~
「ベルベットが喰魔じゃったとはのー。前々からミョ~な奴じゃと思っておったが」
一行はエレノアの予感に従い拠点の広間に戻るため駆け足気味で移動中マギルゥがベルベットに対しての印象を呟く
「それより、ベルベットが叫んだ言葉が気になります。ライフィセット、ベルベットがアルトリウス様の“いもうと”というのは本当なのですか?」
「・・・僕も初めて聞いた」
ライフィセットも初耳なので彼自身も少なからず動揺している
「もし事実なら、アルトリウス様の戦訓を知っていたのも納得ですが・・・」
「気になるなら聞いてみればいいだろう。ベルベット、お前とアルトリウスはどんな関係なんだ?」
「ちょ・・・無神経すぎますよ、ロクロウ!」
躊躇なくドストレートにベルベットに質問するロクロウをエレノアが咎める
「・・・いいわ。全部聞こえてるし。アルトリウスは、死んだあたしの姉セリカの夫よ。あたしと弟にとって、あいつは義理の兄だった。十年以上、一緒に暮らしたわ」
「やはりそういう関係じゃったか」
「アルトリウスは、義弟を生贄に、義妹を喰魔にしたということだな」
「そんな・・・自分の家族を――」
「関係ないのよ。家族なんて、あいつの『個』の問題、『個よりも全』理想の“理”を実践しただけなんでしょう」
「・・・」
ベルベットの言い分に当事者ではないエレノアは何も言えない
「おしゃべりは終わり。港に急ぐわよ」
~
それから足を速め間もなく拠点の広間に到着する、その直後金属同士の強い力で擦れる音が響く。エレノアが手すりから下を見るとクロガネが腕を交差させ自らの体を盾にしてモアナ達を守っていた。ダイルも後ろから支えて後退を防いでいるが明らかな防戦一方であった
「ぐぬう・・・!」
「ちくしょう!なんて馬鹿力だ!!」
「させません!」
エレノアが身を乗り出し業魔に向かって槍を突き下ろす。だが敵は開いていた左腕に持っていた盾を構えエレノアの突きを防ぐ
「ぐぅ!!」
硬い物を突いた衝撃が自分の手元に還り、両手が痺れる。業魔はそのまま左手を払いエレノアを弾き飛ばそうとするがそれより前に盾を蹴り上げ攻撃範囲から飛び退き、モアナ達の前に着地する。その後ろで他の面々も飛び降りる
「エレノア!!本当にきてくれたね・・・」
「はい、約束ですから」
エレノアはモアナを振り返りそう答える
「首のない騎士を――馬の業魔!!」
「強い穢れを出してやがる」
「こいつが蟲毒で生まれた本物の親玉か」
ライフィセットとアイゼンとロクロウの後ろで控えてきたマギルゥは何か分かったのか閉じていた目を開ける
「ピーンと納得じゃ!死んだ対魔士は『首無し騎士の業魔』ではなく、『首のない騎士と』と『ウマ』と言いたかったのじゃな!」
「なんでもいい。全部倒して監獄島を制圧する!」
マギルゥの解を流したベルベット達が構えるとそれに反応した首無しの騎士、デュラハンがグレイブを回しながら馬の腹を蹴り駆けだす。騎乗しているため馬と人の速さはけた違い、ましてや馬の業魔、異常なスピードであっという間に一行の前まで接近する。ベルベットも危険を察知しメンバーに声を張り上げる
「避けて!」
ベルベットの声に反応し一斉に横に避ける、グレイブの範囲からは逃げられたが風圧がびりびりと伝わる
「これは二筋縄でも上手くいきそうにないな!」
「さっさとケリをつけるわよ」
ロクロウが小太刀を構えながら走り、ベルベットも走り出す。別々の方向からの攻撃で一気に畳みかける
「鎧通し!」
「崩牙襲!!」
二方向からの攻撃にデュラハンはすかさず盾でロクロウの小太刀を、グレイブの柄でベルベットの踵落としを受け止める
「ぬぅ!なんて硬さだ!」
「こいつ、予想以上に素早い!?」
デュラハンは両腕を突き出し二人を弾き飛ばし今度はアイゼン達に向かって接近してくる
「ライフィセット!マギルゥ!まずは奴の脚を止めるんだ!」
「わかった!重圧砕け!ジルクラッカー!」
アイゼンの指示でライフィセットが聖隷術を発動させデュラハンの足元から無数の手の陰が伸びるが本能で察知したのか手綱を振り上げ大きく飛び上がる
