テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜 【完結】   作:スルタン

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すいません、投稿が大変遅れました。自分で言っておいて守れないとは自分が情けないです。次からはできるだけ早く投稿したいと思います


第25話

 

「古文書の解読は進んだ?」

 

あれからベルベット達はライフィットとグリモワールによる解読が進んだであろうと考え一度宿の一室に集合した。ケンも体を洗い、皆と一緒に居る

 

「ええ・・・坊やのおかげでね。この坊や、語学センスが抜群にいいわよ」

「グリモ先生の教え方が上手だからだよ」

「そんな風に言われると本気になっちゃいそう・・・」

「は?」

 

褒めるグリモワールにライフィセットが恥ずかしがりながらの謙虚になっている所にベルベットが機嫌が悪そうに腕を組んでいる。グリモワールはそれを流す

 

「さぁて・・・坊や読んであげて。古文書に書かれてた“歌”を・・・」

「はい、先生」

「歌・・・?」

 

ベルベットは古文書に書かれている事が只の文章ではなく歌になっていることは予想外だったのだろう。ライフィセットが読み上げ始める

 

「八つの首もつ大地の主は 七つの口で穢れを喰って 無明に流るる地の脈伝い いつか目覚めの時を待つ 

四つの聖主に裂かれても 御稜威に通じる人あらば 不磨に喰魔は生えかわる 緋色の月の満ちるを望み 

已み名に聖主心はひとつ 已み名の聖主体はひとつ」

(喰魔・・・?)

 

ライフィセットの解読にベルベットは顎に手を当て文章の意味を考えている

 

「カノヌシを表す図と、かぞえ歌。この古文書は、その意味を解読した“注釈書”なのよ・・・」

「もったいぶらずに、その注釈ってやつを教えて」

「ごめん・・・まだ、かぞえ歌の歌詞しか解読できてないんだ」

「・・・そう」

「全部解読するには、かなり時間がかかりそうじゃのー」

 

表情を曇らせるベルベットにマギルゥが座りながら言葉をかける

 

「だが、聖寮の目的と狙いを知るためには重要な情報だ。時間がかかってもやるべきだろう」

(聖寮の目的と狙いを・・・知る)

 

ロクロウの提案を聞いたエレノアは僅かに思考した後、口を開く

 

「歌詞だけでも得られる情報は少なくないと思います」

 

エレノアはそう言いながら古文書の置かれている台に近づく

 

「図にある首は全部で八つ。一本が本体で、他の七つは“カノヌシの口”七つの“口”は“穢れ”というものを食し、地脈経由で本体に送り、カノヌシを覚醒させる。そういう性質をもつ七つの魔物を――」

「“喰魔”と呼ぶ」

 

ベルベットの答えにエレノアが相槌をうつ

 

「・・・はい。“穢れ”が、なんなのかはわかりませんが」

「・・・」

 

エレノア後ろで台に座っているグリモワールが同じ聖隷であるアイゼンへと視線を移すが彼は僅かに顔を逸らしエレノアに質問する

 

「後半部分はどう考える?」

「古代史はあまり詳しくないのですが、この世界を創ったのは地水火風に四聖主と言われています。でも、カノヌシも聖主と呼ばれている。カノヌシと他の四聖主の間に争いが起こり、カノヌシは封印されたのではないでしょうか」

「じゃが、御稜威――神の威光に適う物があれば、喰魔は何度でも生まれ、カノヌシは復活する・・・」

 

ベッドに腰掛けているマギルゥがもう一つの仮説を述べる

 

「おメガネにかなった導師アルトリウスが、カノヌシを覚醒させようとしておるとすれば、話は合うの」

「なら、七つの喰魔を探し出して、“カノヌシの首”を潰せばいい」

「だが、喰魔はどこにいる?」

 

ベルベットの思惑にロクロウが口を挟む。この広大な土地で情報もなく七体を探すのは明らかに至難の業だ

 

「この歌によれば、喰魔とカノヌシの本体は地脈で繋がっている。喰魔が、カノヌシにエサを送る靴なら、“地脈点”に配置するのが最も効率がいいはずだ」

 

アイゼンは今までの話を聞いたうえで敢えて一つの推測を唱える

 

「地脈点?」

「地脈の力が集中する特別な場所のことじゃよ」

 

