テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜 【完結】   作:スルタン

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投稿が遅れに遅れてしまい申し訳ありません、年末年始多忙で執筆の時間がほとんど取れず期間が開いてしまいました。楽しみにしていた方々には大変申し訳ありません


第28話

 

自分たちが来るまでほぼ放置状態であった監獄島。しかし内部の状況がわからない以上慎重な行動が必要だ、ベルベット達はできるだけ音を立てないように扉を開け中に入る。屋内に明かりはないと思われたが所々に松明が壁に掛けてあり思ったより明るかった

 

「・・・どうやら先客がいるようだな」

「そのようね。けど、ここが監獄島だって知ってて自分からわざわざ来る奴なんてそうそういないはず・・・来るとすれば」

 

アイゼンが周りを確認しながら何者かが此処に来ていると推測する。ベルベットも同じ考えで島の状態を考慮して試行していると

 

「聖寮ってとこか。大方、此処をまた使おうとか考えて生き残った業魔の始末に来た・・・か」

 

ロクロウが腰に手をあてつつ油断することなく辺りを窺う。その時前方、正しくは階段を上った先にある通路から金属音の混じった衝突音が響いた

 

「噂をすればなんとやら、じゃな~」

「近くなってきたな、来るぞ」

 

マギルゥのいつもの調子にアイゼンが皆に警戒を促すと同時に先の通路から大きな音と共に何かがベルベット達目掛けて飛び込んで来た。血にまみれているが白い装束には見覚えがあった

 

「対魔士!?」

 

エレノアが驚愕する中飛び込んでくる対魔士をケンが無意識に受け止める、対魔士は体中傷だらけで息も絶え絶えだった

 

「大丈夫ですか!?」

 

ケンが床に対魔士を降ろす傍に走り寄る、対魔士はうわ言のように何かを呟く

 

「・・うっ・・・首のない騎士・・・ぅ・・・う・・ま・・・」

 

それだけを口にして体が一度跳ねた後ぐったりと動かなくなった、エレノアは一しきり観察した後首を横に振り立ち上がる

 

「亡くなりました・・・」

 

ベルベットは対魔士の最後の言葉に疑問を浮かべる

 

「首のない騎士の業魔?」

 

思考する暇も与えないまま奥の通路からまた何か飛び出してきた。対魔士の言っていた騎士ではないがゴリラのような業魔が威嚇するように吠える

 

「対魔士を襲ったのはやはり業魔か」

「また暴動起こっとるのかえ?」

 

業魔がより一層吠え全員が各々構える

 

「クロガネ!ダイル!お前たちはモアナと王子を守れ!」

「おう!!」

「承知!!」

 

ロクロウの指示に二人は返事をしてモアナ達を下げさせる。それが合図となって業魔が飛び掛かってきた。全員は一度その場から散り業魔の攻撃をやり過ごす

 

「サルめ!去るなら追わんぞ!」

「油断しないでちゃんとしなさい!暴動の生き残りよ!」

 

業魔が吠えると奥の方からそれと同じ遠吠えが響く、最初は小さかった重い音がだんだんと大きくなる。先ほどと同じように飛び出してきたのは同じタイプの業魔、ブッシュエイプであった。それも二体

 

「こいつ仲間を呼んだのか」

「自分だけじゃ分が悪いと理解して頭数を増やしてきたか」

 

ロクロウとアイゼンが毒づくが向こうがそれに何か思うはずもなく三体になったブッシュエイプは本能のまま襲い掛かる。散開したことで近くにいた者同士で敵に対応することになった、内の一体はベルベットとエレノアとライフィセット、もう一体はアイゼンとロクロウとマギルゥである。

 

「聖寮が鎮圧を行ったはずなのに、これほどの業魔が・・・!」

 

ブッシュエイプの太い腕から繰り出される大雑把で大振り殴り、だがそれに当たれば致命傷は避けられないと判断したエレノアが後ろに飛びのく

 

「対魔士でも手に負えない奴がいるって事よ!」

 

ベルベットが隙をついてブッシュエイプの顔に横蹴りを当てる、のけぞったと同時にライフィセットの聖隷術が発動する

 

「エレノア!気を付けて!」

「はい!」

 

