テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜 【完結】   作:スルタン

50 / 68
第43話

 

あれからしばらく出口を探しながら奥へと進む、警戒しながら移動する一行の前に球体が現れ辺りが光に包まれる

 

お帰りなさい、アーサー

ただいま、セリカ。家の周りの柵を補強しておいたよ

 

光の中見えたのはベルベットの自宅、玄関から入ったアーサーが屋根裏にいるセリカに仕事の報告をしている場面だった

 

ありがとう、アーサー。最近、野盗の被害が酷いって村長さん達が心配していたけど、これで安心ね

 

セリカがそれを聞き安心したようでセリカの方も仕事を終えたのだろう梯子を下り始める。その様子を見ていたアーサーが顔を伏せ呟く

 

・・・いや、もし野党が業魔化していたら、この程度では・・・

 

梯子を下りたセリカがブツブツ言っているアーサーに近づく。彼女には何を言っているのか聞こえていないようだ

 

え?

なに、心配いらないよ。大工仕事には自信があるんだ、ベルベット達は?

 

アーサーははぐらかし、話題を変える。ベルベットとラフィがいないのでセリカに聞いてみる

 

多分また岬よ。危ないって何回言っても聞かないんだから

ライフィセットがせがんだんだろう。大丈夫、ベルベットはしっかりした子だ

・・・そうね。“この子”も、あの子みたいに強く育ってくれるといいんだけど

 

セリカはそういい自らの腹部を撫でる

 

え・・・?

・・・喜んでくれる?

 

その言葉の意味、アーサーはセリカに近づき抱きしめる

 

決まってるだろう!ああ、世界にこんな幸せがあるなんて!!

 

アーサーはセリカの中にある新しい命に、自身が父親になった喜びを噛み締める。だがセリカから離れるとどこか浮かない表情をした

 

しかし、参ったな。こんなことなら、もっと高価な物を用意するべきだった

 

アーサーは懐からある物を取り出す、羽が重なった飾りのペンダントだった。それをセリカに差し出す

 

貴方が作ってくれたのね?

君の為に、心を込めて

一生大切にするわ。今日の幸せの記念に

 

ペンダントを持ったアルトリウスの手に自分の手を重ねる

 

俺は、約束の証にしよう。誓うよ。命に代えても“君たち”を守ると

 

次の瞬間ベルベットがそれも業魔手で切り裂く

 

「アルトリウス様の過去・・・」

「くく・・・あははっ!」

 

エレノアが呟いた時ベルベットが高笑う

 

「笑えるわね、あんな言葉を信じちゃって!・・・全部嘘なのに。笑顔も、誓いも、なにもかも」

 

突然冷めた声で呟きそのまま歩きはじめる。それを遠くから唸り声を出しながら監視する者がいると知らずに

 

 

それからしばらく進むベルベット達、道中襲い来る業魔を退けながら道を切り開いていく。その目の前で狙ったかのように大地の記憶が地面から現れ、光を放った。必死に否定するベルベットを嘲笑うかのように、その景色はカノヌシの祠、アバルでの出来事が映し出されていた。違うことは赤い月が輝きその下で業魔で溢れていた

 

「緋の夜!?ここはベルベットの村の・・・」

 

エレノアが驚愕する中、セリカが獣の業魔に祠の大穴の淵に追い詰められている場面が映し出される。その反対側でアーサーが長刀で業魔を斬り伏せながらセリカの元へ向かったいた

 

くそっ!業魔化した野盗がこんなに!

 

アーサーに気付いた業魔が飛び掛かるがそれを躊躇なく斬り割く

 

セリカッ!今助ける!!

無理よ!ベルベット達と逃げてっ!

馬鹿を言うな!!

 

首を掻き切り、胸を刺し貫き蹴り飛ばしセリカを襲おうとした業魔を両断しセリカの元へたどり着く

 

俺は生きたいんだ!君と俺達の子と一緒に!

