テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜   作:スルタン

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アライズ発売おめでとうございます。購入はしているのですがこの作品が完結するまではお預けです


第40話

 

神依を纏ったオスカーは僅かに浮遊しベルベット達に向かって突撃する。そのスピードは予想を遥かに上回るほど早い

 

「おおおおっ!!」

 

ベルベット達が構える暇もなくその中を通り過ぎた風圧で大きく後退る

 

「な、なんじゃこりゃあ~!」

「聖隷と一体化した!?」

 

マギルゥがバランスを取ろうと両腕を振り回し、ベルベットが片手で地面を削りながらその力に驚愕する

 

「これほどの術だったか!」

「一瞬でも油断したらやられるぞ!!」

「オスカー・・・!」

 

ロクロウとアイゼンは足を踏ん張り、エレノアが柄を地面に突き立て静かに彼の名を叫ぶ

 

「うわあ!!」

「なんて力だ・・・!」

 

ライフィセットがケンのズボンにしがみついて風圧に耐える。オスカーが体の向きを変え両腕を前に構える

 

「千の毒晶!!」

 

オスカーの周りから剣の形をした結晶が無数に現れベルベット達目掛けて飛来する

 

「不味い!」

 

ケンがウルトラショットを素早く連射して結晶の剣を相殺する。撃ち漏らしたものはベルベットとロクロウ、エレノアが武器で弾きながらオスカーに向かって走り出す

 

「奴に速さで対抗するのは無謀だ、隙を突くしかないぞ!ウィンドランス!」

 

アイゼンが牽制のため聖隷術で反撃するも容易く躱されるがそこにベルベットが跳躍し業魔手を振るいあげる

 

「だぁぁっ!」

「しっ!」

 

オスカーが手元から神依の力で作り出した半透明の光る剣でベルベットの業魔手を受け止める。上から押さえつける形でオスカーの動きが止まる。左右に回り込んだロクロウとエレノアが攻勢をかける

 

「動きが止まった!仕掛けるっ!枝垂星!!」

「っ・・・!!裂駆槍!」

 

ロクロウが頭上から斬撃を、エレノアが槍のリーチを生かした刺突を繰り出す

 

「無駄だぁ!!」

 

オスカーが背中の翼を自身の周りへ動かし二人の攻撃を防ぐ。金属特有の音が響く

 

「ぐっ!?」

「ううっ!」

 

予想外の行動でロクロウとエレノアが体勢を崩す。オスカーはそれを逃さず翼を広げ二人を弾き飛ばし今度はベルベットに攻撃を仕掛ける

 

「神依の力を見せてやる!!」

「何ならそれごと喰らってやる!」

 

ベルベットが刺突刃で斬りかかる、オスカーがそれに素早く反応し剣でベルベットの業魔手を押しのけサマーソルトキックで刺突刃をかちあげる

 

「速い!?」

「竜の裂華ぁ!!」

 

神依の力で竜巻を纏った蹴りがベルベットの腹部を捉える。寸前でベルベットが右腕を戻し手甲で蹴りを受ける。直撃は免れたが衝撃と風圧で後方へと弾き飛ばされた

 

「ぐうぅ!!」

 

オスカーが追撃しようと走り出すがそこにアイゼンが割って入る

 

「邪魔をするな!!」

「こっちも引けねえんだよ!」

 

オスカーが結晶の剣で斬りかかる、アイゼンはそれをスウェーで躱し彼の脇腹目がけてフックを叩き込む

 

「うおお!冬木立(クラスター)!」

「甘い!」

 

アイゼンのフックはオスカーの翼に阻まれる

 

「甘いのはそっちだ、ライフィセット!マギルゥ!」

「白黒混ざれ!シェイドブライト!」

「隙ありじゃ!アクアスプリット!」

 

ライフィセットの光弾とマギルゥの水弾がオスカーの両側から迫る。アイゼンはオスカーを逃がさぬようさらに喰いかかる

 

「はあああ!!ウェイストレス・メイヘム!」

 

拳の連打を叩き込み押さえつける。が、オスカーが目を見開き地面を抉るかのように擦れ擦れの下段蹴りを放つ、それがアイゼンの足を払う

 

「薙ぎて斬刀!!」

「うおおっ!?」

 

