テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜 【完結】   作:スルタン

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短いですがどうぞ


第45話

 

「逃がさないよ、お姉ちゃん」

「カノヌシ!」

 

地脈でベルベットに吹き飛ばされたカノヌシ。あれで大分引き離せたと思われたがやはり聖主、すぐに追いついてきた

 

「・・・」

 

ベルベット達がカノヌシと対峙する

 

「ああぁ・・・・や・・・っ!怖い・・・よぉ・・・!」

「やめて!この子がドラゴンに!!」

 

エレノアがカノヌシに向かって叫ぶ。対魔士の支配から解放されほぼ無関係の状態になったシルバに対する凶行を

 

「そうするつもりでテレサから取り上げたんだ。“それ”も、鎮静に必要な犠牲なんだよ」

「!!」

 

頭を抱え苦しむシルバにケンが駆け寄り浄化の力を使うため額に手を当てようとした瞬間その手をシルバの小さな手が受け止める

 

「・・・なぜ!?」

「だ・・・め・・・その・・・ひ・・と・がぁ・・」

 

シルバは涙を流し焦点があっていないながらもケンがおぶっている少女の聖隷に穢れが伝染してしまう可能性を心配していた

 

「でもこのままでは君が危ない!」

「おね・・がい・・・僕を・・・ころ・・・して・・・」

 

あらゆる負の概念が自身の身を蝕み、自身の意識がなくなってしまい聖隷でなくなってしまう。そうなったらベルベット達を傷つけてしまう、そうなる前に自分を殺すようにケンにお願いする

 

「・・・大丈夫。必ず君を助けてみせる、信じてほしい」

 

その声が聞こえたのかは定かではない。シルバから溢れだした穢れがケンを押しのけ一層溢れた後、そこには黒い体表に禍々しい翼、後頭部から流れるような一対の角、何より特徴的なのは赤く光る単眼のドラゴンがいた

 

「カノヌシ、てめェ!!」

「前門のカノヌシ、後門のドラゴン・・・死神より質が悪いのう・・・!」

 

同族であるシルバを目の前でドラゴンに変えられたアイゼンがカノヌシを睨みマギルゥが今の状況を分析する。結果は相当やばいが

 

「“絶望”するには丁度いいでしょ」

「勝手に決めるな」

 

シルバの事を気にも留めていない上に“丁度いい”と済ませるカノヌシにライフィセットは語気を強める

 

「あんたのお姉ちゃんは、この程度じゃ折れないのよ」

「・・・・抵抗すると苦しむことになるよ」

 

ベルベットとカノヌシがにらみ合うが彼女の横からザビーダが歩み出る

 

「ベルベット。こいつのお仕置きは、俺にやらせろ」

「無理だよ。ただの聖隷には」

「“ただの”じゃあねぇ」

 

カノヌシの言う通り、聖隷の主たる存在である聖主は云わば神も同然、力関係で言えば明確の差がある。ザビーダはそんな事は気にも留めずジークフリートの銃口を自らの蟀谷に当て引き金を引き。霊力を撃ち込む

 

「下種野郎にブチ切れた!」

 

引き金を再び引きさらに撃ち込む

 

「限界突破の!!」

 

三度撃ち込みさらにブーストする

 

「ザビーダ様だッ!!!」

 

ジークフリートで強化された聖隷術を発動し圧倒的な風圧でカノヌシを吹き飛ばす

 

「おいにいちゃん!!シルバを助けることができるのか!?」

 

ザビーダは後ろを向き岩陰に少女を下ろすケンを見る

 

「全力を尽くします。借りは一つお返しですよ!」

「わかった!お前を信じるぞ!!!」

 

ザビーダはカノヌシを追撃するため風の如く走り始めた

 

「ザビーダ!」

 

アイゼンが彼を呼び止めようと声を荒げる。いくらザビーダでも一人でカノヌシに対抗するのはとても難しい、それで止めようとした時地響きと共に咆哮が響き渡る

 

「ええい、大騒ぎがすぎる!!」

 

ロクロウが小太刀を構えドラゴンと対峙する

 

「問題ない!ケン!!策はあるのね!?」

「はい自分ができる最善を尽くします」

 

立ち上がり様ザ・カリスで使った注射器をもう一本取り出す

 

(一度打ったら数日は使うなと書いてあったが・・・約束したからには・・!)

