テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜   作:スルタン

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今回はかなり短めです。お見苦しく申し訳ございません


第34話

 

雪原を過ぎヘラヴィーサの街に帰り着いたベルベット達、エレノアは市街に入ったと同時に住民の様子を遠目から確かめる

 

「異常は・・・でていないようですね・・・」

 

エレノアの言った通り周りに穢れや体調不良に陥っている人はいない。一安心しているとその横をベルベットとロクロウが通り抜ける

 

「今のうちに街を抜けて、タイタニアに戻るわよ」

 

ヘラヴィーサで一悶着起こした面子からしてみれば長居したくないのは当然である。幸い騒ぎを起こした時には住民は避難していて顔自体は見られておらず、街を通り過ぎるときに住民からは見られていたがエレノアが対魔士という事もあり護送かなにかと思われ怪しまれることはなかった。港からバンエルティア号で出航し、拠点であるタイタニアへと戻った

 

 

「・・・ここが貴方達のアジトか。私を逃がしたら致命傷になるわね」

 

聖隷術で拘束されたメディサがベルベット達の拠点を見まわしながら中へと続く扉へと歩きながら呟く

 

「寝首を掻かれないように、精々気を付けなさい」

「・・・言うわね」

 

ベルベットとメディサの間で空気が張り詰める、エレノアも後ろにいるがその空気に中てられたのか緊張した表情で二人を見る

 

「お帰りー!」

 

そこへモアナがエレノア達の所へ走ってくる

 

「あの子がモアナだよ」

「!!」

 

ライフィセットがメディサにモアナの事を紹介する、メディサはモアナの姿を見てある事に驚いている

 

「ディアナと同じくらい・・・!聖寮は、こんな小さな子を無理矢理喰魔に・・・!?」

 

モアナはライフィセットとエレノアの方へ走り寄るがそこにメディサがいたので立ち止まる。知らない人がいるので驚くのも無理はない

 

「・・・・・・」

 

メディサとモアナの目が合い、モアナは人見知りかそれとも怖いのかケンの後ろに隠れてしまう。エレノアはメディサを拘束している術に手を当て解除する

 

「エレノア!」

 

ベルベットが拘束を解いたエレノアに声を荒げる。メディサが自由になった事に困惑する、エレノアが後ろから話しかける

 

「お願いです、メディサ。あの子と話してあげてくれませんか?」

「・・・どういうつもり?」

 

メディサはエレノアの言葉の意味が分からず彼女に方へ向き直る

 

「モアナは喰魔です。だけど、お母さんを恋しがる普通の女の子なんです。私じゃ、あの子の悲しみを、不安を埋められない。でも、貴方なら・・・」

 

エレノアは悲痛な面持ちでメディサに懇願する。母親になった事のないエレノアではモアナを慰めることは難しい、メディサはそれを聞きモアナの方へ歩み寄る

 

「ごめんなさいね。怖がらせちゃったかしら」

「・・・うん、大丈夫・・・」

 

メディサは屈みモアナに視線を合わせる。モアナも申し訳なさそうにケンの陰から出てくる

 

「私はメディサっていうのよ」

 

メディサはモアナの手を取り自己紹介するもその表情は不安がある

 

「怖い・・・わよね?」

「・・・ちょっと。でも、ベルベットやダイルより怖くないよ。それよりおばちゃんは・・・モアナが怖くないの?」

 

その言葉にメディサは驚く

 

「夢を見たの、モアナのお母さんが・・・モアナを怖いって・・・いらないっていう夢・・・でも、最後にお話しした時、愛してるっていってくれた。夢だからそんなことないってわかってる」

 

そこまで聞いたメディサはモアナを抱きしめる

 

「怖いものですか・・・!お母さんが、子供をいらないなんて思うわけないわ。私も・・・お母さんだから・・・お母さんは、自分が死んでも・・・世界がどうなっても・・・子供を愛しているのよ・あなたを・・・誰よりも一番・・・」

 

メディサは涙を流しながらそう言い切る

 

「泣かないで、おばちゃん・・・」

 

その様子を少し離れた所で見ていたライフィセットが呟く

 

「モアナとメディサ・・・寂しくなくなるといいけど」

「そうね。泣き止ませるの大変だし」

 

ライフィセットはふと気になったのかベルベットに質問する

 

「聞いてもいい?ベルベットのお母さんって・・・」

「亡くなったわ。あたしがあんたより小さい頃に」

「あ・・・ごめん」

「別にいいわ」

 