アイゼンが一瞬宙に浮きあがる、オスカーが両手を広げる

 

「衝きて刹陣!!」

 

オスカーから放出される波動がアイゼンを吹き飛ばしライフィセットとマギルゥの術をかき消す。その余波で二人も大きく体制を崩す

 

「ひょえええ!!」

「うああっ!」

 

オスカーがライフィセットに目をつけ彼目掛けて走り出す

 

「先ずはお前からだ!」

「ううっ・・・!漆黒渦巻き軟泥捉えよ!ヴォイドラグーン!」

 

ライフィセットが圧に僅かに押されながらも聖隷術を発動しオスカーの足元から漆黒の沼が現れその足を止めようとするがオスカーが反応し素早く躱す。結晶の剣がライフィセットに迫る

 

「させん!!」

 

ロクロウが小太刀の片方をオスカーに向かって投擲する

 

「ちっ!」

 

小太刀を弾き返すオスカーにロクロウはもう片方の小太刀を構え印を切る

 

「四の型・疾空!!」

 

小太刀から鎌鼬を放ちライフィセットから引き離す為接近するロクロウ、オスカーが鎌鼬を打ち消し迎撃しようと構えたその時後ろからベルベットが向かってくる

 

「旋月華!」

「くっ!」

 

風を纏った回し蹴りを咄嗟に翼で受け止める、動きが止まり投げた小太刀を拾い上げながら助走をつけたロクロウの突きがオスカーの喉元を狙う

 

「風迅剣!!」

「うおおっ!」

 

結晶の剣を目の前で交差させロクロウの突きを受け止める。そこに横からエレノアが槍を回転させながら向かってくる

 

「炎月輪!!」

「ぐおおっ!!」

 

もう片方の翼で受け止める、三人の攻撃を防いだがそれは同時に手が塞がってこれ以上防御できないことを意味する

 

「ライフィセット!」

「しまった!?」

 

ベルベットが合図を送りオスカーが眼前に術を発動するライフィセットに反応するが遅かった

 

「シェイドブライト!!」

「ぐああっ!!」

 

光弾がオスカーに命中する直前に三人が離脱、圧がなくなったことに僅かに意識がそれた事で術の直撃を許す

 

「ダメ押しじゃ!!フラッドウォール!」

「ううっ!」

 

水の壁がオスカーの身体を押しやりさらに体勢を崩す。其処に波を掻き分けケンがオスカーに体当たりで攻撃する

 

「ふん!!」

「ぐふっ!!」

 

ケンの巨体に弾き飛ばされ地面を擦りながらも立て直したオスカーが息を切らしながらも立ち上がる

 

「はぁ・・・はぁ・・・まだだ・・・!まだ崩れるな・・・神衣!!」

「え・・!?」

 

オスカーは苦しそうに呻くがその目に宿る闘志は以前燃えたままだ。エレノアがオスカーの言葉に不信感を覚えるが彼は止まらない。彼の体が輝き神依の力をさらに引き出す

 

「ここで止まれない!止まるわけにはいかない!!お前たちを倒すまで!」

「次で仕留めに掛かってくるぞ!!何としてでも止めろ!冷気の渦よ凍結しろ!フリジットフォトン!」

「死なば諸共なぞ死んでもごめんじゃぞ!!ブレイズスウォーム!」

 

吹き飛ばされたアイゼンが立て直し氷の塊を発射、マギルゥが爆炎を発生させる。

 

「うおおおっ!千の毒晶!!」

 

神依の力で結晶の剣の数が数倍に増大し圧倒的な数で二人の攻撃がかき消される

 

「くそっ!!ストーンエッジ!」

「ひええ~!!」

 

アイゼンが岩石の槍を繰り出しそれを盾代わりにして防ぐ。マギルゥもアイゼンの後ろに隠れる、だが強化された剣が徐々に岩を削り始める

 

「あのままじゃ串刺しだ!次で仕留める!」

「相手も必死ということ!あと少しで・・!」

「ここで止めないと・・・!」

 

三人が走り出し、ケンも意を決し後に続く。オスカーがベルベット達に気づき一気に勝負を仕掛ける

 

「はああ!剣よ貫け!!」

 

オスカーが手を振りかざし大量の結晶の剣を繰り出し射出する。そこにロクロウとエレノアがベルベットの前に出る

 