 

庇う様に前に立ちセリカの方へ一瞬顔を向けた時、一体の業魔が飛び掛かりアーサーの長刀を弾き飛ばす

 

しまっ!!

 

業魔の爪が迫る、その時セリカがアーサーを突き飛ばし爪が当たることはなかった。が、代わりにセリカに当たり穴へ飛ばされる

 

アーサーッ!

セリカァァッ!!!

 

アーサーが必死に手を伸ばすもそれが届くことはなくセリカは暗い穴の底へ消えていった。アーサーの手を伸ばす先にセリカが大きな口に飲み込まれた

 

ああ・・・あああ!!

 

アーサーは悲壮の声を上げながらやり場のない怒りに己の右拳を地面に何度も打ちつけた

 

 

はぁー・・はぁっ・・!

 

それから全ての業魔を殺戮したであろうアーサーは左手に長刀を握り締め祠の大穴の前へ歩みよる。右手は血に塗れ、皮は破け骨が折れている。まるで自らの無力さと罪を表すように。大穴の淵に何かを見つけ。両膝を力なくつき長刀が滑り落ちる。そこにはアーサーがセリカに送ったペンダントがあった、それを拾い上げる

 

なぜ・・・こんな・・・!なぜ俺はっ!たった二人の家族すら守れないっ!!

 

アーサーが空に向かって叫ぶ己の無力さと情けなさに、だがその時背後から声が聞こえた

 

よくわかっていよう、アルトリウス。人が弱く、罪深いからだ

 

アーサーは振り向かずともその声の主が誰かわかっていた

 

メルキオル!?

この村が、お前たち一家を業魔化した野盗共に差し出したのだ

 

アーサーがその言葉にメルキオルへ振り向く

 

自分達を見逃す代償としてな

嘘だ・・・そんな・・・

 

アーサーは赤く染まった月を見る

 

よくあることだ。人間が背負った業の“理”は変えられん。だが・・・

 

メルキオルが言いかけた瞬間祠の大穴から巨大な光の柱が出現した

 

“理”を調える手段は見つかった

領域・・・!?なんだ、この巨大な力は!?まさか・・・こんな所に探し求めていた聖主が!

 

アーサーがそう理解した瞬間二人の横に二人の聖隷が現れる。彼がその姿を見た時驚愕する

 

こ、この聖隷は・・・

転生したか。姿は同じでも別の存在だ

 

彼の目の前にはまさしくセリカ、シアリーズがいた。姿は違えどその顔はまさしく彼女そのものだ。だがそれはセリカ本人ではない、その隣にいる聖隷は紛れもないライフィセット。なぜここにいるのか理由は語らずとも明らかだった。無慈悲な運命にアーサーはペンダントを顔を伏せ握り締める

 

なぜだ・・・なぜこんな残酷な縁が・・・

 

そんなアーサーに声を掛けるわけでもなくメルキオルはカノヌシの祠と月を見る

 

どうやらカノヌシの復活は不完全のようだ。その原因を明らかにし、聖主を導かねばなるまい。この聖隷共はもらっていくぞ

 

メルキオルはアーサーには一瞥もくれず聖隷を手駒にすべく横を通ろうとする

 

・・・待てぇ!

 

それをアーサーが叫び止める。彼は立ち上がりシアリーズへペンダントを差し出す

 

・・・約束を守れなくてごめんよ

 

何も反応しないシアリーズに向けていた手を下ろす

 

償いはする。今から俺は、俺を捨てる

 

苦悶の表情で伏せていた顔を上げアーサーがシアリーズに告げる

 

名も無き聖隷よ。契約を交わしてもらうぞ。私は、世界の痛みを止めなければならないのだ

できるのか?我が友の理想を投げ捨てて逃げた貴様に

亡き師と妻子の魂にかけて、今度こそ成し遂げる。我が名はアルトリウス・コールブランド、先代筆頭対魔士クローディン・アスガードの意志と力を継ぐ者だ

 

アーサー、アルトリウスは左手をシアリーズとライフィセットの前に翳す

 