「躱された!?」
「まだ儂がおるぞ~!アクアスプリット!」
マギルゥの繰り出した水弾の連射、空中にいるデュラハンは盾を構え弾を防ぎながらグレイブを振りかぶり飛び込んでくる
「なんじゃと~!?」
「クソッ!喰らいなストーンエッジ!!」
アイゼンが地面に両手に手を付き目の前から石の柱を出現させデュラハンを弾き飛ばすも直ぐに体勢を立て直し着地する。
「(今なら隙がある、攻撃するなら今!)たぁ!」
後ろに回り込んだエレノアががら空きの背中に槍を突き立てようと跳躍する、槍の穂先がデュラハンの背中に突き刺さる、敵は一瞬のけ反るも騎手の状態に応呼したように騎馬がすかさず後ろ足でエレノアを蹴り上げる
「くぅぅ!!」
咄嗟に槍を引き抜き柄で蹄を受け止めるも馬本来の脚力に加え、蟲毒に生き残った業魔であるゆえにその力は凄まじく、エレノアの両腕が悲鳴を上げる。空中で受け止めたのが幸いしてそのまま後方へ吹き飛ばされる。
「ああっ!!」
「エレノア!」
ロクロウがすかさず地面に激突しかけたエレノアをギリギリの所を滑り込みながら受け止める、デュラハンは次の標的をエレノアからアイゼン達に切り替えグレイブを構えながら馬を走らせる
「ストーンエッジ!!」
アイゼンが石柱を足止め代わりに出すが二度も通じず振りかぶったグレイブで砕かれる
「通じないのはわかっていた!」
アイゼンは砕かれた石柱の陰に隠れて懐に潜り込み拳の連打を叩き込む
「うおおおっ!ウェイストレス・メイヘム!」
拳の連撃がデュラハンの鎧を歪ませ金属が悲鳴を上げる。敵も為すがままにさせまいと盾でアイゼンを振り払う様に弾き飛ばす
「ぐはぁ!」
アイゼンが壁に背中から激突し床に倒れ込むとデュラハンは止めを刺そうと接近しグレイブを振り上げる
「アイゼンが!!シェイドブライト!!」
「これは流石にマズすぎじゃぞ!!アクアスプリット!」
首を刎ねようとするデュラハンを阻止しようと二人が聖隷術で攻撃するがそれも盾に防がれるが少しでも時間を稼ごうと何度も術を放つ
「あんちゃん!行ってくれ!」
今までモアナ達の護衛をしていたケンの後ろでダイルが声を上げる
「ダイルさん」
「儂らは大丈夫だ、お前が今為すべきことを為せ」
クロガネもダイルの横に並んでケンを促す
「・・・分かりました!」
ケンは顔を前に向け走り出す。脚に力を込めグレイブが振り下ろされる寸前にアイゼンの前に滑り込み左腕で敵の刃を受ける。刃は肉を切り裂き骨を両断するかのように鋭利で鋭い物であるがケンの頑強な肉体はそれを良しとせず、10ミリほど食い込んで止まる
「馬の足を潰す!」
腰から短剣を抜き騎馬の脚目がけて投げる。前脚に短剣が突き刺さり悲鳴を上げながら暴れる馬にデュラハンが手綱を引っ張り大人しくさせようとケンの腕からグレイブを引き抜く、誰がどう見ても隙だらけであるのは明白だった
「今だ!」
ケンが右拳にエネルギーを集中させ赤く発光させ跳躍し騎馬の首目がけて振り上げる
「ふんっ!!」
レオパンチが首を貫き完全に無力化すると腕を曲げそのまま引き倒す、騎馬を失ったデュラハンは直ぐに起き上がりケンにグレイブを振り下ろそうとする
「隙あり!!」
横からロクロウがデュラハンの手元へ小太刀を差し込み上へ弾き返すと無駄のない動きで鎧の胸部目掛けもう片方の小太刀を突き立てる
「盾は弾かれるがお前自体はそうでもないようだな!!鎧通し!!」
もう片方の小太刀を重ね傷ついた鎧を叩く、斬撃ではなく衝撃での攻撃にデュラハンの鎧が耐え切れず胸部が砕かれる
「止めは任せたぞ!ベルベット!!」
「わかってる・・・さっきはよくもやってくれたわね・・・」
ロクロウがデュラハンの腹部を蹴り飛び退く、体勢を崩して大きく後退した後ろでベルベットが業魔手を出し立っていた。苦し紛れの反撃で振り返りながら武器を振るうがベルベットがそれを弾き飛ばし、跳び蹴りで胸部を攻撃するとデュラハンが胸を押さえ苦しみだすがベルベットは攻撃は止むことなく続く
「消えない傷を!!」
刺突刃で絶え間なく斬撃を加え反撃させることなく追い詰める