「瞬撃必倒!相伝の秘技、刮目せよ!嵐月流・白鷺!」

「参ります!響け!集え!全てを滅する刃と化せ!ロストフォン・ドライブ!」

 

ロクロウの神速の斬撃、エレノアの刺突が結晶の剣の剣を迎撃し破壊する。全てを破壊した後エレノアが槍を突きあげ白色の光線がオスカーに向けて放たれる

 

「そして爆ぜよ!!」

 

オスカーに光線が直撃する寸前は赤色の波動を放出しそれを掻き消し相殺し間髪入れずエレノア達に突撃する

 

「シルフィードブレイズ!!!」

 

捨て身ともいえる特攻に二人は避ける時間はなく身構える。その時二人の間からケンが飛び出し跳躍する

 

「イヤァ!!」

 

ケンの右足が赤く発光し、レオキックとオスカーの突撃が激突する

 

「うおおっ!!!」

「ぬがああ!」

 

数瞬の拮抗、だがそれが直に終わり両者が大きく弾き飛ばされる。オスカーは機動力に優れる風の神依の力で素早く体勢を立て直しケンの方を睨みつける。ケンは慣性の法則に従い落下しながらも同じく持ち直す

 

「仕留める!!」

 

それを見逃さないオスカーが再度急降下しケンの眼前に迫る

 

「不味い!アイゼン!」

「駄目だ!間に合わん!!」

 

ロクロウがアイゼンに向かって叫ぶがアイゼンもこの状況では援護できない。だがケンはチャンスを伺っていた彼の下にはオスカーが投げた剣が地面に刺さっておりそれに両足を掛け踏ん張りもう一度飛び上がる、死角に隠れていたためオスカーからしてみれば飛行したように見えただろう

 

「レオキック二段蹴りぃ!!」

 

不意を突かれたオスカーの腹をしたから蹴り上げる

 

「ごふう!?」

「ベルベットさん!!」

「はっ!?」

 

蹴り上げた先にベルベットが業魔手を構え降下していた

 

「容赦しない!一撃じゃ生温い!絶破、滅衝撃!」

 

業魔手がオスカーの背中を叩き衝撃波で地面に叩き落とす

 

「うわあああああ!!!」

 

大きな土煙が上がりやがて晴れる、俯せのオスカーが倒れていた。ベルベットが地面に降り立つ

 

「はぁ・・・はぁ・・・何とか・・・勝てた・・・」

「今度ばかりは、どうなる事かと思ったわい・・」

「あれが神依の力か、力は劣るとはいえ集団で来られたら対処は難しいぞ」

 

皆が口々に言う中オスカーがふらつきながらも立ち上がる。ボロボロの状態ではもう戦えない、エレノアが止めるよう説得する

 

「お願いです、オスカー!これ以上は――」

「許さない・・・!姉上を傷付けたお前たちを!!があああああ・・!!」

「聖隷の暴走か!?」

 

オスカーが無理矢理力を開放するが先ほどとは様子が違う。勘で気づいたロクロウが再度構える

 

「いかん!ドラゴン化するぞ!」

「喰らってとめぃ!ベルベット!」

「待って、この人は・・・!」

 

ライフィセットが制止しようとするがオスカーが彼目掛けて突っ込んでくる

 

「うおおおお!!」

「!!」

 

ベルベットがラフィセットの前に立ち業魔手を振りかぶる。それをオスカーが躱し刃を纏った手刀を振り下ろす。それを回転しながら横に躱し後ろ回し蹴りで反撃、オスカーが屈んで躱すが体力の消耗か反応が鈍くなる。ベルベットは刺突刃で振り払い後ろへ追い詰める。オスカーはそれを何とか躱すが業魔手が迫りそれを回避する手段がなく防御するが振り上げに腕を弾かれる大きな隙が生まれた。ベルベットはそれを逃さず飛び上がり体を捻りながらオスカーの後ろへ飛び上がり業魔手を振り下ろした、間合いも隙も入り確実に背中へ当たる寸前、オスカーの体から神依が消え去り人間の状態になった彼の背中に業魔手が振るい降ろされた

 

「うあああああああ!!!」

「!!!」

 

