テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜 【完結】   作:スルタン

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第42話

 

「ラフィ・・・!!」

 

ベルベットは目の前にいる実の弟に上ずった声を上げる

 

「ベルベットの弟!?」

「こう来たか」

 

エレノアはまさかカノヌシがベルベットの弟であることに驚愕し、対してマギルゥは聖寮のえげつなさに呟く

 

「そう、僕はライフィセット・クラウ。そして、鎮めの聖主カノヌシ」

「嘘・・・なんでカノヌシが・・・」

 

ベルベット達の見立てでは喰魔を地脈点から引き離し、穢れを送れないようにすればカノヌシは復活しないはず。だが現にカノヌシは目の前にいるそこへ風の槍がベルベットの横を通りカノヌシに向かって飛んで行く。だがカノヌシは防御をするわけでもなく驚くわけでもなく直撃する寸前で槍が止められ消滅する

 

「やるなら覚悟を決めろ!こいつは敵だ!」

 

風の槍を飛ばしたアイゼンがベルベットを叱咤する。それに反応しベルベットはカノヌシを睨みつける

 

「・・・わかってる!こんなの・・・前と同じ幻覚よ!全部喰らってやる!!」

 

これもアバルで見せられた幻術だ、この弟の姿もアルトリウスが動揺を誘うために聖隷が化けた偽物だ、そう思わないともう保てないから。ベルベットは偽物を喰らうべく走り業魔手を振り上げる

 

「うああああっ!!!」

 

叫びとも悲鳴とも取れる声を上げ顔面向けて業魔手を叩きつける、だがそれはカノヌシの障壁に阻まれる

 

「お姉ちゃん、そうやって今まで無理してきたんだね」

「黙れ!ラフィの声で!!」

 

刺突刃を突き立てるもそれも通らない

 

「しゃべるなぁぁっ!!!」

 

がむしゃらに業魔手を振るい、刺突刃で斬りかかるがそれがカノヌシに届くことはない

 

「もういいんだよ、苦しみも痛みも・・・」

 

カノヌシが手を翳す

 

「僕が終わらせるから」

 

その手からライフィセットが使うのと同じ二色の光弾が放たれる、ベルベットはそれを刺突刃で弾き返そうとしたが刃と接触した瞬間ベルベットの体が後方に飛ばされ地面を跳ねる

 

「ガッ・・!!ハッ!!」

「ベルベット!!!」

 

ライフィセットがベルベットに駆け寄る、その横をロクロウが走り抜ける

 

「聖主だろうがなんだろうが斬り捨てる!!」

 

上段に構えた征嵐を振り下ろす。カノヌシは手元から紙葉で形作った細剣でロクロウの征嵐を受け止める

 

「ぬおおおおっ!!!」

 

体重と力を掛けるがビクともしない。アイゼンとエレノアが横に回り込む

 

「ロクロウの打ち込みが通じないとはな・・・!」

「こんなのに勝てるの・・・!?」

 

カノヌシが横目で二人を見据え細剣に力を入れロクロウを押し飛ばす

 

「うおおっ!!」

「・・・!!幻影よ交わり滅して裂けろ!ビジュゲイト!」

「貫け緑碧!霊槍・空旋!」

 

複数の風の刃と竜巻がカノヌシに迫るが紙葉を召喚し両手を真横に向け二人の方へ向ける

 

「うっとおしいよ」

 

紙葉から術を発動し大型の竜巻が繰り出される。アイゼンの風の刃がかき消されエレノアの術もそれに飲み込まれる

 

「ぐあああっ!!!」

「きゃあああああっ!!!」

 

二人は風に飲まれそのまま後ろの壁に激突する

 

「これは不味い、大いに不味いの!!エクスプロード!!」

 

マギルゥが術を発動しカノヌシの足元から爆発を起こす。爆発に巻き込まれるカノヌシにさらに追い打ちをかける

 

「まだじゃ!!ブレイズスウォーム!」

 

爆発に続き炎の奔流がカノヌシを呑み込む。やがて晴れるもそこには傷一つついていないカノヌシが蔑む様にマギルゥを睨む

 

「く・・・ちょっとは苦しそうな顔してもよかろうに・・・」

「目障り」

 

カノヌシが細剣をマギルゥに向かって投げる。軽く投げたとは思えない速さで彼女の眼前に迫る

 