「刻んで果てろ!!」
刃を突き刺し上体に飛びつき斬りあがる
「リーサル・ペイン!!」
業魔手で胸部を掴み握りつぶすとデュラハンは盾だけを落とし跡形もなく消える。脅威がなくなった事を確認したロクロウがライフィセットとマギルゥに指示を出す
「ライフィセット、マギルゥ、エレノアを見てやってくれ」
「うん!」
「やっと終わったと思ったら雑用かえ~」
先に走るライフィセットにぶつくさ言いながらも後に続くマギルゥ、その横でケンがアイゼンに肩を貸しながら起こす
「アイゼンさん、大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だ」
アイゼンは頭を抑えながらも立ち上がり、ベルベット達の方へ歩き出す
「・・・あれもお前の師匠の技か?」
「はい、あれだけはある程度ちゃんと使えるので」
ベルベット達と合流したアイゼンとケン、そこでライフィセットが聖隷術でエレノアの傷を治しているが、彼女は今だに顔を歪めている
「エレノアさん、どうしました」
「傷はライフィセットに治してもらったけど、腕に痛みが・・・つぅ」
ケンは目を泳がせ考える
「(傷は治ったけど痛み・・・骨かな?)エレノアさん、ちょっと失礼します」
エレノアの両手を取り片手で器用に腕を捲る。一見外傷がないようにも見えるが左目の機能の一つであるX線モードで見てみると骨の一部が砕けてバラバラになっていた
「これは・・・骨折していますね、あの時の蹴り上げを防いだ時に腕が耐え切れなかったのでしょう」
「ケン、なんとかなる?制圧はしたけど万が一の事があってエレノアが動けないと戦力が落ちる」
ベルベットの言葉にケンが頷きエレノアの腕に手を当てコスモフォースを発動させる、手の隙間から光が漏れだしそれが十数秒、もう片方の腕にも同じ方法で光を当てる
「これで大丈夫なはず、いかがでしょうか?」
エレノアから手を放しながら立ち上がる、彼女は腕をさすったり回しながら感触を確かめる
「痛みが全くない。大丈夫よ、ありがとう」
「いえ」
エレノアがケンに礼を述べる
「流石は蟲毒だ。さっきの首無し鎧よりかなり強かったな」
「首無し鎧?」
「お前のことじゃない」
「ふふっ・・・」
ロクロウの言葉に反応したクロガネにツッコミを入れライフィセットが吹き出しそうになってていると後ろから叫び声が響く
「きゃああっ!!」
皆が後ろを振り返るとデュラハンの盾が一人でに浮きあがりモアナがそれに驚いて尻餅をついてしまっている
「モアナッ!!」
エレノアが急いで走り出し皆も後ろに続くが盾は今にもモアナに飛び掛かろうとしておりとても間に合わない、必死に手を伸ばすエレノアの後ろを大きな影が追い越す、その陰は盾に喰らいついてモアナから引き離す。盾を地面に叩きつけ穢れを喰らい始める
「離宮にいた業魔!」
「いや、穢れを吸い込みおったぞ。そやつは喰魔じゃ」
正体が以前離宮で遭遇した業魔に驚くベルベットにマギルゥが補足する
「いや、その鷹は私の唯一の友――グリフォンだよ」
ダイルとクロガネの間から声が響く、皆がその方へ顔を向けると以前に見たことがある人物がいた
「・・・タバサが『近いうちに必ず』と言ったのはこういう意味だったのね」
「殿下、なぜあなたが喰魔を!?」
殿下と呼ばれた男こそミッドガンド王国時期国王、パーシバルその人であった。パーシバルの行動の真意を測りかねるエレノアが問いを投げる
「だから言った通りさ。グリフォンは子供の頃からの親友なんだ。喰魔になってしまっても、こいつは私の・・・」
パーシバルがグリフォンに歩み寄ると喰魔から元の鷹の姿に戻り彼の腕に乗る
「喰魔と知って逃がしたんだな。何を企んでいる?」
「なにも。私はグリフォンを、ただ逃がしたいだけなんだ」
アイゼンの質問にパーシバルの答えは単純なものだった
「流石は未来の国王、第一王子殿下。わがまま放題じゃのー」
マギルゥが皮肉るとパーシバルは自傷気味に笑う