手応えがありすぎたベルベットの表情が驚愕に染まる。だが気づいたときには押すかは糸の切れた人形のように力なく倒れた。即死だった。ベルベットがオスカーの死体と自身の左腕を見る、神衣だけを喰らうつもりだったベルベットの本意とはまったく違う結果になった。自らがされたことを自らが行ってしまったのだ。そこへテレサが目を見開き力なく近づいて来た

 

「殺した・・・な・・・」

「違う・・・」

 

涙を浮かべるテレサの前で必死に否定するベルベット

 

「いい子だったのよ?誕生日にイヤリングをくれたの。本当は、婚約者に渡す家宝なのに、そうとは知らず私に・・・一番大切な女性にあげるものよって返そうとしたら、あの子・・・それは姉上だよって笑って・・・無邪気で・・・とても・・・優しい子だったのにっ!」

 

テレサの殺意の籠った視線がベルベットに突き刺さる。動揺するベルベットに叫ぶ

 

「オスカーを殺したなっ!!」

 

その言葉にベルベットの脳裏に三年前のあの夜の記憶が蘇る

 

「よくもっ!!」

 

祠の大穴に落ちていく弟を

 

「よくもっ!!」

 

命が潰えた弟の体が小さくなっていく様を

 

「よくもぉぉっ!!!」

 

テレサが叫びながら向かってくる。その時脳裏に仇であるアルトリウスの顔が浮かぶ、自らがアルトリウスと同じことをした事実にベルベットが叫ぶ

 

「うああああああ~~~ッ!!」

 

それを否定するかのように業魔手を出しベルベットが駆け出す

 

「やめてっ!!」

「殺すな!」

 

ライフィセットとアイゼンが止めようと声を上げるが距離が開いてしまっているため間に合わない。テレサがベルベットの首を掴み飛行しながら後ろの岩に叩きつけようとする

 

「ぐう!!」

「ああっ!!」

 

だがベルベットは咄嗟に腕を払いのけテレサが大きくバランスを崩す。直後に跳び上がり捻りながらテレサの背中に業魔手を振るった

 

「きゃあああああっ!!!」

「!!」

 

ベルベットが着地し元の姿に戻ったテレサが地面に落ちるその光景にライフィセットは声を上げることすらできない。テレサはオスカーの亡骸のすぐ傍まで這いずり、その手に自らの手を重ねる

 

「ひどい怪我・・・すぐに手当を・・・泣かないで・・・あなたは強い子・・・よ・・・」

 

眠っているような表情のオスカーに涙を浮かべながら必死に励ますテレサ

 

「オス・・・カー・・・」

 

テレサもそこで事切れ手を重ねたまま亡くなった。そこから赤黒い瘴気が出始めそれがベルベットの業魔手に取り込まれていく。二人の魂を回収したのだろう

 

「テレサ・・・・オスカー・・・」

 

ベルベットが二人の名を呟く、マギルゥが一人溜息を吐く

 

「・・・喰魔の回収は失敗じゃな」

「・・・先にやったのは・・・そっちよ・・・」

 

聞いていないのかではなく聞く余裕がないかのようにベルベットが震える声でぼそぼそと話す。懐から櫛を取り出す。それがないと壊れてしまいそうだから

 

「だから、あたしは・・・ラフィの・・・!弟のため・・・に・・・」

 

精神が限界に達したベルベットが力なく膝を着き倒れる。そこへライフィセットが走っていくのが見えた

 

 

ベルベットはいつぞやの白い空間にいた。花が咲き誇り朽ちた石柱はオスカーとテレサと戦った場所だ。違うとすれば景色が真っ白であるということ。ベルベットの視界には自分の殺したオスカーとテレサが目を見開き自らを睨んでいる死体だった

 

「・・・死んだ・・・違う・・・“殺した”・・・あたしはアルトリウスと同じことをした。テレサ(あいつ)の目の前で弟を・・・」

「同じじゃないよ」

 

ベルベットの後ろにはいつの間にか姉のセリカと弟のライフィセットが立っていた。ライフィセットがやんわりとベルベットの言葉を否定する。だがベルベットが振り向きながら叫ぶ

 

 

「同じよっ!けど、仕方なかった!仇を討つには、ああするしか!!あんたのためよッ!!あんたのために、あたしはッ!!」

 