「トアァッ!!」

 

その横からケンが走りながらウルトラショットで細剣を相殺しマギルゥの前に立つ

 

「あぁ、君が例の・・・丁度いいや。始末するつもりだったから」

 

カノヌシは空中に浮き術を発動し始める

 

「ゲホッ・・!いかん!!止めろ!」

 

壁に叩きつけられ膝を着き咳き込むアイゼンが叫ぶ

 

「白黒混ざれ!シェイドブライト!」

「応!!四の型・疾空!!」

 

ライフィセットの術とロクロウが印を切り鎌鼬でカノヌシを妨害する。だが

 

「全てを鎮める」

 

カノヌシが既に術を発動させていた

 

「ジェノサイドレイ」

 

黄金色の光線がカノヌシの周りから何本も繰り出される。二人の術と技がかき消され光線が周りを手当たり次第に巻き込んでいく。攻撃が止んだ頃、立っている者はいなかった

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

ベルベットは息を切らしながら上半身を何とか起こそうと両手を着く

 

「この力・・・本物の聖主・・・なのか」

 

アイゼンが壁に手を着き吐き出す様に呟く

 

「そう、この方が鎮めの聖主、カノヌシ様だ」

 

重要人物なので巻き込まれないよう加減されたパーシバルが肯定する

 

「でも、なぜ・・・?力は削ったはず・・・」

 

柄を地面に突き立て何とか立ち上がるエレノア。その疑問にシグレが種明かしをする

 

「喰魔を攫った事か?残念だが、ちょいと遅かったな。カノヌシ覚醒に必要なのは、喰魔が喰らった穢れの“量”じゃねぇんだよ」

「八つの“質”だ」

 

アルトリウスがシグレに続く

 

「貪婪、傲慢、愛欲、逃避、利己、執着・・・お前たちが喰魔を引きはがす前に、既にその内六つは得ていた。後は、ベルベットの中にある“残る二つ”を得ればカノヌシは完全覚醒する」

「地脈を通して吸い取るまでもないね」

 

カノヌシがベルベットに近づき手を伸ばす

 

「直接喰べちゃおう」

「うう・・・」

 

ライフィセットがベルベットに手を下そうとするのを止めようとするが自身もダメージを受け思う様に動けない

 

「させるかよっ!」

 

ロクロウが征嵐を構えて走り出す。カノヌシが新しく細剣を作り出し征嵐を振り下ろすロクロウの刃がかち合った瞬間金属特有の高い音とともに征嵐が中ほどから折れ飛ぶ

 

「なっ!?ぐあっ!!」

 

征嵐が折れたのに動揺したロクロウの胴を突き飛ばす

 

「邪魔しないでよ。弱いくせに」

 

蔑むようにロクロウを見るカノヌシに黒い影が迫る

 

「ううっ!!」

 

黒い影の正体はベルベットで、彼女の刺突刃がカノヌシの腹部を貫き、ふらつきながら離れる

 

「・・・痛い」

 

カノヌシは光が漏れる自らの傷を見ながら呟く

 

「・・・全部幻だ」

 

ベルベットは自らに言い聞かせる様に呟く。幻と決めつけないと自分が保てない程に追い詰められている

 

「痛いよ、お姉ちゃん」

「五月蠅い、黙れっ!!」

 

姉と呼ばれそれを否定するように吠えるベルベットにカノヌシが追い詰める

 

「お姉ちゃんは僕を殺すの?」

 

その一言でベルベットが限界に達した

 

「う・・・うああっ!!消えろッ!消えろッ!消えろ~~ッ!!!」

 

頭を抑えがむしゃらに刺突刃でカノヌシを切り裂き再び貫く

 

「・・・僕は、ずっと苦しかったんだ」

「あ・・・あああ」

「体が弱いせいで迷惑ばかりかけて・・・やっぱりお姉ちゃんは・・・」

 

ベルベットは自分の手に付いたカノヌシの血を見る

 

「僕が消えた方がいいって思ってた?」

「ああ・・・・あああ・・・・」

 

その言葉にベルベットは涙を流しカノヌシを抱きしめる。もう折れてしまった

 

「そんなはずない・・・生きて欲しかった。傍にいて欲しかった・・・なのに、あんなことになって・・・仇を討たなきゃって・・・あんたの為に、あたしは・・・喰らって・・・殺して・・・」