「ふふ、わがまま・・・か。そんなもの、一度だって許されたことはないよ。王子とは人ではなく“公器”だ。自分のことより国と民を優先するように“つくられる”んだよ」
パーシバルはライフィセットに顔を向け質問をする
「・・・例えば、法律の勉強中に背中がムズムズしたら、君ならどうする?」
「背中をかくよ。普通に」
「私が、そうすると傅育係に皮膚が裂けるほどムチ打たれたものさ。国の為の勉学より、痒いという個人の感情を優先させた・・・という理由でね」
「・・・」
パーシバルの受けた教育は帝王学に近い物だろう。実際貴族の教育には虐待レベルの躾があったらしい。ライフィセットはパーシバルの言葉に何も言えない
「そんな私にとって、こいつが空を飛ぶ姿を見て自由を想像することが、唯一の慰めだったんだよ。だが・・・こいつがカノヌシの力に適合してしまった」
「聖寮が喰魔をつくってることをミッドガンド王家も知っているのね」
「もちろんだ。王国は、導師アルトリウスの理と意志を全面的に支持している。だが、私は・・・こいつが閉じ込められ、空を奪われることだけは許せなかった・・・どうしても」
パーシバルは苦虫を噛み潰したような表情でグリフォンを見つめる
「私は警備の対魔士を欺き、結界を解除させた。その時・・・対魔士はグリフォンに襲われて命を・・・」
「だから、もう戻れないって」
「対魔士一人の問題ではあるまい。喰魔をはがせば、王都の穢れも増大するじゃろう」
水を差すマギルゥだが彼女の言っていることも事実、喰魔が居なければ遅かれ早かれ穢れが溜まる
「・・・全部わかっていた。それでも私は・・・友としてグリフォンを犠牲にしたくなかった」
「殿下・・・」
喰魔を失えば国と国民が危険にさらされる、だがそのために友人を見捨てなければならない。板挟みの中で苦しんだ結果なのだろう
「世界より一羽の鷹か・・・鳥はなぜ空を飛ぶと思う?」
「それはアルトリウス様の!」
そこまで聞いていたベルベットがパーシバルに問う。エレノアがアルトリウスと同じ質問をしたことに驚く
「解剖学の本には、骨が軽くて、翼を動かす筋肉にすごい力があるからだって――」
勤勉のライフィセットがベルベットの質問をそのまま解釈して答える
「いや・・・飛べない鳥は鳥ではないからだ。私はそう思う」
「・・・事情はわかった。この島の中なら自由にしていいわ。ただし、逃げようとしたら殺す」
「いいだろう。聖寮に対する人質として使えるしな」
ベルベットとアイゼンが了承する
「承知した。グリフォン共々よろしく頼む」
「話はついたな。じゃ、アジト造りといくか!」
ロクロウの一声で監獄島の整備が始まった
~
あれから数刻が経ち、整備が一段落したところで皆がそれぞれの場所で休んでいた。ベルベットとも同じなのだがそこへモエナが歩いてくる
「ねえ、ベルベット。エレノアしらない?」
「あんたと遊んでたんじゃないの」
「うん。でもいつの間にかいなくなっちゃったの。なんか悲しそうな顔してたから心配・・・おねがい、さがして」
「なんであたしが」
モアナの願いにベルベットは面倒そうな表情を浮かべる
「う・・・」
それを見たモアナが今にも泣きだしそうにしていたので渋々了承する
「・・・わかったわ。もう、すぐ泣くんじゃないの」
ベルベットはそれから船員からエレノアの場所を聞き込みをし、彼女がいる場所を突き止めた。ベルベットはそこへ続く梯子を上り顔を出すと海を見つめるエレノアがいた
「・・・」
ベルベットは少し間を置きながら近づく
「こんなところにいたのねモアナが心配してたわよ」
「わざわざ捜しに来てくれたんですか?」
「泣く子には勝てなくてね」
その言葉にエレノアは笑みを浮かべる
「・・・そうですね。喰魔だけどモアナは小さな女の子です。あなた達と旅をして、初めて知ったことです。恐ろしい業魔も喰魔も、道具だと思っていた聖隷も、人と同じ想いを抱えて生きている」
「・・・」
「私は、なにも知らなかった。教えられたことを、ただ信じていただけで。業魔病の真実も、聖寮が何をしているのかも、なにひとつ・・・」
「知らない方が幸せってこともあるわ」