・・・よかろう。今宵の悲劇を、救世の宿縁に変えてみせろ

 

 

「今の聖隷って!」

「・・・僕?」

「覚えていないですか?」

「全然・・・」

 

エレノアがライフィセットに聞き出すが本人は身に覚えがないようだ

 

「聖隷に転生したって言ってたぞ。つまり・・・どういうことだ?」

「死んだ人間の魂が、なんらかの切っ掛けで聖隷に生まれ変わることを“転生”という」

 

ロクロウはあの場面でライフィセットがいた疑問にアイゼンが答える

 

「ライフィセットは、アルトリウスの子供が転生して生まれたっていうのか?」

「さっきの記憶が本物なら、な」

「・・・」

「・・・」

 

ベルベットとライフィセットは言葉を発さない

 

「じゃあ、一緒に生まれた女性の聖隷は・・・」

「あたしの姉の転生ってことね。もうとっくに喰らったけど」

「し・・・知らなかったからでしょう?」

「・・・知ってたわ。あたしはシアリーズの正体に気づいてた」

「ベルベット・・・」

「けど関係ない。だったら何?」

 

ベルベットは表情一つ変えることなく、平然と答える

 

「目的の為ならなんだって喰らう。姉さんだって、弟だって、世界だって・・・それが・・・“あたし”なのよ」

 

ベルベットはそのまま歩きはじめる

 

「ケン、お前は知ってたのか?」

 

ロクロウはシアリーズと同行していたケンに質問する

 

「・・・あの時タイタニアから脱出する時に」

「止めなかったの?」

「シアリーズさんの選んだ選択であり、あの時自分はとやかく言える立場ではありませんでした。あの人の犠牲があったからこそここまで来れたのも事実です」

「・・・」

 

エレノアはケンの答えになにも言えなかった

 

「アイゼン。死んだ人間の魂が“何らかの切っ掛け”で聖隷に転生するって言ったよな?その切っ掛けは簡単に起こるようなものなのか?」

「・・・わからん、としか言えん、人が転生した事実はあるが、その原理は解明されていない。霊応力の高い人間が、転生しやすい傾向はあるが、生まれ変わりの方法が確立しているわけじゃない」

「ふむ・・・つまりは、そう簡単に起こるものでも、起こせるものでもないってことだよな。普通なら」

「でも、ベルベットのお姉さんは、シアリーズに、お腹の子供はライフィセットに転生した。どうしたらこんな偶然が起こるのです・・・?」

 

ロクロウとエレノアの言う通り生まれ変わる可能性があるのはわかるが都合よく二人連続で転生できるとはとても考えにくい

 

「偶然ではないのかもしれん。二人の死は、緋の夜・・・カノヌシの生贄儀式に絡んで起こったものだからな」

「つまりカノヌシの意思が関わっていると?」

「あくまで状況からの推測だ。如何に聖主といえど、人や聖隷の生死を自由に操れはしないはずだ」

「偶然じゃなくて“因縁”なのかもしれないぜ」

 

ロクロウは出来すぎた事実にそう結論を出す

 

「ベルベットは、シアリーズを喰らったと言っていた。自分のお姉さんだった聖隷を・・・!そんな酷い因縁があるっていうんですか!?」

 

エレノアはベルベットの家族に起きた残酷な結末をそう結論付けるロクロウに反論する

 

「すまん、嫌な言い方をしちまったか。だが、いいも悪いも、誰かの意思も関係なく、繋がっちまうのが“因縁”ってもんじゃないか?