「よかった」

 

どういう意味のよかったなのか、ベルベットは構わず続ける

 

「ごめん・・・ごめんね、ラフィ・・・!痛かったよね・・・フィー!この子の傷を治してっ!!」

「でも、そいつは・・・」

 

ライフィセットは敵であるカノヌシを警戒するがベルベットが叫ぶ

 

「ライフィセットよ!!あたしの・・・弟だよっ!!」

 

ライフィセットが驚愕する中、カノヌシが口を開く

 

「・・・でもね、僕は仇討ちなんで望んでないんだ。だって、そういうエゴこそが穢れを――業魔を生む元凶なんだから」

「え・・・!?」

 

弟の為の仇討ちを弟に否定され驚愕するベルベット

 

「だから、僕はアーサー義兄さんを手伝って鎮めるんだ。この世界の“痛み”を」

 

目を見開くベルベットに最後の追い討ちを、カノヌシが掛ける

 

「お姉ちゃんみたいな“醜い穢れ”をね」

「醜い・・・穢れ・・・・・」

「覚醒したカノヌシは、全ての業を鎮め、人の穢れを生まぬ存在に変えてくれる」

 

アルトリウスが目的を明かす

 

「業を喰らわれたら、俺は俺じゃなくなっちまうんだが?」

「それをやるってことなんだろう。聖隷の意志を奪ったように」

「だが、痛みのない穏やかな世界が訪れる」

 

アルトリウスのいう穏やかな世界、少なくとも人にとってよい世界でないことは容易に想像がつく

 

「人の意志を消すことが、貴方の目的だったのですか!」

「対魔士であるお前も、感情のままに我らを裏切った。こうするしかないのだ」

「・・・」

 

正論を突きつけられ、エレノアは何も言い返すことができず顔を伏せてしまう

 

「業魔のいない優しい世界を創る・・・それが僕の夢なんだ。安心して、この傷だってすぐ治るんだ。お姉ちゃんを喰べればね・・・」

 

カノヌシがそう言った瞬間、床から紋章のようなものが現れそれが広がる。その床が黒く染まりベルベット達の足が黒い地面に吞まれ始める

 

「うああっ!?」

「これは!?」

「いかん、喰われるぞ!!」

 

徐々に呑まれる中、ベルベットが這いつくばり、カノヌシに付かづく

 

「待ってよ・・・あたしは、ずっとあんたのためにって・・・なのに・・・こんなのって・・・」

 

カノヌシはベルベットを見降ろす

 

「ありがとう。だからこそ、ちゃんと償わないとね。ずっと無意味に、みんなを傷つけてきたんだから」

「そんな・・・・・ラフィ・・・・」

 

全てを否定され、絶望し、弟に手を伸ばすベルベット。ライフィセットがそれに気づき両手を合わせる

 

「ベルベット!!」

 

ライフィセットが結界を張った瞬間、周囲から牙が現れ呑み込もう迫るが結界がそれを防ぐ、だが呑み込まれるのは防ぐことができず地面に吸い込まれていった。紋章が消えた後、そこにベルベット達の姿はない

 

「・・・邪魔が入ったな」

「けど、地脈には取り込んだ。追いかけるよ」

 

カノヌシはそれだけ言うと自らも地面に穴を開けそこから降りて行った。ベルベットにつけられた傷はない

 

「ただ硬ぇだけじゃダメなんだよなぁ。それじゃ、弾みでボッキリ折れる」

 

シグレは鞘に納めた號嵐を担ぎながらアルトリウスに含みを持った言葉で煽る

 

「・・・私に言っているなら、試してみるか?」

「いいや、待ってやるよ。お前とカノヌシの神依が完成するまでな」

「導師アルトリウス、貴方という人は・・・」

 

一人取り残されたパーシバルはアルトリウスを恐れながらも睨みつける

 

「全ては計画通りです。王都へ戻りましょう、殿下」

 

 

そこは摩訶不思議な空間だった、下には雲の海、上はダークブルーの空が広がり無数の巨岩が浮島のように浮かびそれを石の橋と階段がお互いに繋がっている。その浮島の一つ、その上から地脈の裂け目が現れ、そこから二つの影が飛び出す

 

「ふー」

「なにが起こったんでフかー?」

「地脈に喰われたんじゃよ」

 

