてみれば自分の斬撃が相手の体をすり抜けたようにしか見えなかったからだ。レオは必要最小限の動きで刀の間合いから離れ地面に突き刺した錫杖を抜きその柄でロクロウの足を引っかける

 

「うああっ!」

「ぬおおおっ!!!」

 

ロクロウが盛大に転んだと後ろで今度はアイゼンがボディブローの構えを取り間合いを詰めレオの鳩尾にパンチを叩き込む。重量感のある音があたりに響く中、ロクロウが起き上がりアイゼンの方へ顔を向ける

 

「アイゼン!!」

「ぐ・・・ぐおおっ!!」

 

アイゼンは歯を食いしばりながら腕に力を込めながら前に進めようとするが全く動かない。レオの手がアイゼンの肩を抑えていた。肩の動きを押さえつけれパンチが出せないとわかるとすぐさま膝蹴りを繰り出す

 

「オラァッッ!!」

「ふむ」

 

膝蹴りが来ることをわかっていたように錫杖の柄でそれを防ぎ片足立ちになったアイゼンの足をレオが蹴り払う。体制を崩した地面に倒れるアイゼン

 

「ぐっ!」

「まだまだぁぁ!!参の型!!」

 

レオの後ろで立ち上がったロクロウは走りながら眼前で印を切り、刀身から水流を発生させる。レオもロクロウの方へ体を向け仕掛けてくるのを待つ

 

「水槌!!」

 

圧縮された無数の水流の刃がレオを襲い、その体が切り刻まれ消える。ロクロウが荒々しく着地して勝利の雄たけびを上げる

 

「はぁ・・!はぁ・・!討ち取ったっ・・・!」

「ほう、初めて見る技だ。」

 

片膝を着くロクロウの背後にレオは静かに立っていた

 

「なっ!?」

「威力、技量も悪くない。だが」

 

ロクロウが振り向いた瞬間レオの拳が顎の先端を掠るように叩く。その直後ロクロウは小太刀を落とし両手と両膝を着いてしまう。アイゼンが叫ぶ

 

「ロクロウ!」

「ぬっ・・・なんの・・・っ!!」

 

ロクロウは地面に落ちた得物をなんとか拾い、ふらつきながら立ち上がるが足も覚束なく、体は前後左右に揺れて軸も定まらない

 

「うっく!まだ・・・やれる!」

「・・・」

 

レオは脳震盪を起こしているロクロウへ黙ったまま歩み寄り手で体を軽く押す

 

「うおおおっ!?」

 

たったそれだけでロクロウは大きく後ろにバランスを崩し大きく数歩下がり尻餅を着く

 

「ぐっ!!」

「クソッ!!」

 

アイゼンはレオがロクロウに止めを刺すと思ったのだろう、直ぐ様立ち上がり聖隷術を発動させ、彼の周りに風の刃を発生させる

 

「風の刃よ斬滅しろ!エアスラスト!」

「なるほど、風の刃か・・・」

 

アイゼンが声を上げたと同時にレオの周りにあった無数の刃がレオに向かって飛来する。これも並の相手なら成す術なく切り刻まれる。だがそれは並の相手ならの話だ、アイゼンの前にいるのは正しく達人である

 

「ッ!?なんだと!?」

 

驚愕したアイゼンの目の前には四方八方から飛来する刃を目で追うことなく確実にこちらへ最小限の動きで避けながら向かってくるレオの姿だった。さらには錫杖と払い手で刃を打ち消している

 

「ここまでとは・・・だがな!!」

 

レオが最後の刃を打ち消したと同時にレオの懐に飛び込み冷気を込めたフック・冬木立(クラスター)を胴目掛けて叩き込む

 

「アイゼン!」

「ぐおっ!?」

 

ロクロウがアイゼンの名を上げた瞬間彼の体が宙に浮きあがり回転する。アイゼンの拳はレオに掴まれており、それを軸に投げられ地面に押さえつけられる。完全に勝負が決まった

 

「ぐ・・・」

「ここまでか・・・!」

 

押さえつけられているアイゼンの横でロクロウが片膝を着けながら顔を伏せているとレオはアイゼンの手を離す

 

「!?・・・どういうつもりだ」

「飛び込みで参加するのは構わんが、せめて一言断りは入れてほしいものだな」

「参加?断り?あんた、聖寮じゃないのか?」

 

アイゼンは拳をさすりながら立ち上がり、脳震盪から回復したロクロウも得物を拾いながら質問する

 

「聖寮・・・初めに言っておくが、俺はお前たちの言う聖寮ではない」

「違うならここで何をしていたんだ」

「ふむ、説明する前にやるべきことがある。ケン、いつまでそのままでいるつもりだ。早く立て」

 

レオの声と同時に仰向けに倒れていたケンが両足を上半身に引きつけ一気に前に出し、その反動を利用して跳ね起きる

 

「ケン!?大丈夫なのか?」

「まったく、世話の焼けるやつだ」

「すいません。お二人方がやってきたので起き上がるタイミングを計り損ねていました」

「場を読む暇があるなら一撃でも多く叩き込まんか。まだまだ修行が足りん」

 

レオとケンの会話を聞いてロクロウは以前ケンから聞いていた話を思い出す

 

「もしかして、あんたがケンの言っていた・・・」

「ん?なんだ、あいつから聞いたのか。どこまで知っているは知らんがケンに修行を付けた内の一人が俺だ」

「ケンの師匠だと・・・道理で手も足も出ないわけだ」

 

ロクロウの質問に答えるレオに苦々しく言葉を漏らすアイゼンにレオが声をかける

 

「・・・大方、あいつを捜しに来たのだろう。よしケンよ、今回は此処までとする」

 