「そうですね・・・でも、こんなのって・・・」

「落ち着け、エレノア。事実を知って一番動揺しているのはベルベットとライフィセットだ。こんな時こそ、あいつらに一番近いお前が見守ってやれ」

 

アイゼンはこれから起こりうる事態に備えエレノアにそう諭す

 

「・・・はい。私が冷静にならないとですね」

 

 

「見て!あそこ!」

 

地脈から出れる場所を探し続け奥に進んでいたベルベット達、開けた場所に出るとライフィセットがとある方向を指さす、その先には聖主の御座で出現したものと同じ裂け目があった

 

「地脈の裂け目だ。外に出られるかもしれんぞ」

 

その時前に立っていたベルベットの足元から光の球体が浮かび上がる。ベルベットの目線と同じ高さまで浮かび上がり皆が警戒する中声が聞こえる

 

アーサー義兄さん。二人きりで話したいことがあるんだ

「!!」

 

ラフィ―とアルトリウスがセリカとその子供の墓前で向かい合っている場面が映し出される

 

緋の夜に、強い霊応力をもった穢れなき魂を、ふたつ生贄に捧げること

・・・そう。それがカノヌシ復活の儀式だ。俺の本を読んだんだな?

古代語が全部分かったわけじゃないけど、義兄さんが書いた注釈にはカノヌシが復活すれば、業魔のいない世界が創れるって

 

アルトリウスはラフィの理由と決意を聞き口を開く

 

七年前、強い霊応力を持った魂が・・・生まれる前の私の息子が生贄となった。今、カノヌシは半分だけ復活している

 

ラフィはセリカとその息子の墓の前でしゃがみ込む

 

だから、みんなの霊応力が強まって業魔が見えるようになったんだね

それが“開門の日”の正体だ

じゃあ、もう一人生贄を捧げれば・・・

カノヌシは完全に復活する。その力で、多くの対魔士も揃うだろう

・・・もうすぐ、また“緋の夜”が来る。ねえ、アーサー義兄さん・・・

 

ラフィが立ち上がりアルトリウスに顔を向ける

 

ライフィセット・・・

僕なら生贄になれる?

「!!」

 

弟の口から出た言葉にベルベットが絶句する

 

お前は、なぜ鳥は飛ぶのだと思う?

鳥は、飛ばなきゃならないんだ。だって、空を飛べる翼を持ってるんだから。僕にだって弱いけど翼がある。だから、今飛ばなきゃダメなんだ!

 

ラフィのその言葉か使命感からなのか、それとも責任から来るものなのか

 

次の次の“緋の夜”は三年後。その時・・・僕は生きていない

ライフィセット、お前は

“十二歳病”・・・それが僕の病気だから

・・・やはり知っていたんだな

・・・病気は怖くない。でも僕は、守られただけで死ぬなんて・・・絶対に嫌だ

 

ラフィは顔を上げ覚悟した目をする

 

お前の意思こそ“翼”――強い翼だ

「ふざけるな・・・」

 

アルトリウスとラフィの会話に静かに口から漏らす

 

この事は、お姉ちゃんには黙っててね

約束だ

僕が創るよ。お姉ちゃんが幸せになれる世界を

 

その時ベルベットが叫びを上げその風景を切り破る

 

「ああああああッッ!!!!」

 

ベルベットはそのまま喉が枯れる勢いで叫ぶ

 

「何が意志だ!翼だ!!よくも・・・よくも二人して・・・!!!あたしを裏切ったなァッッ!!!」

 

その時周りから大地の記憶が現れる

 

ゴメンもスマンもなし!家族なんだから当然、でしょ?

うん。お姉ちゃん直伝のキッシュ作って待ってるから

あんたなら、義兄さんに負けない対魔士になれるかもね

 

そこに移されたのは以前のベルベットの家族の記憶、これまでの交流を嘲笑うかのように

 

「黙れ・・・」

あの子が落とされた祠ほどじゃない

あの子の・・・ライフィセットの仇を討つ!