ライフィセットはよくない質問をしたと思い謝罪するがベルベットは気にしていないようだ

 

「つまり、あたしも、あんたと似たようなもの。だから一人で寂しがっちゃ駄目よ?」

「ぼ、僕は平気だよっ!寂しくなんかないんだから!」

 

ライフィセットは恐らく子供扱いされたと思ったのか強がって否定するベルベットはそんなつもりは毛頭なかったので逆に驚いている

 

「なんで怒るわけ?変な子ねぇ」

「変じゃないよ、もう・・・!」

「・・・エレノア、モアナとメディサの監視は任せるわよ」

「は、はい!ありがとうございます」

 

エレノアはまさかベルベットがメディサの保護に了承するとは思わなかったのだろう

 

「いいの?対魔士が災禍のなんとかにお礼なんか言って」

「い、いいじゃないですか。魔王が細かいことを気にしないでください」

 

エレノアはさらっと魔王呼びしているが誰もそのことに突っ込まない。毒されてきたのだろうか、そんな中拠点の中にいたベンウィックがベルベットに声を掛ける

 

「ベルベット、グリモワールが呼んでたぜ。ライフィットを連れて監視塔に来てくれって」

「わかったわ」

「すぐに行こう」

 

グリモワールからお呼びがかかったということはいうことは古文書に何か重要なことが明記されていると判明したに違いない。ベルベット達は足早にアジトの中に入っていった

 

 

「ね・・・ロクロウたちは、お母さんいる?」

「ん、急にどうした?」

 

監視塔へ向かうため廊下を歩いている最中ライフィセットがそう切り出す。ロクロウはそんな質問をしたライフィットに尋ねる

 

「うん。モアナやエレノアもだけど、ベルベットにも両親がいないってわかったから気になって・・・」

「俺の母親も、メチャクチャ厳しくて怖い人だったが、やっぱり随分前に死んじまったよ」

「そう・・・」

 

ロクロウは特に躊躇することなく答える

 

「儂に親はおらん。儂を拾った悪~い魔法使いによれば、川を流れていた桃の中から生まれたそうじゃよ」

「お前なら本当にそうかもな・・・」

 

マギルゥはどこかで聞いたことがあるような事をいいだす。少なくとも桃の中から生まれたのは嘘だろう

 

「ア、アイゼンは?」

「俺たち聖隷は、清浄な霊力が集まって生まれる存在だ。稀に人間から聖隷に転生する者もいるが、生前の記憶を維持することは、まずない。つまり、人間と同じような血縁関係はないということだ」

「そっか・・・僕も気づいた時には二号って呼ばれて使役されてた。その前の事が思い出せないのは、お母さん自体がいないからなんだね。僕はメディサに『お母さんが死ぬのはすごく悲しいこと』なんて言ったけど、本当の辛さは、わからないものかもしれない・・・」

「子供にも容赦ないの~」

「単なる事実だ」

 

マギルゥがアイゼンの横で愚痴るがアイゼンは事実を伝えただけ。誤魔化しても仕方ないのだ

 

「だがな、ライフィセット。血縁関係がないからと言って、特別な絆は感じられないわけじゃない。聖隷であっても、掛け替えのない存在の――家族や友との繋がりをもっているんだ」

「だよな。お前の言葉が本気じゃなかったら、メディサは止まらなかったはずだ」

「そうなのかな・・・」

「きっとそうさ」

 

血の繋がりはなくとも、心は繋がることはできる。ライフィセットにはそれがあったからこそメディサに届いたのだ

 

「桃から生まれた魔女よりは、ずっとな」

「こりゃあ!桃生まれを舐めるでないぞ!儂にじゃって、犬、猿、雉とビエンフーとの特別すぎる絆があるわいー!」

「そうだといいな・・・所で、さ、ケンの家族はどうしてるの?」

 

マギルゥが猿のようにキーキー騒いでる横でライフィセットがケンに聞く

 

「まぁ、健在なんじゃないかな。もう会ってないし、連絡も取れないから」

「それってどういうこと?」

 

ライフィセットはケンの物言いに疑問符を浮かべる。家族の事なのにどこか他人行儀だからだ

 

「なんじゃなんじゃケンよ~。まさかお主、勘当されたのかえ~?」

「勘当という訳ではないのですが・・・とにかく自分の事は後回しにして、グリモワールさんの所に行きましょう」

 