ベルベットの疑問に答えるマギルゥの横でライフィットは数秒考えた後何か閃いたように顔を上げる

 

「この印の場所って・・・ね、この虫がいた場所に結界があったよね」

 

ライフィセットはクワブトを取り出す

 

「まさか、この虫が喰魔だと?・・・いえ、だとしたら聖寮が捕獲していた説明がつく」

「あと、離宮にも同じ結界があった」

「あれも喰魔・・・?喰魔の姿はそれぞれ違うってことか」

「ローグレスに行って確かめるか?」

 

ベルベットの言葉にロクロウは確認するために移動を提案するもベルベットは首を横に振る

 

「解読を始めたばかりだし、焦って無駄足を踏みたくない。古文書の中身をもう少し知っておきたいとこだけど・・・」

「・・・」

 

そこに先ほどからなにやら考えているグリモワールにマギルゥが気付く

 

「なにか気になるのかえ?」

「喰魔が“生えかわる”っていうのが・・・ねえ・・・」

 

グリモワールそのフレーズの意味について考えているとき横にいたライフィセットが何かを感じ取る

 

「あっ!!ワァーグ樹林と同じ感じがした!」

 

ライフィセットは直様羅針盤を取りだすと針が激しく動いている、その針の動きに合わせて方角を安定させるとその針はある方向へと向いた

 

「この方角は、聖主アメノチの聖殿パラミデス・・・今は聖寮の施設じゃったか?」

「聖殿や祭壇は、霊的な力に満ちた場所につくられると聞いたことがあります。地脈点を意味している可能性はありませんか?」

「地脈点は世界中に数多くある。喰魔が七体なら、ほとんどの場所はハズレだ」

「しかし、決定的な手がかりもない。可能性があるなら行ってみるべきじゃないか?」

「解読を無為に待つ気はないわ。ライフィセットの感覚の正体もわかるし」

 

ベルベット達がこれからの予定を話し合っているとグリモワールが呟く

 

「・・・ひょっとしてだけど喰魔を殺すと――」

「なに?」

「・・・どの道確かめないとわからないか・・・いいえ。今日はもう遅いから明日、目的の場所に行きなさい。焦って何かあるとあんたも困るでしょ」

「・・・わかったわ」

 

グリモワールの提案を渋々承諾したベルベットは今日は宿で休むことを皆に伝え男女分かれて明日に備えることになった

 

 

夜も更け、村の住人達は宿の従業員を除き全員が寝静まった頃。ケンはこっそり宿を抜け出し、近くにあった岩に腰掛け先ほどの会話について思考していた

 

(僕がいない間に喰魔に一体は地脈点から連れ出していたみたいだけど。さてはて、残りの六体どこにいるのか、あとグリモワールさんが言っていたはえかわるというフレーズ、解釈によっては意味が異なる・・・古文書の翻訳は流石にこいつでは無理だったな・・・)

 

ケンは自分の左目に意識を向けるがそれもすぐにやめ僅かにため息を吐くと後ろから声が聞こえた

 

「あら、まだ起きてたの。明日は忙しくなるんだからちゃんと寝ておかないと後に響くわよ」

「グリモワールさん」

 

ケンの後ろにグリモワールが立っていた、グリモワールは話しながらも移動し近くにあった流木に腰掛ける

 

「大方、あの時の古文書の意味でも考えてたんでしょ。何か気になる部分でもあったのかしら」

「ええ、貴女が貴女が言いかけたはえかわるという言葉の部分について考えていました」

 

グリモワールはそれを聞き僅かに目を細める

 

「へぇ、なら聞かせてもらおうかしら。貴方の考えをね」

「あくまでも憶測でしかありませんが・・・」

 

ケンは姿勢を正し自分の考えを話し始める

 

「あの時のライフィセットの感覚が当たっており明日行く場所に喰魔がいたならば、いくつかの選択が迫られることでしょう。ですがその選択の後に何が起こるかが気になるのです」

「ふぅん・・・」

「喰魔がいて、それを殺めた場合周りの環境にどう影響するか、そして喰魔の発生が一度きりかどうかということです。ベルベットさんの言う首を潰してカノヌシの力を弱めるというならそれが一番の近道でしょう、ですが・・・」