ベルベットが弟の肩を掴みながら叫ぶ。弟の為、生きる為、だが違う視点から見れば弟の死を盾にしているようにも見えた。自身の心を良心から来る圧から守るために。その時何かが潰れる音が響く、ベルベットの左腕が業魔手に変わっており倒れたライフィセットが変わり果てた姿をしていた

 

「ああ・・・あ・・」

 

“為”ではなく責任にしてしまったベルベットは自身の体を抱く

 

「もうこんなの・・・」

「どこにも逃げ道はないのよ」

「お前にも、俺にもな」

 

セリカとアーサーの幻影が無情にそう語りかける

 

「・・・」

 

ベルベットはそれにただ耐えるしかなかった

 

 

ベルベットが意識を取り戻す少し前、二人の遺体を火葬するための準備が終わろうとしていた。モアナの母親と同じく放置や土葬では穢れが集まり業魔になる可能性があるためだ。薪を集め組み上げ遺体を安置し顔に布を掛ける。準備を終えたケンがアイゼン達に報告する

 

「準備終わりました。では早速」

「ああ、始めろ」

 

アイゼンが答え薪に火を着け火葬を始める、遺体が炎に包まれるのをアイゼン達が見守る中ベルベットが目を覚ます。傍で見ていたライフィセットが駆け寄るがその表情は優れない

 

「・・・その通りね」

 

意識の中で欠けられた言葉に独り言のように肯定し立ち上がる

 

「大丈夫か?」

「一気に喰べ過ぎただけ」

 

ロクロウが調子を聞く、ベルベットはいつものようにそう答える

 

「・・・あの二人は。仲のいい兄弟でした。幼い頃から互いに支えあって――」

 

エレノアがオスカーとテレサの事を思い出を話す、だがベルベットが口を挟む

 

「やられたことをやり返しただけよ」

「それで誰かが救われるのですかっ!!」

「ええ。殺されたラフィの魂がね」

「・・・」

「・・・」

 

友人で仲間だったエレノア、聖寮に弟を奪われたベルベット。正反対の主張は平行線になる、そこに能天気にマギルゥが口を開く

 

「とにかく喰魔の回収は失敗じゃ。今頃、別の喰魔が生まれているじゃろうて」

「行くぞ。後始末も終わった、港に戻ってそいつを探す」

 

話している内に処理も終わり遺灰を葬った一行は港に向かってもと来た道を歩き出す

 

「・・・そうね」

 

 

もと来た道を戻り拠点が見えてきた時ベンウィックの元に一羽の鳩が止まる。鳩の脚には小さな筒が取り付けられていてベンウィックがそれを外し書かれている内容を見る。それを見たベンウィックが慌てた様子で丁度戻って来たベルベット達の方へ走ってくる

 

「大変だ、副長!ゼクソン港から緊急連絡!数十人の対魔士を乗せた船がタイタニアに向かって出航!目的は“災禍の顕主の討伐”だって!」

「ぷしゅ~、隠れ家がば~れ~た~・・・」

 

マギルゥがそういうが隠れ家といってもデカすぎてバレやすいと思うんだが。ベルベットがエレノアの方を睨む

 

「違う!密告なんてしていません!」

「だったら、手伝ってもらうわよ。喰魔たちを救出しなきゃ」

「させません。モアナに、またあんなこと・・・」

 

緊迫した空気の中アイゼンがベンウィックに情報の確認を取る

 

「待て。その情報の出所は血翅蝶か?」

「ううん。いつも取引してる商人からです」

 

アイゼンがその報告に目つきを変える

 

「本来、作戦情報は開始するまで部下にも知らせない機密だ。それが一般人にバレてやがる」

「罠ってこと?」

「退く選択肢はないわ」

「事情は敵も見抜いている。その上で罠を仕掛けるのは、必勝の手段があるからだ」

 

アイゼンの推測にライフィセットがオスカーの事を思い出す

 

「神依!!」

「今度の敵は、神依を使う対魔士共かもしれん」

「あれは業魔手でも喰い剥がせん。ケンの技ももっともじゃ、謂わば、お主の天敵じゃぞ?」

 

マギルゥに言われ間が開いた後ベルベットが答える

 

「喰えないなら、普通に殺すまでよ」

「だな。神依は受け切れば勝てる」

 