ケンは話を切り上げて皆を急かす。ライフィセットやアイゼン達はその事を疑問に思ったが監視塔への廊下を進んでいった

 

 

「来たわね」

 

監視塔の屋上へと続く梯子を上ると縁の所で寝転んでいるグリモワールがいた

 

「グリモ先生。解読が進んだの?」

「ええ。『かぞえ歌』にはね、二番があったのよ・・・読み下しておいたから・・・坊や、読んであげて」

「うん。ええと・・・」

 

ライフィセットがグリモワールの側までより、古文書を受け取りながら読み始める

 

「八つの穢れ溢るる時に 嘆きの果てに彼之主は無間の民のいきどまり いつぞの姿に還らしめん 四つの聖主の怒れる剣が 御食しの業を切り裂いて 二つにわかれ眠れる大地 緋色の月夜は魔を照らす 忌み名の聖主心はひとつ 忌み名の聖主体はひとつ」

「おふぅ・・・なんじゃか不吉な文句ばかりじゃのー」

 

ライフィセットが歌を詠み終えると不吉な言葉ばかりでマギルゥがため息をつく

 

「二番の歌詞は・・・カノヌシの性質を表してる?」

「おそらくそうよ」

 

ベルベットの推測にグリモワールが肯定する

 

「八つの穢れ溢るる時に 嘆きの果てに彼之主は無間の民のいきどまり・・・か」

「世界に穢れが満ちた時、カノヌシがその力で『民のいきどまり』をもたらす・・・と読めるな」

「人間を滅ぼすというのですか!?」

「おいおい、聖寮はそんな目的でカノヌシを復活させようとしてたのか?」

 

アイゼンの解釈にエレノアが勘ぐり、ロクロウはそれが事実なら自滅じみたことをしようとする聖寮のやり方に驚く

 

「違う!アルトリウスは、そんな男じゃない!」

 

そこにベルベットが声を上げる。皆はそれに驚き彼女の方を見る

 

「・・・あいつの理想は『個より全』、『理を意志による秩序の回復』よ。だから、世界を守るためにラフィを犠牲にした」

「『お主の知っとるアルトリウスは』じゃろ?」

 

マギルゥは横から割り込む、ベルベットの言い方だとアルトリウスがそういう目的で動いてくれないと自らの同一性が揺らいでしまう。故にそう決めつけないといけないのだ

 

「じゃが、人は変わるぞ。導師とて絶望したのやもしれん。業に流されて穢れを出し続ける、愚かな人間どもに・・・のう」

 

いくら自らを戒めても、どんなに導こうとしても、人が皆それに賛同し一つの道に向かおうとする者はまずいない。そしてこの時代なら尚更だ、負の側面が強いこの時勢であれば

 

「・・・そんな奴じゃない。もしそうなら、ラフィはなんのために・・・」

 

生贄として犠牲となったのか

 

「古文書の続きには、なにか書かれていないのですか?」

「それが、この古文書は完本じゃなかったの。まだ続きがあるはずだけど欠けてしまっているのよ・・・だから、今できる解読はここまで」

「ちっ・・・」

 

手持ちの古文書ではこれ以上情報が得られないことにベルベットが舌打ちする

 

「だが、原本はどこかにあるんだよな?」

「あってこそのカノヌシ復活計画だろう。聖寮はカノヌシの性質を完全に把握している」

「でも、王都の離宮にあったのがこれだし、原本の手がかりはないよ・・・」

 

行き詰まり皆がこれからどうするか思案しているところにエレノアが窘める

 

「今日はもう遅いです。ここまでにして休みましょう」

「・・・そうね」

 

埒が明かない上に一日中動きぱなしだったので皆の疲労も溜まっている。エレノアの提案に従い会議は終了。全員屋上から降りそれぞれ休息を取ることになった。

 

 

深夜、夜も更けアジトは見張り以外は皆寝静まり今聞こえるのは風と波が打ちつける音のみが響くのみとなっている。先に就いていた乗組員と交代したケンは一人波止場から海を見ている

 

「あの時ははぐらかしてしまったけど・・・そろそろ隠し通すのも難しくなってきてしまった。今度聞かれたらどうしようか」

 

側にある木箱に腰掛け考え込む。ルシフェルからも、あの科学者からも言われた。自分がこの世界の人間じゃないということ、家族とはもう何の繋がりがないということを感づかれてしまえばじゃあ何だという話になる

 

「ふぅ・・・」

 

溜息しか出ないケンそこに声が響く

 