二つの影の正体はマギルゥとビエンフーだった

 

「前にも同じことがあったでフよね?」

「前とは違う。どうやら覚醒したカノヌシは“大地”を“器”にしておる。今や地脈は、あやつの体そのもの。儂は、地脈の裂け目を咄嗟に感じたおかげで逃げられただけじゃ」

 

マギルゥの言う通り、地脈はカノヌシの手足同然、一度吞まれたら抜け出すすべはほぼないだろう、それを考えるとマギルゥは幸運だったようだ

 

「じゃあ、ベルベット達は・・・」

「・・・賭けは儂の勝ち、そういうことかの」

 

勝ったという割にはどこか儚く、納得いかない表情のマギルゥの背後から声が響いた

 

「その通りだ。才能だけは申し分ないのだがな」

 

マギルゥがそちらを向くと、メルキオルが一号を引き連れこちらに向かって歩いて来た

 

「ほほう・・・お主がおるということはここは重要な場所のようじゃの?」

「退け。地脈の綻びを閉じねばならん」

 

それを聞いたマギルゥが地脈の裂け目の前に立ち障壁を張る

 

「ビエンフー、裂け目を守れ!裏切りの件は、それでチャラにしてやる。じゃが、逃げたら百代呪うぞ!」

「ビェ~!了解でフ~!!」

 

マギルゥの脅しにビエンフーが即答し裂け目に霊力を送り始める

 

「どうやら賭けに勝ったようでのう。閉じられては賞金が回収できんのじゃ」

 

メルキオルは両手を重ね紫色の水晶を取り出す。マギルゥはメルキオルが何をするかわかっているようだ

 

「儂に幻覚は効かんぞ。壊れた心は壊せまい?」

「・・・あの時は、お前の心が割れた時点で術を止めた。師弟の情けでな」

 

メルキオルの言葉で不敵に笑っていたマギルゥが何かに気づき目を開く

 

「だが、今度は容赦せん。心が砂と化すまで完全に磨り潰す」

 

メルキオルが術を発動させそれをマギルゥに向ける。それと同時にマギルゥが苦しく呻きだす

 

「うぐっ!!?ぐっうっう・・・!!ぐああああ~~~っ!!!!」

 

 

「うう・・・」

 

今まで気を失っていたライフィセットが目を覚ます

 

「よかった、気がつきましたね。どうやら地脈に取り込まれたようです」

 

エレノアが看ていてくれたようで安心している。エレノアの言う通り此処は以前迷い込んだ地脈そのものだ

 

「エレノアは大丈夫?みんなは?」

「・・・私は、でも――」

 

エレノアが視線を動かす。ライフィセットもそれに続いて後ろを向くとベルベットが立っていた。だがそこに彼女は動くこともなく呆然と立ちブツブツと何かを呟いている

 

「殺す・・・殺す・・・あんなに・・・殺したのに・・・だってあの子が・・・あの子の為に・・・なのに醜い・・・あたし・・・無意味に・・・よくも・・・殺さなきゃ・・・死ね・・・死ね・・・」

 

弟の為にと押し殺してきた罪の意識を、その弟に全否定され、今にも決壊しそうだ

 

「・・・」

「ずっとあんななんです」

 

エレノアの声に気付いたベルベットがこちらに顔を向ける

 

「起きたのね、行くわよ。地脈を出て奴らを殺す」

「でもカノヌシはベルベットの・・・」

「幻覚だって言ってるでしょっ!!じゃなきゃ偽物!罠よっ!」

 

ライフィセットがいいかけたのを遮り叫ぶ。だがその直後、それとは逆に冷めたように呟く

 

「・・・ううん、本物だったらどうだっていうの?あの子があたしを裏切ったってことでしょ。そんな奴を殺せないと思うの?なぜ?どうして?」

 

ライフィセットに問い詰めながら詰め寄り掴みかかる

 

「あたしがどれだけ殺したか・・・散々見たあんたが」

「ごめん・・・なさい・・・」

「ベルベット!」

 

エレノアがベルベットを引きはがそうと肩を掴んだ時。地面から光る球体が現れる。その球体が光を放った時、声が響いた

 

起きて、ラフィ。朝だよ

も~、ラフィって呼ぶのやめてってば。子供っぽい・・・

いきなり文句とは、調子いいかな?