 

ケンがそこまで言い終わるとグリモワールが先に口を開く

 

「それで終わるとは到底思えない、でしょ」

「はい」

「あたしもそこ、気にしてるの。事がそんなにいい方向に進むなんて最初から考えていないわ。そう、はえかわる・・・あの時言ったけどこれだけは確かめなくちゃわからない。さ、この話は今日はお終いよ、早く寝なさい」

「はい、ではお先に失礼します」

 

ケンは腰かけていた岩から立ち上がり宿へと戻っていく後ろ姿を見ながらグリモワールは呟く

 

「あの子、なかなか鋭いわね。さてと、どうなることかしら」

 

グリモワールは空を見上げた、空いっぱいの星は何も答えることなくただただ輝いていた

 

 

次の日の朝、予定通りにベルベット達は聖殿パラミデスに向かうため宿を出発する。グリモワールは安全の為に宿に待機することになった一行は目的地へと続く村の門へと歩いていると村の住人の話し声が聞こえる。大体は宗教関係の話だ、カノヌシ信仰に転向したものとアメノチ信仰との言い争いなどだ。だが今はそれに構っている時間がない、足早に進んでいると門の前で一人の少女が立っていた、その少女がこちらに気づくと近づいてくる。ベルベット達は立ち止まり何者か聞き出す

 

「あんたは?」

「宿の娘です。あの・・・パラミデスへ行くと話されているのを聞いてしまったのですが・・・」

 

少女の一言でベルベットが警戒し構える

 

「聖寮に通報したのか」

 

ベルベットの言葉に首を傾げる少女

 

「通報?対魔士様がご一緒なのに?」

「・・・用があるなら、対魔士様に言って」

 

ベルベットは忘れていたのかはわからないが怪しまれないように取り繕い。エレノアの方へ顔を向ける。エレノアははっとして会話に合わせる

 

「・・・聖寮対魔士エレノア・ヒュームです。どんな御用でしょう」

「人捜しをお願いしたいんです」

 

エレノアが少女に歩み寄り話を聴くと少女が事情を説明する

 

「ある母娘が、聖寮の施設に行ったまま帰らないのです」

「二人とも行方不明に?」

「母親はアメノチ様の巫女、マヒナさん。娘は、モアナちゃんという小さな女の子です」

「アメノチ様の巫女ということは・・・」

「はい。アメノチ様の聖殿が接収されてから、マヒナさんは何度も聖寮に抗議しました。でも、ある日帰って来なくなって・・・そして、モアナちゃんまで消えてしまったんです。きっとマヒナさんを捜しに行ったんだと思います」

 

エレノアがそこまで聞いた後に質問する

 

「その二人が聖寮の施設にいると?」

「いえ・・・でも、あのマヒナさんがモアナちゃんを捨てるなんて考えられません。巫女の後継者として、厳しく育てていましたが、本当にモアナちゃんを愛していたから・・・抗議のことはお許しください。どうか聖寮の御力で、二人を探していただきたいのです」

 

エレノアすべての話を聞き力強く頷く

 

「できる限り調べてみましょう」

「ああ、ありがとうございます!私も、母と二人で育ったものですから他人事とは思えなくて・・・」

「・・・母娘か」

 

母と二人で育ったというフレーズに反応したのかエレノアの表情が少し暗くなる。ベルベットはこの空気から少しでも離れるべくエレノアを促す

 

「行きましょう、対魔士様」

 

ベルベット達はそれから何も言わずに門をくぐろうとする後ろ姿を見つめる少女にケンが近づき質問をする

 

「すいません、いくつか聞きたいことがあるのですが」

「は、はいなんでしょう」

「そのマヒナさんと娘さんの特徴を教えていただきませんか?」

 

少女はケンの質問に思い出すようなしぐさをして話し出す

 

「マヒナさんはアメノチ信仰の証である首飾りを掛けています。他の首飾りとは形や見た目が違うのですぐにわかるはずです。モアナちゃんの方は頭に白い花を挿しています」

「なるほど、ありがとうございます。では」

 

ケンは身なりの特徴を聞きすぐにベルベットの後を追った

 

 

「エレノア、どういうつもりなの?」

「母娘の件は、私が個人的に捜します」

「それはいい」

 