ロクロウもそれに賛同する

 

「オスカーの様に・・・か。確かに、まだあれは未完成のようだ」

「どうやら、一定時間を過ぎると融合した聖隷がドラゴン化してしまうらしいのドラゴンの暴走を防ぐために、限界を超えた時、対魔士と聖隷を自壊させる術を組み込んでいるようじゃ」

 

時限爆弾を抱えながら戦う様は正に狂気ともいえる

 

「自壊・・・そこまでやるのですね」

「・・・」

「全ては推測にすぎんが、できるだけ準備は整えて行こうぞ。思い残すことがないようにのう・・・」

 

皆がこれからの事を話し合っている時その様子を遠くからビエンフーが見ていた

 

「・・・・」

「・・・」

 

それを横目でマギルゥが見ており溜息をついた

 

 

大急ぎで出航準備をしている中。アイゼンが今回の事に疑問点があった

 

「・・・今回の聖寮の行動・・・どうにも腑に落ちん」

「はい。情報を漏らしたのがわざとだとして、私たちを放置するのはおかしいですよね。普通、私たちを追い込む作戦を同時に進行するはずです」

 

エレノアも同じことを考えていたようで推測を述べる

 

「監獄島の仲間を人質にとったつもりかもしれんが、計略に穴がありすぎる」

「俺達がモアナ達を見捨てて逃げたら、ベルベットを取り逃がしちまうもんな」

 

顎に手を当て考えていたマギルゥが呟く

 

「やつらは本当に喰魔を取り返したいのかのー?」

「・・・何が引っ掛かる?」

「なぜ、メルキオルはアバルに幻術を掛け、ベルベットを追い込んだのか・・・じゃ」

「それは・・・ベルベットを捕まえる為でしょ?」

「それが無理なら、あいつを殺して別の喰魔を作ろうって腹積もりじゃないのか」

「じゃが、そこまで喰魔を確保したいなら何故オルトロスをほっぽっておいたのじゃ?」

 

マギルゥの考えは至極全うだこれではいつでも逃げれるし情報も筒抜けだ

 

「確かにおかしいな。メルキオルがいたってのに、オルトロスを守ろうとしてなかった」

「意味がわからない・・・なんか嫌がらせみたいだ・・・」

「それこそ意味がないですよ。嫌がらせで、私たちが諦めるはずもないですし」

「いや・・・案外、正解に近いかもしれん。タイタニアへの襲撃も、俺達への揺さぶりが目的だとすれば、辻褄は合う」

「なんにせよ、不吉な予感がするのう・・・」

 

マギルゥの予感は的中することになる

 

 

その後バンエルティア号は出航し、大急ぎでタイタニアへと向かうがいくら世界一の船といえど数日はかかるだろう。甲板には一人ビエンフーが一羽の鳥に何かを吹き込んでいた

 

「頼むでフよ。一行は後一日、二日でタイタニアに到着と伝えてほしいでフ・・・」

「密偵はお主じゃったか、ビエンフー」

 

ビエンフーが声のする方向へ顔を向けると其処にマギルゥが立っていた

 

「マ、マギルゥ姐さん・・・」

 

驚くビエンフーを他所にマギルゥが手を翳すと光が現れそれと同時にビエンフーの身体から術式が浮かび上がる

 

「気がつかなんだ。儂の契約術に強制術を重ね書きしてある。流石は、お師さんじゃな」

 

マギルゥの表情はどこか嬉しそうだ、次に重ね掛けしてある術を解除する

 

「まさか、お主が最初に逃げた時点から、あのジジイの策だったとはのう。儂をタイタニアに捕らえたのも、ベルベットと出会わせる計算か・・・見事すぎるわ」

「許して欲しいでフー・・・メルキオル様の術には逆らえなかったんでフー・・・」

 

ビエンフーも本意ではなく何とか抗おうとしていのだろうが当のマギルゥは興味なさそうにしている

 

「別にどーでもいいわい。どーでもいいと感じる儂の心すらも、の」

 

そう呟く後ろにベルベットとライフィセットが立っていた。ビエンフーが驚き、マギルゥは分かっていたようにそちらの方を向き直る。後伝書鳩も飛んで行った

 

「マズイ所を見つかってしもうたぁ~!儂が聖寮の密偵とバ~レ~た~かぁ~!」

 