ライフィセットは、もっと痛かった・・・なのにあたしは・・・なにもできなくて・・・ごめん・・・ごめんね・・・

 

それはまるでベルベットを道化であると表しているようだった

 

「黙れえぇッッ!!!」

 

それに呼応するように次々に大地の記憶が地面から現れる、ベルベットは怒りのまま業魔手でそれを消し飛ばす

 

「こんな嘘を!よくもっ!全部!全部あいつらの嘘だっ!なのにあたしは・・・!!」

 

ベルベットは狂ったように手当たり次第破壊する

 

「死ねッ!死ね、死ね、死ねぇぇッ!!!」

 

その時巨大な業魔がベルベットの前に地響きを立て着地する。その姿は獣の首に虫や魚、植物や鳥の手足や触腕やらヒレが合わさった禍々しいものだ。それはまるでベルベットの写し鏡のように、本来なら警戒する所だが今のベルベットには自分の邪魔をする獣にしか見えない

 

「邪魔をするなぁ!!!!」

 

ベルベットは躊躇することなく飛び掛かり業魔手でキメラの頭を掴む

 

「この醜い化け物がぁッ!!」

 

掴んだ頭をそのまま地面に叩きつけ刺突刃でキメラの首元に突き刺す。キメラは暴れ出しベルベットを振りほどこうとするがその勢いを利用し胴体の上にしがみ付く

 

「だぁぁっ!!」

 

キメラが背中の触腕で叩き落とそうとするがベルベットは業魔手で掴みそれを引きちぎる。触腕を放り捨て

後から頭を掴み突き刺していた刺突刃をさらにねじ込む

 

「死ねえぇぇぇッ!!!」

 

刃が骨まで達したのか鈍い音とともにキメラが崩れ落ちる。ベルベットが飛び降りたと同時にその体は黒い瘴気と共に霧散し徐々に形がなくなる。だが完全になくなることはなく縮小しながらもやがて別の形に変わりそれが露になった。その残ったものにベルベットが悲鳴を上げる

 

「ひぃッ!?」

 

ベルベットの目の前には監獄に捕まっていた自分自身の亡骸が転がっていた。キメラはある意味ベルベットの所業を表していたのかもしれない

 

「うああああッッ!!!」

「こ、これは・・・」

「あ・・・あたしが・・・死んで・・・」

 

頭を抱え震えるベルベットにライフィセットが走り寄りなんとか落ち着かせようとする

 

「落ち着いて、ベルベット!!こんなのカノヌシの幻だよ」

「“こんなの”はひどいな。“それ”はお姉ちゃんの正体なのに」

 

声が響きベルベット達の前に光を放ちながらカノヌシが現れる

 

「!!」

 

ベルベットの脳裏に過去の出来事、所業がフラッシュバックする

 

「憎んで、恨んで、喰らって、殺す。他人も、世界も、“理”も踏みにじってただ感情のままに生きる・・・“醜い憎悪(けがれ)”の塊だ」

「ち、違う!」

「君が口を出すことじゃない。本当かどうか、お姉ちゃんにはわかってるんだから」

「・・・違わない」

 

ベルベットは震えた声と共に両膝を

 

「だって、全部あたしの勝手な思い込みだった。なのに、あたしは――」

「罪のない人を大勢傷つけたよね?」

「数え切れないほど・・・いっぱい喰い殺した」

「アーサー義兄さんの決意も知らずに――」

「人も街もメチャメチャにした」

「その上、セリカお姉ちゃんが転生したシアリーズまで――」

「食べ・・・ちゃった・・・」

「・・・」

 

カノヌシのシアリーズに対する発言にケンは眉を僅かに動かす

 

「それでも僕は、お姉ちゃんが大好きだったんだよ。だから、お姉ちゃんの為に生贄になることを選んだ。なのに、復活の邪魔をされたら僕は無駄死にじゃないか?本当はすごく怖かったんだよ、死ぬのは」

「ごめん・・・ごめんなさい・・・」

「認めるんだね?お姉ちゃんが今までしてきたことは、全部――」

「うん・・・誰の為にもならないことだった・・・」

 

ベルベットはついていた膝を力なく崩し、完全に折れてしまった

 

「あたしは無意味にみんなを苦しめた・・・“化け物”です・・・」

 

ベルベットは涙を流しながら懺悔する

 

