テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜 【完結】   作:スルタン

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第44話

 

先に地脈から脱出したマギルゥとビエンフーはベルベット達が戻ってくるまでビエンフーが裂け目に霊力を送り込み、マギルゥはメルキオルからの術に耐えていた。だが幾度とない攻撃にマギルゥは倒れこんでしまう

 

「ね、姐さん・・・!」

「心配・・・無用じゃ・・・ベルベットにできて・・・儂にできんわけがあるまい・・・」

 

マギルゥの無謀な強がりをメルキオルが近寄りマギルゥを見下ろす

 

「自ら心を砕いての覚醒――何度繰り返す気だ?」

「・・・今ので百と七・・・いや八回目かの・・・?ま・・・どーでもいいがの・・・」

「愚か者が」

 

マギルゥは立ち上がりながら自身の心を砕いた回数を答える、メルキオルからしてみればまさしく愚か者に見えるだろう

 

「必要なのは、年々歳々生長を繰り返す草木の如き不動の精神と教えたはずだ」

 

メルキオルがマギルゥの眼前で手を翳し、さらに術を掛ける。マギルゥは倒れながらも尚抵抗する

 

「ぐぅ・・・お主の様に・・・そこの坊のようにか・・・?」

「それでこそ人の業から脱し、理想世界の礎になれる」

「理想世界・・・のう・・」

 

マギルゥは鼻をならす。鼻血が流れ出ているがメルキオルは容赦なく術を使う、マギルゥは膝を着く

 

「坊や、お主の相方じゃったか坊――ライフィセットは“生きて”おるぞ。恐ろしい女業魔を追って、海の広さを知り、大地の渇きに耐えておる・・・あ奴らは、儂らとは違う・・・悩み、苦しみ、それでも己の鼓動を抱きしめて・・・」

 

マギルゥは足を震わせながら立ち上がる

 

「この醜い世界を懸命に“生きて”おるんじゃ!」

「・・・」

 

血をまき散らすのも構わず1号に叫び訴える。それに僅かに反応する1号

 

「その仲間の為に・・・とでもいうつもりか?」

 

メルキオルが再度術を使い遂にマギルゥが障壁を解いてしまう

 

「ふん、逆じゃわ。あ奴らには、心底イラついて仕方ない・・・チクチクと儂の胸を突き刺しおる・・・じゃからのぅ・・・この結末だけは見届けねば・・・どーにも収まりがつかんのじゃっ・・・!!」

 

何事にも興味も示さず、どうでもいいと生きてきたマギルゥにとって必死になって生きているベルベット達は憎いと同時に憧れになっていたのかもしれない。自分には持っていないものがあるなら尚更である

 

「無意味な事を。やはりお前は失敗作だ」

 

マギルゥの想いをバッサリと斬り捨てる

 

「・・・最高にどーでもいいわい・・・!」

 

メルキオルが止めを刺そうと聖隷術を発動する

 

「やめてでフー!!!」

 

ビエンフーが叫んだその時、霊力を送っていた裂け目から炎が噴き出す

 

「ぬおおおっ!?」

 

炎がメルキオルを襲うが透かさず術で防ぐメルキオル、炎が晴れた時マギルゥの前にベルベット達が立っていた

 

「・・・ひょっとして、いいところに来た?」

「遅いわ!おかげでいらん事を口走ってもうた」

 

ケンに肩を貸してもらいながら立ち上がるマギルゥ達の前にメルキオルが立ちふさがる

 

「カノヌシとは出会ったな。ならば、お前の復讐には意味がないと分かったはずだ」

「・・・ええ、よくわかったわ・・・世界が悲しい理由も、人が背負った業の深さも」

 

メルキオルの言葉にベルベットは肯定する

 

「アーサー義兄さん――そしてラフィは、全てを捨てて、その悲劇を終わらせようとした。それが・・・あの人たちの願いなのね」

 

世界を救うという大きな目的の為には数多くの物を犠牲にしなければならない、それが例え身内であっても。だが逆に捨てられる方の気持ちはどうなるのだろうか

 

「そうだ。良く弁えた」

「でも、だから許せない。あの二人・・・アルトリウスとカノヌシが、矛盾した醜いエゴだってわかってるけど、あのあったかい日々は、あたしが――あたし達家族が生きた証だったのよ」

 