 

恐らく過去の出来事だろう。ベルベットがラフィと呼ばれて嫌がる弟の額をを自らの額に当てる、ライフィセットはその姿に驚く

 

「カノヌシ!?」

「・・・違うようです。これは・・・過去の幻?」

「うああああッ!!!!」

 

突然ベルベットが叫び業魔手で球体を切り裂く

 

「!!」

「ほら、殺せた!当たり前でしょ、慣れたものよ。さぁ、ここから出るわよ。あんたの力で」

「けど・・・」

「早く!!」

 

ライフィセットが言いかけたのを割り込みまくし立てる

 

「アイゼン達を捜さないと・・・」

 

ベルベットがライフィセットの頭を掴む

 

「早くって言ってるの」

「うぐうっ・・・!」

 

ライフィセットが痛みに耐えながら術を発動させるが焦りか痛みで術が不発に終わる

 

「いい加減にしなさい!」

 

ベルベットのあまりの行動にエレノアがベルベットの頬を叩く、乾いた音が周囲に響き渡る。ベルベットはエレノアの胸倉を掴む

 

「いい加減にするのはあいつらだっ!!だってそうでしょ!?殺してやるッ・・・絶対に・・・ッ!!」

「落ち着いてください!!」

 

エレノアが肩を掴み必死に説得する。ベルベットはエレノアの言うことを聞いたのかはわからないが手を放す

 

「・・・落ち着いて出口を探すわ。それでいいんでしょ」

 

いきなり激昂し、いきなり冷静になる。感情の起伏が激しくなる、精神が脆くなっている鬱状態とよく似ている。ベルベットがまさにそれだ。先に進むベルベットから櫛が落ちる。だがそれさえも気づかないライフィセットがそれを拾いエレノアと目を合わせベルベットに付いて行った

 

 

地脈の出口を探し、奥に進んでいくとまた球体が現れる。まるで見計らったように。光を放ち今度は森の中の光景が見える

 

「これは・・・!?」

「見て!」

 

ライフィセットが木に寄りかかって座り込むアルトリウスに気付く。そこに一人の女性が歩いて来た

 

「!!」

 

女性はアルトリウスに気づき走り寄る

 

「もし!しっかりしてください!直ぐ人を呼んで――」

「いいのです・・・もう、疲れた・・・」

 

アルトリウスが憔悴した表情で女性の申し出を断る

 

「・・・旅を・・・してこられたのですか?」

「十年・・・師に後を託されたのに、何も成せなかった・・・」

「十年も・・・」

「なんて弱い翼・・・だから・・・もう・・・いいんだ・・・」

 

自身の未熟さ打ちひしがれ。生きる気力もなくなったアルトリウスが顔を伏せる

 

「・・・そうですね。そんなに働いたなら少し休まないと。丁度、ウリボアの肉が手に入ったんです。夕食はお鍋なんですけど、ご一緒如何ですか?」

 

手を合わせ夕食の誘いをする女性にアルトリウスは全く予想していない展開に驚く

 

「は・・・?いや、私は・・・」

 

断ろうとした瞬間腹が鳴る、肉体は正直なようだ。セリカはそれに微笑みながら手に持っていたバスケットから林檎を取り出す

 

「今は林檎しかありませんが、どうぞ」

 

アルトリウスはそれに顔を背ける

 

「お腹がいっぱいになれば、きっと立ち上がる元気が出ますわ。貴方の体は『生きるぞ!』って言ってるんですもの」

 

アルトリウスの手を取り林檎を持たせる

 

「恥知らずな・・・生きる資格もないのに・・・」

「資格がいるんですか?ただ生きることに」

「それは・・・」

 

理由を聞かれ口籠るアルトリウス

 

「自然なことですよ。お腹が空くのも、辛くて泣くことも。だって、私たちは生きてるんだから」

 

立ち上がる女性にアルトリウスが顔を上げる

 

「・・・生きている・・・」

「お名前は?私はセリカ・クラウと申します」

 

手を差し出すセリカにアルトリウスが手を取り立ち上がる

 

「私は、対魔士アルト・・・いや、アーサー。アーサーです」

 

アルトリウスではなくアーサーと名乗ったのはこれが初めてだったのだろう

 

「アルトリウスッ!!」

 

ベルベットが業魔手で球体を握りつぶす。肩で息をしている後ろで声が響く

 