村を出てパラミデスへと続くマーナン海礁へと入った一行だが、ベルベットは早速エレノアを問い詰める

 

「では、なんのことですか?」

「あたしが聖寮の計画を潰そうとしてるのに、なぜ積極的に古文書の解読を手伝うの?」

 

聖寮に反抗する中で正真正銘の対魔士であるエレノアが協力している時点でベルベットではなくても疑問に感じるはずである

 

「・・・私が故意に謝った方向へ誘導し、罠にかけようとしている・・・と?」

「そうなの?」

「そんな罠でどうにかできるほど愚かな相手とは思っていません」

「・・・」

「私は、アルトリウス様がなされようとしていることを・・・今、この世界で起こっている真実を知りたいのです。悔しいけど、私は真実を教えてもらえるほど信頼を得ていませんでした。だったら、自分で見つけ出すしかない」

「自己分析は出来てるのね」

「聖寮が表の道なら、あなたたちは裏の道。表裏は違ってもたどり着く先は同じはずです」

「だから、あたしたちにウソをつく必要はないって?」

「はい」

 

エレノアの表情からは何かから吹っ切れた印象が見て取れる

 

「・・・真実が、あんたの信じていることと違ったらどうするつもり?」

「今は・・・わかりません」

「はっきり言うのね。けど、もうしばらくは協力できそうね」

「ええ、今は」

 

エレノアは会話を切り上げ先に進み始める、そこへベルベットの後ろからロクロウが声をかける

 

「俺も、お前に聞きたいんだが」

「なに?」

「喰魔についてだ。お前、前に自分のこと喰魔だって言ってたよな?なにか知ってるんじゃないのか」

「・・・知らない。アルトリウスがそう言ってただけだから」

「気にならないのか?」

「あんたは気になるの?」

「いや、全然。お前が気にしてないならそれでいい」

 

ベルベットから逆に質問されたロクロウはきっぱりと答える。ただ単に聞いただけのようだった。ロクロウも先に歩いていく

 

「妙な奴ばかりね・・・けどシアリーズがあたしを選んだ理由はおそらく・・・」

 

 

海礁を通り抜け、いよいよパラミデスが見えてきた。聖主アメノチを祭る聖殿であるパラミデスは元々は海岸に建造されていた。4聖主が眠りについたことで起こった地殻変動により海中に沈んだという。その聖殿へと続く門の前にたどり着くと門の前に警備であろう対魔士が数人倒れていた。ある者は地面に倒れ、ある者は壁にもたれ掛かり、ある者は水につかっている通路で倒れ伏し、血の海が広がっている

 

「これは・・・!?」

 

ベルベットがその惨状を見て驚き、アイゼンやエレノア達は倒れている対魔士の様子を確認している。ベルベットが現状から経緯を考えていると奥から獣の叫び声が響いた。それと同時に門の先から何かが叩きつけられる音や金属音と

 

「うわああっ!!!」

 

切り裂かれる嫌な音と同時に悲鳴が響き渡る

 

「業魔!」

「噂の業魔かの?派手に暴れておるようじゃな」

「この混乱に乗じるわよ!」

 

エレノアが驚くのを他所にマイペースのマギルゥ、好機を逃すまいとするベルベットの掛け声に応え、一同はパラミデスへと侵入した

 

 

パラミデス内部は水の聖殿という事もあり。いたるところにある水路と石造りの壁がいかにもな雰囲気を醸し出している。本来なら此処には信者が往来し祈りを捧げているであろう場所も、今は対魔士や兵士の死体があちこちに転がっている。中には無事なものもいたが、業魔の襲撃でまともに指揮も取れずにベルベット達により無力化されていった。ひたすら奥に進むとひと際開けた部屋に入る。部屋の中央には円形の足場と四方からの通路、その周りは水が流れている。そこに対魔士達を襲撃したであろう獣人の業魔がいた

 

「警備は蹴散らしてくれたけど、こいつは・・・」

 

ベルベットの言葉に反応したのか業魔がこちらを向くと威嚇するように吠える

 

「こやつ、胸にアメノチ様の紋章をつけておる!あれは巫女証じゃぞ!」

「じゃあ、この業魔は・・・」

「さっき聞いた母娘の母親の方――マヒナか」

「そんな・・・!」

 