ベルベットは姉と弟、そして義兄との思い出を告白する。あの時の出来事が起きるまでの幸せな日々を、ベルベットはメルキオルの方へ顔を向ける

 

「だから、どんなに苦しくても悲しくても。あたしは、この“復讐”をやり遂げる」

「ベルベット!」

 

弟の為に生きてきたベルベットが自分の為に生きると言い切った。幸せだったあの頃を奪われたことへの復讐であった

 

「ふざけるな!!潔く諦めて死ね!絶望こそが、お前の宿命なのだ!!」

 

メルキオルが青筋を立てながら語気を強める。自分勝手で利己的なベルベットは尚更許せないのだろう

 

「家族を奪って、体を化け物にして、今度は”心”を寄越せって・・・?」

 

ベルベットは業魔手を繰り出し構える

 

「そっちこそふざけるなっ!!覚えておきなさい。災禍の顕主は、死んでも諦めないのよ」

「己が業を恥もせず、よくも・・・!」

「くくく・・・あ~はっはっはっはっ!!!」

 

そこにマギルゥが高笑い、鼻血を拭う

 

「儂も混ぜい!賭けに負けた八つ当たりじゃ♪」

「行けるの?そんな様で」

「誰に向かって言っておる!自分で言うのも楽しいが、地獄の沙汰もノリ次第!正義の対魔士を蹴散らす悪逆無動の魔法使い!マギルゥ・メーヴィンとは、儂の事じゃ!!」

 

マギルゥは半場無理矢理にいつものポーズを取る、ベルベット達が構えるとメルキオルが紫色の球体を作り出し戦闘態勢に入る

 

「痴れ者どもがぁ!!」

 

メルキオルは速攻で始末しようと灼熱の炎の壁を繰り出しベルベット達に迫る

 

「かっこよく決めた傍から焼かれたらたまらんわ!!フラッドウォール!!」

 

マギルゥが前にでて聖隷術で水の壁を繰り出しお互いに相殺する。火が水を熱し水が火を呑み込み水蒸気が立ち上る

 

「くっ!!小癪な・・・!」

「皆の者!心配かけてすまんかったの~!」

「別にしてない」

 

ベルベットが横を走り抜ける

 

「心配されるようなタマか」

「だよな」

 

アイゼンとロクロウが左右に分かれながらそうごちる

 

「これも、ある意味の信頼ですよ!」

「うん」

 

エレノアとライフィセットが聖隷術を発動させながらベルベット達の意見に賛成する

 

「こんの恩知らず共~~!!ケンはどうじゃ!?お主はわかってくれるよのう!?」

 

マギルゥは地団駄を踏みながらケンに賛同を求める

 

「まあ、はい。それなりには」

「それなりじゃと~!?別の意味でチクチクじゃわい!!」

 

ケンが頭を搔きながらフォローにならないフォローでマギルゥは頭をガックリさせるが直に向き直る

 

「まあよいわ!このうっぷんはあ奴で晴らさせてもらうわ!」

 

マギルゥはいつものにやけ顔で術を展開する

 

「飛燕連脚!!」

「風迅剣!」

 

ベルベットの回し蹴りとロクロウの突きがメルキオルの顔面と腹部目掛けて迫るがその攻撃は障壁に阻まれる

 

「ちっ!!」

「ぬっ!」

「穢れた業魔が儂に触れるなぁ!!」

 

ベルベットは空中で体勢を整え後ろに下がりその隙にロクロウが前に再び出る

 

「そうと言われて引き下がる奴がいるかよ!!鎧通し!」

「聖隷だったらいいわけだな!!」

 

アイゼンが横から拳を構えて殴りかかる。その距離では防御は間に合わないだろう、だがその拳とロクロウの腕が黒い手に捕まれる

 

「んなぁ!?」

「コ、コイツ!!?」

 

アバルで遭遇した黒い業魔が二人の攻撃を受け止めそのまま振り回し投げる。二人が崖際まで飛ばされすんでのところで淵に捕まる

 

「うおおっと!」

「あの業魔は・・・!」

「道具風情が粋がるな。それにしても相も変わらず御し難いやつだこいつは」

 

業魔はロクロウとアイゼンを放り投げたと同時にベルベットに向かって姿勢を低くし走る

 

「上等!!」

「ライフィセット!マギルゥ!そちらはお願いします!」

「わかった!!」

「言われんくてものう!」

 