地面から黒い手が伸びブッシュエイプを捉えようとするがそれを本能で危険と察知し強靭な脚力で大きく飛びのく、エレノアは気を取り直し自身の獲物である槍を構え突撃する、その少し離れたところでロクロウとマギルゥがもう一体のブッシュエイプと戦っている

 

「ロクロウや、あのサルの相手は任せたぞよ~」

「承知!」

 

小太刀を構えたロクロウはこれから始まる敵との闘いに右目を赤く光らせブッシュエイプに向かって跳ねる、ロクロウの放つ殺気に反応して吠え剛腕を力任せに振り上げ叩き潰そうと脳天目掛けて振り下ろすがその寸前に横に飛び退き隙ができた胴体に斬撃を加える、任せたと言いながらもマギルゥも聖隷術を発動させ掌から水圧弾を発射しロクロウをアシストする。そこからまた別の場所でアイゼンとケンが残りの一体とやり合うことになった。アイゼンは対魔士の遺体を安全な場所まで運ぼうとするケンに襲い掛かるブッシュエイプの顎を拳で殴りぬける、敵意がアイゼンへと向けられその腕から繰り出される攻撃を躱しながら時間を稼ぐ、ケンは遺体を部屋の隅に寝かせアイゼンの援護へと向かう

 

「アイゼンさん」

「ケン、さっさとケリをつけるぞ」

「はい」

 

ケンはアイゼンと向かい合っているブッシュエイプに速足で近づくと、それを察知して背後へ腕を振るうがケンはそれを受け止めると同時に勢いを利用して横回転をしながら体勢を崩させ腕を固め地面の叩き伏せる。アイゼンは伏せられた顔を助走をつけて思い切り蹴り上げる。ケンは前にも似たような構図を思い出しながらも今度は脚を掴み後ろに放り投げ背後の壁にぶつける。ブッシュエイプは距離を取ろうと離れようとした時目の前にアイゼンがいた

 

「逃がしはしない」

 

アイゼンは敵に隙を与えぬように聖隷術を展開し瞬時に敵の目の前に移動し打撃を加える、反応できない怒涛のラッシュで怯えたように声を出して逃げようとするブッシュエイプの後ろでコインの弾く音が響く

 

「敵わないと判断して逃げるか、まぁ生き物の本能とすれば当然だ。だが、俺がみすみす見逃すと思うか?」

 

その言葉を皮切りに敵の背中に連続の拳が叩き込まれる、背中は正面に比べ耐久力があると言われるが限界があり、打ち込み終えたころにはいくつもの打撃痕の後を残しブッシュエイプは倒れた、アイゼンは周りを確認すると他の面々も片が付いたようで各々の武器を収めていた

 

「一通り、片づいたな」

「はい、その様です」

 

 

「聖寮は囚人たちの制圧に失敗したようね」

「だが、此処にはかなりの対魔士が配備されていたはずだ、時間がかかるとしても全滅することはないはずだ」

 

数年此処で監禁されていたロクロウとベルベットは自らの経験を元に監獄島の状況を思い出していたがその横でアイゼンがある一つの推察を口に出す

 

「・・・蟲毒が行われたのかもしれん」

「コドク?」

 

初めて聞く言葉にライフィセットが疑問符を浮かべる

 

「業魔同士を食らいあわせることでより強力な業魔を生み出す外法だ」

「囚人業魔が喰いあって、対魔士も敵わない業魔を生み出しちまったってことか?」

 

ロクロウの推理にエレノアが苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべる

 

「暴動が起こったからですね」

「誰かさんのせいで、のう?」

 

マギルゥは伸びをしながら片眼を薄く開きベルベットの方を見る

 

「なにがあったかは問題じゃないわ。ここを手に入れるために、なにをするべきかよ」

「死んだ対魔士は『首のない騎士の業魔』って言ってたよ」

 

ライフィセットは対魔士の最後の言葉に引っかかりを感じていた、多種類の業魔が潜んでいるはずいるにもかかわらずその一個体に絞っているのだ、疑問を浮かべるのは当然のはずだ。アイゼンはその情報を元にある程度の目星をつける

 

「そいつが元凶かもな」

「なら、捜し出してぶっ潰そう」

 

どちらにせよ制圧しない限り事は始まらない、ロクロウは行動あるのみと判断したのだろう

 