皆が個々の反応を示している横でアイゼンはケンの傍まで近づき小声で話しかける

 

「ケン、お前はどう思う」

「・・・恐らく、マヒナさんが業魔と化したのはこの聖殿を取り上げられただけが原因ではないのかもしれません」

「なぜそう思う」

「仮に聖殿を接収されて業魔になるとすれば狂信者位の者です。ですが村の人からの反応を見れば宗教に依存していたなんて聞いていません。」

 

アイゼンとケンが話している間にマヒナは一方の通路を通せんぼするかのように移動し吠える。まるで何かを守るかのように思えると同時に四足走行で向かってくる

 

「それでお前はどうする。あの時のように助けるか?」

「・・・わかりません。自分の選択が正しいかどうか・・・」

 

マヒナが爪を振りかざし引っ掻こうと飛び掛かる、アイゼンとケンを除きベルベット達は左右に分かれ躱す

 

「選択か、遅かれ早かれその時が来る。急ぐなとは言わない、だが、覚悟はしておけ、いいな?」

「はい」

 

目の前にマヒナが迫り二人を喰らわん牙と爪を振りかざすマヒナにケンは直ぐ様反応し懐にもぐりこんだと同時に体当たりでマヒナを押し飛ばす。マヒナは空中で体勢を変え着地し尚もこちらに咆哮を上げ、次はベルベット達の方へと走り出す。皆はそれぞれ構えを取るがエレノアだけはなにやら深刻な顔でタイミングがずれてします

 

「ぼけっとしないで!喰われるわよ!」

「わかっています!でも・・・!」

「でもじゃないわよ!・・・くっ!」

 

ベルベットが激を飛ばそうとしたがマヒナが飛び掛かり、回避を優先するベルベット。ロクロウはマヒナの横に回り込み小太刀を構え接近する

 

「ライフィセット!」

「重圧砕け!ジルクラッカー!」

 

ライフィセットの聖隷術による重力場に捕らわれたマヒナは必死にそこから逃れようと藻掻く、ロクロウはその隙を逃さず小太刀で斬りつける

 

「切り捨て御免!」

「はぁ!!」

 

ロクロウの攻撃により数メートル飛ばされたマヒナの横からベルベットの中段蹴りが脇腹に刺さる。激痛に耐えながらもがむしゃらにベルベットに喰らいつく背後にマギルゥの水球が当たる

 

「人数ではこちらが上、いくら業魔といえどちとかわいそうじゃな」

 

エレノアはアイゼンとケンの傍まで駆け寄る

 

「ケン、なんとかならないの!?ロウライネのときみたい!」

「・・・可能性はありますが。」

「だがあの時は外部から打ち込まれた穢れで聖隷が業魔になった、だがマヒナは自分の穢れで変化したはず。今回ばかりはどうなんだ」

「ですが、やらないわけにはいきません」

 

マヒナは今度はアイゼン達に狙いを定め四足で一気に距離を詰め爪を振りかざす

 

「ふんぬっ!」

 

ケンはアイゼンとエレノアの前に一歩進み振り上げた腕を掴み止める。マヒナはもう一方の腕を上げようとするもケンはそれを予想していたのか振り上げる前に掴む

 

「でいやぁ!」

 

両腕を掴んだまま三回ほど振り回し放り投げる、がマヒナは本能で空中で体勢を立て直し着地しようとする。だがその数瞬前にケンはルナエキストラクトを放つ。マヒナの着地と同時に光線が命中するが変化がなく掻き消える

 

「・・・やはり無理か」

「そんな・・・!」

 

マヒナは先ほどの攻撃を警戒してケンに狙いを定める。アイゼンとエレノアはそれを阻止するために術を発動させる

 

「風の刃よ斬滅しろ!エアスラスト!」

「もう・・・マヒナさんは・・・!っ、貫け緑碧!霊槍・空旋!」

 

風の刃と疾風の竜巻がマヒナを吹き飛ばし石畳に叩きつけられるよろめきながらも立ち上がろうとするがそれをエレノアが槍の刃先を突きつける

 

「エレノア・・・?」

「もう元には戻れない。こうするのがせめてもの・・・“理”であると!」

 

その時ライフィセットは何かを感じ取る

 

「あっ・・・これって!?」

 