「わかったなら、罪を償わないと。最後の穢れ――お姉ちゃんの“憎悪”と“絶望”を喰べれば、僕は完全に覚醒する」

 

カノヌシは静かに浮上すると彼の体から光り輝く紋章の輪が現れ、彼が両手を広げた瞬間紋章が頭上に移動し巨大な物に変化した

 

「そうすれば、世界の痛みは止められるんだよ」

 

紋章の中心から気流が流れ出す。だがそれは吹き飛ばすのではなく吸い込むように風が吹き荒れる。それは急激に強くなり、全てを呑み込まんとしている。ベルベットが気流に呑まれ引き寄せられていく

 

「お姉ちゃんには、痛みのない世界で幸せになって欲しかったけど・・・“化け物”になっちゃったんじゃ、仕方ないね」

「ああ・・・あ・・・」

 

抵抗する気力もなくなったベルベットをライフィセットが追いかける

 

「ベルベットッ!!」

 

後ろにいたアイゼン達もそれに抵抗している

 

「う・・!!きゃああ!!」

 

槍を地面に突き立ていたエレノアが耐えられなくなり、吸い込まれそうになるがロクロウが手を掴む

 

「ぬぅ!うおおおおっ!」

 

ロクロウがエレノアを抱きかかえ反対側へ飛び込む

 

「ぐっ!くうっ・・・!!」

 

アイゼンは耐えながらも穢れの一つであるベルベットの亡骸に対処しようとしたが。その目の前で亡骸が浮き上がり吸い込まれる

 

「ふんっ!」

 

寸での所でケンが腕を掴むも今度はケンごと浮き上がってしまう

 

「なんのぉ!」

 

吸い込まれながらも地脈に点在する水晶のような柱に右手をを掛ける。それにしがみ付こうとした時ケンの右腕に紙葉で出来た刺剣が突き刺さる

 

「ぬっ・・・!」

「邪魔しないでよ。ああ、でもちょうどいいや、君は消えて欲しかったしそのまま穢れ毎喰べてしまうのも悪くないかな」

 

カノヌシはもう一本刺剣を作り出し投げ今度は右肩に刺さる

 

「・・・!」

「前から気になってたんだよ。大地の記憶を探ってて君に関する記憶がなくってね。特の出生の物がないんだ。でもね、タイタニアでお姉ちゃんに出会った時の記憶が一番最初なんだよ。どういうことかな」

「・・・」

 

ケンは何も答えることなく、カノヌシもそれをわかって続ける

 

「まるで何もないところから突然現れた。そして君の力、人間でありながら業魔を浄化するその能力。聖隷術でも魔術でもない異質な物、この世界でありえないんだ・・・君、何処から来たの?いや、どうやってこの世界に来たの?」

「「「!?」」」

 

アイゼン達がカノヌシの言葉に反応する

 

「最初はね、大したことないと思って早めに消そうとしてたんだよ。お姉ちゃんには悪かったけど」

「・・・なるほど、タイタニアとヘラヴィーサでベルベットさんが襲ってきたのも納得です。喰魔、カノヌシからしてみれば動く口、それぐらいの事はできるってことですか。でもそれっきりで何もなかった」

「うん、君の力が予想より強かったから僕自身で始末しようって、だから途中で止めちゃった。でもそれも終わるから君が気にすることなんかないよ」

 

ケンとカノヌシが問答している中ライフィセットがベルベットの手を掴み呑み込まれるのに逆らうが少しずつ引きずられていく

 

「放して・・・あたしは消えなきゃ・・・」

「嫌だ・・・!!」

「このままじゃ・・・あんたまで無意味に殺しちゃう・・・」

「嫌だっ!!」

「こんな穢れた化け物は、生きてちゃいけないのよ・・・わかるでしょ・・・?」

「うう・・・!!」

「一人目の生贄の転生体――君も僕の一部だ。先に二人とも一緒に喰べてあげるよ」

 

カノヌシがライフィセットの方を向きそう告げる。ライフィセットの体が浮き上がってしまう

 