ベルベットが一つの例えを出す、知ってしまった故、知ろうとした故に後悔してしまうことは多々ある。だがエレノアはそれに異を唱える
「それは対魔士にとって卑怯な道です!なにも知らず!だから責任もとれない!私は、そんな生き方は――」
その眼には涙が湛えていたが流すことなくまた海の方へ顔を向ける
「・・・もう少し、ここで頭を冷やします。モアナには大丈夫だと伝えてください」
「ほどほどにね、海風は冷えるわよ」
「・・・ありがとう」
エレノアの感謝の言葉にベルベットははぐらかす
「違う。あんたが倒れでもしたら、モアナやライフィセットが心配するからよ」
そう言い、足早に中へ戻るベルベット。単に照れたのだろう
~
一夜明け、皆は広間に集まっておりこれからの行動を会議する者、談笑する者で様々だ。だがそこへエレノアの声が響く
「お話があります」
その声に皆がそちらに顔を向ける、その先には真剣な表情で歩いていくエレノアがいた。彼女は立ち止まり間を置かずに話し始める
「今まで隠していましたが、私はアルトリウス様の特命を受けたスパイです『聖隷ライフィセットを保護し聖寮本部に回収せよ』味方の命すら奪うことすら許された最重要の特命です」
「僕を回収・・・」
ライフィセットの回収という言葉に反応する、あくまでも物扱いする聖寮に対していい思いはしていないだろう。そこにエレノアがライフィセットに頭を下げる
「ごめんなさい。最初は、あなたを油断させて連れ出すつもりでした。ですが、もう聖寮の命に従うつもりはありません」
「アルトリウスを裏切るってわけ?」
ベルベットの言葉に首を振るエレノア
「いいえ。アルトリウス様が目指す世界も、その志も、人の世を慮ってのことと信じます。でも、その方法を信じられない自分がいるのです。ですから・・・」
エレノアはモアナへと視線を移し優しく微笑むと直ぐに表情を真剣なものへと戻しベルベット達の方へと向けなおす
「喰魔の保護に協力します。私自身の“答え”を見つけるまで」
「エレノア・・・」
「私は、本当のことを知りたいんです。自分に恥じない生き方をするために」
そこで笑い声が聞こえエレノアが驚く
「ははは!思いっきり感情論だな」
笑ったロクロウの横で腕を組んでいるアイゼンがつぶやく
「それがお前の“流儀”か」
「ようこそ、悪党の世界へ~」
マギルゥの煽りには直ぐ様反論する
「一緒にしないでください!感情で納得できないのに行動することこそ“理”に反するんです」
「ほんと面倒なヤツ・・・」
「面倒でもいないと困るでしょう!」
ベルベットのテンションの低い言動に言い返すエレノア
「うん、エレノアは僕の器だからね」
「はいはい」
ライフィセットのどこか嬉しそうな表情にベルベットは観念したように呟いた
~
エレノアの事が終わったことを察したロクロウが声をかける
「さて、俺達は次の喰魔を探そうぜ!・・・と行きたい所だが、手がかりがないな」
「エレノアが聖寮から喰魔の情報を盗んでくる、というのはどうじゃ?」
「それは・・・」
「無駄だ。裏切り者に機密を漏らすほど聖寮もマヌケじゃない」
「そうね。ライフィセットを危険に巻き込むわけにもいかないし。というか、エレノアにスパイなんて無理でしょ」
「・・・否定はしませんが」
ベルベットの本音というか事実にエレノアは複雑な表情で睨む。言い訳しない当たり自分でもわかっているようだ
「昨日行った一番地下の特別監房、行ってみよう。試してみたいことがあるんだ」
「・・・わかったわ」
~
「ケンって、こういう時あんまり話さないよね」
モアナが黙って話を聞いていたケンの隣で言う
「・・・喋ることないからね」
~
それから地下監房に行く途中、どうやらライフィセットも薄々感づいていたようでエレノアがショックを受けていた。一行は昨日訪れた監房へと降りライフィセットが羅針盤を取り出す
「・・・で、どうするの?」
「えっと・・・“地脈”は大地を流れている自然の力。そして“地脈点”は地脈が集中している場所の事」