ベルベットは刺突刃を繰り出し走り出す。エレノアがベルベットと元へ援護すべく駆ける。ライフィセットとマギルゥは1号への攻撃を加え続ける

 

「はぁ!!」

 

ベルベットが横薙ぎに刺突刃を振るい業魔はそれを最小限に後ろに下がり躱す、業魔は反撃で貫手をベルベットに向けて放とうとするのをエレノアが槍で牽制する

 

「エレノア!」

「この業魔の力は未知数です!!一人では危険ですよ!」

「わかってる!!」

 

二人が構えお互いに攻撃を開始する。ベルベットが蹴りと刺突刃で食い掛り。エレノアが聖隷術と槍術でカバーする。だがそれでも業魔は直ぐに対応し始め二人が徐々に押され始める

 

「・・!!強い!!」

「二人がかりでも押されるなんて!?」

 

業魔は消耗していく二人に地面スレスレの回し蹴りで足を払う。突然の行動に二人は対応しきれず転倒する

 

「くうぁ!」

「しま・・・!」

 

業魔は足を振り上げ近くにいたエレノアに踵落としをしようとした瞬間横からケンがタックルで突き飛ばし妨害する

 

「!!」

「うおおっ!!」

 

体勢と取り直し着地した業魔に右の拳を固め打拳を放つ。業魔はそれを受け止め逆の拳で彼の顔を一度殴るが二発目はケンがそれを掴みフィンガーロックに近い状態でお互い拮抗する

 

「・・・!!!」

「ふんぐぅ・・・!」

 

だがそれも長くは続かず徐々にケンが押され始める

 

「ぐう・・・」

「なんと!ケンが力負けしてる!」

「カノヌシのダメージが響いてきたか・・!!」

 

ロクロウとアイゼンが崖から這い上がる、アイゼンの言う通りケンの右肩からどんどん血が滲みそれが背中にまで広がり始めている。業魔はケンの腹に蹴りを放つ

 

「ぐ・・!」

 

ケンを蹴り飛ばし距離を取った業魔はそのままベルベット達の方へ向かう。それを止めるべく立ち上がったその時彼の足元に光り輝く聖隷術の紋章が現れる

 

「崇高で清浄な場を愚か者の血で汚すわけにはいかん。貴様を相応しい場所に送ってやる」

「なに・・!?」

 

ケンがそう発した瞬間紋章と一緒に姿が消えていった

 

「ジジイ!!あいつをどこにやった!!」

 

アイゼンが語気を荒げメルキオルに問いただす

 

「あ奴の力は厄介極まりない。こちらも痛手を負うだろうが上手くいけば穢れの良い餌になる」

「アイゼン!直ぐに助けに行かないと!ここから遠くには飛ばせないはずだよ!」

「メルキオルの事じゃ!!ドラゴンをぶつけても可笑しくないぞ!!」

 

マギルゥとライフィセットが横目で叫ぶ

 

「ベルベット!貴女だけでも行ってください!!」

「アイツの心配するなら信じなさい!!ここを乗り越えなきゃ捜しにも行けないわよ!!!」

 

ベルベットは構えながらエレノア達を鼓舞する

 

「そういうことだエレノア!!あいつはしぶとさは並大抵じゃないってこと知ってるだろう!!」

 

ロクロウが小太刀を構える

 

「・・・うん!今僕たちができることを!」

「仮に仏になっても骨ぐらいは拾ってやるわい!」

「その為にも決着をつけるぞ!エレノア!」

 

アイゼンが聖隷術と拳で業魔に仕掛ける

 

「・・はい!!!」

 

エレノアも槍を構えメルキオルに向かって走り出した

 

 

空中に紋章が現れそこからケンが乱暴に放り出される

 

「ぐ!」

 

何とか着地するも体力の消耗で体がぐらつく。その時前方から喉を鳴らす音が聞こえた、ケンが顔を上げるとそこには一体のドラゴンが牙をぎらつかせ咆哮を上げた。その姿は燻ぶった灰色の体表に紫色の結晶のような物が体の所々に生えている。体長だけで30メートルはあるだろうか、尾を足せばもっと大きい。拡げた翼膜はそのドラゴンよりさらに大きいだろう。そんな巨体を前にケンは思わずつぶやく

 

「・・・結構辛いな・・・」

 