「なんなんだ、今のは?」

 

ライフィセットがそちらを向くとロクロウ達が歩いて来た

 

「ロクロウ、アイゼン、ケン!」

「貴方たちにも見えたのですね?」

「応、アルトリウスがアーサーと呼ばれてた」

「“大地の記憶”というやつだろう。地脈には、地上で起こった出来事が写し絵のように記憶されていると聞いた」

「要するに昔の幻ってワケか」

 

ロクロウの言葉にベルベットが口を挟む

 

「・・・幻じゃない。あれはあたしの姉さんよ。セリカ姉さんも騙されたのよ・・・ね?そうか、だからあたしを監獄から出して・・・」

 

ボソボソとうわ言を呟きながら歩いていく

 

「ロクロウ、怪我は大丈夫なのですか?」

「ああ、打たれ強いのが取り柄でな、俺よりも、ベルベットは大丈夫なのか?」

「・・・」

 

ロクロウはベルベットの後ろから付いて行きながら様子を伺う

 

「平気なワケがありません。カノヌシの正体が、あんな・・・」

「・・・只硬いだけじゃ、不測の力を受けたら割れちまうってことか・・・本当の“強さ”を見誤っていたのかもな。アイツも俺も」

「他人の心配をしている場合でもないがな。ここは、完全にカノヌシの領域に覆われている。奴の体内といっていいだろう」

「うん。だから僕の力じゃ出られない・・・」

 

先ほどライフィセットの術が霧散したのはそのせいだろう

 

「用心しろ。大地の記憶も奴が再生しているのかもしれん。奴らの狙いはベルベットだからな」

「ベルベットの中にある“二つの穢れ”」

「そうだ。それを逆手にとれば脱出の機が掴めるかもしれん」

 

アイゼンの口ぶりからライフィセットが察し食いかかる

 

「ベルベットを利用するっていうの!?」

「必要ならな」

 

あくまでもブレないアイゼンにライフィセットが睨む

 

「なんにせよ進もうぜ。止まっていても埒が開かん。マギルゥも捜してやらんと可哀想だしな」

 

 

「なぁ、アイゼン。さっき言ってた“大地の記憶”ってのはなんなんだ?」

 

ロクロウは先ほどアイゼンが漏らした大地の記憶について質問する

 

「前にも話したが、地脈は大地を流れる自然の力だ。風が吹き、水が流れ、鳥が羽ばたき、草花が咲く。それら自然の営みは、地脈にも伝わり痕跡を残す。痕跡は、人の記憶の様に大地に刻まれ、地脈の中に留まり続けている」

「それが大地の記憶か」

「人間や聖隷の行動も・・・?」

「大地の上で起こる全ての事象を自然と呼ぶ。当然、人間も聖隷も、業魔すらも自然の一部だ」

「では、今こうして、私達が話していることも、大地の記憶に刻まれているのですか?」

「俺が人知れず行った悪事も、お前が漏らした悪口も、大地に見られている、そういうことだ」

 

エレノアの質問にアイゼンが応える

 

「私は悪口なんて・・・!?」

「只の例え話だ、動揺するな」

 

エレノアの性格から考えて他人の悪口なんて考えにくいのはアイゼンだってわかっている

 

「カノヌシは、大地の記憶からベルベットに関係するものを呼び出して、見せてるってこと?」

「恐らくな、だから、別の場所にいたロクロウとケンも俺も、同じ物を見たんだろう。大地を器とするカノヌシならではの芸当だ」

 

それが本当なら自分は安全なところからベルベットの精神を砕いていく。趣味が悪く、えげつないが有効な手段であることは確かだ

 

「聖主なんて名乗ってる癖に悪趣味な野郎だな」

「だが、今のベルベットには効果的な攻撃だ。地脈を脱出するまで、アイツから目を離すなよ」

「う、うん・・・」

 

ライフィセットの視線の先に無表情で歩いているベルベット。まるで人形のようだ

 

(・・・カノヌシに見られているということは、自分とルシフェルさんの事も、師匠の事も把握されている可能性は高い、自分の技や技術も・・・まだ見せていないモノがあるのが救いだが・・・)

 

皆から一歩後ろで歩いているケンは心の中でそう考えていた。自らの事情が発覚するのがすぐそこまで近づいているのを感じながら

 

 

第42話 終わり

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