槍を突きつけていたエレノアがライフィセットに気を取られた時マヒナは吠えその隙をついて飛び退き逃げていく

 

「しまった!!」

 

エレノアが呆気に取られている横をベルベットが通り過ぎる

 

「業魔は放っておけばいい」

 

ベルベットに続いて各々が進みだす中ケンはエレノアに話しかける

 

「すいません、自分の力不足です」

「・・・ううん、あなたのせいじゃないわ。もうここまできたら・・・」

「いえ、まだ手段はあります」

 

ケンの言葉にエレノアは顔を見合わせる

 

「本当に!?」

「ええ、まだベルベットさんにも見せていませんが・・・」

「それを使えばマヒナさんは助かるの?」

「そこまではまだ・・・やってみてどうなるかですが」

 

 

「あの業魔・・・娘さんを捜しているうちに業魔病になっちゃったんだよね」

「ああ・・・宿屋の娘が、そう言ってたな」

「降魔になっても、娘さんのこと捜してるんだよな」

 

ライフィセットは、ふと思いつきロクロウに尋ねる

 

「ロクロウやクロガネ、ダイルは業魔になっても人間だった時にやりたかったこと覚えてるでしょ?お母さんだったら、やっぱり娘さんのことずっと捜してるんじゃないかなって・・・」

「そうかもしれんが、そうじゃないかもしれん」

「・・・そうだったらいいな」

 

エレノアをそれをきいて少し間が経ってから口を開く

 

「・・・人間だった頃は、きっとそうだったでしょう。でも業魔には、そのような母性はありません。業魔に成り果て、心も愛情も失ってしまった。哀しいことですが、それが現実なのです・・・」

(ベルベットやロクロウには心があるけど・・・)

「一体の業魔を放置すれば、百人の命が奪われます。ましてや、聖寮の施設で暴れ、対魔士を襲う業魔です。百人どころか、村や街を滅ぼしかねないのです。私の村もそうでした」

「!!!」

「・・・だから、私は」

「ま、そうだよな。エレノアの言う通り、ケンの力でも元には戻せないんだ。斬って成仏させてやるのも、情けってもんかもな」

「・・・」

 

エレノアの考えに肯定するロクロウにライフィセットはなにも言わなかった

 

 

それからマヒナが奇襲してくることもなく聖殿を捜索する、どうやら生き残りの対魔士や王国兵士がいたようだ。指揮系統には著しくダメージを負っているようだが侵入者であるベルベット達を迎撃せんと突っ込む者もいれば、穢れによる影響だろうか業魔とかしたかつての同胞と交戦する者もいた。時には戦い、時にはやり過ごしながらとうとうパラミデスの最深部にたどり着く。一際大きな部屋の中央で何かがいるのが確認できた。ベルベット達が近づくとその造形がはっきりわかる。朽ち果て折れた木の幹の様に見えるそれと爪のついた触手のような二本の木の根、そのほかは焼け焦げたかのようにも見える他の根と枝、顔のようにも見える幹の中には人間のような物が入っている、だがその人間も全身緑色でとても普通には見えなかった。ギシギシと軋みとこすれ合う音を響かせベルベット達に向かって吠える。その遠吠えには人間交じりにも聞こえる

 

「やっぱりいたわね・・・」

 

業魔はベルベット達に向かってその巨体を跳躍させるがそれが届く前に結界に阻まれ、跳ね返る

 

「またあの結界!!」

「当たりだな。こいつも“喰魔”ってわけだ」

「ベルベットの予想通り、“七つの首”は個体ごとに姿が違うようだな」

 

ライフィセットも何かを感じたようだ

 

「感じてた場所はここだよ!」

「どうやら、坊の方も大当たりのようじゃな」

「ワァーグ樹林の時と同じ感覚・・・僕が感じてたのは地脈点だったんだ」

「さて、こいつをどうする?クワガタみたいに小さくなれば連れて行けるが・・・」

「生き死になんてどうでもいいわ。喰魔(こいつ)を倒してカノヌシの首を潰す、それだけよ」

 

ベルベットが刺突刃を出し走り出すと皆もそれに合わせて戦闘態勢を取りながら喰魔に接近する。喰魔もそれを反応し大きく吠えた

 

 

第25話 終わり




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