ドラゴンが前脚を振りかぶり薙ぎ払う様に振るう。ケンはすかさずガードするが圧倒的重量でドラゴンを閉じ込める障壁まで殴り飛ばされる

 

「ごっ!!」

 

障壁からずり落ちる間もなく今度は長い尾で薙ぎ払う

 

「どあっ!」

 

地面を数回跳ね、地面を擦り止まる。ケンは俯せの状態から起き上がろうとするが前脚で踏みつける

 

「ぐうう・・!!」

 

ドラゴンは体重を掛け何度も踏みつける。地面がひび割れケンの体がめり込んでいく

 

(普通の人間ならともかく業魔でもこれを喰らったら死んでいた・・・!だが自分なら耐えられる!反撃の隙を見つけなければ・・・もしかしたらこのドラゴンを元に戻せるかもしれない!)

 

前脚と尾を何度も打ちつけ十分弱ったと判断したドラゴンは止めを刺そうと脚を通常より高く上げた時ケンは直ぐ様立ち上がりドラゴンの脚を受け止めた。だがダメージと体力の消耗で押し返すことができない

 

「流石に今の状態ではキツイ・・・」

「おいニイちゃん!!」

 

ケンが声のした方向へ顔を向けるとザビーダが障壁越しに立っていた

 

「どうもザビーダさん、こんな所で奇遇ですね・・・!」

「なに吞気な事言ってやがる!!待ってろ今助ける!」

 

ザビーダが障壁に手を当てようとしたが弾かれる

 

「ぐっ・・・!?この障壁、メルキオルのジジイだな!!」

「ザビーダさん!自分の事よりベルベットさん達の救援をお願いします」

「何!?アイツ等もここに来てるのか!」

 

その時遠くの足場から光と轟音が響く

 

「あそこです。自分はメルキオルの術でここに飛ばされました、あの黒い業魔もいますからベルベットさん達の方が危険なはずです。さあ急いで!」

 

突然左目のナビゲーションが起動し上方向への表示と共にHEATWARNINGと警告文がでる。上を見ると指の隙間からドラゴンの口から炎が漏れ出しているのが見える

 

「さあ早く!」

「くそっくたばんじゃねえぞ!!」

 

ザビーダがベルベット達がいる方へ続く階段に向かって走り出す。ケンは片腕で受け止めつつ懐から一本の緑色のペン状の物を取り出す

 

(あの科学者の人が密かに用意しておいた薬と書いてあったな・・・)

 

ケンはロウライネから帰還した時にバックパックに入っていた注射器とメモについて思い出していた

 

(強い副作用があるといったけど・・・この状況で迷っている暇はない!!)

 

口でキャップを咥えて外し後部を押し針を出す、片方の腕に刺し薬剤を注入する。直ぐに疲労感と痛みが消える

 

「うおおおっ!!」

 

ブレスを吐こうとした瞬間前脚を押し上げドラゴンは体勢を崩す。ケンがへこみから抜け出しドラゴンの顎に組み付き口を塞ぐ、その勢いを使いドラゴンを仰向け状態で地面に叩きつける。ケンは直ぐ様離れドラゴンの尾を抱え上げ大きな巨体をジャイアントスイングの様に振り回す。数回振り回し遠心力が最大になった所で放り投げドラゴンを地面に叩きつける。片膝を着きながら腰に差していたガンゴールを抜き銃身を折り地脈で撃った薬莢を取り出しもう一発を装填する。射撃は経験がないので左目が自動でナビゲーションを行い狙いを補正する。ドラゴンが起き上がりブレスを改めて吐こうと首を起こした時ガンゴールから光輝く光弾が発射される

 

「どうだ・・・!」

 

ドラゴンの胸に命中した光弾の光が体全体を包み込みあの時と同様に徐々にサイズが小さくなっていった。やがて人の形に落ち着いていき光が治まった時には一人の少女が地面に仰向けに倒れ気を失っていた。セミロングで髪の先に赤いグラデーションが掛かっておりザビーダと同じ毛質である

 

「はぁ・・・はぁ・・・せ、成功だ」

 

ケンは立ち上がり少女に近づき外傷がないかを確認する。見た限り問題はないようで一安心した。それと同時に障壁が消えてなくなる

 

「問題はないようだな・・・はぁ、少し疲れた。こんな姿見られたら師匠にまたどやされる・・・」

「ケーン!!」

 