「島を制圧するまで、この広間を拠点にするわ。王子とモアナは、あんたたちに任せる。侵入する敵がいたら全て排除して」

「わかった」

「あんまり期待しないでくれよ」

 

ベルベットはダイルとクロガネに拠点の防衛と護衛の指示を出す。ダイルは自信なさげのようにあらかじめ断っておく、エレノアがモアナの傍まで歩いていきしゃがみ込み目線を合わせる

 

「モアナ、なにかあったら私を呼んで。必ずあなたを守りに戻るから」

「うん、エレノアも気を付けてね」

 

遠目でそれを見ていたベルベットが奥へと続く通路へ視線を向ける

 

「行くわよ」

 

皆がベルベットに続く中ケンもそれについて行こうとすると後ろから声がかかる

 

「ケンよ」

 

ケンが振り返ると首のない武者甲冑のクロガネが歩いてくる

 

「クロガネさん、なにか?」

「あぁ、この監獄の奥から強い気を感じる。アイゼンが言っていたこともあながち間違いないだろう、十分に気を付けていけ」

「はい、自分もそれを微かに感じていました。肝に銘じます」

 

ケンも同じことを考えていたようで奥の方を見ると気配を犇々と感じながらもベルベットの後に続いて行った

 

 

監獄は予想通り業魔が闊歩していた、蟲毒紛いなことが行われていたように襲ってくる業魔は手ごわい者が多かった。だが実力を着実に高めているベルベット達は確実に仕留め奥へと歩を進めていく。監獄も中ごろにまで差し掛かったころエレノアが疑問に思っていたことをマギルゥに聞く

 

「マギルゥ、暴動の原因が『誰かさん』と言っていましたが、ここで何があったのですか?」

「なんだ。巡察官なのに聞いていなかったのか?」

 

ロクロウがその言葉に反応し意外そうに聞き返す

 

「大きな暴動が起こったことは聞きましたが、あなたたちを追いかけ始めたために詳細までは・・・」

「それほどの事件ではないわい。ベルベットも儂もロクロウもそしてケンも、この島に捕まっておっての」

「え!?ケンも監獄に!?」

 

盛大に勘違いされそうなので訂正しておく

 

「いえ、自分は海で遭難して偶然ここに流れ着いただけなので・・・といってもベルベットさん達について行った以上言い逃れはできませんが」

「おや、そうだったのか。まぁよい。脱獄するためにベルベットが囚人たちをそそのかして、暴動を起こさせただけじゃよ」

「囚人たちを利用したのですか!?」

「そうよ。あたしらしいでしょ」

 

ベルベットは表情を変えることなくあっさり言い放つ

 

「・・・」

 

やりきれない表情を浮かべるエレノアの横で今度はライフィセットが口を開く

 

「暴動はどうなったの?」

「最後まで見届けたわけじゃないが、鎮圧されかかっていた。はずなんだが・・・なぜか対魔士達は消えちまってる」

「オスカーは報告のために帰還しましたが警備対魔士たちは、駐屯を続けていたはずですが・・・」

「・・・撤退したのでなければ、駆逐されたと考えるべきだろうな」

 

アイゼンはこれまでの経緯を聞き、推測を立てる彼の推理が正しければ強力になった業魔の餌食になったのだろうか

 

「『首のない騎士の業魔』とやらにかえ?やれやれ、自業自得、因果応報とはいえやっかいそうじゃの~」

「後始末はつけるわよ」

 

 

ベルベット達、一部の者にとっては以前通った道を戻るように進みやがて最奥部,ベルベットが捕らえられていた牢のある部屋にたどり着くとその奥から禍々しい穢れを出しながら重厚な足音を鳴らしながらこちらへ近づいてくる

 

「おいでなさったってやつか?」

「構えて、来るわよ」

 

暗がりから出てきたのは黒い鎧を纏った業魔ではなかった。その業魔は首がなくただ単に鎧が斧槍を握り立っているようなものだったからだ、だがそこから道中倒した業魔よりはるかに強い穢れを出していた

 

「首なしの騎士!」

「こいつが蟲毒の親玉か」

 

鎧の騎士はどこから声を出しているかわからないが吠えながら斧槍を構える

 

「なるほど狂暴そうだ」

「なあに、ベルベットほどじゃないわい」

 