 

ケンは意を決し針を腕に刺し薬剤を注入する。そこにはもう躊躇も迷いもなかった。ガンゴールを使う手もあるが弾丸は残り一発、今使い尽きた後ライフィセットやアイゼンにもしもの事があった場合どうなるか様々な可能性を考えた。今できる最善の手は自身のあの技しかない

 

「私の器が、もっと大きければ・・・」

「後悔するのはまだ早いぞ、シルバを救いたければアイツを信用してやれ!今は戦うことに集中しろ!」

 

ドラゴンは翼を広げ飛び上がりエレノア達目掛けて突撃してくる

 

「コイツ、今まで見てきたドラゴンより素早いぞ!!」

「常に浮いてるなんて卑怯じゃろ~!!」

 

皆が左右に分かれ突撃を躱す。ロクロウとベルベットが追撃しようとするが相手は空を飛んでいる上に飛行速度が速い、これでは立ち向かうどころか一撃離脱戦法や遠巻きからの攻撃で一方的にやられてしまうのは明白だ

 

「アイゼン!お前の術で動きは止められないか!?」

「大地からあれだけ離れていては流石に届かん、何とかして地上に引き摺り下ろすんだ!」

 

ドラゴンは再度降下し口から黒い炎のブレスを吐きながらベルベット達を焼き殺そうと迫る

 

「蒸し焼きは死んでも御免じゃわい!!フラッドウォール!!」

 

マギルゥが繰り出した水の壁で黒炎を打ち消そうとするがなんと炎が水の壁を吹き飛ばしてしまう

 

「ちい!?あれはただの炎ではないぞ!!」

「なら!!聖泡散り行き魍魎爆ぜよ!セイントバブル!」

 

ライフィセットは前方に無数の水泡を出現させ一斉に爆発させそこでやっと黒炎が止まる。攻撃を防いだと同時にドラゴンが迫るも二人は済んでの所で左右に分かれ避ける

 

「ここはやつの経験値の低さを突く!あいつは今本能で俺達と戦っている、動きもあらかた単純でわかったからな!」

 

岩の天辺へロクロウが駆け上がりそこから跳躍する。ドラゴンの背中目掛けて小太刀を振るおうとしたがそれを察知したのか体を捻り尾を振るいあげる

 

「ぬおっ!!?」

 

鞭の様にしなりながらも岩石の様に硬い尾をロクロウが小太刀で受け止め防いだが勢いは殺せずそのまま打ち上げられる

 

「ぬかったっ!?」

「描け蒼穹、霊槍・氷刃!」

 

ドラゴンが口を開けてロクロウに噛みつこうとしたがその横顔を無数の氷の刃が傷をつける

 

「ロクロウ!」

「エレノア!かたじけない!!」

「三人で畳みかけるわよ!!」

「応!」

 

エレノアの聖隷術で隙を作りベルベットがロクロウと同じように跳躍する

 

「翠波活殺!」

「飛天翔駆!!」

「連なれ真紅!霊槍・獣炎!」

 

ロクロウは空中で体勢を整え横薙ぎ一閃、ベルベットが縦に回転してからの遠心力を乗せた蹴り上げで首の前と後ろの同時攻撃、二人が離れた瞬間にエレノアの駄目押しの火球炸裂と爆炎が広がる。ドラゴンは子の連撃で体勢を崩し地面に落下する

 

「畳みかけるなら今じゃ!!ブレイズスウォーム!」

「ここで終わらせよう!!鏡面輝き熱閃手繰れ!カレイドイグニス!!」

「冷気の渦よ凍結しろ!フリジットフォトン!」

 

マギルゥの炎の奔流がドラゴンを包みライフィセットが繰り出した鏡の破片に熱線が幾度となく屈折しドラゴンの身を焼く。追い込みにアイゼンが撃ちだした氷塊がドラゴンに当たり破裂、氷の華を咲かせながら巨体が倒れる

 

「やったの!?」

「いや・・・まだだ」

 

着地したベルベットの呟きにアイゼンが答える。ドラゴンから穢れが広がり始め今まで全員が付けた傷が塞がり始めていく

 

「はりきって回復しとるぞ~~!!」

「一気に押し切らないと勝てんな」

 