そこへライフィセットとエレノアがこちらに向かって走ってきているのが見えた、どうやら向こうも終わったようだ

 

 

「ケン!!」

「ライフィセット、そっちも無事だったんだね」

「私達の心配より自分の心配をして!!」

 

エレノアがボロボロのケンを見て怒る

 

「あー・・・すいません」

「どうやら骨は拾わずに済んだようじゃの~」

「お前本気か冗談かどっちなんだ・・・」

 

マギルゥのぼやきにロクロウが突っ込む

 

「こいつが余計な事をしてくれてな」

「そこは『助けていただいた』だろうが」

 

ロクロウとアイゼンは反発しあってるように見えるが案外そうでもなさそうだ

 

「・・・あんたも自分の道を決めたようね」

「ええ、自分はベルベットさんの行く末を見届けますよ。そして選択します、自分の道を」

「そう。ま、精々頑張りなさい」

「この人はどうするの?」

 

ライフィセットが聖隷の側に立ちどうするかベルベット達に尋ねる

 

「ここに置いていくわけにもいかねぇからな、おぶっていくか。にいちゃん頼めるか、怪我をしているとこわりぃけどな。今満足に動けるメンツを揃えておきたいしな」

「それは構いませんがよろしいのですか?自分は人間ですからこの人に穢れが・・・」

 

ケンは穢れについての懸念を質問する

 

「直接穢れを打ち込まない限り直ぐには影響はない。それにお前の浄化の力なら十分対処できる」

「ここを出るまででいい、後は俺が何とかするからよ」

 

アイゼンの提案にケンは了承し自身の治療を施し血と汚れの付いた上着を換え聖隷の少女を背中に背負う。そこでケンは見覚えのある銀髪の聖隷がいることに気付く

 

「君は確かメルキオルと一緒にいた・・・」

「俺が着いたときには勝負が決まってたからな。んであのジジイがまだあきらめてなかったんで俺が地脈へご退場させてやったんだ。その時コイツが残って連れてきた。名前はシルバだ、副長が付けた」

「ちっ・・・」

 

アイゼンは舌打ちをしながらそっぽを向く。恥ずかしいのだろう

 

「シルバ・・・いい名前ですね。よろしく、シルバ」

「うん」

「ねえケン、あの時みたいに技で意志を取り戻すことってできる?」

 

ケンはシルバに挨拶を交わす。シルバはほぼ初対面なので短く言葉を交わした。ライフィセットはシルバの意志を開放することができないかとケンに質問する

 

「とにかくやってみよう。でも今ここではできない、敵陣だしなによりこの人を安全な場所に連れて行かないとね。護衛は任せたよライフィセット」

「うん、わかった」

「意志を開放できるなんて初耳だぞ!?どうりでロウライネで連れてきたあいつ等も意志を取り戻していたわけだ」

「?」

 

ケンはザビーダの言葉に疑問符を浮かべる。ルナエキストラクトはあくまで切り離す技なので意志を取り戻すような効果はないはずだ。あるとすれば穢れを払った時に使った浄化の力だろうが

 

「その聖隷もドラゴンだったのですね。ですがいくら聖寮といえどドラゴンを操りここまで導くことは不可能なはずです。つまり――」

「ここに来るまではドラゴンじゃなかったってこと!?」

「そう考えるのが自然だな。恐らく聖隷を拘束し、その後ドラゴンに変えたんだろう」

「前にメルキオルの野郎がやったようにか・・・どこまでも聖隷を踏みにじりやがって!」

 

エレノアはケンに背負われている聖隷を見ながら予想を立てた。態々危険を抱えてまでドラゴンをここまで連れてくることはしない。アイゼンの考えはまさしく的中するだろう。ザビーダは語気を荒げながら毒づく

 

「言葉もありません・・・」

「エレノア様のせいじゃないでフよ~・・・」

 

直接的には関わっていないが対魔士であるからには責任を感じているエレノア。ビエンフーもすかさずフォローする

 

「しかし、喰魔だけでなくドラゴンまで生み出すとは・・・その内人間を生む方法を発見するかもしれんのー」

 

 

「ベルベット・・・」

「なに?」

 

ザビーダがこの施設に入るために開けておいた出入口に向かって進んでいたベルベットの後ろからライフィセットが声を掛け彼女が顔を後ろに向ける

 