ロクロウのボヤキにマギルゥは悪いジョークを無視してベルベットが駆け出す、それを合図に他の皆も走り出す。ケンも後に続こうとした時左目から警告の表示がでる

 

「え」

 

首無し騎士、アンティークアーマーが出てきた暗がりからもう一つの陰が猛スピードで飛行してくる、アンティークアーマーに集中していたメンバーは反応が遅れ、それを飛び越えアイゼンの胸目掛けて杖と槍が合わさった武器を突き出す

 

「なに!?」

「アイゼンさん!危ない!」

 

アイゼンの右隣りにいたケンがアイゼンを押しのけた。だが次の瞬間ケンの左胸に敵の武器が突き刺さる

 

「うおっ!」

 

ケンはそのまま後ろへと飛ばされ、部屋の反対側の壁に叩きつけられそれを破壊しながら背中がめり込む

 

「新手!?」

「まだ隠れていやがったのか!」

 

ベルベットとロクロウが急いでケンの元へ向かおうとするが彼らの行く手を斧槍が突き刺さる。アンティークアーマーが目の前の獲物を逃すわけがなく、どこから声を出しているのかもわからないが鎧の中から音が反響しながら吠える。

 

「行かせないつもりね・・・」

「ライフィセット、エレノア、お前たちはケンの方を任せる」

「うん!わかった!」

「皆さんもお気をつけて!」

 

アイゼンが二人に指示を出すと即座に返事をして後ろへと走り出す

 

「あ奴らだけで大丈夫か~?まぁ、儂らも人のこと言えぬがの」

「心配いらんさ、ライフィセットを行かせた方が攻撃の手段も増えるし。何より時間がかからない」

「制圧なら早い方がいいからな」

「話はそれまで、行くわよ!」

 

斧槍を引き寄せて振りかぶりながら接近するアンティークアーマーに向かってベルベット達が駆ける

 

 

ベルベット達の方から金属と衝突音が響く中ケンは自身の左胸に突き刺さった武器を掴みめり込んだ壁から出る。不意打ちをした業魔を見ると女性型の業魔だった、その背中から禍々しい紫色の鳥の翼が生えておりその肌も翼と同じく紫色、その顔と体は妖艶な女性というにふさわしいものであったがその表情の奥からは獲物を甚振ることを至上の喜びにしているといったどす黒い感情を隠すことなく口角を吊り上げケンを見ている

 

「なんで自分の時はこういうのばっかりなんだろう・・・か!」

 

左手で掴んでいた武器を引き抜き敵の業魔サキュバスクイーンの腹に前蹴りし距離を取る、エレノアがサキュバスクイーンの後ろから槍を振りかぶる

 

「裂駆槍!!」

 

エレノアの槍が相手の背中を貫かんとばかりの速さで迫るもサキュバスクイーンはそれを横に避けることで回避、避けた所で自身も同じやり方で反撃しようとするが

 

「旋独楽!」

 

エレノアは槍の石突を地面に突き立てそれを軸にして遠心力を使った回し蹴りでサキュバスクイーンを蹴り飛ばす

 

「鏡面輝き熱閃手繰れ!カレイドイグニス!」

 

蹴り飛ばしたエレノアの後ろからライフィセットが聖隷術を発動させる、サキュバスクイーンの周りに砕けた鏡の破片のような鏡面体が現れ、そこから一斉に光線が発射され敵の身を焼く、さらにその光線は他の鏡に当たると乱反射を起こし四方八方からの攻撃に敵は対処に手こずっている。

 

「お返し!」

 

聖隷術の攻撃が終わった瞬間にケンが走り出しサキュバスクイーンに体当たりをする、同じ不意打ちに対応できない敵はケンとは別の壁にぶつかり崩れ落ちる

 

「ケン!大丈夫!?」

「大丈夫、大したことはないよ」

 

ケンの身を案じてライフィセットが駆け寄り回復させるための聖隷術を使おうとするが、それをケンが止める

 

「自分のことは後、まだ相手はやる気十分みたいだ」

 

サキュバスクイーンは先ほどの楽しむような表情から怒りに染まり切ったように顔をゆがめる、自分に傷をつけたことが許せないのだろう

 

「さすがに手強いですね」

「こっちも全力を出さないとやられかねないわね」

 

エレノアも合流し槍を構えなおす。向こうは肉体よりも精神的なダメージが大きく叫びながら武器を構え突撃してくる

 