「ついにこの時が来てしまったようだな」

 

ケンが声のした方向へ顔を向けるとルシフェルが積まれた物資箱の上で膝を組みながら座っていた

 

「ええ・・・向こうは何気なく聞いたつもりでしたでしょうけど。少し焦ってしまいました、次聞かれたら話すしかないでしょう」

「だろうな。君のあの話し方をしたら誰だって怪しむし興味も出る、まだ時間はある。決心だけはしておいた方がいい」

 

スマホでゲームをしながら話すルシフェルから視線を外し見張りを再開するケン

 

「少しは寝ておいたらどうだ。あれからほとんど休んでいないだろ」

「一時間ほど眠りましたので大丈夫ですよ」

 

ゲームを一時中断したルシフェルが木箱から降りケンの隣に立つ

 

「見張りぐらいならできるさ。どうせ暇だしね、何かあったら起こすよ、今日ぐらいサボっても罰は当たらんさ」

「う~ん、そこまで言うなら・・・わかりました」

 

しばらくして腰かけたまま眠るケンの横で海を見ているルシフェル

 

「これから物語が大きく動き出す・・・か、どうなることやら」

 

彼の視線の先で徐々に明るくなる空を見ながらそう呟いた

 

 

日も登り切り船を整備している波止場でこれからの事を相談しあうためベルベット達が集まる

 

「ライフィセットー!モアナ、昨日はメディサと寝たんだよー。蛇だけど、あったかかった」

 

そこへメディサと一緒にモアナがライフィセット達に手を振りながら走り寄る

 

「よかったね」

「今からメディサとお風呂に入るの。ライフィセットも、一緒に入ろー」

 

いきなりとんでもない誘いにライフィセットが固まる

 

「え!困るよ・・・」

「いいよー、モアナは困らないから」

 

ライフィセットは異性と入浴なんてしたこともないし聖隷ではあるが思春期に差し掛かっているであろうライフィセットにはとてもできることではない。困らないといってもこっちが困る

 

「ええっと・・・」

 

逃げ道がなくなったライフィセットにエレノアが助け舟を出す

 

「モアナ、知っていますか?ダイルの尻尾が、新しく生えかかっているんですよ」

「本当!?みたい!」

 

モアナがそれに反応して興味がダイルの尻尾の方へ向く。簡単に言うと生贄である

 

「ダイルは監視塔に行ったようです」

「いってみる!メディサもいこ!」

 

モアナがダイルの所へ行こうとメディサの腕を引っ張る

 

「・・・ええ。でも、走ると転ぶわよ」

 

モアナはお構いなしにメディサを連れて監視塔へと向かっていった

 

「・・・ありがとう、エレノア」

 

安堵の溜息をつきながらお礼を言うライフィセット

 

「女の子の扱いが下手ですね。私の聖隷は」

 

それにベルベットが反応しエレノアを睨む

 

「モアナ、元気になってよかった。メディサも」

「はい。問題が解決したわけじゃないけど、笑ってくれるのは救いです」

「重要なのは、こっちの問題よ。早く次の地脈点を感知して」

「う、うん」

 

ベルベットはどことなく怒った表情にライフィセットがたじろぎながら羅針盤を取り出す。どう見ても嫉妬だ

 

「もう少し言い方があるでしょう?」

「時間がない。相手は聖寮。遅かれ早かれここも見つかるわ」

「それはそうですが・・・」

 

ベルベットの言い分はわかるが問題はその言い方であるといいたいエレノア

 

「別の隠れ家を探すか?」

「ううん、守るより攻める。見つかる前に残りの喰魔を捕らえるのよ」

「剣術でいう『先の先』だな」

「守り切るのは難しいものな―」

 

マギルゥはベルベットにどこか皮肉の聞いた言葉にベルベットが小さく呟く

 

「・・・守る義理なんてないからよ」

「地脈点があった!イーストガンド領の・・・東の方・・・みたい」

「そこって・・・」

 

心当たりのあるベルベットが言葉に詰まるもすぐに続ける

 

「・・・了解。イーストガンド領の東ね」

「なら、まずタリシエンの港に向かおう」

 

アイゼンは乗組員に出向の準備をさせるため号令を掛ける。それから数時間後、バンエルティア号はモアナやメディサ、ダイルとクロガネ、パーシバル達に見送られながらイーストガンド領へ向けて出港を開始した

 

 

第34話 終わり




次回からは一万字は書けるように頑張ります

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