マギルゥが焦りロクロウが冷静に分析する中後ろで音が聞こえた。振り向くとザビーダがボロボロの状態で立っておりその直後糸の切れた人形の様に倒れこむ

 

「だから苦しむって言ったのに」

 

その後ろにいたカノヌシは傷一つ付いておらず倒れたザビーダを見下ろす。ザビーダも時間稼ぎが精一杯であることは承知だったのだ

 

「ザビーダ・・・」

 

アイゼンが倒れたザビーダを静かに呼びライフィセットは数秒目を閉じ、そして開く

 

「僕が、カノヌシを防ぐ。みんなはドラゴンを追い詰めて」

 

ライフィセットの突然の提案にエレノアがすかさず止める

 

「一人でなんて無茶です!せめて私も一緒に――」

「これは命令じゃないよ。僕の策戦」

 

ライフィセットは有無を言わせずカノヌシに向かって進み始める

 

「・・・任せるわよ、フィー」

 

ベルベットは振り向くことなく静かにライフィセットの名を呼んだ

 

「随分格好つけるね、僕の一部のクセに」

「僕は、聖隷ライフィセット」

 

ライフィセットは術を発動し光弾を周りに浮遊させる

 

「僕は僕だよ!!」

 

手を前に出し光弾をカノヌシに向かって放つ、カノヌシは手を翳しそれをいとも簡単に防ぐ。だがライフィセットの態度が気にくわずその声が低くなる

 

「・・・手加減はなしだ。さっきはそれで手こずっちゃったからね!!」

 

カノヌシも術を発動し同じように光弾を無数に繰り出す。エレノアはライフィセットの覚悟を信じドラゴンの方へ向き直る

 

「こっちもお出ましよ!」

 

ドラゴンの傷は塞がりやはりロクロウの予想どうり、隙を与えず倒すか浄化して戻すかの二択しかない。ドラゴンが前脚でベルベット達を踏みつぶそうとするのを散開し的を絞らせないようにする

 

「これでは状況は変わりません!」

「変わるわよ、あの子は変えようとしている!」

「賭けだな・・・乗った!」

 

尾による薙ぎ払いを石柱で防ぐアイゼンもロクロウの賭けに乗る

 

「俺もだ、部の悪い賭けは嫌いじゃない」

「お主は裏目しかでんじゃろーが!!」

 

黒炎を水球の乱発で相殺しながらマギルゥがツッコム

 

「なら、逆に張れ」

「断る!ここは大穴狙いじゃ!」

 

アイゼンが言い返すもマギルゥは口角を上げそれを拒否する

 

「皆さん。何とか持ちこたえてください。自分の技でシルバを元に戻してみせます」

 

ケンは腕を下側で交差させながらベルベット達に援護を要請する

 

「どれくらい持ちこたえればいいんだ?」

「すいません、自分もかなり消耗してましてね。無理はしますがそれでも少しかかります」

 

ロクロウの質問しケンは若干苦しそうに答える

 

「あたし達じゃどの道殺すしかなくなる。アイツに賭けるしかないわ」

「ケンが倒れてもライフィセットが倒れてもどちらにせよ儂らはお陀仏じゃ、分の悪いどころか勝ち目がほぼないが、それでこそやる価値があるわい!」

 

ベルベットは業魔手を出しマギルゥも札を追加で出す

 

「お前ら堪えろよ、此処が正念場だ」

「シルバ・・・必ず助けてみせます!」

 

ベルベット達がドラゴンに向かって走り出す。ケンは気力を振り絞り両腕から金色のオーラを浮かび上がらせる

 

(・・・やはり思ったよりエネルギーを放出するのが難しい、二本打ってもこれか・・・!)