「ああっ!!」

 

宙に浮いた足をアイゼンが掴む

 

「ライフィセット、この自惚れ屋に言ってやれ!」

 

アイゼンが地面に手を翳すと、そこから複数の光で出来た鎖が現れ自分に体に巻き付け地面に固定する

 

「お願い、もう手を・・・」

「煩い、黙れぇっ!!」

 

それでも懇願するベルベットをライフィセットが一喝する

 

「!!?」

「解るわけないよ!ベルベットは、すぐ怒って!怖くて!僕を食べようとする!でも、優しくて・・・こんなにあったかい!!」

 

ずり抜けていくベルベットの左手に力を籠め放さないように握り締める

 

「ベルベットのことなんて、全然わからないよ!!」

「・・・・・・」

「けど、ベルベットは僕に名前をくれた!羅針盤を持たせてくれた!僕が生きてるんだって教えてくれた!だから僕は!僕のためにベルベットを守るんだっ!!」

「・・・フィー・・・」

「穢れてたっていい!!意味なんかなくたっていいよ!皆が間違ってるって言うなら、世界とだって戦う!ベルベットが絶望したって知るもんか!!僕はっ!ベルベットがいない世界なんて・・・」

 

その時ベルベットの左腕が業魔手に変わり、ライフィセットの腕に喰らいつく

 

「ぐううッ・・・絶対に嫌だあッッ!!」

 

痛みに耐えながらライフィセットは自身の想いを叫ぶ

 

「ダメよ・・・手が勝手に・・・」

「腕くらい喰べていいよ。でも、こっちは残しておいて。ベルベットを泣かせたカノヌシ(あいつ)を殴ってやるんだから!」

 

ライフィセットは左腕をベルベットに向けて差し伸ばす

 

「あたし・・・大好きだったの・・・」

 

ベルベットが右手を伸ばす

 

「ラフィも、セリカ姉さんも、アーサー義兄さんも、みんな・・・だから“あの時”を奪われたことが・・・あたしを選んでくれなかったことが・・・」

 

涙を流しラフィとアルトリウスが家族より世界を取り、自身を置いて行った事、切り捨てていかれた者の想いを吐き出しながらライフィセットの左手を握る

 

「悔しいーーーっっ!!」

 

その思いと共にカノヌシが何かを感じ取る

 

「“絶望”が・・・消えた!?」

「ベルベットさんは乗り越えて・・・いや、踏み越えたようですね。貴方の計画も見事に狂ったようで」

 

焦るカノヌシを煽るケン、カノヌシは気に入らないような表情でケンを睨む

 

「ならせめて憎悪だけでも喰らうよ!」

 

手を翳し刺さっていた刺剣を乱暴に抜き自身の手元に引き寄せ握ろうとした時、指を弾く音が響いた瞬間、周りの動きが止まった

 

「また手ひどくやられたな。大丈夫か?」

「・・・正直少し辛いです」

 

顔を上げるとケンの掴んでいる結晶の上にルシフェルが立っていた

 

「気になっていたんですが、カノヌシが大地の記憶で自分だけの記録しかないとか言ってましたけど」

「あぁ、感づかれるのも面倒だからな、私が関わった記録、大地の記憶とやらは予め消させてもらったよ」

 

ルシフェルは止まっているカノヌシの方を見ながら答える

 

「そんな事簡単にできるんですか?」

「心配するな。君が気にすることはない、さて、どうする?彼女は誰かの為ではなく、自分の道を選択した」

「ええ・・・ベルベットさんは絶望から小さな希望を掴んだ。それがどのような結末になるかはわかりません。ですが自分はそれを手助けし、見届けたいと思います。最後まで」

 

ライフィセットの手を掴み目に光を取り戻したベルベットを見て改めて決意を固める

 

「わかった。君がそう言うなら私もまた少し手を貸すとするよ。まぁ、最初からそう言うと思ってこれをもって来てたんだ」

 