おちゃらけているように見えるがビエンフーを庇っているのがバレバレである

 

「違うんでフー!悪いのは僕なんでフー!」

「聞いたわよ、全部」

「なんじゃつまらん。では、煮るなり焼くなり好きにせい」

 

多分自分じゃなくてビエンフーの方だと思う

 

「・・・元々信用してないし。密告がなくても、いずれはこうなってたわ。どうせ反省しないんだから、せめて戦力として働きなさい」

「・・・随分甘く残酷なことを言うのう」

「あんた達に構ってる場合じゃないからよ。お望みなら、全部終わった後に喰らってあげるわ」

 

マギルゥは僅かに口を歪めベルベットに質問をする

 

「・・・のう、ベルベット。“憎い”とはどんな気分なんじゃ?どれほど辛い?どんなに苦しい?身を焦がすほどの憎悪は、生きている意味を、実感を与えてくれるのか?」

「・・・」

 

それに対して沈黙しているベルベット、暫し波と風の音だけが響くがそれをベンウィックの声が打ち消す

 

「みんな来てくれ!!ケンから話があるんだって!」

「わかったわ!すぐ行く」

 

ベルベットが返事をしマギルゥの方へ顔を向ける

 

「答えが知りたかったら手を貸しなさい。アルトリウスを殺す瞬間に見せてあげるわ」

 

それだけ言うと集合場所に向かうベルベットとライフィセット。その後ろ姿を見ていたマギルゥが呟く

 

「そんなボロボロの様で、まだ吠えるか。まったく・・・むかつく奴じゃて・・・」

 

 

後部船室に集まったベルベット達、皆好きなとこに座ったり壁に寄り掛かっている

 

「それで、話って」

 

ベルベットがケンに問いかける

 

「タイタニアに着くのが早くて明日。タイタニアにはクロガネさんやダイルさん、喰魔であるメディサさんがいても相手は神依を装備した聖寮の集団、籠城してもいつまで持つかわかりません。」

「ああ、だがいくらコイツでもこれ以上の船速は出せない」

「はい、実は自分の技に瞬間移動ができるものがあります」

 

モアナの事が気がかりだったエレノアがそれを聞いた時顔を上げ縋るように近づく

 

「それは本当なの!?」

「はい、ですがこれ程の物体を移動させるのは初めてですが・・・どちらにせよ時間がありません」

「だがケン、そんなことして大丈夫なのか」

 

ロクロウが椅子に腰かけ腕を組みながらケンに聞いてくる

 

「問題はそんな大技を使ってお前の体力が持つかどうかだ。途中で倒れられたら敵わんぞ」

「・・・自分はこれまでほとんど役に立てていませんでした。ですからこれは自分なりのケジメです」

 

ロクロウはそれを聞いて頷く

 

「わかった。そこまで言うなら俺からは言うことはない。ま、ぶっ倒れたら船室に放り込んどくさ」

「ありがとうございます。アイゼンさん」

「・・・いいだろう、やってみろ」

 

アイゼンも静かに承諾する

 

「無茶はしないで」

「ケンの種明かしがもう一つ見られるなら儂はどーでもよいぞー」

「ははは・・・」

 

マギルゥの言葉に苦笑いしながら甲板へと向かう、扉の横にいたベルベットが呼び止める

 

「無茶するのは勝手だけど対魔士と戦う分の余力は残しておきなさい。いいわね」

「わかりました。善処します」

「大丈夫?」

「ライフィセット達に比べれば大したことないよ。心配ないさ」

 

不安な表情のライフィセットに方に手を乗せ、安心させる。甲板に向かい腕をクロスさせる

 

「ぬうううう!!!」

 

エネルギーを集中させ自身の周りからオーラが放ち始める。徐々にそれが大きくなりやがてバンエルティア号を包み始める

 

「これは・・・!」

「聖隷術の類じゃないな」

 

様子を見ていたベルベット達がその光景に驚いている

 

「行きます!!」

 

ケンがエネルギーを開放しバンエルティア号が光に包まれた時、そこに姿はなかった

 

 

第40話 終わり




今回習得したのはコスモスの技の一つルナポーションです。今回はそれを無理矢理応用した形になります。次回もお待ちいただけたら幸いです

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