「クソ!やはり飛ばれると厄介な相手だ・・・!!」

 

アイゼンは術で動きを止めようにもドラゴンが戦いに慣れてきたのか機敏さも上がって来ていることに毒づく

 

「せめて地面に下ろすことさえできれば・・・!」

 

エレノアは跳躍し槍を高速で回転させドラゴンの表皮を削るもそれ以上の攻撃を前脚と尾を振るい許さない

 

「破ぁっ!!」

 

ロクロウも小太刀を振るうも硬い物を引っ掻く音が響き手応えがないと感じすぐに離れる

 

「やはりあの時攻撃を受けた時に刃が割れたか・・・!!」

 

尾が振るい上げを受けた時に小太刀が片方刃こぼれを起こしていた、これでは満足に戦えない

 

「ロクロウさん!これを使って下さい!」

 

ケンが腰のバックパックに刺していた短剣を抜き投げ渡す

 

「かたじけない!!借りるぞ!」

 

刃毀れした小太刀をしまい短剣を受け取り戦線に復帰する

 

「翼に穴を開ければ奴は飛べなくなる!そこを狙うぞ、素早く終わらせるならそれしかない!」

 

アイゼンは風の槍を飛ばし翼膜に風穴を開けようとするがドラゴンもそれを理解しているので大きく動いてできるだけ当たらないようにしている

 

「ベルベット!ロクロウ!儂らがドラゴンを惹きつけ囮になる!その間に翼を三枚におろしてやれい!」

 

「風の刃よ斬滅しろ!エアスラスト!」

「描け蒼穹、霊槍・氷刃!」

「弾けおるのか?アクアスプリット!」

 

アイゼンの無数の風の刃とエレノアの氷の刃、マギルゥの水弾を無数に繰り出す。ドラゴンを狙う攻撃と敢えて外す攻撃を混ぜることで逃げ道を塞ぐ

 

「今だ!行け!」

 

アイゼンの合図でベルベットとロクロウが左右に分かれ岩壁を蹴り三角飛びで跳躍する

 

「許せよ!!斬っ!!」

「だああっ!!」

 

ロクロウが小太刀と短剣を交差させすれ違いざまに翼膜を×字に斬り割き、ベルベットが業魔手で破くように引き裂く浮力を生み出す翼をやられたドラゴンが地面に落下する

 

「今よ!アイゼン!」

「言われるまでもねぇ!詐欺師(フラウド)!!」

 

アイゼンが大地に手を当てドラゴンの周りから光の鎖がその体をがんじがらめにする

 

「動きは止めたぞ!!ケン!まだか!!!」

 

ロクロウがケンのいる方向を見ると金色の光が右拳に集まりそれを頭上に上げている

 

「行きます!!」

 

左腕を右腕の下に回し右拳を前に突き出す独特の構えから撃ちだされた金色の光線、コズミューム光線がドラゴンの胴体に命中する。ドラゴンは咆哮を上げながらその背後から黒い塵のようなものが徐々に流れていく。ドラゴンは藻掻きながら攻撃の元であるケンに向かって足を動かし始める

 

「うおおおっ!!?」

 

鎖が引っ張られ軋んでいくアイゼンは思わぬ抵抗に驚く

 

「まだ動けるのか!?」

「それほど穢れが莫大ということ!?」

「足を止めるか!!」

「駄目!あたし達の攻撃がアイゼンの術に当たりでもしたら策が台無しよ!!」

 

詐欺師の鎖が五体と翼に絡まりなおかつ動き回るので手が出せない

 

「アイゼン!!」

「気合を入れいアイゼン!!正念場と言ったのはお主じゃぞ!!」

 

エレノアとマギルゥに 咤激励されアイゼンが顔を上げる

 

「言われるまでもねえ!!舐めるなぁ!!!」

 

強く大地に手を押し当て霊力を気合の限り籠め鎖が太くなる。ケンもさらに拳を突き出し光線を太くする

 

「うおおっ!!」

 

ドラゴンは最後の反撃と言わんばかりに深紅の単眼をケンに向けて怪しく光る、その瞬間ケンの体が激痛に襲われる

 

「ぐああっ!」

 

血管や筋肉の筋が浮き上がり皮膚が裂け体中から出血し始める、ケンは一度声を上げたが技を解くことなく光線を強くする。ドラゴンの最後の抵抗も穢れが破壊されていくことで弱まっていき徐々に姿がなくなる。

 

「戻っていくぞ!成功だ!」

 

光線を撃ち切り光が晴れた時にはドラゴンがいた場所にはシルバが倒れていた。ケンは片膝を着き肩で息をし脂汗と血が流れる

 

「ケン!?しっかりして!!大丈夫!?」

 

エレノアが駆け寄り触れようとするがそれを手で制す

 

「自分の事よりどうですか?・・・シルバは無事ですか・・・?」

「ええ、大丈夫よ。でもそれより自分の心配をして!」

 