「避けて!」

 

エレノアの声が合図となり皆一斉に横に避ける。エレノアが敵の真正面に立ち聖隷術を唱え自身の槍を前に突き出す

 

「貫け緑碧!霊槍・空旋!」

 

槍の先から竜巻が発生しサキュバスクイーンを吹き飛ばさんとするも、向こうも負けじと突き進む、その時足元から黒い手が伸び脚を絡めとる

 

「ケン!今だよ!」

「わかった!」

 

聖隷術で動きを止めたライフィセットの反対側からケンが走り出し、サキュバスクイーンの横っ腹に力を溜めたウルトラショットを放つ。小さな爆発が起こり敵が吹き飛ぶ際の隙をエレノアは見逃さない

 

「参ります!」

 

エレノアの怒涛の連続突きが敵の身を削る、相手も消耗が激しく防戦一方になる

 

「奥義!」

 

エレノアが大きく踏み込み槍を突き上げる、武器で何とか防いだがこのままでは終わらない

 

「スパイラル・・・」

 

渦を纏った突きで体勢が大きく崩れる

 

「ヘイル!!」

 

渦に巻き込まれまたも吹き飛ばされるサキュバスクイーン。だがそこへ紙葉が舞いそこから放出される霊力で動きが止まる

 

「霊子解放!仇なす者に、秩序を齎せ!」

 

顔を動かすと両手を構えているライフィセットが視界に映る。サキュバスクイーンは本能で危険を察知して足掻くが既に時遅し。

 

「バインド・オーダー!」

 

霊力の衝撃波がサキュバスクイーンの体を砕き穢れと共に霧散し消えてなくなる

 

「やった!」

「やりましたねライフィセット!」

 

ライフィセットとエレノアがお互い駆け寄り勝利を分かち合う。ケンも止血をしながら歩いてくる

 

「あっケン!?すぐに治すから」

「これぐらいならなんともないよ」

 

改めて聖隷術を発動しようとするのをケンが制止する

 

「その・・・本当に大丈夫?・・・血が」

 

エレノアが心配そうにするがケンは大丈夫とジェスチャーをする

 

「大丈夫、内臓までは達していません。それにまだ鎮圧が終わったわけではないですから体力は温存しておいた方がいいですよ」

 

三人の後ろから衝突音。みなが音のする方向をみると4人がアンティークアーマーを責め立てているのが見えた

 

「ベルベット達の方も決着がつきそうですね」

「うん」

 

 

ベルベットとロクロウ、アイゼン、そしてマギルゥはアンティークアーマーとの戦闘も終盤に差し掛かった

 

「向こうは終わったようだな!」

 

ロクロウが紙一重で斧槍を半身で躱し、小太刀による突きで鎧にダメージを与える

 

「おやおや?その鎧もガタが着ておるようじゃのー新調するのを手伝ってやるわい。ブラッドムーン!」

「さっさと片付けるぞ!冬木立!!」

 

真紅の霊場が鎧を焼き、高熱になった金属にアイゼンが冷気を纏ったフックで罅が入る。

 

「こいつはオマケだ、ウェイストレス・メイヘム!」

 

アイゼンのダメ押しの拳の連打でその体勢を崩す。ベルベットが後ろからアイゼンを飛び越え業魔手を振るい一部を喰らう。

 

「これでどうだ!空破絶掌撃!」

 

左腕で喰らい隙の無い動きで滑り込み右手の刺突刃を接触させた状態で刃を飛び出させる。その攻撃で鎧の一部が砕け穴が開く、砕けた所から穢れが漏れ出す

 

「ロクロウ!」

「承知!!」

 

ベルベットがアンティークアーマーを蹴り後ろに飛び退くと同時にロクロウが目を光らせながら突撃する

 

「一転突破!」

 

アンティークアーマーがロクロウを近づけまいと斧槍を振るうがロクロウの小太刀で手首を切り裂かれる。抵抗する手段を失ったアンティークアーマーに小太刀を構え懐に飛び込む

 

「零の型・破空!」

 

鎧の穴へ小太刀を突き入れ横に切り裂く、アンティークアーマーは限界に達しボロボロに崩れ落ちながらやがて霧散して消える

 

「よし、これで一件落着だな」

「そうね・・・」

 