「僕って、ベルベットのお姉さんの子供・・・だったんだよね?お父さんは・・・」

「転生のこと、ね」

「・・・うん」

「生まれ変わるってどんなものか・・・正直、あたしにはよくわからない。でも、あたしにとって大事なのは、自分で見て、聞いて、感じた事よ。例え、誰かの生まれ変わりだったとしても、あたしはあたしで、あんたはあんた。それだけだと思う」

「ベルベット」

 

あくまで大切なのは意思と心であるライフィセットは確かにセリカのこの転生であるが、それも表面上でのことである

 

「そうそう、アイゼンが言ってたが、聖隷の前世は、必ずしも人間とは限らないらしいじゃないか」

「それじゃあ、動物や鳥や魚の生まれ変わりということもあるのですか?」

 

ロクロウはアイゼンの例を出しエレノアはそれをもとに推理する

 

「なくなくなくなくなくない~♪じゃが、仮にワンコの生まれ変わりじゃとして、今の坊が、自分をワンコの兄弟だとは思わんじゃろ?」

「うん・・・僕は僕だし・・・」

「ベルベットのかわいいワンコじゃがのー」

 

一言多いマギルゥにベルベットが口を挟む

 

「マギルゥ」

「後で噛みつくから、覚悟しといてね」

「ひええ、御勘弁を~!前言撤回、噛みつき撤退じゃ~~!」

 

冗談かはわからないがライフィセットも言う様になってきた

 

「前世とは『大地の記憶』のようなものだ。過去の積み重ねの上にお前は生まれた。だが、特別なことじゃない。誰もが、過去の繋がりの上に生きている」

 

人に歴史があるように、聖隷にも歴史がある。過去があるから現在がある、必然でもあり偶然の事象に皆生きている

 

「僕は、僕なんだよね」

「そ、他の誰でもない。あんたはフィーよ」

「・・・」

 

ケンはベルベット達の会話を無言で聞いていた

 

 

「おい。副長。ジジイが連れてた角の業魔は、なんなんだ?」

「・・・わからん」

「一瞬だったが、妙な気配を放ってやがった。お前は感じなかったのか?」

「わからんと言っている」

「・・・そうかい。やっぱりてめえとは合わねぇな!」

 

アイゼンはかなり歯切れが悪そうに答えた。その表情は浮かないモノだった、まるでわかっているが理解したくないようにもみえた

 

「あの大角の業魔には前にも会ったのよ。恐らくメルキオルが、幻術で操ってるんだと思うわ」

「そうか。守りに入っていたのは正解だったな。まともに殺りあったら、タダじゃすまなかったはずだ」

「・・・なぜわかるの?」

「勘さ。ただ、なんだかやけに匂うのさ。キナくせぇ、不吉な匂いがよ・・・」

「・・・あの顔の傷・・・あいつは・・・」

「大丈夫、アイゼン?顔色が悪いよ」

 

表情の優れないアイゼンにライフィセットが声を掛ける

 

「・・・いや、どうということはない。今はここを出ることが先決だ。急ぐぞ」

 

 

その後ザビーダが作り出していた出入口とみられる紋章の上に乗ると辺りが光に包まれそれが晴れた時には海を臨む島に出た。ここカースランドはアイルガンド領近郊に浮かぶ島で聖寮が立ち入りを厳しく制限しており入れるのは聖寮でもごく一部の対魔士のみであり此処の存在自体聖寮内で知るものがほとんどいない。船乗りの間でも業魔やドラゴンが現れるとして“不帰の海”と呼ばれ恐れられている。実際はメルキオルなどが実験場と牧場を行うための隠れ蓑となっている

 

「外に出れた!」

「俺の乗ってきた船がある。島の南東の浜だ!」

 

ザビーダの後を走って付いて行き岩が点在する丘を通り過ぎようとした時その遠くから黒い穢れの塊がシルバに当たった

 

「あああっ!?」

 

シルバが穢れを受け後ろに飛ばされる

 

「なんだ!?」

 

一瞬の事で反応できなかった。ロクロウが声を上げる

 

「ふふふ、昔よく鬼ごっこをしたよね」

 

ベルベット達は声のした方を向くと穢れを撃ち込んだ張本人であるカノヌシが裂け目から現れた。どうやら追いつかれたようだ

 

「逃がさないよ、お姉ちゃん」

 

 

第44話 終わり




今回はここまでです。ありがとうございました
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