エレノアが自分を顧みない行動で無茶をしたケンに怒鳴る

 

「すいません・・・ですが約束したんですよ、必ず助けると」

 

若干口角を上げ答え、アイゼン達がシルバの元へ駆け寄る、その時ケンの後ろでライフィセットの声が響いた。皆がその方向を向くとカノヌシによって穢れを撃ち込まれたライフィセットがいた、彼の足元には砕けた羅針盤、なぜかカノヌシの肩頬が腫れあがっており状況からみると殴られたようだ

 

「ライフィセット!!」

「うあああーーーっっ!!!」

 

ベルベットが異変に気付き走り出そうとした時、ライフィセットの体から白銀の炎があふれ出す。その炎は彼を蝕んでいた穢れを焼き払いその状況にカノヌシが混乱する

 

「なんだこれ!!??ひ・・・ああああぁっ!!!」

 

炎がカノヌシを呑み込みライフィセットがその反動か気を失い倒れる

 

「穢れを焼いた!?」

 

ベルベットがその力に驚くが今はそれどころではない、カノヌシを退けた事で時間ができた直に駆け寄りシルバを抱えたアイゼンがライフィセットを小脇に抱える

 

「退くぞ!急げ!!」

 

アイゼンの掛け声と共にベルベット達が後に続くザビーダはロクロウが肩に担ぎケンが少女をおぶる。そのまま全速力でザビーダが乗ってきた船に乗り込み大急ぎで島を脱出した

 

 

船が水平線へ形が小さくなるころ、島からその姿をカノヌシが睨んでいた。あの炎を喰らって無事だったようだ

 

「逃げられたな」

 

その後ろからアルトリウスが現れた

 

「白銀の炎・・・あいつ、変な術を使った。それにあの男も対魔士でも聖隷でもないのにドラゴンを自分の力で元に戻した、魔法や霊力でもない、異質の力だ」

 

「喰らった穢れを消化する、お前の力だろう。欠片だが“あいつ”も聖主の一部だからな、あの男の力もお前の読みが当たっているかもしれんな」

「ドラゴンが浄化された時一瞬油断したせいだよ。じゃなきゃ、欠片の力なんかには負けない」

「わかっていればいい。二度は通じぬ奇策だ。所詮“聖隷”は“聖主の隷属物”だ油断さえしなければ、我々の理想は揺るがない」

 

二人の後ろから声が響く

 

「ほぼ覚醒したカノヌシの領域には、地水火風の四聖主が揃いでもしなければ対抗できん。だが今彼らは地脈の底で眠っているのだからな」

 

メルキオルが髭を撫でながらライフィセットの力を過小評価する

 

「・・・追いかけるよ」

 

一時的にせよ退けられた事でプライドを傷つけられたカノヌシは追撃に出ようとするがそれをアルトリウスが止める

 

「待て。我らは御座で“鎮めの儀式”の準備をせねばならん」

「奴らは、コイツに追わせる」

 

メルキオルの横から件の角の業魔が現れる

 

「業魔でしょ。使えるの?」

「確かに制御は難儀だ。業魔に堕とした時も、七昼夜も幻術に耐えおった。しかも、未だに本能的に抵抗しておる。だが、かつて最凶と呼ばれた海賊。戦闘力は、我ら特等にも引けを取らん」

 

メルキオルは淡々と所業を話す。人からしてみればとんでもない事をしでかしているが気にもしていない

 

「喰魔ベルベットを捕らえよ。生きてさえいれば、状態は問わん」

「いや、まずは・・・」

「まずはアイツを――ライフィセットを殺すんだ。お姉ちゃんの目の前で、お姉ちゃんを支えてるのは、あいつだから」

 

カノヌシが角の業魔にそう命令するが業魔は呻き声を上げる

 

「本当だ。業魔のクセに変な誇りが残ってる。そんな無意味なモノは、僕が喰べてあげる」

 

カノヌシが業魔の首を掴み上げ喉元に噛みつく、業魔はそれに危険な何かを感じ取り咆哮を上げた

 

 

「ふう、なんとか逃げ切れたな」

 

ロクロウが小さくなる島を見ながら安堵の溜息をつく。ライフィセットとザビーダとシルバ、聖隷の少女は船室で寝かせている。ベルベット達はこれからどう行動するかを会議する