「そうだ。カノヌシは地脈を利用して穢れを喰らい、覚醒しようとしている。お前は、地脈を感じる力に長けているようだ。ある程度近づけば地脈点の位置を・・・」
「近づかなくても感じたんだ。昨日ここに来た時、ずっと先にも、此処と同じ場所があるって」
「地脈を通じて、離れた地脈点を探知できるのか?」
ライフィセットの思わぬ才能にアイゼンが詳しく聞き出す
「多分。どこまでやれるか、喰魔が居るかどうかは、わからないけど・・・」
「それでも重要な手がかりよ。お願い、試してみて」
「うん」
ライフィセットは目を閉じ意識を集中させる。意識を集中させた先にある水面、そこに一つの雫が落ち、波紋が広がる。羅針盤を周りに動かし、何かを感じたライフィセットが目を開く
「どう?」
「はっきり感じた。地脈点は何十個もあるけど、特に大きいのをいくつか見つけたよ」
「大きさまで感じ取れるのか」
「うん、この島の地脈点は他より大きいみたい。同じぐらいのが東と南東の方にもある。多分、虫がいたワァーグ樹林と、パラミデスの場所だと思う」
「だとすると、大きな地脈点のどれかに喰魔がいる確率が高いわね」
「残る喰魔は三体。数が絞り込めれば総当たりもできますね」
「だな。お手柄だぞ、ライフィセット」
ロクロウに褒められたライフィセットが少し恥ずかしそうにしていると今まで座っていたマギルゥが立ち上がる
「いやはや大したもんじゃわ。やはり坊は只者ではなさすぎるのー」
「そんなことないよ」
ベルベットはライフィセットの仕草に眉を一瞬動かす
「善は急げです。喰魔探しの準備をしましょう!」
「儂らは全然善じゃないがの♪」
一足先に梯子に向かうマギルゥの寒いギャグなのかどうかははわからないがマイペースすぎる彼女にエレノアは頭を抱えた
~
広間に戻るとダイルとクロガネ、そしてモアナが集まっていたのが見えた。彼らの足元、正確にはクロガネの足元に折れた刀が打ち捨てられている
「また折れたか・・・未熟!」
「刀が弱いんじゃなくて、あんたが馬鹿みたいに硬いだけだろう?」
「いや、俺を斬れないようでは話にならん。もっと硬い素材で、硬い刀を打たねば・・・」
ベルベット達に気付いたモアナがエレノアとライフィセットに走り寄る
「金剛鉄を試したいが・・・流石に夢物語か」
「“金剛鉄”って、この世で一番硬い金属だよね?」
ライフィセットがその金属のことについて質問する
「太古の遺跡で極稀に発掘される超希少金属だな、俺も欠片は見たことがあるが、刀が打てるほどの塊は聞いたこともない」
ライフィセットの横でアイゼンが答える、聖隷であるアイゼンでさえ見たことがないのだ。
「いや。二百年ほど前。ある古代遺跡で金剛鉄の塊が発掘されたという噂があった。だが、運んでいた船が嵐で沈んでしまったと」
「地の底から海の底へか」
「沈没船かぁ・・・海の底の財宝とか船乗りのロマンだよな」
ダイルが横で呟く、ロクロウは腕を組みながら考えている
「場所がわかれば引き上げられるんじゃないか?」
「船乗りも全員沈んだ。場所も知る者はない。そもそも何百年も昔の噂だ。当てにできん」
「そりゃそうだ。ない物ねだりしても仕方がない。きっと別にいい材料があるさ」
「ダイルのくせに、真面な事を言う」
「ダイルのくせにとはなんだよ!」
「ダイルのくせに、怒ってるー」
「その使い方はおかしいだろ、モアナ!?」
クロガネの真似をしてモアナもダイルを煽る、言葉の選びがあれだが
「モアナのくせに、おかしいかなー?」
「ふふふっ!」
ライフィセットが思わず吹き出し、モアナもそれに釣られて笑いだす。そこには和やかな空気が確かにあった
「さあて、目的は此処と似た大きさの地脈点。タイタニアから近い順に調べるわよ。方角はどっち?」
「近い順・・・それなら西の方角に一つあるよ」
「わかった。しっかり案内頼むわよ」
「うん!」
ベルベットに仕事を任せられライフィセットは元気よく頷く、一行は西へ向かうためバンエルティア号の待つ波止場へと足を向けた
~
第29話 終わり
次回も早めに投稿できるよう、努力していきます