ルシフェルがどこからともなく一つの物を取り出す

 

「・・・銃・・・ですか?それにしてはえらく変わった形をしてますね」

 

ケンが疑問に思うのも無理はない。それはグリップや引き金は大して変わったものではないが銃身が自身の認識とは全く違ったものだった。銃身には左右にリング状の部品が銃身上部に沿う様に取り付けられその中にさらに球状の部品が三つ三角型に組み込まれている。上部には狙いを定めるための光学サイトのようなものがついていて銃口であろう場所には弾丸が出るための穴はなくガラス状の青い球体部品が着けられその中にカットされた宝石のような丸型の石が嵌め込まれている。用心金の前には金属状のガードが銃身とグリップに繋がっている。グリップ底にもそれと同じようなものがあるがグリップに嵌め込み穴が確認できるので恐らく折り畳み式のストックだろう

 

「変わっているのも当然だ。地上の物ではないからな。これは『魔銃ガンゴール』という」

「魔銃?物騒な名前ですね」

「そう言うな、本来は一丁しかないが。伝手でもう一丁用意してきた」

「はぁ、ですが自分は銃なんて使った事ありませんよ?それを渡されてもどうすればいいか」

 

ケンが苦言を呈する中ルシフェルはケンの元まで空中を歩き腰のバックパックのガンゴールを差し込む

 

「一つ伝えておこう、その銃には特別な銃弾が一発装填されている。言いそびれてたが単発式だから注意してくれ。それは君に渡した浄化の力と同じものが強力に込められている、使い道は君の選択に任せる。予備も二発入れておくよ」

 

ルシフェルはもう二つの銃弾をベルトに入れる。ケンは自身が掴んでいるベルベットの亡骸を見る

 

「・・・わかりました、有効に活用させていただきます。これを撃ち切った時、ベルベットさん達に自身の選択を示してみせます」

「ケン、人が持つ唯一絶対の力・・・ それは自らの意思で進むべき道を選択することだ。 お前は常に人にとって最良の未来を想い、自由に選択していけ。さぁ、行こうか」

 

ルシフェルが指を鳴らし時が動き始める。ケンは柱を掴んでいた右手を離し素早く腰に入れられたガンゴールを引き抜き亡骸の胸に当てる

 

「あんなものいつの間に・・・!止めろーっ!」

 

カノヌシは突然の出来事に驚きながらもケンがやろうとしたことを止めようとしたが既に引き金は引かれていた眩い光が亡骸に接射され光に包まれる

 

「憎悪が・・・!消えていく!?」

 

それと同時に頭上にあった紋章が砕け散る

 

「しまった・・・!?」

 

カノヌシは落下し地面に乱暴にぶつかる

 

「く・・・こんなことが・・・!!」

 

カノヌシがそう零しながら上半身を起き上がらせる。ベルベット達も立ち上がろうとした時ベルベットの目の前に一つの光が現れ閃光を放つ。そこから声が聞こえる

 

「私の心にもあるのです。貴方と同じ、消したくても消えない炎が」

 

そこにはシアリーズが立っていた。ベルベットが立ち上がり向き合う

 

「・・・貴女の気持ち、やっとわかったわ。でも、あたしは自分の為にしか戦えない」

「十分です。それが生きるということなのですから」

 

ベルベットは歩み寄りシアリーズの顔に両手を添えると、彼女の体は光となって消えそこには一つの指輪が残った。それを握り締め、ベルベットは地脈の裂け目に向かって走り出す。もうその目に絶望はなかった

 

「うおおおおおっ!!」

 

業魔手を振りかぶり走るベルベット、次の瞬間その手に紅蓮の炎が走りそれを裂け目に叩きつけた

 

「はあああぁっ!!!」

 

裂け目に叩きつけた炎の余波がカノヌシを吹き飛ばす

 

「うわあああああっ!!」

 

裂け目が大きく開きはじめベルベット達はそこへ向かって走り始める。自身の道へ進むために

 

 

第43話 終わり

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。