 

「さて、とりあえずこれからどうするんだ?聖寮に殴り込みを掛けるか、体を休めるか」

「今は体を休めることを優先する、アイゼン、此処から一番近い所は?」

「アイルガンドのカドニクス港が一番近い、行くならそこだな」

 

アイゼンが海図と方角を確認し現在地と最寄りの港に目星を付ける

 

「ぷひ~やっと休めるわい、土と埃で汚れてしまったから早く風呂に入りたいわい」

「ですが、そこを突かれて聖寮の追撃が来る可能性がありませんか?」

 

マギルゥは宿で休める事を楽しみにしている様で逆にエレノアは刺客の心配をする

 

「その可能性はある、が、向こうは俺達の実力をわかっているはずだ。手負いといえど普通の対魔士を送り込んでも返り討ちに会うことは目に見えている、聖寮の戦力は無限じゃない。態々出てくることはないだろう」

「そういうことじゃ、それに各地におる血翅蝶が儂らの足取りを隠してくれる。今はこのピチピチの体を真珠の様に磨き直すのが先じゃよ~」

 

アイゼンの読みにマギルゥが賛同する

 

「決まりね、このままカドニクス港に向かう、いいわね」

 

ベルベットの号令に皆が言葉に出さず顔を合わせる。そこにケンが船室からでてきた

 

「これからの予定は決まりましたか?」

「ええ、これから最寄りのカドニクス港に向かい宿に行く。貴方も疲れたでしょ?」

「はい・・・まあ」

「後、武器ありがとうな。助かったぞ」

「お役に立てて何よりです」

 

ベルベットはケンにこれからの行動を説明する。アイゼンがそこで口を開く

 

「ライフィセット達はどうだった?」

「ライフィセットに関しては疲れて眠っているだけです・・。一人でカノヌシとやり合い穢れも焼いたのですからそれは疲れたでしょう・・・。ザビーダさんは怪我こそしてますが命に別状はありません、怪我は自分がエネルギーを分け与えて治しました・・・。シルバもあの女性の方も問題ありません」

「そうか、すまんな」

「いえ・・・」

 

アイゼンが謝意を示しケンはそれを短く返した。ロクロウは彼が所持していた武器がない事に気付く

 

「それはそうとケン、お前が持っていた短剣と銃はどうした?」

「ええ、シルバと女性の方は器を持っていないので銃の方をシルバに、短剣は女性の方に渡しておきました。自分は武器は滅多に使いませんし、彼らが持っていれば何かの役には立つでしょう」

「ほう、大胆だな」

「いいのか?あれはお前にとって大切な物じゃないのか」

 

ロクロウはケンの行動に若干驚きアイゼンは理由を聞く

 

「自分が持っていても宝の持ち腐れですからね・・・きっといつか役に立つでしょう」

「・・・わかった」

「ええ・・・ちょっと失礼します」

 

ケンは甲板の手すりの方へ向かう。ベルベットはロクロウ達の方を向き直る

 

「それじゃ船をアイルガンドに向け・・・」

「げほぉ・・・!!」

 

言いかけた瞬間ケンのいる方から苦しそうな呻き声が聞こえた。皆がそちらへ向くとケンが手すりから身を出し吐瀉物と血を吐き散らしていた。嘔吐した後手すりに片手で掴み両膝をつく

 

「どうしたの!?」

 

ベルベット達が駆け寄りベルベットがケンの顔を見る。顔面蒼白で体中に筋のようなものが浮き上がっている。過労の極限状態であることは一目瞭然だった

 

「すいません・・・気張っては・・・いたんですが。ここまでが・・・限・・界の・・よう・・・です・・・」

「マギルゥ!」

 

ロクロウがマギルゥに指示を出す

 

「わかっとるわい!ハートレスサークル!」

 

回復の術を発動するがケンには効果が表れない

 

「そんな!?どうして!」

「術が効いていないというのか・・・!」

 

本来であれば万人に効果があるはずの術がケンには効かない。本来であればありえないことだった

 

「この事については・・・後で・・・せつ・・・め・・い・・します・・・から」

 

ケンはそれを最後に体がぐらつき横に倒れた

 

 

第45話 終わり

 




最期まで読んでいただきありがとうございました
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