ロクロウが小太刀を収め、ベルベットが返事をするがそれはどことなく影を落とすようなものだった。その後ライフィセット達と合流し周囲が安全になったのを確認する、その時ライフィセットが何かを感じ取る

 

「また感じた!」

「また穢れが?」

「ううん、地脈点だよ。この島にもあるみたい」

「俺も感じる。直ぐ近くだ」

 

ライフィセットの感覚にアイゼンも賛同する。心当たりのあるベルベットが足元に視線を向ける

 

「・・・多分、この真下でしょ」

 

ベルベットが言い終わり地下牢への格子に手をかける。先に降りるベルべットに続いて皆も梯子へ続く

 

「ここは・・・?」

「監獄島で、一番厳重に閉ざされた特別監房よ。ライフィセット、どう?」

 

ベルベットはライフィセットに確認を取る

 

「うん。ここが地脈点だと思う」

「地脈点に造られた特別監房という事は、此処に捕まっていたのは喰魔・・・?」

 

エレノアの推測にベルベットは上を見上げ静かに答える

 

「そう、餓えた“喰魔”が繋がれていた。そいつは、毎日放り込まれる業魔を喰らって腹を満たし、血まみれの唇をぬぐった。島に何百といる業魔や悪党の発する“穢れ”をカノヌシに送っているとも知らずに」

 

ベルベットは此処にいた経緯を話し続ける

 

「ある日、絡繰りを知る女聖隷が現れ、結界を解いて喰魔を檻から出した。喰魔は、その聖隷すら容赦なく喰らった。そして」

 

ベルベットは左手を握り、それから業魔手を出す

 

「あたしは手に入れた。弟の仇を討つための“力”を」

「ベルベットが・・・喰魔・・・!」

「監獄島は、囚人の出す穢れを喰魔に喰わせる“餌場”だったんだな」

「だが、ベルベットが脱走したせいで穢れが溢れた」

「モアナの村と同じことが、ここでも起こったんじゃな」

 

ライフィセット以外は大方察しがついていたのか特に驚くことはなかった、だがエレノアは違った

 

「アルトリウス様が、そんなことをするはずが・・・」

「そんな・・・ってどれのことよ?」

 

エレノアの否定にベルベットが食いつく

 

「病弱な義弟を生贄にしたこと?喰魔になった義妹を監禁したこと?全部、あんたが讃える導師様がやったことだ!カノヌシの力を手に入れるために!!」

「きっと・・・なにか・・・お考えが――」

「どんなっ!!」

 

尚も食い下がるエレノアにベルベットが掴みかかる

 

「世界の痛みを止める?ふざけるな!!あの子の痛みは誰がとめるんだ!!あの子の絶望は誰が癒すんだ!!世界の為なら・・・ラフィは!あたしの弟は殺されて当然だっていうのかっ!!」

 

ベルベットは言い切るとエレノアを突き放す

 

「・・・」

 

エレノアはなにもいう事が出来ずただ黙るしかなかった。身内が犠牲になったベルベットとそれを外から見ているエレノア。それぞれ異なる視点では見方も違う、他人事か、そうじゃないかで対応が変わるのがヒトというものである

 

「・・・」

 

ベルベットもやりきれない表情で顔を伏せるが少しして顔を上げる

 

「とにかく、これで喰魔を一匹探す手間が省けたわね」

「ベルベット・・・」

 

ライフィセットも深刻な面持ちでベルベットを見る。なんとも言えない空気の中エレノアに声が届く

 

(・・・たすけて・・・エレノアァ・・・)

「モアナ?」

「なんじゃ?怒鳴られて幻聴が聞こえるようになってしまったのかえ?」

「・・・嫌な感じがします。モアナになにかあったのかも」

 

マギルゥのジョークを流し辺りを見回すエレノア

 

「でも、もう首無しの騎士は倒したよ」

 

ライフィセットの言う通り鎮圧の目標であったアンティークアーマーも徘徊していた業魔も排除している。だがエレノアには言いようのない不安が拭えない

 

「でも、気になります。お願いです、広間に戻りましょう」

 

エレノアの必死な様子からとりあえず拠点の広間に戻るため皆は梯子を上がり、モアナたちの待つ広間に向かって走り始めた

 

 

第28話 終わり

 

 




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