レオの掛け声にケンは素早く正座をし両手を地面につけお辞儀をする

 

「はいっ!ありがとうございました!!」

「うむ、あれから腕を上げたようだがまだ体にブレと乱れがある。それを直せるよう精進を怠るな、わかったな」

「はい!わかりました!」

 

ケンの姿を見た二人は改めてレオを見る

 

「改めて一つ聞きたい。あんたは何者だ、人にしちゃ余りにもかけ離れた身のこなし。只者じゃない」

 

ロクロウの問いかけに波打ち際の手前まで歩きながら答える

 

「そうだな、全ては答えられん。だが一つだけ言えることはくぐってきた場数の違いというものぐらいだ、俺もお前たちのように修練と実戦を重ねて力を付けた。それだけだ」

「修練と・・・実戦・・・」

 

アイゼンが二つの言葉を復唱しているうちにレオは支度を整える、ケンは皆から離れた所で腹筋をしている

 

「あいつもそうだ。ケンは俺のところで修練を積んだ、だがまだお前たちに比べれば実戦経験が少ない上に甘いところもある。あいつほどではないが、手のかかる弟子だ」

「手のかかる弟子か」

「そうだ。では俺は行く、またどこかで会うかもしれんがな」

 

網代笠を被りイズルトの港町へと足を向けて歩き出すと同時にケンが動きを止め師の後ろ姿に頭を下げる。それはレオが見えなくなるまで続いた

 

「ケン、戻るぞ」

「はい、あんまり遅いとベルベットさんに怒鳴られちゃいますからね」

「できるだけ急いで戻ろうぜ。ベルベットどころかエレノアにも説教されちゃたまらんからな」

 

アイゼンが声をかけ。ケンは珊瑚にかけていた装備を取り三人はハリアに向けて歩き出す。少し歩いてハリア村に門に戻ってきた時ロクロウが立ち止まる

 

「今更言うのもなんだがなケン」

「はい?」

「お前、顔の状態の言い訳考えといた方がいいんじゃないか?流石に、な」

「・・・あ」

 

今のケンの顔は青アザがいくつもありその上ずぶ濡れだ。とても何事もありませんでしたという言い訳は通じそうにない、アイゼンは肩をすくめながら提案をする

 

「どうする、俺の聖隷術で顔だけはマシにすることもできるが」

「・・・いえ、どちちにせよ見つかった瞬間問い詰められるだけですよ・・・何とかします・・・」

 

 

三人はハリア村に入るとベルベットとエレノア、ついでにマギルゥの三人が集まって何か話しているのが見えた。正面を向いていたエレノアがアイゼン達を見つけ駆け寄り、二人も後に続く

 

「あっ、戻ってこられましたね!あれから姿が見えなかったので心配しました」

「すまんなエレノア。なんせケンが修行に入り込んでいたから、な?」

「大まかにいえば、その通りだ」

 

ロクロウの理由にアイゼンはとてもあいまいに答えるエレノアの後ろで呆れながら腕を組んでいたベルベットがこちらに近づく

 

「まったく、あんたが修行バカなのは知ってるけど此処を出るならあたしらに一言いいなさいよ・・・なんでずぶ濡れなのよ、それにその痣」

「あ~、いえ。実は・・・」

「え!?誰かに襲われたの!?」

 

ベルベットがケンの見てくれを観察して問い詰めようとした瞬間エレノアが横から入ってきてケンの体をペタペタ触り始める。その横でアイゼンとロクロウが諦めたかのように顔と腰に手を当てる

 

「ちょっと!あたしが聴いてんのよ。人が話してるんだから勝手に横から入らないでちょうだい」

「あなたはケンに対して少し威圧的です!もう少し優しくできないのですか!」

「あんただってケンが話そうとした時に割って入ったじゃない」

「そ、それは怪我してると聞いたから無意識に入りましたけど、条件反射です」

 

ベルベットとエレノアはケンの目の前で言い合いをしている中少し離れてマギルゥがその状況を煽てる

 

「ほ~ほ~、正しく両手に花じゃなケンよ。お主を巡って二人の女が相争う様は一人の男を求めて奪い合う禁断の三角関係の如しじゃ」

「マギルゥさん・・・そういう事言わないでくださいよ」

「なんじゃ?遠慮せんでもええんじゃぞ?この際儂がお主らの恋のキューピットになってやってもいいぞ?」

(勘弁してくださいよ・・・)

 

マギルゥが煽てにケンは困った表情を浮かべ二人の言い合いを見ている

 

(これじゃ言い訳も言えないな、なんとかこの場を流して空気を変えないと)

 

ケンは内心諦めながら小言の言い合いになっている二人を仲裁する

 

「ままっ、お二人とも落ち着いてください。今回は自分が予め言っておかないのが悪かったんですから、次からはちゃんと伝えますから、ね?」

「・・・まぁ、あなたが言うなら」

「・・・わかったわ、次からは気を付けなさい。ほらさっさと宿屋に戻って風呂にでも入ってきなさい、ライフィセットの解読ももしかしたら進んだかもしれないし」

 

ケンはそれを聞いて一足先に宿屋へ向かおうと歩き始めるとロクロウが肩に手を置きその後ろにアイゼンがいた

 

「ケン・・・今回は助かったな・・・」

「・・・はい・・」

「女というのはわからんものだ、十分気を付けろ」

「・・・はい」

 

二人に見送られケンは宿屋へと入っていった、その背中からは肉体的な疲れとはちがう雰囲気をまとっていたように見えた

 

 

番外編・師と弟子 終わり




如何でしたでしょうか。今回は番外編で次回から本編に移ります
拙い文章で読みにくいと思いますが次回も見ていただければ幸いです

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。